第二十九話〜触手の森にご用心!?〜
〜旅の館〜
「ここを使うのか?通常では結構かかる筈だが……」
アニスちゃんに付いて行くと、そこは旅の館だった。
そんなに遠出をするのだろうか。
「これ、おかあさんがつかいなさいって」
そう言うと彼女はスカートのポケットからチケットを取り出した。
「旅の館往復券……?発行元は冒険者ギルドか。行き先は……」
彼女からカードを受け取ると、行き先を確認する。
「グラスガルド……どこだっけ?」
『既に魔界に飲まれた土地ですね。ギルド内の地図にも載っていたはずです。』
魔界行きのチケットねぇ……。
「ここには何があるんだい?」
彼女にそれを聞いたが……。
「わかんない。」
………………はい?
「おかあさんがでーとはここにいきなさいっていってた。」
「あの人今度は一体何を考えているんだ……。」
どうせ碌でも無い事だろう。
これから起こるであろう厄介事の気配に俺は深々とため息を付くのであった。
〜グラスガルド地方 夜魔の街 ナハト〜
「ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。」
いつものテンプレ魔女の挨拶を聞き流し、街へと出る。
ナハトという街は宿場町の様相をしているが……。
「こりゃまるで歓楽街だな……。」
存在している宿は全てラブホテルや売春宿みたいな場所ばかり。
立ち並ぶ店には怪しげな薬品やそっち目的で使うような道具ばかり。
心なしかどこかから嬌声が聞こえて来る気がする。
空は昼だというのに薄暗く、太陽がよく見えない。
紫色に染まった空に浮かぶ紫雲も相まって不気味に見えてしまう。
「わ〜……すごいところだね。」
感心しているアニスちゃん。
まぁ並べられている商品とかが何かわかっていないからなのだろうが。
あまりアリスと並んで歩きたくない場所である。
「で、目的地は教えてもらっているのかい?地図とかさ。」
そう言うとアニスちゃんはポケットから紙切れを取り出す。
彼女の正確を表すかのように几帳面に折りたたまれていた。
「おかあさんからちずをもらってあるよ。ここにいきなさいって。」
彼女から地図を受け取る。そこに書かれていたのは……
「これ、町の外だな。一体何があるんだろうな。」
地図を頼りに町の外へと歩き出す。アニスちゃんは俺の後ろをちょこちょこと付いて来た。
「(なんだか……視線が……)」
先程から誰かの舐めるような視線を感じる。
首筋がチクチクとするようでなんとなく不快だ。
『路地裏への入り口は接近しないでください。アンブッシュです。』
確かに路地裏の入り口から尻尾やら羽やらがはみ出している。油断したら食べられますよってか。
なんとか待ち伏せに捕まらずに町の外へ出る。
「あの森か……ピクニック向けの森じゃなさそうな気がするんだがなぁ……。」
アニスちゃんの手を引いて森へと足を向ける。その森が近づいてくるにつれて、俺の顔が引き攣ってくる。
「なんか……変なもんが動いている……。」
「なにあれ〜?」
森の間際まで来たときには、それが何なのかハッキリと解った。
俺の全身から血の気が引いていく。
「触手……か?これは。」
「うねうねしてる〜♪」
うねうねと蠢く触手が木々の間で行ったり来たりを繰り返している。
こちらの気配を感じてか、心なしか近くに数が増えてきたような気がする。
「こんな場所でどうしろって言うんだよ……。」
「おかあさんがここがたのしいっていってたよ?」
あの人の楽しいはいろんな意味で危ない。
というか性的経験が毎回リセットされるような子にこんな所勧めるなよ……。
「帰ろう。コーヒーショップか何かで甘いものを買ってあげるから。な?」
「せっかく来たのに……。」
残念そうに言っているが、しかし彼女の顔はニヤニヤが止まっていない。
やはり甘い物は好きか。
「あの人もなんて場所を教える……ん?」
風で飛んできた何かが顔に貼りつく。剥がしてみるとそれは……。
「赤いハンカチ……?」
<すみませ〜ん!それ僕らのです〜!>
この森へ遊びに来たカップルだろうか。こちらに手を振っていた。
やれやれ、仕方が無いなぁと思いつつハンカチを振り返した。
「あぁ、今返しに……。」
<ドドドドドドドドドドド>
地響きが聞こえる。地震かと思ったが、揺れが小さすぎる。
もはや嫌な予感しかしない。
「何だ?地震……じゃないよな……」
「おにいちゃん!にげて!」
アニスちゃんが何か叫んでいる。一体何が……
「うおおおおおおおお!」
<ドーン!」>
砂煙を上げて突進してきた何かに吹っ飛ばされる。
「ぐっ……!」
かろうじてガードしたが、数メートルほど吹き飛ばされる。鵺越しでも手が痺れる感覚がする……なんてパワーだ……!
勢い余って森の中へ踏み込んでしまう。飛ばされている最中、足下に何か水色の物体が……。
<バイーン!>
その水色の物体がいきなり跳ね上がり、俺の体が空高くへと打ち上げられる。方向は、森の奥地。
「うわあああああああああ!?」
俺は物理法則に従って暗い空を突き進む。放物線を描いて吹っ飛んだ先には……。
「しまった、勢いが付きすぎてふっ飛ばしちまった。」
先程お兄ちゃんを突き飛ばしたミノタウロスの女の人が頭を掻きながら立ち尽くしていた。
お兄ちゃんに乱暴を振るった、という感情よりも先に消えてしまったお兄ちゃんのほうが心配になった。
「おにいちゃんはどこいっちゃったの……?」
お兄ちゃんは何かに跳ね上げられたみたいで、空高く飛んでいった後何処に行ったのかが分からない。
「ありゃ……これスプリングトラップだね……。」
さっきハンカチを飛ばしてしまった二人組が森の中を覗いて言っている。
「触手の森の奥の植物たちが効率よく獲物を手に入れられるように胞子を入口近くまで飛ばして作る天然のトラップなんだ。危ないから見つかったら即除去される事になっているんだけど……見落としがあったみたいだね。」
「あの、おにいちゃんはどうなるんですか……?」
男の人に訊いてみる。お兄ちゃんに何かがあったら私は……私は……!
「運良く戻ってこれて廃人……運が悪ければ一生森の奥に閉じ込められるだろうね……可哀想に。」
「そんな……おにいちゃん!」
私はお兄ちゃんを助けるために森に飛び込もうとしたけど、肩を掴まれて止められてしまった。
「無理だよ……君アリスだろう?あっという間に餌食になるだけだからやめたほうがいい。」
「う……おに……」
私がこんな所に連れてこなければ……私が遊びたいなんて言わなければ……!
「おにいちゃあああああああん!」
私は、声の限りに叫び、泣いた。
着地点は幸いにも湖だった。酸性の湖なのか、辺りに植物は少ない。
どことなく生ぬるい水が不快だ。
「うへぇ……ずぶ濡れだ。一体何だって言うんだ……」
『跳躍距離3キロメートル。何故生きているのですか?マスター。』
「多分あれは意図的に仕掛けられたトラップだったんだろうな。一つ目の目的は森の奥へと生き物を飛ばすため。もう一つは……そうだな、その飛ばした生き物を生きたままここへ送る必要があったんだろ。理由はわからんがね。」
湖から上がる。服を乾かしたいが、安全が確認できない場所で服を脱ぐのは危険だ。
飛ばされた距離は直線距離で3キロほど。
『報告。着水の衝撃による機能障害発生。E-Weapon<ブリッツランス>機能不全。<BAGブレイド>機能不全。フレイムスロワー機能不全。プチアグニ機能不全。復旧予想時間は18時間後です。』
ブリッツランスの飛行やBAGブレイドの反重力装置も頼れないか……。
ビーム砲でなぎ払うことも火炎放射器を使うこともできなさそうだ。
『警告、動体反応出現。数20、30、50、現在も増加中。』
辺りの茂みがざわざわと揺れ始める。
「これは……とんでもない場所に飛ばされたかも知れないな……」
冷や汗が流れる。森の入口で見かけた植物……最外縁でさえあの数だったのだ。深部のここならさらに多くの触手が出てくるだろう。
『動体反応100。来ます。』
俺は鵺を逆手に持ち替える。迫り来る驚異を薙ぎ払うために。
「ラプラス!」
『了解。E-Weapon<フェンリルクロー>展開。』
鵺の先端から不可視の爪が顕現する。地面との接点が削れ、獲物を寄越せと脈動する。
そして、茂みの中から大量の触手が襲いかかって来た!
「失せろ!ゲテモノがぁ!」
『SLASH』
自分を軸にフェンリルクローで回転するように薙ぎ払う。
殺到した触手が切り裂かれ、バラバラと落下していく。しかし、触手は後から後から現れ、獲物を捕らえようと接近してくる。
「っく……らぁぁぁぁああああ!」
薙ぎ払い、叩き付け、斬り上げ、さらに薙ぎ払う。砕け飛ぶ触手、飛び散る体液、めくれ上がる地面。
振り回した回数が20を超えた時点で、ようやく襲撃が収まった。
「はぁ……はぁ……はぁ……ったく、がっつきやがって。こんなもん入るわけがねぇだろうが。」
俺は地面に転がる男性器型の触手の残骸を蹴飛ばす。その物は優に成人男性の腕程もあった。こんな物を後ろにねじ込まれたら肛門裂傷どころの騒ぎではない。
『細かったら入れるつもりだったのですか?』
「んなわけねぇだろ。俺にそっちの気はない。」
AIと軽口を叩き合うが、それで疲労が回復する訳ではない。服も濡れている上に重たい鵺を何度も振るわされたのだ。その疲労は半端な物ではない。
「とりあえず動くぞ。ここでじっとしていたらまた襲われる。」
『了解。飛来方向から推測した進行方向を表示します。』
視界に矢印のホログラムが表示される。
歩いてきたわけではないので、マップは無しだ。
「ま、当てもなく彷徨うよりはマシか。」
そう独りごちると、俺は矢印を追って歩き始めた。
「しかし……不気味な森だな。見ているだけで気が滅入る。」
迫ってくる触手をリッパーやフェンリルクローで切り飛ばしながら進む。一回ビームガトリングでバラバラにしてやろうと思ったが、ウネウネ動いて避けて効率が悪いのでやめた。
『この触手は分類上完全に植物になるようです。養分に魔力を要するという条件がその他の植物とは一線を画していますが。』
「っけ、趣味わりぃ。好き好んでこんな場所まで来る奴の気がしれないぜ。」
『深部と違い外周部はさほど凶暴性が高い訳ではないようです。現に外周部に近づくにつれて凶暴性が下がってきています。』
その会話の途中でも触手が襲いかかってくるので、リッパーで迎撃する。もはや二人とも展開要請と確認が面倒になって来たので、ラプラスの判断で武器の展開と使用をしていた。大体欲している武器が出てくるのであまり気にならなかったが。
「凶暴性が薄れてきているって……っ言ってもだな。未だに諦めずに襲いかかってくる奴がいるん……だが!」
新たに現れた触手を3本纏めて迎撃する。もはや気力のみで振っているようなものだが、ここで休んだら確実に触手の餌食になるためそれもできない。
『生命体を求めて寄ってくる習性は深部も外周部も変わりません。背後に反応5。』
振り返ってフェンリルクローで薙ぎ払う。5本の触手は引き裂かれてバラバラに。
「いっそ身を任せたほうが楽になれるかも……っな!」
前方から迫ってくる一際太い一本をリッパーで唐竹割りに。
男性器型のそれを縦に切り裂いたため、構造的にそれをまっぷたつにした形になってしまう。
「うわ、こりゃグロい。ていうか地味に息子が痛くなってきた。」
『何百本も斬り飛ばしておいて今更だと思いますが。』
そりゃそうだ。
「これで何メートル進んだ?」
『約500メートルです。残り約2500。』
「やれやれ……出口に着くまでにヘバらなきゃいいがな。」
『軽口を叩いていられるならば問題ないでしょう。九時方向に反応3。』
縦に三つ連なって迫ってくる触手を上から順に叩き斬る。
「言ってくれるね。これでも結構いっぱいいっぱいなんだがな。」
全て撃退し終わり、矢印に向かって進む。
行きが上がっていても進むしか無い。足を止めた途端、俺の一生はこいつらのために棒にふることになるのだから。
『前方5メートル前。地下に空洞を感知。迂回をして下さい。』
「あいよ。これで6つ目か?」
所々隠されるように口をあけている落とし穴を避けて通る。
あの中に入っている触手は穴の中から出てこないものの、落ちたら延々犯され続けるだろう。まるで谷地眼みたいだ。
『この辺り一帯の植生は待機型の物が多いようです。休憩しますか?』
「あぁ、いいねぇ。とりあえずそこら辺の木にでも寄りかかって何か食おうかぁ。」
俺は手頃な木に近寄り腰を下ろそうとする。
「……とでも言うと思っただろ。甘いんだよ。」
樹の根元にリッパーを突き刺すと、地面から触手がのたくって出てきた。
「まぁよくあるトラップだよな。疲れさせたところで安全地帯を作ってやって、そこで休んだ奴をバクっとね。」
『流石です。引っ掛かるとは思っていませんでしたが。』
「お前が気づいているならば俺も気づいているってこった。伊達に長年相棒やってないって事だよ。」
俺は休むこと無く出口を目指す。残りはあと2キロ程度。
周囲に漂う甘い匂い。嗅いでいるだけで頭がぼーっとしてくる。
「今度は催淫系ね……本当に手を変え品を変えよくやるもんだ。」
そしてここの触手は女性型が多いようだ。
見るからに卑猥な割れ目がそこかしこでうねっている。
「童貞をここに放り込んだらどうなるもんかね。干からびるまで絞られるかな。」
『実験するにしても非人道的すぎますが。』
「解っている。言ってみただけだ。」
幸いここの触手は盛んに襲いかかってくるタイプでは無いらしい。
擦り寄って来る触手を叩きながら休憩を取り、先に進んで行く。残りはあと1.5キロ程度。
「ここのはやたらスタンダードだな……。動きが遅いのがせめてもの救いか。」
のろのろと這い寄ってくる触手を避けながら前へと進む。休むことはできたとはいえ、完全に体力が回復したわけではない。可能であれば戦闘は避けたい。
触手が上から垂れ下がって来て首に巻きつく。しかし俺は気にせず先へと進む。
<ブチブチブチィ!>
ギィィィイイとか断末魔が聞こえた気がする。
大して力もない癖に纏わり付くからだ。
少し進むと、グネグネとした塊が蠢いている。
「あ〜……面倒だ。吹き飛ばすか。」
『警告。内部に生命反応あり。強力な火器を使用すると絶命する危険性があります。』
どうやら何かにまとわりついた触手のようだ。
蠢く触手の内の一本に手をかけて引き千切る。また一本、また一本と引きちぎり……。
「よう、こんな所で何やっているんだ?生贄ごっこか?」
中から出てきた女性の顔に声を掛ける。目のハイライトは消え失せ、理性のかけらもなくなっている。
下の方の触手も引きちぎっていくと、十字が描かれた鎧も顔を見せる。
「教会騎士団ねぇ……。大方この森の調査にでも来て動けなくなったって所か。」
女性の全身は白濁と粘液で塗れており、意識も混濁している。
『連れて行きますか?』
「見捨てる訳にもいくまい。連れて行くぞ。」
粗方触手を引きちぎるとリッパーで鎧の結び目を切り裂き、鎧を外して背負いあげる。歩き出すと彼女の中からズルリと触手が抜け落ちた。
「ぁ……。」
「喋らなくていい。そのまま寝てろ。」
そう言うと、背中の重みが増えた。力を抜いたのだろう。
『迎撃が困難になります。戦闘用のビットもまだ復旧していないので危険ですがよろしいですか?』
「ここから入り口までの触手がみんなこんなもんなら迎撃する必要も無いだろ。」
ここまで来ると俺の腕力でも楽に引きちぎれる程度になってきた。
生物の質感を出そうとするあまりに耐久力を犠牲にした奴らなのだろう。
出口まで、あと500メートル。
「もうすぐ……かね。おい、生きているか?あんた。」
そう問いかけると、背中の彼女がピクリと動いた。
『マスター。奇妙な点を報告します。』
「あん?何だ?」
『スキャンの結果、彼女の産道内に人間とは異なる生命反応が見つかりました。早めに除去したほうがよろしいかと。』
「産道って……中に何かが入っているって事か?」
彼女を地面に下ろして股を開かせる。下着は既にその機能を成していなかった。
彼女は抵抗する気力も無いのか、無抵抗に足を開いている。
「なんとなく……盛り上がっている気はするな。何が入っているんだ?」
恥骨の上辺りを押さえて、膣口内に指を入れると何か柔らかいものが指の腹に当たった。
「なんだこりゃ?」
その物体が動かないように上から押さえて、手を中まで侵入させ、物体を掴む。
「よ……」
そして掴んだ物体を引き抜こうとすると、ブチブチと何かが千切れる音が。
「ぁぁぁ……!」
痛そうに悶える女性。ある程度癒着してしまっているのだろうか?
「ゆっくりやると辛そうだ。一気に引き抜くぞ。」
「ゃ……め……」
彼女の制止を無視して、思いっきり引っこ抜く。
「が……あ……!」
少量の血と共に引き抜いたそれはピンク色をした丸い物体だった。
「何だ?これ。卵みたいだが……」
『図鑑検索完了。不定形型ローパー種ローパーの卵と判明。完全定着前に除去したので、これ以上の侵食は無いものと推測します。』
寄生系の魔物……ねぇ。
「戻さなくていいよな?捨てるぞ。」
彼女が力なく頷く。俺はそいつを触手の塊の中に投げつけた。
べちゃべちゃと汚らしい音をたてながら卵が触手の塊へ飲み込まれていく。
「さて、先に進みますか。もうすぐ出口だからな。がんばれよ。」
俺は彼女を背負う。出口まではあと300メートル程度だ。
「お嬢ちゃん……あの人は多分もう帰って来ないよ。素直に帰ったほうがいいんじゃないか?」
心配して二人がこの場に残ってくれている。彼らはそう言うけど私はここを動くつもりはない。
「かえってくるもん……おにいちゃんつよいんだもん……」
私の言葉に二人とも困ったように顔を見合わせる。構うものか。私はここで待ち続けるんだ。
辺りに魔力がたっぷりあるから精気の補給はいらない。だからいつまででも待ち続けられる。
「ぜったい……ぜったいかえってくるもん……わたしをひとりになんてしないもん……」
その時、何かが飛来する音がして森の中にあったスプリングトラップがズタズタになる。
誰かが……森の中から歩いて来る……!
「あ〜やれやれ……ようやく抜けたか。」
また飛ばされてはかなわないので、遠巻きからオクスタンライフルで例のトラップを破壊する。
草むらの向こうから息を呑む気配がした。
光が弱いとはいえ、久々に浴びる光が体に気持ちいい。
「よう、帰ってきたぜ。全くひどい目にあったよ。ホント。」
へたり込んでいるアニスちゃんに帰還を告げる。
彼女の瞳から、大粒の涙が零れた。
「おにいちゃん!かえってきた……かえってきてくれたよぉ……」
俺に抱きついてくるアニスちゃん。心細い思いをさせちまったかな……。
「まさかスプリングトラップに飛ばされて無事に戻ってくる人がいたなんてねぇ……君何者だい?勇者か何か?」
先程のカップルが幽霊でも見るような目で俺を見つめている。
「別に。ただの冒険者さ。悪いな、さっきのハンカチどこかに落としちまった。」
「いや、別にいいんだけどさ。」
俺が頭を掻きながら告げると、あっけに取られたような顔をする。
「そんなことより近場に湖か温泉は無いか?こいつを洗ってやりたいんだが……。」
俺は背負っている女性を指さす。薄暗くてよく見えていなかったが、彼女はいろんな液体でベトベトになっていた。
「それならここから北のほうに少し行くと温泉があったはずだけど。魔物も結構集まっているから油断していると食べられるからね?」
「了解。そうそう遅れは取らないさ。」
そう言うと俺はアニスちゃんを連れ立って北へ向かった。
あの二人は安心したように胸をなで下ろすと、ベタベタしながら森の中へ入っていった。これからお楽しみですよってか。
「やっと着いた……。」
正直人間一人をここまで背負って来るのはしんどいものがある。
記憶がない間も訓練していてくれた自分に感謝だな。
温泉には確かに様々な魔物が浸かっていた。サキュバスにオーガにワーキャットにと魔物の万国博覧会といった体だ。
何人かに一緒に入ろうと誘われたが、連れがいるからと言うとあっさり諦めてくれた。ギルドにいる連中より話がわかるってどうなのよ。
「服脱がすぞ。」
彼女の服に手をかけても特に抵抗はない。精神が壊れていたりしないよな……?
俺は彼女の服を脱がせて裸にすると、据え付けられていた木桶に湯を汲んで流してやる。
アニスちゃんが不機嫌そうだが、今は構っていられない。
「……。」
彼女はされるがままに洗われている。おとなしい分にはこちらも楽なのだが、なんとなく不気味だ。
「あんたはあの森で何をやっていたんだ?普通一人で入るような場所じゃないだろうに。」
『マスターも一人で彷徨っていた筈ですが。』
「あれは不可抗力だっての。」
俺達の言い合いにもなんの反応も示さない。
「腹は減っていないか?減っているなら体洗い終わったら何か食べに行くことにするが……。」
彼女の口が少し動く。何かを言っているようだが……。
「……か……いた……。」
「ん?何だって?」
声が小さかったので聞き返す。彼女は気力を振り絞るように何かを告げる。
「おな……か、すい……た。」
どうやら空腹は感じるらしい。生理的欲求があるということはまだ大丈夫ということだ。
俺はほっとして手を再び動かし始める。
「そうか、んじゃ後で何か食いに行くか。魔界だって人間向けの食い物ぐらいは売っているだろ。」
俺のバックパックの中の携帯食料は水の中に落ちたときに使い物にならなくなっている。
なんとか食べられるのなら細かく砕いて水で練って食べさせていたのだが……。
そう考えていると、彼女が俺の腕を掴む。
「すいた……おなか……。」
「あぁ、後でな。今は体を洗うことだけ……おぉ!?」
殆ど力なんて残っていないはずの彼女に押し倒される……というかその格好は……。
「角が……生えてきた?」
頭には捻れた小さな角が生えてきている。局部を覆うように桃色の毛が生えてきて、薄い膜に覆われた翼が腰から出てきた。臀部には、体毛と同色の尻尾。
「図鑑検索完了。悪魔型サキュバス種レッサーサキュバス。人間の女性が魔界の魔力やサキュバスの魔力により侵食され変質した魔族。変化直後は身体全体の感度が高められており、強い飢餓感に襲われます。尚、サキュバス種の食料は基本的に男性の精液です。」
あぁ、俺今から食われるのね。性的な意味で。
「お、おにいちゃん!?だいじょうぶ……ってわぁ!?」
彼女が俺のズボンをトランクスごとずり下ろして息子を露出させる。
「ちょうだい……おなか……すいた……。」
彼女の中に、俺がずぶずぶと沈み込んでいく。
うねうねと蠢く膣壁が自身にまとわりつき、恐ろしい快感を生み出している。
「あわ、あわ……きゅう……」
アニスちゃんはあまりの出来事に気絶してしまったようだ。まぁ基本的に性知識が無い状態だからなぁ……免疫も少ないのかも。
「ラプラス、ICEのセキュリティ強度は大丈夫か?」
『問題ありません。レッサーサキュバス程度の魔力ならば侵食は防げます。』
そいつはよかった。
「そんなに欲しいならくれてやる。腹一杯になるまで吸えばいいさ。」
俺は手を伸ばして彼女の頬を撫でてやる。彼女はその手にそっと自分の手を重ねて……。
「うん……いただきます……ぅん……」
体を前後に動かし始める。流石にサキュバス種とだけあって中の具合はかなりいい。
というか気を緩めるとあっというまに爆発しそうだ。
周りではニヤニヤしながら魔物達がこちらの様子を伺っている。
チクチクと刺さる目線が居心地悪い……。
「はぁ……はぁ……♪おいし、んん……」
自分の手がお留守だったので、彼女の胸を揉みこみ、結合部のクリトリスを弄ってやる。
「ふぁぁぁぁああ!?きもち……ぁぁぁああああ!」
それだけでビクビクと達してしまったようだ。感度が強いってのは本当のことのようだ。
「刺激が強すぎてうまく動けないか?」
彼女に問いかけるとコクコクと頷いている。俺は彼女を抱え上げて仰向けに寝かせてやる。
「俺から動こう。そうすれば上手く動けなくても大丈夫だ。」
そう言うと俺はゆっくりとピストンを始める。膣内を前後するたびに強烈な快感が全身を駆けまわる。
「あぁ、そういや我慢しなくてもいいんだっけ。早く欲しいよな?」
「ほしいぃ……ちょうだ……はぅ♪」
その言葉を確認すると、出し入れする速度を早める。
「うぁあん!あぁ、はぁ!つよ……あぁ!」
一突きする度に絶頂に達しているのか、中は痙攣しっぱなしだ。膣壁は常にざわざわと蠢き、精液を催促してくる。
「っく……出すぞ……っ!」
その快感に逆らわずに、俺は彼女の中に白濁を流しこんでいく。
もの凄い速度で吸収を行っているのか、大量に出たにも関わらず一滴もこぼれない。
「っく……はぁ……結構出たな……。」
「おいしぃ……おいしいよぅ……」
ようやく味わえたご馳走に、彼女は涙を流しながら歓喜する。
「ほらほら、泣かない。これ一回って訳じゃないんだから。」
現におかわりをねだるように蠢く彼女の膣内によって、既に俺のモノは硬さを取り戻していた。
「っとその前にだ。」
俺は一回彼女の中からモノを抜き去ると、アニスちゃんを近くの岩にもたせ掛けるように座らせる。
「流石に気絶したまま放置はマズいからな。」
俺は彼女の頭を撫でて、再びモノを彼女の中に埋没させる。
「くぅん……もっとちょうだい……」
再び腰を揺り動かし始めると、すぐに彼女は甘い声を上げ始める。
というか、視界の端で魔物達が自慰大会始めちゃっているんですけど。
「(無視だ、無視。気にしたら負けだ。)」
「っぐ……これで……五回目!」
「はぁぁぁ……おいし……♪」
我ながらよく出るものだ。彼女の表情からは空腹からくる焦燥が薄れ、至福に満ちた顔をしている。
「満足したか?」
「本当はもっと欲しいんだけれど……貴方も疲れているでしょ?」
まぁ実際その通りなのだが。
触手の群れとバトルを繰り広げながら森林強行軍の次は人一人背負ってのトレッキングだ。疲れない訳がない。
「そうだなぁ。どうせ温泉もあるし、服を乾かすついでに入っていくか。疲れも多少は取れるだろ。」
俺はアニスちゃんの隣に置いてあったバックパックからタオルを取り出す。
「アニスちゃ〜ん、いつまで寝ているんですか〜?」
彼女の頬をペチペチと叩いてあげると、うっすらと目を開ける。
「ふぁ……あれ?ここどこ?」
どうやら温泉に来てからに関する記憶がすっぽり抜け落ちているらしい。恐るべし、アリス。
「温泉。折角だから入っていこう。」
俺は2本目のタオルを彼女に渡すと、温泉の中へ入っていく。同じようにさっきまでレッサーサキュバスだった女性も入ってくる。俺の精を吸ったからか、彼女の体毛は抜け落ち始めていた。
「もうすぐ完全にサキュバスに変わるのかね。」
彼女は俯いている。
「私……本当に魔物になっちゃうんだ……。」
そういえば彼女は教会所属の騎士だったな。
「そのうちそれも気にならなくなるさ。それに、別に魔物が悪だっていうのが誤解だってのがわかったろ?」
俺は周りを見渡す。先程まで自慰大会を開いていた魔物達は……
「こんなアホが教会が考えているような害悪な訳がない。」
温泉の中に浸かりすぎてのぼせて浮かんでいた。仕方無しに彼女たちを温泉の外へと上げてやる。
彼女の所に戻ると、アニスちゃんが彼女の隣に浸かっていた。
「きもちいいねぇ……」
「そうね……」
気持よさそうにくつろぐアニスちゃんを見て、彼女は頬をゆるめている。
「その子を見ても、まだ魔物は邪悪なもんだなんて思うか?」
「そうよね……本当は気付いていたのかも。教会の正義は歪められているって。」
彼女はお湯を掬って顔を洗う。
「魔物に殺されたって話が山ほどあったけど……どれも私は釈然としなかった。実際に滅ぼされた村を視察に行った事もある。でも、魔物がやったって痕跡は全く無くて……。」
彼女は自分の手を眺めている。
「そんな時かな。私の口を封じるためなのか、魔界に行ってあの森を調べてこいって言われて。私は疑問を抱きながらもあそこに行ったわ。誰かを連れて行く事を許されなかったのも、私だけを行かせたかっただけなのかも。」
それは、彼女の独白。自分の信じていた正義が歪められていた事への、嘆き。
「馬鹿みたい……騎士団に入った頃の私ってね、愚直なまでに正義に憧れていた。邪悪な魔物を根絶やしにするんだってさ。でも……こうなるとどっちが悪なのかわからないや。」
彼女は、のぼせて地面の上に寝かされている魔物達を眺めて言う。
「彼女達ってさ。人間と殆ど変わらないんだね。少し人間よりも色恋沙汰への興味が強いってだけで。」
そして、目に手を当てて天を仰ぐ。
「それを私は……この手で殺していたんだ……。ただ少しだけ人間と違うってだけで……!」
彼女が手を当てた隙間から、一筋の雫が流れてくる。
「馬鹿だよ……本当に。何も見えていなかったんだ……!何も見ようとしていなかったんだ……!」
俺はそれを遮り、言ってやる。
これ以上彼女が自分を傷つける所を見ていたくない。
「でも、お前は気付くことが出来た。魔物達が、人間となんら変わらないんだってことに。気付けたのならば、それはまだ手遅れじゃない。これから償っていけばいいさ。」
「……そうだよね……ありがとう。私、ここからやり直してみる。それで、本当の正義を見つけてみたい。」
「そうか。頑張りな。」
「う〜……」
ほっぺたを普段の3割増くらいで膨らましているアニスちゃんに気がついたのは、ある程度話がついてからだった。
「おにいちゃん……またおんなのひとくどいてる……」
「別に口説いているつもりはないんだけどな……」
頬を掻いて否定してみるが、やっていることは言われてみれば確かに口説き文句のような気がする。
俺を取られないようにするためなのか、彼女は俺の足の間に割り込んで背中をもたせかけてきた。
「そうね。言葉には気をつけたほうがいいかも。」
あんたまで言うか。
「心が弱っている女にね、そんな優しい言葉をかけちゃだめよ?コロって行っちゃうんだから。」
そう言うと彼女は頭を俺の肩に乗せてきた。
「お、おい?何のつもりだ……っていてぇ!」
やきもちを焼いたのか、アニスちゃんが俺の肩に噛み付いてくる。
血が出る程ではないものの、これは地味に痛い。
「う〜……!」
「ほら、やきもち焼かれちゃった♪」
あんたのせいだろうが。
「大丈夫よ、お嬢さん。私は別にあなたの大切な人を取るつもりはないから。」
「わたしこどもじゃないもん……」
彼女は困った顔をしているが、俺はさらに困らせる。
「事実子供じゃないしなぁ……これでもう25だぜ?」
アニスちゃんの頭を撫でてやりながら言ってやる。彼女は、目を白黒させて今の言葉を反芻しているようだ。
「……本当に?」
「本当だ。」
沈黙。彼女はじっとアニスちゃんを見ている。そして……
「反則でしょ!?私より年上なのになんでそんなに肌すべすべなの!?ものすごく可愛いしロリコンの気がなさそうな男でも落ちそうなのになんで私より年上なの!?」
錯乱し始めた。
「だってこういう魔物だしなぁ。完璧な少女なんて言われているあたりアリスって種族はいろんな奴の心を鷲掴みにするぜ?ロリコン非ロリコン問わず。」
「私も同じようになれないの!?今すぐにでも何か儀式をすればアリスにとか……」
「これは先天的な突然変異だそうだ。ぶっちゃけ無理。」
ガックリと肩を落とす彼女。よほど悔しかったのだろうか。
「まぁ、あれだ。サキュバスでも綺麗にはなれるぞ?それこそ人間なんかじゃ追いつかないぐらいに。」
「だといいけど……はぁ、羨ましすぎる……。」
どんだけ羨ましかったんだよ。
「本当に間に合わせね……これ」
俺は彼女に俺が着ていたジャケットを着せて、ソーイングセットで縫い合わせたタオルをスカートのように履かせていた。
「街で何か買うまでは我慢だな。ちぐはぐだけどしゃーないさ。」
彼女の体毛は殆ど無くなっており、局部を隠す役割を失っていた。
「でも何だろう。この開放感!気持よくて仕方が無いわ!」
それは単にパンツを履いていないからだろう。
俺達は連れ立ってナハトへと向かう。向こうについたら……予算が許す限りの服を買ってあげよう。
〜夜魔の街 ナハト 『宵闇服飾店』〜
「しかし……まともな服が一着も無いな……。」
クイーンボンテージ、タイトブラ&ローレグセット。
紐水着なんて誰が着るんだよ。
「意外とお洒落だと思うんだけどな、コレ。」
マイクロビキニの上下セットをひらひらさせながら自分に当てている彼女。
だんだんと頭の中がサキュバスっぽくなってきたな、この人。
アニスちゃんはどういう目的の服なのかわからず、首をかしげている。
「これほとんどきるぶぶんがないよ〜?」
体に巻き付けるらしき紐とブーメランパンツのセットが掛かっているハンガーを揺らしている。
「チューブトップに皮のホットパンツ……まぁこの辺が妥当か。」
彼女の方は下着を持ってきたようだ。彼女と共にカウンターへ向かう。
「金貨3枚と銀貨20枚です」
「ぶふぅ!?」
地味に高かった!しかし、女性モノの服から考えたら安い方なのだろうか……。
「一応貸しな……。返せるようになったらモイライの冒険者ギルドへ返しに来い。」
「なんだ、奢りじゃないの。」
無茶言うな。
「それじゃ、俺達は帰るよ。」
店を出て旅の館前まで来ると、彼女と別れる事にする。流石に旅の館まで使わせる事はできないしな。
「あ、名前。お金返すとしても知らなかったら返せないでしょ?」
そりゃそうだ。
「アルテアだ。アルテア=ブレイナー」
「ティスよ。ティス=マウザー」
手を出しあって握手。恐らくこの後も会うことになるかも知れない。少なくとも彼女が貸しを返しに来る1回は。
「縁があったらまた会いましょ。お金を返す時だけじゃなく、ね。」
「その時は敵同士じゃなけりゃいいな。」
俺が茶化して答える。
「あら、例え敵同士だったとしても一回ぐらいであれば寝返るわよ?貸しは一つじゃないんだから。」
そういや触手からも助けているんだったな。
「期待しておくぜ?裏切ったら後ろからバンだ。」
指で銃を作り、撃つ真似をする。
「後ろから突かれるのも悪くないかもね。」
クスクスと笑うティス。もうそこに堅物だったであろうかつての面影は無い。
「じゃあな。縁があったら、また。」
彼女に背中を向け、手を振る。
「えぇ、またどこかで。」
彼女も、俺に背を向けて歩き始める。二人の行く末が交錯する日はいつ来るのだろうか。
<がぶ>
手に走る鋭い痛み。見てみると、アニスちゃんが俺の手に噛み付いていた。
「う〜……」
「あぁ、悪い悪い。やきもち焼かせちゃったな。」
彼女の口から手を外して頭を撫でてやる。
「ア・ラ・スイーツのいちごぱふぇ……」
「わかったよ……帰ったら食べに行こう。」
「うん♪」
イチゴパフェは……銀貨20枚もしました……。
地味に財布が痛いとです……。アルテアです……。アルテアです……。
「ここを使うのか?通常では結構かかる筈だが……」
アニスちゃんに付いて行くと、そこは旅の館だった。
そんなに遠出をするのだろうか。
「これ、おかあさんがつかいなさいって」
そう言うと彼女はスカートのポケットからチケットを取り出した。
「旅の館往復券……?発行元は冒険者ギルドか。行き先は……」
彼女からカードを受け取ると、行き先を確認する。
「グラスガルド……どこだっけ?」
『既に魔界に飲まれた土地ですね。ギルド内の地図にも載っていたはずです。』
魔界行きのチケットねぇ……。
「ここには何があるんだい?」
彼女にそれを聞いたが……。
「わかんない。」
………………はい?
「おかあさんがでーとはここにいきなさいっていってた。」
「あの人今度は一体何を考えているんだ……。」
どうせ碌でも無い事だろう。
これから起こるであろう厄介事の気配に俺は深々とため息を付くのであった。
〜グラスガルド地方 夜魔の街 ナハト〜
「ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。」
いつものテンプレ魔女の挨拶を聞き流し、街へと出る。
ナハトという街は宿場町の様相をしているが……。
「こりゃまるで歓楽街だな……。」
存在している宿は全てラブホテルや売春宿みたいな場所ばかり。
立ち並ぶ店には怪しげな薬品やそっち目的で使うような道具ばかり。
心なしかどこかから嬌声が聞こえて来る気がする。
空は昼だというのに薄暗く、太陽がよく見えない。
紫色に染まった空に浮かぶ紫雲も相まって不気味に見えてしまう。
「わ〜……すごいところだね。」
感心しているアニスちゃん。
まぁ並べられている商品とかが何かわかっていないからなのだろうが。
あまりアリスと並んで歩きたくない場所である。
「で、目的地は教えてもらっているのかい?地図とかさ。」
そう言うとアニスちゃんはポケットから紙切れを取り出す。
彼女の正確を表すかのように几帳面に折りたたまれていた。
「おかあさんからちずをもらってあるよ。ここにいきなさいって。」
彼女から地図を受け取る。そこに書かれていたのは……
「これ、町の外だな。一体何があるんだろうな。」
地図を頼りに町の外へと歩き出す。アニスちゃんは俺の後ろをちょこちょこと付いて来た。
「(なんだか……視線が……)」
先程から誰かの舐めるような視線を感じる。
首筋がチクチクとするようでなんとなく不快だ。
『路地裏への入り口は接近しないでください。アンブッシュです。』
確かに路地裏の入り口から尻尾やら羽やらがはみ出している。油断したら食べられますよってか。
なんとか待ち伏せに捕まらずに町の外へ出る。
「あの森か……ピクニック向けの森じゃなさそうな気がするんだがなぁ……。」
アニスちゃんの手を引いて森へと足を向ける。その森が近づいてくるにつれて、俺の顔が引き攣ってくる。
「なんか……変なもんが動いている……。」
「なにあれ〜?」
森の間際まで来たときには、それが何なのかハッキリと解った。
俺の全身から血の気が引いていく。
「触手……か?これは。」
「うねうねしてる〜♪」
うねうねと蠢く触手が木々の間で行ったり来たりを繰り返している。
こちらの気配を感じてか、心なしか近くに数が増えてきたような気がする。
「こんな場所でどうしろって言うんだよ……。」
「おかあさんがここがたのしいっていってたよ?」
あの人の楽しいはいろんな意味で危ない。
というか性的経験が毎回リセットされるような子にこんな所勧めるなよ……。
「帰ろう。コーヒーショップか何かで甘いものを買ってあげるから。な?」
「せっかく来たのに……。」
残念そうに言っているが、しかし彼女の顔はニヤニヤが止まっていない。
やはり甘い物は好きか。
「あの人もなんて場所を教える……ん?」
風で飛んできた何かが顔に貼りつく。剥がしてみるとそれは……。
「赤いハンカチ……?」
<すみませ〜ん!それ僕らのです〜!>
この森へ遊びに来たカップルだろうか。こちらに手を振っていた。
やれやれ、仕方が無いなぁと思いつつハンカチを振り返した。
「あぁ、今返しに……。」
<ドドドドドドドドドドド>
地響きが聞こえる。地震かと思ったが、揺れが小さすぎる。
もはや嫌な予感しかしない。
「何だ?地震……じゃないよな……」
「おにいちゃん!にげて!」
アニスちゃんが何か叫んでいる。一体何が……
「うおおおおおおおお!」
<ドーン!」>
砂煙を上げて突進してきた何かに吹っ飛ばされる。
「ぐっ……!」
かろうじてガードしたが、数メートルほど吹き飛ばされる。鵺越しでも手が痺れる感覚がする……なんてパワーだ……!
勢い余って森の中へ踏み込んでしまう。飛ばされている最中、足下に何か水色の物体が……。
<バイーン!>
その水色の物体がいきなり跳ね上がり、俺の体が空高くへと打ち上げられる。方向は、森の奥地。
「うわあああああああああ!?」
俺は物理法則に従って暗い空を突き進む。放物線を描いて吹っ飛んだ先には……。
「しまった、勢いが付きすぎてふっ飛ばしちまった。」
先程お兄ちゃんを突き飛ばしたミノタウロスの女の人が頭を掻きながら立ち尽くしていた。
お兄ちゃんに乱暴を振るった、という感情よりも先に消えてしまったお兄ちゃんのほうが心配になった。
「おにいちゃんはどこいっちゃったの……?」
お兄ちゃんは何かに跳ね上げられたみたいで、空高く飛んでいった後何処に行ったのかが分からない。
「ありゃ……これスプリングトラップだね……。」
さっきハンカチを飛ばしてしまった二人組が森の中を覗いて言っている。
「触手の森の奥の植物たちが効率よく獲物を手に入れられるように胞子を入口近くまで飛ばして作る天然のトラップなんだ。危ないから見つかったら即除去される事になっているんだけど……見落としがあったみたいだね。」
「あの、おにいちゃんはどうなるんですか……?」
男の人に訊いてみる。お兄ちゃんに何かがあったら私は……私は……!
「運良く戻ってこれて廃人……運が悪ければ一生森の奥に閉じ込められるだろうね……可哀想に。」
「そんな……おにいちゃん!」
私はお兄ちゃんを助けるために森に飛び込もうとしたけど、肩を掴まれて止められてしまった。
「無理だよ……君アリスだろう?あっという間に餌食になるだけだからやめたほうがいい。」
「う……おに……」
私がこんな所に連れてこなければ……私が遊びたいなんて言わなければ……!
「おにいちゃあああああああん!」
私は、声の限りに叫び、泣いた。
着地点は幸いにも湖だった。酸性の湖なのか、辺りに植物は少ない。
どことなく生ぬるい水が不快だ。
「うへぇ……ずぶ濡れだ。一体何だって言うんだ……」
『跳躍距離3キロメートル。何故生きているのですか?マスター。』
「多分あれは意図的に仕掛けられたトラップだったんだろうな。一つ目の目的は森の奥へと生き物を飛ばすため。もう一つは……そうだな、その飛ばした生き物を生きたままここへ送る必要があったんだろ。理由はわからんがね。」
湖から上がる。服を乾かしたいが、安全が確認できない場所で服を脱ぐのは危険だ。
飛ばされた距離は直線距離で3キロほど。
『報告。着水の衝撃による機能障害発生。E-Weapon<ブリッツランス>機能不全。<BAGブレイド>機能不全。フレイムスロワー機能不全。プチアグニ機能不全。復旧予想時間は18時間後です。』
ブリッツランスの飛行やBAGブレイドの反重力装置も頼れないか……。
ビーム砲でなぎ払うことも火炎放射器を使うこともできなさそうだ。
『警告、動体反応出現。数20、30、50、現在も増加中。』
辺りの茂みがざわざわと揺れ始める。
「これは……とんでもない場所に飛ばされたかも知れないな……」
冷や汗が流れる。森の入口で見かけた植物……最外縁でさえあの数だったのだ。深部のここならさらに多くの触手が出てくるだろう。
『動体反応100。来ます。』
俺は鵺を逆手に持ち替える。迫り来る驚異を薙ぎ払うために。
「ラプラス!」
『了解。E-Weapon<フェンリルクロー>展開。』
鵺の先端から不可視の爪が顕現する。地面との接点が削れ、獲物を寄越せと脈動する。
そして、茂みの中から大量の触手が襲いかかって来た!
「失せろ!ゲテモノがぁ!」
『SLASH』
自分を軸にフェンリルクローで回転するように薙ぎ払う。
殺到した触手が切り裂かれ、バラバラと落下していく。しかし、触手は後から後から現れ、獲物を捕らえようと接近してくる。
「っく……らぁぁぁぁああああ!」
薙ぎ払い、叩き付け、斬り上げ、さらに薙ぎ払う。砕け飛ぶ触手、飛び散る体液、めくれ上がる地面。
振り回した回数が20を超えた時点で、ようやく襲撃が収まった。
「はぁ……はぁ……はぁ……ったく、がっつきやがって。こんなもん入るわけがねぇだろうが。」
俺は地面に転がる男性器型の触手の残骸を蹴飛ばす。その物は優に成人男性の腕程もあった。こんな物を後ろにねじ込まれたら肛門裂傷どころの騒ぎではない。
『細かったら入れるつもりだったのですか?』
「んなわけねぇだろ。俺にそっちの気はない。」
AIと軽口を叩き合うが、それで疲労が回復する訳ではない。服も濡れている上に重たい鵺を何度も振るわされたのだ。その疲労は半端な物ではない。
「とりあえず動くぞ。ここでじっとしていたらまた襲われる。」
『了解。飛来方向から推測した進行方向を表示します。』
視界に矢印のホログラムが表示される。
歩いてきたわけではないので、マップは無しだ。
「ま、当てもなく彷徨うよりはマシか。」
そう独りごちると、俺は矢印を追って歩き始めた。
「しかし……不気味な森だな。見ているだけで気が滅入る。」
迫ってくる触手をリッパーやフェンリルクローで切り飛ばしながら進む。一回ビームガトリングでバラバラにしてやろうと思ったが、ウネウネ動いて避けて効率が悪いのでやめた。
『この触手は分類上完全に植物になるようです。養分に魔力を要するという条件がその他の植物とは一線を画していますが。』
「っけ、趣味わりぃ。好き好んでこんな場所まで来る奴の気がしれないぜ。」
『深部と違い外周部はさほど凶暴性が高い訳ではないようです。現に外周部に近づくにつれて凶暴性が下がってきています。』
その会話の途中でも触手が襲いかかってくるので、リッパーで迎撃する。もはや二人とも展開要請と確認が面倒になって来たので、ラプラスの判断で武器の展開と使用をしていた。大体欲している武器が出てくるのであまり気にならなかったが。
「凶暴性が薄れてきているって……っ言ってもだな。未だに諦めずに襲いかかってくる奴がいるん……だが!」
新たに現れた触手を3本纏めて迎撃する。もはや気力のみで振っているようなものだが、ここで休んだら確実に触手の餌食になるためそれもできない。
『生命体を求めて寄ってくる習性は深部も外周部も変わりません。背後に反応5。』
振り返ってフェンリルクローで薙ぎ払う。5本の触手は引き裂かれてバラバラに。
「いっそ身を任せたほうが楽になれるかも……っな!」
前方から迫ってくる一際太い一本をリッパーで唐竹割りに。
男性器型のそれを縦に切り裂いたため、構造的にそれをまっぷたつにした形になってしまう。
「うわ、こりゃグロい。ていうか地味に息子が痛くなってきた。」
『何百本も斬り飛ばしておいて今更だと思いますが。』
そりゃそうだ。
「これで何メートル進んだ?」
『約500メートルです。残り約2500。』
「やれやれ……出口に着くまでにヘバらなきゃいいがな。」
『軽口を叩いていられるならば問題ないでしょう。九時方向に反応3。』
縦に三つ連なって迫ってくる触手を上から順に叩き斬る。
「言ってくれるね。これでも結構いっぱいいっぱいなんだがな。」
全て撃退し終わり、矢印に向かって進む。
行きが上がっていても進むしか無い。足を止めた途端、俺の一生はこいつらのために棒にふることになるのだから。
『前方5メートル前。地下に空洞を感知。迂回をして下さい。』
「あいよ。これで6つ目か?」
所々隠されるように口をあけている落とし穴を避けて通る。
あの中に入っている触手は穴の中から出てこないものの、落ちたら延々犯され続けるだろう。まるで谷地眼みたいだ。
『この辺り一帯の植生は待機型の物が多いようです。休憩しますか?』
「あぁ、いいねぇ。とりあえずそこら辺の木にでも寄りかかって何か食おうかぁ。」
俺は手頃な木に近寄り腰を下ろそうとする。
「……とでも言うと思っただろ。甘いんだよ。」
樹の根元にリッパーを突き刺すと、地面から触手がのたくって出てきた。
「まぁよくあるトラップだよな。疲れさせたところで安全地帯を作ってやって、そこで休んだ奴をバクっとね。」
『流石です。引っ掛かるとは思っていませんでしたが。』
「お前が気づいているならば俺も気づいているってこった。伊達に長年相棒やってないって事だよ。」
俺は休むこと無く出口を目指す。残りはあと2キロ程度。
周囲に漂う甘い匂い。嗅いでいるだけで頭がぼーっとしてくる。
「今度は催淫系ね……本当に手を変え品を変えよくやるもんだ。」
そしてここの触手は女性型が多いようだ。
見るからに卑猥な割れ目がそこかしこでうねっている。
「童貞をここに放り込んだらどうなるもんかね。干からびるまで絞られるかな。」
『実験するにしても非人道的すぎますが。』
「解っている。言ってみただけだ。」
幸いここの触手は盛んに襲いかかってくるタイプでは無いらしい。
擦り寄って来る触手を叩きながら休憩を取り、先に進んで行く。残りはあと1.5キロ程度。
「ここのはやたらスタンダードだな……。動きが遅いのがせめてもの救いか。」
のろのろと這い寄ってくる触手を避けながら前へと進む。休むことはできたとはいえ、完全に体力が回復したわけではない。可能であれば戦闘は避けたい。
触手が上から垂れ下がって来て首に巻きつく。しかし俺は気にせず先へと進む。
<ブチブチブチィ!>
ギィィィイイとか断末魔が聞こえた気がする。
大して力もない癖に纏わり付くからだ。
少し進むと、グネグネとした塊が蠢いている。
「あ〜……面倒だ。吹き飛ばすか。」
『警告。内部に生命反応あり。強力な火器を使用すると絶命する危険性があります。』
どうやら何かにまとわりついた触手のようだ。
蠢く触手の内の一本に手をかけて引き千切る。また一本、また一本と引きちぎり……。
「よう、こんな所で何やっているんだ?生贄ごっこか?」
中から出てきた女性の顔に声を掛ける。目のハイライトは消え失せ、理性のかけらもなくなっている。
下の方の触手も引きちぎっていくと、十字が描かれた鎧も顔を見せる。
「教会騎士団ねぇ……。大方この森の調査にでも来て動けなくなったって所か。」
女性の全身は白濁と粘液で塗れており、意識も混濁している。
『連れて行きますか?』
「見捨てる訳にもいくまい。連れて行くぞ。」
粗方触手を引きちぎるとリッパーで鎧の結び目を切り裂き、鎧を外して背負いあげる。歩き出すと彼女の中からズルリと触手が抜け落ちた。
「ぁ……。」
「喋らなくていい。そのまま寝てろ。」
そう言うと、背中の重みが増えた。力を抜いたのだろう。
『迎撃が困難になります。戦闘用のビットもまだ復旧していないので危険ですがよろしいですか?』
「ここから入り口までの触手がみんなこんなもんなら迎撃する必要も無いだろ。」
ここまで来ると俺の腕力でも楽に引きちぎれる程度になってきた。
生物の質感を出そうとするあまりに耐久力を犠牲にした奴らなのだろう。
出口まで、あと500メートル。
「もうすぐ……かね。おい、生きているか?あんた。」
そう問いかけると、背中の彼女がピクリと動いた。
『マスター。奇妙な点を報告します。』
「あん?何だ?」
『スキャンの結果、彼女の産道内に人間とは異なる生命反応が見つかりました。早めに除去したほうがよろしいかと。』
「産道って……中に何かが入っているって事か?」
彼女を地面に下ろして股を開かせる。下着は既にその機能を成していなかった。
彼女は抵抗する気力も無いのか、無抵抗に足を開いている。
「なんとなく……盛り上がっている気はするな。何が入っているんだ?」
恥骨の上辺りを押さえて、膣口内に指を入れると何か柔らかいものが指の腹に当たった。
「なんだこりゃ?」
その物体が動かないように上から押さえて、手を中まで侵入させ、物体を掴む。
「よ……」
そして掴んだ物体を引き抜こうとすると、ブチブチと何かが千切れる音が。
「ぁぁぁ……!」
痛そうに悶える女性。ある程度癒着してしまっているのだろうか?
「ゆっくりやると辛そうだ。一気に引き抜くぞ。」
「ゃ……め……」
彼女の制止を無視して、思いっきり引っこ抜く。
「が……あ……!」
少量の血と共に引き抜いたそれはピンク色をした丸い物体だった。
「何だ?これ。卵みたいだが……」
『図鑑検索完了。不定形型ローパー種ローパーの卵と判明。完全定着前に除去したので、これ以上の侵食は無いものと推測します。』
寄生系の魔物……ねぇ。
「戻さなくていいよな?捨てるぞ。」
彼女が力なく頷く。俺はそいつを触手の塊の中に投げつけた。
べちゃべちゃと汚らしい音をたてながら卵が触手の塊へ飲み込まれていく。
「さて、先に進みますか。もうすぐ出口だからな。がんばれよ。」
俺は彼女を背負う。出口まではあと300メートル程度だ。
「お嬢ちゃん……あの人は多分もう帰って来ないよ。素直に帰ったほうがいいんじゃないか?」
心配して二人がこの場に残ってくれている。彼らはそう言うけど私はここを動くつもりはない。
「かえってくるもん……おにいちゃんつよいんだもん……」
私の言葉に二人とも困ったように顔を見合わせる。構うものか。私はここで待ち続けるんだ。
辺りに魔力がたっぷりあるから精気の補給はいらない。だからいつまででも待ち続けられる。
「ぜったい……ぜったいかえってくるもん……わたしをひとりになんてしないもん……」
その時、何かが飛来する音がして森の中にあったスプリングトラップがズタズタになる。
誰かが……森の中から歩いて来る……!
「あ〜やれやれ……ようやく抜けたか。」
また飛ばされてはかなわないので、遠巻きからオクスタンライフルで例のトラップを破壊する。
草むらの向こうから息を呑む気配がした。
光が弱いとはいえ、久々に浴びる光が体に気持ちいい。
「よう、帰ってきたぜ。全くひどい目にあったよ。ホント。」
へたり込んでいるアニスちゃんに帰還を告げる。
彼女の瞳から、大粒の涙が零れた。
「おにいちゃん!かえってきた……かえってきてくれたよぉ……」
俺に抱きついてくるアニスちゃん。心細い思いをさせちまったかな……。
「まさかスプリングトラップに飛ばされて無事に戻ってくる人がいたなんてねぇ……君何者だい?勇者か何か?」
先程のカップルが幽霊でも見るような目で俺を見つめている。
「別に。ただの冒険者さ。悪いな、さっきのハンカチどこかに落としちまった。」
「いや、別にいいんだけどさ。」
俺が頭を掻きながら告げると、あっけに取られたような顔をする。
「そんなことより近場に湖か温泉は無いか?こいつを洗ってやりたいんだが……。」
俺は背負っている女性を指さす。薄暗くてよく見えていなかったが、彼女はいろんな液体でベトベトになっていた。
「それならここから北のほうに少し行くと温泉があったはずだけど。魔物も結構集まっているから油断していると食べられるからね?」
「了解。そうそう遅れは取らないさ。」
そう言うと俺はアニスちゃんを連れ立って北へ向かった。
あの二人は安心したように胸をなで下ろすと、ベタベタしながら森の中へ入っていった。これからお楽しみですよってか。
「やっと着いた……。」
正直人間一人をここまで背負って来るのはしんどいものがある。
記憶がない間も訓練していてくれた自分に感謝だな。
温泉には確かに様々な魔物が浸かっていた。サキュバスにオーガにワーキャットにと魔物の万国博覧会といった体だ。
何人かに一緒に入ろうと誘われたが、連れがいるからと言うとあっさり諦めてくれた。ギルドにいる連中より話がわかるってどうなのよ。
「服脱がすぞ。」
彼女の服に手をかけても特に抵抗はない。精神が壊れていたりしないよな……?
俺は彼女の服を脱がせて裸にすると、据え付けられていた木桶に湯を汲んで流してやる。
アニスちゃんが不機嫌そうだが、今は構っていられない。
「……。」
彼女はされるがままに洗われている。おとなしい分にはこちらも楽なのだが、なんとなく不気味だ。
「あんたはあの森で何をやっていたんだ?普通一人で入るような場所じゃないだろうに。」
『マスターも一人で彷徨っていた筈ですが。』
「あれは不可抗力だっての。」
俺達の言い合いにもなんの反応も示さない。
「腹は減っていないか?減っているなら体洗い終わったら何か食べに行くことにするが……。」
彼女の口が少し動く。何かを言っているようだが……。
「……か……いた……。」
「ん?何だって?」
声が小さかったので聞き返す。彼女は気力を振り絞るように何かを告げる。
「おな……か、すい……た。」
どうやら空腹は感じるらしい。生理的欲求があるということはまだ大丈夫ということだ。
俺はほっとして手を再び動かし始める。
「そうか、んじゃ後で何か食いに行くか。魔界だって人間向けの食い物ぐらいは売っているだろ。」
俺のバックパックの中の携帯食料は水の中に落ちたときに使い物にならなくなっている。
なんとか食べられるのなら細かく砕いて水で練って食べさせていたのだが……。
そう考えていると、彼女が俺の腕を掴む。
「すいた……おなか……。」
「あぁ、後でな。今は体を洗うことだけ……おぉ!?」
殆ど力なんて残っていないはずの彼女に押し倒される……というかその格好は……。
「角が……生えてきた?」
頭には捻れた小さな角が生えてきている。局部を覆うように桃色の毛が生えてきて、薄い膜に覆われた翼が腰から出てきた。臀部には、体毛と同色の尻尾。
「図鑑検索完了。悪魔型サキュバス種レッサーサキュバス。人間の女性が魔界の魔力やサキュバスの魔力により侵食され変質した魔族。変化直後は身体全体の感度が高められており、強い飢餓感に襲われます。尚、サキュバス種の食料は基本的に男性の精液です。」
あぁ、俺今から食われるのね。性的な意味で。
「お、おにいちゃん!?だいじょうぶ……ってわぁ!?」
彼女が俺のズボンをトランクスごとずり下ろして息子を露出させる。
「ちょうだい……おなか……すいた……。」
彼女の中に、俺がずぶずぶと沈み込んでいく。
うねうねと蠢く膣壁が自身にまとわりつき、恐ろしい快感を生み出している。
「あわ、あわ……きゅう……」
アニスちゃんはあまりの出来事に気絶してしまったようだ。まぁ基本的に性知識が無い状態だからなぁ……免疫も少ないのかも。
「ラプラス、ICEのセキュリティ強度は大丈夫か?」
『問題ありません。レッサーサキュバス程度の魔力ならば侵食は防げます。』
そいつはよかった。
「そんなに欲しいならくれてやる。腹一杯になるまで吸えばいいさ。」
俺は手を伸ばして彼女の頬を撫でてやる。彼女はその手にそっと自分の手を重ねて……。
「うん……いただきます……ぅん……」
体を前後に動かし始める。流石にサキュバス種とだけあって中の具合はかなりいい。
というか気を緩めるとあっというまに爆発しそうだ。
周りではニヤニヤしながら魔物達がこちらの様子を伺っている。
チクチクと刺さる目線が居心地悪い……。
「はぁ……はぁ……♪おいし、んん……」
自分の手がお留守だったので、彼女の胸を揉みこみ、結合部のクリトリスを弄ってやる。
「ふぁぁぁぁああ!?きもち……ぁぁぁああああ!」
それだけでビクビクと達してしまったようだ。感度が強いってのは本当のことのようだ。
「刺激が強すぎてうまく動けないか?」
彼女に問いかけるとコクコクと頷いている。俺は彼女を抱え上げて仰向けに寝かせてやる。
「俺から動こう。そうすれば上手く動けなくても大丈夫だ。」
そう言うと俺はゆっくりとピストンを始める。膣内を前後するたびに強烈な快感が全身を駆けまわる。
「あぁ、そういや我慢しなくてもいいんだっけ。早く欲しいよな?」
「ほしいぃ……ちょうだ……はぅ♪」
その言葉を確認すると、出し入れする速度を早める。
「うぁあん!あぁ、はぁ!つよ……あぁ!」
一突きする度に絶頂に達しているのか、中は痙攣しっぱなしだ。膣壁は常にざわざわと蠢き、精液を催促してくる。
「っく……出すぞ……っ!」
その快感に逆らわずに、俺は彼女の中に白濁を流しこんでいく。
もの凄い速度で吸収を行っているのか、大量に出たにも関わらず一滴もこぼれない。
「っく……はぁ……結構出たな……。」
「おいしぃ……おいしいよぅ……」
ようやく味わえたご馳走に、彼女は涙を流しながら歓喜する。
「ほらほら、泣かない。これ一回って訳じゃないんだから。」
現におかわりをねだるように蠢く彼女の膣内によって、既に俺のモノは硬さを取り戻していた。
「っとその前にだ。」
俺は一回彼女の中からモノを抜き去ると、アニスちゃんを近くの岩にもたせ掛けるように座らせる。
「流石に気絶したまま放置はマズいからな。」
俺は彼女の頭を撫でて、再びモノを彼女の中に埋没させる。
「くぅん……もっとちょうだい……」
再び腰を揺り動かし始めると、すぐに彼女は甘い声を上げ始める。
というか、視界の端で魔物達が自慰大会始めちゃっているんですけど。
「(無視だ、無視。気にしたら負けだ。)」
「っぐ……これで……五回目!」
「はぁぁぁ……おいし……♪」
我ながらよく出るものだ。彼女の表情からは空腹からくる焦燥が薄れ、至福に満ちた顔をしている。
「満足したか?」
「本当はもっと欲しいんだけれど……貴方も疲れているでしょ?」
まぁ実際その通りなのだが。
触手の群れとバトルを繰り広げながら森林強行軍の次は人一人背負ってのトレッキングだ。疲れない訳がない。
「そうだなぁ。どうせ温泉もあるし、服を乾かすついでに入っていくか。疲れも多少は取れるだろ。」
俺はアニスちゃんの隣に置いてあったバックパックからタオルを取り出す。
「アニスちゃ〜ん、いつまで寝ているんですか〜?」
彼女の頬をペチペチと叩いてあげると、うっすらと目を開ける。
「ふぁ……あれ?ここどこ?」
どうやら温泉に来てからに関する記憶がすっぽり抜け落ちているらしい。恐るべし、アリス。
「温泉。折角だから入っていこう。」
俺は2本目のタオルを彼女に渡すと、温泉の中へ入っていく。同じようにさっきまでレッサーサキュバスだった女性も入ってくる。俺の精を吸ったからか、彼女の体毛は抜け落ち始めていた。
「もうすぐ完全にサキュバスに変わるのかね。」
彼女は俯いている。
「私……本当に魔物になっちゃうんだ……。」
そういえば彼女は教会所属の騎士だったな。
「そのうちそれも気にならなくなるさ。それに、別に魔物が悪だっていうのが誤解だってのがわかったろ?」
俺は周りを見渡す。先程まで自慰大会を開いていた魔物達は……
「こんなアホが教会が考えているような害悪な訳がない。」
温泉の中に浸かりすぎてのぼせて浮かんでいた。仕方無しに彼女たちを温泉の外へと上げてやる。
彼女の所に戻ると、アニスちゃんが彼女の隣に浸かっていた。
「きもちいいねぇ……」
「そうね……」
気持よさそうにくつろぐアニスちゃんを見て、彼女は頬をゆるめている。
「その子を見ても、まだ魔物は邪悪なもんだなんて思うか?」
「そうよね……本当は気付いていたのかも。教会の正義は歪められているって。」
彼女はお湯を掬って顔を洗う。
「魔物に殺されたって話が山ほどあったけど……どれも私は釈然としなかった。実際に滅ぼされた村を視察に行った事もある。でも、魔物がやったって痕跡は全く無くて……。」
彼女は自分の手を眺めている。
「そんな時かな。私の口を封じるためなのか、魔界に行ってあの森を調べてこいって言われて。私は疑問を抱きながらもあそこに行ったわ。誰かを連れて行く事を許されなかったのも、私だけを行かせたかっただけなのかも。」
それは、彼女の独白。自分の信じていた正義が歪められていた事への、嘆き。
「馬鹿みたい……騎士団に入った頃の私ってね、愚直なまでに正義に憧れていた。邪悪な魔物を根絶やしにするんだってさ。でも……こうなるとどっちが悪なのかわからないや。」
彼女は、のぼせて地面の上に寝かされている魔物達を眺めて言う。
「彼女達ってさ。人間と殆ど変わらないんだね。少し人間よりも色恋沙汰への興味が強いってだけで。」
そして、目に手を当てて天を仰ぐ。
「それを私は……この手で殺していたんだ……。ただ少しだけ人間と違うってだけで……!」
彼女が手を当てた隙間から、一筋の雫が流れてくる。
「馬鹿だよ……本当に。何も見えていなかったんだ……!何も見ようとしていなかったんだ……!」
俺はそれを遮り、言ってやる。
これ以上彼女が自分を傷つける所を見ていたくない。
「でも、お前は気付くことが出来た。魔物達が、人間となんら変わらないんだってことに。気付けたのならば、それはまだ手遅れじゃない。これから償っていけばいいさ。」
「……そうだよね……ありがとう。私、ここからやり直してみる。それで、本当の正義を見つけてみたい。」
「そうか。頑張りな。」
「う〜……」
ほっぺたを普段の3割増くらいで膨らましているアニスちゃんに気がついたのは、ある程度話がついてからだった。
「おにいちゃん……またおんなのひとくどいてる……」
「別に口説いているつもりはないんだけどな……」
頬を掻いて否定してみるが、やっていることは言われてみれば確かに口説き文句のような気がする。
俺を取られないようにするためなのか、彼女は俺の足の間に割り込んで背中をもたせかけてきた。
「そうね。言葉には気をつけたほうがいいかも。」
あんたまで言うか。
「心が弱っている女にね、そんな優しい言葉をかけちゃだめよ?コロって行っちゃうんだから。」
そう言うと彼女は頭を俺の肩に乗せてきた。
「お、おい?何のつもりだ……っていてぇ!」
やきもちを焼いたのか、アニスちゃんが俺の肩に噛み付いてくる。
血が出る程ではないものの、これは地味に痛い。
「う〜……!」
「ほら、やきもち焼かれちゃった♪」
あんたのせいだろうが。
「大丈夫よ、お嬢さん。私は別にあなたの大切な人を取るつもりはないから。」
「わたしこどもじゃないもん……」
彼女は困った顔をしているが、俺はさらに困らせる。
「事実子供じゃないしなぁ……これでもう25だぜ?」
アニスちゃんの頭を撫でてやりながら言ってやる。彼女は、目を白黒させて今の言葉を反芻しているようだ。
「……本当に?」
「本当だ。」
沈黙。彼女はじっとアニスちゃんを見ている。そして……
「反則でしょ!?私より年上なのになんでそんなに肌すべすべなの!?ものすごく可愛いしロリコンの気がなさそうな男でも落ちそうなのになんで私より年上なの!?」
錯乱し始めた。
「だってこういう魔物だしなぁ。完璧な少女なんて言われているあたりアリスって種族はいろんな奴の心を鷲掴みにするぜ?ロリコン非ロリコン問わず。」
「私も同じようになれないの!?今すぐにでも何か儀式をすればアリスにとか……」
「これは先天的な突然変異だそうだ。ぶっちゃけ無理。」
ガックリと肩を落とす彼女。よほど悔しかったのだろうか。
「まぁ、あれだ。サキュバスでも綺麗にはなれるぞ?それこそ人間なんかじゃ追いつかないぐらいに。」
「だといいけど……はぁ、羨ましすぎる……。」
どんだけ羨ましかったんだよ。
「本当に間に合わせね……これ」
俺は彼女に俺が着ていたジャケットを着せて、ソーイングセットで縫い合わせたタオルをスカートのように履かせていた。
「街で何か買うまでは我慢だな。ちぐはぐだけどしゃーないさ。」
彼女の体毛は殆ど無くなっており、局部を隠す役割を失っていた。
「でも何だろう。この開放感!気持よくて仕方が無いわ!」
それは単にパンツを履いていないからだろう。
俺達は連れ立ってナハトへと向かう。向こうについたら……予算が許す限りの服を買ってあげよう。
〜夜魔の街 ナハト 『宵闇服飾店』〜
「しかし……まともな服が一着も無いな……。」
クイーンボンテージ、タイトブラ&ローレグセット。
紐水着なんて誰が着るんだよ。
「意外とお洒落だと思うんだけどな、コレ。」
マイクロビキニの上下セットをひらひらさせながら自分に当てている彼女。
だんだんと頭の中がサキュバスっぽくなってきたな、この人。
アニスちゃんはどういう目的の服なのかわからず、首をかしげている。
「これほとんどきるぶぶんがないよ〜?」
体に巻き付けるらしき紐とブーメランパンツのセットが掛かっているハンガーを揺らしている。
「チューブトップに皮のホットパンツ……まぁこの辺が妥当か。」
彼女の方は下着を持ってきたようだ。彼女と共にカウンターへ向かう。
「金貨3枚と銀貨20枚です」
「ぶふぅ!?」
地味に高かった!しかし、女性モノの服から考えたら安い方なのだろうか……。
「一応貸しな……。返せるようになったらモイライの冒険者ギルドへ返しに来い。」
「なんだ、奢りじゃないの。」
無茶言うな。
「それじゃ、俺達は帰るよ。」
店を出て旅の館前まで来ると、彼女と別れる事にする。流石に旅の館まで使わせる事はできないしな。
「あ、名前。お金返すとしても知らなかったら返せないでしょ?」
そりゃそうだ。
「アルテアだ。アルテア=ブレイナー」
「ティスよ。ティス=マウザー」
手を出しあって握手。恐らくこの後も会うことになるかも知れない。少なくとも彼女が貸しを返しに来る1回は。
「縁があったらまた会いましょ。お金を返す時だけじゃなく、ね。」
「その時は敵同士じゃなけりゃいいな。」
俺が茶化して答える。
「あら、例え敵同士だったとしても一回ぐらいであれば寝返るわよ?貸しは一つじゃないんだから。」
そういや触手からも助けているんだったな。
「期待しておくぜ?裏切ったら後ろからバンだ。」
指で銃を作り、撃つ真似をする。
「後ろから突かれるのも悪くないかもね。」
クスクスと笑うティス。もうそこに堅物だったであろうかつての面影は無い。
「じゃあな。縁があったら、また。」
彼女に背中を向け、手を振る。
「えぇ、またどこかで。」
彼女も、俺に背を向けて歩き始める。二人の行く末が交錯する日はいつ来るのだろうか。
<がぶ>
手に走る鋭い痛み。見てみると、アニスちゃんが俺の手に噛み付いていた。
「う〜……」
「あぁ、悪い悪い。やきもち焼かせちゃったな。」
彼女の口から手を外して頭を撫でてやる。
「ア・ラ・スイーツのいちごぱふぇ……」
「わかったよ……帰ったら食べに行こう。」
「うん♪」
イチゴパフェは……銀貨20枚もしました……。
地味に財布が痛いとです……。アルテアです……。アルテアです……。
11/07/09 09:39更新 / テラー
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