連載小説
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見極められるお手伝い
「・・っ・・ん・・」
重い瞼をゆっくりと開閉する。
ぼやけた視界の中、差し込んでくる光をはっきりと感じた。
・・ああ、朝か・・
「ふあ、ぁ・・ふう・・」
口を開けて、大きく欠伸する。
「ん、んん・・」
次に目を擦った後、腕に力を込めて伸びをした。
背中の筋肉がグググッ、と引っ張られる心地よい感覚。

「っはぁ・・」
それをひとしきり味わった後、俺はベッドから立ち上がる。
布団の暖かさから抜けるのは名残惜しいが、
二度寝をするのは別に朝御飯を食べてからでも良いだろう。

しばらくの後、俺は朝食を食べた。
メニューは、港のマーメイドから買った魚を焼いたもの、
それとハーピーから買った卵の目玉焼き、
そして刑部狸より買っていた米を炊いた、白ご飯だ。
この米というのは最初こそ面倒だったものの、
もはや洗って火にかけるだけと思えるようになった今となっては、
パンと朝の主役の取り合いをする程になっている。

「さて・・今日はどうしようかな・・?」
朝食を美味しく食べ終わった後、呟く。
昨日の仕事のおかげで懐は暖かい。
加えて、俺はワーカーホリックなわけでもない。
「・・うん、適当にぐうたらしておくか。」
そんな風に自問自答した後、部屋の隅のベッドに向かう。
まだちょっとでも温もりが残ってたらいいなぁ・・
そう思って、布団に手をかけたその時。

バンバン!

いきなり、背後にある扉から叩かれる音が聞こえた。
何だ?と思ってそこまで行き、開ける。
そこには、ワイバーンが立っていた。
「・・ゲイル・・?」
思わず呟く。
ここを訪ねるワイバーンはゲイルくらいしか思いつかないのもあるが、
何よりも、その姿がゲイルとそっくりだったからだ。
しかし、そう呼ばれたワイバーンは首を横に振った。

「残念ながら、私はお姉ちゃんじゃないわ。」
そしてそう言う。
その言葉の中、気になる単語。
「・・お姉、ちゃん?」
その単語を呟くと、目の前のワイバーンは今度は首を縦に振った。
「そ、お姉ちゃん。
あなたに惹かれている、ゲイルってワイバーンは私のお姉ちゃんよ。」


それから、少しして。
立ち話をするのもあれなので、とりあえず水を用意し、
俺とこのワイバーンはテーブルに向かい合って座った後、
しばらく話をしていた。
「えーと・・つまり、ゲイルはお前のお姉さんで、
お前はゲイルを守るためにここまで来たって事で良いんだよな?」
会話から得た情報を自分なりに纏めて確認をとる。

ちなみに、お前呼ばわりかつタメ語なのは、
「良いわよ敬語なんて。
それと、あなたって呼ばなくても良いわ・・なんかムズムズするし。」
と、このワイバーンに言われてしまったからだ。
こういうところは、流石姉妹と言ったところなのだろうか。

「ええ、そうよ。
あなたがもし悪い人でお姉ちゃんが騙されてたらいけないから、
それを見極めるために、ここに来たってわけ。」
ワイバーンはそう言って、こちらに目を向けてくる。
その様相は半ば睨んでいるようだ。
・・そんなに悪い奴に見えるか、俺?
内心苦笑しつつ、こう訊いてみる。

「見極めるって・・具体的には何をするんだ?」
「・・・・・」
真面目な表情のまま、口を開かないワイバーン。
「・・お、おい?」
それが気になって呼びかけてみる。
もしかして、もう見極めとやらは始まっているのだろうか?
「・・・・・・」
ワイバーンはまだ喋らない。
が、注意深く見てみると目が泳いでいた。

「・・もしかして、本当は何も具体策を考えていない・・とか?」
冗談半分で言ってみると。
「そ、そんなわけないでしょう?!
な、ななっ、何を根拠にそんなことを・・!」
こう返してくる。
顔を赤くして膨れっ面で睨んでくるのが可愛らしい。
間違いない、これは何も考えていなかったな。
しかし・・それなのにゲイルを守る、その思いだけで行動できるとは。

「・・姉思い、なんだな。」
思わずそんなことを口走っていた。
「え・・な、何よ・・?」
困惑するワイバーン。
この言葉だけでは意味が分からなかったのだろう。
「いや、だってさ?具体策を何も考えられないくらい、
ゲイルを守らなきゃって思ってた訳だろ?
そんなの、余程ゲイルを大事に思ってないと出来ないじゃないか。」
そう説明すると、
目の前のワイバーンは恥ずかしげにキョロキョロしつつこう返してきた。
「と・・当然、じゃない。
お姉ちゃんが嫌いな妹なんているわけないわ。
お姉ちゃんは綺麗で格好良くて、でも、その、
格好良すぎる所があって、しかもそれに自覚がないから、
ああいや自覚が無いのがまた格好良いんだけど、
ええっと・・それで、無自覚に男の人を引きつけちゃうの。
でも、お姉ちゃんから惹かれてったことはないから・・あっ・・」

饒舌になって話していたワイバーンだが、急にその言葉を止めてしまう。
「・・ど、どうした?」
気になって呼びかけると、ワイバーンは恥ずかしげに目を伏せた。
「ご、ごめん・・お姉ちゃんの事を話すといっつもこうなっちゃって。
こ、この話はこの辺にして・・」
その気まずそうな様子を見て、俺は言った。

「良いと思うけどな。」
「・・えっ?」
顔を上げるワイバーン。
「それだけお姉さんの、ゲイルのことが好きって事だろ?
俺は良いことだと思うぞ。
少なくとも、嫌いで喧嘩ばっかりしてるよりはずっとな。
だって、その方が楽しいだろうしさ。」
「・・・・・」
俺が言い終わると、ワイバーンは黙ってしまった。
・・ちょっと、格好付けすぎたかな・・?
そう思っていると、目の前のワイバーンはゆっくりと口を開いた。
「・・何か、あなたのことちょっと見直したかも。
割とマトモな人みたいだし・・あ、ちょ、ちょっとだけだからね?
まだ、信用って言うか、見極めはしてないから!」
そして、そう言う。
ていうか、そのくらいで見直されるとは、
どれだけ俺は悪く思われていたんだろうか。

「まぁ、別に良いけど。
ところで、その見極め・・とやらのことなんだけどさ?」
軽く笑って俺はこう提案した。
「俺の事を今日一日ずっと見ておくっていうのはどうだ。
性格は行動に出るって言うだろ?」
すると目の前のワイバーンは、えっ、と目を丸くする。
「え、でも・・そんなことしたらあなたの迷惑になるんじゃ・・?」
見極めると言う癖にそんなことを考慮する辺り、
やはり基本的には善人なのだろう。
「ならないよ、別に。
どうせ今日は気が向いたら街に出るかってその程度だったから、
俺としてはむしろ話し相手が出来て嬉しいくらいだ。
それに・・いつまでも嫌われたまんまって言うのも嫌だしな。」
どうだ、とワイバーンの顔を見つつ尋ねる。
彼女は少しの間、俯いて逡巡する素振りを見せた後・・

「分かった、そうさせてもらうわ。
見極める相手に言うのは変かもしれないけど・・よろしくね、リロウ。」
そう言って、翼を差し出してきた。
「ああ、こっちこそ今日一日よろしくな、えーと・・」
そこまで言ってその翼を握りかけ、止まる。
・・そういえば、このワイバーンの名前をまだ聞いてなかった。
それを察してくれたのだろう、彼女は笑ってこう言った。
「リジアン・ウィヴァー、リジアンって呼んで。」
「リジアンだな、分かった。
それじゃ・・改めてよろしくな、リジアン。」
名前を呼び、翼を握る。
「うん、よろしく。」
リジアンもそう言って、俺の手を翼で巻き込んできた。


リジアンとの自己紹介を済ませた後。
流石に当初の予定通り二度寝をするわけにはいかないので
俺は、矢の本数の確認をしていた。
昨日の仕事で使った本数は、13本。
ゲイルが半数以上無力化してくれたので、その程度ですんでいる。
・・今確認した所、残りは50本。
この数では、後3回・・悪ければ1、2回の依頼で底をつくだろう。
出来る限り回収して再利用するが・・せめて80本は保っておきたい。
となると・・今日買いに行った方が良いか・・?

「・・リロウ?どうしたのよ?」
そんな風に考えていると後ろから声がかかる。
振り返ると、リジアンが不思議そうな目でこちらを見ていた。
「ああ、いや、街に出る必要があるかもなぁって考えてた。」
そう答えると、リジアンは笑う。
「じゃあ、一緒に行く?
こっちとしても、色々なあなたを見た方が見極めには有利だし。」
「そうだな・・あ、でも買い物しに行くだけだから、暇かもしれないぞ?」
そう返すと、彼女は笑ったままこう言った。
「別に、隣に立って喋っていれば私は暇じゃないし。
なんなら、荷物持ちしてあげたって良いけど?」
「大丈夫だ・・荷物ぐらい自分で持てる。
そんなに沢山買うわけでもないしな。」

会話を交わしつつ、思う。
本当に見極めるつもりがあるんだろうか、と。
まぁ、犯罪者か何かのように警戒されたまま
付きまとわれるよりかは、遙かにマシ・・か。

そう結論づけて、弓を背負う。
するとリジアンがいきなり無言で顔を俺の体に近づけてきた。
「・・お、おい?」
呼びかける、が返事はない。
何かを確認するように、鼻をヒクヒクとさせては、
少しだけ表情を緩ませる。
「おい、リジアン?」
再び呼びかけると、彼女はハッとしてこちらを向いた。
「あっ、ご、ごめん・・あなたがそれを背負った途端、
良い匂いが濃くなったからつい・・」
「いや、それは良いけど・・背負った瞬間良い匂い・・?」
そこを疑問に思って、一回弓を机に置き、彼女に向き直り、聞く。

「・・どうだ?もう匂いしないか?」
彼女は、顔を再び近づけた後、首を横に振り言った。
「んーん・・少しだけ、良い匂いがする。
あ、でも弓を背負ってても問題ないと思うわよ?
別に、その・・嫌な臭いじゃ、無いんだし・・」
そして、何故か最後辺りに顔を赤くするリジアン。
それがちょっと気になったが、
嫌な臭いじゃないのなら別に良いだろうと思って、
俺は弓を背負って街に出かけることにした。


それから少し歩いて、俺とリジアンは
トロールのノムさんが経営する雑貨屋へ着いていた。
「へぇ〜いらっしゃぁ〜い。」
聞き慣れた独特のイントネーション。
その声の主ノムさんは、俺とリジアンを見ると、いきなりこう言った。
「お〜リロお〜ついに彼女作った〜?」
それに反論しようとした瞬間・・
「そ、そんなんじゃない!」
何故かリジアンが顔を真っ赤にして反論していた。
というか、そんなに必死で否定されると何か傷つくな・・
「んえ〜・・違うのか?リロお〜?」
「ん、ああうん、違うよノムさん。」
「そっか〜う〜ん、おっかしいなぁ〜・・」
「そ、そう、違うの!それに、おかしくもない!」
「そいですか〜んん〜んふぅ・・」

ノムさんは一回そこで咳払いをする。
「っ・・ん、んう・・」
必死の形相だったリジアンも、その雰囲気に毒気を抜かれたようだ。
「ん〜まぁ、それは置いておくとしまして〜
ここに来たって事はぁ、何か入り用って事だねぃ?」
「ああ、そうだった・・。
ノムさん、魔界銀の矢ってあるかな?出来れば30本程。」
注文を伝えるとノムさんは「あいよ〜」と言って、
数ある品物達の中から、手早く矢を集めて「ほい」と差し出してきた。
いつもながら、口調と体格に見合わぬ迅速かつ正確な動きである。

「それでぇ〜大体金貨二枚だね〜」
「金貨二枚?いつもなら、三、四枚じゃないか?」
指定された金額に驚いて言うと、ノムさんはふわふわと笑った。
「本当ならそれくらいなのですが〜、
実の所それは売れ残りなので〜値引き対象となったので〜す。
いや〜、在庫処分ってやつだねぇ〜」
そして、体をゆらゆらと揺らす。
同時に揺れるたわわに実った大きなそれが・・

「いだだっ!?」
いきなり足にギリギリと痛みが走る。
「・・やっぱ、危ないかなぁ・・?」
見ると尻尾が俺の足に巻き付き、締め上げてきていた。
尻尾の主は半目になって俺を睨んできている。
「リロお〜胸に目が釘付けだったよ〜」
ノムさんはというと、そう言ってにっこりと笑っていた。
「っ・・と、とにかく、これ買うから!料金は、ここ置いていくね!」
この場では勝ち目はない。
そう判断した俺は、早々に話を切り上げ立ち去ることにした。
「おお〜金貨二枚、ちゃんと貰いました〜」
そう言って手を振るノムさん。
「・・まぁ、男の人ってそういうの好きだもんね・・」
リジアンも、渋々といった様子ではあるが尻尾を足から退けてくれる。
これで、この場はどうにか

「あら?あれって・・あなたが話してた・・」
「おお?リロウじゃないか・・こんなところで会うとは奇遇だな。」
・・ならなかった。
見知らぬリリムと見知ったワイバーンが、この場に入ってきたのだ。


少しして。
「っはは、良いじゃないかそれくらい!
リロウだって男なんだぞ、仕方のないことじゃないか?」
「おお〜いつもながら器がお〜き〜ねぇ、ゲ〜ルは。」
俺は、胸を注視してしまったことを女のゲイルに擁護されるという、
よく分からないが恥ずかしい事態になっていた。
「んーでも、デート中に他の女の子の胸を見るっていうのは、
褒められたものではないんじゃないかしら?」
「デ、デートじゃないです!ただ、見極めるために・・」
「自分の彼女として相応しいかって?」
「違います!」
リジアンはリジアンで、
ゲイルと共に来た、ヴィニーというらしいリリムにいじられていた。
「ふふ、まぁそれは置いておくとしても。」
そのヴィニーは、ひとしきりリジアンをいじって満足したのか、
今度は俺の方に視線を向けて来た。
俺の体が、勝手に緊張したのが分かる。
そんな俺に向かって彼女は、こう言った。
「うーん、やっぱりワイバーンに好かれる匂いしてるわ。
でも・・いきなりで姉妹丼とは、随分とレベルが高いのね?」
「は?・・え?姉妹丼?」
驚きと共に聞き返すと、ヴィニーは手を口に当てクスクスと笑った。
「っふふ、まぁ・・ゲイルはともかく、リジアンちゃんの事は、
気付けという方が難しいかもね。」
そして、そんな意味深な事を言う。

「はぁ・・?」
訳が分からなくなって、周りに視線を走らせる。
「フフ・・そうか、リジアン・・やはり、お前もか。」
優しい顔になって笑うゲイル。
「お〜・・なかなかにやりてだねぃ〜リロお〜」
真意の掴めないふわふわ笑いを浮かべるノムさん。
「な、なんでこっちを見るのよ!」
そして、何故かやけに顔の赤いリジアン。

・・さっぱり、分からない。
姉妹丼というのがどういう意味かは、理解しているつもりだが・・
リジアンは、俺の事あんまり好きじゃないだろ・・

「ふふ、さっぱりってところね?
ま、気にしなくて良いわよ、すぐに分かるわ・・じゃね。」
言い出しっぺのヴィニーはというと、
そう言ってさっさとどこかに歩き去ってしまった。

「え・・?」
それを見送る。
その後、リジアンとゲイルを見た。
「な、何よ・・何でこっち見るのよ。」
「ふふ、心配するな・・少なくとも、私は君を好いている。」
・・やっぱり、何のことか分からなかったけど。


お昼には斡旋所を選んで食事をとった。
「ああリロウ、いらっしゃい・・ウィヴァー姉妹もか。
言っておく、食べ放題にはしてやらんぞ。」
とはリーフさんの弁だ。
「構わないさ、そんなにたくさんは食べはしない。」
と、ゲイルは言ったものの、やはり二人は結構な量を食べていた。


その後、買い物をするだけという当初の目的から逸れて、
ずっとダラダラと街を歩いていたのだが。
「・・なぁリジアン。
リロウを見極める、のだよな?」
ゲイルがいきなりリジアンにそう訊いた。
「え?うん、そうだけど・・」
その意図が読めないらしくリジアンは首を傾げつつ答える。
「その割には、していることはデート紛いだな?」
それに、ゲイルはこう返した。
・・確かに、見極めるようなことはしてないな。
「え・・?や、えと、あの・・」
リジアンはちょっと詰まった後、
「これは、一緒に居ることによって」
弁明をしようとする。

「ならば、そんなに近づいていなくとも良いだろう?」
「そ、それは・・その・・」
がしかし、ゲイルの一言にあっけなく封じられてしまった。
きょろきょろと視線を舞わせるリジアンにゲイルは続ける。
その表情はやや険しい。
「・・なぁ、リジアン。
そもそも私が、いや私達魔物娘が、惚れる相手を違えるわけがない。
それは私もお前も熟知している筈だろう?」
「う、うん・・」
しょんぼりと肩を落とすリジアン。
俺は何か言おうとしたが・・出来なかった。
助け船を出してやりたかったが、その材料が見つからないのだ。
加えて、姉と妹の会話なのだから口を出すのも・・という気持ちもあった。

「だからなリジアン。
お前がこれ以上リロウの傍にいようと思うのなら・・」
「で、でもお姉ちゃん!」
リジアンが口を挟もうとそう言う。
「なんだ?」
「え・・えと、あ、と・・」
が、しかし、続く言葉が見つからないようで
リジアンは再びうつむいてしまった。
「・・リジアン、話はよく聞け。
私は・・」
そんな彼女にゲイルは何かを言おうとする。

「良いよゲイル、俺は迷惑じゃないし。」

今度は口を挟んでしまった。
俺が理由になって、リジアンが責められているのなら
それは彼女に申し訳ないと思ったからだ。
「リ、リロウ・・?あなたなんで・・」
リジアンが心底驚いたように訊いてくる。
それには答えずに、俺は続けた。
「ゲイル・・リジアンはお前のことを思ってやったんだ。
だから、それを一方的に怒るのは、ちょっと勘弁してやってほしい。」
そう言うと、ゲイルは首を傾げた。
「・・怒る?おいリロウ、何を言って・・」
「怒ってただろ?これ以上俺の傍にいるならって。
あれは、不愉快だってことじゃないのか?」
「は?・・ああ・・ふふ、はははは!!」
いきなり笑い出したゲイル。
呆気にとられる。
・・俺は、何か変なことを言ったか?
横を見るが、リジアンも不思議そうな顔をしている。
「ああ・・すまんすまん・・
リロウ、どうやら君と私の間には誤解があるようだ。」
疑問符を浮かべていると、ゲイルはそう言って続けた。
「私がリジアンに言おうとしていたのは、
私の恋路の邪魔だから消えろなどということではないよ。
実の妹にそんなことが言えるわけがないだろう?」
それを聞いて驚くが、同時に安堵する。
ゲイルの性格上それはないだろうとは思っていたが、
もしそうだとしたらと思わないでもなかったからだ。
しかし、それならそれで気になることがある。
「・・だったら、何を?」
ゲイルは何を言おうとしていたのだろうか。
それが気になって聞くと。

「あぁ・・簡単なことさ。
これ以上君の傍にいようとするならば、
君が好きだと素直に言って、それから一緒に居ろと、それだけだ。」
彼女はさらりとこう答えた。
・・え?リジアンが、俺を?
「ちょ、お、お姉ちゃん!!
違うよ!リロウはそういう、そのそういうのじゃなくて!」
隣では、リジアンが狼狽えていた。
当然だろう、
いきなり嫌いな奴のことを好きなのだろう、と言われたのだから。
しかし、ゲイルは首を傾げつつにやにやと笑っている。
「おや、違うのか?
先程からちらちらと手を繋ぎたそうにしていたり、
歩調を合わせてみたりと、そうとしか思えないことをしていたが。」
「違うから・・!」
「それにさっきも言ったように、見極めの必要はもう無くなった。
それを他ならない私の口から聞いて尚、
リロウの傍に居ようとする、リロウと話そうとする。
見極めるだけが目的であるならば、もうそこから先は不要な筈だ。」
「う・・」
冷静に並び立てるゲイルに対して、押し黙るリジアン。
それを見てゲイルはふぅ、とため息を吐く。
「・・なぁリジアン。
お前はリーフ、ノムさん、誰に対しても割と素直だったはずだ。
それなのに、何故リロウにだけあんな振る舞いをした?
何故、リロウに関する言動一回一回にそうも大きく反応する?」
「それは・・」
リジアンの肩に、ゲイルは自らの翼を置く。
その様は、ゲイルの姉らしさをこれでもかというほど示していた。
「本当はわかっているのだろう?お前は、リロウのことが好きなんだ。
好きだというのが恥ずかしいならば、気に入っていると言えばいい。」
それを聞いてとても驚き、また嬉しくもあったが、
表情には出さないように努めた。
今あの二人の、意識をこちらに向けるわけにはいかないからだ。
「う・・」
「安心しろ、リロウは悪い奴ではない。
私が惚れたのだ、悪い奴であるわけがないだろう?」
そう言うゲイルの顔は自信に満ちあふれていた。
・・目の前でああいうことを言われると、恥ずかしいな。
「う、うぅ・・!分かった!言う!言えば良いんでしょ!」
リジアンはそう言って俺に向き直ると。

「リ、リロウ!えっと、その・・!
ぁ、あなたのこと、その、好きになってた。
それでさ・・!あなたさえ良ければ、なんだけど・・
これからも、お姉ちゃん共々一緒にいてくれる・・かな。」
リジアンは、顔を赤くしながらも俺を見続けている。
「ああ良いぞ。
俺としても楽しいのは嬉しいしな、大歓迎だ。」
対して即答した。
答えを考えると、余計な言葉が混じってしまいそうだったからだ。
好きだと言われたのはびっくりしたが、
嫌われるよりは、好かれる方がもちろん良かったので、
この際気にしないことにする。
「良かったな?リジアン。」
そう言ってゲイルはリジアンの頭を撫でた。
その顔はとても優しげだ。
「・・うん!ありがとうリロウ!」
その声に対してそう返した後、リジアンはそう言って笑う。
両目を閉じて笑うその顔は、とても可愛らしかった。


それからまたしばらくして。
辺りは既に夜のとばりがおりて、暗くなっていた。
・・結局、一日中ぶらついてしまったな。
楽しかったから、良いけども。
そう思っていると、ゲイルが笑って言った。
「ああそうだ・・リジアン?
見極めるのなら、リロウの家に泊めてもらえばよいのではないか?」
それはからかいの意味が大分に含まれていた。
流石のリジアンも気づいたようで、
「ふぅ・・お姉ちゃん。
そんなことしたら、リロウの迷惑になっちゃうよ。」
と目元を緩めつつ返す。
そう言われたゲイルは、
「なんだ、つまらないな・・」
と肩を竦めていた。


それから、ウィヴァー姉妹と別れた後。
俺は、いつものように弓の訓練に精を出していた。

スコン!

・・よし、ど真ん中・・今日は、調子が良いな。
そう思って、ふと空に浮かぶ月を見上げる。
それが映し出す闇の中に、二人のワイバーンの姿があった。
ぼんやりとそれを見つめていると、
その二つはピタリと止まって俺の方向に鳴くような動作をする。
もしかしたらあれはウィヴァー姉妹なのかな・・
などと、俺は思っていた。
その内、二つの影はまた空の彼方へと消えていく。
何故かは分からないが、
俺はそれを微笑ましい気持ちで見ていた。


14/12/30 17:31更新 / GARU
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■作者メッセージ
・・頑張って完結させよう。

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