〜解析依頼〜

仕事が終わり、体を清めた俺は魔術師ギルドへと赴いた。
要件は言うまでもなく例のカプセルの事だ。
宛先が分からない以上無理やり開けるしか無い。
物理的な鍵で開く訳ではないのでエルファ辺りに頼んで無理やり開けてもらおう……という心算だ。
ちなみにラプラスは自室で留守番だ。今回は特に戦闘になることはないだろうしな。

「よう、エルファはいるか？」
「いらっしゃいませ、アルテアさん。エルファ様なら執務室におります。」
「りょーかい。」

エルファが気を利かせてくれているのか、ここでは基本顔パスだ。
いつでも来ていいと言われているしな。
たまにどこかから熱っぽい目で見られるのは未だに慣れないが。



〜魔術師ギルド　ギルドマスター執務室〜

「エルファ〜。いるか〜？」

ドアをノックして在室を確かめる。
いきなり開けるとかいうヘマはしないぜ？

＜兄様！？ちょ、ちょっと待つのじゃ！＞

中からバタバタと音が聞こえてくる。
そこまで慌てて片付けなくても大して変わらんだろうに。

「お、お待たせなのじゃ！」
「そんな息切らして何してたんだよ。」

彼女は肩で息をしながらドアを開けてくれた。

「散らかった書面を片付けていただけなのじゃ。みっともない所を見られたくないから急いでいただけなのじゃ！」

中に入ると普段は閉まっている窓が開いていた。

「まぁ何をしていたかは敢えて聞かない。それよりお前に解析して欲しい物があってな。」

俺はバックパックから例のカプセルを取り出す。

「こいつを開けて欲しいんだ。昨日受けた依頼の途中で見つけてな。」
「これは……マトラかの？随分と錆びておるのぉ……。」

彼女はカプセルを受け取るとまじまじと観察し始めた。
コツコツと叩いたり何か詠唱のような事をしてみたりと細々としたことを調べているようだ。

「封印の強度から言ってかなりの機密情報が入っているようじゃの……少なくとも恋文などというロマンチックな物では無いことは確かじゃ。」
「ただの誘拐犯のアジトにねぇ……偶然拾った物なんかな。」

機密文書を守っている割には練度が大したことが無い……ということはやはり拾い物なのだろう。

「少なくとも解析には１ヶ月近く掛かるかの……それまではこちらで預かっておくわい。」
「あぁ、開けられたら連絡頼むわ。」

用事は終わった。後は茶でも……と思ったが何を盛られるかわかったもんじゃない。さっさと帰るのが吉だろう。

「そんじゃ、任せた……ぜ？」

裾が何かに掴まれる。いや、何に掴まれたのかは判っているんだけどな。

「エルファ、俺はもう用事は済んだのだが。」
「兄様、まだサバトに入る気は起きぬかの？」
またか。

「生憎と何かに縛られるのは好きじゃなくてね。価値観を押し付けられるのも、だ。」
「それでは仕方がないのぉ……」

そう言うと彼女はあっさりと手を離した。もっと粘ると思っていたんだが……

「ま、兄様の周囲にはあの二人がベッタリ付いておるからの。ワシも合わせればすぐに堕ちるじゃろ。」
「テメェ諦める気ねぇだろ！？」

ロリコンなんぞに落とされてたまるか！俺はロリも好きというボーダーラインを超える気はないぞ！？

「抵抗出来るのも今のうちじゃ……未成熟の体の魅力、じきに虜にしてみせようぞ……」
「ならないからな！？絶対にならないからな！？」

こいつらがいる限り心の平穏は無い。そんな気がした。



〜禁術と呼ばれし術〜

ギルドのロビーで俺はコーヒーを片手に新聞を読んでいた。
足の間にはニータがちょこんと座って小説を呼んでいる。

「何を読んでいるんだ？」

なんとなく気になって尋ねてみる。普段イタズラばかりしているだけにそっち方面の物を読んでいそうだ。

「恋愛小説〜。望まれないカップルが逃避行する話〜。」
「へぇ……意外だな。もう少し笑いが起きそうな物を読んでいると思ったんだが。」
「アタシの事を何だと思ってるのさ……別にそういうのは嫌いじゃないけど私だって乙女だよ？ロマンチックな話も読みたくなるって。」
「ドM乙女（笑）」
「それを言うなー！」

尻尾でぺしぺしと顔をひっぱたいてくる。
大して痛くないあたりじゃれているだけなのだろう。

「それって最後の方はどうなるんだ？」
「言っちゃってもいいの？興味あるなら最初から読んだほうがよくない？」
「別にそこまでする気は起きないからな。要点だけ。」

おもしろいのにーとかブツブツ言いながらもニータは解説してくれた。

あるヴァンパイアと反魔物派の都市に住む貴族の青年がひょんなことから恋に落ちてしまった。
当然青年の親族は大反対するし、ヴァンパイアの方は彼に会いたいのにガッチリとガードを固められているものだからまともに逢うことが出来ない。
最終的にヴァンパイアの彼女は無理矢理青年を連れ出して逃避行を始めることになる。
彼の親族は激怒し、ヴァンパイアと青年を始末するために何度も刺客を送ってくる。
逃げるのに疲れ果てた二人は、とある禁術によって自らの生命を断つ事になる。
数年後、辺境の村でヴァンパイアの女の子と人間の男の子が同時に生まれた。
二人の胸にはそれぞれ、死んだ二人の名前が痣になって残っていたという。
二人はまるで運命の糸にでも結ばれているかのように惹かれ合い、二人仲良く何時までも暮らしたという。

「そんな話だよ。」
「変な話もあったもんだな……」
「どこがよ〜？」

そう、明らかにおかしな部分がある。

『ヴァンパイアがそう簡単に死ぬとは思えないのですが。』
「………………あ“」



「まぁ読み物としては良い線行っているかもな。最終的に幸せになれましたってのは俺も嫌いじゃない。」
「でしょ〜？結構好きなんだ、これ。」

そしてふと疑問が浮かび上がってくる。

「その小説の中の禁術って実際には……無いよな。やっぱり。」
「ううん、実際にあるみたいだよ。実話が元になっているんだって。」

時を超えて二人を結びつける魔術、か。

「表面上だと結構夢のある魔術みたいだよな。」
「それがね、何人も失敗して結果的に集団自殺みたいになったから禁術になったんだってさ。今じゃ知る人は殆どいないみたい。」

ま、そう簡単に人生はリセットできないという事か。



〜今日から毎日毛を刈ろうぜ！〜

〜クエスト開始〜
―ワーシープの毛刈り手伝い―
『これから来る夏に向けてワーシープ達の毛を刈ってしまいたいんだが、ご存知のとおり彼女達の毛を刈っていると猛烈に眠くなるんだ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
眠気に負けないで一緒に毛を刈ってくれる人がいたら来てくれないかな？　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　バザー牧場経営者　ケンタ』
「ワーシープってあの羊の魔物だよな？」
「はい、毛に安眠効果があるアレです。」

確かに仕事中に強制居眠りでは仕事にならないだろう。

「行くのであれば眠気対策はしていかないとまともに仕事になりませんよ？」
「ふむ……何かあったかな？」
『それに関しては私に案があります。』

受けるかどうか思案しているとラプラスが語りかけてきた。

「眠くならない様な物でもあるのか？」
『肯定。詳しくは現地で説明しましょう。』



〜バザー牧場〜
モイライから数キロ離れた場所、うたたねの草原近くにその牧場はあった。

「おぉ、来てくれたか。毛を刈ろうにも眠すぎて作業が捗らなくて困っていたんだ。眠気対策の方はバッチリかい？」
「おそらくは大丈夫だと思います。相棒に何かしら案があるみたいで。」

俺はコツコツと鵺を叩く。リビングアイテムの一種だと思ったのか、彼は納得して毛刈り用のハサミを渡してきた。



「で、案ってのは何だ？」

俺は近くでぼーっとしていたワーシープを手招きしながらラプラスに尋ねる。

『まずはICEで眠りの魔力が防げるかどうかを試してみましょう。駄目であれば別の物を使います。』

ふわふわと近寄ってきたワーシープをごろんと寝かせて毛にハサミを入れ始める。
確かにちと伸び過ぎだなこりゃ。

「確かに魔力ならICEで防げそうだが……そう簡単に……行く……」

ヤバい、眠くなってきた。

『意識レベル低下。ICEによる防御効果は無いようですね。』
「みたいだなぁ……んで、次は……？」

目の前にウィンドウが開いて使用承諾が求められた。

「仮想薬物……『ヒートフェアリーVer1.3』……？これ使えば眠気は……なぁ〜……」

疑問を持っている暇はないか。とりあえず使用の許可を出す。
すると、頭の中で何かが弾けた。

「キ、タァァァァァァアアアアアア！」

アドレナリンが過剰放出され、極度の興奮状態に。
それに何だか体中の血が燃えてくる。

「できるできる！やる気があれば眠気なんて吹っ飛ぶよ！」

猛スピードで彼女の毛を刈っていく。頭の中がハイになりすぎておかしくなりそうだ。

「ふぁ〜……！？」

彼女がどうにもびっくりしているようだが関係ない。全身丸刈りだ。

「終わったよ！次に行ってみよう！」





〜青年毛刈り中〜





「これでラスト！おつかれさま！」

最後のワーシープの毛を狩り終わった。
毛を集めた籠は３０個はあるだろうか。

『お疲れさまでした。仮想薬物『ヒートフェアリーVer1.3』の機能を停止します。』

仮想薬物が切れた途端に全身に疲労が襲いかかる。
自覚していないだけでこれだけ体力を使っていたんだな……

「やぁ、お疲れ様。彼女たちの毛は刈……おわ……」

そこにケンタ氏がやってきた。
刈り終わったワーシープ達を見るやいなや顔を真っ青にする。

「あん？どうかした……の……か……？」

なんだかワーシープ達がギラギラとした目でこちらを見ている気がする。

「き、君……彼女達の毛を……全部刈っちゃったのかい……？」
「あ、あぁ……何かマズかったか？」

なんだかじりじりと包囲の輪が狭まってきているような……

『ワーシープは全身の毛が無くなると眠りの魔法の効果が無くなり、魔物本来の好色な性質が前面に押し出されます。』
「つまり……？」

ケンタ氏と背中合わせで包囲を始めた彼女達を眺める。

『さっさと逃げないと食べられます。性的な意味で。』
「無理だろ！」



結局、ケンタ氏と一緒に彼女達が疲れ果てるまでエクストリーム鬼ごっこをするハメになったとさ。

■作者メッセージ
〜〜後書き

今回はサンライズハーバー編のアフターストーリー＋ショートショートを二つです。
微妙にKCと絡ませてみたり……

毎度おなじみ感想返信。２０話の返信はここで。

＞＞ネームレスさん
いつも感想ありがとうございます。
ヘタをすると主人公TUEEEE展開になってしまいますが、楽しんでいただけたようでほっとしています。
そして、彼女はただのエロだけじゃない！……はず。

＞＞銀さん
感想有難うございます。基本的に彼女は締め＆オチ担当なのでいつもいい所を持って行きますｗ
「いつもの俺と今回の俺。俺の本質がどっちかは……まぁ想像に任せるよ。」

絶賛ロリコン侵食中。あくまでもノーマルだと言い張り続けるアルテア君。
さて、完全に折れるのはいつの日でしょうか。

ヒートフェアリー、そう、某熱血妖精です。
もっと熱くなれよぉ！

公開するおまけが短かった場合即興で何個かショートショートを書き加えています。
この二本も実は最初書いていなかった……。

次回は次の土曜日、チャルニメインのお話。と言っても過去の暗い部分に触れるとかそういう意味ではアリマセン。
では次回をお楽しみに。