連載小説
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9.搬送

「さて…どうしたものか」

三人は立ち尽くしていた。
砦には男湯、女湯、混浴の三つがあったのだが、いきなり風呂に行って使い勝手が解らないと困るんじゃないか、とアネットが言い出したのだった。しかし、女湯や混浴に連れて行く訳にも行かない。
「女湯、混浴じゃあねぇ…」
「ああ。絶対に襲われる」
「そうよね〜。流石にちょっとね〜」
「?」

一人状況を飲み込めていないロアは二人を不思議そうに眺めていた。

「いっそのこと私たちが男湯に行くか?」
「それ、冗談のつもり?」
「当たり前だ」

オリビアが言うとなぜか冗談に聞こえない。

「やっぱり、一人で入ってもらうか?」
「う〜ん…でも、大丈夫かしら?」
「ロア、一人で大丈夫か?」
「だいじょうぶ、だとおもいます」

オリビアがロアに訪ねると、ロアは二人の心配など全く解っていない様子で普通に答えた。

「ほらみろ、ロアだって大丈夫だと言っているだろう」
「うん…そう、ね…でもなんか…嫌な予感が…」
「風呂場で何が起こると言うんだ?」

アネットの心配をよそに、ロア本人はもう男湯に行くつもりのようだった。

「ロア、また後でな」
「はい」

三人はそれぞれ、風呂場へと向かっていった。
脱衣所に向かっていると、アネットが話しかけてきた。

「ところで、オリビア?」
「ん、何だ?」
「ロアの髪が黒くなっていたけど、あれはあなたが?」
「あぁ、そのことか…。朝起きたら黒くなっていたんだ」
「……どういう事?」

不意にアネットの顔が険しくなった。

「いや…昨日もそうだったが、朝起きる度に少しずつ色が濃くなっていたようだが…」
「……そう…」
「…どうした?」
「いえ、ちょっと気になる事があって…ま、大丈夫でしょ」

すぐにいつもの気楽な顔に戻り、服を脱ぎだした。
オリビアもそれに習い服を脱ぎ、浴場に向かった。

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「ふぅ…やはり、風呂は良いものだな」
「……」
「……今度はどうした?」

今度はオリビアの胸をじっと見つめる。

「……相変わらず、でかいわね」
「ん?あぁ、胸か?重くて仕方が無い。少し貰ってほしいくらいだ」
「喧嘩売ってるのかしら?」
「まさか。だいたい、これは胸筋を鍛えたからだ」

オリビアの胸はアネットのものよりも一回り大きい。

「それに、胸で価値が決まる訳じゃないし、そもそも私の胸に興味を持つ奴なんていないだろう?それに、私の胸は…」
「はぁ…もう、いいわ…」

たまにオリビアは女だと言う自覚が無いんじゃないのかと思う。

一方その頃。

「はぁ…」

ロアもまた風呂に入っていた。風呂は貸し切りで、ロアの他には誰もいなかった。
ふと横を見ると、浴室に一つの扉を見つけた。
中に入ると、むわっと熱い空気が漏れる。サウナだった。

「これが、サウナ…?」

昨日アネットから教わったので、サウナの事は知っていた。

「はいってみようかな」

中に入り、扉を閉めてから椅子に座ると、見る見るうちに汗が噴き出して来た。
汗が出てきた事に驚いていると、外から声が聞こえてきた。
誰かが入ってきたのだろうか。

「…い……男…」
「……ウホッ…」

「?」

扉についている窓から外をのぞくと、二人組の男がいた。

「やらないか」

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「ずいぶん遅いな…」
「そうね、何かあったのかしら?」

オリビア達が上がってから15分程が立ったが、ロアはまだ戻ってこない。

「大丈夫かしら…」
「…誰か出てくるぞ」

二人が待っていると、男性兵士が二人出てきた。ずいぶんと仲が良さそうだ。

「……ロアじゃなかったわね」
「そうだな」

さらに10分後。

「あ…また誰か出てきたわよ」

そこから出てきたのは、カラカラにひからびたロアだった。

「ぐぅ…おまたせ…しまし…た…」
「ロ…ロア!?一体何があった…!?」
「み…みず…みずを…」
「ほら、水よ。飲みなさい」
「うぅ…あ、ありがとうございます…」
「何があったんだ…?」
「それが…サウナにはいってたら、おとこのひとがふたりはいってきて…」
「うん、それから?」
「そしたら、そのひとたちが、いきなりだきあって…」
「!??」

全く想像していなかった答えにオリビアは思わず全身を硬直させた。

「へぇ…それで?」
「…っアネットォ!それ以上聞こうとするんじゃないっ!」
「ふたりがでていくまで、サウナにかくれていたら…」
「そうか、大変だったな。とりあえず医務室に行こう。さあ行こう行こう!」
「え、ちょ、もっと聞かせてよ!」
「う…う…そのあとは…ぐふっ…」
「しっかりしろ!今、医務室に連れて行くぞ!」

話を聞きたがるアネットを置いて、オリビアはロアを抱えて医務室へと向かった。

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すぐにロアを医務室に運び、診察してもらった。
いまは隣の部屋で眠っている。

「どうだ?大丈夫そうか?」
「そうですねぇ、軽い脱水症状と精神的なショックが少しあるみたいですけど、少し休めば大丈夫でしょう」
「そうか…良かった」

安心するオリビアを、医療班のスライムがニコニコと眺めている。
いつもオリビアにも気を使ってくれる、オリビアが「任務以外」でも普通に話をする数少ない魔物だった。

「…なんだ?」
「いえ、オリビア隊長、ここ数日で代わったな、と思いまして」
「変わった…?」
「表情が前よりも明るくなってます。肉体、精神ともに健康な証拠ですね」
「そうか…?」
「何か、楽しい事でもありましたか?」
「楽しい事、か…」

少し考えた後、小さな声でぽつり、と呟いた。

「…強いて言うなら…あいつかな」
「……あの子が?」
「あぁ…なんと言うか…」

それまでは、ただひたすらに強くなるため、新魔物派を増やすため、
毎日毎日、訓練と実戦の繰り返しだった。
その生活に不満があった訳ではない。

ーーただ、ロアを見つけてから、生活が少し変わった。
戦い以外の「任務」として、ロアの面倒をもいるのが、楽しいのかもしれない。

「へぇ〜…」
「なんだ、ニヤニヤして…」
「いえ?何も?」
「……」

最近気がつくとこの微妙な笑みで見られるのは何故だろうか。

「あ、やっと見つけた!」
「アネット…来たのか」
「何よそのいい方…」

アネットが医務室に入ると、

「あら、司令官さん。どうしたの?」
「いやぁ、オリビアに置いて行かれちゃって。ロアはどう?」
「あぁ、あの子なら隣の部屋で寝てますよ」
「そう。大丈夫ならいいわ」
「あ、そう言えば司令官さん。さっき兵士さんが探してましたよ?」
「え?誰かしら…?」
「司令室に探しに行くっていってたから、戻ってみたらどうかしら?」
「そうね、ありがと。」

魔女に礼を言うと、アネットは医務室を出て行った。

「…あの子もそろそろ目が覚めるかもしれないわね。そう言えば、精神的なショックって何だったの?」
「あぁ、それがな…」

オリビアが状況を説明すると、とたんにスライムが険しい顔になった。

「しまった…!部屋割りを失敗したわ…!」
「?」

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「(…あれ?ここは)」

ロアが目を覚ますと、そこにあったのは見覚えの無い白い天井だった。

「そうか…あのあと、きをうしなって…」

オリビアに担がれて、医務室に運んでもらったのだった。

「うぅ…ほんとうに…ひどいめにあった…」

先ほどの光景が目に浮かぶようだった。しばらくはサウナに入れそうもない。

「(…ん?)」

近くから何やらゴソゴソと音が聞こえる。

「ところで、俺の……を見てくれ。こいつをどう思う?」

敷居になっているカーテンを開けてみた。

…今思えば、やめておくべきだった。

「すごく…大きいです…」


「ぎゃああああああああああああああああ!!」

「なっ…!何だ!?」
「しまった…!遅かった!」

オリビアとスライムが隣の部屋に入ると、二人の男性兵士がお楽しみ中だった。
その横でロアが気を失っている。

「なんっ…!」
「コラ!あなた達!そう言う事は自室でやりなさい!」
「いや、だって、こいつがホイホイついて来るから…」
「良いからもう戻りなさい!」

スライムに怒られた二人は、慌てたように外へ走って行った。

「お、おい?しっかりしろ!ロア!ロアーっ!」
「……はっ!?」
「よかった…大丈夫か?」
「な…なにか、おそろしいものをみたような…」
「気のせいだ。忘れて今日はもう寝ろ!」
「うぅ…そう、します…」
「あら?じゃあ隊長さんもここで寝て行く?」
「何で」
「え?だってこの子と一緒に寝ているんでしょう?」

少し前にアネットに誤解された話が、いつの間にか広がっているようだった。

「断じて違う!私は寝袋で寝ているんだ!」
「はいはい!良いから寝なさい!」
「うっ…!?」

スライムが霧吹きで変な液体を噴射すると、オリビアの瞼が重くなって行った。
どうやら睡眠薬の様なものをかけられたようだ。

「くぅっ…!なにをっ…!」
「はい、おやすみなさ〜い……」

どんどん意識も薄れて行く。ガクリと膝をついた所で、スライムに抱きとめられた。

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「……はぁ…」

司令室の椅子に深く腰掛け、アネットはため息をついていた。

『私も、噂を聞いただけなのですが…』

「砦に教会のスパイがいる、か…」
11/05/10 19:11更新 / ホフク
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■作者メッセージ
ギャグ多め、ラストに少しシリアスな話題を入れてみたZE☆
あと、没ネタを入れるつもりが、入れ損なったZE☆
おまけに、また一ヶ月近く開いちまったZE☆

ごめんなさいっ!

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