連載小説
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10.想定外
……?

何だ……?

なんだか、胸元が温いな……

ああ、抱き枕か。抱き心地良いし…

仲に湯たんぽでも仕込んであるのか?最近の枕はすごいな…

待て、私は抱き枕なんか持っていたかな?

…まぁ、良いか…最近眠りが浅かったせいで眠いし…

待て、眠りが浅かったのは何故だったか?

…あぁ、寝袋で寝たからだ。

…なんで寝袋で寝たんだ?

なにか大事な事を忘れている気もするが…

…まあ…眠いし…良いか…

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「……んぁ?」
目が覚めると、見覚えの無い部屋だった。寝袋ではない。そのおかげでぐっすり眠れたのだろうか。
「……ん?」
体が温い。ふと胸元をみると、
「うーん…」
「……」
ロアが苦しそうに寝ている。あまりの事に思考が止まった。
「……!?#&%$!?」
声にならない声を上げ、オリビアはベットから飛び起きた。
「(な、な、ななな…!?)」
どうしてこうなった?昨夜は確か、訓練をして、風呂に入って、ロアを医務室に運んで…
…そうだ、睡眠薬をかがされて、そのまま寝てしまったんだ!クソっ…あいつ…!
ギリギリと歯ぎしりをしていると、ロアも目を覚ましたのか、もぞもぞと起き上がった。
「…ぅ?」
「!!……ロ、ロア、起きたのか…?」
「う…はい、おはようございます…。ん…あれ?」
辺りを見回すと、不思議そうに首を傾げて行った。
「ここは…どこでしたっけ?」
「っ!こ、ここは医務室だ!昨日お前が倒れただろ?それで、そのままここで寝たんだ!」
「あぁ…そういえば…だから、へんにくるしかったのかな…」
「た、多分そうだ!さて、そう言えば昨夜は飯を食っていなかったな。着替えて朝飯を食いに行くぞ!」
「あれ?オリビアさんもゆうべなにもたべてないんですか?」
「(しまった…!)いや、まあ、そう、だな…。」
「そうですか…ごめんなさい」
突然ロアがオリビアに謝った。
「…は?」
「いや、だって…わたしのせいで、たべそびれたんじゃないんですか?」
「あぁ…そんなことか…別に気にしなくてい。」
意外だった。まさか謝られるとは思っていなかった。
こいつは…結構お人好しなのかもしれない。
「…さて、じゃあ、部屋に戻って着替えるか。」
「はい。」

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着替えを終えて食堂に向かう途中、アネットにばったりと出会った。
「あぁ、アネットか。」
「おはようございます。」
「あ、あら、オリビア、ロア、おはよう。」
「…どうした?なんか動揺してるな。」
「いや、その、ここじゃちょっと…食堂ででも話さない?」
「……?」
ここで話せない無いような内容なのだろうか。

「ふぅ…ロア、悪いけど、今日は一人で食べてくれる?」
「?はい…わかりました。」
ロアに、少し離れた席に行ってもらった所で、オリビアが切り出した。
「人払いまでするとは…よほど重要な内容なんだろうな?」
「え…えぇ…まぁ…」
「それで…?何だ?」
「……今朝、の事なんだけど…。」
「あぁ…。」
長い沈黙のあと、アネットがぽつりと話した。
「あなた、ロアと寝てたでしょ?」
「っ…っっ!!」
口に含んでいた水を拭きそうになるのを必死で堪える。
「げふっ、げふっ!な、何を…!?」
「しかし…驚いたわよ…」

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朝の出来事。

「さて、どうしたものかしら…」
アネットは砦内を歩きまわりながら呟いた。
砦内にいるスパイがいる、と言う噂だったが、下手に聞き回る訳にも行かない。
隊員達の士気にも関わる。
「オリビアにでも聞いてみようかな…いや、無駄かな?」
普段から他人との会話が少ない上、噂などには全く興味がなさそうだ。
「…あ、ロアに聞いてみようかしら?」
ロアに話しかける隊員は意外と多い。身長が低い分、話しかけやすいのかもしれない。
「一応、聞いてみようかな?」
確か、医務室で眠っているはずだ。

「入るわよー?」
返事は無い。扉を開けて中に入るが、ロアは見当たらない。
部屋の奥のベットにはカーテンがかかっている。多分あそこだろう。
「ロア?もう朝よ?起きなさ…」
カーテンを開けたアネットは、思わず固まった。
「……zzz……」
「うーん…うーん…」
オリビアがしっかりとロアにしがみついて寝ていた。半分首を絞められたようになって、ロアは苦しそうに呻いている。
「(…冗談だと思ってたけど…まさか、まさか本当だったとは…)」
正直な所、冗談だと思った上で言いふらしていたが、本当だとは思っていなかった。
「(どどど、どうしよう、どうしよう、どう……とりあえず放置!)」
勢い良くカーテンを閉めると、アネットは医務室の外へと飛び出した。

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「今思えば…あまりにも予想していなかったせいで…もったいない事をしたわ…」
「も、もったいない…!?」
アネットは俯き、心から残念そうに言った。
「あぁ…魔法で紙にでも写しておくんだったわ…」
「こっ…この、変態が!ど変態が!」
「何を今更。」
「第一、あんな風にしようと思った訳じゃない!医務室で睡眠薬を嗅がされて、それで…」
「ま、そこはどうでも良いのよね。ぶっちゃけ。」
「くっ……」
悔しそうな表情を浮かべたあと、オリビアは声を潜めて言った。
「…それで…途中であった、教会の…スパイとはどういう事だ?」
「そのままの意味よ。昨日司令室に報告があったの。まぁ、噂ってレベルらしいけど。なにか知ってる?」
オリビアは無言で首を横に振る。
「いや…初耳だな。」
「そ。まぁ、期待はしてなかったけどね。」
「……」
アネットが何気に酷い事を言って来るが、もう慣れた。
「何か、手がかりとかは無いのか?」
「それを今探してるのよ。…今の所、収穫はゼロだけどね。」
「そうか…。」

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朝食を取り終え、ロアに戦闘を教えることになった。
アネットはスパイに関する情報を探っているので今日はいない。

「さて…ロア、もう鎧は着けなくても良いか?」
「え?」
「いやな、言っちゃ悪いが、まだお前の腕じゃ鎧を着けなくても大丈夫だと思うんだ。まだまだ動きは遅いし、剣の軌道も読みやすくてな。」
そう言うとロアは納得したように頷いて言った。
「そう、ですね。じゃあそうしてください。」
才能が無い訳ではないのだろうが、いまいち動きが硬い。回避や防御に関しては多少良くなったが、攻めに関してはどこかぎこちない。
まあ、まだまだ慣れていないのだろう。
「さて…じゃ、そろそろ始めるか。」
「はい。」

木剣を構えると、ロアが素早く飛びかかってきた。連続で斬り掛かって来るのを手と剣を使い、横に躱す。
オリビアが軽く剣を突き出すと、ロアも剣を使って躱した。やはり、回避能力は良くなっているようだ。
手加減しながら何度か剣で突くと、避けると同時に攻撃を仕掛けてきた。
「ほぉ…!」
予想外の攻撃に多少驚いたが、素早く飛び退いて避ける。
「(ふふふ…なかなか良い攻撃だな…だが…)」
ロアは再び攻撃を仕掛けようと、剣を振りかぶった。
「(これは…どうだ?)」
正面に剣を構え、ロアに向かって一気に突っ込む。
「はっ!」
ヒュンっ!と、風を切る音が聞こえた直後、ロアの目の前にはオリビアの剣があった。
「うっ…!」
「…まだまだ甘いな。」
剣を脇に避けると、ロアは気が抜けたように尻餅をついた。
「…びっくりした…」
「はは、仕方ないさ。ゆっくり慣れて行け。」
オリビアが笑いながら言うと、ロアは少し恥ずかしそうに行った。
「うぅ…むずかしい、です…」
「さて、それじゃあもう一度だ。」
「はい!」

数時間後。

「はあ…はあ…」
疲れきってしまったのか、ロアはその場にばったりと倒れ込んだ。
「よし…今日はここまでにしておこう。」
近くに備え付けられていたベンチに腰掛ける。
「ふう…さて、それじゃ軽く水を浴びて…勉強でもするか?」
「ハァ…そうですね…ハァ…そうしましょう…」
「それで…今日はアレだ、その、な。多少粗末かもしれないが、シャワー室に行こう。(あそこなら昨日みたいなことも起こらないだろうからな…)」
「わかりました…げほっ!げほっ!」
「大丈夫か?」
「はい…だいじょうぶです…」

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ザー…

「ふぅ…」
シャワーから流れるお湯が汗を洗い流してくれる。
隣のシャワー室ではロアが同じく水を浴びており、小さくシャワーの流れる音が聞こえていた。
さて、勉強と入ったものの、何を教えたものか…。
…そういえば、やつは魔物の事にもあまり詳しくなさそうだったな…
おそらくその辺りの記憶も飛んでしまっているんだろう。
その辺りもきちんと教えてやらんと…

キュッ
蛇口をひねり、水を止める。タオルで体を拭き、あらかじめ用意しておいた服に着替える。
「ふう…」
シャワー室から出ると、ロアは既に上がっていたのか、扉の前で立っていた。
「あぁ…。すまん、待たせたか?」
「いえ、いまでたところです。」
「そうか…なら良いが。」

昼食をとった後、部屋にオリビアは魔物に関する書物を持って行き、ロアに読んで聞かせた。
比較的わかりやすく、それでいてあまり卑猥ではないものを選んできた。
アウラウネ、スライム、レッドスライム、ゴーレム…
ありとあらゆる種類の魔物達が図付きで載っている。
ロアも興味深そうに聞いていた。やはりこれで正解だったようだ。
ページをめくると…リザードマンのページ。
「あ、これ…」
「ああ…リザードマンだな。」
自分の種族を説明すると言うのはなかなか複雑な気分になる。
「えーと、特徴は…洞窟等に生息するトカゲのような特徴を持った魔物。
運動能力に優れ、様々な武器を使いこなす事ができるため『戦士』として腕を磨くものが多い。
手足が鱗に覆われている他、尾、ヒレのような耳が特徴としてあげられる…」

ある程度の説明を終えると、ロアがぽつりと呟いた。
「オリビアさんとは、すこしちがいますね。」
「…あぁ、そうだな。だが世界で標準的なリザードマンはこっちだ。」
「そうなんですか?」
「…まぁ、あとで教えてやろう。」
「?……はい。」
聞かれるとは思っていたが、実際に聞かれると何とも答え辛い。
「さて、じゃあ次の魔物だ。」
「あ、はい!」

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オリビアの耳はリザードマンよりも、エルフや人間のそれに近い。
人間よりすこし尖ったような形の耳の回りを細かい鱗が覆っている。
手足を覆う鱗も普通のリザードマンと比べ細かく、防御力が低い。
しっぽも細長く、力が弱いため、攻撃にも向かない。
昔は、戦士にはなれないだろうとまで言われた。
幸いにも今は戦士として生きて行く事ができているが…
オリビアに戦闘を教えた師匠も、始めは戦いを教えてはくれなかった。

……あの時、アネットが師匠を説得してくれなければ、今のわたしは存在していないだろうな、
などとぼんやり考えていると、ロアの少し心配そうな声が聞こえた。
「オリビアさん、どうしたんですか?」
「え…あ、いや、何でも無い。大丈夫だ。」
いかんいかん、感傷に浸ってしまった。
…昔はもう関係ない。今は目の前の問題に集中しなければ、な…
11/07/23 17:32更新 / ホフク
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■作者メッセージ
いけないなぁ…ペースが遅すぎるんだよなぁ…腹を切ろうかなぁ…

ああ、ネガティブになってしまいました。失礼!
ちょっと6、7月と忙しくて書く時間が本当に少なかったんです。
…言い訳ですね。次はもっと早く書くように頑張りますので、
読んでくださっている方々、お許しください!

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