連載小説
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♥はじめてどうし、ふたり
 柔らかくて、甘くて、暖かくて、どきどきする。
 ハグは好きな人と三十秒間するだけでストレスがなくなるらしいけど、そんなことは研究するまでもない事だと思う。これを口実にいっぱい抱きしめたり抱きしめられたりしたかったのかな。それならわかる。

「……ふふ。鷹見くん、すっごいどきどきしてるね。どう?」
「爆発しそう……」
「爆弾なの?ふふふ、鷹見くん爆弾だね」

 ベッドに腰掛けながら、立ってるはるさんの腰に抱きついてる。頭の上にはるさんの大きな胸が乗っかってる重量感はあるけど、残念なことに胸の柔らかさを十分に感じ取るのは頭には荷が重かった。
 その代わり、はるさんが後頭部を優しく撫で付けてくれているのには敏感だった。髪を梳くように上から下へ流れていくはるさんの青くて細くてやわっこい指。背筋がぞくぞくするのに、なんだかとても安心する。胎内回帰願望ってやつか。

「鷹見くん、猫っ毛だね。茶色に染めたりとかはしない?」
「しない、と、思う……してほしかったらするけど」
「ん、しなくていーよ。それも鷹見くんの良さの一つなのです」
「ん……」

 お返しってわけじゃないけど、はるさんの髪を指で触ってみる。彼女の髪は長いから、ちょっと腕を腰から上に動かすだけで簡単に見つかった。

「すごいサラサラしてる……なんだろ」
「髪ですねー」
「そうじゃなくて……なんか。サラサラでふわふわな……シルクみたいな」
「えへへ、すーぱーりっちしゃいん?」
「ああー……」

 ああいう感じだ。髪の毛一本一本が水のように流れていって、それなのに手に持つとふんわりしてる。あんまり触ってるのもよくなさそうなので、髪から手を離す。
 再度彼女の腰に腕を回す。なんていうか、こうしてるとはるさんを独占してる気になる。彼女は俺のものだって、誰も見てないけど。

「私だって、女の子だから。髪の毛は命だもんね」
「なるほどなぁ……」

 もん。可愛い。
 会話が途切れ、彼女が頭を撫でてくる音と二人の呼吸と、自分の鼓動だけが室内で聞こえるものになる。きっと今、すごいだらしない顔をしてるだろうな。めちゃくちゃ幸せだ。このまま死にそう。幸福死しそう。
 そんなことを思ってると。
 ぎゅるる。
 額をくっつけてるところから、可愛らしい音が鳴った。

「……お腹すいた?」
「……わりと」

 はるさんのお腹に顔を埋めたまま聞けば、恥ずかしげなはるさんの返事。ちらりと横目で壁にかけてある時計を見ると、もう夕飯時だった。え、そんなにずっとくっついてたのか。ちょっとビビる。時が加速してるんじゃないかと思った。いや、確かに天国に行きそうだったけどさ。
 今の時刻を知ったことでなんだか自分までお腹が減ってきて、はるさんのお腹から頭を離して立ち上がろうとして。

「だーめ」
「え?夕飯――」
「もうちょっとだけ」

 はるさんに肩を軽く抑えられて、再びベッドに座り直す。そうすると今度は、はるさんの方からきゅっと抱きしめてくる。はるさんもベッドに両膝をついて、座りながら抱き合う形。胸の間ではるさんの形の良い巨乳がぐにぐに押し付けられて、俺の動きが固まる。鼻孔に入り込んでくるはるさんの匂いが、余計に意識させてくる。
 こっちが顔を真っ赤にしてるというのに、はるさんはお構いなしに顎をこちらの肩につけて両腕を背中に回してきて。くっついてる、って感じがする。イチャついてる。すごいイチャついてる。

「あったかい。ん、鷹見くん爆弾が爆発しそう」
「さっきからずっと、秒読みっつーか……」
「ふふ。幸せ?」
「めちゃくちゃ幸せ」
「よしよし……」

 そうしてまた、はるさんは後頭部を撫で付けてくる。はるさんのグラマーなお尻がこっちの膝の上に置かれていることに気づいて、ああこれやばいな、と漠然と理解した。これ、たぶん、夕飯は後回しになってしまう。
 家に帰ってきてああ言われて抱きしめて、しばらくして落ち着いてとりあえず荷物を部屋に置いて。それから、どうしてこうなったんだっけ。やばい、マジでこうなったきっかけが思い出せなくなってる。危ない薬なんじゃないか、幸せっていうのは。
 でも、まあ。自分は男であって、男はこういう状況に対してはバカみたいに素直だ。さっきから生唾が止まらない。

「ね」

 急に身体を離して、半ば膝立ちで見下ろしてくるはるさん。
 はるさんの声の雰囲気が切り替わってる。湿ったような、絡みついてくるような声。そういう、あれな雰囲気を醸し出してる声。

「……したい?」

 頭をがつんと殴られた気がした。気がしただけで、実際は自分が勝手に身体を揺らしただけだけど、でもそれくらいの衝撃が今の一言にはあった。くすくすとはるさんは笑う。恥ずかしい。
 エロ本とかでそういう描写は見たことあるけど、実際言われてみるとパワーが違う。立場は対等なはずなのに、はるさんだけがどんどん俺の行きたい道に先回りしていって、俺は彼女の差し出す手に助けられてる……みたいな。今の一言にはそういう力があった。

「……まあ」
「ちゃんと言って?ね。したいって」
「ぅ……したい」
「何を?」

 え、待ってそこまで言うの。こういうのって普通男女逆なんじゃないの。さっきからずっと恥ずかしい目にあってるぞ俺。はるさんは満足そうだけど。
 でも、言う。彼女の前で、もう逃げたくないし。

「……え、えっちしたい。はるさんと」
「うん、よくできました♥ いい子いい子……♥」

 やわやわと頭頂部を撫でられながら、はるさんの心底嬉しそうな可愛い笑顔を間近で眺められる。なんだこの人。悪魔だな。そりゃ堕落する。

「ね、目……閉じて?」
「え、あ……」

 首を傾げながら、可愛くおねだりするはるさん。言われるままに目を閉じる。だいたい察しはつく。口をとんがらせたりはしないように気をつけ、て。

「ん……」

 軽く。
 本当に、触れるくらい軽くだった。唇に柔らかいものがちょっと当たって、そこからじんわりと甘い痺れみたいなものが広がっていって、かと思えばすぐに唇が離れていった。
 恐る恐る目を開くと、頬を赤くさせながらも緩んだ笑顔のはるさんと目が合う。

「……どう、かな」
「な、なんていうか……よくわかんないけど、なんか、すごい」
「私も……なんだろね、えっと……うん。幸せだ。えへへ」
「っ、……えと、」
「うん。ん」

 何も言ってないのに、今度ははるさんが目を瞑った。しかも、ちょっと唇を尖らせて。本当に何もかもを見透かされている気がした。
 ちょっと首を傾けて、鼻が当たらないようにする。こういうのなんて言うんだっけ。斜交い、だったっけ。顔を近づけて目を瞑って、そっと優しく唇を合わせてみる。

「ん……」
「ちゅ……ふふ」

 ちゅ、って音が鳴った。本当にこんな音出るんだ。感動する。本当にたどたどしいものでちょっとしか合わせてないものだけど、これだけでもかなり体中にぞくぞくが走り抜けた。
 こういう雰囲気、すごく良い。手探り手探りだけど、少しずつ互いに前進していってる。

「私ね、けっこう理想高い女と言いますか」

 はるさんがそっと指をこっちの唇につけてきて、むにむにと弄ってきながら話を切り出してきた。ちょっと黙っててね、ってことなのかな、これ。もしくは手持ち無沙汰なのか、それともスキンシップが楽しいからなのか。

「初めてするなら、初恋同士がいいな……って、夢見てた」
「……」

 そんな低い理想なら、今の俺は十分に当てはまってる。初めて自覚した、異性への恋心。これははるさんだけのもの。……恥ずかしくてこんなこと言えないけど。まあ、彼女なら察しが付いてるだろうし。
 はるさんは俺の唇から指を離し、俺の唇が触れていた部分をはるさん自身の唇に近づけ、同じように触れる。

「ファーストキス、だね。ふふ」
「――っ」

 やばい。
 恥ずかしげに笑うはるさんもかなり良い。照れながら背中の黒い翼をわさわさ上機嫌そうに動かして、見た目だけなら威圧感あるんだろうけど、でもはるさんはひたすらに可愛い。
 ぺろっと舌が唇全体を湿らせて、はるさんは一旦ベッドの上に腰を下ろす。はるさんの頭の方向に、自分が普段頭を置いてる枕がある。
 あれ、これ。ああ、どんどん後に退けなくなってる。これがなし崩しってやつか。逆らえない流れだ。

「ほら、鷹見くん。私のファーストキスを奪った感想を二十字以内に述べよー」
「え……嬉しい、とか」
「花丸上げちゃおう。ん」

 随分甘い採点基準らしい。ご褒美とばかりに、再度はるさんは唇を尖らせて目を瞑ってくれる。頭を斜交いに傾けて、はるさんの肩に手を置いて。今度は長めに、ソフトキスしてみる。
 ……さりげなく肩に手を置いたけど、これもやばいな。細くて柔らかい。

「んむ……」
「ちゅ……んふ」

 彼女も嫌がらず、そのままキスだけを楽しむ。唇を押し付けあってるだけって行為がこれほど素晴らしいことだなんて思わなかった。じりじりと唇から発生した幸せ要素が体中に行き渡っていく。陶酔感、という言葉が頭に浮かぶ。そうか。こういうことか、陶酔感って。
 どっちからということも無く自然に唇が離れて、息継ぎのために呼吸して。余韻なのかな、これが。いいものだ。

「ん、はぁ……キスってすごいね。ね」
「すごい……抜け出せなくなりそう」
「迷路みたいな感じかな」
「かも。はるさんの迷路から出られなくなってる」
「ふふ。おいでませ?」

 両手を広げて、はるさんは誘惑してくる。この誘惑に勝てる迷路の勇者なんていないと思う。
 誘われるがままにまた抱きしめて、はあと安堵の息が出る。この人、とことん甘やかしてくれるんだな。出会った時からわりと甘やかされてた気もする。背中をぽんぽんと撫でられ、受け入れられて。

「デーモンって、たくさんいる魔物の中でも、ほら、けっこう見た目怖いでしょ」
「……はるさんはそうでもないよ」
「鷹見くんはね。今はこういう可愛い服着てるし。でも、ちゃんと正装したデーモンさんは怖いんだぞー。鷹見くんには見せてあげないけど」
「そスか」
「見せないのだ。でもやっぱり、ほら」

 はるさんは手を取って、指を絡めてくる。細い指に小さい手。
 肌色と、青肌。縞ができて、それを二人で眺める。

「この肌の色、実はあんまり好きじゃなくて。おしゃれするときに色の取り合わせが悪いし、可愛くないし」
「ああ……」

 女の子だもんな。お洒落に響いてくるのはなかなか辛そうだ。だけど、こんなことを言っててもはるさんの手はとても暖かかった。

「ふふ、だからね。まるごとひっくるめて告白してきた鷹見くん、すごいよね。びっくりしちゃった」
「アレは……別に、必死だっただけだし」
「知ってる。なんて言えばいいのかすごく考えてた顔だったもん」
「……その割には、あんな事しか言えなかったけど」
「そんな事でも、私にとっては大した事だったよ。とっても嬉しかった。惚れちゃったね」

 はるさんの人差し指と中指が立って、ぶい、と小声で呟くはるさん。
 正直、もうアレは黒歴史認定しちゃいたいくらいだ。堂々と胸を張れる告白じゃない。
 
「ね」

 また、絡みついてくるような小さな声。後ろ髪を引かれるように鈍く身体を離していきながら、はるさんと絡ませてる指はくっついたまま。視線が同じくらいで、見つめ合って、目を離せなくて。彼女の黒が基調の赤い目も、怖いというよりは魅力的に思えた。

「キスだけじゃ、満足できないよね」

 潤んだ瞳。蠱惑的な笑み。繋いだ手と手。ごくりと唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。

「押し倒される、っていうの、一回やられてみたかったんだ。ね、私の恋人さん」
「……」

 突然呼び方を変えるのはやめてほしい。悪くないけど。むしろ良いけど。
 繋いでいた手を離さずに、はるさんの肩を掴んだままの手でそっとはるさんを押す。押し倒すっていう行為がよくわかってない童貞なもので、せめて嫌がられないよう痛くしない程度の力加減。優しく、押していく。
 はるさんは抵抗しない。微笑んでなされるがまま、押されるがままに倒れてくれる。そうして一緒に倒れこみ、覆いかぶさる形。肩に置いていた手は、腕ごとはるさんの頭の横に置く。壁ドンみたいな。床ドンかな。そんなもんはない。

「ふふふ♥ 押し倒すじゃなくて、寝かしつける、だね?」

 確かに。押し倒すのって、たぶんもうちょっと乱暴にやるんだと思う。今のは子どもをあやすみたいな感じだった。

「……いや、その。なんていうか」
「優しいね、ゆうくんは」

 ゆうくん。
 良い。鷹見くんって呼ばれるのも良かったけど、下の名前で呼ばれるのはより親密になった気がする。今のは優しいんじゃなくてチキンなだけだ、って訂正は悲しいからしない。
 はるさんは繋いでいた手を離して、頬を撫でてくる。

「今わかったんだけどね」
「はい、……うん」
「ふふふ。あのね、なんだろ。押し倒されるの、たぶん思ってたものと違うんだろうね。今のこの状態が、私の考えてた押し倒されるってやつだ。これ、どっちかっていうと覆い被さられてるって言うよね」
「ああ……だね。たぶん」
「可愛いなぁ、ゆうくん。ふふっ」
「あの、可愛いって言われるのけっこう複雑……」
「そう?可愛いんだけどなぁ」

 撫でる手つきだった手が、今度は頬を突いてくる。男の頬はそんなにさわり心地のいいものじゃないと思う。脂肪少ないし。
 はるさんの頬は、こうして見るとすべすべで綺麗な肌だなって思う。それに、ぷにぷにもしてそうだ。今度触ってみようかな。今は、けっこうそれどころじゃない。かも。

「ゆうくん」
「ん……」

 唇を突き出してくる。四度目のキス。今度は音はしなくて、重ねあわせるだけのキス。
 少しだけ唇を合わせて、ゆっくり離して。一緒のタイミングで目を開けて、にっこり笑うはるさんにつられて、思わずこっちも笑ってしまう。キスってすごい。

「私の友達の話とか聞いてて、えっちってもっとガツガツいくものなんだろうなーって思ってた」
「あー……魔物さんと人のカップルってそういうものらしいね」

 ガツガツいかないのは、単に俺が臆病なだけだと思う。はるさんに嫌われたくないから、はるさんに許可されたことをしてる。キスも、押し倒すのも。たぶんこれから先も。
 はるさんは嬉しそうに微笑んだままだ。そういう俺をわかってる、って顔。

「私はガツガツいくのより、こうやってちょっとずつ進んでいく方が好きかも。せっかくの初恋だから、じっくり味わって食べてかないとね」
「俺は、一番好きなものは最後に残しておく方……かな」
「そうなの?好きに食べていいんだけどなー」
「……じゃあ、その。はるさん」
「うん」

 片手をシーツの上から離して、躊躇うように中空を彷徨わせて。はるさんの許可が出たから、布を押し上げてるはるさんの胸に手を当てる。

「ん……っ」

 触るだけのつもりだったのに、布越しでも吸い込まれていきそうなほどに柔らかくて、力が込もってしまう。大きい。手に収まらないくらい大きくて、柔らかい。ちょっと固い感触はあるから、たぶんこれがブラジャーなんだろうけど、それを込みでも柔らかすぎる。夢中になってしまう。
 感動してる。し、興奮もしてる。

「ふふ。おっぱい好き?」

 嫌いな奴はいないと思う。答えられないけど。
 手を動かして、側面から支えるようにして触ってみる。ぽよぽよしてる。水風船、って言われてるけど、水風船で遊んだことがないのでいまいち想像できなかった。でも、ニュアンスはだいたいわかった。風船を水で満たした感じ。なるほど。
 はるさんはそんな俺の様子を見ながら、嬉し半分困り半分で苦笑する。

「もー……夢中になってる」
「えっと、……嫌だったら、言って」

 なんか言わなきゃと思って、歯医者さんみたいなことを言ってしまった。痛かったら手を上げてくださいって奴。痛い時はもう痛くなってるから、手を上げても遅い。しかもやめてくれない時もあるし。
 そんなことを考えながら、手は更にはるさんのおっぱいを堪能する。指が沈み込んで、指の形に胸が歪んでいく。あんまり力入れすぎない内に緩めて、反発してくる感じも楽しむ。これもやばい。女の子の身体は不思議でいっぱいだ。キスもおっぱいも。夢中になる。

「んふ……ん、ぁ」

 撫でるように先っぽのほうへ動かしていくと、はるさんから色っぽい声が出る。やばい。これって、はるさんの感度が良いってことだよな。俺がテクニシャンってわけじゃない。巨乳で感度も良いって、とてもやばいな。段々語彙がなくなって参りました。そんな余裕が無いんだよ。
 そのまま手を動かして、なんとなく先端の予想をつけながら全体を撫で回す。しっとりとした反発感。柔らかいのに弾力がある。できれば服越しじゃなくて直接触りたいし見たいけど、物事には順序がある、よな。

「ふ、……ぁ、もう。ね……」
「……ん」
「ん、ちゅ……」

 キスを求めて目配せしてくるはるさんもすごくエロい。要求されたからにはお望み通りキスしてあげて、気の済むまで唇合わせてから顔を離して。それから、少し名残惜しいけどおっぱいから手を退ける。キスが一つの区切り、みたいになってるな。
 余韻を味わいつつ、はるさんの視線が俺の身体の方に向いてることに気づく。

「その、言いづらいんだけど……当たってるよね。さっきからずっと」
「え、……あ」

 はるさんの太腿を跨ぐように、片膝を斜めに立ててる姿勢。これ、わりと密着してるんだ。今更気づいた。さっきからずっと、はるさんに当たってたらしい。
 慌てて腰を浮かせようとすると同時に、

「待って」
「うわ、」

 はるさんの尻尾が腰に巻き付いてきて、細くてしなやかなのにビクともしないくらいガッチリ密着させられる。はるさんの太腿に、股間が押し付けられる。うわ、こっちもすごい柔らかい。下は正直だ。そうじゃなくてだな。

「嫌じゃないよ。すごく嬉しい」
「いや、恥ずかしいんだけど……」
「だーめ。あのね、私もけっこう怖かったんだよ?嫌がられてないかって」
「え、嘘」
「なに、その意外そうな顔ー。これでも大切にしてるんだからね、恋人さん」

 耳をくいくいと引っ張ってくるはるさん。これは普通に痛い。
 でも、と彼女は付け足して耳から指を離す。

「でもね、ここはずっと嫌がってなかったよね。キスする度にぴくぴくしてたし、硬いままだった。あー鷹見くんも私と同じで興奮してるんだなーって、わかりやすくて嬉しかった」
「……嘘はつけないもんで」
「だから嬉しいんだってば。隠さないで離れないでほしいし、できれば私の手元に置いときたいくらい」
「それはちょっと……」

 トイレの時とかに困るな。はるさんにずっとベタベタひっつくのは、吝かじゃない。

「硬いのって、私が好きじゃないとならないよね」
「まあ、うん。嫌いな相手だと、こうはならないと思う」
「だよね。いいなぁ、わかりやすいのってすっごく好き。ね、ゆうくんは?」
「俺はどっちかというと、こいつに振り回されてる感じ……。なんでもない時にこう、なったりするし。突然」
「そうなの?今はなんでもない時じゃないよね」
「えーと……興奮してる時、かな」
「うん、うん……嬉しいな。ね」
「ん……」

 キスをねだるはるさんに答える。ああ、本当だ。キスするたびにぴくって反応してるわ。めちゃめちゃ恥ずかしいけど、これは抑えようもない反応だから諦めるしかない。はるさんは気に入ってるし。
 顔を離して、互いに無言でしばらく見つめ合う。はるさんの頬、赤くなってる。目が潤みっぱなしで、ずっと微笑みかけてくれてる。
 自慢できる。俺の恋人は誰に見せても自慢できる、美人で可愛くて良い人だ。断言してもいいはずだ。

「……はるさん」
「うん……」

 名前を呼ぶだけで、俺が何をしたいかを察してくれる。彼女はきっと何を求めて許してくれるんだと思う。だけど、はるさんが言ったように、彼女を大切にしたい。ただいまって言えばおかえりって言ってくれる、初めての恋人だもんな。大切に大切に、少しずつ味わっていく感じ。
 片手をはるさんの身体の方へ動かし、脇腹をそっと触る。うわ、柔らか。内臓があるからなのか、押し返す弾力は強い。はるさんの全身柔らかいな。なんなんだ。全身ミルフィーユかよ。

「ぁは、ちょっと……そこはくすぐったいよ」
「脇腹ダメなんだ、はるさん。いいこと知った」
「ばか」

 でも今はこしょぐりたいわけじゃない。そこから下へ動かしていって、腰に触れる。もう少し奥に手を動かせばお尻に触れる。だけど、そうしない。
 少しずつ、味わっていく。

「ん……ぅわ」
「……」
「ちょっと……」

 太腿まで表面を撫でるように手を動かして、敏感に反応するはるさん。太腿は服に覆われてないから、急に刺激が強くなったのかな。むにむにとした太腿の表面をなぞるように、優しく撫で回す。
 はるさんは口に手を当てて声を抑えてるけれど、ぴくって少しだけ震えるのは抑えられないようだ。

「んふ……ね。楽しい?」
「けっこう。楽しい」
「そうかなぁ……」
「はるさんは、気持ちよかったりしないの?」
「気持ちいいっていうか、うんと……撫でられたところ、ぴりぴりする感じ。嫌、じゃないんだけど……」

 言葉を濁して、恥ずかしげに黙ってしまうはるさん。ああ、なるほど。甘えさせられてるなあ、俺。
 太腿から手を離し、はるさんに顔を近づける。区切りのつもりで。

「んちゅ……ん。ね、服ってどうしよっか……どうすればいいかな」
「脱ぐ、かな……汚れたり皺ついたりしそう」
「やっぱそうだよね……うー、ちょっと離れがたい」
「わかるけど……」
「うん……したいもんね。私も」

 そろそろ辛くなってきた、っていうのは二人とも共通だった。
 示し合わせたかのようにベッドから立ち上がって、示し合わせたかのように後ろを向き合って服を脱ぎ始める。ワイシャツのボタンを外すのが煩わしくて、数個外したところでシャツごと脱いで大雑把に畳んで放り出す。後ろから聞こえてくる衣擦れの音がよくわからないけど恥ずかしくて、ささっとベルトを外してズボンを脱いで畳む。トランクスは、見られたくないなって思ったのでズボンの下敷きにする。
 そうして先に一人だけ裸になって、後ろの衣擦れが止むのを待つ。待つと言ってもそんな時間かかるものじゃないけど、ドキドキと緊張で数秒が十倍くらい長く感じられる。しゅるしゅるって脱ぐ音にエロいって思う日が来るとは思わなかった。
 俺の正直な部分は期待で臨戦態勢だけど、お前は頼むからもうちょっと節度を持ってくれ。あと融通効くようになってくれ。

「も、もういいよー」

 かくれんぼかよ。衣擦れの音が止まって、はるさんから許しが出た……けど。

「……」
「……」
「……すごい、恥ずかしいね?振り向けないというか……」
「せ、せーので一緒に。それならいける」
「な、なるほど。確かに……。じゃあ、うんと……」
「「せーの」」

 見せ合いっことかじゃないのに、こういうとこで気が合う二人は無駄に恥ずかしがるんだもんな。
 合図に合わせて、勇気を振り絞って振り向く。まず最初に、同時に振り向いたはるさんと目が合う。羞恥に苛まれていても興味津々だって顔。そうして二人同時に、互いの身体を見るために視線を下げる。
 初めて見る、女の子の生の裸姿。はるさんの丸出しの大きな胸。淡いピンク色の乳輪と、ぴんと立って自己主張してる乳首。肌の青色とのコントラストが、赤子を育成するための大事な器官なんだって強調されてるみたいで、エロいとかじゃなくて神秘的だなって思ってしまった。でもエロい。
 そこから更に下に目を動かせば、無毛の下腹部に視線が吸い込まれる。モザイクがない、本物の割れ目。……あれ、ちょっと濡れてる?

「……わ、わ。本物のおちんちん、初めて見た」

 感慨深げに呟くはるさん。めっちゃ凝視されてる。自分も同じくらい凝視してる。やばいな。これからえっちしますって雰囲気がありありと放たれてるのがわかる。自分の身体からも、はるさんの身体からも。オーラ的な。
 とりあえず、眺めてるだけじゃ何にも始まらないので。

「は、はるさん」
「ぇ、あっ、うん。えへへ……ん」

 区切り。歩み寄って顔を近づけて、見せ合いっこを一区切りする。
 キスを続けながらはるさんをゆっくりベッドに誘導して、一緒に座る。顔が離れて、見つめ合って、苦笑い。

「えへへ……私達、ゆっくりしすぎてるかな」
「たぶん、かなり」
「まだまだだね、二人とも。初めて同士だもんね」
「お恥ずかしながら……」

 世の中のカップルがどうなのかはわからないけど、たぶんこういうのが普通……ではないと思う。もうちょっとがっつり行ってる感じなんじゃなかろうか。はるさんが特別なんだと思う。甘くて優しくて、ふんわりしてる。

「私は嬉しいんだけどな。それにほら、初めてで上手くいくなんてなかなかないでしょ」
「まあ。ぶっつけ本番みたいなもんだし」
「んー、本番じゃなくて練習でどうですか。トレーニング」
「練習……」
「練習。ゆうくんは私で練習して、私はゆうくんで練習する。そうしてお互いで練習しあっていって、いつかは二人で本番するの」

 本番って、それはいつになるんだろうか。テストかな。
 これは練習だ、と思い込む。悪くないかもしれない。

「勉強は嫌いじゃない、問題を解くのは楽しい。ゆうくんが言ってたよね」
「……よく覚えてるなぁ」
「昨日のことだもん。ふふふ」

 本当、甘やかされてるよなぁ。そう思えば俺の肩の荷は幾分か降りると考えて、彼女は提案してくれたわけだ。それで実際、彼女の案は効果を発揮してる。全部とはいかないけど、それなりに緊張は解れた。
 まあ、油断していたわけで。はるさんは視線を動かし、赤面した顔をにやけさせながらおもむろにこっちの肉棒に触れてきた。心構えをする暇もなく、突然。

「ぅあっ、ちょっ」
「わ、変な声出た♥ ふふ、触っただけで声でちゃうんだ」
「いや、あの、心の準備が」
「いいからいいから。ほら、こっちはぴくぴく喜んでますよー。ふふ、かわい……♥」

 はるさんの綺麗な指が、自分の汚いモノを握ってる。どこまで行っても下半身は正直だ。全然力は入ってなくて、刺激は弱い。力加減がわからないから恐る恐る、みたいな感じの具合。

「えっと……ここからどうすればいいかな?」
「っ、もうちょっと力入れて、上下に、こう……擦る」
「なるほど……」
「……」

 言われたとおり、はるさんは少しだけ握る力を増して拙く上下に動かす。手首でスナップを効かせるやり方じゃなく、腕全体を上下させるような感じだけど、これはこれで不慣れらしくて良い。たぶんすぐ疲れるだろうけど、練習だし。はるさんは自分で気づく……かな。気づかなさそうだったら言おう。
 ゆるゆると上下に擦られて、声は出すまいと堪える。手つきは拙いものなのに、一人でする時とは気持ちよさが違う。オナニーは処理する目的でしかしないから、刺激の強さは勝てないけど、でもはるさんに扱かれてるって事実が興奮をそそる。
 で、自分は手持ち無沙汰だ。

「俺も、……触りたいんだけど」
「ん、一緒に触る?」
「そっちじゃなくて」
「あ、ぅ……ん〜〜……しょうがないなぁ」

 渋々といった様子で、はるさんは許可を出す。俺が触りやすいように、少し浅く腰掛け直してくれた。優しい。
 はるさんの気が変わらない内に、おっかなびっくりはるさんの股へ手を伸ばす。そろりそろりとゆっくりながらもむっちりした太腿の谷の中に手を潜らせていくと、指先にぬるりと湿った感触が当たった。

「ぅあ、……や、優しくね」
「オス……」

 はるさんの声で心臓が飛び跳ねた。けど、嫌がってはいなかった。はるさんの手コキで射精に至るにはだいぶ余裕があるし、こっちもゆっくりやろう。
 再度手を近づけて、ぬるぬるするところを避けて撫でる。え、ここもめちゃくちゃ柔らかいんですが。押すと指が陰唇に沈み込んでいって、おっぱいとはちょっと違う感じのくにくにした弾力ではあるけど、これもいい。女の子の身体には夢中になる魅力がいっぱいある。

「ん……、ふぅ。……腕が疲れてきた」
「だ、大丈夫?」
「うん。ほら、ゆうくんの番だよ」

 そう言って、はるさんは片足をベッドの上に投げ出して股の間を見せつけてくる。さっきまで恥ずかしがってませんでしたか。急な積極性にちょっとびっくりしつつ、目は釘付けになってしまう。
 ぴったり閉じた割れ目が愛液で光を反射して、艶めかしく匂い立つ。肉付きの良い両方の太腿のおかげで、鼠径部のV字が目立つ。
 割れ目の周囲を撫で回していた手を、今度は一本筋に沿うように動かしてみる。下から、上へ。

「ひ……ん、ふっ……あぅ♥」

 筋の上の方で、指に引っかかるものがあった。同時に、はるさんからエロい声が出る。ここの位置ってたぶん、クリトリス……だよな。もう一度、そこを触ってみる。

「ひっ♥ そっ、こは、敏感だから……」
「ぜ、善処します……」

 こりこりとした肉の突起。敏感だから刺激を加えすぎないように、撫でる程度。そうっと指を動かして、じっくりじっくり愛でてみる。

「うぅ……やっ♥ あ、ん……♥ ふ、うぁ♥ なんか、触り方、えっち……んう♥」
「エロいことだし……」
「そうだけどぉ……はぁ、んん♥」

 反応からして、触り方は間違ってなかったんだろう。力がこもらないように薄く浅く、撫で回す。はるさんが気持ちよくなるように。本番で、はるさんを気持ちよくできるように。クリトリスをくりくりする。ダジャレかよ。こういうことはどうでもいい時によく思いつく気がする。
 はるさんの手の刺激は無くなったけど、それでもこうしてはるさんを触ってはるさんのエロい声を聞いてるだけで、勃起は強いまま維持できている。気分が変に高揚してて、同じくらい興奮してて。はるさんはじっとこっちの正直な部分を見つめて、嬉しそうに微笑んでいる。はるさんが嬉しいなら、俺が恥ずかしいって思うくらいはどうってことない。
 ふと、唐突にキスがしたくなった。目をクリトリスから離して、でも手は動かしたまま、はるさんに顔を近づける。

「んぁ♥ んふ……あ、ん、ちゅ……♥」
「んむ……ん、ん」
「ちゅ、むぅ……♥ ぅく♥ んっ♥ んむ……♥」

 何度も小さく重ねる、鳥がついばむようなキス。脳の奥がぞくぞくする。クリトリスを触る手を下へ動かして、はるさんの蜜壺を求めて割れ目に指を押し付ける。筋の合間に指を割り込ませると、奥からとろとろと湧き出してきてる愛液が指にねっとり絡んでくる。
 ここだ。すぼまるような場所。愛液の源泉。思ったよりも下の方にあって、試しに指の腹で穴の周辺を撫でてみる。

「ぅ、ひゃ♥ んぅ、はぁ♥」

 肩を震わせて、可愛く鳴くはるさん。誰も受け入れたことがないからだろうけど、膣穴はだいぶ小さくて狭いようだった。

「指、入れてみて……いいかな」
「ん、いいよ……♥ 練習、だもんね。ほぐさないと大変、っていうし」

 特に、処女なら念入りに解しておかないといけなさそうだ。受け入れる側が痛い思いをして嫌になってしまったら、お互いが不幸になるだけ。用心しておいて損はしないはず。こういうことであれば、余計に。
 人差し指の先をすぼまりに埋める。愛液の潤滑剤としての能力は思ったよりも高く、指はどんどんと侵入していく。解す。解す、ってどうすりゃいいんだ。試しに、広げるみたいに動かしてみる。

「やっ♥ ぅ、ん……♥」

 ぐにぐにと弾力が強いのに、どこまでも広がっていきそうなくらい伸縮性が高い。はるさんがぴくって震える度に、指を締め付けてくる。すごい。こんな狭い穴ではあるけど、男を受け入れるための穴なんだ。そんなことを実感して、口内で溢れてる唾を飲み込む。
 これを解すにあたって指一本だとなかなか大変そうだから、中指も入れてみる。この様子なら入ると思うし。

「ふ……♥ あっ、ぅひ♥ ゆび、二本っ……♥」
「うわ、すご……」
「遊ばないでってば、もぉ……♥ あ、んう♥」

 二本の指で押し広げられた膣の隙間から、こぽこぽと緩やかに愛液が滴る。指を縦に回転させてそれを掬い取って、解す動きを再開する。広げるように。くぱあってやつだ。ちょっと違うか。これ解すって言うのかな。
 横ばっかりじゃダメだよなと思って、少し指を上に動かす。指先にざらっとした感触。ん?

「うあっ!?♥ ふぁ、そこっ……♥」
「え……あ。あー……」

 もしかして、所謂Gスポットってやつか。試しに指の腹でざらざらを撫でてみる。

「だ、ちょっとぉ♥ 待って、そこだめっ♥ うぅぅ♥」
「うわぁ……」

 刺激するごとにはるさんはいやいやと頭を振って、腕を掴んで止めようとしてくる。力抜けてるのか、全然止められてないけど。尻尾ぶんぶん振り回して喜んでるし。楽しいかも、これ。
 Gスポットを撫で擦る指を、膣穴全体がきゅうきゅう噛み付いてくる。指をそこへ押し付けて、更なる刺激を懇願しているかのよう。ぬちゃぬちゃと粘性のある水音が出始めた。エロいな。指全体をぴったりと天井に押し付けて、手首を前後に動かして摩擦してみる。

「ちょ、ほんとっ……♥ ばか、もぉ♥ ふ、ぅ〜〜……♥」
「はるさん」
「っ、後で仕返ししてやるぅ……。ん、ちゅ」

 それはちょっと怖いかもしれない。楽しみだけど。
 こっちの理性もそろそろ瀬戸際になってきたので、指を動かしたままはるさんに顔を近づける。これならたぶん、もういいはずだし。くっつけるだけのキスをして、指の動かすペースを落として。

「んふ……はぁ。なんか、今更緊張してきた……」
「俺も……よ、よろしくお願いします」
「き、聞いた話なんだけどね。ゆっくりやるとすごく痛いらしいから、その、一気に。途中でやめないでね」
「オッス……」

 指についてる愛液を愚息に塗りたくり、はるさんの正面に膝立ちする。これまでにないってくらいの本気で勃起してて、ちょっと痛いくらいだ。入れただけで出てしまったら気まずいな。はるさんは恥ずかしさと緊張と期待とわくわくが織り交ざった変な顔してるけど、これはこっちも同じだと思う。
 膝をはるさんの太腿の下に割り込ませ、腰同士を近づけていく。心臓がどくどくうるさい。練習、練習。いや練習って思うにしても限度がある。これ本番だしな。ダブルミーニング。
 こっからどうすりゃいい。はるさんに助けを求める。肉棒を張り詰めた眼差しで見つめていたはるさんがそれに気づいて、見返してくる。

「……はは」
「ふふふ……」

 二人とも、おかしくなってしまって笑いが溢れる。初めて同士の二人。上手くいかなかったりしても、間違えたりしても、初めて同士だから笑って許せる。許してくれる。やる前からミスを怖がっちゃいけないよな。
 気を取り直して、指で肉棒を動かして膣口を探る。さっき指を入れてた場所だ。下からなぞって、すぐに見つかる。すぼまりに吸い込まれていく感じがするけど、まだ腰を前に出さない。まだ。

「ゆうくん」
「うん。はるさん」

 はるさんが差し出してきた手を真正面から握って、隙間を埋め合うように指を絡める。暖かい手だ。それに導かれて、顔をはるさんに近づけて、もう何回目かも覚えてないキスをする。区切り。二人だけの符牒。
 きゅっと握った手に力を込めて、はるさんもきゅっと握り返してくれる。それを合図に、腰を一気に突き込む。

「ん゛っ……!」

 ぷ、と一瞬の抵抗を感じるも、穴の中に吸い込まれた肉棒は最奥まで一息に侵入を果たした。それと同時に感じる、ぎちぎちに締め付けてくる膣圧。破瓜の痛みにみじろぐ彼女。堪えるように強く握ってくる彼女の細い指。不公平だ。
 けれど、彼女は口を離しても微笑むままだった。少しあふれた涙などは彼女の心中に介在しないかのように、あくまでもこちらに甘く振る舞う。

「……童貞卒業、おめでと♥」
「はるさ……」
「ストップ」

 こちらが何かを言う前に、彼女の人差し指が唇を縦に繋ぎ止めてくる。

「ね、キスしよ。二人とも大人になったんだから、次は大人のキス」
「……」
「そんな顔しないの。私は平気だから」

 本当に、彼女に甘えてばっかりだ。
 唇の戒めが解かれて、はるさんの手が頬を包む。そうして引き寄せられて、唇を合わせる。はるさんの黒い翼がこちらの背中をそっと包む感触。いつの間にか、彼女の握る力は抜けていた。
 互いに唇の合間から舌を出し、絡ませる。暖かい。じりじりとした幸せが舌を通じて染み出してくる。そのままぐりぐり侵入してくるはるさんの舌を受け入れ、唇でこすり合わせる。はるさんの舌が口内をねっとりと愛撫してきて、ぞくぞくと背筋が心地よく泡立つ。唇が密着する。

「ちゅ、ぇるれる♥ ん、くちゅ♥」
「んむ……」
「んふ、ちゅる♥ っは、ふふ……♥」

 息継ぎのために顔を離し、目を開ける。はるさんの唇の端から溢れる涎の跡。笑顔。その表情に、もう痛みはないようだった。

「ね♥ ゆうくんも笑ってくれなきゃ嫌だったから。君の良い顔が好きなんだよ♥」
「肝に銘じておきます」
「よしよし♥」

 はるさんはいつも俺に良い顔を見せてくれてる。いつだって楽しそうで嬉しそうで、俺に対して甘くて優しい。俺はその良い顔だけを見て、はるさんに甘えてしまっている。そうして俺は、彼女に良い顔を見せられる。
 支え合っている、とはちょっと違うかもしれない。どっちかというと、相互に依存してるんだ。俺は彼女に甘えてる。彼女は俺に甘えられたい。そんな関係。求めて、求められてる。暖かくて、甘い。きっとこれが堕落への道標。俺は堕落をもたらす彼女に恋してしまってる。逃げられないし、逃げる気も失せていた。
 腰を少し引く。膣粘膜が肉棒に引き摺られて動き、ぞわぞわと神経を快楽の波が伝っていく。腰砕けの意味を身体で理解した。

「うぁ♥ ゆっくり、ね……♥」
「ふぅーっ……」
「んんっ……♥」

 激しく動かせばあっという間に射精してしまうだろう。自分が童貞だからってこともあるけど、絡みついてきて離れようとしない膣襞が与えてくる想像以上の快感が理性を焼き焦がしていく。彼女を大切にしたいという理性。彼女に自分を刻みつけたい本能。
 長く持たない。そうだとしても、少しでも彼女と繋がっていたい。緩く優しいピストンで、狭く深い膣内を擦り立てる。少しずつ大切に、味わっていくように。

「はぁぁ……っ♥ んっ、気持ちぃ……♥」

 肩を揺らしながら深く息を吐くはるさんは、声が少し上ずっていた。のんびりとした抽送ではあるけれど、どうやらそれが却ってはるさんの性感を昂ぶらせているようだった。当然ながら、自分も昂ぶってしまうけど。
 繋いだままの手がはるさんとの結びつきを実感させてくれる。少しだけ握る力を込めれば、彼女はちゃんと返してくれる。

「んっ、んっ♥ ん、あぅ♥ はっ♥ はぁっ♥」

 ピストンのペースを徐々に加速させていく。次々と湧き出してくる愛液のおかげでスムーズな摩擦になり、雁首で肉襞をひっかく手助けをしてくれる。気持ちいい。脳髄の奥で何かが燃えているような錯覚。
 事前に解しておいたのが功を奏したのかはわからないけど、処女姦通した時と比べてかなり動きやすくなっていた。それでも狭く感じるのは、彼女の膣肉が吸い付いてきているからだろう。茎と襞の間に一ミリでも隙間が出来るのは許せないみたいで、蜜をたっぷり吸った膣襞がみっちりと締め付けてくる。

「うあぁ♥ はぁ、ゆうくん♥ 気持ちいいよぉ♥♥ んんぅ♥」

 感想を言う余裕があるのはさすが魔物娘って言うべきなのか、こっちは暴発しないように必死だ。けっこう、もうヤバい感じ。
 全体で握るように蠢き絡みついてくる、愛液まみれの襞。さっきまで童貞だった男に対して過剰なくらい、はるさんの膣は吸い付いてくる。ピストンの復路で特に粘着するように襞がざわめき、渦のようにうねる。快感に鳥肌が立ち、腰の動きに加速する。
 目眩がするのは錯覚じゃない。気持ちよさが視界で火花に変わってる。脳内で幸せアドレナリンが生産されていく。

「ゆうくんっ♥ ゆうくんっ♥♥ あう、ひ♥ あのねっ、んふ♥ しあわせっ♥♥」
「っ――」
「すき♥ ね、好きぃ♥」

 彼女が喘ぎながら訴えかけてくる声が、彼女を大切にしなければという理性を焼き切る止めになった。
 彼女は際限なく溶かしてくる。心も、身体さえも。それはとてつもなく気持ちよくて、抗えなくなり抜け出せなくなる。どこまでも彼女に甘えてしまう。
 シーツについた腕に巻き付いてくるはるさんの尻尾。離すまいと背中を覆ってるはるさんの翼。結びつきあった二人の手。相貌を快楽に歪ませ心を漏らす、涙に濡れたはるさんの笑顔。
 限界だった。愛おしいという気持ちがせり上がってきて、腰の動きが別の生物になったみたいに制御しきれなくなる。

「すきっ♥♥ すき、すきだよぉ♥♥ はぅ、くっ、ひぃ♥♥♥」
「く、おッ――――!!」
「ひぐ♥♥♥ んぐ、ひ♥♥♥ おくぅ♥♥♥ あっ、ぁ、んぎ――ひぁ゛あ゛ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ♥♥♥♥」

 はるさんの子宮にめがけて深く強く腰を押し込み、肉棒の穂先が彼女の肉底に突き立ち、尚ぐりぐりと押し付けて、精液の塊が鼓動と共に射ち出され始める。
 強烈な射精快楽。絶頂にのたうつ膣内がもっともっとと射精を促し、絶え間ない快感に脳がオーバーフローする。精液が尿道を駆け上がるだけの、たったそれだけの快感で、全身の神経が麻痺していく。鼓膜が膨れ上がる感覚。どくどくと精液を吐き出す度に互いの粘膜が交じり合う。
 止まらない。射精が止め処なく繰り返され、はるさんに注がれていく。はるさんの腰がくねる。恋しい人の精液をその身に馴染ませようと、彼女からも腰を押し付けてくる。
 そうして唐突に、射精が弱まっていく。吐精中に肺に吹き溜まった熱い息を荒く放ち、ようやく徐々に絶頂快楽が薄れていく。その代わりに、だるい虚脱感が発生し始めた。

「はぁ、はぁっ……」
「ぁ♥ っふ、ぁぅ……♥ ゆ、くん……♥」

 名前を呼ばれて、はるさんの方を見る。涎と涙でぐちゃぐちゃの、心の底を満たされた女の顔。彼女の良い顔。どんな顔だって、彼女は常に甘美だ。

「ふふ……♥」
「はは……」

 見つめ合って、つい笑ってしまう。
 襲ってくる疲労感に突っ伏して、はるさんの上に倒れ込む。繋いでない方の手で、はるさんは頭を撫でてくれる。心地いい。
 この部屋も、このベッドも、この家も、かつては俺一人だけの場所だった。今はもう、迎えてくれる人がいる。隣にいてくれる人がいる。心が繋がった人がいるんだ。だからもう、寂しくない。
 彼女の手がぎゅっと握ってきたから、俺もぎゅっと握り返した。初めて同士の二人は、どうにか成功したみたいだった。
15/12/11 03:14更新 / 鍵山白煙
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