悦楽の園 前編
悦楽の園 前編
何かがおかしい。
何が？と聞かれたらどう答えていいかわからないが、根拠はいろいろ……一言で言えば雰囲気だ。
俺、オリバー・ハルミトンは原因不明の違和感に苛まれている。
そして、決定的なのは3日ほど前の夕方に礼拝堂に急ぐ麗しのフロイライン……3つ学年下のテオドール・ヴァン・シュタインを目撃してから朝までの記憶がすっぽりと抜け落ちていること。
ここ3日、決まって毎晩おかしな夢を見ること。
その夢は……いや、よそう。どうかしている。
この件……少なくとも俺の記憶のブランクに麗しのフロイラインが関わっている事は否定出来ない。でも、肝心のフロイラインは何時もと同じだ。
素直で、頭が良くて、ちょと臆病で、笑顔が素敵な可愛い後輩だ。眼鏡で、頭が良くて、いつも本を抱えて俺や学年１つ上のブルーノの後ろをちょこちょこ付いてくる。
そんなフロイラインは俺の疑惑を知ってか知らずか、現在『コーヒーの会』にて俺の目の前の席に座って眼鏡を曇らせながら砂糖とミルクを目一杯入れたブルーノ特製のスペシャルブレンドをすすっている。
『ー？オリバー？聞いてる？』
『？あぁ、ごめん。考え事してた。』
『も〜〜！』
そんなたわいも無い会話が飛び交う『コーヒーの会』だが、なんというか数日前から空気がねっとりとしているような。ピンク色のモヤがかかっているような……。ブルーノのスペシャルブラックコーヒーだけは何時もの味だ。
気のせいであってほしい。
そんな俺の願いを他所に、異変は徐々に増えていった。
寮制の男子高等中学校だ。女の子がいないと言う事も手伝ってか"そういうこと"は稀に見かけるし "そうそう関係" の生徒が一定数いるが、ここ数日で7件も目撃してしまった。けっこうな数だ。
まったくけしからん……ゲフンゲフン……
その中には先生と生徒もいた。……あー、シュピーゲル先生と教会保健室のシスター・マドレーヌは何時もの様子だった。あの2人の密会は一部で有名だ。まぁ若い男女だし……
それから、聖歌隊のパート編成だ。今まで各パートがバランスよく配置されていたが、ここ数日でパート変えの申請が急増している。普通、変声期前の中等科の子が歌うソプラノとアルトのパートを明らかに変声期を迎えた子が歌ってた。まぁ……カウンター・テナー(ソプラノ・アルトを歌う男性歌手)になった可能性もあるが……それにしてもおかしい。
『ハルミトン君、ちょっといいかい？』
『……エーリヒ。まさかとは思うが、お前もパート変えか？』
コイツは俺と同学年のエーリヒ・フォン・リリエンタール。すらっとした長身に黒髪灰目 がトレードマークの優男だ。美形で成績優秀で、聖歌隊ではテノールを担当している少々デリケートなやつだ。学内にファンクラブがあるらしい。
『あ、あぁ、そうなんだデア・ハルミトン。』
『バスかバリトンか？でもお前にテノール抜けられると困る。……オラトリオ(聖典のオペラ)とかどうするんだよ！？』
『デア・ハルミトン……。いや、その……私はアルトに。とりあえず、歌を聴いてから判断してくれないか？』
『……わかった。じゃ、アカペラ(伴奏なし歌のみ)でいいな？』
『うん。』
スーター バート マーテール ドーロローザ♪♪
悲しみの中の聖女よ
イークゥスタ クラーゥセム ラッチリィモーサ♪♪
十字架の傍に涙に暮れあなたは立つ
ドゥム ペンデバァット フィ〜リ〜ィゥス♪
主神の御子が架けられているその間
『……ふぅ。どうだった？』
ポカーン………
『ハルミトン君？』
ゴトン……
『あ、あぁ！い、いいんじゃないか？アルト！』
圧倒されてしまった。ペンを落とすまで間抜けな顔して聴いてたんだろう。完璧だった。物凄く綺麗な声だった！何がどうしてこうなった！？
『ありがとう！……今度、ハルミトン君と一緒にお茶でもしたいな。今週末はどう？』
あれ？なんだ？この感じ。エーリヒは優男だけど、こんな色気あったっけ？
あれ？ユリの香り？……頭が痺れて？
『今週末……？あぁ……』
『オリバーー！』
どーん！
『わっ！？フロイライン！？あぶねーだろっ！！』
後ろからテオが飛びついて来た。
『やっと捕まえた！明日までに課題やらないと留年しちゃうよ！？』
(ったく。油断も隙も無い……第三者の介入は契約外か……あの悪魔め。これは魔物娘の勢力を少しでも広げる為だろう。少しの間オリバーを独り占めにさせた後、どうせ"契約は守ってるわよ？ハーレムもいーじゃない♪"とか考えてるに違いない。)
あれ？テオがエーリヒを睨みつけてる？
『オリバー！課題！留年！！』
『へっ……？あっ！やべっ忘れてた！！よし、テオ手伝え！！ブルーノのとこ行くぞ！』
『はいはい。調子いいんだからっ……。』
(彼はもうボクのものだ。これ以上は許さないよ？)
少し残念そうな微笑みを浮かべたエーリヒが小声でテオと何か喋っている。
『デア・ハルミトン、大変だね。』
(うわぁ……怖い怖い。彼には先約がいたんだね？取り付く島も無いか……ごめんよ。悪いことしたね。お幸せに♪)
『へっ？……ちょ、フロイライン！！引っ張るな！！』
俺はテオに引きずられて課題を片付けに行った。
そんなこんなで気づけば、バスとバリトンはブルーノと他10人くらいになっていた。
日に日に……
日に日に…………
日を追うごとに………………
俺が感じる違和感は自分自信に言い訳が出来ない程に大きくなった。
『オリバー……オリバー？どうしたの？』
『いや、なんでもないよテオ。』
休みの日に学校を抜け出して街をテオと歩いてもその事ばかりを考えてしまう。
『ふーん？』
『まぁ、強いて言うならなら相変わらずだなぁと思って。フロイラインと一緒にいると落ち着くなぁって……ね？』
『ふふふ、変なオリバー♪』
『あっ、可愛娘ちゃんだ！グーテンターク！』
きゃー♪♪
『あっ！このプレイボーイ！(ちっ！！』
背後に謎の寒気を感じつつ、その日は少々むくれたテオとそのまま遊んで例の魔法の抜け道を使って寮に戻ることにした。……のだが…………
"ねぇ？僕の事どう思ってるの？"
"…………"
"言ってよ！……ここなら誰も……"
"……好きだよ！！でも男同士だ……変じゃないか？"
"そんな事ない！……嬉しい……嬉しいよ……ちっとも変じゃない！……あぁ、マティウス！！"
ちゅ……ちゅ……くちゃ……
"はぁ……好きだ！……ちゅ……ギブリー！！"
"ねぇ……お願い……2人の時は、ガブリエラってよんで……"
"ガブリエラ！……ガブリエラ！！"
❤❤❤❤❤❤………………
うわぁー…………ここ禁書庫ですよー？立ち入り禁止区域ですよー？おーい…………
同じ聖歌隊の高等科3年生のマティウス・ルルーと中等科1年のガブリエル・フォン・バイデンガーだ。まさかこんな事になってるとは……
ダメだ……こりゃ完全に2人の世界だ。
あーあ、フロイラインは耳まで真っ赤にしている。やっぱ可愛いなぁ、コイツ。去年のダンスパーティの時、妹のドレスを着させたけど性別間違えて産まれて来た？……って思ったよ、ホント。唇奪っておけば良かった……
ゲフンゲフン……って今俺は何を考えた！？
しっかりしよう。……そうだ、オリバー・ハルミトン。冷静になれ。
はぁ……とまぁ、その程度には俺の精神も切羽詰まっているらしい。
教会の地下禁書庫は"そういうところ" で "そうそうこと"をする場所になっていた。俺は赤面している不安そうなフロイラインと静かに可能な限り素早く見つからないように移動した。
涙ぐむフロイラインが
『オリバー……』
と袖を引っ張ってきた。
あぁ、もう！可愛いな！コンチクショー！！
最近……コイツさらに可愛くなったか？……って、俺もバッチリ当てられるじゃないか！！くそっ！！
その後はなんとか誰にも見つからずに脱出出来た。麗しのフロイラインを部屋まで送った後、俺も見回り中のフリしてしれっと部屋に帰った。
『フロイライン……本当に性別間違えて産まれて来たんじゃないか？……妙な色気もあるし……』
きっと、ああいうのを"魔性"って言うんだろうな。その気になれば、俺よりモテるのに。
…………
だめだ。ムラムラする……。
こう言う時は秘蔵の小説コレクションで……
………………………………
？？
あれ？……おかしい。……まぁ、きっと疲れてんだろう。こう言う事もあるか…………。寝ればなんとかなるだろう。
ん……？
(駄目じゃないか……独りでなんかさせないよ？)
あれ？……またこの夢？
(ふふふ♪ボクがたくさんシてあげる♪)
えっ……
あぁ……や……ばっ……
(ふふふふふふふ♪♪)
闇夜に浮かぶ青い月が俺を見つめて…………
バッ！！！
『はぁ、はぁ……。またか。』
また"あの夢"だ……
どうしたんだよ……俺は…………。
それからまた1週間が過ぎ去った。
毎晩、例の夢を見る。だんだん鮮明になっているような。……それに加えて……この前から性的に不能？……なのか？立たないんだ。朝立ちすらしない。すごいショック……。いったいどうなってるんだ？
この前の一件以降、『コーヒーの会』や聖歌隊の練習でマティウスとガブリエルの顔を証明から見れないでいる。恥ずかしくて。
エーリヒは同学年の美形でちょっと影のあるユーリと腕を絡めて歩いてるのを見た。……多分出来てるなありゃ……。
そんな事を考えながらブルーノ特性のスペシャルブレンドを飲む。……ブルーノもこのコーヒーの良い香りも変わってない。いや、あいつは良い意味でも悪い意味でも変わらない。ブレないし、何かあっても決して表に出さない。そういう意味で誰よりも大人なんだ。
ん？
ふと中庭を見ると大量の辞書や本を抱えてよたよた歩いているテオを見かけた。伸びたセーターの袖で手の甲が隠れている。
『おい、どこ行くんだ？』
気付いたら立ち上がっていた。ブルーノの声が聞こえる。
『中庭見てみろよ、きっとフロイラインだ。あれじゃ本の山が歩いてるみたいだ。危なっかしいから、ちょっと手伝って来る。』
後ろを振り返える事なく俺は階段を下りていく。
『(……惚気るねぇ。)』
ん？なんか言ったかブルーノ？……まぁ、いいや。
下に降りると中庭の芝生に盛大に本をぶち撒けてマンガみたいに転んでるテオがいた。あーあ、こんなに……なになに？歴史書に、物理学の参考書に、数学者の論文に……ブリトニア語にファラン語、ポルト語か？これ？……オランジュ語にイスパール語の参考書まで……本の虫すげーなぁ。
『おいテオ、大丈夫か？……ほれ、眼鏡。』
『あぁ、オリバー！うん、大丈夫。』
『全く、無茶しやがって……。こんなに勉強してどうするんだよ。そのうち眼鏡が本体になるぞ？』
『あー……うん。ごめん。』
『……ったく、しょうがない。手伝ってやるよ！』
『ありがとう！オリバー！！』
テオは太陽のような笑顔を俺に向けた。
麗しのフロイラインは最近ますます魅力的になったな……。見つめられるとその青い瞳から目が離せなくなる。
そんな俺の気を知ってか知らずかテオは本を拾い始めた。俺も手伝って、それから本の山をテオと半分づつに別けて部屋に運んだ。
ドサッ……
『ふぅ……。』
『あっ、ごめん！オリバー。図書館に忘れ物したからちょっと取ってくるね！紅茶とクッキーがあるから適当にくつろいでて！』
すると、フロイラインはまたもや部屋を飛び出して行った。
『走るとまた転ぶぞー！？……ははっ、そそっかしいなぁ。……ん？』
本の山を置いた机の上に赤い日記がある。鍵付きだけど……開いてるなこれ？
……おい、オリバーよせ。テオのプライバシーだぞ？
急に忘れ掛けていた疑惑が頭をよぎった。
増えていく不純交際……
パート比率のおかしい聖歌隊……
休む奴やサボりの増加……
毎日見るおかしな夢……
全体的に甘ったるい空気……
一番の問題は俺を含むこの学校全体がその事にだんだんと違和感を感じなくなって来ている事実。慣れとは恐ろしい。
この異変にテオ何か関わっている、若しくは何か知っている可能性は否定出来ない。
いや……フロイラインはフロイラインだ。
本の虫で
何時ものようにミサで歌って
サボりもせずに授業を受けて
相変わらずガリ勉で
聖歌隊の練習にもキッチリ出て
たまに突拍子の無い無茶して
俺やブルーノとつるんでコーヒーすすって
フロイライン……テオドール・ヴァン・シュタインは可愛い俺の弟分だ。そう信じたい。
しかし、もし……もし仮にこの異変にテオが関係しているとして、何をしたんだ？
止める方法はあるのか？
変化はあの夜の翌日から……
記憶のブランク……空白の夜にいったい全体何があった？
毎晩見る夢……
俺は……テオを信じたい。
気づくと俺はテオの日記を読んでいた。
。。。。。。。。。。。。。
4月17日 大地の日
オリバーが帰って来た。休暇の終わりは明日。ハルミトン家が大変とか色々理由を付けていたけどきっと僕の為だ。ありがとう。オリバー。
オリバーやブルーノは遠くに行かないよね？
1人はもう嫌だ。
。。。。。。。。。。。。。
テオ……お前……
…………
やっぱり、テオの日記だ。
パラっ……
次は長文だな……
。。。。。。。。。。。。。
4月18日 太陽の日
今日はオリバーと一緒にツェーリの街に出かけた。校外学習の書類まででっち上げてバスを手配していた。相変わらずの行動力と凄い手際の良さだ。不良っぽいけど……。悪事の片棒担がされてないかな？
。。。。。。。。。。。。。
うるせぇ、余計なお世話だ！
。。。。。。。。。。。。。
楽しくてついつい時間が過ぎるのを忘れてしまって、不良(オリバー)の抜け道を通って帰る事に。元々はツェーリ傭兵団が使っていた魔法の抜け道らしい。高度な魔法だ。勉強したい。
でも途中でシュピーゲル先生に見つかりそうに……。その時ブルーノが助けてくれたんだ。頭をグリグリされたけど。もう少しで頭の形が変わるとこだった。……あの不良がゲンコツされた時、ちょっとスッキリしたのは内緒だ。
……禁書庫にあった楽譜。主神言語……神の言葉で書かれてた。しかもグレゴリー聖歌みたいだ。解読はまたにしよう。今日は疲れた。
。。。。。。。。。。。。。
グレゴリー聖歌？
パラ……
パラ……
それから1カ月ほど読み進めても、さほど珍しい事は書いてなかった。俺とブルーノと駄弁ったのだの、俺に悪事の片棒担がされたのだの。ダミ声3バカトリオに絡まれたとかたわいもない出来事が綴ってあった。それから俺への些細な悪口も……。
しかし、まぁ……コイツ字綺麗だ。俺とは大違い。
悪いとは思いつつ更に読み進めてしまう。
ん？1日、日付が飛んでる？飛んでるのは……
6月7日……
あの日だ……日記は翌日……
パラ……
。。。。。。。。。。。。。
6月8日 月の日
昨日の晩……あの楽譜は本物の魔法……
もうすぐ、ボクの願いが……
いや……焦るなテオドール・ヴァン・シュタイン
完全に信用するのは危険だ
機会を待つんだ……
。。。。。。。。。。。。。
…………は？
。。。。。。。。。。。。。
6月9日 火の日
ものように聖歌隊の練習に顔を出した。それから何人かに声をかけた。みんな悩んでるみたいだ。少し勇気付けてあげた。上手くやるといい。
行為が終わったら寝てしまった。夢の中と思ってるようで、短い時間だけれど記憶を操作できるらしい。
。。。。。。。。。。。。。
？……これは何の事について書いてあるんだ？
。。。。。。。。。。。。。
6月10日 水の日
聖歌隊のパート変えの申請が急増していた。どうやらボクのお節介は上手くいったようだ。中等部の1年生が多いみたいだけど、ちらほら高等科も見かけた。
今日、初めて彼のを飲んでみた。口の中で幸せが溢れるようだった。身体が疼いて仕方がない……でも我慢だ。良い夢を見てね？
いずれこの日記はオリバーに読まれてしまうだろう。
鍵はもう掛けないでおこう。
。。。。。。。。。。。。。
おいおいおいおい……だんだん雲行きが怪しくなって無いか？
。。。。。。。。。。。。。
6月11日 木の日
コーヒーの会の日。オリバーが考え事をしているようだった。勘が鋭い。普通の人ではまず気づかない僅かな違和感を感じ取り、思考している。まだ勘の域を出ないだろうけど、ボクを疑い始めている。
彼の行動は徹底的な合理主義の下で手段を選ばず目的を達成する。その姿はマキャベリの理想的姿だ。敬意に値する。でも、その行動原理である目的は自身の興味や探究心を満たす為のものが多く、目的が手段そのものになる事もしばしばだ。
そんなオリバーは今日、聖歌隊の練習に顔を出していた。
エーリヒ・フォン・リリエンタールがアルトにパート変えした。その時……よりにもよって魅了の魔法まで使ってオリバーにちょっかい出してきた。油断も隙も無い。
間に合ったから良かったけど、危なかった。オリバーもオリバーだ。コロッと引っかかりそうにならないでよ全く。
エーリヒにはお節介を焼いて無い。
第三者の介入は契約範囲外って事みたいだ。
すでにボクはオリバーと関係を持ってる。独り占めは出来てるとみなされたようだ。
彼女の含み笑いが聴こえてくる……あの悪魔め。
少し早い気もするけど……予定を繰り上げよう。仕方ないよね？
。。。。。。。。。。。。。
……………………悪魔？契約？
なんだこれ？冷や汗が止まらない……
。。。。。。。。。。。。。
6月12日 黄金の日
ふふふ……キモチ良かった……
もうそれしか考えられない。
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月13日 大地の日
昨日の夜……最高だった。何回も……何回も……
。。。。。。。。。。。。。
しばらく同じような内容が続いている……
。。。。。。。。。。。。。
6月18日 木の日
オリバーと一緒にツェーリの街に繰り出した。考え事をしている。まだ確信を得ている訳では無いようだけど、ボクを本格的に疑い始めたようだ。
そんなオリバーは街でカフェにいる時、他校の女の子に手を振っていた。……しょうがない。けど、次からは魔力を少し強くしよう。
例の抜け道でマティウスとギブリーが……。ボクまでムラムラして……危なかった。
問題はその後だ。オリバーは……事もあろうにエッチな小説で無駄撃ちをしようとした。案の定出来なかったみだいだけど……ちょっと許せない。今回はあの術式を試してみた。……もっともっと……ボクに溺れてほしい。
。。。。。。。。。。。。。
丁度、1週間前だ…………なんであいつが俺の秘蔵コレクションを知ってるんだ？
。。。。。。。。。。。。。
6月19日 黄金の日
効果は絶大みたいだ。ふふふ♪
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月20日 大地の日
お腹の中がぐちゃぐちゃだ♪もうオリバー無しではいられ無い。ずっと繋がっていたい。
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月21日 太陽の日
オリバーはもうすぐインキュバスになりそうだ。
オリバーのカラダはもう既にボクに溺れている。
後は心だけ……
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月22日 月の日
彼は必死に真実にたどり着こうとしている。可愛い、可愛いよオリバー！
ゆっくり堕としてあげる……
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月23日 火の日
エーリヒは想い人を見つけたようだ。
どうやら彼は……いや、彼女は心と身体がちぐはぐだったみたいだ。今日、図書館でよく見かけるユーリー・モリス・バイハンと一緒にいた。神学科の首席が主神を否定したようだ。愛は全てを乗り越える……。
オリバーは今日も凄かった。夢と現実の間で悩む可愛い彼を見たいけど……ふふふ♪
もう少し……もう少しで……
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月24日 水の日
オリバーと繋がっている時、彼の気持ちを聞いてみた。夢の中の意識は嘘偽りの無い深層心理。だからすごく怖かったけど……
僕を愛してるって言ってくれた。
女の子に……魔物娘になって……オリバーと愛し合えるカラダになって本当に良かった。
思い出すだけでカラダが痙攣して子宮がきゅんきゅんする。
オリバーとセックスして……お腹に出されて……とても幸せ。 相性が良すぎて加減が出来なくなるのは困りものだけど……
彼は夢だと思ってるだろう。でも全て現実。ボクが夢見の魔法で行為に及んでる間の記憶を夢に置き換えている。
ねぇ？君も本当は気付いているんでしょ？
オリバー♪
。。。。。。。。。。。。。
！！！！！！
やばい……フロイラインは黒だ！！
しかも、この異変に関わっているってレベルじゃない！首謀者じゃないか！！！
それに……あの夢は…………
ギィ…………
『好奇心とは残酷だね。真実を求めずにはいられ無い……ねぇ？オリバー？』
『テオ……』
一番まずいタイミングだ。冷や汗が噴き出てくる……心臓が飛び出して来そうだ。
テオの美しい青い眼が今は何より怖い。
カチャッ……
テオは後ろ手でそっと部屋の鍵を回した……。
後半に続く……
何かがおかしい。
何が？と聞かれたらどう答えていいかわからないが、根拠はいろいろ……一言で言えば雰囲気だ。
俺、オリバー・ハルミトンは原因不明の違和感に苛まれている。
そして、決定的なのは3日ほど前の夕方に礼拝堂に急ぐ麗しのフロイライン……3つ学年下のテオドール・ヴァン・シュタインを目撃してから朝までの記憶がすっぽりと抜け落ちていること。
ここ3日、決まって毎晩おかしな夢を見ること。
その夢は……いや、よそう。どうかしている。
この件……少なくとも俺の記憶のブランクに麗しのフロイラインが関わっている事は否定出来ない。でも、肝心のフロイラインは何時もと同じだ。
素直で、頭が良くて、ちょと臆病で、笑顔が素敵な可愛い後輩だ。眼鏡で、頭が良くて、いつも本を抱えて俺や学年１つ上のブルーノの後ろをちょこちょこ付いてくる。
そんなフロイラインは俺の疑惑を知ってか知らずか、現在『コーヒーの会』にて俺の目の前の席に座って眼鏡を曇らせながら砂糖とミルクを目一杯入れたブルーノ特製のスペシャルブレンドをすすっている。
『ー？オリバー？聞いてる？』
『？あぁ、ごめん。考え事してた。』
『も〜〜！』
そんなたわいも無い会話が飛び交う『コーヒーの会』だが、なんというか数日前から空気がねっとりとしているような。ピンク色のモヤがかかっているような……。ブルーノのスペシャルブラックコーヒーだけは何時もの味だ。
気のせいであってほしい。
そんな俺の願いを他所に、異変は徐々に増えていった。
寮制の男子高等中学校だ。女の子がいないと言う事も手伝ってか"そういうこと"は稀に見かけるし "そうそう関係" の生徒が一定数いるが、ここ数日で7件も目撃してしまった。けっこうな数だ。
まったくけしからん……ゲフンゲフン……
その中には先生と生徒もいた。……あー、シュピーゲル先生と教会保健室のシスター・マドレーヌは何時もの様子だった。あの2人の密会は一部で有名だ。まぁ若い男女だし……
それから、聖歌隊のパート編成だ。今まで各パートがバランスよく配置されていたが、ここ数日でパート変えの申請が急増している。普通、変声期前の中等科の子が歌うソプラノとアルトのパートを明らかに変声期を迎えた子が歌ってた。まぁ……カウンター・テナー(ソプラノ・アルトを歌う男性歌手)になった可能性もあるが……それにしてもおかしい。
『ハルミトン君、ちょっといいかい？』
『……エーリヒ。まさかとは思うが、お前もパート変えか？』
コイツは俺と同学年のエーリヒ・フォン・リリエンタール。すらっとした長身に黒髪灰目 がトレードマークの優男だ。美形で成績優秀で、聖歌隊ではテノールを担当している少々デリケートなやつだ。学内にファンクラブがあるらしい。
『あ、あぁ、そうなんだデア・ハルミトン。』
『バスかバリトンか？でもお前にテノール抜けられると困る。……オラトリオ(聖典のオペラ)とかどうするんだよ！？』
『デア・ハルミトン……。いや、その……私はアルトに。とりあえず、歌を聴いてから判断してくれないか？』
『……わかった。じゃ、アカペラ(伴奏なし歌のみ)でいいな？』
『うん。』
スーター バート マーテール ドーロローザ♪♪
悲しみの中の聖女よ
イークゥスタ クラーゥセム ラッチリィモーサ♪♪
十字架の傍に涙に暮れあなたは立つ
ドゥム ペンデバァット フィ〜リ〜ィゥス♪
主神の御子が架けられているその間
『……ふぅ。どうだった？』
ポカーン………
『ハルミトン君？』
ゴトン……
『あ、あぁ！い、いいんじゃないか？アルト！』
圧倒されてしまった。ペンを落とすまで間抜けな顔して聴いてたんだろう。完璧だった。物凄く綺麗な声だった！何がどうしてこうなった！？
『ありがとう！……今度、ハルミトン君と一緒にお茶でもしたいな。今週末はどう？』
あれ？なんだ？この感じ。エーリヒは優男だけど、こんな色気あったっけ？
あれ？ユリの香り？……頭が痺れて？
『今週末……？あぁ……』
『オリバーー！』
どーん！
『わっ！？フロイライン！？あぶねーだろっ！！』
後ろからテオが飛びついて来た。
『やっと捕まえた！明日までに課題やらないと留年しちゃうよ！？』
(ったく。油断も隙も無い……第三者の介入は契約外か……あの悪魔め。これは魔物娘の勢力を少しでも広げる為だろう。少しの間オリバーを独り占めにさせた後、どうせ"契約は守ってるわよ？ハーレムもいーじゃない♪"とか考えてるに違いない。)
あれ？テオがエーリヒを睨みつけてる？
『オリバー！課題！留年！！』
『へっ……？あっ！やべっ忘れてた！！よし、テオ手伝え！！ブルーノのとこ行くぞ！』
『はいはい。調子いいんだからっ……。』
(彼はもうボクのものだ。これ以上は許さないよ？)
少し残念そうな微笑みを浮かべたエーリヒが小声でテオと何か喋っている。
『デア・ハルミトン、大変だね。』
(うわぁ……怖い怖い。彼には先約がいたんだね？取り付く島も無いか……ごめんよ。悪いことしたね。お幸せに♪)
『へっ？……ちょ、フロイライン！！引っ張るな！！』
俺はテオに引きずられて課題を片付けに行った。
そんなこんなで気づけば、バスとバリトンはブルーノと他10人くらいになっていた。
日に日に……
日に日に…………
日を追うごとに………………
俺が感じる違和感は自分自信に言い訳が出来ない程に大きくなった。
『オリバー……オリバー？どうしたの？』
『いや、なんでもないよテオ。』
休みの日に学校を抜け出して街をテオと歩いてもその事ばかりを考えてしまう。
『ふーん？』
『まぁ、強いて言うならなら相変わらずだなぁと思って。フロイラインと一緒にいると落ち着くなぁって……ね？』
『ふふふ、変なオリバー♪』
『あっ、可愛娘ちゃんだ！グーテンターク！』
きゃー♪♪
『あっ！このプレイボーイ！(ちっ！！』
背後に謎の寒気を感じつつ、その日は少々むくれたテオとそのまま遊んで例の魔法の抜け道を使って寮に戻ることにした。……のだが…………
"ねぇ？僕の事どう思ってるの？"
"…………"
"言ってよ！……ここなら誰も……"
"……好きだよ！！でも男同士だ……変じゃないか？"
"そんな事ない！……嬉しい……嬉しいよ……ちっとも変じゃない！……あぁ、マティウス！！"
ちゅ……ちゅ……くちゃ……
"はぁ……好きだ！……ちゅ……ギブリー！！"
"ねぇ……お願い……2人の時は、ガブリエラってよんで……"
"ガブリエラ！……ガブリエラ！！"
❤❤❤❤❤❤………………
うわぁー…………ここ禁書庫ですよー？立ち入り禁止区域ですよー？おーい…………
同じ聖歌隊の高等科3年生のマティウス・ルルーと中等科1年のガブリエル・フォン・バイデンガーだ。まさかこんな事になってるとは……
ダメだ……こりゃ完全に2人の世界だ。
あーあ、フロイラインは耳まで真っ赤にしている。やっぱ可愛いなぁ、コイツ。去年のダンスパーティの時、妹のドレスを着させたけど性別間違えて産まれて来た？……って思ったよ、ホント。唇奪っておけば良かった……
ゲフンゲフン……って今俺は何を考えた！？
しっかりしよう。……そうだ、オリバー・ハルミトン。冷静になれ。
はぁ……とまぁ、その程度には俺の精神も切羽詰まっているらしい。
教会の地下禁書庫は"そういうところ" で "そうそうこと"をする場所になっていた。俺は赤面している不安そうなフロイラインと静かに可能な限り素早く見つからないように移動した。
涙ぐむフロイラインが
『オリバー……』
と袖を引っ張ってきた。
あぁ、もう！可愛いな！コンチクショー！！
最近……コイツさらに可愛くなったか？……って、俺もバッチリ当てられるじゃないか！！くそっ！！
その後はなんとか誰にも見つからずに脱出出来た。麗しのフロイラインを部屋まで送った後、俺も見回り中のフリしてしれっと部屋に帰った。
『フロイライン……本当に性別間違えて産まれて来たんじゃないか？……妙な色気もあるし……』
きっと、ああいうのを"魔性"って言うんだろうな。その気になれば、俺よりモテるのに。
…………
だめだ。ムラムラする……。
こう言う時は秘蔵の小説コレクションで……
………………………………
？？
あれ？……おかしい。……まぁ、きっと疲れてんだろう。こう言う事もあるか…………。寝ればなんとかなるだろう。
ん……？
(駄目じゃないか……独りでなんかさせないよ？)
あれ？……またこの夢？
(ふふふ♪ボクがたくさんシてあげる♪)
えっ……
あぁ……や……ばっ……
(ふふふふふふふ♪♪)
闇夜に浮かぶ青い月が俺を見つめて…………
バッ！！！
『はぁ、はぁ……。またか。』
また"あの夢"だ……
どうしたんだよ……俺は…………。
それからまた1週間が過ぎ去った。
毎晩、例の夢を見る。だんだん鮮明になっているような。……それに加えて……この前から性的に不能？……なのか？立たないんだ。朝立ちすらしない。すごいショック……。いったいどうなってるんだ？
この前の一件以降、『コーヒーの会』や聖歌隊の練習でマティウスとガブリエルの顔を証明から見れないでいる。恥ずかしくて。
エーリヒは同学年の美形でちょっと影のあるユーリと腕を絡めて歩いてるのを見た。……多分出来てるなありゃ……。
そんな事を考えながらブルーノ特性のスペシャルブレンドを飲む。……ブルーノもこのコーヒーの良い香りも変わってない。いや、あいつは良い意味でも悪い意味でも変わらない。ブレないし、何かあっても決して表に出さない。そういう意味で誰よりも大人なんだ。
ん？
ふと中庭を見ると大量の辞書や本を抱えてよたよた歩いているテオを見かけた。伸びたセーターの袖で手の甲が隠れている。
『おい、どこ行くんだ？』
気付いたら立ち上がっていた。ブルーノの声が聞こえる。
『中庭見てみろよ、きっとフロイラインだ。あれじゃ本の山が歩いてるみたいだ。危なっかしいから、ちょっと手伝って来る。』
後ろを振り返える事なく俺は階段を下りていく。
『(……惚気るねぇ。)』
ん？なんか言ったかブルーノ？……まぁ、いいや。
下に降りると中庭の芝生に盛大に本をぶち撒けてマンガみたいに転んでるテオがいた。あーあ、こんなに……なになに？歴史書に、物理学の参考書に、数学者の論文に……ブリトニア語にファラン語、ポルト語か？これ？……オランジュ語にイスパール語の参考書まで……本の虫すげーなぁ。
『おいテオ、大丈夫か？……ほれ、眼鏡。』
『あぁ、オリバー！うん、大丈夫。』
『全く、無茶しやがって……。こんなに勉強してどうするんだよ。そのうち眼鏡が本体になるぞ？』
『あー……うん。ごめん。』
『……ったく、しょうがない。手伝ってやるよ！』
『ありがとう！オリバー！！』
テオは太陽のような笑顔を俺に向けた。
麗しのフロイラインは最近ますます魅力的になったな……。見つめられるとその青い瞳から目が離せなくなる。
そんな俺の気を知ってか知らずかテオは本を拾い始めた。俺も手伝って、それから本の山をテオと半分づつに別けて部屋に運んだ。
ドサッ……
『ふぅ……。』
『あっ、ごめん！オリバー。図書館に忘れ物したからちょっと取ってくるね！紅茶とクッキーがあるから適当にくつろいでて！』
すると、フロイラインはまたもや部屋を飛び出して行った。
『走るとまた転ぶぞー！？……ははっ、そそっかしいなぁ。……ん？』
本の山を置いた机の上に赤い日記がある。鍵付きだけど……開いてるなこれ？
……おい、オリバーよせ。テオのプライバシーだぞ？
急に忘れ掛けていた疑惑が頭をよぎった。
増えていく不純交際……
パート比率のおかしい聖歌隊……
休む奴やサボりの増加……
毎日見るおかしな夢……
全体的に甘ったるい空気……
一番の問題は俺を含むこの学校全体がその事にだんだんと違和感を感じなくなって来ている事実。慣れとは恐ろしい。
この異変にテオ何か関わっている、若しくは何か知っている可能性は否定出来ない。
いや……フロイラインはフロイラインだ。
本の虫で
何時ものようにミサで歌って
サボりもせずに授業を受けて
相変わらずガリ勉で
聖歌隊の練習にもキッチリ出て
たまに突拍子の無い無茶して
俺やブルーノとつるんでコーヒーすすって
フロイライン……テオドール・ヴァン・シュタインは可愛い俺の弟分だ。そう信じたい。
しかし、もし……もし仮にこの異変にテオが関係しているとして、何をしたんだ？
止める方法はあるのか？
変化はあの夜の翌日から……
記憶のブランク……空白の夜にいったい全体何があった？
毎晩見る夢……
俺は……テオを信じたい。
気づくと俺はテオの日記を読んでいた。
。。。。。。。。。。。。。
4月17日 大地の日
オリバーが帰って来た。休暇の終わりは明日。ハルミトン家が大変とか色々理由を付けていたけどきっと僕の為だ。ありがとう。オリバー。
オリバーやブルーノは遠くに行かないよね？
1人はもう嫌だ。
。。。。。。。。。。。。。
テオ……お前……
…………
やっぱり、テオの日記だ。
パラっ……
次は長文だな……
。。。。。。。。。。。。。
4月18日 太陽の日
今日はオリバーと一緒にツェーリの街に出かけた。校外学習の書類まででっち上げてバスを手配していた。相変わらずの行動力と凄い手際の良さだ。不良っぽいけど……。悪事の片棒担がされてないかな？
。。。。。。。。。。。。。
うるせぇ、余計なお世話だ！
。。。。。。。。。。。。。
楽しくてついつい時間が過ぎるのを忘れてしまって、不良(オリバー)の抜け道を通って帰る事に。元々はツェーリ傭兵団が使っていた魔法の抜け道らしい。高度な魔法だ。勉強したい。
でも途中でシュピーゲル先生に見つかりそうに……。その時ブルーノが助けてくれたんだ。頭をグリグリされたけど。もう少しで頭の形が変わるとこだった。……あの不良がゲンコツされた時、ちょっとスッキリしたのは内緒だ。
……禁書庫にあった楽譜。主神言語……神の言葉で書かれてた。しかもグレゴリー聖歌みたいだ。解読はまたにしよう。今日は疲れた。
。。。。。。。。。。。。。
グレゴリー聖歌？
パラ……
パラ……
それから1カ月ほど読み進めても、さほど珍しい事は書いてなかった。俺とブルーノと駄弁ったのだの、俺に悪事の片棒担がされたのだの。ダミ声3バカトリオに絡まれたとかたわいもない出来事が綴ってあった。それから俺への些細な悪口も……。
しかし、まぁ……コイツ字綺麗だ。俺とは大違い。
悪いとは思いつつ更に読み進めてしまう。
ん？1日、日付が飛んでる？飛んでるのは……
6月7日……
あの日だ……日記は翌日……
パラ……
。。。。。。。。。。。。。
6月8日 月の日
昨日の晩……あの楽譜は本物の魔法……
もうすぐ、ボクの願いが……
いや……焦るなテオドール・ヴァン・シュタイン
完全に信用するのは危険だ
機会を待つんだ……
。。。。。。。。。。。。。
…………は？
。。。。。。。。。。。。。
6月9日 火の日
ものように聖歌隊の練習に顔を出した。それから何人かに声をかけた。みんな悩んでるみたいだ。少し勇気付けてあげた。上手くやるといい。
行為が終わったら寝てしまった。夢の中と思ってるようで、短い時間だけれど記憶を操作できるらしい。
。。。。。。。。。。。。。
？……これは何の事について書いてあるんだ？
。。。。。。。。。。。。。
6月10日 水の日
聖歌隊のパート変えの申請が急増していた。どうやらボクのお節介は上手くいったようだ。中等部の1年生が多いみたいだけど、ちらほら高等科も見かけた。
今日、初めて彼のを飲んでみた。口の中で幸せが溢れるようだった。身体が疼いて仕方がない……でも我慢だ。良い夢を見てね？
いずれこの日記はオリバーに読まれてしまうだろう。
鍵はもう掛けないでおこう。
。。。。。。。。。。。。。
おいおいおいおい……だんだん雲行きが怪しくなって無いか？
。。。。。。。。。。。。。
6月11日 木の日
コーヒーの会の日。オリバーが考え事をしているようだった。勘が鋭い。普通の人ではまず気づかない僅かな違和感を感じ取り、思考している。まだ勘の域を出ないだろうけど、ボクを疑い始めている。
彼の行動は徹底的な合理主義の下で手段を選ばず目的を達成する。その姿はマキャベリの理想的姿だ。敬意に値する。でも、その行動原理である目的は自身の興味や探究心を満たす為のものが多く、目的が手段そのものになる事もしばしばだ。
そんなオリバーは今日、聖歌隊の練習に顔を出していた。
エーリヒ・フォン・リリエンタールがアルトにパート変えした。その時……よりにもよって魅了の魔法まで使ってオリバーにちょっかい出してきた。油断も隙も無い。
間に合ったから良かったけど、危なかった。オリバーもオリバーだ。コロッと引っかかりそうにならないでよ全く。
エーリヒにはお節介を焼いて無い。
第三者の介入は契約範囲外って事みたいだ。
すでにボクはオリバーと関係を持ってる。独り占めは出来てるとみなされたようだ。
彼女の含み笑いが聴こえてくる……あの悪魔め。
少し早い気もするけど……予定を繰り上げよう。仕方ないよね？
。。。。。。。。。。。。。
……………………悪魔？契約？
なんだこれ？冷や汗が止まらない……
。。。。。。。。。。。。。
6月12日 黄金の日
ふふふ……キモチ良かった……
もうそれしか考えられない。
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月13日 大地の日
昨日の夜……最高だった。何回も……何回も……
。。。。。。。。。。。。。
しばらく同じような内容が続いている……
。。。。。。。。。。。。。
6月18日 木の日
オリバーと一緒にツェーリの街に繰り出した。考え事をしている。まだ確信を得ている訳では無いようだけど、ボクを本格的に疑い始めたようだ。
そんなオリバーは街でカフェにいる時、他校の女の子に手を振っていた。……しょうがない。けど、次からは魔力を少し強くしよう。
例の抜け道でマティウスとギブリーが……。ボクまでムラムラして……危なかった。
問題はその後だ。オリバーは……事もあろうにエッチな小説で無駄撃ちをしようとした。案の定出来なかったみだいだけど……ちょっと許せない。今回はあの術式を試してみた。……もっともっと……ボクに溺れてほしい。
。。。。。。。。。。。。。
丁度、1週間前だ…………なんであいつが俺の秘蔵コレクションを知ってるんだ？
。。。。。。。。。。。。。
6月19日 黄金の日
効果は絶大みたいだ。ふふふ♪
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月20日 大地の日
お腹の中がぐちゃぐちゃだ♪もうオリバー無しではいられ無い。ずっと繋がっていたい。
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月21日 太陽の日
オリバーはもうすぐインキュバスになりそうだ。
オリバーのカラダはもう既にボクに溺れている。
後は心だけ……
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月22日 月の日
彼は必死に真実にたどり着こうとしている。可愛い、可愛いよオリバー！
ゆっくり堕としてあげる……
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月23日 火の日
エーリヒは想い人を見つけたようだ。
どうやら彼は……いや、彼女は心と身体がちぐはぐだったみたいだ。今日、図書館でよく見かけるユーリー・モリス・バイハンと一緒にいた。神学科の首席が主神を否定したようだ。愛は全てを乗り越える……。
オリバーは今日も凄かった。夢と現実の間で悩む可愛い彼を見たいけど……ふふふ♪
もう少し……もう少しで……
。。。。。。。。。。。。。
パラっ……
。。。。。。。。。。。。。
6月24日 水の日
オリバーと繋がっている時、彼の気持ちを聞いてみた。夢の中の意識は嘘偽りの無い深層心理。だからすごく怖かったけど……
僕を愛してるって言ってくれた。
女の子に……魔物娘になって……オリバーと愛し合えるカラダになって本当に良かった。
思い出すだけでカラダが痙攣して子宮がきゅんきゅんする。
オリバーとセックスして……お腹に出されて……とても幸せ。 相性が良すぎて加減が出来なくなるのは困りものだけど……
彼は夢だと思ってるだろう。でも全て現実。ボクが夢見の魔法で行為に及んでる間の記憶を夢に置き換えている。
ねぇ？君も本当は気付いているんでしょ？
オリバー♪
。。。。。。。。。。。。。
！！！！！！
やばい……フロイラインは黒だ！！
しかも、この異変に関わっているってレベルじゃない！首謀者じゃないか！！！
それに……あの夢は…………
ギィ…………
『好奇心とは残酷だね。真実を求めずにはいられ無い……ねぇ？オリバー？』
『テオ……』
一番まずいタイミングだ。冷や汗が噴き出てくる……心臓が飛び出して来そうだ。
テオの美しい青い眼が今は何より怖い。
カチャッ……
テオは後ろ手でそっと部屋の鍵を回した……。
後半に続く……
19/06/20 19:44更新 / francois
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