連載小説
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怪人いかれ帽子屋
そいつは奇妙な風体の輩だった。
いつから現れたのか、どこからやって来たのか、何も定かではない。
わかっていることといえば、そいつは舶来物の、燕尾服などと呼ばれる小洒落た服を着て、シルクハットという帽子を被っているということだ。その帽子には生きたキノコが張り付いている、なんて噂もある。
そいつはふらふらと街中に現れては女子に声をかける。
それを聞けばそいつは男なのかと思うかもしれないが、それも定かではない。
そいつの服装は男のものらしいが、顔はなよなよとして、そんじょそこらの女子よりも可愛らしい、らしい。胸の膨らみがあったと言ったやつもいた。だが、それも定かではない。
わかっていることといえば、そいつは女子に声をかけては、そいつが被っているような、奇妙な帽子を女子に押し付けてくるということだ。
それだけであれば、単なる奇態な変質者として問題は片付くのだが、それもまた違った。
そいつに帽子を渡された女子は、すべからく失踪している。そいつが拐かしたのではないかと、岡っ引き一同はもっぱらそいつを探し出すことに専念している。だが見つからない。もしかすると、そいつは岡っ引きたちが動いていることに気がついてシマを変えたのかもしれない。
太え野郎だ。いや、野郎かどうかも分からないんだっけ、と岡っ引きの六朗は鼻をこするのだった。



お使いから帰って着たおみつは、るんるんとしていた。彼女の陽気に当てられて、種もないところから花でも咲くのではないかと思えるほどだった。くすんだ色合いの着物も、晴れ晴れとして見える。
「おみつちゃん、そんなにご機嫌でどうしたの?」
同じお店(たな)の奉公人であるおさよが声をかけた。しかし、おみつはにっこり笑って、
「ひみつ」
と言うだけだった。
これは男ね。とおさよは思った。
お使いに行った先で、いい文(ふみ)でももらったに違いない。あの辺りには色男として浮名を流す船頭がいたはずだ。今のところその舵取りを誤ってはいないようだが、良い噂は聞かない。おみつもそれを知っているはずだから、ならば飛脚の兄(あん)ちゃんだろうか。
相手が本当にいい人だったらいいのだけど。
同じ時期にこのお店に入ったおみつが色を匂わせる様子に、おさよは複雑な思いを抱くのだった。だから彼女はおみつが使いの品とは別に、もう一つ包みを持っていることに気がつかなかったのだ。当然、おみつがるんるんなのは、そこから漂う芳香のせいなのだとは、思ってもみないのである。
さて、その夜のことである。
おさよが部屋に戻ると、おみつは何やら見慣れない被り物を被って、ボンヤリとしていた。その目は虚ろで、少々心配になってしまうほどである。
おさよとおみつは同室である。すでに夜の支度は終えていて、二つの布団がきちんとしいてある。行灯なんてものもは出してはもらえなくて、ロウソクの明かりがおみつの顔を照らしている。オレンジ色の明かりが虚ろな瞳に揺れれば、うら寒い不気味さがある。
おみつは自分の方の布団の上にみっともなく足を投げ出して座っている。裾が乱れて彼女の細くて白い足が覗いている。ロウソクの橙がまるで彼女の足を舐めているように艶かしく、おさよはそれからちょっと恥ずかしそうに目をそらした。
おみつがそのような格好をするのは珍しい。珍しいと言うか、初めて見る。昼間はるんるんとしていた彼女だが、普段は、いや、その時だって、仕事はきちんとやるし、このように自分の分まで布団を敷いてくれるような、気の利く娘である。
「おみつちゃん、どうしたの?」
おさよが尋ねるが、おみつは返事をしない。彼女は惚けたように座ったままだ。
おさよはその様子にいよいよ心配になる。
嫌な予感が頭をよぎる。
おさよはご禁制の薬について聞いたことがあった。何でも吸えばポーッといい気持ちになって、気分が高揚するが、その代わり薬が切れると今度はボーッとなって虚ろになってしまうのだそうだ。細かい症状は人によって違うようだが、いまのおみつの様子は噂に聞いていた症状にそっくりだ。
昼間のだって、色っぽい話ではなく、煙たい話だったのかもしれない。
おさよはぞぞっとして、慌てておみつを揺すった。
「おみつちゃん、おみつちゃん。本当にどうしたの」
その拍子にコロリと乗っかっていた帽子が落ちた。すると、見る見るうちにおみつの瞳には光が戻ってきて、
「あ、おさよちゃん、そんな顔をしてどうしたの?」と、キョトンとした顔を見せた。それから、「きゃあ、私ったら足を見せてはしたない」と、彼女は急いで裾を直すのだった。
おさよはホッとすると同時に、やはり心配そうな顔をする。
「おみつちゃん、今日はどうしたって言うのよ。あなた、変よ。それに、あの帽子は何?」
おさよは気味悪そうな目でその帽子を見る。縁がまぁるくて、そのまま真ん中がまっすぐに立ち上がったような形の被り物だ。もしかすると、舶来物かもしれない。そんなものを被っている人間など見たこともない。
おさよが訝しがっていると、おみつはケラケラと笑った。
「もらったのよ。しるくはっと、って言うらしいわ」
「しるく……はっと?」
「そ、お使いの帰りに舶来物のお着物を着て、この帽子を被った方にいただいたの」
その単語のはっとが、ご法度(はっと)と被って、おさよは何だか嫌な感じがした。
「おみつちゃん、それ、被るのやめた方がいいわ」
おさよはおみつに忠告した。彼女の目は真剣である。しかし、おみつはやはりケラケラと笑う。
「心配性ねぇ、おさよちゃん。これは幸運の帽子らしいわ。女子でも男子みたいに、自分のやりたい事ができるようになる帽子何ですって」
彼女はしるくはっとを手にとって、くるくると回した。
その回るのを見ていると、おさよは自分の目も一緒にくるくる回るような気もして、また、不思議な甘ったるい香りも嗅いだ気がした。
それが、おみつが姿を消す、前日の夜のことであった。



おさよは尋ねてきた岡っ引きの六朗に、泣きながらそう話していた。
「あの時、あたしが無理にでもあの帽子を取り上げていたら、おみつちゃんがいなくなることはなかったのに……」
しやくり上げる少女を見て、六朗はその輩に対する憤慨を強めるのであった。
彼は往来を歩きつつ、おかしな風体をした輩がいないか目を光らせていた。元から目つきの悪い彼が、ギロギロと伺うように歩いていれば、身にやましいところがないものであっても、何やら腹を探られている気がして、いい気持ちはしない。
曇り空からはぬるたい風が降りてきて、六朗は天にも忌々しそうな目を向けた。
その下手人がお天道様の目もくらましているようでーー、冗談じゃない。一雨来そうな気配に、町人たちもいそぎ足だ。柳の枝が、不気味にふらふらと揺れている。ゴボゴボと、川が溺れるような音を立てていた。そうして彼がちょうど、茶屋の前を通りかかったところだった。
彼は飛び出してきた町娘にぶつかった。少女の甘い香りがした。白粉や柑橘とも違う、あまり嗅ぎ慣れない匂いだ。
「ああ、ごめんなさい」
「気ぃつけな」
六朗は素っ気なく言った。そんな六朗をためすすがめつしていた町娘は、んふふと笑い、妙ちきりんなことを言い出した。
「申し訳ない。素敵な男性を見て、思わずぼくの足が勝手に動いてしまった」
男のような喋り方で、彼女……は六朗に話しかけてきた。
若いモンの流行(はやり)はわからん、女歌舞伎でも流行っているのだろうか、と六朗は顔をしかめた。
しかし、見ればめんこい少女だった。年の頃は、十七八くらいだろうか。顔のつくりは、鼻も高く、あまり見ない形をしているが、海の向こうの人というほどまでには異なってはいない。とは言っても六朗は海の向こうの人など見たことはないのだが……。もしかすると、山人の血を引いていたりするのかもしれない。
彼がしげしげと彼女を見ていると、彼女はにまりと笑った。
「ふふ。ぼくが魅力的だからって、そんな不躾な視線はどうかと思うよ」
「っ、ああ、すまんかったな」
その蠱惑的な笑みに、六朗は急いで目を逸らした。この少女、まるで年増のような色気を匂わせもする、曲者である。そんな六朗に、少女は今度は無邪気な笑みを浮かべる。
「いいや、大歓迎だ。むしろ見てもらえない方が僕には侮辱だ」
「どっちなんでぃ」
「無論、後者さ。こんな往来の真ん中でなく、僕の部屋の中だったのなら、僕は君に喜んで肌を見せよう。それとも今から銭湯に行くかい? それなら合法的に僕の裸を見せる事ができる。おや、この国のこの時代に少女の肌を二人だけの部屋で見てはいけないという法律があっただろうか……。そこんところどうなのだい? 時代がかった服装の君ィ。ハハッ、そう言えば僕も時代がかっている。時代劇のコスプレ。イッツアメーイジィーング」
彼女は大仰に手を広げて天を仰いだ。周りを行き交う人々が二人をジロジロと見ながら通り過ぎて行く。もちろん、関わり合いになるのはごめんという事だ。
六朗は『こいつは頭のおかしい娘さんだ。関わらない方がいい』と心の底から思った。
彼は苦々しく会釈をすると、彼女に背を向けて歩き出した。しかし、彼女から投げかけられてきた言葉で、足を止めることになる。
「ああ、残念。素敵な殿方がいってしまう。せっかく、この帽子のことを調べてもらおうと思ったのに」
「何、帽子だって?」
六朗はいきった。
「ああ、そんなにがっつかないでくれ。僕のきのこがビンビンに反応してしまう」
六朗は彼女の妙ちきりんな言葉には応対しないことにした。
「帽子ってなぁ、しるくはっと、とかいう舶来もんじゃあねぇだろうな」
「ははっ、分かっているのなら話が早い。僕らは通じ合っているみたいだね。うん、このまま繋がってみないか? 真昼間から盛るケダモノのように!」
「チィ、とおふざけはやめにしてもらえないかい。じゃねぇと、縄ァつけてしょっぴくぞ!」
六朗は凄むのだが、彼女は動じない。というか、それは明らかに逆効果である。彼女は頬を染めて、自らの体を抱いて腰をくねらせた。その姿は再び年かさをまして淫らだった。
「君はそんなプレイがお好みだというのか。良いだろう。僕のこの体を縛り付けて、四つん這いにさせて引き立てると良い。裸んぼの体に食い込む縄の感触を、僕も味わって見たいと思っていたところだ」
六朗の目からは光が消えていた。
「帽子がどうしたんでぃ……」
「ははは、そんなゴミを見るような目で見ないでほしい。興奮するじゃないか」少女は艶やかな唇を舌で濡らした。頬は上気しているようだった。「……あぁっ! 僕が悪かったお願いだから帰らないでくれ。そうだ。そうだね。帽子だ」
彼女は慌てて懐から帽子を取り出した。わざわざ胸元にしまってあり、彼女が取り出すときに見えた生白い肌が、まるで花が咲くようで眩しかった。
「ほら、これさ。舶来物のシルクハット。つい先ほどもらったのさ。しかし、僕には必要ない。これが必要なのは君らしい。どう使うか、いや、どう使われるかは君次第かな」
少女は押し付けるように帽子を渡し、気障ったらしく片目をつぶって見せた。長く艶やかなまつ毛が反り返っている。
少女の要件はそれだけだったらしく、聞いてもそれ以上のことは分からず、彼女は大人しく茶屋の中へ戻っていった。
瓢箪から独楽とはこのことだ。
六朗は少女の後ろ姿を見送ると、しるくはっとを片手に、詰所に戻ることにした。

もしも六朗が彼女を追いかけて、その奥座敷にいる、おみつを含む、いなくなった少女たちを目にすれば、この事件はすぐに解決したのだが、残念ながら、そうはならなかった。
茶屋の少女は奥座敷に上がると、大人の女性の姿に変わった。町娘の衣装は何処へやら、白い燕尾服に身を包み、きのこのついた、これまた白いシルクハットを被っている。
西洋でいう紳士の出で立ちになった彼女だが、その体の線はまぎれもない女性のものだ。膨らんだバストとヒップの線はボリュームこそないものの、均整のとれた美しい曲線を描いていた。胞子のような色気が、惜しみなく振りまかれる。
この姿で往来を歩くときは、胸や尻にさらしを巻いて体の線を誤魔化すのだが、ここではそんな必要はない。秘めやかな奥座敷には、何名もの町娘が集められていた。彼女を見た少女たちは目を輝かせる。
彼女たちは何かを求めるように美女紳士の元に殺到する。
「ツキタケさま、早く、早くきのこをくださいませ。わたくしたちもう我慢ができませんの」
口々にさえずる姦しい少女たちに向かって、ツキタケは唇を吊り上げる。
その爽やかな中に含まれる淫靡さ、狂気を孕んだ瞳に彼女たちはウットリとする。
「ははは。待ちたまえ子猫ちゃんたち。僕は逃げないしきのこも逃げないさ。逃げても君たちにはもう問題はない。僕のあげた帽子があるじゃないか。逃して問題があるのは、男性とその股に生えるおちんぽきのこだけさ」
彼女はそう言いながら、自らのシルクハットに生えたきのこの一本をむしり取る。その拍子に胞子が飛び、少女たちの瞳が情欲に爛れた。
「さあ、順番だ。僕のきのこを堪能しな」
彼女は手に持ったきのこを股間の前に構えると、少女たちを挑発するようにテロテロと振った。きのこの傘はまぁるく膨らみ、まるで男性器そのもののようで、その卑猥な形と有様に、少女たちに残っていたちっぽけな理性が、彼女たちを躊躇わせる。
頬を染めた生娘たちが顔を見合わせる。
「おやおや、これが欲しかったんじゃないのか? 立派な淑女になるためには避けては通れない道だ。では、僕がお手本を見せよう」
ツキタケはそう言うと、手に持ったきのこを整った顔の前に持ち上げ、だらしなく口を開け、舌を出して、牝の顔をした。彼女の頬は上気して、同性であっても、その淫らな仕草に、少女たちは唾を飲まずにはいられなかった。
ツキタケの舌に、男性器に似たきのこの傘が触れた。
「ハァン、む」
彼女はそのままきのこを口内へと招き入れた。美味しそうに、時には恥ずかしそうに頬張り、きのこを抜き出しては見せつけるように、満遍なく舌を這わせた。
卑猥な水音がジュプジュプと響き、あふれだした彼女のヨダレが、汚らしく彼女の顎まで伝い、乳房を滴る。ポタポタと滴り落ちたヨダレが畳を濡らし、その様を少女たちが惚けたように見ている。
男性器で言えばカリの裏側をベットリと舐め上げ、彼女は行為を終えた。
そうして魅入られたように魅入っていた少女たちを見回す。
「さて、次にヤりたい子猫ちゃんは?」
少女たちは体面もなく、競うように手を上げた。彼女たちの頬には羞らいの赤がさすも、その瞳には狂気が渦巻いていた。
「私もツキタケさまのように上手になりたいです」「私も」「私も」
ツキタケは満足そうに彼女たちに頷く。すると、その中の一人はおずおずとした口調ながら、とりわけ蕩けた瞳をして言う。
「私はすぐにそのきのこをいただきたいです。ツキタケさまに汚されたきのこを……」
ツキタケはシルクハットに手を当てて、帽子の下から彼女に流し目を送る。彼女はその瞳に電流を流し込まれたように、体を震わせた。
「おやおや、イってしまったか。ははは、君はナカナカ見込みがあるようだ。しかし、僕が汚されたのではなく、僕が汚した、か……」
「失礼でしたでしょうか……」
不安そうに少女が尋ねる。ツキタケは静かに首を振ると、
「いいや、言いえて妙。素晴らしい。ワンダフル。ビューティフル」
少女はホッとしたようで、礼を言おうと可憐な唇を開こうとする。と、ツキタケが少女の唇を奪った。
少女は一瞬驚きに目を見開いたが、すぐに彼女を受け入れると、必死でその愛撫に応えているようだった。まわりの少女たちが羨ましそうにその光景を見ている。
唾液の銀の架け橋を伸ばしつつ、ツキタケが唇を離すと、少女は腰砕けになってへたり込んでいた。
「ごちそうさま」ツキタケは片目をつぶった。
「お粗末様でした……」
彼女は着物の上からでも分かるほどに股を湿らせているようだった。
「さて、それでは子猫ちゃんたち? 始めようか」
ツキタケの号令に彼女たちはコクンと可愛らしく頷いた。
「よろしい、ならば練習だ。みんな、きのこの貯蔵は十分か? まだ? それは当然だろう。君たちはまだまだ成り立て。僕のような大きいきのこはまだ生えていない。見なよ。僕のはすごく、大きいだろ? 僕のきのこを配ろう!」
彼女は自らのきのこをばらまいた。少女たちはより大きいのを手に取ろうと大慌てで群がっていく。
ツキタケが手渡していったきのこに、少女たちが一心不乱で舌を這わせ、それを口に頬張っていく。ツキタケの指導によって男を喜ばせる手段を教えられていく少女たち。その倒錯的で淫らな光景に、ツキタケは満足そうに頷くのだった。



「ってぇなわけで、一丁協力してくれねぇだろうか。この通りだ」
六朗はあの町娘から渡されたしるくはっと、を手に、おさよの元を訪ねていた。あれから詰所で岡っ引き同士、むさ苦しい顔をつきあわせてしるくはっとを改めてみたが、なんらおかしな点は見当たらなかった。被ってみたりもしたが、わかったことといえば、こんな被りもんは俺たちの頭には似合わねぇな、ということくらいで、苦笑しつつ詮議した。
その結果、おみつを奪われて悲しみの淵にあるおさよに協力してもらう。
そういうことになった。
六朗はお店の主人に断りを入れて彼女を部屋に呼んでもらうと、その旨を告げた。
おさよは義憤に瞳を燃やし、神妙に頷いてくれたのだ。
さて、だからと言ってどうしたらいいかはわからない。
一先ず二人は相談し、おさよはそのしるくはっとを被ってみることにした。
おさよと六朗は向かい合って畳に正座し、六朗はおさよにしるくはっとを手渡した。その際、つと指が触れて、おさよは触った指の熱さを感じた。
……奇妙で見慣れない形の被り物である。
それを手に取った彼女は、あのおみつのふやけた様子が頭に浮かび、躊躇わないこともなかったが、帽子をかぶるくらいで気をやってしまうこともないだろうし、それよりも、おみつを拐かしたであろう下手人を捕まえることで彼女の頭はいっぱいになっていた。
おさよはそれでも、恐る恐る、しるくはっとを被ってみた。
思ったよりも重い。
持っていた時にはそう感じていなかったが、被ってみれば、なにやら重石が乗っかっているような気がした。自分が漬物にされてしまったような気もする。押しつぶされていくのは今まで自分が保ってきた尊厳のようなもので、また、倫理観でもあった。
まるでずぶずぶと沼の底に沈んでいくような、まるでふわふわと天に昇っていくような気持ちもして、六朗が慌ててしるくはっとをひったくるまで、彼女は自分がどんな状態になっているのか気がついていなかった。
「お、おい。大丈夫かよ」
おさよはぼんやりと、虚ろな目をして六朗を見た。
彼は顔を真っ赤にして、おさよに組み敷かれている。どうして、自分の下に彼がいるのだろうか……。そうしておさよはハッと気がついて、六朗に負けないくらいに真っ赤になった。
しるくはっとを被ってから、彼女は六朗に誘うようにしなだれかかり、彼を押し倒してしまったのだった。
「こ、これはなんというはしたない事を。申し訳ございません」
おさよは、泣きそうになるくらいの恥ずかしい心持ちで六朗に頭を下げた。
六朗は慌てておさよの頭を上げさせた。
「あんたが謝る事じゃねぇ。謝るのは俺の方だ。あんたがその被りもんをしてから、目がこう、トロンとなってな、急に色っぽくなって近寄ってくるもんで、俺もすぐに跳ね除けられなかった……」六朗は面目なさそうに言った。
おさよは男の人からそんな言葉をかけられるのは初めてで、恥ずかしいやら嬉しいやらで、なんだか腹のあたりがムズムズとした。
六朗は気を取り直したように言う。
「これがこの被りもんをしてからだ、というと……危ないしろもんだ。まさに妖術でもかけられてんのかもしれねぇ。俺ぁ、格別に信心深いわけでも妖怪変化の類を信じているわけじゃあねぇが……こいつぁ得体がしれねぇ。こいつを被らせて色街に売り飛ばせば、目玉にもなるだろうしな。……ってか、船に乗せて売り飛ばせば……」
と、そこまで言って、おさよの愕然とした顔に気づく。
「わ、悪ぃ、まだそうと決まったわけじゃあねぇ。勝手な事をいうもんじゃねぇな。不安にさせちまってすまねぇ。おみつはちゃんと見つかるさ」
六朗は慰めにもならない言葉で、おさよをなだめた。
しかし、と彼は手にしているしるくはっとに目を落とす。
これを被れば気が変になってしまう事はわかったが、下手人につながるわけじゃあない。まさか、完全におさよが気をやってしまうまで見ているわけにもいかないだろう。
だが、おさよはこんな事を言った。
「あたし、これを被り続けてみる」
「お、おい。それはやめときな。今度押し倒されちゃ、はねのける自信はねぇよ」
六朗の慌てた様子に、おさよは顔を真っ赤にさせた。
彼女の様子に、六朗は尻の座りが悪くなった。
こう言ってしまうのはなんだが、おさよは決して器量好しというわけではない。しかし、先ほどの様子は、それを補って余りある色気があったのだ。ともすれば、妖気をまとったと言ってもいいような……。だから、六朗ともあろうものが妖術という、非現実的な単語を口走ったのである。
しるくはっとなどというものの妖気に当てられた娘を手篭めにしてしまうなど、六朗には許せることではなかった。岡っ引きの中にはゴロツキあがりのものも多いのではあるがーー類は友を知るというやつであるーー六朗は顔に見合わず、真っ当な道を歩んだ末に岡っ引きになったのであった。
六朗は腕を組み、うんうんと唸った。
今のところ、この怪しげなるしるくはっとの謎を解き明かすには、おさよに被ってもらうのが一番である。しかしその結果六朗が彼女の操を散らすことになるのはいただけない。
色街遊びで気を沈めてから……、いや、それでも安心できない。男も女も、色に狂えば何を仕出かすものかわかったものではない。
六朗が逡巡していると、おさよは意を決したように言った。
「あたし、六朗さんだったら……いいですよ」
六朗ははバッと顔を上げた。「おいおい、そんな、俺のような奴に……」
だが彼女の目を見た彼は、黙るしかなかった。彼女の目は真剣であった。
「六郎さんはおみつちゃんのことを探してくれるって、そうしてあたしのことを本気で心配してくれて親身になってくれて……だから……」
「みなまで言うねぇ」六朗は手で彼女の言葉を遮った。「そこまで言わせちまうのは野暮ってなもんだ」
そうして六朗はおさよの瞳をマジマジと見た。二人は互いに視線をかわし、ちょっと、吹き出した。



おさよは、座敷牢に入っていた。
以前六朗が御用改めで押し入った屋敷で見つけた座敷牢である。阿片売買に加担していたその家の主人はしょっぴかれ、現在は次の買い手を待っている状態であった。
ここにおさよに入ってもらい、牢の前で六朗が見張るのである。まず、しるくはっとを被った状態で、おさよにどんな変化が現れるかを見るのである。昼間の様子を鑑みれば、もしかすれば、えもいわれぬ嬌態を晒すかもしれない。六朗以外の岡っ引きは、屋敷の部屋から少し離れたところで待機をしている。
おみつが夜のうちにいなくなったこともあり、しるくはっとの検分は、夜半に行われることとなった。屋敷の庭には篝火が炊かれ、厳しい顔をした岡っ引きたちが、腕組みをして警邏に当たっている。
気味の悪い夜である。空には薄い傘のような雲がかかり、糸のような月が、ボンヤリと、屋敷の屋根に見え隠れしていた。
彼らには、少女拐かしの下手人が現れるかも知れないと伝えている。
パッと散った火の粉が、口を引きむすんだ彼らの目に映る。
ザザ、と。
屋根に何者かが降り立ったような音がして、男たちの目が一斉にひきつけられた。
「にゃあ」
「なんだ、猫か」
男たちは拍子抜けした面持ちで、屋根から目を戻す。彼らの目には、篝火に照らされて、猫の耳と尾が見えたのである。しかし、彼らはジッと目を凝らすべきだったのだ。その耳と尾の持ち主は、人型をしていたのだから……。
ーーにゃあ
ーー猫だにゃあ
そんな愉しそうな声が、闇に霞んだ。

行灯に照らされる座敷牢。
牢格子がおさよに投げかける影は、彼女をズタズタに裂いているようであった。彼女は神妙な面持ちで、正座をしている。
六朗がおさよに声をかけた。
「悪いな、そんなところに押し込んじまって……。それに、お前さんを辱めることになるかも知れねぇ」
「いいえ、大丈夫です。六朗さんにだったら……構いません」
行灯の明かりが、チロチロと揺れた。
闇と明かりの境目が、いたく曖昧である。
六朗は、おさよの顔を見た。そして思う。
この娘、昼間とは気配が違わないか……。これから彼女はしるくはっとを被り、もしかすると、正気を失い色に狂うかも知れない。だと言うのにその目はキリリとして、口元も勇ましく見える。娘っ子にこう言ったら失礼だが、若侍のような気配を持っている。そうだと言うのに、同時にひどく艶っぽくも見える。
行灯のような明かりの中では、その仔細まで見ることはできないが、影の中で、彼女の瞳は静かにきらめき、薄橙に照っている彼女の頬は艶かしくも見える。
それはきっと、薄明かりで細部まで見れないからだろう。
六朗は、そう自分を納得させることにした。
「じゃあ、お願ぇするよ」
「はい……」
おさよは軽く頷くと、しるくはっとを両手に持って掲げる。それが持ち上がる時、ちょうどしるくはっとのまん丸が、彼女の顔を覆った時、おさよがその裏で薄く微笑んでいたのは、六朗の目には見えなかった。

おさよがしるくはっとを被った時、
ふっ
と。
行灯が消えた。
「こんにゃろう、出やがったな。やっぱりあやかしか」
六朗はこんなこともあろうかと、懐に用意していた火打ち石を取り出して、カチッとやった。一緒に取り出した縄に火をつけた。
静かな明かりに照らされて、座敷牢の中には二つの影が伸びた。
彼は目を見張った。
火花に照らされた座敷牢の中には、
「おみつちゃん……」おさよの声。
ーーおみつがいた。
彼女はしるくはっとを被っていた。そこには卑猥な形のきのこが生えている。
「なんだってんだ畜生!」
六朗は振り返り、行灯に火をつけようとする。しかし、彼はそれをできなかった。そこにはもう一人いた。いや、一匹かも知れない。
紫やら桃色やらの、見慣れないヒラヒラとした服を膨らませて、トロンとした目つきの美女。彼女の頭には猫の耳が、彼女の尻には猫の尾が伸びていた。彼女は噂に聞く化け猫よろしく、行灯の油を舐めていた。
壁に、猫の耳と尾のつた人型が、大きく浮かび上がっている。
六朗はぐと腹に力を込める。
あやかし相手には、怯んでは負けだと聞いたことがある。
美女は六朗に流し目を送ると、顔をしかめた。
「うにゃっ、ぺっぺっ。まずいにゃ……」
「だったらなんで舐めた……」
「んにゃ? ジパングの流儀に合わせてみたんにゃけど、やっぱり舐めるのはオチンポの方がいいにゃー」
そう言って、猫のあやかしは、ゾッとするほどの蠱惑的な笑みを浮かべ、六朗の股座を撫でてきた。
「うわっ!」
彼女はいつの間にか六朗の足元にいた。六朗は飛びすさりながら、十手を構える。こいつは美女であってもあやかしなのだ。今のは妖術に違いない。
にゃふふと笑う彼女に飲まれぬよう、彼は丹田にえいと力を込める。
途端、
「あぁン……!」
という嬌声が後ろから聞こえた。慌てて振り返ると、おみつがおさよに覆い被さり、その首に蛭のような舌を這わせていた。
「おさよ!」六朗は猫のあやかしを警戒しつつ、座敷牢に近寄った。「てめェ……。おみつに何をしたッ」
「にゃーんにも」
猫のあやかしは、六朗の剣幕に微塵も動じることなく、肩をすくめて笑った。にたにたという、薄気味の悪い笑みである。
「あちしはにゃーんにもしてないにゃ。したのは……にゃふふ。あちしの役目はその子をここに運ぶだけ。後はもう帰るから、好きに楽しむといいにゃ」
「何言ってんだ……なッ!?」
六朗は目を見張った。
美女の姿は徐々に薄れ、首だけになって浮いていた。
「面妖な……」そうして美女の顔は掠れていく。「てめェ、逃げんのか!」
六朗は美女の顔に向かって十手をを振ったが、まるで手応えがない。首だけの美女が、火縄の弱い明かりに照らされて、目と口を三日月に裂いて、不気味ににたにたと笑っている。
その顔が美しすぎるが故に、恐ろしさはいや増している。六朗でなければ、腰を抜かして怖気付いていることであろう。
「アッデュー、にゃ」
彼女は最後にもう一度笑うと、影も形もなく、消えてしまった。
残ったのは、火縄の明かりと……、座敷牢の中から聞こえる、水音だけ……。
ピチャピチャ……。
クチュクチュ……。
くぐもった吐息と、溢れる淫らな音が、二つ。
六朗は股座に感じた熱を振り切るように、急いで火縄を行灯に移すと、座敷牢の錠に駆け寄る。
ジリジリと、行灯の炎が揺れる。
鍵を錠前に差し込むが、中に何かが詰まっているようで、鍵が挿さらない。
「畜生!」
六朗は鍵を畳に叩きつけると、牢格子に手をかけて揺すぶった。
だが、頑丈に作られた牢はビクともしない。
いやらしい水音が、行灯の明かりに滲んで、六朗に霧のように絡みついてくる。
この牢は、元々阿片狂いになった若衆を閉じ込めるためのものでもあったと聞いている。男の狂人が破れないように、たいそう丈夫なつくりだ。
かつては阿片狂いを閉じ込め、今はーー色情狂い(いろくるい)を閉じ込めている。
六朗は二匹の絡み合う少女を見やって、ゴクリと唾を飲む。
今は二人とも襟元を大きくはだけ、若々しい乳房が丸出しになっている。しこった乳首を、互いに擦り合わせ、その度に悩ましい吐息を吐いている。乱れに乱れた裾からは四本のしなやかな脚が絡み合い、行灯の明かりに舐められて、その根元は影になって見えない。だが、ピチャピチャという水音から、二人はしとどに股を濡らして、それも擦り付けあっていることがわかった。
魅入られたように、その痴態に食い入る六朗は、おさよが被ったしるくはっとに、きのこが生えかけているのに気づいた。
ムクムクと立ち上がったのは、なんだったのだろうか……。
六朗は叫んでいた。
「おさよ! そいつはいけねェ! 戻れなくなっちまう! おさよもおみつも正気に戻れ!」
だが、二人は絡まる舌を六朗に見せつけつつ、瞳と唇だけで、にぃと笑った。その顔は少女のものでなく、爛れた大年増のものであった。
六朗はぞぉっとした。
二人は濡れた声で誘う。
「六朗さん、そんなに魔羅を盛り上げさせていては、説得力がありませんよ」
「こっちにいらっしゃい、一緒に睦みあいましょう」
ジ、ジ……。
行灯の炎が揺れた。
二人はさやかな明かりの中、互いの帯に手をかけた。
シルシルと。
衣擦れの音が静かに擦れた。
さらり、
二人の発育中の肢体が、六朗の前に晒された。
まるで、まだ羽化の時が来ていないのに、無理矢理取り出された蛹の中身のようだった。
背徳的で冒涜的で、許されないほどに、美しかった。
二人はしるくはっとを被ったまま、そこに生えたきのこが、雄々しく卑猥にそそり立っていた。
息を殺している六朗の前で、二人は閉じた下口から覗く、貝の肉を合わせた。淡い淫毛がぞりぞりと擦れ、みるみるうちに湿っていった。
いつしか六朗は、お預けを食らった犬のように、牢格子に自らの魔羅を擦り付けていた。
ダメだとわかっているが、彼女たちを止めなくてはいけないとわかっているが、自らの淫欲を、止められなかった。
「アぁん……。おみつちゃん、ずるい、あたしよりお乳が大きくて」
「あぁ……おさよちゃん、そんなに先っぽ……摘まないで……。おさよちゃんはお尻が大きいじゃない」
「ン……ぅ、ン……」
「ダメよ。ちゃんと、おさよちゃんのいやらしい声、六朗さんに聞いてもらわないと……」
「いやぁ……。大きな声はまだ恥ずかしいわ。意地悪なおみつちゃんは、こうしてやっちゃう……」
「ぁあ……ッ!」
「うふふ、大きな声……やぁ、んッ! やったわねぇ」
「そっちこそ」
「うふ」「うふふ」「「うふふふふふふ」」
ハァ、ハァ……。
六朗は息を荒げ、今にも射精してしまいそうだった。
ピチャピチャ。
クチュクチュ。
チャッ、チャッチャッチャ……。
激しい水音に、少女たちの喘ぎ声が重なる。そうして彼女たちがひときわ高くいななくと、
どくっ、どくっ……。
六朗は、ふんどしの中で果てていた。尿道を通る感触は、痛いほどに激しかった。ふんどしの中が粘ついている。それらが新たな刺激となって、六朗の魔羅には新しい血が通っていた。
情欲に爛れた少女たちが、座敷牢の中から彼を手招きしていた。
ガチャリ
錠前が独りでに外れ、畳に落ちて砕けた。
六朗はそれを気に止めることなく、血走った眼(まなこ)で座敷牢の中へと押し入った。
今の彼にとって、二人の少女は貪るべき肉体でしかなかった。
彼は乱暴に帯をとくと、褌だけを残して、少したるみのある体を薄明かりにさらけ出した。少女たちは中年の肉体に嫌悪感も羞恥も見せることなく、初恋の少年をみるがごとく、頬を上気させた。劣情の吐息が漏れる。
二人は貝の肉を合わせたまま、それぞれに女陰(ほと)を押し開いた。
開きかけの女の肉から、むわりと牝の匂いが香った。
六朗は褌をむしり取るように剥ぎ取った。こびりついた彼の精の匂いも漂う。
少女たちはウットリとして、それを欲しがった。
「ちょうだい、六朗さんの臭いものをあたしに」
「おさよちゃん、ずるい、私も欲しい……」
六朗はそれを少女たちの顔に向かって投げた。彼女たちはその汚物を鼻に押し付け、争うように舌を這わせた。その淫靡に過ぎる有様に、六朗の魔羅は、さらに膨れ上がった。
彼は少女たちの股の間に魔羅を挟み込んだ。
「アンッ……」「ぅうン……」
ゴシゴシと前後に擦るたびに、少女たちからはあられもない喘ぎ声が漏れた。股からは蜜が溢れ出し、プックリとした肉の芽の感触も、六朗には敏感に感じ取れた。
だが、より敏感だったのは少女たちの方だ。六朗の魔羅に陰核を擦られ、押しつぶされるたびに、甲高い嬌声をあげている。やがて六朗は果て、彼女たちの腹に白濁を吐き出した。
「熱ぅい……」
「お腹がベトベトするぅ……」
少女たちは互いに腰をくねらせて、腹のものを互いに擦り付けあっていた。
見れば、六朗の褌を、互いに噛み合って染み込んだ精をこそぎ取っている。
「六朗さん……焦らさないで入れてください……」
「私にもぉ……」
二人の甘えた懇願に合わせて、先ほどよりもはみ出した、女の肉が、ヒクヒクと動いていた。六朗の魔羅は再びいきり立った。
これほどまでに精力が持続することはおかしいことだったが、彼の心を占めている獣慾は、不思議をなんら不思議とは思わせなかった。二人のシルクハットから漂っている、きのこの甘い匂いのせいかもしれない。
彼は、いきり立った魔羅を、おさよの下の口にあてがった。
「あはぁ……嬉しい……」
「んぅ……」
おさよの下のおみつから、抗議の視線を向けられた。潤んだ少女の瞳には、その肉に指を入れることで応えた。
「ふぁあ、あ、あ……。やぁ……。指じゃなくて、魔羅が欲しいのぉ……」
「待て待て、順番だ、順番……」
彼は暗い支配欲を感じつつ、おさよの開きかけた貝の口を、魔羅でこじ開けた。
「キャぅん……ッ!」
ギチギチと、凄まじい締め付けを感じた。 おさよはギュッと、彼の褌を噛み締めていた。彼女の女陰からは、純潔の証が、おみつの股に向かって滴った。
六朗は、息も絶え絶えに歯を食いしばっていた。
なんだこれは……。まるで千疋のミミズに絡みつかれているような……。これが生娘(おぼこ)の中だとは信じられない。彼はすぐに果ててしまわないように、必死にこらえる。
おさよは、痛みをこらえると言うよりは、静かに六朗の魔羅を味わっているような気配があった。ゆっくりと脈動している膣壁が、その証拠だろう。まるで熟れた熟女のような有様に、彼は戦慄を覚えた。
六朗はそのままおさよの背にのしかかり、耳を噛んだ。
その刺激に、ぎゅうと膣がしまった。
二人は静かに、互いの熱を互いに教えあっているようであった。自分たちがロウソクになって、肌が溶け出すような心地がした。この熱は、たいそう心地がよく、いつまでも静かに味わっていたいものに思えた。
しかし、
それを許さないものがいた。
「そろそろ果てて、代わってくださいよう」
おみつが六朗の陰嚢(ふぐり)を、ももで軽く蹴った。そして、六朗の尻を足で抱くと、おさよの尻に手を挿しこんで、それぞれに揺さぶった。
「んぐぅ……んんん……」
「きゃ、アぁん……。おみつちゃん、どこでこんな業(わざ)を……」
六朗はうめき、おさよは口を開いて喘いだ。
「ツキタケさまからよ。ねぇ、早く出しちゃって、交代してください」
「ダメ、そんな……そんなに揺すぶられたら……。あたしッ、すぐに果てて……アッ、アッアッアッ……」
おさよと六朗が、ケダモノの吠え声をあげたのは、すぐのことであった。
どくどくと、おさよの子袋に六朗の熱いものが注ぎ込まれた。
おさよはうわ言のように、「熱ゥい……。お腹の中、熱いものでいっぱいィ……」と幸せそうに繰り返していた。
荒い息を吐く六朗だったが、おさよの頭の横のおみつと目が合い、少女の真っ赤な舌が、淡い明かりに昏い影を作りながら、唇を這うのを見た。悩ましい吐息に、六朗の魔羅は再び痛いほどに血が通い、おさよの中で再び膨らんだ。
おさよはふるふると背を震わせ、六朗が抜くと、ビクンと大きな尻を振った。
もはや広がった牝の穴から、純潔の赤とともに、汚れた白が滴り落ちた。
六朗はすぐにおみつの穴に亀頭を沈めた。
「ぁあぅうう……」
焦らされ続けてふやけていたのか、ずるりと根元まではまり込んだ。ジンワリと、彼女の純潔も滲んだ。
彼女の中は、灼熱の海綿だった。
ベットリと魔羅をとろかすように絡みついてくるのだ。待ちかねていた彼女は、自ら腰をくねらせた。
「待て、待つんだおみつ」
六朗は彼女のすべすべとした足を掴んで腰を押し付け、彼女を動かせなくしようとした。だが、無駄であった。小刻みにくねる腰の動きだけで十分だったし、何より膣自体が、まるで別のいやらしい生き物のように巧みに動くのだ。
こんな小娘がどこでこのような浅ましい技を覚えたのだと、六朗は必死で耐える。
「出してください、六朗さん。おさよちゃんに出してあげたよりももっとたぁくさん……。六朗さんの赤ちゃんの元を、私に注ぎ込んで、孕ませて下さい……」
悩ましく、艶を含んだ声音で、ウットリと懇願されれば、我慢する方が無粋な気がする。早くに果れば、もう一度やれば良いのだ。彼は腹を決めて腰を動かそうとする。
と。
「ぁああああ!」
おみつの甲高い嬌声とともに、膣がぐぃんと締まり、六朗は一瞬で果ててしまった。
どくどくと、彼女の中に股に六朗が流れ出ていく。
「ほんと、どこで覚えたのよ。そんな淫語(むつごと)まで……。後で教えてちょうだいよ」
気を取り戻したおさよが、何やらしたようであった。おみつはまだ止まぬ快楽に身をよじらせ、顔を淫らに爛れさせて言う。
「おさよちゃん、後生だから、後生だから、抜いてェ……アッ、後ろの穴を……そんな。アッ、アッ……後で教えるからァ……」
とんでも無いことをしていたようで、六朗の魔羅は、再びいきり立ってしまった。どうやら、今夜は果てがないようである。
胎の中で力を取り戻した魔羅に、おみつは嬉しそうな顔を見せた。しかし、
「ダメよ。次はあたし」
「やぁ……」
自分を求めて絡み合う少女たちを見て、六朗は、
「どっちも愛してやるから、順番だ、順番」
笑みを含んでそう言う。
「分かりました。じゃあ、あたしはこのお腹が膨らむまでそそいでください」
「じゃあ、私は後ろの穴も」
「あたしもよ。ねぇ、いいでしょう。六朗さん」
「ねぇ、」「ねぇ」
代わる代わる懇願する少女と、いっそうの締め付けを感じた魔羅に、
俺、枯ちまわねぇよな……、と。
乾いた笑みを浮かべるしかないのだった。
ジジ……、と。
行灯が粘った音を立てた。



「さて、向こうは上手くやれているようだね。僕らもこちらで上手くやろうか」
六朗たちが座敷牢で睦み始めた頃、屋敷の外でも動きが起こっていた。
声の主はツキタケと呼ばれていた、燕尾服にシルクハットという男装をしていても、抑えきれないほどの色気の芳香を放つ女性である。シルクハットには真っ白で卑猥な形のきのこが生えている。
それは胞子を飛ばし、まるで昇っていく魂のように天にあがり、空を覆っていた。
彼女は伴天連(ばてれん)ではマッドハッター、この国ではいかれ帽子屋とも呼ばれる魔物娘(あやかし)である。彼女の衣装は白く、月そのものであるように自ずから輝いている。
彼女は屋敷の塀の外から、庭の篝火に浮かび上がる屋敷を見ていた。
それはあたかも、生贄を捧げる神殿のようでもあった。
彼女の周りに、
ポツリ……。
ポツリ……。
と。
いくつもの人影が現れていった。その影は少女のものであり、それぞれがきのこの生えたシルクハットを被っていた。
ツキタケの隣に、猫耳とねこの尻尾を生やし、紫と桃色の、淫猥な衣装で着飾った美女が現れた。美女はにたにた笑いを浮かべているが、幾分緊張しているようでもあった。
「ななしさま、これで全員でございますにゃ」
「こらこら、今の僕は、謎の怪人ツキタケだ。それを間違えてもらっては困るな」
美女は猫の尻尾をピクンと震わせ、耳を垂れた。「申し訳ありませんにゃ、ツキタケさま……」
「ふふ、怒ってはいないさ。上首尾、ありがとう。これはお礼だよ」
ツキタケはそのほっそりとした指で美女の顎をすくい上げると、彼女に接吻を与えた。
唇を放すと、猫耳の美女はポーッと頬を上気させていた。太ももに伝うものがあった。
「さて、これ以上のご褒美はまた後で、だ。今はこの子たちに伴侶を娶らせてあげなくては、ふふん、逆じゃないのかって? 別に構わないだろう、娶っても娶られても、番うことには変わりない!」
彼女は自らが変貌させた同胞たちに告げる。
「さあ、子猫ちゃんたち、それぞれ好きな男性を捕まえるといい。今まで僕が教えたテク……ワザを使えば、男なんてイチコロさ」
彼女は指で銃をかたどった。そうしてシルクハットの唾をあげる。
「老いも若きも容赦なく、我らの胞子(奉仕)は理性を粉砕する。行きたまえ、運命のルーレットは、今、回された!」
彼女の号令によって、きのこから吹き出した胞子のように、少女たちは屋敷の門に殺到した。
彼女は猫耳の美女を抱き寄せて、その耳に囁く、その手は乳房に添えられている。
「不思議の国での受け入れ準備はできているだろうね」
「ええ、それは当然ですにゃ」
「よろしい……」
そうして、聞こえてくる淫らな惨劇の音楽に、名もなき彼女は耳を澄ませるのだった。

その日を境に……
町からは何名かの少女たちと岡っ引きたちが、突如として姿を消したという。しかし、だからと言って”不思議”と町の治安が悪くなることはなく、すんなりと、町は平穏のまま、いつもの風景を続けていたそうだ。
17/09/16 12:17更新 / ルピナス
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■作者メッセージ
知らない人から帽子をもらってはいけません。

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