連載小説
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11.指令
『お師匠様!私も、私もつれてってください!』

『駄目だ。お前はここに残れ。』

『なんでですか!私が、普通じゃないからですか!?』

『違う。まだ未熟だからだ。』

『だから、お師匠様にもっと教わりたくて…!』

『駄目だ。』

『お師匠様ッ!』



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「ん…」
「あ、オリビアさん。おはようございます。」
夢から覚めると、ロアの声が聞こえてきた。
どうやら夢を見ていたようだ。
まだ頭がぼんやりしている。
「あぁ…起きていたのか」
「はい、私も5分程前に目が覚めた所です。」
「そうか……ふぁあ……」
早いもので、ロアを発見してからもう一週間が経った。
戦闘はまだまだだが、言葉は相当上達した。もうかなり流暢に話せる。

朝食をとろうと食堂に向かう途中、アネットに会った。
アネットはオリビアに近づくと、小さく呟いた。
「オリビア、あとで一人で司令室に来て。」
「なに?」
それだけ放すと、すぐに行ってしまった。
「じゃ、あとで…」
「あ、おい…」
一体なんなのだろう?

いつものように、朝食をとる。
「ロア」
「なんですか?」
「今日の訓練なんだがな、先に素振りか何かやっててくれるか?」
「はい。…どうかしたんですか?」
「いや…アネットに呼び出されてな。」
「何の用事ですかね?」
「さあな…」
まあ…どうせろくな内容じゃないだろうが…

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司令室の扉を叩くと、中からアネットの声が返ってきた。
「入って。」
心無しか緊迫した声に聞こえる。
「どうした?」
「…悪いけど、鍵閉めてくれる?」
「あ、ああ…」
…何かあったのだろうか。普段のアネットとは違う。
「それで、どうした?」
「あなた、ロアを見つけた時のカナック村の様子って覚えてる?」
「村の様子?」
「ええ、破壊されていたって聞いたけど、具体的にどういう風に?」
具体的に…
「そうだな、村の中央にあった太い木が根元から折られていた。
それから、民家はほとんど崩されていて…」
「その、民家の崩され方ってどうだった?」
「そうだな、ほとんどの民家は突風か何かで崩された様だったが…そうだ、幾つかの民家は魔法かなにかで破壊されたような…」
「そう、それ!どんな風だった!?」
急にアネットが身を乗り出して聞いて来た。
「な、何だ急に……凍結しているものもあったし、燃えている物もあったな。見た感じは魔法の類いだったと思うが…」
「……やっぱり…!」
片手で頭を抱え、アネットは椅子にどっかりと座った。
「おい、どうしたんだ?」
「…教会が、新しい兵器…魔法を操る兵器を作り出したって言う情報があったの。」
「……何だと?」
「教会って言えば…殆どが反魔物派の人間でしょ?」
「ああ…そうだな。」
「だから魔物と実際に関わる人間となると、大抵が最前線で戦う兵士よね。」
「まあ、魔物が悪だ何だと喚き散らしているやつ程、魔物を見た事が無かったりするからな。」
「そう。だけど、最前線で戦う兵士達は大抵捕虜になるか、激しい戦闘ならば…命を落とす。」
「…何が言いたいんだ?」
「つまり、教会の人間で実際に魔物と長時間関わっている人間は少ない。つまり全体的に魔物から受ける魔力も少ない。」
「……」
「だから、強い魔力を持つ人間は、教会には殆どいないの。」
「……そうなるな。」
「あなたが言っていた様に…村が魔法で破壊されていたとしたら、教会の新兵器って話も納得できる。」
「……教会側に、たまたま魔導士が居たんじゃないのか?金で雇ったのかもしれない。」
「今現在この辺りで残っている教会は、北西にあるファナト教会だけ。あそこは魔導士も魔物の一種として見ているからその可能性は低い。仮にそうだったとしても、カナック村みたいに小さな村を攻める為にわざわざ魔導士を雇うなんて割にあわないわ。」
「兵器だとしたら…マズいな。」
現在魔法を使える者は、魔物であれば男性を魅了したり、日常生活で使ったりなどと、魔法を殺戮に使うような物はまず居ない。
人間で魔法を使える物は、近くに強い魔力を持つ魔物がおり、使い方を指導してくれるので問題ない。
しかし、教会が魔法を「兵器」として使用したとしたら…
「ええ、軍だけじゃなくて、民衆にも被害が出るわ。」
魔法は使い方によっては、何よりも恐ろしいものとなる。
加減を間違えれば、自らの肉体を破壊する物まである。
「そこで…あなたたち第一部隊にはカナック村で破壊された民家の調査を頼みたいの。行ける?」
「…わかった。他の隊員にも伝える。出発は明日になるが…」
「ええ、それで構わないわ。ゆっくり準備して。」
「了解した。」

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隊員たちに明日カナック村に調査に向かう事を伝えたので、訓練中のロアにあいに行った。
ブンッ!ブンッ!と、風を切る音を立てながら、ロアが剣を振っている。
「ロア。」
「あ…ハァ…オリビアさん…ハァ…用事は、終わったんですか?」
「ああ、その事なんだがな……」
「はい?」
「明日、任務で少し出かける。いつ帰って来れるかはわからんが…まあ、そんなに時間はかからないだろう。早ければ明日のうちに帰って来れる。」
「そうですか…。危険な任務なんですか?」
「いや、調査だから、そんなに危険ではないだろうな。」
「そうですか。良かった…。あ、それでは、訓練の方は…」
「ああ…そうか。それじゃあ、とりあえずは素振りを200本と、腕立て、腹筋、背筋20本を3セット。勉強はアネットに見てもらえ。」
「はい。」
聞いた内容をロアが急いでメモする。文字の練習も兼ねてとアネットが持たせたのだが、相変わらず字はヘタクソだ。
「それから…そうだな、誘惑されても簡単にその気になっては駄目だからな?」
「あはは、それくらいはわかってますよ!」
「フフ、そうだったな。」
この一週間でロアもここの生活に慣れてきた。
誘惑されそうになったら急いで逃げるし、夜はあまり外に出ないようにしている。
「後は……とりあえず、困ったらアネットを頼れ。」
普段無茶を言って来るんだ。多少押し付けても構わないだろう。
「はい、わかりました。」
内容を描き終え、ポケットにメモをしまった。
「よし。それじゃ、訓練の続きだ。剣を取って来るから待っててくれ。」
「はい!」

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その日の真夜中。

「……」

暗がりの中、誰かが窓を開く。
手にはペンと紙が握られている。バサバサ、と音を立てて何かが飛んで来る。
真っ白なフクロウだ。足にくくり着けられたものを外して、そこに描いてある文章を読む。

『こちらの準備は整った。後はお前が誘い出すだけだ。早急に準備を進めよ』

内容を読み、ふっと鼻で笑うと、手に持っていた紙に文章を書き始めた。

『準備は既に整った。明日、カナック村に魔王軍の部隊が調査に向かう。
残りの準備はそちらに任せる。』

描いた文をフクロウの足にくくり着け、空に放す。

これで良い。

全ての準備は整った。

明日が待ち遠しい。これでこの砦も終わりだ……!
11/09/20 07:37更新 / ホフク
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■作者メッセージ
皆様、お久しぶりです。毎度の事ながら、更新が遅く、誠に申し訳ありません。
それにしても今回は…短い上に説明ばっかですねw
完全に自分の中での妄想ですので、そこまで深く考えないでも良いです。

さて…次はもうちょっと早く更新したいなあ…
では、次回を気長にお楽しみに!

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