連載小説
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鬼の酒盛り
あるところに六助と平次という酒好きの大工がおったそうな。
彼らは今日の大工仕事を終えると、二人でぷらぷらと町を歩きつつ、今日はどこの酒場でひっかけようかと語らっていた。
「おい平次、お前さん、知ってるか?」
「何をだよ。何を知ってるか言ってくれねぇと答えようもねぇ。俺はつーとかーでいける夫婦(めおと)じゃねぇんだから」
「違ぇねぇ、でもお前が嫁とか気持ちわりぃぜ」
六助は舌を出しつつ、肩をさすった。
二人は酒好きがたたってか、嫁も良い相手もおらんかった。
「で?」
「ん?」
「ん? じゃねぇよ。何を知ってるか、って聞いたのか、って聞いてんだよ。っあー、こんがらがってくる」
「こんがらがってくるのはお前のおつむがこれだからよ」
六助は自分の頭の上で指をくるくると回した。
「殴んぞ?」
「殴ったら言わんぞ? ……わーかったよ」
と、六助はニヤリと唇の端をつり上げた。
「お前さん、鬼の口噛み酒、って知ってるか?」
平次は奇妙な顔をした。
「口噛み酒ってなぁ……。ああ、あの鬼酒神社でやってる神事の酒か」
平次は先月のことを思い出した。
しかし思い出したくない光景だった。
口噛み酒とは、口に入れて噛んだ米を水に吐き、それを発酵させて作る酒である。しかし、あの神社のババ様が吐いて作った口噛み酒を飲みたいとは、いくら酒好きでも思えない。若く美しい巫女だったら、むしろ土下座してでももらいたい。
平次は六助を冷めた目で見た。
そんなものを飲もうとするならば、自分たちの関係もこれまでだ。
「おかしい奴をなくした……」
「おいテメェ。何か変な想像でもしてんじゃねぇのか?」
「いや、あそこのババ様の口噛み酒を飲みたい奴がいるとは思わなかった。来るな! 二度と近寄るんじゃねぇ!」
「ちっげぇよ! 俺だってあんなもん飲みたくなんかねぇよ! まだババ(うんこの事)食ったほうがマシでぇ!」
「ババ様のババか!? それ以上近寄るんだったら、俺(おり)ゃあ岡っ引きを呼ぶぞ!」
「だーかーら! もうババぁから離れろ!」
そう言って六助は平次を叩(はた)いた。
「ぎゃああ! ババァひっかけられた!」
「ババァなんてひっかけるかい阿保ぉ!」
良い歳こいた男どもがババァババァ連呼するのを、鼻を垂らした幼子が指をさし、母親がそれを叩(はた)いてその手を引き、そそくさと去っていった。

「ちょっと、落ち着こうじゃねぇか。このままだといつまでたっても酒が飲めねぇ」
「違ぇねぇ……」
肩で息をする二人だったが、六助の言葉に平次も止まった。それに、そろそろここでやめておかないと、大手を振って外を歩けなくもなりそうだった。
「鬼酒神社なのは変わんねぇけどな。あそこにゃあ鬼の口噛み酒ってもンが伝わってるらしい」
「ウン……」
平次が大人しく聞いたところによると、なんでも鬼酒神社のご神体というのは、昔鬼が米を噛んで作った口噛み酒らしい。その鬼は、鬼の他聞にもれず酒飲みで、諸国の酒をかっ喰らい、その唾液すら酒になったという伝説が伝わっているというそうな。
「で、それを飲もうってのかい」
「ああ」
六助は悪びれることなく頷いた。
「だけどそりゃあご神体だろ? バチが当たるんじゃあねぇのかい? バチが当たって鬼に食われるとか俺(おり)ゃあゴメンだぜ」
「馬ッ鹿やろお。神さまが怖くて酒飲みがやってられるかよ。神さまが鬼を遣わすなんてぇことがあるわけねぇだろ。……とは俺も言えねぇ」
「言えねぇのかよ!」
と、平次は六助の肩を叩(はた)いた。
「おいおい。話は最後まで聞け。神社にゃあ分霊、ってのがあるだろ?」
「ウン……? うん」
分霊というのは、分けて祀られた神さまの霊をいう。
つまりは神棚に祀られるような、神さまの分かれ御霊である。
「まさか……別に分けてある酒があるってのか……」
平次の言葉に、六助は待っていたとばかりに頷いた。

二人は山道をえっちらおっちらと登っていた。
すでに日も暮れかけ、茂みの中からは虫の声が聞こえる。たなびく雲は夕日を浴びて橙に染まり、山の中は日が暮れるにつれて賑わしくなってゆく。
鈴虫の声は、虚無僧の鈴(りん)の音(ね)のようでもある。
風が吹いた。
湿り気を帯びた、息のような風である。
木の葉のささやきは、その主が歯を擦り合わせているよう。
平次だけでなく、六助までその薄気味悪さにぶるると震えた。
誘ったのは彼ではあるが、別の場所ではご神体として祀られている酒を失敬しにいく。そこに後ろめたさを覚えていないわけではなかった。
「おい、六助、まだ登るんかい」
「ああ、この山の半ばに祠があるってんだよ」
「…………」
「おいおい平次。お前さんもしや怖気づいたんじゃあるまいな。もしそうだったら引っ返していいぞ。美味い酒ってのは俺だけが飲んで、後で味を教えてやる」
「誰が怖気づいたって? 俺が美味い酒を前に引っ返すなんて野暮なこたぁするわけがねぇ。それに、怖気づいてんのはお前のほうだろ。それに、お前の舌はアテにならねぇ」
「へん、言ってろやい。お前よりまマシさぁ」
六助も平次も、相手を貶すことで自分の肝を保っていた。
それに、酒飲みとして相手に負けるわけにはいかない。
山を登るにつれて、徐々に徐々に日が暮れて、風も湿りを持ったまま、すこぅしずつ冷えていく。ここで山犬の声でも聞こえれば、二人とも金たまが縮みあがっただろう。
やがて山の中腹に差し掛かり、
「ここだここだ」
と言って、六助が山道を逸れ、茂みの中に入った。
平次がその後に続く。

ガサガサと分け入っていくと、自分たちは酒を求めてさまようウワバミのような気になっていく。
本当にウワバミになってたらふく酒が飲めたらいいなぁ。どこかのお話に伝わるヤマタのなんちゃら云う蛇は、酒を飲んで酔っ払っているうちに殺されたというが、極上の酒が飲めるのであれば、そんな死に方もいいかな、なんてことを六助は思う。
そんな時に、後ろの平次から声がかけられた。
「おい六助」
「なんだよ」
もうすぐ目的の祠にたどり着くということで、六助は少し鬱陶しそうに平次に返した。
「そういやお前さん、どこでここの話を聞いてきたんだよ」
「あぁん? そうだな……。行商人だよ」
「行商人って……そいつ流しなんじゃねぇのか? なんでそんな奴が知ってんだよ」
平次は訝しげな表情を浮かべる。
「俺も知らねぇよ。なんか、内緒の口利きがあるんじゃあねぇのか?」
「おいおい、ここまで来といて狐に化かされた、とかねぇだろうな。もしや本当に鬼が出てきて俺らをぱっくり食っちまうなんてぇことも……」
「でぇーじょーぶだよ。その女はでっけぇ行李を背負って頭に葉っぱのっけたかわい子ちゃんでな。あんな子が嘘をつくわけねぇ」
「………………」
「おっ、あったあった。ここだな」
豚を見るような視線を向ける平次に構わず、六助は嬉しそうな声をあげた。
そこには祠と聞いていたが、それなりに作りの良さそうな社があった。

「へぇ……」
「よ、っと。お、しめしめ。簡単に開くじゃねぇか」
六助は社にずけずけ上がり込み、火打ち石を打って持ってきていたロウソクに火を灯した。
男二人の影が、社の中に影絵のように浮かび上がる。
まるでおとぎ話の世界に迷い込んだようで、二人の心は躍った。今この場では、自分たちは酒盛りをしようとする盗賊か鬼なのだ。これで酌をしてくれる女がいれば申し分ない。
二人で宴会をするには十分な広さがある。そうして奥の正面に、六助は目当てのものを見つけた。
「へっへ」
彼は両手を擦り合わせ、正面にあった、赤鬼と青鬼が描かれた掛け軸をめくった。そこには男がひと抱えしても余る大きさの樽があった。彼がそれを持ち上げると、ちゃぷちゃぷと美味そうな音がした。
いそいそとそれを運んでくる六助を見つつ、平次は持ってきた荷をほどき、酒の肴を並べていく。魚の干物、のり、梅干し、沢庵、といった乾物や漬物が多い。それなりに歩きになるということだったので、あまり上等なものを持ってこられなかったのは残念である。
しかし、どうせ沢山食ったところで後で吐くだけなので、これでちょうどいいとも言える。
「よぅし、開いたぜ」
六助が樽の蓋を開けると、ぷぅんと芳しい香りがした。
「こりゃあ期待がもてそうじゃねぇか」
「だろ? 俺に感謝しろよ」
「いやいや、まだ味を見てからだ。六助大明神さま」
すでに拝んでいる平次に気を良くして、六助はおあつらえ向きに置いてあった杓を取ると、用意してきた平次の猪口(ちょこ)に酒を注いでやる。
「心して受け取られよ。これは由緒正しきお神酒(みき)である」
「ハハーッ」
芝居ががって平次は受けると、次はその酌を受け取って、代わりに六助の猪口に注いでやる。
「ささ、お大尽さま」
「おいおい明神さまから随分格が下がってるじゃねぇか」
「だって明神さまとは畏れ多くて酒を酌み交わせねぇじゃねぇか」
「違ぇねぇ、んじゃ、乾杯(かんぺ)ぇ」「乾杯(かんぺ)ぇ」
二人はチョンと猪口を合わせると、それぞれ酒を飲んだ。

「っ、かぁーっ!」
「お、おうぅ」
二人はその酒のうまさに驚き、相争うように酒を飲んだ。
肴によって酒は化けるというが、その逆もあるらしい。見すぼらしい肴だったが、この酒の香気に当てられたのか、まるでお大名の膳をいただいているようにすら思った。
ザクザクと。
砂利を踏む音がした。
ギシギシと。
社の段を登る音がする。
彼らは夢中で、だから何者かが社に近づいてきていたのを、その戸が開かれるまで気づかなかった。

「んだよ。いつもはあたしらしかいないのに、今日はどうして、賑やかじゃないか」
「本当だ。しかも男二人ってのはなんともおあつらえ向きだ」
そこにいたのは、二人の美女だった。
目にするだけで魔羅がおっ立ちそうな極上である。彼女たちは六助と平次を見て、麗しい唇を舌で湿らせていた。その瞳は淫靡に濡れ、ロウソクの灯りがチロチロと映っている。
極上の酒を飲んでいるときに極上の美女が現れた。
酒飲みの男として夢にまで見たような状況だったが、二人は、これが夢であってくれたら、と心底から思った。
女たちは人間ではなかった。
ーー鬼だった。
片方の肌は赤く、片方の肌は青い。頭には角がある。
虎柄の胸当ては豊満な乳房で膨れ上がり、虎柄の腰巻からはムッチリとしつつも細くしなやかなおみ足がむき出しで伸びている。細く見える肢体だが、密度が違うというのだろうか、どうにも見た目より、力強く感じた。
男たちは天上に昇るような酔い心地から、天井に登りたくなるくらいにパッチリと酔いが覚めた。
二人は抱き合ってガタガタ震え、ガチガチと歯を打ち鳴らした。

「おんやぁ? あんたらもしかして男色かい?」
「残念、なんてことは言わないよ。そんなのあたしらには関係ないからねぇ」
ニィ、と頬を吊り上げる青鬼と六助は目があった。
「あたしはこっちいただきぃー」
「あっ、こら。あたしにも選ばせろ。……いや、あたしはこっちがいいいな」
抱き合っていた六助と平次は、まるで駆け落ちを止められた男女のように引き剥がされ、
「六助ェー!」
「平次ィー!」
互いに伸ばした手は空を切った。

それぞれ、六助は青鬼の隣に、平次は赤鬼の隣にはべらされることになった。
「大丈夫だよ。とって食やしないからさ」
赤鬼が平次の肩を抱き、カラカラと笑った。
鬼と言えども美女であり、その屈託のない、きっぷの良い笑い顔は、正直平次の好みに合うものであった。それに、女の柔らかさと甘い香りを間近で感じ、平次は命の危険も忘れてドギマギとした。
しかし、
「え? 食べないの?」
という青鬼の声に、彼女に抱きかかえられた六助はもちろん、向かいの平次も金たまが縮み上がった。縮みあがりすぎて腹のなかに入っちまうのではないかとまで思った。
腕の中でガタガタと震える男たちを見て、赤と青の女鬼たちは顔を見あわせ、嗜虐的な笑みを浮かべた。
「そうだね。男を前にして食べなかったら鬼としての矜持に関わるねぇ」
「でしょう。しかも好みの男とあっちゃ具合もいいに決まってる」
「くくく、腹が疼くよぅ」赤鬼が下っ腹を撫でる。
「湿る間違いじゃないの?」
「もしくはだだ濡れかい?」
アッハッハと笑う鬼たちの腕の中で、哀れな男たちは叫んだ。
「「た、食べないでおくれー!(物理的に)」」
「「食べるよ!!(性的に)」」
あわわわわ、と。
小刻みに震える男たちを可哀想に思ったのか、ようやく鬼女たちは助け舟を出してくれた。
「そうだね。あたしらにお酌をして、楽しませてくれたら考えてもいいかもしれないね」
「どうする?」
平次は赤鬼に肩を抱かれて耳を舐められつつ、六助は青鬼に後ろから抱かれて頭を撫でられつつ、彼女たちの提案にガクガクと首を縦に振るのだった。

「ほらほら杯が空いてるよ」
「あ、ありがとうごぜぇやす」
赤鬼は空になった平次の盃に酒を注ぎ、
「かんぱーい!」「かか、かんぺい」
互いに盃を合わせて、互いに一気に飲み干した。
平次はすぐに赤鬼の盃に酒を注ぎ、赤鬼も平次の盃に酒を注ぐ。
平次は相変わらず震えているが、ちゃんと彼女に遅れないように酒を飲んでいる。その前には鬼たちが運んできた猪(しし)肉の唐揚げが置かれ、ぶっとい大根の煮物、甘く煮た栗、見たこともないような大きさの魚が、朱や黒塗りの器に盛られている。
「かぁーっ、この酒は何にでも合うな。唐揚げを食えばスパッと油を片付けて、大根を食えば控えめに香気を添える、栗が甘けりゃピリリと辛い。魚は言うまでもねぇ。それにお前みたいないい男に酌をしてもらえれば、もう言うものねぇ」
「あ、ありがとうございやす」
鬼の酒宴に参加して、身に余る言葉をいただいているわけだが、食うために太らせ、その脂のノリを吟味されているような気がして、平次は肝が冷えっぱなしである。
「ほら食え。食って精をつけろ。それにあたしたちが作ったんだぞ。美味くないわけがない。ほら、あーん」
「あ、あーん……」
「美味いだろ?」
「は、はい」
「そうだろそうだろ」
鬼の飯は本当に美味かった。それに甲斐甲斐しく嫁のように自分に食べさせ、心底嬉しそうな表情を見せる彼女には惚れそうになってしまう。しかし、素直に喜べない状況に平次はやきもきする。
しかし。
後で食われるんだったらもういっそ……。
と、頬を染めつつ次の料理を口に運んでくる赤鬼に、彼は唇を重ねた。
「あっ」と彼女は目を見開き、
「くくっ、そっちも食われる気マンマンじゃないか。いいぞ。じゃあそのまま……」
盃をグィーっと煽ると、口に含んだまま平次に接吻をした。
平次は女の匂いと味のする酒が、カツカツと煮えたぎり、胃の腑に落ちていくのを感じた。

「おやおやぁ。あっちはいい感じになってきてるけど、こっちもならない?」
「あ、あはははは」
初めから六助を後ろから抱き、その体をまさぐっていた青鬼がウットリするような声音で言った。彼女は酒を六助に塗りたくっては、その艶めかしい舌でいちいち舐めとっていた。
舐められた部分はムズムズと熱を持ち、それは魔羅に集まって、彼は痛いくらいに固まった股間の逸物を持て余していた。後ろからは豊満な彼女の胸肉がぐにぐにと押し付けられ、女のしなやかな指は彼の乳首をもてあそんでいた。
この女、かなりネチッこい。
二人羽織の要領で料理を六助に食わせ、彼の口を器にして、その半分を彼女は食(は)んでいた。六助はもはや食べられている気がしないでもない。
「うーん、どうも気乗りしないみたいだねぇ。あたし、そんなに魅力ない?」
「そ、そんなこたぁねぇさ。あんたみたいなベッピンは見たことがねぇ」
「嬉しい」
六助はぎゅうっとより一層抱きとめられた。まるで蛸壺の蛸に引き込まれているような気持ちである。
そう言って青い頬を染める彼女だが、後ろ抱きにされた六助は彼女の顔を見ることができない。
その言葉は六助の本心だったし、鬼でなければぜひ嫁に来てもらいたいほどだ。その性癖も、六助としては大歓迎の部類だった。
しかし、鬼である。
彼は女に心惹かれつつも、ここが命捨てがまる時か、硬くなった魔羅と相談していた。
「じゃあ、こうしたらあたしを食べたくなるかねぇ」
と、唐突に女は六助から離れた。
不意に消えた女の温もりと柔らかさに、思わず振り向いた六助だったが、彼女の有様を見て目を剥いた。
彼女は自らの腰巻を取っ払い、ぴったり閉じた足の上に酒を注いでいた。酒は彼女の股の三角に溜まり、いやらしいワカメが浮いていた。
六助はゴクリと喉を鳴らした。
「ねぇ、一献い・か・が?」
青鬼の濡れた吐息に、六助が断れる理性などなかった。

「ンッ、ホラ、ちゃんと魔羅をおったてて……ンブ……んふふ、出た出た」
平次の精液口で受けた赤鬼は、それを一度自分の盃に吐き出した。そうして真っ赤な舌で精液と酒を混ぜた。
「これぞほんとの濁り酒ってな」
グイッと形の良い喉を鳴らし、彼女は粋に飲み干した。
平次の魔羅は再び立ち上がると、彼は赤鬼を組み敷いて胸当てを剥ぎ取った。ぶるんとまろび出た赤い肌の乳房の先は、可愛らしい桜色だった。彼は幼子のようにむしゃぶりついた。胸肉を揉みしだき、ぷっくり膨らんだ乳首を舌で転がして吸う。
「んん……あぁ……。いいよぉ、もっと強、くッ、……あ、ははは」
赤鬼は喜色満面で、情欲にさらに肌を火照らせる。
「でも、下がお留守だよ」
彼女は平次の魔羅を掴み、自らの女陰(ほと)に添わせた。
彼女の入り口の、肉唇(にくしん)の感触が亀頭に吸い付き、平次にはそれだけで果てそうになるくらいの快楽が走った。
「ダメだダメだ。まだ果てちゃあダメだ。あたしの奥の奥で種付けしてももらわなくちゃあ」
自らの胸元に吸い付く男に向けて、彼女は淫欲に爛れたささやきをこぼした。
耳元にかかる彼女の吐息に、平次は背筋の裏側がぞくぞくと脈打った。
「んふふ。あたしはおぼこだから優しくな」
「え?」
と平次が顔を上げる前に、彼女の下の口は彼を飲み込んだ。
ずぶずぶと肉を分け入っていく魔羅は、本当に咀嚼されているようだった。彼女の膣内はまるで口内のようにぐにぐにと蠢き、壁のつぶつぶは千の舌で舐めあげられているようだった。そのあまりの快楽に彼はくぐもった呻きを上げると、彼女の中で無遠慮に果てていた。
「んひぃッ! 精液きたぁ……ッ。あつぅい……」
彼女は彼を奥の奥で受け止めようと、彼の腰をシッカと足で引き寄せ、両腕は彼の体をぎゅうぅと引き寄せていた。
平次は己のものでなくなったかのように熱く脈打つ魔羅が、さらに締め付けられるのを感じた。
彼女の胎内はまだまだ飲み足りないぞ、と彼に訴えていた。
赤鬼の顔を見れば、彼女はベロリと唇を舐め、その笑みは捕食者の笑みだった。
彼女は体位を変え、平次の上に跨った。
足で挟み込み、ギチリと腰を締め付ければ、彼の魔羅は再び彼女の中でいきり立った。
「ま、待ってくれ。今果てたばかりで……」
「ふふん。そうは言っても熱く固いじゃないか。それでこそ、あたしの夫になるにふさわしい」
「何を言って……うぁッ」
彼に構わず彼女は腰をくねらせ始めた。彼女の膣内は、まるで一斉にミミズが蠢き出したかのような快楽を伝えてきて、それに、踊る彼女の肢体からは汗の雫が飛び、ロウソクの灯りが彼女の赤い肌を舐めていた。弾む乳房その先には桜のような蕾が震える。足でしめつつも、蹲踞の姿勢に大きく開いた股で、肉芽がぷっくりと膨れている。
彼はまた、金たまから込み上げてくる奔流を感じた。

ジュズズ。じゅっ……ズ、ず。
六助は青鬼の股でできた盃から、酒をすすっていた。鼻に彼女のワカメがぞりぞりと触れ、太ももに触れた手からは彼女の体温が直に伝わってくる。酒を継ぎ足していないというのに、その汁はこんこんと湧き出て、いつしか彼女の匂いしかしなくなっていた。ワカメの下に隠れた肉豆に舌で触れれば、彼女の体が痙攣するように震えるのも堪らない。
彼は夢中で貪り、その浅ましい姿を、青鬼は満足そうな、湧き上がる情動をこらえきれないと言った顔で見つめていた。口の端からは涎が垂れている。
彼女は自らの手で乳房に触れ、その指で先っちょを摘んだ。
「……ん……ハァ……アッ!」
青い肌の乳房の先はすみれ色をして美しかった。まるで開花を待ちわびる蕾のようで、可憐に震えていた。
「ねぇ。あたしにも飲ませてよ……」
情欲に爛れた声に、六助は顔を上げた。彼の瞳は酒精と淫欲に血走り、彼の方が鬼と見まごうほどだった。青鬼は彼のケダモノのような姿にふるふると肩を震わせる。
彼女は指を口に含み、懇願するような声音を出した。
「あんたのその魔羅をさ。あたしのお汁に漬けこんでさ。どぶろくにしてくれないかぃ?」
六助はもう彼女に言われるままに、そそり立った自らの魔羅を彼女のワカメ酒に横から擦(なす)りつけた。淫毛がザリザリとして、彼女の汁でできた酒がチャプチャプと音を立てた。
スベスベとした青い太ももに魔羅を擦り付け、やがて彼は、彼女の肌を白く汚した。
青鬼の太ももを伝って、彼の精液は股の酒に混ざった。
彼女は足の下に盃を持ってくると、足を開いて盃に酒を落とした。
それを美味そうに飲む姿を、六助は犬のような息をして見ていた。
「うふふ。もう待ちきれないねぇ。その姿、とっっても素敵……。さぁ、あたしの女陰(ほと)に魔羅をぶち込んで、ぐちゃぐちゃにかき混ぜてぇ……」
彼女は四つん這いになると、股の下から手を伸ばし、女陰を押し開いた。
酒か、彼女の汁(つゆ)か。青い太ももは液で濡れ、ロウソクの揺れる火が、テラテラと揺らめかせていた。
六助は夢遊病者のように彼女の張りのある尻に手を触れ、自らの魔羅を肉の入り口にあてがった。下の口と口が接吻する感触は、たまらなくしっくりときた。
ずぶぶぶ
彼は彼女を一気に貫いた。彼女の青い太ももに、一筋の紅が伝う。
獣のようなほえ声とともに背を反らし喉をむき出しにした女だが、六助の魔羅に吸い付いてくる感触からは痛みではなく、貪欲に快楽を求める浅ましさを感じた。
ぐいぐいと力強く締め付けてくる圧迫感に反して、彼女の中はふわふわに蕩けているかのようだった。そうしてそのまま魔羅すらも蕩かしてくるような……。
六助はすぐに果ててしまいそうな意識の明滅に、必死で歯を食いしばって耐えていた。ちょっとでも動いたものなら、たまらず全部を吐き出していただろう。
だというのに女ときたら、グイと腰を強く押し付けてきた。
コブクロの入り口が、亀の頭に噛み付いた。
びゅぐぅるるる
六助の魔羅は鉄砲水のような白濁を、彼女の胎の中に注ぎいれた。
「おぐっ、おぉオおお……」
女はだらしなく舌を出してヨダレを垂らし、目を歪ませてよがっていた。
だというのにさらに尻を押し付け、六助はどたんと尻餅をついた。その拍子に違う角度から刺激が与えられて、魔羅は再び彼女の中でいきり立った。彼女は魔羅に貫かれたまま六助の体に背を預け、肩越しに見返ると、
「さっきと逆になったねぇ」
と、悪戯っぽく笑った。
青い頬がまるで生娘(おとめ)のように染まっていて、六助はたまらなくなって思わず後ろから彼女の乳房を鷲掴みにした。
「アン……。乱暴だねぇ……」
抗議の声をあげつつも、その声音には艶と、押し殺しきれない期待がこもっている。
彼は彼女の口を吸いつつ乳房を揉みしだく。下からコブクロを突き上げる。
もはやどうにでもなれ。
極上の酒を飲み極上の肴を味わった。その上極上の女まで抱けるのだ。
その女が鬼で、情事が済めば食われてしまうのだとしても、これほどの宴を饗することができればもはや死んでもいい。
彼は自分が生きた証を女の胎に刻み込むように、強く腰を突き上げた。

社の中には二組の嬌声が響いていた。
パンパンと肉がぶつかって弾ける音、男の荒い息、女のあられもない喘ぎ。酒の香りに汗と精液の匂いが混ざり、尿臭も混ざっていたかもしれない。
鬼の酒宴は、まさしく宴もたけなわであった。
赤い鬼と青い鬼は四つん這いになって男に組み敷かれ、それぞれの相手からゴツゴツとハラワタを突き上げられていた。時には赤と青の肌は絡み合い、胸のやわ肉を押し付け合い、その後ろからそれぞれの男が魔羅を突き上げ、女たちの汗と舌が絡んだ。
しかしそれぞれの相手を交換することはなく、ただ一組ずつが、思い思いの狂態に励んでいた。
やがて、一番鶏の声が聞こえた。
社の外は、白んでいた。

社の中には魔羅も萎え、腰も抜けた男二人が横になり、女鬼たちは彼らの精液でぽっこりふくらんだ腹を愛おしそうに撫でていた。
「くくく。精のつく料理をこしらえた甲斐あったな。初めてにしては上出来……でもまだまだこれからたぁくさん注いでもらわなくちゃあ……」
「そうねぇ。あたしたちが孕むまで何度も、孕んでからもいくらでも」
鬼たちが可笑しそうに幸せそうに笑う。
「朝が来たから一旦帰って、また夜にここに来(き)ねぇ。美味いもん作って待ってるからさ」赤鬼が言う。
「み、見逃してくれるってぇんかい……」
快楽の余韻が残りつつも、平次が息も絶え絶えといった体(てい)で尋ねる。
「あたしらも身分があるからさ。いますぐに嫁ぐっていうのも難しいんだよ。だから絶対にまた明日来てくれよな」
「明日は無理だ。7日、7日だ。7日後にまたここに来る。俺たちにも仕事があるんだ。ここまで来るのは難儀なんだ」六助が言う。
「それ、本当でしょうねぇ……」
彼の様子に思うところがあったのか、青鬼が少しだけ不審そうな目を向けた。
彼らと彼女たちは夢中で交わりあったわけではあるが、彼らはまだ、彼女たちに(物理的に)食われると思っていた。今回は朝が来るまで彼女たちを楽しませ続けたのだから見逃してもらえるのだ、と。
彼女たちは魅力的だが、命には代えられない。
六助はトンズラしようと思っていた。
すでに旦那と思っている男の心を見抜けない青鬼ではない。
少し悲しくは思ったがそれはそれ。彼女はまだ自分たちを恐ろしい鬼だと思わせて、彼らで楽しもうと思った。彼女はニンマリと笑いつつ口を開く。その隙間からは鬼の牙が見えている。

「わかったよ。でも、ちゃんと7日後に戻って来るという証拠が欲しいねぇ」
「証拠……証文でも書けっていうのか?」
六助はしめたものだと思った。偽りの証文を書いて逃げて仕舞えばいい。しかし、彼の考えは甘かった。
「そんなつまらないことはしないよぉ。こうするのさ」
そう言って彼女は、六助の萎えた魔羅に手を当てた。
「な、何をするつもりでぇ」
冷たい光を湛えた彼女の瞳に、六助は背骨を抜かれるような恐ろしさを感じた。
まさか……。
ブツン、と。
六助の魔羅がもぎ取られた。
「ぎゃああああああーーッ!」
あまりのことに六助は叫んでいたが、血も出ていないし痛みもない。きっと鬼の妖術なのだろう。
それを見て平次がガタガタと震えている。
「これを質として預かっておくよ。ほら、あんたもその男から」
「くくっ、あんたはえげつないねぇ。でも、それ、ノッた」
青鬼に促された赤鬼が、平次の魔羅に手を伸ばす。
「や、やややややめてくれ。後生だから。俺の魔羅を……」
ブツン
「ぎゃああああ!」
彼らの魔羅は女鬼たちの手に握られていた。
「これであたしたちがいない間に浮気もできないだろ?」
「あら、あたしは浮気されてもいいけど? そうすれば折檻できるだろ」
「あはははは。違ぇねぇ。じゃあ、7日後に。ちゃんと来いよ。昨日よりももっと美味いもん作って、もっと気持ちいい思いをさせてやるからさぁ。来ないと、パチンとイッちまうかもしれねぇなぁ」
「パチンかブチンか。それともメぐリョりょりょ、……かねぇ」
不穏な響きに、彼女たちの手に握られた彼らの金たまが縮み上がっていた。
社の戸を開けて去っていく彼女たちの輪郭は、山向こうから顔を出した日光によって、壮絶に縁取られていた。

「あ、あああひどい目にあった……」
「お、俺の魔羅が……」
彼らは泣く泣く山を降り、軽くなった股間をさするのだった。

同僚の大工たちに魔羅がなくなったことを悟られないように彼らは仕事をこなし、そうして約束の7日後がやって来た。
日も暮れかけで、空はまるで断末魔のように紅く燃え上がっている。しかし平次は、あの赤鬼の肌の方が綺麗だったなと思う。
「どうする? 行くか?」
「しかし行ったら今度は喰われるぞ。頭からこうバリバリと。骨まで残らねぇだろうなぁ……」
「ああ」
ぶるる、と彼らは互いに震えた。
この7日間をよく耐えたとお互いに思う。何故なら、仕事中でも飯時でも、寝入り端であろうと、ここにないはずの自分たちの魔羅が、どうしようもないほどの快楽を与えられていたのだ。
時にはいきり立った竿を握る女の指を感じ、カリの裏を這う舌の感触、それだけではない女の体を使って感じる快楽、時には膣肉に包まれる感触まであったのである。女の肉体を触ることもできずに、ただ魔羅だけに快楽を与えられる。精を吐き出すことは許されていても、二人はどうしてももどかしく狂おしい欲望を感じずにはいられなかった。
あの酒を飲み肴を食う。そして女を抱く。
いや、もはや女を抱くだけでもいい。
二人はそこまで思わざるを得なかった。
たとえ喰われるのがわかっていたとしても、あの女たちに会わざるを得ない。
鬼の妖術とは、なんと恐ろしいものなのだろうか。
彼らはこうして相談しているうちにも、己の魔羅を締めつける、女の肉の感触を覚えていた。
「お、俺は行くぞ」
平次が言った。
「もちろん俺も行くぞ。喰われたとしても、生殺しよりはいい。あの女をもう一度抱いて、潔く喰われてやるさ。……おぅふ」
六助は鼻息荒く言った。彼はちょうど果てたらしい。

そうして彼らは以前のようにえっちらおっちら山を登り、社にたどり着いた。
社には何者かがいる気配がある。
二人は顔を見合わせゴクリと唾を飲み込んだ。
それは期待か恐怖か。
複雑な感情が混ざったどぶろくを飲んだようだった。
ザリザリと。
踏みしめた砂利が鳴った。わらじの裏から波打つような砂利の感触がする。
と、
社の段々に足を乗せた彼らは、ハタと立ち止まった。
中から何か聞こえる。
それは、女の泣き声だった。
「え?」
と声を出したのは二人のどちらだったろうか。
その声は社の中に届いたらしかった。
ドタドタと荒々しく床を踏みしめる音。バァンと勢いよく社の戸が弾けた。
そこには二人の、赤と青の鬼女が……いや、二人の乙女がいた。
「よかったぁ……来てくれた……」
「ぅう……」
泣きじゃくる赤と青の鬼たちは二人のそれぞれの愛しい男を抱きしめた。
男たちはものすごい力で抱きとめられ、目を白黒とさせた。
鬼の目にも涙と言うが、それが美女であると、意味合いは変わってくるらしい。
「もしも今日来なかったら、と考えたら心配になって来てなぁ……」
「おちんちん取るなんて、もう怖がって来てくれないかもしれないって……」
自分たちの耳元で、自分たちを思って泣く美女たちに、今まで彼女たちに喰われると思って震えていた自分たちが、二人はなんだか馬鹿らしく思えてしまった。
そうして彼女たちはすでに自分たちをかっ喰らっていたのだと気付いた。
なぁんだ。そう言うことか、と。

だから、あれだけ食い散らかされたら、ちゃんと、もう残さず食べてもらうしかない。
六助と平次はお互いに顔を見合わせると、
「祝言を挙げんべ」
そう、二人して呟いた。
空は誰そ彼どき。青と赤が混じる空に、白い雲が千々にたなびいていた。
17/10/21 09:50更新 / ルピナス
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■作者メッセージ
その鬼酒神社のババさまは歳をとらない呪いをかけられたロリウシオニちゃんで、人間のババさまに化けて口噛み酒を作っているという裏設定を知ったらどうする?

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