連載小説
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第二話 「闇」
静かなる街
第二話 「闇」

私はさっき大きな橋で出会った、ワーキャットの少女の後を追うかのように静丘町の交差点にたどり着く。最近舗装されたようで、歩道や道路は綺麗な黒で塗り固められていた。その上には空から降る雪によって黒色の舗装された道路には、真っ白に化粧を施していた。
「はぁ…はぁ…、ここは交差点か」
 そのまま北は、闇のように深そうな濃い霧が立ち込めて何がどうあるのか分からない。さっきと違って辺りは薄暗く何か辺りを照らすものが欲しい、だが私の着ているダウンジャケットの懐には懐中電灯やライターは無い。
 「何か明るいもの明るいものは…」
 私は傍の民家の壁に沿いながら交差点を左へと曲がる。そこには民家も車もあるものの、生きた者の気配は微塵も感じられない。光が消えてただ一人ポツンと孤独にたたずむ信号機の傍を通り過ぎながら、静丘町の街並みを眺める。普通の郊外の住宅地で普通に見るような近代的でおしゃれな家並みが見える、しかし生活感の一欠けらも無いこの空間に佇む家々は、人通りの無い不気味な墓地のように見えてしまう。雪で家の屋根に積もった雪が更に景観を何とも陰鬱にさせてしまう。全く観光地らしくない時間が止まったかのような景観だ。
 「誰かいませんか〜…」
 声をかけてみても誰も何も反応しない、ただ濃い霧がしきりに辺りを立ち込めて視界を鬱陶しく遮るだけ。
 私は人の存在をあきらめ、近くの適当の民家に侵入する。とにかく明かりが欲しい、この調子だともうすぐこの町には夜が訪れる、人なんて誰もいないから黙って物を取っても誰も文句は言うまい。
 当然のごとく民家のインターホンを押しても誰も反応しない、仕方なく民家の裏庭へと敷かれたガーデニング用の白い砂利の上をガサガサと歩きながら入っていく。その歩くさまは誰がどう見ても下手くそそうな泥棒である。
 「ん…何だ?この音…」
私は耳を澄ます、この音はさっき車で聞いたラジオの不快なノイズ音そっくりであることに気付く。その音は、裏庭の一番奥の物置のような小さな倉庫から聞こえてくる。
私はその小さな倉庫の元に小走りで駆け寄る。
近づくにつれラジオの不快なノイズ音はどんどん大きくなり、私の耳を刺すようにして壊してくる。耳を押さえながら顔をできるだけ遠くにし、引き戸の方へと目をやる。引き戸の方には鍵穴や南京錠のようなものは存在しない。
私は引き戸をバッと素早く開けて、物置倉庫の中を物色し始める。するとすぐ目につくところにちょっと一昔前の古い小型ラジオと、非常用の懐中電灯がすぐポツンと置かれていた。なんとも都合よく懐中電灯を私は手に入れる。
「ん!?こいつもか?」
懐中電灯をすぐにつけて温かな光を手に入れたかったが、それよりも先にこの不快なノイズ音を立てる問題児のラジオを宥める方が先だった。が、この小型ラジオもまた車のラジオの如くどこを押してもまだノイズを立て続けるばかりだった。
「いっそのことこれ地面に思いっきり…」
私はそうしようとしてクルリと背後を振り返り、思いっきり地面めがけてそのラジオを落とそうとしたが、その手はすぐに反射的に止まってしまった。
「なんだ…こいつは…」
私はすぐ目の前に存在する、ある“物体”に思わず言葉を失いかける。
それは人ではない、人が手の部分に鋭利な刃物のような鉤爪なんかしていない、それは鋭い鉤爪を地面に慌ただしく振りかざして威嚇するような仕草をした。全身をゴムのようなもので覆われており、ヌメヌメとした気持ちの悪い色をした肉塊のような物にゆがんだ手と足が生えたような姿をしていた。顔は無い、いや自然と顔の方を見ていないからである。焼け焦げているのか、皮膚は避けてその亀裂からはさらに生々しい肉の色が見え隠れしている、髪を焦がしたようなとても嫌な臭いがする。
私はゆっくりとそれから眼を離さないように、後退しながら逃げ出そうとしたが、後ろにすぐある物置倉庫に体を大きく倒してしまい、いきなり体勢を崩してしまった。
(あっ、足が動かない…)
その化け物は、地面に足を引きずらせながらこちらへと接近してくる。何か苦痛を抱いているのか、顔辺りの所に大きく口のような裂けたところがある、そこから妙に息苦しそうな鳴き声が聞こえ、口を開いて助けを求めるかのようにも、ただもがいているようにも見える。
(これは…もう)
 後ろにはもう逃げ場はない、このままあの化け物に殺されたくない。こうなってしまえばもう手段は一つに絞られる。私は視線は化け物の方に向け、背後に手をやり倉庫から適当に武器になる物を手探りで探す。
 「くっ、来るな…近寄るなら…」
私は鼻を手で押さえながら、右手に持ったネイルハンマーで化け物に対して攻撃のけん制をするも、化け物はそれを全く気にせずこちらに向かい接近してくる。
 その様子に私は、もう後先考えず勇気を振り絞り化け物に向かってネイルハンマーを振り回す。化け物の助けを求めるかのような悲鳴を上げて、肉塊のような体から無数の飛沫を浴びせられる。だがそんな事を気にしている余裕は私には無い、くそっまだしぶとく地面に這いつくばりもがき苦しみ呻いている。あぁ、その姿は目を覆いたくなる。
 「えっ、うっ!!死ね、死ね!!」
化け物は死んでいるのか分からない、ただいきなり動きだして私に襲いかかってこないように、私は必死で化け物の脳天めがけてハンマーを振り下ろすのみ。肉塊から何か変に滑ったような肉の破片が飛び散ってくる、それが私の眼に一瞬映った時胃の中から何かが口の外へと溢れそうな感覚に見舞われる。
「うぷっ…おえっげほげほごほぉ…」
化け物はピクリとも動かない。それもそのはず私が化け物脳天を、ザクロをたたき割るかのような勢いでひたすら振り下ろし続けた結果だ。肉塊の中の血と肉が地面に溢れだして、濃いケチャップが何かの拍子で溢れだしたような光景。ん…今何かグチュッととても柔らかい肉のような物をふんづけたような感覚に襲われる。いや、足の裏なんて恐ろしくてとても見たくない。
「あっ、うおぉえっ…」
また胃の中の物が沸々と沸き上がり、胃は中を冷まそうとして熱くなっている物をすべて外に必死に出そうとしている。私は再び何とも言えない嘔吐感に見舞われ、胃の底で暴れている胃液を地面に思いっきり吐き出した。
「はっ…はっ…」
手がやっと私の見開かれた目を覆うようになった、だがその手はとても気持ちの悪いくらい生温かな物がべったりとこびり付いていた。
「そっ…そうだ…早く、早くこの場から」
私は倉庫の中からラジオと一緒に置かれていた懐中電灯を持っていく。いつの間にか不快なノイズ音を立てていた、ラジオはまるで意思を持っているかのように沈黙していた。ためしに各所のボタンをでたらめに触っても反応しない。何とも不可思議なラジオ、何だか気味が悪くなり捨てようと思ったがやめた方がいい気がした。ただ何となく。
私はさっきの化け物の死骸に背を向けるようにして視界に入らないように移動する。また一目見てしまえば、再びさっきの胃の中が暴れる現象を起こしてしまうからだ。だからそっと…静かに速足で移動する。

「はぁ…はぁ…」
私は民家の裏庭から入口にまで戻った。化け物の血で真っ赤に染まった手は、裏庭の近くにあった水道水で洗い流した。まだ、独特の嫌な血の臭いはまだぬぐい切れていないが、そのうち臭いは消えるだろう。しかし、服にはあの化け物の血痕の痕が幾つかの個所に付いている。
私の両手にはさっきの惨劇に使用した成り行きで護身用になったネイルハンマーと、か細い光を放つ懐中電灯が握りしめられている。ズボンのポケットには一応ラジオを突っ込んでおいた。
(ザッ…ザッザッ…ザァー…)
いきなり民家の入口に出た途端、ラジオが悲鳴のような不快なノイズ音を出し始めた。私はまたかと思いつつも、もう無駄だと思いそのまま無視し、まず最初の思い出の地を巡り、私と綾香が住んでいたアパートを目指すことにする。
「うっ…嘘だろ!?何でこいつらがぁ…」
またありえない光景に私は再び言葉を失う。私の目の前の道路の上にさっきのあの同じような姿をした化け物が、足を引きずるようにさまよい歩く姿が目に留まる。それは一匹だけでない他にも少し遠く離れた所にもまた一匹…この町はもう尋常ではない、ゴーストタウン化して不気味な静けさに包まれた静丘町には、代わりに人ではない恐ろしい無秩序の化け物たちの巣くう化け物の巣窟になっていた。
 「あっ…あっ…」
 私は頭を抱えたくなる。こんな悪夢はもうたくさんだ、こんな恐ろしい地獄絵図のような地に綾香は私をどこかの地で待っているのだろうか…。心の中が更に深くどす黒く彩られていく、あぁ誰か私を悪い夢から目覚めさせてほしい。
 しかしそんな事を思ってもこいつ等は消えも隠れもしない、ただ苦しそうに助けを求めるかのように、ただひたすら彷徨い続けている印象を受ける。よく見るとそいつ等は私の存在に気付いていない、離れているのだから仕方のないこと、しかしこちらを真正面に向いていたのに全く反応しなかったのは、どうやらこいつ等は視界が相当効かないようだった。これはすぐに見つかっても軽く煙に巻けそうだ。
 つまり先へと進まなければいけない、元来た道を戻ってもどうせ道は断絶されて無くなってしまっているのだから、もう後戻りしようにも後戻りなんてできない。
 「アパートへ向かうしかないのか」
私はまた凍りつくような寒さで動かなくなっている足に鞭を入れ直す。目的地は私と綾香が住んでいたアパート、場所はここからずっと西へ沿って進んでいけばすぐにたどり着く。
早く綾香に会いたい、会ってしまえばこんな悪夢のような世界のことはすぐに忘れられる。彼女は4年前に死んだはずだ、しかしそれが偽りだったとしたらどんなに心が晴れるだろうか…。
 そう思えば足はばねの様に軽くなるのを感じる。もう交差点を二つ以上走り過ぎたころ、新築のような近代的な家々が埃のような雪に覆われ、ずらりと静かに並んでいる。その家々の姿は寂しさだけではなく、違った意味で綺麗とも捉えることができそうな雪の装飾。近くをさ迷い歩くような動作をし、もがき苦しむような動きを見せるあの化け物たちは、とても激しく風情ある景観を損ねている。
 (ザッ―…ザァーザァー)
 ズボンのポケットの小型ラジオは、私の視界にあの化け物たちが入るごとにあの不快なノイズ音を立て、視界から消えるとピタリと突然息を止めるように、ノイズ音を消したり出したりの繰り返しをしている。まるで警報装置か何かみたいに見える、なかなか洒落た警報装置だこと。
 「試してみるか…」
 私は近くで地面に足を引きずらせながらさまよう一体の化け物に目を付ける。ただ独り孤独に佇む電柱のすぐ傍に、ゴミの山が収まりきらず、僅かな金網の隙間からはみ出ているゴミ捨て場のボックスがある。そのすぐ近くを全身ゴムで覆われているかのような、肉塊そのものに手足をはやした出で立ちをした化け物がさ迷い歩いている。
 化け物は私の気配に気づいたのかすぐに背後を振り返ると、体を叫んでいるかのように震わせながら、私に近づいてくる。するとラジオは心臓の脈を打つかのように、ザァーザァーとノイズ音を荒げ始める。
 私は再び武器であるネイルハンマーをすかさず構え、少し間合いを取るように慎重に背後に下がる。人ではならざる異系の存在、たとえ人ではなくても殺すことにはやはりためらいがある、私は決して戦うことを生業としている職業の人間でも、虐げることに快感を得るような物狂いではない。私は惨めで役立たずの自分の妻に何もしてやれなかった、ただの弱い人間だ。
 化け物は体をブルブルと苦しそうに震わせ、体を裂けさせて裂け目から毒々しい液体を私めがけて噴きかけてくる。私はそれに驚き、情けない声を出しながらもそれに素早く反応し後ろにのけぞる、体には付着しなかったものの雪が少し積もった道路の地面にそれはかかり、すぐにいきなりしゅうしゅうと白い煙を出している、まるで熱い鉄板の上にバターが溶けているかのようだ。鼻が折れそうなほどの臭い刺激臭が私の鼻をさしてくる。
 「冗談じゃない…こんな奴相手にしていられるか」
 私は棒立ちになった足を再び前へ出して化け物を避けて突き進む、こんな奴と戦うなんて命があっても幾つも足りない。徹底的に無視を決め込むことにする。
 
 「やっと着いた…アパートに」
 その後再び交差点を二つ通り過ぎると、簡素なベンチが置かれたバス停のすぐ傍に私と綾香がかつて住んでいた思い出のアパートが顔を出していた。やっぱり4年前と同じように外観はあまり変わってないようだ。
 アパートに付いた時、辺りは真っ暗になり私がつけている懐中電灯の光以外は光を出す光源は周囲には存在しない。私はアパートの敷地に入り入り口の段差に少しの間腰かける。
 私は呼吸を少し整えながら、頭の中でかつて一緒に住んでいた妻の綾香のことを思い出す。彼女はサキュバスでありながらおとなしかったと言っていたが、元々体があまり丈夫でなく学生時代も学校を休みがちで、家で独りぼっちで過ごすことが多かったらしい。そのため友達ができずに学校へ行っても、なかなか人の輪の中に入れず自分の席でいつも縮こまっていたと彼女から生い立ち話をして聞いたことがある。裸の付き合いの時、彼女が見せた肌色はとても百合のように純潔の白で、とても儚げな印象を受けた。彼女は普通の女の子よりも弱冠痩せ細っていたように見える。(それでも出るところはしっかりと出て、女性らしい曲線を艶っぽくかいていて私の目はそれに釘付けだった)
 普通に触れてしまえばそれでもう壊れてしまうかのような感触。あの感触が今でもまだ手に残っている。
「寒い…早く中に入ろう」
私はアパートの扉に手をかけ中へと入る。
「ん…暗い…やはりここの町には誰もいないのか?」
 中で私を迎えたのは部屋全体を覆う暗闇だけ、私の声以外何もが無音の状態。光が差す窓も外は漆黒の帳で遮られて月が顔を出そうとも出せない状態だ。壁紙は綺麗に剥がれ辺りには瓦礫と埃しかない、中も外と同様に冷蔵庫の中にいるような感覚に襲われる。後は奥に上の階へと続く階段だけ、ちなみにこのアパートは3階建てのとても小さな建物だ。
 隆は中を慎重に進み、階段の前にたどり着きその上を登っていく。コツ、コツ、と階段を踏みしめる音を立てて2階へと進んでいく。やはり周囲がとても気になる、外は化け物の巣窟だった、そして建物の中になればきっと狭い通路の中に、あの化け物たちが苦しみながら必死にうごめき合っている様子が頭にちらついてくる。その光景はとても見ていて気持ちの良いものではない。
 私と綾香が住んでいた部屋は3階のフロアだ。今2階のフロアにたどり着き、3階を目指してまた階段を上ろうとしたが、だがその先は鍵付きの鉄格子によって先の階段の道は固く閉ざされていた。
 「どうしたものか…」
 私は眉をハの字にして思案する。4年前に住んでいた時にこんな鉄格子なんて無かった。私はなんとなく周囲を見てみる、フロアの廊下に窓は無く、太くて丈夫な鉄格子が窓の部分を封印していた。これを見ると何だか、広く大きく造られた刑務所の牢獄の中にいるような感覚に襲われる、一体何がこのフロアに閉じ込められているのだろうか…いや閉じ込められているのは私?
 (ザッ…ザァーザァー)
「うぁ、…まただ、またこいつ等がぁ!」
突然またあの小型ラジオが激しいノイズ音が鳴り響く、そしてその瞬間一気にこの空間に底の見えない深い闇が侵食する。壁や天井は悲鳴を上げるように震え、天井と壁は剥がれおち臓器の内面のような色をした枠組みが現れ始める。その中で空間に裏庭で会ったあの化け物の臭いと同じような、鼻を刺すような腐臭が噴き出す。
 私は走りだした。闇の浸食により変形する空間の中を走りながら、懐中電灯の光が右往左往し、光に壁であったところは皮膚が剥がれ落ちたかのようにめくれて、毒々しく腐りきった肉の断面に変わっているのが入ってくる。
 ここは遊園地によくあるようなお化け屋敷?違う、こんなに生々しくて永遠と続きそうな悪夢の世界があんな安っぽい所に広がっているわけが無い。
 私は叫び声を必死に喉の奥に留めさせ、必死にその空間から逃げようとする。懐中電灯で前方を確認し、上がってきた階段を見つけると一目散にそこに転がるようにして階段を降りようとした、が。
 「うわああぁぁぁ…何だこれは!?」
 私の目に映ったのは、階段の空間を埋め尽くすかのようなあの化け物達が集まり、空間を侵食しようと必死に我先にとその中からはい出そうと必死に足掻いていた。それはギリシャ神話に出てくるパンドラの箱を開けて様々な災厄が飛び出してしまったかのよう。
 「冗談じゃない、こんなのやっていられるか!?」
 私は立ち止まってしまった足に再び力を入れるとどこも分からず走り始める。
 この空間は私の知っているアパートの廊下ではない、いきなり廊下が迷路のように入り組み始めてなおかつ、あの気持ちの悪い化け物達がうじゃうじゃと這い出るような空間なんて存在しない。
 背後から迫ってくるかのように化け物達の苦痛じみた叫び声が私の耳を食いちぎるかのように聞こえてくる。
 早く…早く悪い夢は覚めてくれぇ!!
 悪い夢の出口を求め私はひたすら走り走る。奥に非常用の階段マークの歪に変形した扉がある、名いっぱい力を込めてドアノブに手をつける。くそ…開かない…開かないどうしてだ?
 私は背後を振り返る。
 おびただしい数の化け物の荒波が押し寄せてくる、がその中心に一体だけ明らかに雰囲気の違う者がいた。それは暴れまわる化け物達を束ねる王のようで、群れをなして私の元へとゆっくりと近づいていく。その姿はある種の威厳さえ垣間見える。
 背格好は私と同じくらい、鍛え抜かれた非常に逞しい肉体で、肩の上には人の頭ではなく巨大なピラミッドを模したものが体の一部の様になっている。金属製のピラミッドで、表面は数多の血で装飾を施され血生臭い臭いが鼻に付く。そして同じ血の色の長い長剣を手にしている。
 「あっ…あ…」
 私はただただ怯え震える。あの化け物達と確実に格が違う、人間が潜在的に眠っているという第六感がそう告げている。あんなものとまともに戦うなんて絶対に無理だ。
 私はドアノブをガチャガチャとする。背後からピラミッドのあいつの足音が聞こえてくる。頼むから開いてくれ、開いてくれ!!
 そうするとさっきまで頑なに閉ざしていた扉が嘘のようにあっけなく開く。私はその中に飛び込むようにして入っていく。
 「!?足場が無い?」
 私は急にふわりと宙に浮いているような感覚に襲われる。床が無い。
 どうなっている?
 「うわあああああぁぁぁ…」
 それ以上の思考は停止し何も考えることはできない。
 私は扉の向こうの何も見えない奈落の底に誘われていった。
10/12/10 21:25更新 / 墓守の末裔
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■作者メッセージ
△頭登場です。
次回は住んでいたアパートの部屋の中に入ります。

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