連載小説
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朝駆けされるお手伝い
リジアンに好きだと言われてから二、三日たったある日の朝。

・・眠い。
俺は猛烈にそう思っていた。
特に理由はない。
昨日無理をしたとか、そういうわけではない。
ただただ眠いのだ。
朝日が差し込んでいるのは分かる。
しかし、布団の中から起きあがりたくない。
分かる者には分かるだろう、
目が覚めてはいるが、起きたくはないという奴だ。
そしてそんな心持ちでは、
清々しい朝日とか麗らかな日光とかどうでも良いわけで。
「ぅふぁ・・」
あくびを一つ。
「ぅ・・」
窓を見る。
感じていた通り、光が入り込んでいた。
眩しさと存在感をまき散らすそれは、朝なんだからしっかり起きろ、
とでも言いたげにうっとうしく輝いている。
・・うっさいやい、俺はもう少し寝ておきたいんだ・・
抗議するようにそれを軽く睨んだ後俺は、再び布団を被る。
ゲイルと完遂させた仕事のお陰で、懐はまだまだ暖かい。
当分は仕事が選べるくらいだ。
・・こう言うと少々ヒモっぽいが、
俺も役割は果たしたからそうではないだろう。
だから、俺は寝るんだ、寝てていいんだ・・
そう思って意識を沈める。
瞼を閉じてしまえば、あの光も微細な気配に過ぎない。
そうなれば、だいたいのものは無視していられるのだ。
そう、あの早起きな鳥の鳴き声も。
そう、コンコンというノックの音も。
そう、何故か開けられた家のドアも。
そう、何故か俺の布団がめくりあげられ何かが入ってきたこと・・

「・・ぁぅん?」

は、流石に無理。
というか、ドアが開けられた時点で怪しめ、俺。
そう突っ込む間にも、「何か」は俺の布団という聖域に入ってくる。
その動作には一切の躊躇いが感じられなかった。
・・暗殺者?どこかの恨みを買ってしまってたか・・?
思考が切り替わり、仕事用の考えになる。
しかし、すぐに視線だけをそちらに向けなかったということは、
やはり俺がいくらか寝ぼけていた証明だろう。
その一瞬を逃してしまった今、おいそれと動くことは出来ない。
とにかく、だ。
姿は確認することが出来なかったにせよ、
もしそうであるというならば、対処しなければならない。
そう考えている今現在も、「何か」は入り込んでくる。
どうやら、シルエットや感触から察するに、人型のようだ。
クノイチ、とやらの話は聞いたことがあるが、違うだろう。
噂ではクノイチは忍び込む。
扉を開けて堂々と入ってくるのを忍び込むとは言わないだろう。
・・となれば、機を待つ。
こいつが、俺の布団を被る位置に来る、その瞬間を。

もぞもぞ・・すすす・・

今だ!

「はぁっ!!」

体を跳ね起こし、布団越しに相手を取り押さえる。
この方法ならば、反撃のリスクは小さい。
「っ・・全く・・朝から情熱的だな、君は。」
相手の声が聞こえた。
・・この声?・・それにしゃべり方・・
そちらを見る。
するとそこには。
「布団で私を取り押さえて・・どうするつもりなんだ?」
微妙に嬉しそうな苦笑いを浮かべる、ゲイルの姿があった。



「・・あのなぁ。」
それから少しして。
立ったまま俺は、ベッドに座るゲイルに渋い顔を向けていた。
「確かに、応対に出なかったのは俺が悪い。
でもな・・いきなり布団に潜り込んでくる奴があるか?」
「ん・・まぁ、それはすまなかったよ。
と、それは置いておいて、だ・・」
彼女はあやふやな答えをして、話題を変えようとする。
「おい。」
「私がここに来た用件なんだが・・」
しかも、都合の悪い追及は無視ときた。
「・・なんだよ。」
これ以上は無駄か、と諦め俺はそれを大人しく聞く。
すると彼女はにんまりと笑う。
「ふふ・・デート、と洒落込まないか?」
・・一瞬、何を言ってるのか分からなかった。
「・・は?でーと?」
唖然として、オウムがえし。
ゲイルはそれを見て、うむ、と頷く。
「えーと。」
「そう、デートだ。
私は、君を好いている・・それは知っているな?」
「お、おぅ。」
興味以上の対象・・とかっていうあれのことだよな、と頷く。
「まぁ、そういうことさ。
好いている相手と、空いた時間を共に過ごしたい・・
それは間違った感情ではないだろう?」
「あ・・あー・・」
とりあえず理解。
納得はなんだか唐突で出来ないが。
「で、だ。
仕事人という生業の君が朝に寝ているという事は、
君も暇ということだと思ったんだが。」
「まぁ・・暇、だけど。」
決めつけられているのが微妙に傷つくが、事実なので肯定する。
「ん、なら・・私の我が儘に付き合ってくれないだろうか、と。
まぁそんな風に考えて、ここに来たというわけだ。」
「あー・・そうか・・」
一問一答で話を進めていく。
と、言えば聞こえは良いが、実際は俺からは話せていない。
どうもペースを握られている感じがしないでもなかった。
しかし・・どうするかな・・
「あぁ、別に君が嫌ならば良いんだ。
さっきも言ったが、これは私の我が儘だからな。」
と、ここで彼女が付け加える。
なるほど、ちゃんとこちらのことも考えてくれているようだ。
流石はゲイル、しっかりしている。
「・・もし、だぞ。
俺が断って二度寝したら、どうする?」
感心しつつ、とりあえず訊く。
するとゲイルは、翼を組みやや残念そうな顔に。
「むぅ・・少々残念だが、そのときはそのとき。
先程言った言葉を違えるつもりはないよ。」
しかしながらそう言えるところは、彼女の立派なところだろう。
やや天然というか自分勝手なところがあるが、
これがやはり、彼女の魅力を作る大きな要素だと思う。
「そのときは・・うむ。
君の布団に潜り込ませてもらおう。」
「・・ぇ?おい、ゲイル」
と、感心した矢先の、いきなりの発言に抗議しようとする。
「む?君は男だろう?それに自惚れるつもりはないが、
私もそれなりに体は良い線を行っていると思う。」
しかし彼女はそう言いつつ不意に立ち上がり、
「なら・・一緒に寝るのが全くもって不本意とか不愉快とか、
そういう事はないだろうとまぁ、そう思っている訳なんだが・・」
そう言って、俺に体を密着させてきた。
鱗や翼もツンツンした不思議と心地良い感触であったが、
それ以上に白みがかった肌色の柔らかさは、抗い難い感触である。
「えぇ、や、まぁ、そりゃ、いや・・じゃ、ないが・・」
しかし、ここで流されるとまた彼女のペースに乗せられてしまうので、
しどろもどろになりながらも、否定の意を示す。
「む?はっきりしないな・・君ともあろうものが、どうしたんだ?」
しかし、そんな言い方で引いてくれるほど、ゲイルは甘くないわけで。
「受け入れないならすぐふりほどくとか、そういう処置をとるものだ。
でないと、都合の良い勘違いをしてしまうぞ?」
そう言いながら、さらに尻尾を俺の足の付け根に巻き付けてくる。
上下ともに半袖という、割と露出の多い軽装で寝ていたため、
尻尾の感触を肌で直に感じてしまう。
朝の穏やかな陽気の中の、特異なひんやりとした硬質な肌触り。
「や・・それも、あれ、だろ・・?」
すぐさま拒絶するのを躊躇ってしまうそれに対して、
そんな風にしている俺を見、ゲイルはふっ、と笑って片翼を下げる。
「・・なるほどな。
君はつまり・・そういう者な訳だ。」
何がだよ・・口から出ようとしたその言葉は、
「っ・・!」
体を不意に走った快感と、股間に感じる堅い感触にせき止められる。
その刺激の元を視線で辿っていくと、予想通りというべきか、
ゲイルの翼の先が俺のそこを撫でていた。
「ゲイル・・お前・・!」
これは悪ふざけにしても、度が過ぎている。
そう思って軽い怒りじみた感情を短い言葉に込めるが。
「私達は元来、無理矢理男を押し倒して騎乗位にもっていく。
流石に、そんな事を君にしたのでは、
色恋の醍醐味が無くなってしまうが・・」
彼女は聞く耳持たないと言った風で微笑み、ゆっくりしゃがみ込む。
「それでもな?時には、魔物娘としての本能に従いたくなるのさ。」
そしてそう言うと翼の先の爪で一気に、
俺の下半身を覆っていたものを引きずりおろした。
「おい、ゲイル・・!?」
隠すものが何もなくなったそこには、
大きくなりかけている俺のペニスが伸びている。
「ほぅ・・?リロウ、君も満更ではなさそうじゃないか。」
それを見てニヤリと笑った後、ゆっくりと口を近づけつつ彼女は言う。
「・・いや、それとこれとは話は別だろ!」
その独特の雰囲気に呑まれそうになるが、何とか反論する。
すると彼女は微笑みを崩さないまま、俺を見上げてきた。
誘うような色を浮かべながらも凛々しく鋭いその表情は、
長い間目を合わせているとそれだけで惑わされてしまいそうだ。
そんな軽い危機感をも覚える彼女を前にして俺は、
短く、しかし急いで思考を巡らせる。

・・確かに彼女が言った通り、嫌だと言えば嘘になる。
だがしかし、そういう事をするのは。

そして、彼女と視線を合わせないようにしながらこう返した。
「そういうことをするのは、もっとこう・・
色々、段階を踏んでから、だろ。」
すると、ゲイルは。
「・・ふふ・・あぁ・・全く君という人間は!」
そう言って、笑いをわき上がらせた。
俺の腰に添えた手は離していない。
これは何かまだする気だ・・そう思っていると彼女は、
「どうしてそう・・私好みの行動をとるのだろうかなっ!」
そう言って俺を強い力で軽く持ち上げ、ベッドに押し倒した。
「っうぉ!?」
やや驚きつつも、体を起こそうとする。
何とか上半身は起こせはしたものの、
ゲイルに下半身に体重をかけられ、ほぼ仰向けになってしまっていた。
「つぅ・・げ、ゲイル!」
少々の痛みと怒りを感じながら、呼びかける。
すると彼女は四つん這いのまま、俺の体を覆うようにして近づいてきた。
「ん・・どうしたんだ、リロウ・・?」
布団を踏みしめる、のっしのっしという言葉が似合う力強い翼運び、
追いつめるようにゆっくりと近づいてこられるという状況、
場の支配者であるという事を示すように俺の体に触れながらの移動、
何より・・自らが上だと言いたげな、自信に満ちた捕食者の表情。
「なんっ・・!」
それらに、俺は怯まされていた。
俺は人間・・ゲイルはワイバーン。
ワイバーンは人間よりも数十段強い。
強者には、知恵と力なき弱者は従う他はない。
親魔物領だとか、そういうのは関係ない・・
本能からくる感情に駆られて、俺は口すら動かせないでいた。
「フフ・・怖いか?」
そんな俺を優越のこもった瞳で見つめながら、彼女は笑う。
そのようにしながら彼女は、ゆっくりと俺の上半身に体を寄せた。
「ま、仕方ないさ・・」
そしてそう言いながら、俺が立てている肘を優しく翼で折ってくる。
じっくりと力を入れ続ける攻撃に耐えられるわけもなく、
今度こそ俺は、完全にベッドに倒れ込んでしまった。
咄嗟に見上げた先には、彼女の勝ち誇った顔。
見下ろしてくるその様はまさに、獲物を捕らえた捕食者のそれ。
「っ・・」
その顔に、つい俺は震えてしまう。
恐怖からか、それとも・・
「まぁ、安心してくれ・・今回は貞操をどうこうしたいわけじゃない。」
ともかく彼女は、俺を見下ろしながら続ける。
「私に触れられただけでビンビンにしてしまうようなこれを・・
少々、慣れさせておいた方がと思ってな。」
「な、慣れさせる・・!?」
「ああそうだ・・私はデート中、無意識に君と身体的接触を図ると思う。
その度に君が発情してしまっては、素直に楽しめないだろう?
・・無論、襲われても私は構わないのだがな?」
「っ・・・・!?」
最後に付け加えられた言葉は置いておくとしても、
彼女の理論は何となく筋が通ってるように聞こえた。
「・・いや!滅茶苦茶だろ!?」
が、しかし、よくよく考えるでもなく詭弁だ。
そもそも。
「そういうのは生理現象であって、しょうがないことだから!
今してもらっても、してもらわなくても、自然とそうなるんだって!」
そう、その筈だ。
魅力的な異性が傍に居たら誰でもそうなってしまうものなのだ。
そういう意味の俺の発言を聞いたゲイルは、不思議そうな表情を浮かべ、
「む・・?しかし、こうなったものを放っておくのは辛いのだろう?」
そこが見えやすいように体を横にずらした後に、
自らが引き起こした男の生理現象の象徴を尻尾で指して来た。
確かにその通りだが・・
「だけど!それをどうにかするくらいなら自分でも出来るって!」
何も彼女にしてもらう必要はない筈だ・・それに。
「自分の性欲の処理くらい、自分で出来るから・・!」
何とかそれをされる事を避けようと言葉を巡らせる。
こう言えば筋の通った論を展開するゲイルのこと、認めてくれるだろう。
しかしゲイルは何故か、柔らかく笑んだ。
「だが・・それを引き起こしたのは私だろう?」
そして、そう言ってくる。
「あ・・?あぁ、まぁ、そうなるだろうけど・・」
ただの確認ともとれる意図の分からない質問を、俺は肯定した。
すると、彼女の顔は更に上機嫌になった。
「ならば、私が責任を取らなければいけないよな?」
「ぁ、ああ・・ぁっ!?」
答えてからハッとなる。
同時に、しまった、とおもった。
男性器がそうなったことの責任を取るとはすなわち・・
最初に彼女がしようとしてきたことそのものだからだ。
「い、いや、今のは」
慌てて撤回しようとする。
「んん・・?リロウ、男の二言はみっともないぞ?」
「ぅ・・!」
しかし、男のプライドに関わる返し方をされてしまった。
小さいとは思うが、それはそれで大事だ。
「ぅ・・あ・・あー・・」
即座に捨てることなど出来ず、俺は視線を彷徨わせてしまう。
その隙に、ゲイルは俺に顔を近づけて来て・・
「ふふ・・進退窮まったな?」
そう、一言告げた。
その顔は、勝利を確信した微笑みを浮かべていた。
そしてその瞳は、チェックメイト、と言っている。
「・・ああ、そうだな・・っ・・」
吐き捨てる。
流石にここまでされて、何か策を思いつけるほど俺は賢くなかった。
それを見たゲイルは、ふっ、と優しく笑う。
「まぁ、そんな顔をするなリロウ。」
そして体を横にずらし、俺の顔に翼膜を被せてきた。
って、え・・?
「え・・お、おいゲイル・・?」
「ふふ・・まぁ、待っているといい。」
真意を問うために声をかけるが、
彼女から返ってきたのはそんなあやふやな返事だった。
表情を伺おうにも、視界は真っ暗である。
「え・・おい・・」
何とか光を得ようと顔を左右に動かす。
「おいおい・・待っていろと言ったろう?」
しかし、上からやんわりと押さえつけられてしまった。
顔が押し潰されるような感覚は感じないので、
そう強い力ではない筈だが・・
「っ・・く・・」
動かせない。
彼女の力が強いのもあるだろうが、それ以上に、
腕を抑えられているため頭を起こすための力が入れられなかった。
「・・・・・・」
・・それにしてもこの翼は、なんというか。
ややひんやりとはしているが、暖かい空気を閉じこめているからか、
不思議と寒くは感じない。
むしろ、暖かさの中の冷ややかさはやけに心地良かった。
・・それに・・いい匂いだ・・力が抜けるような・・
「っあ・・!」
そんなことを思っていると、股間にギュムッという感覚が走る。
視界は閉じられているため何をされているのかは分からない。
「げ、ゲイル・・」
何をしているんだ、とそういう意味で彼女の名を呼ぶ。
「ふふ・・なんだ、どうした・・?」
しかし、返ってきたのは質問だった。
笑っているのを聞くに、分かってやっているのだろう。
「何を」
しているんだ、と加えようとしたその瞬間。
「ふあ・・っ!?」
俺は、そんな情けない声を上げて下半身を軽く跳ねさせてしまった。
ペニス全体に長い何かが巻き付いてきて、
その何かの先端であろう部分が、かりくびをつついてきたからだ。
「げ、ゲイル・・ぅくぅっ!」
その正体をを確かめようとするも、
先程と同じ感触を何度も味わわされてしまい、
俺はそれ以上の言葉を言うことが出来なかった。
何とか目の前の翼を退けようともしてみたが、
そうする度に同じような快感を与えられてしまい、
意欲と体力はじわじわと削られていってしまう。
しかも、何故か彼女はそれ以上のことは仕掛けてこない。
どうにでも出来る状況だろうに、だ。
「ふふ・・良い反応だ。」
そう思っていると、そんな声が聞こえた・・かなり楽しげだ。
「っつぅ・・」
それに悔しさを覚えて、何度目かの抵抗を試みるが・・
「っと・・逃さんよ、リロウ。」
やはり、いとも簡単に抑え込まれてしまう。
今回はもぞもぞと動けただけで、
傍から見れば何をしようとしたのか分からない程だ。
・・抵抗しようとする力が抜けてきている。
薄々自覚してはいたことだったが、ここまでのものとは。
「ふ・・なんだ、これしきの抵抗なのか?」
喉を鳴らしてゲイルがそう言うと同時に、亀頭がつつかれる。
「っぁっ・・!」
そして俺は為すすべなく体を跳ねさせられる。
この数瞬のうちに決定づけられてしまった方程式のようなものだった。
しかも、そうされることををどこかで嬉しく感じている自分もいた。
・・このままでは、ゲイルに全てを支配されてしまいかねない・・
そう危惧した、次の瞬間だった。
「ん・・?」
視界がやや開け、柔らかな光が差し込んでくる。
目の前には美しい鱗・・彼女が翼を持ち上げたのだ。
・・あのひんやりとした心地いい感触を名残惜しくも感じてしまうな。
どこかぼんやりとする頭でそんな事を思っていると、
また翼が降りてきて視界が閉じられる。
しかし、先程と違って視界の隅の方に明かりがあった。
恐らく隙間が出来て、そこからの光。
しかし・・わざわざ隙間を作る必要があったのだろうか。
ゲイルのこと、失敗したとは思えない。
となれば、やはりわざとしたことになるが・・
と、思案していると彼女は驚くべき行動に出た。

「ふふ・・今度は、こういうのはどうかな?」

そう言い、翼で覆われた俺の横に自分の顔を入り込ませたのだ。
直後翼が俺の頭を包み込むように降ろされ、
再びほぼ完全に視界が閉ざされたのだが・・
息が感じられることから、彼女の位置は俺の至近距離だと分かる。
これはまずい。
何がまずいかというと、この息が生暖かくてくすぐったく、
そのくせどこか心地の良い感じもすることだ。
しかも、その息のかかる部分がまた・・

「んふ・・」「っ・・」

恐らくは、ただの呼吸。
しかし、俺はそんな何の気無しの息にも身を震わせてしまった。
何故かというと。

「んん・・?なんだリロウ、君は耳が弱いのか?」
運の悪いことに、その息のかかる部分がちょうど俺の耳辺りだったのだ。
運が悪い、というのはそれが全くの偶然であったこと、そして・・
「ふぅ〜」「んぅっ・・!」
ゲイルが、弱点を攻めてくる性格であったことだ。
元々俺の耳が弱いのかどうかは分からない。
がしかし、視界を閉じられればそこが敏感になるのは当然といえた。
目が使えないので、他の器官が鋭敏になるという生理的なものもあるが、
「可愛いな・・次はどうしようか・・?」「ぃ・・っ!」
それ以上に、次の行動が予測出来ない、
つまり、全ての行動が不意打ちになってしまうこの状況の為だ。
「ん・・ふぅ〜」「ぅぅっ・・」
息を吐きかけられる。
見えていれば幾分か覚悟できるそれが、
見えないことで十分過ぎる威力になって襲いかかってくる。
「ふっ、ふぅ〜・・」「っ・・!っ・・!!」
不規則に吹きかけられた吐息に、
俺の体は反射的に足をやまなりに跳ね上げようとする。
「おっ、と・・私の脚を舐めていたのかな?」
そんな無意識な反応すらも、
弄ぶようにそう言うゲイルに、余裕たっぷりに抑えつけられてしまった。
「なら・・私も意趣返しをしなければな?」
それだけに留まらず、彼女はまだ何かする気のようだ。
何をするかは分からないが、
これまでとは違うことをしようとしている、というのは分かった。
「っ・・」
思わず身を硬くしてしまう。
何がくるのか分からない、さりとて他に何か出来ることもない。
選んだというより、これしか出来ないからそうせざるを得なかった行動。
「っふふ・・君は本当に可愛いなぁ・・」
そんな俺の動きがお気に召したのか、彼女はそう言う。
直後、俺の頭が持ち上げられた。
下半分が僅かに明るくなった後、また暗くなる。
恐らくは元の位置に戻されたのだろうが・・
「ぅえ・・?」
俺の後頭部、そこら辺の感触が先程と違った。
暖かい筋肉のようなものと・・不思議と痛くはないが、
尖っているというかギザギザというか、
そんな感触が明らかに伝わってくるこれは・・鱗?
と、考えていると。
「ふふ・・どうだ、暖かいか?」
ゲイルの声が聞こえた。
その声音は相変わらずのものだったが・・
「あ、あぁ・・暖かい・・」
俺はそう答えていた。
何故か、彼女の声が暖かく、そして優しく思えたのだ。
例えるならば・・まるで、弟に接する姉のような・・
「そうかそうか・・ふふ、お姉ちゃんの腕枕、もとい翼枕は、
気持ちいいようだな・・うむ、やった甲斐があるというものだ。」
そう思っていると、ゲイルはそう言った。
正直言って恥ずかしい。
男が腕枕されているというのもそうといえばそうなのだが、
今、俺が一番羞恥を感じているのはそこではない。
「・・ゲイル・・お姉ちゃんって何だよ・・」
そう、まるで弟のように扱われているのが最も恥ずかしかった。
まるで、さっき俺が一瞬思った事を見透かされたようで・・
「ん?あぁいや・・リジアンに偶にしてやるのでな。
ついついその時の癖で。」
流石に、そこまでで彼女は鋭くはなかったようだ。
内心ホッとしていると、彼女の息が再び俺の耳元にかかる。
「ふむ・・しかし、少々機嫌を損ねてしまったか。
・・やはり弟扱いは子供っぽくて、気に食わないか?」
「・・ふ。」
やや不安そうな声音。
戸惑いを、と不機嫌と勘違いしたようだ・・ゲイルにしてはらしくない。
意外と言える展開に、つい俺は笑んでしまう。
「む・・なんだリロウ。」
「別に、俺は不機嫌になった訳じゃない。
むしろ・・結構、気持ちいいから好きだぞ、これ。」
素直に言う。
「ん・・そうか・・良かった。」
すると、ゲイルは安心したような声を出した。
「というか、ゲイルって意外とそういうの気にするんだな。」
いつも掴み所がないだけにこういうのは貴重だ、と思いつつそう言うと
「む、今お姉ちゃんを少し馬鹿にしたな?」
返ってきた彼女からの言葉は怒っているようにも思えるが、
語尾は楽しそうに上がっていた。
それに安心しつつ、返す。
「別に、そんなつもりじゃない。
ただ、こういう感じのゲイルは珍しいと思ったから。」
「ほう・・では、君はそんな珍しい私をどんな風に感じたんだ?」
すると、ほとんど間をおかずに質問を投げかけられた。
「え・・」
俺は、すぐには答えることが出来なかった。
「それは・・」「それは?」
一応、時間稼ぎも兼ねてはぐらかしてみるが、
追求してくる彼女はそれを許してくれそうにはない。
「・・・・」
俺は、黙りこんでしまう。
「ふ・・どう思ったんだ、リロウ。」
それを見たゲイルは、愉快そうに喉を鳴らしつつ催促してくる。
「あ〜・・その・・分かってはいるんだが・・」
対して俺は率直に、あやふやな答えを返した。


・・事実、だ。
答え自体はとっくに見つけ出している、というか自分の感情なのだ、
大概、すぐさま見つけること自体は出来るものだろう。
しかし・・内容を伝えるとなると別・・その内容が、問題だ。
大ざっぱに言えば、可愛い、だろうか。
ゲイルの安心したような感じの声が、素敵に思えたのだ。
靄のかかったその先が一部だけ晴れて見えたような、そんな感覚。
飄々としている彼女が見せた、所謂生の感情。
それが・・無論いつも見せているのもそうなのだろうが・・
心を許したものにのみ見せる顔のような気がして、嬉しかった。
彼女の言動から、心を許してくれているのを分かってはいたが・・
実際に触れてみた所、格別な思いをもたらしたのかもしれない。


「・・ほう、どんなだ?」
いつも通りのゲイル落ち着いた声。
しかし今は少しだけだが・・期待がこもっているように思えた。
これを、言葉にするのか・・と思いながら、言葉を選ぶ。
「・・その、なんていうか、嬉しかった・・っていうのか?
生のゲイルをより深く知れた、というか・・」
曖昧な感じをそのままの表現で。
どう考えても拙い、子供じみた感想。
「・・そうか。」
それに対して返って来たのは、そんな短い返事。
顔は見えなかったが、その暖かい声音から、嬉しそうなのは分かった。
それ以外は相変わらず良く分からなかったが。

「あーそれはそうとリロウ?」

とそんなことを考えていると彼女は、何かを切り出すようにそう言う。
「ん・・なんだ?」
どこか楽しむようにも感じたその言い方に、
俺はほぼ完全に脱力したままそう聞き返す。
「あ、いや・・ふふ・・」
しかし、彼女はただそう言って笑うだけ。
少々いらっときたので、
「なんだよ。」
短く苛立ったような声でそう言った。
「教えて欲しいか?」
しかし、彼女から返ってくるのは依然余裕ぶったそんな声。
目を翼で隠されているにも関わらず、
ニヤついているであろう事が容易に想像できる。

・・なんだって言うんだよ。

ますます気に入らなくて、そう言おうとしたが・・

「なんだぁ・・っ・・!?」
俺の言葉はそれだけで止まってしまった。
いや、止められてしまった、というべきだろう。
何故なら俺の股間に
優しい、しかししっかりとした感触が伝わってきたからだ。
「は・・ぁ、くぅ・・!」
身を捩る。
効果など無いのは分かっているが、それでも体が勝手に動いてしまう。
「っふふ・・」
そんな俺の無様を見てだろう、ゲイルは面白そうに喉を鳴らした。
「ぅ・・!!」
翼の先を睨む。
彼女からは見えない、しかし俺はそうしてしまっていた。
「おいおい、そんなに怒らないでくれよ。」
しかも、彼女にバレている。
恐らく、声の調子からだろうか・・もしそうなら色々底知れない。
そう思っていると、彼女は話し始めた。
「いや何・・君が、自分の状況を忘れているように思えてね?」
「は・・?」
その内容にそんなとぼけた声を出してしまう。
忘れている・・?
「ふふ・・ほら、やはり、だ。」
相変わらず、楽しそうにそう言うゲイル。
一体、なんだって言うんだ・・
「君は今私と話してリラックスしているようだ・・」
悩む俺に、彼女はゆっくりと語りかけてくる。
「あ、ああ・・?」
ついつい無意識に、それに耳を傾けてしまう。
それはつまり、俺の感覚が彼女の声を聞くことに集中する。
「だが君は、私に」
言い換えれば・・
「捕まり、目隠しされて・・」
それ以外には完全に無防備になっているということで。

「襲われている、そうだろう?」
ぎゅにゅぅ・・。
そんな音が聞こえたような気がした。
というのは気のせいというのが疑わしいとかそういうことではなくて・・

「あぐぅあぁっ!?」
俺の体に走った快感のせいで、そんな気がしたということである。
頭の後ろ側を目に見えない何かが駆け抜けていくような感覚。
その感覚のもとは、考えるまでも探すまでもなく分かる。
股間だ。
股間から走り腹を駆け上がってきたそれが、頭へ突き抜けていったのだ。
「っ・・んぅ・・!」
悶える。
身を捩るとか、そういう問題ではもはやなかった。
「くっふふ・・あぁ・・君は本当に可愛いなぁ・・」
愉快愉快、という風にゲイルが笑う。
それは客観的に考えれば悔しく、屈辱的な事のはずなのに・・
「ぁ・・くぅ・・っ・・」
可愛い、そう言われたその瞬間、
俺は言い知れない高揚感、もしくは幸福感を味わってしまった。
それに呼応するかのように股間のものが怒張したのが、自分でも分かる。
「うん・・?ほぅ・・」
無論、それが直に触れている彼女に分からない訳がなく・・
「なるほど・・君は、意外に甘えん坊なのかな?」
そう、言われてしまう。
「ち・・ちが・・」
勿論違う。
マザコンでも無かったし、姉妹も居なかった。
それを差し置いても、甘えん坊ではなかったはずだ。
「別に、良いと思うがな・・君に甘えられるのなら、私は本望だが。」
「えっ・・」
なのに。
彼女にそうされると、体はどうしようもなく喜んでしまっている。
「いや・・だけど・・」
遠慮してみる。
しかし俺の心は実際は、股間への刺激と彼女の甘さに蕩けかけていた。
「ほら・・やってみてくれ。」
彼女がそう言うと同時に、股間に全方位からの刺激が来る。
「ぅくぅ・・っ・・」
その刺激で、俺の心は更に揺れる。
今でさえ、支えられているとは言いづらいのに。
「だ・・だけど・・」
何とか踏みとどまる。
すると、彼女は。
「ほぉぅ・・それでこそだが・・ふふ・・」
誘いを蹴られたにもかかわらず、楽しげな笑みを漏らした。
短い付き合いだが、こういう時の彼女は、
まだまだ切れるカードを多数持っているというのを俺は知っている。
「な・・なんだよ・・?」
それが何だか少し怖くも思えて、聞く。
聞いてしまった。
「なら、これはどうだ・・?」
「え・・っ!!」
彼女がそう答えた瞬間、ペニスの根元がキュッと締まった。
しかも、そこから上への刺激も僅かだが苛烈になる。
先端であろう輪っかが、上下に扱いてくる。
「ぁ・・あぁっ・・!」
体が震え、手足が勝手に動きそうになる。
「おっと・・ふふ、動けまい?」
「んくぅ・・!!」
しかし、それは彼女の手足に封じ込まれた。
結果・・
「ぁ・・ぅ・・っう・・!!」
少しばかりの発散されただろう快感すらも手足で跳ね返り、
俺の体全体へと戻ってきてしまう。
「ふふ・・ほらほら・・」
俺の体でそんな快感のピンボールが繰り広げられているのも構わず、
彼女は俺の体を駆け巡る刺激を強めてくる。
根元をギュニュウッと締め付けられ、中程を尻尾の輪に扱かれ、しかも。
「あはぅあぁあっ!?」
今度は亀頭辺りを尖った先端が、ツンツンとつついてきた。
下半身が、勝手に跳ね上がってしまう。
ゲイルですら抑えきれないらしく、俺の体は極僅かながら持ち上がった。
・・あ。
俺は、熱く火照った頭でぼんやりと思った。
出てしまう、と。
「げ・・ゲイルっ・・そろそろ・・」
だから、そう彼女に告げた。
それが、止めてくれというつもりだったのか、
イかせてくれというつもりだったのかは、俺にも分からない。
しかし、どちらにしろ・・甘かった。
「そうか・・イきそうなんだな?」
「あ、ああ・・だから・・!」
それは・・懇願する俺に彼女が・・
「なら、私に甘えてみろ?」
「え・・」
そう言って・・

「でなければ、出させてやらない・・と、どうだ?」
「はぅぁあぁああ・・っ!?」
絶望的な要求と共に、更に刺激を強めて来たからだ。
根元はさっきよりも強く締められ、
そこから先も、ギュッギュッと断続的に締め上げられている。
「あっ、あぅっ、あぁっ・・あ・・っぅ・・!!」
その締め上げるのと同じリズムで俺の体に、
脱力感やら快感やらが走り、情けない喘ぎ声を漏らしてしまう。
しかも・・
「あぁぁあぁあ・・っ・・ぐぅ・・んんぅっ・・!!」
イケない。
快感はもうとっくに限界まで引き上げられ、
体は、すぐさまその溜まりに溜まった欲望を吐き出さんとしているのに。
「くぁ・・っ・・う・・!」
弾けそうになった後、すぐさま引き戻される。
突き抜けた後に来るはずの、あの放出感が来ない。
当然といえば、そうだ・・封じられている。
誤算があるとすれば、その快感の大きさだった。
言うなれば、イきっぱなし。
快感を最大に受けてしまう状態が、続いてしまっているのだ。
「あ・・ああ、あああ・・っ・・ぅう・・!!」
頭がおかしくなりそうだ。
体中が震えている、ような気がする。
もうそれすらもわからない・・頭がぼやけてきた。
「おや・・ふふ・・れろぉ・・っ・・」
「・・っ!!?」
そんな俺に、容赦なく彼女は追撃をかけてくる。
首の後ろを、舐め上げられたのだ。
そのせいで、沈みかけていた精神が持ち上がってくる。
持ち上がってきてしまう。
「あ・・ああ・・っ・・ああ・・?」
そして、そこから感覚が生き返り・・!

「んあっぁぁあああっ・・!!!っ、くぅ・・!」

また、せき止められる。
どうしようもない快感が、体にたまっているのが分かる。
分かる、のに。
体にはそこから更に快感が叩き込まれるのに。
「っ・・はあ・・あああ・・っ!」
イケない。
溜まったものを、吐き出せない。
吐き出す方法は分かっている。
「げ・・ゲイルぅ・・っ・・!」
縋るように、声を絞り出す。
すると彼女はこう言った。
「ふふ・・では、思う存分、甘えてくれ、リロウ・・」
そして止めとばかりに、抱き締めてくる。
「ゲイル・・姉、さんっ・・!」
訳が分からない思考回路から、そんな言葉を吐いてしまった、瞬間。

「ぁ・・!」

弾け、突き抜けた。
体の下から上へ、右から左へ、あるいはその逆か、
それともその逆も、なのか、それは分からない。
でも、そんなことは今どうでもよかった。
頭が揺さぶられ、体が焼かれるような熱さに包まれ、
全身が引っ張られるように伸びきってしまう。
「あああぁあああぁぁぁぁあぁあああああっ!!!!!!」
・・気持ちいい・・のだろう・・それは分かる・・
体がここまで震え弾け、跳ね上がろうとしているのだ。
むしろ・・気持ちよくない筈かない。
いや・・もう・・

「あぁあぁ・・っ・・かはっ・・」
気持ちいいとか・・そういうのじゃ、なくて・・
「あ・・」
まるで・・快感で自分の感覚が・・焼き切れたよう、な・・

「おい、リロウ?」
ゲイルの声が遠くから聞こえる・・
「・・やりすぎてしまった・・か・・」
ほんと、だよ・・
「・・おやすみ、リロウ・・」
それが、意識が消える前に聞いた最後の言葉だった。






・・それから、結構後。
もはや夕方で、デートどころではなくなった頃。
「いやー悪かったよ、本当に。」
「・・全くだ・・」
俺は、まだ少し違和感の残る足腰で布団を運びながら、
ゲイルに毒づいていた。
内容はもちろん。
「あそこまで、する必要無かっただろ!」
あのことだ。
鮮明に思い出せてしまうだけに、恥ずかしい。
「ふふ・・その割には、随分と気持ちよさげだったが。」
「そ・・それとこれとは話が別だ!」
背中からのその声に、語気を強めて言う。
そうでもしなければ、彼女に言い負かされてしまいそうだからだ。
・・しかし・・だ。
あることが気にかかり、振り向いてこう聞く。
「・・なんで、あそこから続けなかったんだ?簡単に・・お前の・・」
しかし、歯切れが悪くなり途切れ途切れになってしまう。
すると彼女は、俺の精液がついた方の布団を抱えつつ言った。
「・・言ったろう。」
「・・え。」
その顔が、少しだけ赤くなっているのに気付き、
俺はつい立ち止まってしまう。
彼女は俺を追い越した後、振り返り言った。
「・・そんな事をすれば、恋愛の醍醐味が無くなる、と・・」
「・・・・」
その顔がまるで、恋する乙女のように思えて、つい俺は見惚れてしまう。
あんなことをされたというのに、だ。
それくらい、魅力的だ。
そう思っていると彼女は歩み寄り、一転申し訳なさそうな顔をした。
「だからな・・あの時は体の昂りからああいう言い訳をしたが・・」
「・・ゲイル?」
そこから、悲しそうな顔になる。
「いくら、君が気持ちよさそうにしていた、とはいえ・・」
「げ、ゲイル・・!?」
「すまない・・どれほど立派なことを言ったって、
結局野性に身を任せた、では・・君に申し訳が立たないな・・」
「・・・・」
後になってから、後悔してしまっているのだろう。
人の事を考えてしまって、自己嫌悪に至っているのかもしれない。
実際、確かにアレはやりすぎだとは思う・・が・・
「・・ゲイル。」
「リロウ・・?」
「確かに、やりすぎだったとは思うけどさ・・」
それでも、ゲイルが誰にでもああいう事をする竜でないくらい分かるし、
実際・・不思議と、嫌ではなかった、むしろ。
「・・でもその・・嫌なわけじゃ、無いから。
というかその・・良かった・・し・・」
目を逸らしつつ、言う。
すると、ゲイルはいつものとは少し違うにこやかな笑顔を浮かべた。
「そう、か・・!」
「あ・・ああ。」
見たことのない輝く笑顔にやや驚きつつ、肯定する。
「うん・・良かった・・」
微笑みを浮かべる彼女。
自分の事へのその微笑みもまた、見たことのない素敵なものだ。
「では・・リロウ・・これからも、その、よろしくな。」
「・・ああ。」
聞いたことがないくらい柔らかいその口調に、俺も笑顔で返す。
「・・うん!」
彼女にしては珍しいその声を聞いて、
もしかしたら全てにおいて余裕のあるように見える彼女も、
実は色々と考えるものがあるのかもな・・と俺は、思っていた。
だからだろう。
「じゃ、行くぞ・・ウンディーネの洗濯屋さんに。」
「ああ。」
そう言って、彼女と一緒に歩きだしながら・・
「それと・・偶にでいいから・・その・・世間話とかしてくれよ。」
そんなことを言ってしまったのは。
自分らしくない格好付けた言葉に恥ずかしくなる。
「・・それはつまり・・デート、していいということかな?」
彼女はというと、もうすっかりいつもの調子でこちらを見てきた。
だが、表情はこれまでよりなんというか・・より素直に見える。
「まぁ・・そうなるな。」
それが眩しかったから、俺はややぶっきらぼうにそう答えた。
すると彼女は、目を閉じて笑って。

「良し・・では、リジアンも誘って姉妹でダブルデート、だな!
祭りもあることだし!」
「・・は?」

俺が予想だにしなかった、天然発言をかましたのだった。
15/06/15 00:18更新 / GARU
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■作者メッセージ
ふぅ・・

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