連載小説
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妖怪大戦争開幕、すんのかな? しないんじゃないかなぁ? どうなの、ぬらりさーん
朧な記憶の中ーー
俺は揺りかごに揺られていた。
それは霞みがかって、手を伸ばしたって届かないような距離。
誰かの顔が、影に滲んでいる。

ーーこの子が我らの主となる方か。
ーー左様。すでに消えようとしている我ら妖怪。その復興の礎となる方じゃ。
ーーおお、良い顔をしておる。これならば、これならばきっと。
ーー我らを忘れた人間どもに、我らの恐怖を思い起こさせよう。
ーー左様じゃ。
ーー左様じゃ。
ーー主を人間から選んで正解じゃ。彼奴ら目の驚き畏れる姿が目に浮かぶ。
ーーそれでも人間どもが我らを省みなければ?
ーー決まっておろう。戦争じゃ。
ーーおお、おお。そうじゃ。見せて効かぬならば、それしかあるまい。
ーー太平の上に胡座をかく、人間どもに思い知らさねばなるまい。
ーーこの世には我ら妖怪もおると言うことを。
ーーでは、こやつの心の一部を貰おうとするかのぅ。
ーー心に出来る闇にこそ我らは巣喰い生まれる。
ーーそれならば、主たるものには飛び切りの闇がなくては。

く、くくく。くかかかかかか。

一斉に、この世のものとは思えない笑い声が上がる。
一斉に、行燈(あんどん)に照らされた影が踊る。
浮かび上がった影は、世にも恐ろしい異形どもの影。

「そーはいかないんじゃないのかなー。ねー、ぬらりさーん」
「何だィ、その話し方は」
「いいえ、流行ってるって聞いたんだけど、違ったかしら?」
「少なくともあたしは知らないネェ」
「そう……じゃあ、多分これから流行るのかしら?」

ーーな、なんじゃお主らは!?
現れたのは、ぬらりひょんに白髪赤目の美女。
異形の者どもは狼狽える。

「何だと問われれば答えてみせよう。私たちは隣の世界からやってきた魔物ッ、娘ッ!」
「フゥー…………ッ、あんたはいい年して何をやりたいんだイ?」
「年の事は言うなッ! 久しぶりの出番で、キャラを忘れてるのよ」
「ふぅーん。リリムってェのは時々よく分からない事を言うねェ。しッかし、だからこそ、こんな面白いところにあたしを招待出来るってェもんなんだろうよ。くっくっく」
「好きにしてくれて構わないわ。思う存分にやってしまって頂戴。私がやった後は、総大将。あなたに丸投げするわ」
「ぶっちゃけたネェ。あっはっは」
「そこで笑ってくれるあなたが好きよ。さぁ、みぃんな、魔物娘になっちゃえーッ!」

ーー何を分けの分からん事を……。
ーーなッ、何じゃこれは、儂ら、女子になっとるーーーッ!
るーッ、るーッ、るーッーーーーーーー
異形の者どもは、異形でありながらも、紛れもない美女の姿に変じていた。

俺は奇妙に甲高くなった彼らの残響を耳に残しながら、意識を覚醒させていく。
それは深海からゆっくりと浮上していく感覚。バラバラになっていた体が繋ぎ合わさり、泥の塊でしかなかった己自身に血が通い、それが肉として再生されていく。
俺は、徐々に浮上して、

「戦争ですッ! ゆうくんをあのぬらり女に渡さないためには、もはや戦争しかありませんッ!」

会長の声で、底網漁で一気に引き上げられ感覚に変わった。
俺はその網を引きちぎって再び記憶の底に沈んで化石になってしまいたかったが、それは許してもらえなかった。

目を覚ませば、そこは広い和室。
ムッツリとした顔でも隠しようのない美女の、異形の存在たちが所狭しとひしめいている。
俺は再びーー自分の頭を殴ってでも気絶したかったがーーそれは、あの、ベッドから這い出てきた女に止められた。俺が目を白黒とさせていると、彼女はニィ、と笑って、その潤った唇に人差し指を当てて、それはもうこの上なく艶かしく、シィーッとやった。

「あら、起きましたか?」
「えっと……。ここは……。あなた、会長ーーですよね?」
俺は声をかけてきた女性、部長そっくりの容姿であるが、その髪は白く、真っ白な和服を着て、真っ白な蛇の下半身を持った彼女に、そう問いかけた。その姿を俺は、怖がるどころか、どこか懐かしいもののようにも感じていた。
「ああ、聞きましたか皆さん?」彼女は嬉しそうに、「この姿であっても彼は私と分かり、なおかつ怖がらないでいてくださいます。これは愛に違いありません。蛇の良さを伝え続けた私の教育の賜物です!」
「教育と言っている時点で愛以外のものが混じってにゃーかー?」
「シャラップ! です」
会長?は副会長に似ている猫耳と二股の猫の尾が生えた女性に叫ぶ。
猫の女性は何枚も積んだ座布団の上に器用にバランスをとりつつ、仰向けになっている。

「えっと、これはどう言った状況なのでしょうか?」
あたりを見回せば、簀巻きにされた殺女(あやめ)の姿が目に入る。
それも、気絶する前に見た、下半身が蜘蛛で緑色の肌、頭に角をつけた異形の姿だ。
その状態でも彼女の胸の形ははっきりと分かる。
どんだけだよ……。と、
「それは私から説明ましょう」
そう言ったのは、「母、さん……ッ!?」

ざわ……

「くっ、そのポジションになりたかったわー」
「じゃんけんで負けるとかないわー」
「だが、今からでもそう呼ばれる事は可能ッ!」
「なん……だ、と……!?」

ざわ……ざわ……

奇妙な空気に包まれて、俺はどうしてだかいたたまれない気持ちになった。
「ゴホンッ……」
母さんの咳払いで、場が静かになる。そうして彼女が語り始めたところによると……。

彼らは妖怪と呼ばれる存在、ーーだった。
ある時彼らは自分たちの事を忘れ去ろうとしている人間たちに、自分たちの事を思い出させようと、大規模な行動に移ろうとした。それは選び抜いた人間の赤子を攫い、彼を妖怪たちの主として育て上げ、自分たちの力を増すところから始められたらしい。
妖怪たちは人間たちに畏れられることによって力を増す。
それならば、元から妖怪を畏れきった人間を育てあげればいいのではないか。そして選ばれた俺はその心一部を抜き取られ、ずっと昔から隙間があるのだという。

「そこにあたしがいるのサァ」と、隣の女から声がする。
どうも彼女の姿は、他の妖怪たちには見えていないようだ。

それが俺という存在。だが、その決起集会の宴に現れたのが、今俺の隣にいる女と、恐ろしいまでに美しい白髪赤目の女。彼女の手によって、異形の物の怪でしかなかった彼らは見目麗しい女性の姿にされ、その場にいなかった妖怪たちにも同様の変化があった。
そして、その姿になってからは不思議と人間全体への自己顕示欲がなりを潜め、代わりに人間の男性に対する性欲が湧き上がってきたそうだ。
なんだそれ、と思うが、事実だから仕方がない。

「魔物娘ってェんだよ」
と、隣の美女が教えてくれた。
彼女はぬらりひょんという魔物娘らしい。
何でも、妖怪たちには本能的に総大将としての畏怖が刻まれているそうだ。今、この世界には元から住んでいる魔物娘と、新しく移住してきた魔物娘がいるのだという。
そうして俺は、じゃんけんで母の座を勝ち取ったという毛娼妓という妖怪に預けられた。
攫われたとは言っても、元々は捨て子だったらしく、両親から無理やり引き剥がしたわけではない、と涙ながらに弁明された。
「大丈夫、母さんが母さんでよかったよ」
と言えば、彼女は右拳を高らかに掲げて立ち尽くしていた。
「我が生涯に一片の悔いなし」と言っているかのようで、まるで彼女の魂が真っ白に空に登っていくかのようでもあった。周りの魔物娘たちはハンカチを噛んで悔しがる。

俺は彼女に育てられ、妖怪たちに見守られ、事実を告げるその日まで俺の争奪戦は一時休戦として今までやってきたそうだ。
だが、そこに突然今まで姿をくらましていたぬらりひょんが現れ、そして、ぺろりが宣戦布告、殺女が暴走しーー今に至るらしい。

………………マジで!?

「あの女が姿を現した以上、私たちはあの女にゆうくんを奪われないように、一致団結徹底抗戦をいたします。私たちの誰かが選ばれるのならば、一無量大数歩譲って私たち全員でゆうくんを共有しようともあの女にだけは渡せません」
と、白蛇という魔物娘だという会長が血涙を流しながら熱弁をふるう。しかし、彼女をよそに、ぬらりひょんの美女は俺にしなだれかかりながらキセルを燻らせている。
申し訳ないが……、すでに決着は目に見えているどころか、ついている。

「さあ、我ら妖怪、総大将何するものぞ。ナニするものは私!」
ブーブーとブーイングが上がる。
「…………少なくとも彼女ではありません!」
後で聞いた話によると、白蛇である彼女がそこまで譲歩することは奇跡に等しいらしい。
そうして彼女は何処かの誰かのように演説を始める。
その、打ち倒すべき怨敵の目前で。
ぬらりひょんは一つ、大きなあくびを開いた。

諸君ーー私はゆうくんが好きだ。

とか何とか、何処かで聞いたことのあるような演説をよそに、ぬらりひょんの彼女が俺に言う。
「こいつらのこと、嫌いにならないでやってくれないかねエ?」
「嫌いに? 何故、俺が彼女たちを嫌いになるんだ?」
「くっく。その様子なら良いんだが、ホラ、コイツら、こんななりになる前、あんたの心を一欠片ずつ持っていっちまったんだよ。コイツラの全員が全員じゃあないけどサ。今はあたしがそこに住んで、埋め合わせてるから良いんだけど、そうしなくちゃあんたは妖怪を畏れ、妖怪よりも恐ろしいモノになっちまってたかも知れなかった」

「そう……。なのか……」
俺はずっと、その隙間を感じてきた。
だが、それは、足りないと感じていただけで、別に何かを恐ろしいとか、恨めしい、なんては思ってはこなかった。
「でも、あんたのおかげなんだろ?」
俺がそう問うと、彼女は目を開きーーククッ、と喉の奥で心底楽しそうに笑った。
「そうとも」
「ありがとう」
俺たちは見つめ合う。
何かケンケンガクガクと議論を進める声が聞こえるが、俺たちの間には届かない。

「でも、良かったのか? 彼女たちはその畏れ? を集めて自分たちを消えないようにしようとしていたんだろ。今いるこの子達以外にも妖怪がいるとするならば……」
「おや、心配してるんだ。優しいねエ」
「いや、そんなわけじゃ……」
「大丈夫さ。言っただろ? みぃんな魔物娘になっちまったって。魔物娘になったからには、誰にも畏れられるようにならなくったって、構わない。旦那一人から畏れられていれば、サ」
そして俺を覗き込んできた彼女の目には妖しい光が宿っている。

「待て。何をする気だ……」
「何を分かりきったことを聞くんだイ? ナニに決まっているじゃあないかい。あんたはもう自分の隙間の理由を知った。そこにあたしがいると言うことを知った。それなのに、まだ隙間は埋まっていないんだろう? その隙間の埋め方、もう知っているんだろう?」
彼女の顔が近づいてくる。
大きな瞳、スッと通った鼻筋。形の良い顎。艶のある肌は触れればピタリと合わさるように心地が良いのだろう。アダっぽい、女と言う名の生き物。
彼女という花の、甘い香りがする。
彼女の唇が俺の唇に重ねられる。

カチリ、と。
何かがハマった感触がした。

初めて彼女と口づけを交わした時には感じなかったこの気持ち。
夢の中で、俺は、俺にまだ隙間がない時の心持ちを感じた。
そうか、これが、これがハマるという感覚。初めての時には、気がつかなかっただけなのか。

シュルリ、という衣擦れの音。
彼女は俺の前で立ち上がり、帯を解く。
しゅるり、しゅるり、と。
帯を一巻き外すごとに、抑えようのない色気が溢れ出してくる。
すでに胸がこぼれ落ちそうにーーその和服の胸元を開いていたくせに、それは本当に表面的なものでしかなかったのだと思い知る。

ハラリ、と脱ぎ落とされた彼女の衣。
剥き出しの女体。まだ、真っ白いフンドシが残っている。
しかし、それも股から溢れた汁に濡れ、衣の体をなしていない。
俺は喉を鳴らした。

女は挑発的に嗤う。俺は周りを見回す。他の妖怪たちは今だ議論の真っ最中。こちらに気づいていない。まるでガラスを隔てた別世界のよう。
俺たちは、彼女たちのいる前で睦み合おうとしている。その頽廃的な有様に、俺は男根の疼きを覚えた。

ぬらりひょんはフンドシに手をかける。
「待った」
「なんだイ? 怖気付いたのかい? ここでお預けはさすがのあたしにも出来ないねエ」
彼女は不服そう。
「違う。俺に脱がさせてくれないか?」
一転、彼女は嬉しそうに頬を釣り上げ、何処からともなく取り出したキセルを咥える。
「好きにしなヨ。旦那のお手並み拝見といこう」
俺は彼女のフンドシに顔を近づける。

仁王立ちの美女のフンドシに、頬を上気させながら男が顔を埋める。
そんな古いポルノでしか見ないようなーーそんな代物は見たことがないので、想像に過ぎないのだがーーそんな行為を俺が行なっているとは自分自身ながらも信じられない。
初めて嗅ぐ女の股座(またぐら)からは、これが牝の匂いなのか、と酸えた菊の花の香りがする。俺は深く息を吸い込んで、鼻腔いっぱいをそれで満たす。
むせ返りそうなほどに濃厚なーー牝の匂い。
鼻を押し付け、吸い込むたびに、彼女と言うものが、俺の肺腑に、俺に空いていた隙間に、
ずずぅっーー、と染み込んでくる。

彼女の香りに溺れてしまう。
俺は喘ぐように、さらに鼻を押し付け、彼女の湿った布に吸い付く。
すると、「んっ」という女の押し殺した吐息が降り、彼女の湿り気が増していく。
ぐりぐりと鼻を押し付ければ、そこにはぷっくりとした彼女の肉の芽に触れた。

勃っている。
彼女も俺にされてその情欲を昂ぶらせているのだとわかって、俺は彼女のフンドシに指をかけ、肉の芽を空気に晒す。解放された牝の匂いが湯気となって俺の顔に降りかかり、空気に触れた肉の芽が可愛らしく震えた。
俺ははやる気持ちを抑えつつ、そのピンクに震える突起を触ってみる。
「ンあッ!」
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫サ。旦那があんまりにも焦らすんで、むしろ嬲られてるような心持ちを持ちになってくるねエ。旦那、ねちっこいネ。これは褒めてるんだよォ? あたしと相性が、」
ーー良さそうだ。頭上から降ってくるはずの声は、俺の耳元から聞こえる気がする。
彼女の吐息がかかる。

俺は彼女の秘裂を押し開いてみる。くぱぁ、と音がするほどに、肉の華が咲く。
ピンクにツブツブとして。
初めて間近に見る女のナカは、肉々しく、グロテスクで、とてもーー美味しそうに見えた。
「旦那は狡いネ。こんなに焦らして」
彼女の肉は湿り気を帯びて、泣いているようだ。
「なあ、自分で開いて見せてくれないか?」
それに、少し驚いた気配がした。

そうして嬉しそうな、
「ンふふ。旦那、アンタァ、初めてナンだよねェ? それは天性のモノかねェ。女を辱める術(すべ)ってモンを疵(し)っている」
「恥ずかしいのか?」
「くっくっく。舐ないで欲しいねェ。あたしを誰だと思ってンだイ? 啼く娘(こ)も黙る総大将、ぬらりひょんのオドロ姐さんサ。男の欲望に怖気付くワケがないじゃナイか」
そう言って彼女は少しだけ腰を落とし、俺に向かって秘裂を突き出すような格好をとる。
「ホゥラ。奥まで見てごらん? コレがあたしのオメコだよォ」

彼女は俺に向かって股を突き出し、フンドシをずらして両手の指で、彼女の肉の華をマン開に咲かせる。トロリと蜜が滴(た)れる。
彼女の中身(ナカミ)が奥まで覗けた。
その奥に、何か、膜のような。
「処女……?」
「んフ。当たり前サ。旦那のために取っておいたんだ。触って見るカイ? ーーんッ」
俺は彼女の言葉が終わらないうちに、指を彼女の中に入れていた。肉のツブツブが指に吸い付いてくる。
「破らないように、注意しておくれヨ? 何せ、破られるのは魔羅(マラ)がイイ」
彼女の艶っぽい声音は俺の背筋を撫で、体の芯がゾクゾクするのを感じる。俺は唾を飲み込み、彼女の処女膜を、慎重に「んぅ……ハァ」触る。
「あ……ア。あたしの生娘の証……。旦那に、嬲られて、ルゥっ……」
このまま指を突き立ててしまいたい誘惑をこらえて、俺は彼女の膣から指を引き抜く。
彼女の肉は名残惜しそうに俺の指に吸い付くと、銀の橋を残した。俺はそれを舐め取ってから彼女が押し開いたままの女陰に口付ける。
甘酸っぱい女の体液を、じゅるじゅると音を立てて吸う。
甘美な蜜は次から次からと湧き出てきてキリがない。舌を突き入れてほじれば、女は悦びに身をよじらせて俺の頭を太ももで挟み込む。

ジュルジュル、ちゅるちゅる。
女の戦慄(わなな)きを感じながら、俺は夢中で啜る。

俺が口を放して見上げれば、情欲に濁った女の目。彼女の豊かな乳房に彫られた華の墨が、だらしない彼女の唾液で濡れている。
俺は女の手を引いて、畳の上に仰向けに寝転ばせる。
彼女は半眼で、俺の股間から目を逸らさない。
その目は期待と劣情でドロドロに濁っている。

ハッハッ、という犬のような息。
俺は一思いにスラックスをトランクスごと、ずり下ろした。
途端、一斉に視線を感じた。
ああ、そうだった。

ここは妖怪たちが会議をしている和室。
俺は彼女たちが、打ち倒そうと議論を交わしているーーその当人を犯そうとしている。
彼女たちは俺がこのぬらりひょんに盗られないように考えているというのに、俺たちは彼女たちに見せつけるように交わろうとしている。
しかし、やはり俺たちの痴態は彼女たちには見えてはいないようだった。
「んふふ。大丈夫さ。視えはしない。見えていてもーー視えない。アイツラは愛しいあんたがあたしを抱くのを、見ていることに気づきもせずに見ているのサ」
彼女たちはしきりに鼻を動かして怪訝そうな顔をしている。
「あたしら魔物娘は精の匂いには、特に旦那の匂いには敏感だからねエ。本能的に反応しているのサ」
だけど視えない。と、彼女は繰り返す。
だから魅せつけてやろうヨ。と、俺を誘う。

「ほら、あそこに旦那の育ての親だっている」
「母……さん」
「男になった息子を見せてやりなよ」
闇色の女はさらに俺に囁く。 「あそこにはあんたを慕っているサークルの女友達、会長、副会長……」
彼女は俺の日常で見知った顔を次々に指差していく。
ネェ、見せつけてやろう。
悪徳の誘いは、俺の背筋をゾクゾクと震わせた。
この一歩を踏み出して仕舞えば、俺はもう戻れない。総大将だという彼女と番(つがい)になって、
「あいつらを統べる百鬼の主人になるのサ」
俺の心の声と女の囁きが重なる。

女は俺の前で、股を開き女陰を目一杯に広げ、俺の魔羅が突き入れられるのを待っている。
「ナァ、早く……。旦那が欲しいヨォ。旦那ァ……」
艶かしく女が身をくねらせる。それは獲物を搦め捕ろうとする蛇のようだ。
女の唇は俺の名を呼び、切なげで甘やかな吐息が溢れる。
俺は、もう我慢が出来ない。
そもそもガマンをする必要がない。
女が男を求めている。ここには魔羅(マラ)と女陰(ホト)がある。
それなら後は突き入れるだけだ。

俺の日常の女たちが見ているけれども視ていない前で、俺は彼女の体の挿(イ)り口に、俺の鈴口を充(ア)てがう。
女の汁が、ゴボゴボと溢れる唾液のように俺の肉棒に絡みついてくる。
しかし、
「あ、あれ……?」
はち切れんばかりに怒張した俺のペニスは滑って彼女のナカに入らない。
心なし焦り始める俺の耳元に、
「落ち着きナ。ここーー、あたしは逃げたりしない」
優しく甘やかすような声が、
「ん、んふ。もうちょっと下サ……」
俺の頭を蕩かしてくるーー。

ぁあッ。
挿入(はい)った……。

女は形の良い喉を無防備に晒して、ビクビクと体を震わせている。
「ぁ……あぁ……」
俺の感触を確かめるように、女の膣が蠢く。
だが、まだ根元までは入りきっていない。
俺はこの欲望が一気に噴出するのをなんとか堪えつつ、肉棒の切っ先にーー先ほど触った彼女の生娘の証を感じる。
このまま刺し貫けば、彼女は俺だけのものになる。
独占欲。征服欲。男の昏(くら)い欲望が、俺の中でブクブクと煮えたぎる。
呼吸は浅く、ケダモノの鼓動がする。

俺は剥がれ落ちそうになる理性を必死で堪える。
他の女たちの視線を感じる。
すると、ぬらりひょんの彼女は恐る恐る俺を見て、その顔は情欲に爛(ただ)れてはいたが、畏れを含んだ生娘の顔で、
「あたしを貰っておくれ❤」
と微笑んだ。

プツッーー。
何かが俺のナカと外で切れた。
俺に組み敷かれた女の啼く声がする。
俺はバラバラになってしまった。
自分が彼女に白濁を注ぎ込んだことに気づきもしないで、腰を振り続ける。隙間なんてものがもはや何か分からなくらいに、俺は粉々になって”彼女”と混じり合っている。
ーー溶け合っている。

男と女の睦み合う音がする。
湿って。濡れて。淫らで。破廉恥で。彼女の乳房が俺の胸の下で潰れている。彼女の舌が俺と絡み合っている。俺のモノを奥の奥で受け止めようと、彼女の脚がシッカと俺の腰を離さない。肉棒に彼女の肉が吸い付く。ピッタリと食いついて、離れない。鈴口を彼女の子宮口に押し付けて、彼女を満たせと子種汁を注ぎ込む。
「オドロ! オドロッ……!」
「ァ、……ハっ。ゆう……ッ、んグ、ゆうッ!」
俺たちは互いの名前を呼び合い、さらに求め合う。
バチュバチュと、凶悪に貪りあう音が響く。
肉と肉がぶつかり合う、猛々しい音がする。
俺は何度出しても果てないイチモツで、何度も何度も彼女を責め立てる。

この快楽には果てがない。
この女には飽きがない。
俺は自身の脈打つ欲望を彼女のナカに打ち込み、彼女は貪欲にそれを飲んでいく。
後から聞いた話だが、長年彼女に住み着かれていた俺は、とっくの昔に人間ではなくなっていたらしい。だが、果てもなく彼女を貫き続ける男根に、この時の俺が疑問を持つ暇はなかった。

俺は彼女を抱き上げ、育ての親の毛娼妓の前に引き立てていく。もちろん繋がったまま。育ての母は俺たちの痴態に気づきもしない。
母の前で彼女の乳房を口に含む。乳首を転がす。絶頂に震える彼女の剥き出しの喉に歯を立てる。彼女のナカに吐き出す。倒錯的で背徳的な光景に、俺に鎮まりは訪れない。
俺たちが見えないまま会議を続ける妖怪たちに、俺たちはこの痴態を魅せつける。
パンパン、と。意見を求める白蛇の部長の横で、オドロを後ろから打つ。
そのまま彼女を抱え上げ、俺たちは舌を絡ませながら彼女たちの間を練り歩く。
簀巻きにされた殺女(あやめ)の前で俺は仰向けに寝転ぶと、俺に跨ったオドロが腰をくねらせる。扇情的な彼女の蠢きに、俺は彼女の腰を押さえつけてナカに注ぎ込む。

「ぁ……、は、ハァ。あ、あはははははは。旦那ァ、スゴイねぇ。スゴイ、スゴイよ。あんたこそが百鬼の主にはふさわしい。初めてでここまであたしを苛めきるなんて、ああ、これから鍛えたらどんなことになっちまうんだろう。ン、ちゅぱ……」
そそり立つ俺のペニスに舌を這わせながら、オドロは恍惚(ウットリ)とそんなことを言う。
そろそろ、長く続いた妖怪たちの会議は終わるようだった。
オドロは満足そうに、
「これなら誰が主か、コイツラにも存分に分かっただろう」
と、言う。
「でも見えてないんだろう?」
調子に乗った俺は、幼なじみだったあの子の前では後ろの穴で愉しみもした。
他にも、人に言うのは”まだ”憚られるような事を散々した。

すると彼女は、
「いンやぁ? 視えてない。しかし視えてはなくとも見えてはいる。だから」
あたしは思い出させられるのさァ。と言った。
「は?」
驚く俺に、彼女はクツクツと笑う。
「ダメかい?」
その問いに俺は、
「良いに決まってるだろ」



「な、なんて事をしてくれやがりマシマシなんなん」
「チンチンマシマシザーメン濃い目でニャー。痛”二”ャッ!」
ワナワナと震える白蛇会長に、ネコマタ副会長が殴られていた。
他の面々は様々な反応をしている。
へたり込みうな垂れる者、情欲に頬を染める者、怒りに顔を火照らせる者、すでに服従の姿勢を取っている者、と様々である。

「ぬらりひょんゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじゆるすまじ。ーーコロシテヤル」
ここまで気持ちのこもった コロシテヤルを、俺は初めて聞いた。
そして二度と聞きたくないものである。と、オドロを貫き跨られながら俺は思った。
「戦争ダッ! 戦術も何も、実力も何も関係ない。もはやこの身が千切れ粉砕し、一握の灰に成ろうとも、その灰は汝の息の根に喰らいかかり我が怨念を遂げるだろうゥ!」
誰の言葉かは言わなくても分かると思う。
白くて長い御方の畏れ多いお言葉である。
その者御身を焼き尽くさんばかりの青白き炎に身を包み、我らに向けて血涙を流しつつ呪詛を吐かん。

「ああ、やっぱりあんたが一番厄介そうだねェ」
オドロは飄々と言いつつ、俺にしなだれかかり、俺の頬に舌を這わせる。
「コ、コロ殺ろろろろろろr……」
ガラガラ蛇の威嚇音に似た音が、ひっきりになしに会長の唇を震わせている。
恐ろしい。
恐ろしいが、どうしてだか、俺にはコレッポッチも畏ろしくはない。
これがぬらりひょんの夫になると言う事、百鬼をこの身に背負うと言う事なのだろうか。

「戦争はイけないねエ。戦争はーー、セックスが出来ないじゃないか」
ぬらりひょんは彼女を煽る。
「きょああああああああ!」
見るに耐えない表情で、会長が飛び上がる。
寝っ転がったままの俺は、彼女から逃げることもできずーー、オドロの闇に包まれて、彼女と一緒にその場から消え去ったのだった。

その場に残された会長は、
「キュウ」
と、ネズミのような可愛らしい声をあげて気絶したらしい……。
彼女は蛇だと言うのにネズミとは此れ如何に。
17/08/06 08:48更新 / ルピナス
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