第三十三話〜暴虐〜
〜???〜
何も無い空間。暗闇の空間。この何も見えない空間はエクセルシアにとり憑かれた魔物の心なのだろう。
『オレは同年代のミノタウロスの中でも特に乱暴者と恐れられていた。』
そしてまた、彼女たちの独白が始まる。
『親父もお袋ももう少し皆に優しくできないのかと口を酸っぱくして言っていた。当時のオレは知った事ではないと聞かなかった。』
同年代の友人を睨みつけている少女が映る。彼女には誰も近づいてこない。
『別に友人なんてどうでもよかった。ゆっくり昼寝ができて、適当に暴れて、また寝る。それが出来れば十分だった。』
気持よさそうに昼寝をするミノタウロスの少女。
次にハンマーを振り回して岩を砕く少女が映る。
『でもオレだって女だ。友人なんてどうでもよくても、気になる奴はできてしまう。』
樹木の影から覗き込む少女。その目線の先には一人の少年がいる。
『周りとコミュニケーションを取らなかった代償が、その時にいっぺんに来た。何を話したらいいか分からない。どうやって話しかけたらいいか分からない。』
必死に何かを言おうとする少女。しかし、少年が別のことに気を取られてどこかへ行ってしまう。
『親に相談しようとしても、その時には既に親はいなかった。二人とも戦争で死に、オレは二人の友人に預けられたのだ。』
墓の前で涙する少女。彼女は一日中泣いていたようだ。
『親父達の友人は良くしてくれたが、相談する気にはなれなかった。そいつは酷い朴念仁だったからだ。』
言い寄る女性に笑って手を振る男が映る。少女はそれを唖然として見ていた。
『結局想いを伝えることができず、月日が流れてオレ達はついに離れ離れになってしまった。あいつは……引っ越して行ったのだ。』
荷馬車に乗って手を振る少年。それを見送っている少女。
『この事には自分なりにけじめを付けていたつもりだった。ある程度は諦めたし、気は楽になった。』
真面目に畑仕事をする少女。しかしその顔には輝きはなかった。
『しばらくして、オレは自分の力が役に立てるような場所を探して旅をすることにした。親父の友人は、笑って見送ってくれた。』
少女は、女性になっていた。
荷物を棒に括りつけて担ぎ、道を歩く女性。
『歩ける限り歩いて、色んな景色を見た。冒険者ギルドに入って、商人の護衛をしたり、盗賊の討伐なんかもした。しかし、なかなか見つからない。』
歩き続ける女性。持っていたハンマーはだんだんと煤けてきている。
『義賊なんかもやってみた。拠点にしていた森の道案内なんかもしてみた。でも、見つからない。』
貧しい人に奪った金品を分け与えている女性。
森で迷った子供を街に送り届ける女性。
『何時まで経っても見つからない居場所に、オレは焦っていた。そんな時だった、以前想いを寄せていたアイツをある街で見かけたんだ。』
一人の男の背中が映る。
『その時にはオレには人に自分から話しかけるだけの度胸が付いていた。奴に話しかけてみよう。そして、オレがアイツを好きだった事を伝えるんだ。オレの胸はこれまでにないほど高鳴っていた。』
近づいてくる男の背中。
『でも……。』
歩いている男に誰かが横から飛びついてきた。あれは、ホルスタウロスか?
『あいつには、もう結婚している奴がいた。オレの恋は、一回も声を掛けることもなく終わったのだ。』
力なく下ろされる右手。項垂れる彼女。
『もし、オレがアイツの引越し前に想いを告げていたとしても……あいつは頷いてくれなかったかもしれない。その時のオレは嫌われ者だったしな。』
酒を浴びるように呑んでいる女性が映る。その瞳は虚ろだ。
『でも、アイツと仲よさそうに歩いているホルスタウロスの姿を思い出したら、心の底からどす黒い物が沸き上がってきた。自分でその感情に気づいて、さらに落ち込んだ。』
一人道を歩く女性。挨拶をされても返事をしない。
『もう、誰とも関わりたくなかった。もし関わってそいつが特別な存在になって、自分の元から離れていってしまったら……次は耐えられないかも知れない。』
『だから……オレは……誰とも関わりをもたなくなった。だれにもふれらレナイヨウニ、ダレニモアワナイヨウニ。』
空間がひび割れ、景色が色あせていく。
『モウ、イヤダ。ダレトモアイタクナイ。ヒトリガイイ。ヨッテクルナ。クルナ、クルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナ』
『そいつは、ただお前が逃げているだけだ。』
俺が話しかけた瞬間、ひび割れていた空間が一気に修復され、景色が移り変わる。
岩が多く点在する草原のようだ。
『……。』
彼女は何も言わない。
ただ黙って俯いている。
『結局さ、お前は臆病だったんだよ、誰よりも。』
『オレハ、ランボウモノダ。オクビョウナハズガナイ。』
俺を非難するように呟く彼女。
『いいや、臆病者だね。臆病だから誰も近づかせなかった。臆病だから乱暴者を装って一人になっていた。』
彼女に自分がどういう人物なのか自覚させるため、糾弾する。
『お前は、傷つきたくないから逃げていたんだ。向き合いたくないから逃げていたんだ。それは、臆病者のする事だ。お前は、乱暴者じゃない。』
『チガウ!』
『違わない。』
彼女が振り向いて反論するが、その顔に浮かんでいたのは紛れもない恐怖だった。
『今、お前は俺に恐怖を感じているはずだ。隠していた、蓋をしていた自分を掘り返す俺に、恐怖を感じている。』
『ダマレ!』
彼女がハンマーを振りあげ、俺に打ち下ろす。俺はそれを額で受け止める。
『!?』
『俺は、逃げない。お前とは違う。』
不思議と額は切れなかった。衝撃も殆ど無い。ハンマーを片手で払いのけ、彼女へ歩み寄る。
『人間ってさ、傷つきやすい生き物なんだ。それは、今の魔物も変わらない。』
手を伸ばし、彼女の頬を撫でる。
『お前は、人よりもさらに傷つきやすい心を持っていたんだ。それ故に臆病になってしまった。それを隠すために、人を近づけなかった。』
さらに手を伸ばして彼女の頭を撫でてやる。
見た目よりも柔らかく、しなやかな髪。
『傷つくのって、辛いよな。痛いし、悲しい。けどな、逃げちゃダメだ。それじゃ何時まで経っても進むことができない。』
手を下ろし、彼女を強く抱きしめる。
『ヤ、ヤメロ!チカヅ……』
『逃げるな!』
振りほどこうとした彼女を一喝する。
ビクりと震えて、彼女の動きが止まった。
『ここで逃げたら、お前はまた以前の臆病者に戻ってしまう。それは、駄目だ。抱きしめろ。他人を受け入れろ。傷つくのを、恐れるな。』
俺の額に温かいものが落ちてくる。
彼女の体が細かく震えていた。
『どんなに痛くても、辛くても、悲しくても、逃げるな。逃げたら、逃げた方も逃げられた方も、同じ痛みを味わう事になる。』
彼女が俺の体に腕を回してきて、強く抱きしめてきた。
『どんなに痛くても、それを舐め合えばいい。どんなに辛くても、慰め合えばいい。どんなに悲しくても、共に涙を流せばいい。傷の舐め合いだと言う奴には言わせておけ。それが、人間ってもんだ。魔物もそれは変わらない。』
『…………っ!』
彼女の涙が俺の頭の上に落ちてくる。
『痛かったよ……。辛かったよ……。悲しかったよ……。寂しかったよ……。』
『そうだな……。今までよく我慢したな。えらいぞ。』
俺達は抱き合い、共に涙を流した。互いの傷を舐めあうように。
『忘れろ。』
『いきなり何だよ。』
彼女が真っ赤な顔で睨みつけてくる。
彼女の目はまだ若干潤んでいる。
『オレはミノタウロスだぞ!?屈強なアネゴ肌なんだぞ!?それが泣いたとか恥ずかしいだろうが!』
『やだ、絶対忘れてやんねぇ。』
ニヤニヤ笑いながらジロジロ見てやる。彼女の頬にはまだ涙の跡が付いている。
『こ、のぉ!』
『っと!あっははははは!』
彼女が跳びかかり、俺を押し倒す。
回避が間に合わずに押し倒されてしまうが、笑いが止まらない。
『こいつ、笑うなぁ!』
両頬がつねられ、引っ張られる。
『ふぁっふ、いひぇえ!いひゃいっへ!』
声が変になり、その声で増々笑ってしまう。
『このやろ、この……ん?』
しかし、彼女が違和感に気づく。
『おい、何立ててるんだ。』
そりゃあ、ねぇ。
『そんな大きな物二つも押し当てられちゃ大きくもなるって。』
ムニムニと潰れる彼女の胸。結構大きい。
『……っく』
『?』
彼女が俯く。地雷かと思ったが、口元がニヤけている。
『傷を舐め合うのもいいって言っていたよなぁ?お前は。』
そう言うと上半身を起こし、俺のズボンに手を掛ける。
『まぁ、そうは言ったがな。別に今すぐにじゃなくても……。』
『逃げんな、コラ。』
『ぐ……。』
返されたよ。
『別に痛いことしようってわけじゃねぇんだ。ちっとは付き合えよ。』
『お前のそれはどうなってんだよ……。』
彼女の股間を覆う毛皮はいつの間にか無くなっていた。
『細かい事は気にすんな!オレも原理はわからん!』
駄目だろそれ。
彼女が俺のズボンを引き下ろす。
俺のモノは既に大きく反り返っていた。
『せめてベルトぐらいは外そうぜ。痛いし。』
『面倒だ。却下。』
ひでぇ。
『そこまで大きかねぇな。これでフルか?』
『生憎とそれが最大だ。普通の人間に何求めてやがる。』
そりゃインキュバスだの特殊な人間だのに比べりゃ小さいだろうさ。
でも俺は普通の人間だ。
『ま、大事なのは大きさじゃねぇか。性能だよな、性能。』
『あんなデカいハンマー振り回していたあんたに言われたくないよ……。』
俺は先程の戦闘の鉄塊を思い出す。あれに何度殺されかけたか……。
『ん?何か言ったか?』
『いんや、何も。』
彼女は俺のモノに舌を這わせ始める。大柄で無骨な外見とは違い、その舌使いは繊細で労るような動きだった。
『っ!は……っ!』
『ぴちゅ……れろ、ちゅ、えろ……』
亀頭全体を舐めまわし、根元から裏筋まで舌を這わせ、尿道口に舌を差し込む。
『ん、ぐぷ……んぐ……。』
喉の奥まで引きずり込み、喉の奥で亀頭を揉み潰す。
ついでに睾丸が手で弄ばれた。
『ぐ……っ!ぁ……!』
手に届く所にあるのは彼女の頭ぐらいだろうか。
手持ち無沙汰になって、彼女の頭を撫でる。
柔らかく手にまとわりつき、かといってベタつかずに指の間からするりと抜けていく。
手触りが良くてつい何時までも撫でてしまう。
『ぅ……おい、それやめろ。』
彼女が顔を真赤にして口を離す。
『なんで?こんなに気持ちいいのに。』
『くすぐったい。あと、恥ずかしい。』
何でこの人はこんなにガサツなのに可愛いのだろうか。
どうしても頭を撫でる手が離せない。
『やめろってば……。落ち着かない。』
しかし、彼女は振り払う素振りを見せない。
『ほら、口が止まってるぞ?別に撫でられながらでもできなくはないだろ?』
凄い生暖かい笑顔で彼女に笑いかける。
『ちくしょう……覚えてろよ……。』
可愛く悪態をつくと、彼女はまた俺のモノを咥え込む。
『ん、じゅる、ずずずずずずずぅ〜……じゅぷ、じゅるるる……。』
浅めに加えて吸いつく。深くまで加えて啜る。
それなりに経験を積んでいるのだろう。かなり、上手い。
『もうすぐ……イくぞ……。』
『ぷは、出しちまえ。受け止めてやるから。』
彼女はまだ咥え込んで激しく頭を降り始めた。
『んぶ、じゅぷ、ぐぷ、じゅるる!』
『っぁ……!ぐ……っ!』
ギリギリまで我慢して、解き放つ。熱い汁がモノを通って彼女の口の中へ勢い良く流れこんでいく。
彼女はそれを特につっかえもせずに飲み込んでいく。
『ん……、ふぅ。あまり濃くねぇな。出した後か?』
そりゃ昨日あれだけ絞られりゃ若干不足もするだろう。
『昨日たっぷり絞られたからな。増産が追いつかない。』
『なんだ、彼女持ちがこんな事していてもいいのか?』
『彼女じゃない……。ただの仲間だ。』
だよな?好きだとか言われてもOKしていないからセーフだよな?
『ま、ここまで来て遠慮する気はねぇけどな。まだ行けるだろ?』
彼女が俺の上にのしかかって来た。手は俺のモノに添えたままだ。
自分の秘所にそれを宛てがい、飲み込んでいく。
『ん……入ったぞ。』
完全に腰同士を密着させ、奥まで飲み込む。
『かなりキツめというか……。なかなか筋肉質だな』
彼女の中は締め付けが強く、包みこむというより絞り上げるという感覚がしっくりくる。
『しっかり我慢しろよ?中途半端に力抜いているとあっという間に出ちまうからな。』
そう言うと彼女は腰を動かし始める。
なるほど確かに、きつい締め付けと温かい膣内の組み合わせはなかなか来るものがある。
『ふ……ん、なかなかいい所に……当たるな。』
『できれば、もう少しゆっくり……動いてくれないか?気持よすぎて……出そうだ。』
俺が弱みを見せた事で、彼女がニヤリと笑う。
『そう言われて緩めると思うか?たっぷり可愛がってやるよ。』
当然のように彼女がペースを上げた。
勢い良く挿入されたモノが子宮口に当たり、膣壁が絡みつきながら引き戻され、また奥へと突き抜ける。
『やめ……本当に、出る……っ!』
自分より大柄な女性に覆いかぶさられている事と、強力な締め付けに子宮口のコリコリとしたアクセントが加わった刺激で、我慢が全く効かなくなる。
あぁ、俺って結構M寄りだったね、そう言えば。
『……っ!ぁ……っ!』
腰がガクガクと震え、彼女の中にだくだくと白濁が流れ出す。
彼女は満足そうにそれを受け入れる。
『はぁ……。こんなに出しやがって……。ま、無理もねぇけどな。』
ゆるゆると腰を動かして余韻を愉しむ彼女。
先程のような強い締め付けが無くなり、包みこむような感触がモノを擦り上げる。
『こっちはまだ満足してないんだ、もう一発できるよな?』
弱い刺激を与え続けられたモノは、また力を取り戻していた。
『ご期待に添えそうだぜ?俺としてもやられっぱなしは趣味じゃないしな。』
今度は腰に手を添えて、こちらから突き上げてやる。突き上げるたびにコリコリとした子宮口に先端が当たるが、2度も出したとなれば少々の刺激では暴発はしない。
『いいね、そうこなくっちゃな。今度は……っく、もう少し楽しませてくれよ?♪』
鋭く突きあげてはゆっくりと引きぬく。
天井を擦りあげるように突き入れて、奥をゴリゴリと押しつぶす。
『技術をフルに使うのもいいんだが……。面白くないな。』
頭で考えながら突き入れていると、どうしてもそっちに意識が行って快感が鈍るようだ。
『別に気持よくしてくれとは言ってないぜ?楽しませてくれとは言ったけどな。』
そりゃそうだ。
『よし、考えるのやめ。こういうのはフィーリングでやるもんだ。』
変に考えながら突くのではなく、ただ一定のリズムで突き上げる。ただし……。
『さて、無駄に恥ずかしがらせるか。』
彼女の頬に手を伸ばす。褐色の肌は意外にもきめ細かい。
『お、おい?』
唇をなぞり、耳と角を撫で上げる。
『可愛いとか言われたこと無いだろ?』
『い、いきなり何を言って……!』
戸惑う彼女。もう一押しだ。
『照れている顔も可愛いと思うぜ?』
『!?』
膣内がきゅうと締まる。
『垂れた耳も可愛らしいじゃないか。角もすべすべしていて気持ちがいい。』
『あぁ……あわわわ……』
目の焦点が合っていない。視点が定まらずに泳いでいる。
『唇もふっくらしていて美味しそうだ。』
『そ、そういう恥ずかしいこといぅむぅ!?』
抱き寄せて唇を奪う。胸から激しい鼓動を感じ、下がさらに締まる。
『んんぅ!?ん、ん〜〜〜!』
抵抗が強いが、本気で嫌がっている訳ではなさそうだ。
『んぐ、ぷはぁ!お、おま、おまいきなりなにしtうぷぅ!?』
追い打ちでさらに唇を奪い、口の中を舌でかき回してやる。
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?』
締め付けが強くなった膣内も突き上げる。
『んぁ、やめ、ちょ……ふむぅ!?ん〜〜〜〜!』
彼女の声に余裕がなくなっていく。もうすぐフィニッシュだ。
さらに高速で突き上げ、自分も絶頂へと導いていく。
『こ、こんなの聞いてな、あ、い、イかされる、イかされちまう……!』
『俺も、イきそうだ。一緒に……!』
彼女の顔に余裕の色はもう無い。しかし俺の顔にも余裕はない筈だ。
共に絶頂への階段を上り詰める。頭の中に白い火花が散り、思考が停止する。
『っ!……ぐ……!』
『イク、イ……〜〜〜〜っ!』
絶頂と同時にがっしりと抱きついてくる彼女。俺も彼女の中に滾りをぶちまけ……ん?
<ベキバキボキベキョミシ!>
『────────』
『…………』
『あ〜、うん。済まない。少し力の加減を間違えた。』
絶頂と同時に俺を絞めつけた彼女。もちろん下ではなく、上の方だ。
その力は先ほどハンマーを打ち下ろしたときの比ではなく、俺の骨を締め砕いた。
これが現実だったら死んでいたぞ。
『ベツニモンダイナイヨー。オレガンジョウダカラキニシナイー。』
『うわぁ!?本格的に壊れたぁ!?』
このぐらいの意地悪はしてもバチは当たらないよね?
『さて、冗談はさておきそろそろだな。』
『冗談かよ!ってそろそろって何だ?』
空から差し込んでくる光が強くなる。夢の終わり……いや、これがなのかはわからないけど。
『優しい時間はお終いって事だ。これから目が覚めて、辛い現実と向き合わなきゃならない。』
彼女の目を見つめて、言い聞かせる。
『でも、大丈夫だよな?お前は、もう逃げはしない筈だ。強く歩いていける。』
『そうだな……なぁ、一つだけいいか?』
彼女が問いかける。しかしそれに対する返答は、もう決まっている。
『目が覚めて落ち着いたら改めて、な。』
彼女の頭をくしゃくしゃと撫でる。
彼女が文句を言う前に、意識が現実へと引き戻された。
〜ベルン山 山頂〜
「……っ……ってぇ……。」
何が痛いって?キンキンに冷やされた頭だよ。復帰直後の頭痛と合わさって倍率ドンだ。
「あにぃ、だいじょうぶ?」
「問題ない。これは慣れた。」
俺は起き上がり、辺りを見渡す。
ちょうど倒したミノタウロスが元に戻って行く所だった。
「これは……流石に慣れないがな。」
肩口から腹までバッサリと斬られている……って俺が斬ったんだけどな。
「ラプラス。パラケルススだ。さっさと処置するぞ。」
『了解。パラケルスス展開。ADフィールド、アポロニウス同時展開。』
マニュピレーターの展開と同時にフィールドの生成とビットの展開を確認。
倒れている彼女へと近づく。
『表皮の裂傷と筋繊維の切断、胸骨が若干削れていますが、命に別状はありません。早急に処置してしまいましょう。』
「だな。」
消毒液を吹きつけ、麻酔を傷口の周り数カ所に打ち込み、骨が削れている場所にナノ入り軟膏を塗る。
あとは縫合だけ……?
「なんだ、どうしたんだこれ?」
ルミナストリングスがあっちこっちを彷徨っている。まるで患部が見えていないかのような……。
『警告。強力な磁場が発生しているようです。ルミナストリングスの制御系統に混乱が起こっています。ルミナストリングスでの縫合は不可能なようです。』
磁場……磁場って……。
「まさか……地中のマグマか?」
『火山活動に寄って周囲の花崗岩が損傷。電磁波が発生し、制御系統を撹乱しているようです。』
「ヤバいじゃねぇか。これ以外に縫合用の糸って無いのか?」
『そもそも強力な磁場が発生する状況に対応して作られている訳ではありませんので。』
肝心な時に……!
「せめて何かで縫わないとマズいな……。何か無かったか……。」
「あに〜、あに〜。」
メイが俺のバックパックを指さしている。
「そうだ、丁度いい物があるじゃないか。」
バックパックを下ろし、ソーイングセットを取り出す。
「別に応急処置に道具を選ぶ必要はない。問題は、同じ役割を果たせるかどうかだ。」
添え木代わりに雑誌を使うように。止血帯の代わりにタオルで巻くように。
一番細い縫針と糸を取り出し、消毒液をぶっ掛ける。
「ルミナストリングスみたいに上手にはできないが……無いよりはマシだろ。」
念入りに麻酔をかけ直し、表皮から少し潜ったぐらいの位置を縫いつけていく。
少なくとも俺の経験に縫針で皮膚の縫合を行なった経験は無いが、縫いぐるみよりは簡単な筈だ。
「……ぐ……オレは一体……。」
気絶していたミノタウロスが起きる。
頭に手を当てて起き上がろうとするのを制する。
「まだじっとしていろ。処置中だ。」
ようやく半分縫い終わった。残り半分。
「処置って……何を……。」
「皮膚を縫い合わせている。動くなよ?ズレるぞ。」
チクチクと縫いあわせていく。あともう少し……。
『警告。火口に巨大なエネルギー反応。急いで退避して下さい。』
「巨大なエネルギーって……オイ、まさか……。」
『噴火が間近に迫っています。至急退避を。』
そんな事を言ってもまだ縫い終わっていない。
かなりハイペースで縫い合わせているはずだが、その動きが酷く緩慢に感じてしまう。
「もう少しだ……もう少し……できた!」
最後の一針を縫い終わり、糸を結びあわせて止める。
創版を貼り付けて処置完了だ。
「もう起きてもいいのか?起きるぞ?」
「そっとな。縫合用の糸じゃないから切れたらマズい。」
彼女を抱き起こす。徐々に細かい揺れが強くなってきた。
「さ、ここにはもう用は無い……早く……」
しかし、ふと思い返す。
このベルン山の標高はいくらだった?少なくとも3000メーター超だったはず……。
「これ……そのまま噴火させたらヤバいよな。」
こんな高山が噴火したら……それこそ麓どころか風下の被害は凄まじい事になる。
火山灰が大地を覆い、作物はまともに取れなくなり、人々の生活が立ち行かなくなる。
『マスター、やめてください。至急退避を。危険です。』
「…………」
ラプラスはこう言っていたが、俺の腹は既に決まっていた。
「メイ、彼女を麓まで運んでくれ。大至急だ。」
『マスター。』
咎めるようなラプラスの口調。しかし、俺は動かない。
「どうするの?」
「噴火の被害を最小限に留めてみる。方法は……出たとこ勝負だな。」
抱き起こしたミノタウロスをメイへ渡す。
これだけの体格差があるというのに、メイは楽々と抱え上げた。
「だいじょうぶ〜?」
「問題ない。やるだけやって駄目なら逃げるさ。」
無論火砕流だの火山ガスだのから逃げられる訳がない。
俺がここに残って生き残る=噴火を完全に食い止めると言うことだ。
「かえったらいっしょにごはんたべよ〜♪」
「それを言うな。俺を殺す気か?」
頭をくしゃくしゃと撫でて、背中を押してやる。
「ほら、行った行った。そいつを頼むぜ?」
「あ〜い♪」
メイが麓へ向かって駆けていく。そのメイの腕の中から、ミノタウロスの女性が俺に向かって叫ぶ。
「おい!せめて名前教えていけ!せめて……せめてお前の口から教えてくれ!」
俺は背中を向けながら親指を突き上げる。
「アルテア!アルテア=ブレイナーだ!目の前の恐怖から逃げたくないだけの、ただの冒険者だ!」
『マスター、無謀です。一体何を考えているんですか?』
「ん〜……特に何も。」
そう、何も考えていない。ぶっちゃけ手詰まりである。
「試しにミサイルぶちこんでみるか?意外と止まるかもしれん。」
『余計に噴火を促進させてどうするのですか。』
だよな。
『……マスター。分の悪い掛けは好きですか?』
「いんや、さほど好きではないな。何か策でもあるのか?」
『手に入ったエクセルシアによる新たなE-Weaponがこの事態を突破する鍵となるかもしれません。』
新しいE-Weaponねぇ……。
確かに新たなエクセルシアを手にする度にそれに対応した武器が手に入るようになっている。
「どんなもんだ?」
『E-Weapon<G・Gハンマー>正式名称ギガグラヴィティハンマー。巨大な重力波の塊を上空に発生させ、対象を広範囲に渡って押し潰す武装のようです。しかし、この兵装単体では噴火を止めることができません。』
「そりゃ栓するだけじゃ意味ねぇだろうしな。それプラス何かが必要って事か?」
『肯定。押し潰すだけではこの状況は打破できません。』
何か……ね。
「ホント……何なんだろうな、こいつは。」
『こいつ、とは何ですか?』
俺は鵺を見遣って言う。
いや、正確にはその内部に格納されているあの忌々しい物質だ。
「エクセルシアだよ。寄生するたびに何かを奪って、手に入れるたびに何かを与える。何がしたいんだろうな。」
そんな理不尽な、しかし頼もしい力。
「お前がなぜ遠くから地球へやって来たのか。なぜ何かに取り憑いて暴れるのか。まぁ今はその事は置いておこう。別に理解できるとも思っていないしな。」
鵺を撫でながら語る。その物言わぬ地球外生命体に向かって、言い聞かせる。
「なぜお前が生命の感情に反応して力を与えるのか。お前らの目的はなんなのか。それもどうでもいい。俺には関係の無い事だ。」
『(出力上昇中……?150%...200%...300%...まだ上がる!?)』
グリップを握りしめる。俺の想いを伝えるように、強く。
「だがもし、お前が生命の意思を増幅して力を与える存在だというのなら……。」
グリップを左手に持ち代えると、鵺の後部ハッチが開く。
「俺の想いを……力に変えてみせろ!エクセルシアァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!」
♪Sin of Genesis
光の粒子を湛えるハッチに右手を突っ込む。鵺と俺の右腕がリンクしていく。
『E-Weapon<G・Gハンマー>EX.LOAD。』
外部装甲展開。G・Gハンマー投射装置展開。EX.LOADシステム起動。
頭の中に大量の情報が流れこみ、しかしそれを自由自在に頭が処理していく。
イメージするのは、全てを掴みとり、全てを塞き止める神の手。
『E-エネルギー1000%突破。エネルギー安定。重力波生成開始。』
腕ごと鵺を上空に向け、重力波の塊を生成する。巨大な塊が火口上空を漂い、辺りの石を吸い込み始めた。
そして……
<<ッドォォォォォオオオオン>>
引き寄せられるように火山が噴火。しかし、溢れ出た溶岩も、火山礫も、火山灰も全て重力波の塊の中に吸い込まれていく。
「はぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!」
烈昂を力に。想いを力に。願いを力に。
噴火した物を全て手の中へ。握り潰し、固め、圧縮し、閉じ込める。
赤を、灰色を、黒を、その中へ封じ込める。
〜ベルン山脈登山道〜
「あれは一体……。」
山頂に、巨大な火の玉が浮かんでいる。その火の玉は、噴火する溶岩や噴煙を取り込み、さらに巨大になっていく。
「あにぃ……。」
「あれは……アルテアか!?一体どんな魔法を使っているって言うんだよ……!」
火の玉は巨大になり続ける。まるで、太陽が地上へ落ちてきたかのように。
『噴火終了推定時刻まで、あと30秒。』
ラプラスがゴールまでの時間を告げる。
『噴火が全て終わり、全て集めきったとしても油断はできません。溶岩が固まるまでは降ろすことが……。』
「それについてはもう考えてある。」
脂汗を流しながら言う。流石に腕が痺れてきたが、諦めるわけにはいかない。
「溶岩と火山灰を混ぜあわせて一つにして月までぶん投げる。重力波の方向とコントロールは任せた。」
やがて噴火が収まり、火口はグツグツと溶岩が滲み出る程度になった。
「これ以上の噴火は無いな!?」
『はい。重力波の吸引の影響で危険域の溶岩は全て吸い出されました。』
頭上では赤々と溶岩が煮えたぎっている。表面は固まりかけているが、内包する溶岩の温度はまだ冷え切っていない。
『月は現在10時の方向、仰角30度前後。重力波の指向性と制御は私が行いますので、出力の制御をお願いします。』
「任せろ!」
イメージするのは、どこまでも遠くへ投げ飛ばせる金剛の豪腕。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」
辺りの風景を歪めるほど出力が上がっていく。どこまでも強く、遠く、速く!
『出力上昇中。1300%...1500%...1700%...2000%...必要出力に到達。射出します。』
「いけぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええ!」
そして、烈昂の気合と共に火球を斜め上へ打ち上げる。
<ゴォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!>
「月まで届け……そして永遠に帰ってくるな!」
やがて火球は月へ向かって打ち上げられ、ピンポン玉程度になり、豆粒程度になり、米粒よりも小さくなり、見えなくなった。
十数分後、ラプラスからの報告。
『溶岩塊は月へと落下。状況終了です。お疲れ様でした。』
「…………っ…………くはぁ〜……」
緊張が解け、その場に仰向けで倒れこむ。
極度に熱が溜まった鵺に雪が触れてジュワジュワと音を立てる。
ハッチから腕を抜き、雪を上から掛けてやる。
「おつかれさん。悪いな、無茶に付き合わせて。」
『マスター。貴方は何を考えているのですか?一歩間違えば死ぬところだったのですよ?無策で留まってぶっつけ本番で噴火を止めた挙句に集めたものを月に飛ばすなんて常識的に考えてありえませんよ?失敗したらどうするつもりだったのですか?貴方が死んだら任務はどうするつもりだったのですか?残された人の気持ちは考えたことはありますか?第一出発前に大自然に逆らわないとか言っていたのはマスターですよね?何故こんな無茶をするのですか?大体マスターは……』
「はいストップ。ていうかよくそんだけ非難の言葉が出てくるな。逆に感心するぞ。」
あまりの怒りと呆れに不満をこれでもかと吐き出すラプラスをなだめ、鵺に雪を追加で掛けてやる。なんか溶けるのがめちゃくちゃ早い。
「まぁいいじゃねぇか。上手く行ったんだから結果オーライ。誰も死なずにめでたしめでたしってね。」
『…………』
黙りこんでしまうラプラス。
「あの〜?ラプラスさん?もしかしなくても怒ってらっしゃる?」
『…………』
応答なし。これは完全に怒っている。
「まぁ、何だ。警告無視して留まって……悪かったよ。すまん。」
『…………』
だんだん怖くなってきた。暴発して撃ち殺されないよね?俺。
「本当にゴメン……。」
『……もう二度としない、とは言わないのですね。』
呆れたように呟くラプラス。
「ゴメン。それだけは言えない。」
俺はそこに悲劇や惨劇が待ち構えているのなら、迷わず身を呈して力を振るうだろう。
それこそラプラスや他の仲間の制止を振り切ってでも。
『そうでした、マスターはそういう人でしたね……。そして、私はそのマスターを全力でサポートするのが役割。』
「ラプラス……」
こいつが俺を逃がそうとするのは、俺の生命を守るためなのだ。
そして、俺を導くのもこいつの役目……。
『せめて、次に何か無茶をする時は勝算を見出してからにして下さい。それならば、私は素直に従いましょう。』
「……ありがとな……。」
礼を言って、そっと鵺を撫でる。
<じゅぅぅぅぅううううう>
「あっづぁぁぁぁあああああ!?」
『馬鹿ですか。』
放熱が終わった鵺を担いで下山する。途中でメイ達と合流できた。
「おかえり〜♪」
「ただいま。運搬ご苦労さん。」
彼女からミノタウロスの女性を受け取り、肩を貸す。
「歩けるか?」
「この程度の傷でくたばるほどヤワな体はしてないつもりだぜ?麓まで問題なく歩けるって。」
体重をこちらに預けながらも、彼女は笑って一蹴する。
全く、えらくタフな奴だ。
『一段落しましたので今回復旧した兵装をリストアップします。
オクスタンライフルの出力が微量回復しました
プチアグニの出力が少量回復しました
物理銃火器類 レミントンM870ショットガンのリンクが回復しました
結果はレポートへと出力しておきます。報告を終了します。』
今回はエネルギー兵器の回復とショットガンの復旧があったようだ。
ショートレンジ用とはいえ、なかなかに取り回しのいい銃だ。
「でもよ、あの火の玉ってお前がやったのか?随分遠くまで打ち上げていたが……。」
「そんな所だな。多分永遠に落ちて来ないだろ。」
月に魔物がいて、それが気に入らずにこちらへ投げ返して来たのであれば話は別だろうが。
尤も、月の大地に生命がいるとも思えないが。
「一体どこまで飛ばしたんだ?」
「ん?月。」
サラっと言う俺。無論理解なんて出来るとも思っていないしな。
「月って……あの月か?」
「そ。望遠鏡か何かで見たら突き刺さっているのがわかるかもな。」
こともなげに俺が言うとあきれ果てたような目でミノタウロスが俺を見る。
「お前……本当に人間か?」
「失礼な。俺が人間以外の何に見える?」
奇妙な生き物を見る目で俺を見るな。
〜天空都市アタゴニア〜
「はいぃ!?医者がいない!?」
入り口の衛兵に病院の場所を聞いてみて愕然とする。
「えぇ、こんな標高の高い場所に医療物資を運ぶとなると莫大な費用がかかりますから……。誰もなりたがらないし、来たがらないんですよ。」
マジかよ……。
「せめて回復魔術を使える奴はいないのか?医者がいなくても一人ぐらいは……。」
「ちょっと心当たりがありませんね……。冒険者ギルドに行けば一人ぐらいは……。」
使えない衛兵だ。
「わかった。ギルドを当たってみるよ。」
俺は冒険者ギルドへ向かって歩き出す。
〜アタゴニア冒険者ギルド支部〜
「マジかよ……」
「はい、回復系の術を使える人員は全て出払っていますね……。少なくとも帰りは明日になるかと……。」
不運というのはとことん積み重なる物らしい。
回復魔法を使える奴は全てクエストで出払っているようだ。
「……邪魔したな。」
「いえ、でも大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。なんとかする。」
「ラプラス、磁場の影響はまだ収まっていないのか?」
『現在の磁場の強さは制御可能レベルを大きく上回っています。まともに使うことは出来ません。』
山の上である限りはどうにもならないか……クソッ!
「旅の館に駆けこんでモイライまで帰るか……?緊急事態だって言えば分かって……分かって……。」
そうだ、緊急事態なのだ。
「ラプラス、迷い家への道は分かるか?」
『はい、空間の歪は消えていません。ナビゲート開始します。』
視界に矢印が映し出される。
「迷い家……?」
「狐の隠れ家だよ。いろんな場所に繋がっている、ね。」
矢印を辿っていった先は、壁だった。
「本当にここか?来た時と場所が違うような気がするんだが……」
『確かにここです。歪が発生しています。』
壁に手を付くと、ぐにゃりと歪んですり抜ける。
「ビンゴだ。」
ミノタウロスの女性は目を見開いて驚いているようだ。
彼女を連れて壁の中へと進んでいく。その先には、広い前庭と大きな和風旅館が広がっていた。
〜旅館『迷い家』〜
「知世!いるか!?」
ロビーに駆込むと、知世がニッコリと笑って佇んでいた。
「あらぁ、アルテアはんやおまへんの。今日はまたお泊り……どうしたん、その子」
ただならぬ空気を感じ取ったのだろう。彼女の顔が引き締まる。
「大怪我してな。アタゴニアで治療しようと思ったんだができなかった。済まないが至急モイライまで道を開いてくれ。」
「そらえらいことどすなぁ。さ、はよいきぃ。道はもう繋げてありんす。」
仕事早っ!
「恩に着る!急ぐぞ!」
「だからそこまでヤワじゃないと……」
彼女の言葉を無視して迷い家を飛び出す。
外はいつも見慣れているモイライの大通りだった。
大怪我を負っている彼女を見て通行人の何人かがギョっとしていた。
だからといって構っている暇はない。今はヒロトの所に急がなければ。
〜交易都市モイライ キサラギ医院〜
「ヒロト!俺だ!治療頼む!」
「そんな結婚してくれネタに無理に絡ませなくてもいいじゃないか……」
怪我人を担ぎ込むのもこれで3回目か。
さすがにヒロトも慣れたものだ。しかし、それにしては少し落ち着きすぎている。
「アルテア、酷く慌てているみたいだけどそこまで問題ないよ?ミノタウロスって生命力が強いからすぐには死なないし。」
「……へ?」
「だから大丈夫だって言っただろ?」
どうやら酷く慌てていたのは俺だけだったらしい。
「処置室に来て欲しい。彼の様子からして満足な処置ができなかったんだろうけど……一応見せてくれるかな?」
「あいよ……じゃ、ちょっくら行ってくる。」
そのままホイホイ一人で処置室に入っていく。
「…………」
『マスター。ミノタウロスの生命力はクリーチャー時に経験済みだった筈ですが。』
「納得いかねぇ!」
頭を抱えて膝を付く。
というか、メイもいるはずなのに妙に静かだ。
「メイ〜……あいつがそこまで重症じゃないなら何で先に言ってくれなかったんだよ……」
『マスターは誰に話しかけているのですか?』
誰って……。
「メイに決まって……あれ?」
振り返ってもそこには彼女の姿がない。
「あいつ……どこ行った?」
『少なくとも迷い家にいた時にはすでに姿が見えませんでしたが。』
〜天空都市アタゴニア〜
「あに〜〜〜〜!どこ〜〜〜〜!?」
迷子になっていた。
〜キサラギ医院〜
アイツが縫い合わせた傷はもうほとんど塞がっていたけれど、一応様子見ということで1日入院する事になった。
「アイツも馬鹿だな。大したケガじゃないのに慌てて。」
目に浮かぶのは、大慌てで治療する場所を探すアイツの姿。
「でも、借りはできたかもしれないな。そのうち返してやるか。」
軽傷だったとはいえ、急いで山を降りてきたので少々疲れた。少し眠ろうか。
「いらっしゃいシドさん。具合はどうだい?」
「えぇ、先生のお陰で大分よくなりましたよ。あと2,3日もすれば本調子ですかね。」
どこかで聞いたような声が聞こえる……それに……シド?
オレはベッドから起き上がって、診察室へと歩いて行く。
そこには……。
「それじゃあ薬も3日分ほど出しておきますね。それで治らなかったらまた来て下さい。」
「有難うございます。せん……せ……い……?」
昔、声をかけられなかった幼なじみのアイツがいた。
アイツと目が合う。その顔に浮かんでいるのは驚愕と、歓喜。
オレは戸惑う。アイツには……もう……。
「シリア……だよな?」
「お、おぅ……久しぶり……。」
目が合わせられない。泣きそうになる。
「なんだ、知り合いかい?」
「幼なじみですよ。少し彼女と話をしても?」
「あぁ、安静にしているなら構わないよ。」
ベッドに座って向かい合う。アイツは椅子に座っている。
「いやぁ、久しぶりだよな。元気にしていたか?」
「まぁ、な。最近の記憶が飛んでいるけど元気だよ。」
そう、呑んだくれて一人になろうと思った時から記憶が抜け落ちている。
「嫁さんとは上手く行っているのか?」
何も話さないのは気まずいので、話を振ると……。
「嫁さん?俺まだ結婚してないよ?」
………………はい?
「いや、お前いつだったかホルスタウロスと腕組んで歩いて……。」
「あぁあぁ、あれか。確かに熱烈アタックは受けていたけどね。OKはしていないよ。」
ちょっと待て。
「それじゃあ何か?お前は未だ独り身で、しかも迫られたそいつを振ったってことか?」
「まぁ、ね。気になっている人がいるから。」
あぁ、そうか。それなら納得だな。
「そいつってさ。人一倍寂しがりのクセに人付き合いが苦手でさ。いつも暴れて一人になるくせに一人になると物凄く寂しそうな顔をするんだよ。」
随分天邪鬼な奴だ。
「気になっている奴に話しかけようとしても何喋ったらいいかわからないみたいでさ。結局何も話せないで終わってしまうんだ。」
その上引っ込み思案か。救いがない。
「ようやく再会できても誰かと一緒にいたってだけで諦めるような押しの弱い奴でもあって……ね。」
「ちょっとそいつの所に案内しろ。根性叩き直してやる。」
そう言うと、シドは側に置いてあった何かをオレに向けてきた。
「ここにいるよ。馬鹿。」
そこには、俺が映っていた。
何も無い空間。暗闇の空間。この何も見えない空間はエクセルシアにとり憑かれた魔物の心なのだろう。
『オレは同年代のミノタウロスの中でも特に乱暴者と恐れられていた。』
そしてまた、彼女たちの独白が始まる。
『親父もお袋ももう少し皆に優しくできないのかと口を酸っぱくして言っていた。当時のオレは知った事ではないと聞かなかった。』
同年代の友人を睨みつけている少女が映る。彼女には誰も近づいてこない。
『別に友人なんてどうでもよかった。ゆっくり昼寝ができて、適当に暴れて、また寝る。それが出来れば十分だった。』
気持よさそうに昼寝をするミノタウロスの少女。
次にハンマーを振り回して岩を砕く少女が映る。
『でもオレだって女だ。友人なんてどうでもよくても、気になる奴はできてしまう。』
樹木の影から覗き込む少女。その目線の先には一人の少年がいる。
『周りとコミュニケーションを取らなかった代償が、その時にいっぺんに来た。何を話したらいいか分からない。どうやって話しかけたらいいか分からない。』
必死に何かを言おうとする少女。しかし、少年が別のことに気を取られてどこかへ行ってしまう。
『親に相談しようとしても、その時には既に親はいなかった。二人とも戦争で死に、オレは二人の友人に預けられたのだ。』
墓の前で涙する少女。彼女は一日中泣いていたようだ。
『親父達の友人は良くしてくれたが、相談する気にはなれなかった。そいつは酷い朴念仁だったからだ。』
言い寄る女性に笑って手を振る男が映る。少女はそれを唖然として見ていた。
『結局想いを伝えることができず、月日が流れてオレ達はついに離れ離れになってしまった。あいつは……引っ越して行ったのだ。』
荷馬車に乗って手を振る少年。それを見送っている少女。
『この事には自分なりにけじめを付けていたつもりだった。ある程度は諦めたし、気は楽になった。』
真面目に畑仕事をする少女。しかしその顔には輝きはなかった。
『しばらくして、オレは自分の力が役に立てるような場所を探して旅をすることにした。親父の友人は、笑って見送ってくれた。』
少女は、女性になっていた。
荷物を棒に括りつけて担ぎ、道を歩く女性。
『歩ける限り歩いて、色んな景色を見た。冒険者ギルドに入って、商人の護衛をしたり、盗賊の討伐なんかもした。しかし、なかなか見つからない。』
歩き続ける女性。持っていたハンマーはだんだんと煤けてきている。
『義賊なんかもやってみた。拠点にしていた森の道案内なんかもしてみた。でも、見つからない。』
貧しい人に奪った金品を分け与えている女性。
森で迷った子供を街に送り届ける女性。
『何時まで経っても見つからない居場所に、オレは焦っていた。そんな時だった、以前想いを寄せていたアイツをある街で見かけたんだ。』
一人の男の背中が映る。
『その時にはオレには人に自分から話しかけるだけの度胸が付いていた。奴に話しかけてみよう。そして、オレがアイツを好きだった事を伝えるんだ。オレの胸はこれまでにないほど高鳴っていた。』
近づいてくる男の背中。
『でも……。』
歩いている男に誰かが横から飛びついてきた。あれは、ホルスタウロスか?
『あいつには、もう結婚している奴がいた。オレの恋は、一回も声を掛けることもなく終わったのだ。』
力なく下ろされる右手。項垂れる彼女。
『もし、オレがアイツの引越し前に想いを告げていたとしても……あいつは頷いてくれなかったかもしれない。その時のオレは嫌われ者だったしな。』
酒を浴びるように呑んでいる女性が映る。その瞳は虚ろだ。
『でも、アイツと仲よさそうに歩いているホルスタウロスの姿を思い出したら、心の底からどす黒い物が沸き上がってきた。自分でその感情に気づいて、さらに落ち込んだ。』
一人道を歩く女性。挨拶をされても返事をしない。
『もう、誰とも関わりたくなかった。もし関わってそいつが特別な存在になって、自分の元から離れていってしまったら……次は耐えられないかも知れない。』
『だから……オレは……誰とも関わりをもたなくなった。だれにもふれらレナイヨウニ、ダレニモアワナイヨウニ。』
空間がひび割れ、景色が色あせていく。
『モウ、イヤダ。ダレトモアイタクナイ。ヒトリガイイ。ヨッテクルナ。クルナ、クルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナ』
『そいつは、ただお前が逃げているだけだ。』
俺が話しかけた瞬間、ひび割れていた空間が一気に修復され、景色が移り変わる。
岩が多く点在する草原のようだ。
『……。』
彼女は何も言わない。
ただ黙って俯いている。
『結局さ、お前は臆病だったんだよ、誰よりも。』
『オレハ、ランボウモノダ。オクビョウナハズガナイ。』
俺を非難するように呟く彼女。
『いいや、臆病者だね。臆病だから誰も近づかせなかった。臆病だから乱暴者を装って一人になっていた。』
彼女に自分がどういう人物なのか自覚させるため、糾弾する。
『お前は、傷つきたくないから逃げていたんだ。向き合いたくないから逃げていたんだ。それは、臆病者のする事だ。お前は、乱暴者じゃない。』
『チガウ!』
『違わない。』
彼女が振り向いて反論するが、その顔に浮かんでいたのは紛れもない恐怖だった。
『今、お前は俺に恐怖を感じているはずだ。隠していた、蓋をしていた自分を掘り返す俺に、恐怖を感じている。』
『ダマレ!』
彼女がハンマーを振りあげ、俺に打ち下ろす。俺はそれを額で受け止める。
『!?』
『俺は、逃げない。お前とは違う。』
不思議と額は切れなかった。衝撃も殆ど無い。ハンマーを片手で払いのけ、彼女へ歩み寄る。
『人間ってさ、傷つきやすい生き物なんだ。それは、今の魔物も変わらない。』
手を伸ばし、彼女の頬を撫でる。
『お前は、人よりもさらに傷つきやすい心を持っていたんだ。それ故に臆病になってしまった。それを隠すために、人を近づけなかった。』
さらに手を伸ばして彼女の頭を撫でてやる。
見た目よりも柔らかく、しなやかな髪。
『傷つくのって、辛いよな。痛いし、悲しい。けどな、逃げちゃダメだ。それじゃ何時まで経っても進むことができない。』
手を下ろし、彼女を強く抱きしめる。
『ヤ、ヤメロ!チカヅ……』
『逃げるな!』
振りほどこうとした彼女を一喝する。
ビクりと震えて、彼女の動きが止まった。
『ここで逃げたら、お前はまた以前の臆病者に戻ってしまう。それは、駄目だ。抱きしめろ。他人を受け入れろ。傷つくのを、恐れるな。』
俺の額に温かいものが落ちてくる。
彼女の体が細かく震えていた。
『どんなに痛くても、辛くても、悲しくても、逃げるな。逃げたら、逃げた方も逃げられた方も、同じ痛みを味わう事になる。』
彼女が俺の体に腕を回してきて、強く抱きしめてきた。
『どんなに痛くても、それを舐め合えばいい。どんなに辛くても、慰め合えばいい。どんなに悲しくても、共に涙を流せばいい。傷の舐め合いだと言う奴には言わせておけ。それが、人間ってもんだ。魔物もそれは変わらない。』
『…………っ!』
彼女の涙が俺の頭の上に落ちてくる。
『痛かったよ……。辛かったよ……。悲しかったよ……。寂しかったよ……。』
『そうだな……。今までよく我慢したな。えらいぞ。』
俺達は抱き合い、共に涙を流した。互いの傷を舐めあうように。
『忘れろ。』
『いきなり何だよ。』
彼女が真っ赤な顔で睨みつけてくる。
彼女の目はまだ若干潤んでいる。
『オレはミノタウロスだぞ!?屈強なアネゴ肌なんだぞ!?それが泣いたとか恥ずかしいだろうが!』
『やだ、絶対忘れてやんねぇ。』
ニヤニヤ笑いながらジロジロ見てやる。彼女の頬にはまだ涙の跡が付いている。
『こ、のぉ!』
『っと!あっははははは!』
彼女が跳びかかり、俺を押し倒す。
回避が間に合わずに押し倒されてしまうが、笑いが止まらない。
『こいつ、笑うなぁ!』
両頬がつねられ、引っ張られる。
『ふぁっふ、いひぇえ!いひゃいっへ!』
声が変になり、その声で増々笑ってしまう。
『このやろ、この……ん?』
しかし、彼女が違和感に気づく。
『おい、何立ててるんだ。』
そりゃあ、ねぇ。
『そんな大きな物二つも押し当てられちゃ大きくもなるって。』
ムニムニと潰れる彼女の胸。結構大きい。
『……っく』
『?』
彼女が俯く。地雷かと思ったが、口元がニヤけている。
『傷を舐め合うのもいいって言っていたよなぁ?お前は。』
そう言うと上半身を起こし、俺のズボンに手を掛ける。
『まぁ、そうは言ったがな。別に今すぐにじゃなくても……。』
『逃げんな、コラ。』
『ぐ……。』
返されたよ。
『別に痛いことしようってわけじゃねぇんだ。ちっとは付き合えよ。』
『お前のそれはどうなってんだよ……。』
彼女の股間を覆う毛皮はいつの間にか無くなっていた。
『細かい事は気にすんな!オレも原理はわからん!』
駄目だろそれ。
彼女が俺のズボンを引き下ろす。
俺のモノは既に大きく反り返っていた。
『せめてベルトぐらいは外そうぜ。痛いし。』
『面倒だ。却下。』
ひでぇ。
『そこまで大きかねぇな。これでフルか?』
『生憎とそれが最大だ。普通の人間に何求めてやがる。』
そりゃインキュバスだの特殊な人間だのに比べりゃ小さいだろうさ。
でも俺は普通の人間だ。
『ま、大事なのは大きさじゃねぇか。性能だよな、性能。』
『あんなデカいハンマー振り回していたあんたに言われたくないよ……。』
俺は先程の戦闘の鉄塊を思い出す。あれに何度殺されかけたか……。
『ん?何か言ったか?』
『いんや、何も。』
彼女は俺のモノに舌を這わせ始める。大柄で無骨な外見とは違い、その舌使いは繊細で労るような動きだった。
『っ!は……っ!』
『ぴちゅ……れろ、ちゅ、えろ……』
亀頭全体を舐めまわし、根元から裏筋まで舌を這わせ、尿道口に舌を差し込む。
『ん、ぐぷ……んぐ……。』
喉の奥まで引きずり込み、喉の奥で亀頭を揉み潰す。
ついでに睾丸が手で弄ばれた。
『ぐ……っ!ぁ……!』
手に届く所にあるのは彼女の頭ぐらいだろうか。
手持ち無沙汰になって、彼女の頭を撫でる。
柔らかく手にまとわりつき、かといってベタつかずに指の間からするりと抜けていく。
手触りが良くてつい何時までも撫でてしまう。
『ぅ……おい、それやめろ。』
彼女が顔を真赤にして口を離す。
『なんで?こんなに気持ちいいのに。』
『くすぐったい。あと、恥ずかしい。』
何でこの人はこんなにガサツなのに可愛いのだろうか。
どうしても頭を撫でる手が離せない。
『やめろってば……。落ち着かない。』
しかし、彼女は振り払う素振りを見せない。
『ほら、口が止まってるぞ?別に撫でられながらでもできなくはないだろ?』
凄い生暖かい笑顔で彼女に笑いかける。
『ちくしょう……覚えてろよ……。』
可愛く悪態をつくと、彼女はまた俺のモノを咥え込む。
『ん、じゅる、ずずずずずずずぅ〜……じゅぷ、じゅるるる……。』
浅めに加えて吸いつく。深くまで加えて啜る。
それなりに経験を積んでいるのだろう。かなり、上手い。
『もうすぐ……イくぞ……。』
『ぷは、出しちまえ。受け止めてやるから。』
彼女はまだ咥え込んで激しく頭を降り始めた。
『んぶ、じゅぷ、ぐぷ、じゅるる!』
『っぁ……!ぐ……っ!』
ギリギリまで我慢して、解き放つ。熱い汁がモノを通って彼女の口の中へ勢い良く流れこんでいく。
彼女はそれを特につっかえもせずに飲み込んでいく。
『ん……、ふぅ。あまり濃くねぇな。出した後か?』
そりゃ昨日あれだけ絞られりゃ若干不足もするだろう。
『昨日たっぷり絞られたからな。増産が追いつかない。』
『なんだ、彼女持ちがこんな事していてもいいのか?』
『彼女じゃない……。ただの仲間だ。』
だよな?好きだとか言われてもOKしていないからセーフだよな?
『ま、ここまで来て遠慮する気はねぇけどな。まだ行けるだろ?』
彼女が俺の上にのしかかって来た。手は俺のモノに添えたままだ。
自分の秘所にそれを宛てがい、飲み込んでいく。
『ん……入ったぞ。』
完全に腰同士を密着させ、奥まで飲み込む。
『かなりキツめというか……。なかなか筋肉質だな』
彼女の中は締め付けが強く、包みこむというより絞り上げるという感覚がしっくりくる。
『しっかり我慢しろよ?中途半端に力抜いているとあっという間に出ちまうからな。』
そう言うと彼女は腰を動かし始める。
なるほど確かに、きつい締め付けと温かい膣内の組み合わせはなかなか来るものがある。
『ふ……ん、なかなかいい所に……当たるな。』
『できれば、もう少しゆっくり……動いてくれないか?気持よすぎて……出そうだ。』
俺が弱みを見せた事で、彼女がニヤリと笑う。
『そう言われて緩めると思うか?たっぷり可愛がってやるよ。』
当然のように彼女がペースを上げた。
勢い良く挿入されたモノが子宮口に当たり、膣壁が絡みつきながら引き戻され、また奥へと突き抜ける。
『やめ……本当に、出る……っ!』
自分より大柄な女性に覆いかぶさられている事と、強力な締め付けに子宮口のコリコリとしたアクセントが加わった刺激で、我慢が全く効かなくなる。
あぁ、俺って結構M寄りだったね、そう言えば。
『……っ!ぁ……っ!』
腰がガクガクと震え、彼女の中にだくだくと白濁が流れ出す。
彼女は満足そうにそれを受け入れる。
『はぁ……。こんなに出しやがって……。ま、無理もねぇけどな。』
ゆるゆると腰を動かして余韻を愉しむ彼女。
先程のような強い締め付けが無くなり、包みこむような感触がモノを擦り上げる。
『こっちはまだ満足してないんだ、もう一発できるよな?』
弱い刺激を与え続けられたモノは、また力を取り戻していた。
『ご期待に添えそうだぜ?俺としてもやられっぱなしは趣味じゃないしな。』
今度は腰に手を添えて、こちらから突き上げてやる。突き上げるたびにコリコリとした子宮口に先端が当たるが、2度も出したとなれば少々の刺激では暴発はしない。
『いいね、そうこなくっちゃな。今度は……っく、もう少し楽しませてくれよ?♪』
鋭く突きあげてはゆっくりと引きぬく。
天井を擦りあげるように突き入れて、奥をゴリゴリと押しつぶす。
『技術をフルに使うのもいいんだが……。面白くないな。』
頭で考えながら突き入れていると、どうしてもそっちに意識が行って快感が鈍るようだ。
『別に気持よくしてくれとは言ってないぜ?楽しませてくれとは言ったけどな。』
そりゃそうだ。
『よし、考えるのやめ。こういうのはフィーリングでやるもんだ。』
変に考えながら突くのではなく、ただ一定のリズムで突き上げる。ただし……。
『さて、無駄に恥ずかしがらせるか。』
彼女の頬に手を伸ばす。褐色の肌は意外にもきめ細かい。
『お、おい?』
唇をなぞり、耳と角を撫で上げる。
『可愛いとか言われたこと無いだろ?』
『い、いきなり何を言って……!』
戸惑う彼女。もう一押しだ。
『照れている顔も可愛いと思うぜ?』
『!?』
膣内がきゅうと締まる。
『垂れた耳も可愛らしいじゃないか。角もすべすべしていて気持ちがいい。』
『あぁ……あわわわ……』
目の焦点が合っていない。視点が定まらずに泳いでいる。
『唇もふっくらしていて美味しそうだ。』
『そ、そういう恥ずかしいこといぅむぅ!?』
抱き寄せて唇を奪う。胸から激しい鼓動を感じ、下がさらに締まる。
『んんぅ!?ん、ん〜〜〜!』
抵抗が強いが、本気で嫌がっている訳ではなさそうだ。
『んぐ、ぷはぁ!お、おま、おまいきなりなにしtうぷぅ!?』
追い打ちでさらに唇を奪い、口の中を舌でかき回してやる。
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?』
締め付けが強くなった膣内も突き上げる。
『んぁ、やめ、ちょ……ふむぅ!?ん〜〜〜〜!』
彼女の声に余裕がなくなっていく。もうすぐフィニッシュだ。
さらに高速で突き上げ、自分も絶頂へと導いていく。
『こ、こんなの聞いてな、あ、い、イかされる、イかされちまう……!』
『俺も、イきそうだ。一緒に……!』
彼女の顔に余裕の色はもう無い。しかし俺の顔にも余裕はない筈だ。
共に絶頂への階段を上り詰める。頭の中に白い火花が散り、思考が停止する。
『っ!……ぐ……!』
『イク、イ……〜〜〜〜っ!』
絶頂と同時にがっしりと抱きついてくる彼女。俺も彼女の中に滾りをぶちまけ……ん?
<ベキバキボキベキョミシ!>
『────────』
『…………』
『あ〜、うん。済まない。少し力の加減を間違えた。』
絶頂と同時に俺を絞めつけた彼女。もちろん下ではなく、上の方だ。
その力は先ほどハンマーを打ち下ろしたときの比ではなく、俺の骨を締め砕いた。
これが現実だったら死んでいたぞ。
『ベツニモンダイナイヨー。オレガンジョウダカラキニシナイー。』
『うわぁ!?本格的に壊れたぁ!?』
このぐらいの意地悪はしてもバチは当たらないよね?
『さて、冗談はさておきそろそろだな。』
『冗談かよ!ってそろそろって何だ?』
空から差し込んでくる光が強くなる。夢の終わり……いや、これがなのかはわからないけど。
『優しい時間はお終いって事だ。これから目が覚めて、辛い現実と向き合わなきゃならない。』
彼女の目を見つめて、言い聞かせる。
『でも、大丈夫だよな?お前は、もう逃げはしない筈だ。強く歩いていける。』
『そうだな……なぁ、一つだけいいか?』
彼女が問いかける。しかしそれに対する返答は、もう決まっている。
『目が覚めて落ち着いたら改めて、な。』
彼女の頭をくしゃくしゃと撫でる。
彼女が文句を言う前に、意識が現実へと引き戻された。
〜ベルン山 山頂〜
「……っ……ってぇ……。」
何が痛いって?キンキンに冷やされた頭だよ。復帰直後の頭痛と合わさって倍率ドンだ。
「あにぃ、だいじょうぶ?」
「問題ない。これは慣れた。」
俺は起き上がり、辺りを見渡す。
ちょうど倒したミノタウロスが元に戻って行く所だった。
「これは……流石に慣れないがな。」
肩口から腹までバッサリと斬られている……って俺が斬ったんだけどな。
「ラプラス。パラケルススだ。さっさと処置するぞ。」
『了解。パラケルスス展開。ADフィールド、アポロニウス同時展開。』
マニュピレーターの展開と同時にフィールドの生成とビットの展開を確認。
倒れている彼女へと近づく。
『表皮の裂傷と筋繊維の切断、胸骨が若干削れていますが、命に別状はありません。早急に処置してしまいましょう。』
「だな。」
消毒液を吹きつけ、麻酔を傷口の周り数カ所に打ち込み、骨が削れている場所にナノ入り軟膏を塗る。
あとは縫合だけ……?
「なんだ、どうしたんだこれ?」
ルミナストリングスがあっちこっちを彷徨っている。まるで患部が見えていないかのような……。
『警告。強力な磁場が発生しているようです。ルミナストリングスの制御系統に混乱が起こっています。ルミナストリングスでの縫合は不可能なようです。』
磁場……磁場って……。
「まさか……地中のマグマか?」
『火山活動に寄って周囲の花崗岩が損傷。電磁波が発生し、制御系統を撹乱しているようです。』
「ヤバいじゃねぇか。これ以外に縫合用の糸って無いのか?」
『そもそも強力な磁場が発生する状況に対応して作られている訳ではありませんので。』
肝心な時に……!
「せめて何かで縫わないとマズいな……。何か無かったか……。」
「あに〜、あに〜。」
メイが俺のバックパックを指さしている。
「そうだ、丁度いい物があるじゃないか。」
バックパックを下ろし、ソーイングセットを取り出す。
「別に応急処置に道具を選ぶ必要はない。問題は、同じ役割を果たせるかどうかだ。」
添え木代わりに雑誌を使うように。止血帯の代わりにタオルで巻くように。
一番細い縫針と糸を取り出し、消毒液をぶっ掛ける。
「ルミナストリングスみたいに上手にはできないが……無いよりはマシだろ。」
念入りに麻酔をかけ直し、表皮から少し潜ったぐらいの位置を縫いつけていく。
少なくとも俺の経験に縫針で皮膚の縫合を行なった経験は無いが、縫いぐるみよりは簡単な筈だ。
「……ぐ……オレは一体……。」
気絶していたミノタウロスが起きる。
頭に手を当てて起き上がろうとするのを制する。
「まだじっとしていろ。処置中だ。」
ようやく半分縫い終わった。残り半分。
「処置って……何を……。」
「皮膚を縫い合わせている。動くなよ?ズレるぞ。」
チクチクと縫いあわせていく。あともう少し……。
『警告。火口に巨大なエネルギー反応。急いで退避して下さい。』
「巨大なエネルギーって……オイ、まさか……。」
『噴火が間近に迫っています。至急退避を。』
そんな事を言ってもまだ縫い終わっていない。
かなりハイペースで縫い合わせているはずだが、その動きが酷く緩慢に感じてしまう。
「もう少しだ……もう少し……できた!」
最後の一針を縫い終わり、糸を結びあわせて止める。
創版を貼り付けて処置完了だ。
「もう起きてもいいのか?起きるぞ?」
「そっとな。縫合用の糸じゃないから切れたらマズい。」
彼女を抱き起こす。徐々に細かい揺れが強くなってきた。
「さ、ここにはもう用は無い……早く……」
しかし、ふと思い返す。
このベルン山の標高はいくらだった?少なくとも3000メーター超だったはず……。
「これ……そのまま噴火させたらヤバいよな。」
こんな高山が噴火したら……それこそ麓どころか風下の被害は凄まじい事になる。
火山灰が大地を覆い、作物はまともに取れなくなり、人々の生活が立ち行かなくなる。
『マスター、やめてください。至急退避を。危険です。』
「…………」
ラプラスはこう言っていたが、俺の腹は既に決まっていた。
「メイ、彼女を麓まで運んでくれ。大至急だ。」
『マスター。』
咎めるようなラプラスの口調。しかし、俺は動かない。
「どうするの?」
「噴火の被害を最小限に留めてみる。方法は……出たとこ勝負だな。」
抱き起こしたミノタウロスをメイへ渡す。
これだけの体格差があるというのに、メイは楽々と抱え上げた。
「だいじょうぶ〜?」
「問題ない。やるだけやって駄目なら逃げるさ。」
無論火砕流だの火山ガスだのから逃げられる訳がない。
俺がここに残って生き残る=噴火を完全に食い止めると言うことだ。
「かえったらいっしょにごはんたべよ〜♪」
「それを言うな。俺を殺す気か?」
頭をくしゃくしゃと撫でて、背中を押してやる。
「ほら、行った行った。そいつを頼むぜ?」
「あ〜い♪」
メイが麓へ向かって駆けていく。そのメイの腕の中から、ミノタウロスの女性が俺に向かって叫ぶ。
「おい!せめて名前教えていけ!せめて……せめてお前の口から教えてくれ!」
俺は背中を向けながら親指を突き上げる。
「アルテア!アルテア=ブレイナーだ!目の前の恐怖から逃げたくないだけの、ただの冒険者だ!」
『マスター、無謀です。一体何を考えているんですか?』
「ん〜……特に何も。」
そう、何も考えていない。ぶっちゃけ手詰まりである。
「試しにミサイルぶちこんでみるか?意外と止まるかもしれん。」
『余計に噴火を促進させてどうするのですか。』
だよな。
『……マスター。分の悪い掛けは好きですか?』
「いんや、さほど好きではないな。何か策でもあるのか?」
『手に入ったエクセルシアによる新たなE-Weaponがこの事態を突破する鍵となるかもしれません。』
新しいE-Weaponねぇ……。
確かに新たなエクセルシアを手にする度にそれに対応した武器が手に入るようになっている。
「どんなもんだ?」
『E-Weapon<G・Gハンマー>正式名称ギガグラヴィティハンマー。巨大な重力波の塊を上空に発生させ、対象を広範囲に渡って押し潰す武装のようです。しかし、この兵装単体では噴火を止めることができません。』
「そりゃ栓するだけじゃ意味ねぇだろうしな。それプラス何かが必要って事か?」
『肯定。押し潰すだけではこの状況は打破できません。』
何か……ね。
「ホント……何なんだろうな、こいつは。」
『こいつ、とは何ですか?』
俺は鵺を見遣って言う。
いや、正確にはその内部に格納されているあの忌々しい物質だ。
「エクセルシアだよ。寄生するたびに何かを奪って、手に入れるたびに何かを与える。何がしたいんだろうな。」
そんな理不尽な、しかし頼もしい力。
「お前がなぜ遠くから地球へやって来たのか。なぜ何かに取り憑いて暴れるのか。まぁ今はその事は置いておこう。別に理解できるとも思っていないしな。」
鵺を撫でながら語る。その物言わぬ地球外生命体に向かって、言い聞かせる。
「なぜお前が生命の感情に反応して力を与えるのか。お前らの目的はなんなのか。それもどうでもいい。俺には関係の無い事だ。」
『(出力上昇中……?150%...200%...300%...まだ上がる!?)』
グリップを握りしめる。俺の想いを伝えるように、強く。
「だがもし、お前が生命の意思を増幅して力を与える存在だというのなら……。」
グリップを左手に持ち代えると、鵺の後部ハッチが開く。
「俺の想いを……力に変えてみせろ!エクセルシアァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!」
♪Sin of Genesis
光の粒子を湛えるハッチに右手を突っ込む。鵺と俺の右腕がリンクしていく。
『E-Weapon<G・Gハンマー>EX.LOAD。』
外部装甲展開。G・Gハンマー投射装置展開。EX.LOADシステム起動。
頭の中に大量の情報が流れこみ、しかしそれを自由自在に頭が処理していく。
イメージするのは、全てを掴みとり、全てを塞き止める神の手。
『E-エネルギー1000%突破。エネルギー安定。重力波生成開始。』
腕ごと鵺を上空に向け、重力波の塊を生成する。巨大な塊が火口上空を漂い、辺りの石を吸い込み始めた。
そして……
<<ッドォォォォォオオオオン>>
引き寄せられるように火山が噴火。しかし、溢れ出た溶岩も、火山礫も、火山灰も全て重力波の塊の中に吸い込まれていく。
「はぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!」
烈昂を力に。想いを力に。願いを力に。
噴火した物を全て手の中へ。握り潰し、固め、圧縮し、閉じ込める。
赤を、灰色を、黒を、その中へ封じ込める。
〜ベルン山脈登山道〜
「あれは一体……。」
山頂に、巨大な火の玉が浮かんでいる。その火の玉は、噴火する溶岩や噴煙を取り込み、さらに巨大になっていく。
「あにぃ……。」
「あれは……アルテアか!?一体どんな魔法を使っているって言うんだよ……!」
火の玉は巨大になり続ける。まるで、太陽が地上へ落ちてきたかのように。
『噴火終了推定時刻まで、あと30秒。』
ラプラスがゴールまでの時間を告げる。
『噴火が全て終わり、全て集めきったとしても油断はできません。溶岩が固まるまでは降ろすことが……。』
「それについてはもう考えてある。」
脂汗を流しながら言う。流石に腕が痺れてきたが、諦めるわけにはいかない。
「溶岩と火山灰を混ぜあわせて一つにして月までぶん投げる。重力波の方向とコントロールは任せた。」
やがて噴火が収まり、火口はグツグツと溶岩が滲み出る程度になった。
「これ以上の噴火は無いな!?」
『はい。重力波の吸引の影響で危険域の溶岩は全て吸い出されました。』
頭上では赤々と溶岩が煮えたぎっている。表面は固まりかけているが、内包する溶岩の温度はまだ冷え切っていない。
『月は現在10時の方向、仰角30度前後。重力波の指向性と制御は私が行いますので、出力の制御をお願いします。』
「任せろ!」
イメージするのは、どこまでも遠くへ投げ飛ばせる金剛の豪腕。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」
辺りの風景を歪めるほど出力が上がっていく。どこまでも強く、遠く、速く!
『出力上昇中。1300%...1500%...1700%...2000%...必要出力に到達。射出します。』
「いけぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええ!」
そして、烈昂の気合と共に火球を斜め上へ打ち上げる。
<ゴォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!>
「月まで届け……そして永遠に帰ってくるな!」
やがて火球は月へ向かって打ち上げられ、ピンポン玉程度になり、豆粒程度になり、米粒よりも小さくなり、見えなくなった。
十数分後、ラプラスからの報告。
『溶岩塊は月へと落下。状況終了です。お疲れ様でした。』
「…………っ…………くはぁ〜……」
緊張が解け、その場に仰向けで倒れこむ。
極度に熱が溜まった鵺に雪が触れてジュワジュワと音を立てる。
ハッチから腕を抜き、雪を上から掛けてやる。
「おつかれさん。悪いな、無茶に付き合わせて。」
『マスター。貴方は何を考えているのですか?一歩間違えば死ぬところだったのですよ?無策で留まってぶっつけ本番で噴火を止めた挙句に集めたものを月に飛ばすなんて常識的に考えてありえませんよ?失敗したらどうするつもりだったのですか?貴方が死んだら任務はどうするつもりだったのですか?残された人の気持ちは考えたことはありますか?第一出発前に大自然に逆らわないとか言っていたのはマスターですよね?何故こんな無茶をするのですか?大体マスターは……』
「はいストップ。ていうかよくそんだけ非難の言葉が出てくるな。逆に感心するぞ。」
あまりの怒りと呆れに不満をこれでもかと吐き出すラプラスをなだめ、鵺に雪を追加で掛けてやる。なんか溶けるのがめちゃくちゃ早い。
「まぁいいじゃねぇか。上手く行ったんだから結果オーライ。誰も死なずにめでたしめでたしってね。」
『…………』
黙りこんでしまうラプラス。
「あの〜?ラプラスさん?もしかしなくても怒ってらっしゃる?」
『…………』
応答なし。これは完全に怒っている。
「まぁ、何だ。警告無視して留まって……悪かったよ。すまん。」
『…………』
だんだん怖くなってきた。暴発して撃ち殺されないよね?俺。
「本当にゴメン……。」
『……もう二度としない、とは言わないのですね。』
呆れたように呟くラプラス。
「ゴメン。それだけは言えない。」
俺はそこに悲劇や惨劇が待ち構えているのなら、迷わず身を呈して力を振るうだろう。
それこそラプラスや他の仲間の制止を振り切ってでも。
『そうでした、マスターはそういう人でしたね……。そして、私はそのマスターを全力でサポートするのが役割。』
「ラプラス……」
こいつが俺を逃がそうとするのは、俺の生命を守るためなのだ。
そして、俺を導くのもこいつの役目……。
『せめて、次に何か無茶をする時は勝算を見出してからにして下さい。それならば、私は素直に従いましょう。』
「……ありがとな……。」
礼を言って、そっと鵺を撫でる。
<じゅぅぅぅぅううううう>
「あっづぁぁぁぁあああああ!?」
『馬鹿ですか。』
放熱が終わった鵺を担いで下山する。途中でメイ達と合流できた。
「おかえり〜♪」
「ただいま。運搬ご苦労さん。」
彼女からミノタウロスの女性を受け取り、肩を貸す。
「歩けるか?」
「この程度の傷でくたばるほどヤワな体はしてないつもりだぜ?麓まで問題なく歩けるって。」
体重をこちらに預けながらも、彼女は笑って一蹴する。
全く、えらくタフな奴だ。
『一段落しましたので今回復旧した兵装をリストアップします。
オクスタンライフルの出力が微量回復しました
プチアグニの出力が少量回復しました
物理銃火器類 レミントンM870ショットガンのリンクが回復しました
結果はレポートへと出力しておきます。報告を終了します。』
今回はエネルギー兵器の回復とショットガンの復旧があったようだ。
ショートレンジ用とはいえ、なかなかに取り回しのいい銃だ。
「でもよ、あの火の玉ってお前がやったのか?随分遠くまで打ち上げていたが……。」
「そんな所だな。多分永遠に落ちて来ないだろ。」
月に魔物がいて、それが気に入らずにこちらへ投げ返して来たのであれば話は別だろうが。
尤も、月の大地に生命がいるとも思えないが。
「一体どこまで飛ばしたんだ?」
「ん?月。」
サラっと言う俺。無論理解なんて出来るとも思っていないしな。
「月って……あの月か?」
「そ。望遠鏡か何かで見たら突き刺さっているのがわかるかもな。」
こともなげに俺が言うとあきれ果てたような目でミノタウロスが俺を見る。
「お前……本当に人間か?」
「失礼な。俺が人間以外の何に見える?」
奇妙な生き物を見る目で俺を見るな。
〜天空都市アタゴニア〜
「はいぃ!?医者がいない!?」
入り口の衛兵に病院の場所を聞いてみて愕然とする。
「えぇ、こんな標高の高い場所に医療物資を運ぶとなると莫大な費用がかかりますから……。誰もなりたがらないし、来たがらないんですよ。」
マジかよ……。
「せめて回復魔術を使える奴はいないのか?医者がいなくても一人ぐらいは……。」
「ちょっと心当たりがありませんね……。冒険者ギルドに行けば一人ぐらいは……。」
使えない衛兵だ。
「わかった。ギルドを当たってみるよ。」
俺は冒険者ギルドへ向かって歩き出す。
〜アタゴニア冒険者ギルド支部〜
「マジかよ……」
「はい、回復系の術を使える人員は全て出払っていますね……。少なくとも帰りは明日になるかと……。」
不運というのはとことん積み重なる物らしい。
回復魔法を使える奴は全てクエストで出払っているようだ。
「……邪魔したな。」
「いえ、でも大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。なんとかする。」
「ラプラス、磁場の影響はまだ収まっていないのか?」
『現在の磁場の強さは制御可能レベルを大きく上回っています。まともに使うことは出来ません。』
山の上である限りはどうにもならないか……クソッ!
「旅の館に駆けこんでモイライまで帰るか……?緊急事態だって言えば分かって……分かって……。」
そうだ、緊急事態なのだ。
「ラプラス、迷い家への道は分かるか?」
『はい、空間の歪は消えていません。ナビゲート開始します。』
視界に矢印が映し出される。
「迷い家……?」
「狐の隠れ家だよ。いろんな場所に繋がっている、ね。」
矢印を辿っていった先は、壁だった。
「本当にここか?来た時と場所が違うような気がするんだが……」
『確かにここです。歪が発生しています。』
壁に手を付くと、ぐにゃりと歪んですり抜ける。
「ビンゴだ。」
ミノタウロスの女性は目を見開いて驚いているようだ。
彼女を連れて壁の中へと進んでいく。その先には、広い前庭と大きな和風旅館が広がっていた。
〜旅館『迷い家』〜
「知世!いるか!?」
ロビーに駆込むと、知世がニッコリと笑って佇んでいた。
「あらぁ、アルテアはんやおまへんの。今日はまたお泊り……どうしたん、その子」
ただならぬ空気を感じ取ったのだろう。彼女の顔が引き締まる。
「大怪我してな。アタゴニアで治療しようと思ったんだができなかった。済まないが至急モイライまで道を開いてくれ。」
「そらえらいことどすなぁ。さ、はよいきぃ。道はもう繋げてありんす。」
仕事早っ!
「恩に着る!急ぐぞ!」
「だからそこまでヤワじゃないと……」
彼女の言葉を無視して迷い家を飛び出す。
外はいつも見慣れているモイライの大通りだった。
大怪我を負っている彼女を見て通行人の何人かがギョっとしていた。
だからといって構っている暇はない。今はヒロトの所に急がなければ。
〜交易都市モイライ キサラギ医院〜
「ヒロト!俺だ!治療頼む!」
「そんな結婚してくれネタに無理に絡ませなくてもいいじゃないか……」
怪我人を担ぎ込むのもこれで3回目か。
さすがにヒロトも慣れたものだ。しかし、それにしては少し落ち着きすぎている。
「アルテア、酷く慌てているみたいだけどそこまで問題ないよ?ミノタウロスって生命力が強いからすぐには死なないし。」
「……へ?」
「だから大丈夫だって言っただろ?」
どうやら酷く慌てていたのは俺だけだったらしい。
「処置室に来て欲しい。彼の様子からして満足な処置ができなかったんだろうけど……一応見せてくれるかな?」
「あいよ……じゃ、ちょっくら行ってくる。」
そのままホイホイ一人で処置室に入っていく。
「…………」
『マスター。ミノタウロスの生命力はクリーチャー時に経験済みだった筈ですが。』
「納得いかねぇ!」
頭を抱えて膝を付く。
というか、メイもいるはずなのに妙に静かだ。
「メイ〜……あいつがそこまで重症じゃないなら何で先に言ってくれなかったんだよ……」
『マスターは誰に話しかけているのですか?』
誰って……。
「メイに決まって……あれ?」
振り返ってもそこには彼女の姿がない。
「あいつ……どこ行った?」
『少なくとも迷い家にいた時にはすでに姿が見えませんでしたが。』
〜天空都市アタゴニア〜
「あに〜〜〜〜!どこ〜〜〜〜!?」
迷子になっていた。
〜キサラギ医院〜
アイツが縫い合わせた傷はもうほとんど塞がっていたけれど、一応様子見ということで1日入院する事になった。
「アイツも馬鹿だな。大したケガじゃないのに慌てて。」
目に浮かぶのは、大慌てで治療する場所を探すアイツの姿。
「でも、借りはできたかもしれないな。そのうち返してやるか。」
軽傷だったとはいえ、急いで山を降りてきたので少々疲れた。少し眠ろうか。
「いらっしゃいシドさん。具合はどうだい?」
「えぇ、先生のお陰で大分よくなりましたよ。あと2,3日もすれば本調子ですかね。」
どこかで聞いたような声が聞こえる……それに……シド?
オレはベッドから起き上がって、診察室へと歩いて行く。
そこには……。
「それじゃあ薬も3日分ほど出しておきますね。それで治らなかったらまた来て下さい。」
「有難うございます。せん……せ……い……?」
昔、声をかけられなかった幼なじみのアイツがいた。
アイツと目が合う。その顔に浮かんでいるのは驚愕と、歓喜。
オレは戸惑う。アイツには……もう……。
「シリア……だよな?」
「お、おぅ……久しぶり……。」
目が合わせられない。泣きそうになる。
「なんだ、知り合いかい?」
「幼なじみですよ。少し彼女と話をしても?」
「あぁ、安静にしているなら構わないよ。」
ベッドに座って向かい合う。アイツは椅子に座っている。
「いやぁ、久しぶりだよな。元気にしていたか?」
「まぁ、な。最近の記憶が飛んでいるけど元気だよ。」
そう、呑んだくれて一人になろうと思った時から記憶が抜け落ちている。
「嫁さんとは上手く行っているのか?」
何も話さないのは気まずいので、話を振ると……。
「嫁さん?俺まだ結婚してないよ?」
………………はい?
「いや、お前いつだったかホルスタウロスと腕組んで歩いて……。」
「あぁあぁ、あれか。確かに熱烈アタックは受けていたけどね。OKはしていないよ。」
ちょっと待て。
「それじゃあ何か?お前は未だ独り身で、しかも迫られたそいつを振ったってことか?」
「まぁ、ね。気になっている人がいるから。」
あぁ、そうか。それなら納得だな。
「そいつってさ。人一倍寂しがりのクセに人付き合いが苦手でさ。いつも暴れて一人になるくせに一人になると物凄く寂しそうな顔をするんだよ。」
随分天邪鬼な奴だ。
「気になっている奴に話しかけようとしても何喋ったらいいかわからないみたいでさ。結局何も話せないで終わってしまうんだ。」
その上引っ込み思案か。救いがない。
「ようやく再会できても誰かと一緒にいたってだけで諦めるような押しの弱い奴でもあって……ね。」
「ちょっとそいつの所に案内しろ。根性叩き直してやる。」
そう言うと、シドは側に置いてあった何かをオレに向けてきた。
「ここにいるよ。馬鹿。」
そこには、俺が映っていた。
11/08/07 10:14更新 / テラー
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