連載小説
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蜥蜴の尻尾
ガサッ・・・・・・ガサガサ・・・・・・


里を旅立ってしばらく・・・・・・・・・・
とある丘陵地帯で野宿をしてこれから出発するところだ。

『ふむ・・・・・・この分だと日が落ちる前には街に着けそうだな。』

焚き火の始末をしている俺に向かって地図を見ているリザードマンが言う。
こいつの名はフュニリィ。金髪のポニーテールと吊り上がった眼が特徴のリザードマンだ。
マン、と言っても彼女は魔物娘。れっきとした女性だ。その証拠に、鎧の下には彼女の特徴の一つである大きな胸部装甲がある。
ついでに言うとフューは俺のパートナーだ。旅のパートナーであり、人生のパートナーでもある。
彼女はさっきまで汗を拭きながらコンパスと地図とにらめっこしていた。

・・・・・・・・・・汗を拭いてるからって決して如何わしい行為に及んでたわけではない事を宣言しておく。
朝一の鍛錬をしてたからだ。

閑話休題

ふーん・・・・・・

『街ねぇ・・・・・・』
『む?どうしたのだクー?』

あ、申し遅れたな。
俺の名はクーレスト。冒険者だ。
えーと、いろいろあって今は名匠スーミル女史に会うために魔術錬金都市『ミッドベイガルズ』に向かっている。

『それなりの街だぞ。夕暮れに到着しても宿に入れないことはないだろう。』
『そうね・・・・・・・・』
『なんださっきから。乗り気ではないのか?』
『うーーーーん・・・・・・・・街、寄らなきゃだめ?』
『え?いや、街だぞ?路銀に困ってるわけじゃないから温かい布団で寝れるぞ?』
『うーーーーーーーーーん・・・・・・・・・』
『私の手料理ではないが、宿屋の女将さんの美味い食事にありつけるぞ?保存食じゃないんだぞ?』
『うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん・・・・・・・・・・・・』
『お風呂だってあるかもだぞ?』
『うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん・・・・・・・・・・・・・・・・』

フュニリィが一般的にとても魅力的なメリットを上げていく。
だが、俺の心はその魅力的なものに動かされない

『・・・・・・野宿したい。』
『はぁ?』
『せっかく旅に出たんだからもう少し野宿したい。』

そう野宿したい!
旅の醍醐味と言ったらこれなのだ!!
風景を味わい、食べ物を調達し、自然と一体となる感覚!
息を潜め、神経を研ぎ澄ませ、野生動物への警戒をしながらの寝床!!
街中の宿屋では味わえないこの感覚をもう少し味わいたいのだ。
ビバ!野宿!!

『そうか・・・・・・・・・・』

そんな俺の情熱をフューも分かってくれたようだ。

『お前がそんなにアオ○ンが好きだったとは。』

・・・・・・・・・・・へ?

『ちょっと待t』
『里を出てからシてなかったからな。私も少々我慢の限界だったんだ。ここらで宿でもとって思う存分といきたかったんだが、お前にそんな性癖があったのなら仕方ないな。』
『だからちょtt』
『いいんだ!!私にだってアオ○ンのいいところはわかるぞ!!本来隠すべき夜の営みをあえて屋外で行うという背徳感。もしかしたら誰かに見られているかもしれないという緊張感。それ故に声を聞かれてはいけない出してはいけないという羞恥心で私のお【自主規制】はグチョ【自主規制】だ。しかし、大自然の中に肌を晒し、一体となる感覚。そして開放感は宿では味わえないことだろう!』
『いやだから、そんな性癖はn』
『よし分かった!お前の妻になると決めた時から全てお前と共にあろうと決めたのだ。ならば私も外でスるのにも慣れないとな。』

フューが1人で勘違いし1人でうんうんと頷いている。
そしておもむろに上着に手をかけて・・・・・・・っておおおおおおおい!!!

『何やってんだよお前は!』
『何って、脱ぐんだ。手を離せ。』
『脱ぐんじゃない!脱ぐんじゃない!!!』
『今から多少は慣れておかねば今夜に支障をきたすからな。』
『落ち着くんだ。落ち着くんだフュー。お天道様が見ているぞ。』
『そうだな。・・・・・・・・・・は!!まさかお天道様に見せちまえよグヘヘ。ということなのか。流石に昼間に行為に及ぶのは抵抗があるが、分かった・・・・・・・』
『分かってない!!全然分かってない!!!第一、俺にそんな性癖はない!!!』
『・・・・・・・・え?』
『心底驚いた顔をするな!!』

フューの中で俺は既にアオカンマニアになってるらしい。
はぁ、仕方ない。

『分かったから。街に着いたら宿を取ろう。』
『へ?いいのか?』
『心底心配そうな顔をするな。』

さらば野宿生活よ・・・・・・・

『ふふふ、久しぶりに安心して寝られるな。』
『ああ、そうだな・・・・・・・』



彼女、フューはこうして時折暴走する。

熟年ラブラブバカップルである両親を見て育ち。日々、未来の夫との生活(性活ともいう)を妄想して過ごしてきたという。
その妄想癖は今も健在なのだ。たちが悪い。

こうして彼女の暴走を抑えるのが既に俺の日常に組み込まれている。

『クー。そろそろ出発するか。』

まぁ。そんな日常も悪くない。

『おう!今行く。』


そんな日常に、これからちょっとしたハプニングが起こる。









フューがこっちだと言って進みだす。
俺が荷物を背負い、彼女に追いつこうとした



その時







ガッ!


『わっ・・・と!!』


ガシッ!!


『ひやぁ!?』


ブチッ


どんがらがっしゃーん!








『いつつ・・・・・・』

急いでいたせいか、躓いて転んでしまった。
フューの声も聞えたということはどうやら彼女も巻き込んでしまったらしい。

『だいじょうぶ・・・・・・・・か・・・・』

彼女の様子を伺おうと顔を上げる。
が、彼女に視線が向かう前に、視線が止まる。

『いつつ・・・・・・・もう!気をつけ・・・・・・・』

彼女が身体を起こしながらこちらを見て



うねうね



固まった。






『『うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!』』





俺の手には緑色の鱗で覆われた細長い肉が握られており


彼女のしなやかで長い尻尾には、先から十数cm程の部分が無くなっていた。


『尻尾!!!!尻尾があああああああああ!!!!』
『なんじゃこりゃあああああああああああ!!!!』


とっさに離した肉片はいまだにうねうねと動いている。

そういえば、トカゲの尻尾は切れやすいと聞いたことがある。
「自切」といって本体が逃げるために切り離すのだそうだ。
切り離した尻尾はしばらく動くことがあり、敵の目を惹きつける役目を・・・・・・・・・って!

確かにリザードマンはトカゲの魔物ですけど、リザードマンの尻尾が切れるなんて初耳だぞ!!!!
あ!そうだ、フューは・・・・・・・・・・・・

『あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!』

短くなった尻尾の断面を見つめて叫んでいる。
これは・・・・・・・マズイ。

『クー・・・・・・・・貴様ああああああああ!!!!!!』

剣を抜き放ち、俺に襲い掛かってくるフュー

『待て!落ち着けって!』
『貴様になら何をされても、と思っていたが・・・・・・許さん!!!』
『事故だ!事故だったんだ!』
『残念だ、もうお前の温もりを味わえないとは・・・・・・・だが安心しろ!私もすぐに・・・・・・・・・・』

大上段からの剣の振り下ろしをすんでのところで避ける。
すると・・・・・・・・・・


ズべべ

『はわっ!』


フューがこけた。

『え?』
『・・・・・・・・ぐ、・・・・・避けるだけならまだしも足を引っ掛けるとは・・・・・・・・どこまでリザードマンの誇りを傷つければ気がすむのだ!!!』

そんなことしてません!!
完全に頭に血が上ったフューはさらにスピードを上げて俺に斬りかかる。
だが・・・・・・・


ズベン

『ふみゅっ!』

ドテン

『あうっ!』

なぜかこけまくるフュー。
いつからドジっ娘キャラに?

『くっそ・・・・・・・逃げるなああああああ!!!!!』

ベタン

『ぎゅむっ!』

もちろん逃げてなどいない。
まさか・・・・・・・・・

『この・・・・・・・・・これでトドメだああああああああああ!!!』

フューが大地を蹴り、高くジャンプし剣を振り上げる。
俺は逃げない。なぜなら・・・・・・・・



ズベシャア!!!



着地予想地点が俺のはるか前方だったから
顔面から派手に着地し、一人雪崩式フェイスクラッシャーを敢行した。

尻尾のある動物はその尻尾を巧みに動かし、微妙なバランスを取っていると聞く。
チーターとかいうネコは高速で曲がる際に尻尾をブンブン振り回すらしい。

『だ、だいじょうぶか?』

尻尾が無くなってバランスが崩れ、ドジっ娘になってしまったフューに声をかける。
顔からいったしなぁ・・・・・・・痛いよなぁ・・・・・・・

『・・・・・・・・・・ぅ・・・・・・・・・ず・・・・・・・・』
『フュー?』
『うわああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!』

顔を上げて泣き出した。

『ああああああああああああああん!うわああああああああああん!!』
『お、おい、フュー・・・・・』
『クーに・・・・・・クーに尻尾切られて・・・・・・・おまけにこんな身体にされて・・・・・・・・うわあああああああああああああああん!!』
『ちょっと!』
『ぐず・・・・・・ひっく・・・・・・・うわああああああああああん!!』
『あああああ!!もう!俺が悪かったよ!ごめんな!!』
『ばが!ばがばがばが!!!わあああああああん!!』
『わかったから泣き止め!な!いい子だから!もう23だろ!?』
『うう・・・・・ひぃっぐ・・・・・ずずず・・・・・・ぐず・・・・・・』
『ほら、顔吹きな。泥と涙でえらい事になってるぞ。』



年甲斐も無くマジ泣きしたフューを慰め、落ち着かせる。



『ずまない・・・・・・・・こんなことは生まれて初めてだったから。』
『まぁ、うん。自分の尻尾が突然無くなったんだ。動揺もするさ。』
『ところで・・・・・私の尻尾は・・・・・・・・』

さっきとっさに離しちゃったから・・・・・・・・・あった。
さすがにもう動いてないか。

『これが私の・・・・・・・・』
『ああ。・・・・・・・・すまん。』
『いいんだ。私も知らなかったことだ。取れてしまったものは仕方ない。丁重に弔ってやろう。』

その場に浅い穴を掘り、荷物の中の適当な布で尻尾を丁寧に包んで埋めた。
そして、近くの木から太目の枝を切って板にして
【しっぽのはか】
と書いて立ててやった。
他の旅人がみたらどう思うだろうか・・・・・・・・










すっかり落ち着いたフューを連れて目標としていた街に到着。
バランスが取れないのか道中もかなりすっ転んだ。
すっかり日が暮れてしまったが、まだ宿はあるだろうか?

「ん?むむむ!?これは・・・・・・・」

宿を探していると後ろから幼女が着いてくる。
え、と・・・・・・確か・・・・・・・・・・

『あれ?バフォメット様ですか?』

そうそれだ。ロリb

ゲシッ!

蹴られた。

「ふむ。ワシこそキュートで幼くて愛らしいサバトの支配者、バフォメットじゃ。」
『で、バフォメット様が何か御用でしょうか?サバトなら入りませんよ。』
「ふん!こっちこそ、本来なら乳でか女なぞに用はない。じゃが、珍しくそのトカゲ娘に用があるのじゃよ。」
『私・・・・・・ですか?』
「その尻尾、どうしたのじゃ?」
『ええ!!いや、その・・・・・・・・』
「引っ張ったら、取れたのじゃな?」
『うううう・・・・・・・えと・・・・・・・・』
『取れたらどうだって言うんでs』
「見つけたぞおおおおおおお!!!」
『ふえ??』
「お主、その尻尾どこにある!?その尻尾があればワシの秘薬が完成するのじゃ!!!」
『えと・・・・尻尾は・・・・・・・』
「頼む!!ワシに譲ってくれぬか!?無論タダとは言わん!!尻尾の再生に効果のあるこの薬を・・・・・・・・」

そこからのフューと俺の反応は速かった。
来た時の10分の1の速さで現場に戻り、【しっぽのはか】を蹴り飛ばし、尻尾を掘り返して街に戻った。
バフォ様は俺たちの必死さに目をパチクリさせていたがフューの尻尾を渡すと快く再生薬をわたしてくれた。








バフォ様によると。大抵のリザードマンの尻尾は自切することは無いのだという。
ただ、ごく稀に、先祖返りというやつでトカゲの形質が強くなることがあるらしい。フューは

尻尾が先祖返りしてたというわけだ。


その後、再生薬を飲んだフューの尻尾から可愛らしい尻尾が生えてきた。
完全に元に戻るにはしばらく時間がかかるらしいので観察日記でもつけてみよう。



ミッドベイガルズまでの道のりはまだまだ遠い。
10/12/31 17:24更新 / 腐乱死巣
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■作者メッセージ
ここまでお付き合いありがとうございました。
腐乱死巣です。

続編が遅くなってすみません。なかなか筆が進まなくて・・・・・・・
なんとか今年中には!!と頑張りました。
クオリティは・・・・・・・お察しください・・・・・・;w;

魔物娘は元になった動物の特徴をどの程度受け継いでいるのか?
という疑問からこの話が生まれました。
小さいトカゲは自切するみたいですが、オオトカゲ類は自切しないそうです。
はたして、リザードマンやドラゴンの尻尾は自切するんでしょうか?

ちなみに、ヘビも種類によっては自切するらしいです。
ということはラミアも・・・・・・・・・おや、誰か来たようだ。


それでは皆さん。今年最後の腐乱死巣の作品を読んでいただきありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。


それではまた、次のSSでお会いしましょう!
よいお年を!!!

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