連載小説
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白蛇の抜け殻
ーー母さま、私は好きになった男性を取られました。
あの方をまだ私のものにしたわけではありませんでしたが、私が好きになったと言うことは、あの方以外は好きになれないと思った私にとって、すでにあの方は私のものでした。
ああ、私はこれからずっと伴侶に巡り会えないのでしょうか。
ああ、私はもうあの方を私だけの手に取り戻すことは出来ないのでしょうか。
ああ、嗚呼。

ーー母さま。
私はあなたが父さまにしたように、あの方を監禁して自分のものにしようとは思いませんでした。私はちゃんとお付き合いをして、あの方を自分だけのものにしようと思いました。ですが、私は間違っていたのでしょうか。
私は、私は。
あの方が百鬼の主と定められた方だと知って、嘆きました。
だってそうでしょう。あの方がぬらりひょんと結ばれて仕舞えば、あの方は百鬼の主の道を歩む。そうなってしまったら、私だけのあの方には出来ない。
でも、あの方とあのサークル室で過ごした日々は、あの方が望むのであれば、ソレでも良いかと私の心を変えていきました。
でもーーダメでした。

ーー母さま。
私はあの方があのぬらりひょんと交わっているのを見て、どうしても我慢ができませんでした。
この、この気持ちは青白くて昏(くら)い炎となって、私を苛んできます。
ああ、私は今頃になって父さまの顔を思い出します。
私と十ほどしか歳の変わらない父さま。
彼は……とても幸せそうでした。
だから私は

あンの憎っッッくきぬらりひょんからあの方を奪い返してやりやがります。
そしてあの方を、奴の事を忘れてしまうくらいに。
ふふ。うふふふふふ。
覚悟しやがれ。



「作戦かーいぎ、だニャ」
「副会長、どうしたらぬらりひょんをギャフンと言わしめるかについてでしょうか」
「ギャフンって、古いニャー。そんニャことじゃないニャ。ウチらは別に百鬼のうちの一鬼になるのは構わんニャろ? 問題はウチの会長ニャ」
と言って、ネコマタ副会長の鈴川たまさんが一枚の手紙を放る。
それを見て、「ギャフン」と言って赤鬼餅つき要員こと、酒井のんべえさんが仰け反る。
それが前述の手紙だった。
「あの怨(オン)にゃ、その呪詛を書き付けたノートを残して姿を眩ましおったニャ。恋する蛇(邪)神の怒りは凄まじいニャ」
「すると、このままだと俺らまで、粛清対象にされるって事じゃねーか、やべーやべー。ぬらりひょんじゃなくて、作戦会議を立ててた会長本人が俺らの敵になっちまったと言うことか」
と、唐傘お化けの杵要員こと、唐草蛇の目が身を震わせる。
「蛇の目っち、名前に蛇の名が入ってるんだからどうにかなりませぬか?」
「そんなおっかねー事を俺に降るんじゃねー」
「傘だけにニャ」「傘だけに」
「狙ってねーよ」
と、姦しく話している彼女たちだが、俺のチンポはお前らのマイクじゃない。

あの妖怪大会議の後、もっと的確な表現で言うならば、ぬらりひょんと俺の見せつけプレイの後、端的に言って次の日である今日、会長はサークルに姿を見せなかった。
サークル室で何が起こるか身構えていた俺には拍子抜けだったが、代わりに現れた副会長が俺にそのノートを見せてきた。そして後からワラワラと現れた彼女たちを加えて、俺は彼女たちに咥え込まれているというわけだった。

チロチロと、たまさんが俺の鈴口を舐める。
猫のザラザラとした舌の感触がする。
のんべえさんが俺の球をチュルンと吸い込み、舌でつつく。
蛇の目ちゃんは俺の竿を舐め上げている。

名前についてのツッコミは、俺はもはやするまい。
妖怪である彼女たちには、人間にはわからない美意識なり、ルールなりがあるのだろう。
他にもツッコミたいところがいくつかありそうだがーーたまさんは球担当じゃないのかよ、とかーー俺は黙っておくことにしておく。
今はただ、三者三様の奉仕を堪能する。

「ふぇも、にゃ」
「だから舐めながら喋らないでください」
「にゃふふー、タメ口で良いにゃよ。もうあんたはウチたちのご主人さまにゃんだからにゃ」
そう言って小首を傾げる彼女の頭には猫の耳がついている。二股に分かれた尻尾が揺れる。
「お、親分……? フェラ加減はいかがですかな?」
「のんべえさん、湯加減みたいに聞かないでくだ……くれ。良いよ」
と言うと嬉しそうに吸い付いてくる彼女の肌は赤く、額には角がついている。
「しゃーねーな。俺も好きに使ってくれて構わねーぜ」
「それは言われなくとも」
「んだよ、馬鹿野郎。……ヨロシク」
と、ツリ目がちの目を逸らす、蛇の目は頭の傘から伸びる舌で俺のペニスを舐めている。
あれ、この子こんな可愛い感じだったっけ?
俺を見ては殴りかかるような狂犬だったはずだ。
昨日の今日で彼女たちとの距離感と関係性は崩壊し、絶賛爛れ中だった。
俺も徐々に自分自身のキャラ付けが崩壊していく予感を抱いているが、それは流れに任せようと思っている。

と、俺のペニスが膨らむ。
「お、来た来たにゃ」
「おおー、やっと飲めるんですな」
「チッ、ようやくかよ。……って、お、俺は待ってなんかいねーからな」
「さあ、誰にご馳走してくれるのかにゃー」
「じゃあ、蛇の目ちゃんで」
「ヨッシ! じゃなくて、……ングッ!」
俺は蛇の目ちゃんの傘を掴むと、彼女の口に直接ブツを突っ込み放出する。
彼女は涙目になって俺を睨みつけてくる。が、その瞳に宿った情欲は隠しきれていない。
それに、彼女は一滴も逃さないように俺のペニスに吸い付いている。
そうして最後の一滴まで吸い取ると、口を開けて俺に見せつけてくる。

「それを寄越すニャ」
「拙者にもー」
「ン、んぐッ」
と、口を閉じて抵抗する蛇の目ちゃんだが、先輩二人に勝てるわけなく、ほっぺを掴まれ、こじ開けられた口から二本の舌を入れられている。
そんな淫靡な光景を見て、俺は
「昼間っからこんなに爛れて……こんな日々が続いていくんだろうか……」
と、遠い目をしてしまう。
俺も楽しんでいることは事実だが、あまりの変化に戸惑いは隠せない。
「いいやア? もっとサ。もっともっと爛れてドロドロになっていくのサア」
と、俺の隣にぬらりひょんのオドロが現れる。
「あ、姐さん。こんちわー、にゃ」
「こんにちわですぞ」
「チース」
どこの体育系の部活だろう。
という彼女たちの挨拶に続いて、
ガラリ。

「こんちわー」
部屋のドアが開いて、乳牛ーーではなく、うしおにだという殺女(あやめ)がやって来た。
彼女も魔物娘と言うことだが、剥き出しの俺のチンポとその周りに集まる彼女たちを見て、
「え、エッチィのはいけないと思う!」
と、のたまわれる。
「昨日やったことを棚に上げて何を言ってるんだよ」
「あたしはナニも犯(ヤ)れてないッ!」
「じゃあ、今からヤればいいンじゃないかい?」
「見ていてやるから、ヤっちまいニャー。高校ん時から好きだったんにゃろ」
「え……。そうだったのか……?」
「あーあ、気づいてなかったンかイ。酷いお人さア。その分たっぷり可愛がってやりな。この子可愛いンだからサァ」
「ああ、殺女(あやめ)は可愛い。童貞だった俺をその乳で殺しかけた女だ」
俺が真顔で言ってやると、
「か、キャワワワ……」
と、言いつつ、真っ赤になって目をグルグルに回していた。
「くっ、拙も乳殺すれば良かったですぞ」
「その響きは金で旦那を買うみたいだねェ」
「よーし有り金全部持ってけにゃー!」
と言って、タマさんは肉球マークがついた財布を机に叩きつける。
が、数えてみれば92円だった。
「これでウチをクンニするニャ。92(くに)じゃなくてクンニでお願いするニャー」
「そんなニッチなネタわかる人いんのかよ! 渡されなくてもするよ。俺はあんたのご主人さまなんだろ? だから丁寧にお願いしてくれればやってやる」
俺の言葉に周りの魔物娘たちの目の色が変わる妖しい光が宿っている。
「にゃふふー、よぅくウチらの事を分かっているニャー」
と、見れば殺女がプルプルしていた。

「ゆう、鬼畜はダメだッ!」
と言って俺は手を振り上げた牛(乳)鬼にーー胸で殴られた。
とても、立派です。
「拳の前に乳が当たるとかさすがニャー。ううむ。ウチには真似できんニャ」
タマさんが感心している。
というか、何だこれ?
俺といい、彼女たちといい、変化が劇的すぎてついていけない。
だが、俺は激流に流されるがまま、彼女たちのこの変化を受け入れていた。
しかし、
これは受け入れられない。

バシィッーー、と。
オドロが仰け反った。周りの四人が呆然とした顔をしている。
「何が……え……!?」
彼女の顔面に矢が、刺さっていた。いいや、正確には彼女はその美しい歯で受け止めていたので刺さってはいない。だが、矢だ。マジモンの矢だ。
先に吸盤がついたようなおふざけの矢ではなく、鋭利に研ぎ澄まされて”銀色”に輝く矢じりが備わっている。

おふざけであれば、きっと
「襲撃ニャー、襲撃にゃー、ものどもであえであえ、にゃー!」
とかタマさんが言って、
「餅つきで鍛えた拙の棍棒術をお見せいたすぞ」
なんてのんべえさんが、
「ッ、だからッ! 俺はお前の武器じゃねーっての」
という傘の状態になった蛇の目ちゃんを担ぎ、
「フンッ」
なんて拳をぶつけて胸を揺らした殺女が仁王さまのように立ちはだかり、俺とオドロさんを取り囲むーーわけなんかあるわけがない。

「………………え?」
「ウン、下克上かイ。受けて立つサ。旦那もおっ勃(た)ててたモンをしまって足で立ちな」
「は、はああああああああああああ!?」
オドロはぺッと咥えてた矢を吹き出すと、俺を掴んで天井に張り付く。
そうして殺女に粉砕される俺の座っていたソファー。
待って。待った。待って。
オドロは天井を蹴って、槍さながらに「粉ッ」と一気呵成に蛇の目(傘)を突き立ててきたのんべえさんの一撃を避ける。着地地点で待ち構えていたタマさんの爪をキセルで撃ち払い、俺をお姫様抱っこで抱えて窓から飛び出す。
「待って、ここ3階ィイえええええ!?」
と、俺の目に飛び込んできたのは、矢をつがえるクノイチの姿。
さぁ、お決まりだが言わせてもらおう。
「ニンジャ!? ニンジャ何で!? あいええええええええええええええ!」
と俺はオドロの腕の中で叫び、彼女は窓のサッシを蹴って屋上へと登っていく。
巡るめく景色に耳を打つヒョウヒョウという風の音。
押し付けられた彼女の胸は豊満で、ワザマエです。
と言っている場合ではなく、屋上には、「ようこそいらしてくださいました。ハイクを詠みなさいッ!」と叫びながら日本刀で切りかかってくる大百足さん。
「ハイクを読むのはあんたサァ」
と、オドロはキセルで刀を受ける。

炸裂する金属音。
無機質な音は早鐘のように空に吸い込まれていく。
一条、二条、三条、五条を超えたあたりからは数えていない。
美しい女たちの煌めくような剣戟は、見惚れるほどに絵になっていた。
大百足の肌に浮かぶ毒腺が艶かしくくねれば、ぬらりひょんの胸の徒花は凄絶に咲き誇る。白刃は金のキセルと火花を散らす。互いの頬に浮かぶのは、戦に猛る戦士の笑み。
大百足の虫の体躯は、その高さを変ずるだけで、右脇に構えた刀から上下の変則軌道を許す。オドロはそれを危なげなく弾き飛ばす。首を狙う剣閃は下からカチ上げ、振り降りてくる刀身は叩き落とす。めくるめく攻防、決着は存分に早かった。

上段から振り下ろされた唐竹割りの軌道に、オドロは躊躇なく踏み込んでキセルの首で搦めとる。そうして刀を下へ撃ち落とし、
「未熟……」「精進しな」
スコーンと、大百足さんの顎をキセルで叩く。
崩折れる彼女を後ろに、俺たちは屋上に駆けつけてきていたタマさん御一行と鉢合わせになる。
「にゃふふ。ゆうの精液でパワーアップしているウチらに勝てるわけがないにゃ」
どうやら俺は敵に塩をおくったどころか精を送ってしまったようだった。
何を言っているがわからないと思うが、説明している暇などない。
オドロは俺を彼女の一人に向かって投げつける。
「何するだぁああああ!」
と言って飛んでいった俺がぶつかったのは殺女のおっぱいクッションだった。程よい弾力で受け止められた俺は、そのあまりの包容力にバブみーーを感じる暇もなく、
「ぴぎゃああああああ!」
と慌てふためいた彼女によってうち上げられる。

と、
「ナイスキャッチです〜。それではこのまま巣に持ち帰りまーす」
と言う烏天狗さんにゲットされた。
は? 何で本当に妖怪大戦争が起こっているんだろう。
というか、俺争奪戦!?
俺は百鬼の主になったはずでは?
と、混乱をきたしている最中、
「有う象無象の区別ななく、私のだ弾頭は全ててを許しはししないィ!」
烏天狗の羽が水弾によってたっぷりの水を浴びせかけられた。
濡れ女子の水無月玲先輩だ。
そうして俺たちは墜落していく。
そうして俺は再び殺女のおっぱいクッションに吸い込まれるようにキャッチされる。

その目を見れば分かる。
彼女はまた俺を打ち上げ花火よろしく打ち上げかねない。
だから、
「ただいま。こう言うと、夫婦みたいだな」
「はへ……? ふう……ふ、ふははははは! 勝った! 『ひゃくでき』、完ッ!」
「終わってないヨォ」
と言って、オドロが俺を取り戻す。どうやらタマさん、のんべえさん、蛇の目ちゃん、玲さん、知らない烏天狗のヒト、を全て打ち倒したようだ。
ぬらりひょんさん流石です。
というか、殺女の口走った『ひゃくでき』って何だ? そのどっかのエロゲーを略したような単語は……。きっと漢字に直すと『百出来(ひゃくでき)』(字面は大百足に似ている)。フルで言えば、『百鬼の主が出来るまで』と言う気がするが、気がするだけで定かではない。
定かなのは、オドロとうしおにビーストモードと化した殺女(あやめ)が両手を合わせて胸を合わせて力勝負になっていると言うことであって、殺女の乳力が400%を超えていたところで、俺が彼女と溶け合ったりはしていないわけで。
あまりの迫力のあまり、俺は錯乱していたのだが……。

それは凄まじい迫力だった。
「おらぁあああ! 急に横から現れてゆうを取っていくなんて許さねーぞ」
「さすがうしおに。力は流石だネェ」
オドロが身を翻して上段蹴りを放ち、殺女がそれを腕で受ける。
がっぷり四つにかみ合わさっていた4本の手と四つのおっぱいが距離を取る。
俺はそれをちょっぴり残念に思う。
「あんたのまぐわいを邪魔して悪かったとは思っているサ」
「ま、まぐまぐ……」
「初心だネェ。初心は寝んねで捨ててきな」
「うっせぇ! お前が邪魔したんだろうが!」
うしおにの蜘蛛の下半身が恐ろしい速度で駆動して、オドロに迫る。彼女の膨れ上がった筋肉から繰り出される膂力は半端でなく、屋上のコンクリートを粉砕する。
「ハッハー。おっそろしい威力だ。何かいいことでもあったかィ?」
「お前のせいで何にもねーよッ! 食らいやがれええ!」
まるで台風のように襲いかかってくる彼女の強靭な両腕。
そして千切れてしまうのではないかと心配になる程に暴れる乳。
彼女の腕がブンブン言っているのか、彼女の乳がブルンブルン言っているのか分かったものではない。
「お前は余計な事を口走っているんじゃねーッ!」
どうやら俺はあまりの大迫力に口走っていたようだ。例えるならばゴ○ラvsシン・ゴ○ラ(姿形は全く違うが、それほどの迫力という意味である)。それは見るしかないだろう(力説)。
と思っていると、彼女はコンクリートの破片をこちらに向かって投げつけてきた。
咄嗟だろう。咄嗟の条件反射だろう。
だが、残念、俺はただのインキュバスだ。

「あ」「あ」「あ」
これ、死んだ。
と俺は思った。

が、
「ハッ!」
という凛とした気合とともに、俺の目前でコンクリートの破片は真っ二つに割れた。
そこに立っていたのは落武者となった幼馴染。
「お、お前は死んだはずじゃ……」
「ふっ、影から主を守るのが私の役目。草場の影からいつでも見守っておりますとも」
という、本当の草場の影というものを思い知ったのはこの時が初めてだった。
そしてお前は死んだはずじゃ、という台詞を吐いたのもこの時が初めてである。
最近、初めてづくしが多いな……。
と俺が思っていると、
「よぉかったぁああああ〜〜」
と安堵の息を吐く殺女をオドロがキセルで、「グッ……きゅう」気絶させていた。

「あんたもやるかい?」
と、オドロが俺の隣に佇むロリ落武者に問いかける。
彼女の事は描写していなかったが、幼い時に生き別れたんだから、その容姿が幼くて当然だよな。という叙述トリックにも何にもなっていない伏線を回収したが、彼女は
「いいえ。私はゆうちゃんの家臣ゆえ、争奪戦には加わりませぬ。私がゆうちゃんの持ち物でございます」
と、指をくわえつつ、そのロリボイスとロリフェイスで俺を上目遣いに見てきた。
青白い肌にトロンとした半眼。その幼い顔立ちの表情筋をどう動かせばそんな表情が出来るのだろうという蠱惑的な牝の顔。血の気のないその体が求めているものは、生者には発せない、死者が渇望するナニカ。
そんな彼岸の存在に、何か、きゅんと来るものがあって、俺は新たな扉を開きそうになった。
「もう開いてるよ。手遅れサぁ」
というオドロの声を聞けば、
「まぁ」と嬉しそうなロリボイス。
俺のずっと出しっぱなしだった息子が青空の下天高く屹立していた。
「お情けを、いただきとうございます」
と、幼い顔でくぱっ口を開く落武者のさなえちゃん。
こんな伏線と叙述トリックを残しておいて欲しくなんかなかった。
誰か教えてくれよ。出しっぱなしで欲情してるのを見られた気持ちなんて、あんたらにはわからんと思うがね、アァンマリダァァァ!
と、そろそろ、メタい発言と俺のキャラ崩壊が酷くなってきたので自重することにする。
はじめにことわってあるから大丈夫だよね、と思っておく。

「さて、と」
幼女落武者にお情け(飴ちゃん)をあげて、俺は息子を収納すると、白旗をあげて寄ってきたクノイチに問いかける。
彼女の実は幼女だったので、「ニンジャなんで!?」ではなく、「ヨウジョなんで!?」というべきだったかもしれない。が、過ぎた事はもう置いておこう。
ちなみにロリンジャ(ロリニンジャの略称。どっかのミュージシャンにいそうだ。それはただの音の響きだけなので、それが本当にいるミュージシャンを馬鹿にしているわけでもディスっているわけでもない事は念のため断っておこう。なので決して叩かないでくださいお願いします。という、チキンで姑息な断りをして、括弧の中で延々と語りつつ、もはや自重の出来なくなった自分に目を瞑って、自重で潰れそうになりながら……以下略)、彼女にも飴ちゃんをあげてある。
俺はもはや誰だ、と自問自答を繰り返しながら、左右にクノイチと落武者の幼女を侍らせて、後ろからぬらりひょんにのしかかられつつ、サークル室の無事だったもう一つのソファーに腰を下ろしている。

そうして、頭を抱える。
「何だったんだ。今の怒涛の妖怪戦争は……」
「いや、単なる遊びだろぉ?」
「そうでございます。妖怪にとってはこれくらい遊びの範疇に過ぎませぬ」
「妖怪スゲェ……。俺体持つかなァ……」
「大丈夫、あたしが鍛えてあげるサァ」
「私もゆうちゃんを鍛えてさしあげます!」
「わたしもぉ〜、ゆうくんの役に立ちた〜い」
ロリンジャはゆっくりとしたこんな口調だった。
「ま、旦那は夜の方だけ鍛えていればいいよォ。夜〜は濡れ場で運動会、って、昔から言うじゃないかイ」
「今初めて聞いたよ!?」
「濡れ場とて何でございます?」
「あたし知ってる〜。お風呂場の事だよ〜」
「お風呂場で運動会! 楽しそうですね。ゆうちゃん、今日は一緒にお風呂に入りましょう」
(……よかった。早まらなくて。この子たちには飴ちゃん(ガチ)がお情けで正解だったようだ)
と、さなえちゃんを見れば、指を咥えながら蠱惑的な表情で見てきていた。その目は紛れも無い女の顔。
…………彼女は……本当に知らないのか?
深く考えないようにしておこう。

「で? これは俺争奪戦というなの通過儀礼だとして? これは毎日続くのか?」
「ま、起こったり起こらなかったりだネェ。嫌かい?」
「嫌でございますか?」「嫌なの〜?」
と、ろりっ子二人が俺を見つめてくる。
俺はその瞳に負けて、
「嫌じゃないが……」
と言ってしまう。
だが、
「でも大丈夫か? あんな風に大々的に本性見せて暴れまわって……」
殺女さんてば、屋上のコンクリ粉砕していらっしゃいましたでござりますよ。
というか、部室のソファーも一つイってしまわれたが……。
「大丈夫サァ。旦那はもうあたしの旦那で皆の旦那で、百鬼の主なんだから、あたしの力の傘下にあるのサ。だから、部外者に姿を見られる事はないし……。そもそもこの学校、大体妖怪の関係者ダヨォ」
「マジで!?」
何という事だ……。闇はすぐ横にあって、俺が気づいていなかっただけというのか……。
衝撃の事実に俺は愕然としてしまう。

「じゃあ、嫌じゃなかったら、第2ラウンドと行こうかねぇ。第一回勝者のあたしは今度は手を出さないからサァ」
と、オドロが言えば、
「わーい。それじゃああたしの勝ちー」
「ずるいです。私が勝ちです! そうですよねゆうちゃん!」
と、左右の幼女から迫られる。
天国はここにあったッ!
とは、問屋がおろさず、血で血を洗うような凄惨な俺争奪戦第2ラウンドが勃発した事はもはやここでは話さないことにしておこう。
俺もッ! 思い出したくは無い。強いていうならば、おっぱい怖い(ガチ)というところであろうか……。

ああ、酷い目なのか、良い目なのか、よく分からない1日を過ごして俺は家路につく。

こんな日がこれから続いていくのだろうか。
いいやら悪いやら。
いいと思えばいいし、悪いと思えば悪い。悪いと思うなら、気持ちいいと思え。サァ、気持ちよければ良いじゃあ無いか。なんて、オドロは言うだろう。
しかし、何か大事なこと、というか、何か大変な事を忘れている気がする。
それは何だったか……。詐欺、タイトル……、ウッ、頭が……白い。

と、俺が思うと、
俺の視界は真っ白になった。
比喩でも何でもなく、真っ白だ。
俺は何か白い袋のようなものにスッポリと覆われている。
きっと袋を開けてみれば、みっしりと青年がーー「ほう」
などとやっている場合ではなく、
そこに真っ黒な声と真っ白な声がーー
「あんた、今日姿を見せなかったと思ったら、何を……」
「あらあらうふふ。何やら顔色が悪いようですね。オドロ姐さんともあろうお方がこんなものが怖いだなんて……」
「チッ、止めな。あんたそれどこで……」
「うふふ。あなたのお友達のリリムさんですよ」
「クッ、あの万年喪女年増かイ」
(ちょっと! そこまでいう必要はないでしう? クッ、メタ時空からは手を出せない……)
「うふふ。それではゆうくんはいただいていきますよ」
と、俺は担ぎ上げられた。
俺がもがけば、
「あっ、イ病(や)ん! もう、ゆうくんってば、我慢が出来ないのですから……。そんなに焦らなくても、これからじっくりと、ゆっくりと、ずぅうううっと! 」
という、恐ろしい声が聞こえる。
「ん”ーッ、ん”ーッ」
と俺がもがき続ければ、何とか顔が出た。
俺が包まれていたものは……、蛇の抜け殻?
ああ、だから。
白峰会長の香りがしていたのか……。

そして、会長は意気揚々と俺を攫い、
歌うように言う。
「それにしても、意外でしたわね。まさか、ぬらりひょんともあろう者が……饅頭が怖いだなんて」
「…………………」
「あら、ゆうくん、静かになりましたね。うふふ。とうとう観念ーー、ではなく、私と婚姻を結ぶ覚悟ーー、ではなく決意をしてくれたのですね。嬉しいですわ」
分かってんじゃねぇか。
というか、彼女は分かっていない。
オドロはさっき、サークル室でしこたまあなたが隠していた饅頭を食べていた。
だから、俺はオドロが助けに来てくれるのを待てばいい。ただそれだけの話という事だ。
……………オドロ、恐い。

そうして俺は白峰、白蛇会長の昔ながらの日本家屋の自宅に運び込まれ、そのまま座敷牢へと放り込まれ、彼女に拉致監禁される運びとなったのだった。
オドロはいつ助けに来てくれるのだろうか、ご飯は美味しいのだろうか、などと。
この時の俺はまだ呑気に考えていた。
まさか、そんな事分かるはずないだろう。
俺がこのままーー。

ガチャン、と。
座敷牢の鍵が落とされた。
あれ、ご飯は?
「ふ、うふふふふ。ゆうくんのご飯はこれから私だけです」
「は?」
「インキュバスであるゆうくんは私と交わっていれば生きていけるのです」
「ひ?」
「ですが、ゆうくんは今プンプンと別の女の匂いをつけています」
「ふ?」
「ですから、その匂いが消えるくらいにゆうくんの匂いが濃くなって、私を存分に味わっていただけるようにお腹を十分に減らしていただきます」
「へ?」
「そうですね。私に襲い掛からずにはいられないくらいにはご飯は抜きです」
「ほ、本気じゃないよな?」
「どうだと思います?」
「…………」

俺は彼女の目を見て思った。
彼女は本気だ。
俺は音を立てて血の気が引き、事の重大さを思い知った。
「わ、わぁーお腹が空いたよー。今すぐ会長を抱きたいなー(棒)」
「まあまあ、あらあらうふふ。嬉しいですね。ですが、まだ、まだ熟成が足りません。私も我慢しますから、ゆうくんもちゃあんとお利口に我慢してくださいね」
「…………」
俺は背筋が寒くなる。
「私はずっとずっと、
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとシたくてシたくてシたくてシたくてシたくて舐めたくてシたくてシたくてシたくて死たくてシたくて氏たくてシたくてシたくてシたくてヤリたくてシたくてシたくてシたくて知リたくてシたくてシたくて飼いたくてシたくてシたくてシたくて堪らなかったというのに、ゆうくんは勝手に他の女の方と、シてシてシてシてシてシてシてシてシてシてシてシてシてシてシてシてずるいシてシてシてシてシて羨ましいシてシてシてシてシて酷いシてシてシてシてシてシてシて許せないシてシてシてシて美味しそうシてシてシて欲しいシてシてシて私と、シてシてシてシてシてシてシてシて私だけをシてシてシてシてシてシてシて私にシてシてシてシてシてシてシて一緒にシてシてシてシてシてシてシて飼って狩ってシてシてシてシて暮らしてシてシてシてシてシてシてシてシてシて、
ーーずっとここで暮らしましょう」
そう言って、ハートが飛んでいることを思わせるような妖しい光を宿した瞳をトロンと潤ませて
、頬に手を当て彼女は恍惚とした表情で、
「ゆうくん、私はあなたを離(ゆる)さない」
と言った。

「ぎゃ、ぎゃああああああああああ! オドロ! 何処だ! 俺を助けてくれ!」
「ふ、うふふふふ。あらあら。他の女の名前を言うだなんて、やっぱりまだ熟成が足らないではないですか。ああ、そんなあなたが私を、私だけを求めるようになるだなんて……今考えただけでも……ジュルリ」
それは、男を見る女の目ではない。
白、蛇めッ……! それは獲物を前にした蛇の目だ。
愕然とした表情の俺を見て、彼女はベロリとその長い、先が二つに分かれた蛇の舌で自らの頬を舐めると、艶然と微笑んで部屋から出ていった。

俺は……オドロを、他の百鬼たちを信じている。
このままのわけなどない。
そうだ。そうに違いない。
俺はーーーーーーーーーー


『ひゃくでき』 白蛇・白峰つらみルート 完
ーーA kind of happy end.
Thank you, your reading.
He is married with TSURAMI san only.
They will be happy. Maybe…….
17/08/06 08:49更新 / ルピナス
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■作者メッセージ
リャナンシー「ふぅー、ヤニが切れたらイライラすんゼ。タバコ屋が遠いんだよ……。あ”、事故ってる。ッべー、ッべー、どーすんだコレ。ツーか、これあたしのせいじゃあねーよなー。年増のリリムが余計なこと言いやがるから、じゃねーのか」
リリム「ヒトのせいにしないでよッ! いや、私が悪いんだけど……。オドロが本当に饅頭が恐いって知らなかったのよ。ふざけて言っただけなのに……」
リャナンシー「しゃーねーな。こうなったら、リャナンシー48手の一つ、夢想転生を……」
リリム「ダメーッ! ミューズちゃん、それ以上はいけない。そんな言い方しても、それって結局夢オチって話じゃない」
リャンシー「聞く耳持たぬわ! 元はと言えば、結(ゆい)貴様が引き起こしたことであろう」
リリム「そんな……リャナンシーが劇画調にになるだなんて、アッーーーー」

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