第十九話〜囮〜
〜???〜
朝の訓練の後の朝食の席。
『そういやアルテア。おめぇいつまでその喋り方をしているつもりだ?』
おやっさんがそう切り出してきた。
『喋り方と言いますと……これではいけませんか?』
『傭兵がいつまでもそんな喋り方してちゃナメられるぜ?もっとラフな感じに喋ってみろよ』
どうしよう。姉さんには敬語を使えと言われているし、おやっさんには砕けた感じで話せと言われたし。
『へぇ、坊主に話し方を教えようってんですか。面白そうっすね。』
『どうせだからもっとワイルドな感じに仕立ててみない?』
周りのメンバーもどんどん集まってくる……
『あ、あの……お手柔らかに……』
……………………
………………
…………
……
『あぁ、アルテア。資料の整理があるんだが手伝ってもらえるか?』
『おう!わかったぜ姐さん!』
俺が喋った言葉を聞いたとたん姉さんがどこかへとかけ出していく
しばらくすると……
<少佐ぁぁぁぁあああああ!アルテアになんて言葉遣いさせているんですか!>
<いつまでもガキみたいな喋り方させておくほうが問題だろうが。イメチェンだよイメチェン。>
<あんな汚い喋り方になったら愛でられないじゃありませんか!>
<ちょうどいい機会だ。少しは弟離れしたらどうだ?>
<冗談じゃありませんよ!私のアルテアがぁぁぁぁああああ!>
なんて言い争いが聞こえてきた。
結局、俺の言葉遣いは姉さんに一夜漬けで直された。
しかし、一人称の俺と、ある程度男っぽい言葉遣いは治らなかったとさ。
〜AM5:00〜
<ぐっちゃぐっちゃ>
「んぬ……ぁ……」
うっすらと日が登り始める頃。
どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる中俺は目を覚ました。
誰が立てているのか粘ついた水音が聞こえてくる。
<ずちゅっぐちゅっ>
むずむずして気持ちいい。
まるで下半身がぬるま湯にでも浸かっているかのような……。
「ふぁ……ん?」
ぼやけた視界が鮮明になってくると……。
「はぁっ、はぁっ♪起きたぁ?」
ピスケスが俺の上に跨っていた。俺の息子を咥え込んで。
『現在時刻AM5:00。おはようございますマスター。今日も爽やかな朝ですね。』
皮肉かそれは。
『鍵は私が彼女に渡しておきました。余計な事でしたか?』
「自覚しているならそれは間違いなく余計な事だろうよ」
〜カフェレストラン『潮騒の幸』〜
時間帯は早朝。
漁に出るのには遅く、一般人が起きだすには早い時間帯。
テラス席に座るのは俺達二人だけだ。
ちなみにこの店はよく漁に出る前の漁師にも利用されているらしく、かなり早い時間でも開いている。
オススメはエビフリッターのパニーニだそうな。
「全く……心臓に悪いじゃないか。なぜそうまでしてくっつこうとするんだ?」
「そうそう、それなんだけどさ、既成事実作ればもう逃げることができないんじゃない?ってことで美味しくいただきました♪」
こいつから逃げきれるか正直不安になってきた。
「ところでさ。」
「ん〜?」
出てきた海藻サラダをつつきながら彼女が聞いてくる。多分費用は俺持ちだ。
「たまにあっくんの近くから女の人の声が聞こえてくるんだけどあれって何?」
今頃気づいたのか。
『初めまして。マスターの戦闘および作戦行動のサポートを行っている自己推論進化型戦術サポートAI『ラプラス』と申します。』
「うわ!?何?どこから聞こえてくるの?」
辺りをキョロキョロ見回すが、女性は彼女しかいない。
「こいつからだよ。この中に……あー、魂だけ入っているようなもんだ。」
椅子に立て掛けた鵺をコツコツ叩く。間違ってはいないよな。うん。
「へぇ……ゴーレムか何かの一種?」
「似たようなもんだ。」
それ以降彼女は大人しく朝食を食べていてくれた。
コーヒーもギルドのよりうまかったなぁ……。
〜縁結びの入江〜
「あれ?だれかいるね……。」
岩陰から覗き見ると、一人の男が岩の近くで何かをしていた。
「望遠モード。」
『了解。望遠モード起動。』
ウィンドウが開き、見ている景色が拡大されて表示される。
「あれは……縄で自分の足を岩に結びつけている……?」
「縁結びってそういう意味じゃないんだけどなぁ……。」
しばらくすると、作業を終えた男は岩の上に座った。
「あれって何しているんだろ?」
「別に何をしている訳でもないだろ。ただ、待っているのかもしれんがね。」
時間が経つにつれて海面が上昇していき、岩に波が被る程度になってきた。
「ねぇ、あの人あのままだと溺れちゃうよ?あそこ潮が満ちると結構深いし。」
「あぁ、そうだな。」
俺はただ、じっとその時を待つ。
さらに時は経ち、男が立ち上がった胸元あたりまで水が迫ってくる。
男は波に揉まれながらもその場から動く気配を見せない。
「あのままじゃ本当に溺れちゃうよ!助けなくていいの!?」
「それが狙いだしな」
「……え?」
信じられないような物を見る目で俺を見てくる彼女。
「ラプラス、M700を展開。ついでに偏光装備を付けてくれ。海中も見たい。」
『了解。M700展開。さらに望遠機能に偏光機能をプラスします』
砲身が4つに分れ、長大なライフルが中から現れる。さらに鵺の後部が展開してストックが現れ、グリップが回転して格納されてトリガーのみになる。あっという間にスナイパーライフルの完成だ。
『スコープは銃身上部を覗き込むとツールで直接表示されます。尚、弾道制御とスポッターはこちらで行います。』
「頼む。」
俺は砂浜に寝そべると、銃身を男に向けてスコープを展開。照準を男の肩を掠めるあたりに定める。
『距離は200メートル程度。この距離であればコリオリ力は無視できます。ただし、海面との接触による弾道のズレと、対象の動きの分は補正しなければなりません。』
「当てられるか?」
『問題ありません。撃つ物がネズミの頭だったとしても外さないでしょう。』
俺もそれなりに狙撃はできるが、こいつの補正付きの狙撃だと全く外す気がしない。
煙の向こうだろうが砂嵐の中だろうが百発百中だ。
「信じられない……あたしは助けに行くからね!」
「勝手にしろ。」
構えたままそっけなく言ってやる。どの道やることに変わりはない。
彼女は器用に跳ねながら海へ飛び込むと男に向かって猛然と泳ぎ始めた。
『動体反応を確認、数1。10時方向距離300』
照準を固定したまま、横目で確認する。シービショップだ。
「さぁ……本性を表せクソ野郎……」
信じられなかった。ぶっきらぼうだったとしても、優しい人だと思っていた。
色々酷い事もされたけど、それは私が悪かったからだ。
でも、目の前で自殺しようとしている人を見殺しにするなんて……。
視界の端に、シービショップさんが泳いでくるのが見える。同じく彼を助けようとしているのだろう。
もう、あっくんの事は忘れよう。もし、あのシービショップさんが彼を助けても恨みっこなし。私が助けたら……その場で儀式をしてもらうかな。そして海で一緒にくらそう。
でも距離的にシービショップさんの方が速いかな……残念だけど仕方が無いか。
シービショップさんが彼に近づいた。手を伸ばしたその時、彼の肩に血煙が上がった。
『命中。対象の無力化を確認。所持していた武器を取り落としました』
ターゲットの肩の浅い部分を弾丸が吹き飛ばした。
殺しちゃ意味が無いからな。
「ま、こんなもんだろ」
俺は波打ち際まで歩いていき、彼女へ叫んだ。
「おーい!その男をこっちまで連れてきてくれ!ついでにそいつの足元に落ちている針も一緒にな!」
あっくんが叫んでいる内容は、すぐには理解できなかった。針?そんなものあるの?
男の人の足元を見ると、確かに短い針が落ちている。
縛られているロープは、引けば簡単に外れた。
「どういうことなのでしょう……?」
シービショップさんもどういう状況なのかよくわからないみたいだ。
「よう、お疲れ」
俺は男を運んできた彼女に労いの言葉を掛ける。
男は傷ついた肩を庇っていた。
「どういう事なの?それにこの針は何?」
彼女は針をこちらへ渡してくる。
「多分麻痺系の毒針か何かだろ。そうだよな?誘拐犯君。」
「クソッ!」
何とか抵抗しようとするが力が入らないみたいだ。
「誘拐って……どういう事ですか?」
シービショップは理解が追いつかないという体で聞いてくる。
「こいつらは溺れている要救助者を装って毒針であんたらシービショップを刺し、動けないところを連れ去ろうって腹だったんだろう。」
俺はさらに追い打ちをかける。
「シービショップってのは一所に留まっていないらしいからな。よくシービショップが立ち寄るこの入江に目をつけたんだろう。おまけに主な生息地が無いということは稀少価値も高いって事だ。大方捕まえたシービショップ達は好事家に高値で売り捌くつもりだったんだろ」
愕然とする二人。苦々しげに顔を歪める男。
「コイツの失敗は、人魚が二人も寄ってきて焦ったって事だろうな。当然一度に刺せるのは一人までだ。片方を刺している間に片方に逃げられ、手口がバレちまう。焦って早めに針を取り出すのがよく見えたよ」
「じゃあ……あたしが助けに行くのまで計算して……?」
「いや、それは計算外だったがな。」
俺は男の襟を掴み上げ、物陰まで引きずって行く。
「その人を……どうするんですか?」
不安そうに訊いてくるシービショップ。
「ん?拷問。見ないほうがいい」
止める間も無く、俺は男を物陰へと引きずり込んだ。
俺は持っていたロープで男を縛り上げると、地面に転がす。
「さて、俺はこれからお前を拷問するわけだが……、最初に言っておく。お前らのアジトの場所は大体見当が付いている」
もちろん嘘だ。
「だからお前が死のうが死ぬまいが大して影響しないって事を頭に入れとけよ」
男は黙り込んだままだ。
「ラプラス、パラケルスス展開」
『了解。パラケルスス展開』
俺の右手が淡い光に包まれると、応急救護用マニュピレーターが展開される。
その親指を男の首に押し付け、無痛注射<シリジェット>で、ある薬品を男に注入する。
「今、お前に打ち込んだのは5分もすれば全身に回って全身麻痺を起こし、心臓麻痺で死に至る毒薬だ。もし、お前らのアジトを吐くなら解毒剤を打ってやってもいいが……まぁ別にいらないよな?大体の場所は判っているんだし、お前が死んでも俺は痛くも痒くもない」
あくまで冷徹に死刑宣告。男は真っ青になる。
「ちなみに、だ。この毒薬、注射するごとに1分効きが早まる」
さらに親指を押し付け、薬品を注入してやる。
「これで、あと4分、いや4分もないかな?さっさと吐かないと死んじまうぜ?」
「吐く!吐くから早く解毒剤をくれぇ!」
音を上げ始めるが、構わずもう一度注射。
「ほら、これであと3分もないぞ。急げ急げ」
ガタガタと震える男。
「この入江の西に洞窟がある!そこが入り口だ!」
もう一度注射。
「これであと2分。いや、1分半ぐらいかな?別に入り口があるってだけじゃないだろう」
「言う!言うから!そこで合図をすれば洞窟の向こう側の仲間が仕掛けを作動して水が抜ける!あとは向こう側へ行くだけだ!頼む!解毒剤を!」
「あっそ。ありがと」
もう一度首筋に押し当てる。一瞬男がホッとした表情をするが、
「あぁ、別に解毒剤を打ったわけじゃないぞ。あと20秒ぐらいな」
一気に表情が凍る。
「待て!話が違うぞ!早く!早く解毒剤を!」
男が痙攣を引き起こし始め、口から泡を吹く。
「あぁ、そうそう。お前に打ち込んだ薬品の正体だけどな。」
ビクビクと引きつけを起こす男に言い放つ。
「ブドウ糖だ。点滴なんかにも入っている糖分の一種だな。無論毒じゃない」
「たすけ……たすけ……へ?」
ピタっと痙攣が止まる。プラシーボ効果って恐ろしい。
俺は男を残すとその場を立ち去った。
「あっくんって案外エグい事するね……。」
「でも効果的だろ?生皮剥ぐよりこっちのほうが俺の体力的にも精神的にも楽だし」
物陰から見ていたのだろう。彼女は若干引き気味だ。
「あの……彼はどうなったんですか?」
こちらは怖くて見ることが出来なかったようだ。
死んでないと言ってやると、安堵した表情になった。
「あんた人が良すぎるだろ。あんたを誘拐してどこかに売り飛ばそうとした連中なんだぞ?」
「それでも……誰かが死んでしまうのは嫌ですから……。」
この人の良さを利用されたんだろうな……。
「とにかくアジトの場所は判った。お前らは先に帰ってろ」
俺が歩き出すと……
「……何で付いて来る。」
「いやぁ、乗りかかった船だし。」
「私としましても仲間が捕まっていますから。」
こいつらは……。
『説得は不可能。それに彼女たちを連れて行く事は有利に働きます』
「あ、そうか……入り口の仕掛けか」
結局合図というものを聞きそびれてしまっていた。
「ね?きっと役に立つからさ」
「私も結構強いんですよ?海を泳ぎ回る私たちには危険がつき物ですから」
どの道引きそうにもない。
「危なくなりそうだったらさっさと逃げろよ?海中ならともかく陸上だとお前らを庇いながら戦う自信がない」
「りょうか〜い♪」
「わかりました」
俺達は、入江の西へと歩き始めた。目指すは誘拐犯共のアジトだ。
「そういやあんた、名前は?」
アジトへ移動する際、シービショップの名前を知らない事に気付く。
「私ですか?私はサフィアと言います」
サフィア。サファイアか。
おでこの上から一房飛び出た髪の毛が特徴的だ。
「あたしも言ってなかったっけ。あたしは―」
「ピスケスだろ。依頼書を見てわかっている」
「セリフ取らないでよ〜!」
サフィアがクスクスと笑い、俺が苦笑する。ピスケスは俺をポカポカ殴ってくるが正直痛くない。
「一時的にとはいえ俺達はチームだ。互いに足を引っ張らないようにな。」
『彼女たちに足はありません』
上げ足を取られた。
〜誘拐犯アジト入り口〜
「この洞窟だな」
入江の西の崖を回りこむと、大きな洞窟がポッカリと口を開けていた。辺りには他に洞窟らしき物は見当たらない。
「鱗が落ちていますね……」
洞窟近くの人が通ったと思われる足跡には点々と人魚の鱗らしき物が落ちている。
「ビンゴだ。行くぞ」
洞窟の中に入り、10メートルも進むと行き止まりになっていた。行き止まりには海水が溜まっている。
「さて、合図を送れば向こう側に渡れる訳だが……俺らは合図を知らない。」
『さらに言うならば、合図を出して向こう側に着いた途端に戦闘になる可能性があります。潜入ミッションではあまり推奨できません。』
「そこであたし達の出番でしょ♪」
「はい、任せてください」
彼女たちは海水の中に飛び込むと、すぐに見えなくなった。
「大丈夫かな……」
サフィアは水中で待機してもらって、私は先に向こう岸に上がった。
あたかも迷いこんでしまったという風を装ってね。
「ぷはぁ!あれ?ここどこ?」
見張りは唖然とした表情で私を見ている。
「あら、お兄さん。ここって一体どこなのかしら?教えてくれる?」
しなを作り、水辺に腰掛ける。男は見張りで禁欲生活が長いのだろうか。
ふらふらと私に歩み寄ってくる。
「え〜とだな……へへへ、ここは―」
うわぁ……すっごい下品な顔。男が水際に近寄った途端―
<ザパァッ!>
サフィアが飛び出して来て、足ひれの一撃をお見舞いする。
シービショップってどんな子達か知ってる?彼女たちは広い海で新しいカップルを見つけるために海を泳ぎ回っているのね。それこそ嵐の海だろうが大波の時だろうが関係なく。
その脚力で蹴り飛ばされれば―「ぶべらっ!」―当然痛い目を見るって事。
彼女は蹴り飛ばした男の上に器用に乗り、マウントポジションを取ると……
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
持っていた石版で滅多打ちにし始めた。
そのごめんなさいは誰に向けた物だったのかな?
洞窟の水溜りから水が引いていく。彼女たちは上手くやったのだろう。
水の引いた通路を歩き、向こう側の階段を登ると顔を原型が分からないまでに腫らせた男が気絶していた。
「お前ら……一体何をやったんだ?」
「ちょっとね。コイツがっつきすぎ。0点」
「あははは……」
サフィアは持っている石版を背後に隠す。一体何をやったって言うんだ。
「ふぁ〜……」
見張りの男があくびをしている。
「早く交代の時間にならねぇかな……眠くて仕方がねぇや。」
男が通路の曲がり角まで来ると、
「よう。」
見知らぬ男が立っていた。
その男はゴツゴツした右手を見張りの男の首筋に当てる。
「ぐ……テメェ……誰……」
言葉は最後まで発音されず、見張りはその場で崩れ落ちた。
「ただの奴隷市場荒らしだよ。」
「こいつで5人目だな……一体何人いるんだか」
俺は見つけた倉庫に眠らせた男を縛り上げ、猿轡をかませて放り込む。
あとは倉庫に鍵を掛ければ完了だ。鍵は入り口見張りの男が持っていた。無用心にも程がある。
「手際良すぎない?」
ピスケスが不審な目で俺を見る。
「傭兵にはよくある事だ。」
「いや、どちらかというと暗殺者って言う方が合ってる気がするんだけど。」
細かいことは気にするな。
一つの部屋の中から複数人の話し声が聞こえてくる。
「この部屋を攻略するのは少し骨が折れそうだな。」
『敵反応は9。クラスターランチャーで一気に殲滅しても問題ありませんが、鍵や重要な書類を破壊してしまう可能性があります。少人数ずつおびき寄せ、個別対処しましょう』
「だな。残りはこの部屋の中の奴らだけみたいだし、一芝居打ってみるか。」
〜誘拐犯アジト内詰所〜
その中では休憩中の誘拐犯達がくつろいでいた。
ある者は酒を飲み、ある者はトランプで賭け事などをしている。
<誰かぁー!助けてくれー!>
と、その時外から助けを求める悲鳴が聞こえて来る。
全員立ち上がるが、互いに顔を見合わせるとその内の3人だけが悲鳴を確認しに行くことにした。
「これでよし……っと」
俺は倉庫の中から一人眠らせた男を引っ張ってくると、通路の曲がり角に足だけ見えるよう配置する。後は物陰に隠れて気配を消す。
駆け寄ってきた三人が飛び出している足を見つけ、駆け寄ってくる。曲がり角を曲がろうとしたところで……。
<プシュ>
<パシュ>
<カシュ>
連続して首筋にパラケルススで睡眠薬を注入。
「奥義・霞撃ち。なんてね」
近くの物陰に隠れていた彼女たちがこちらへ跳ねてくる。
「終わった?」
「あぁ、こいつらを例の倉庫まで頼む。すぐ次が来るから早めにな」
「りょうか〜い♪」
彼女たちは3人を倉庫まで引きずって行く。
〜誘拐犯アジト内詰所〜
「あいつらおせぇな……」
様子を見に行った3人が戻って来ない。
「何かあったのかもしれないな。全員で様子を見に行くぞ」
そうして彼らはゾロゾロと部屋を出て行く。
その先にある悲劇も知らずに。
『敵接近。数6。距離50』
「全員お出ましか。少し下がるぞ」
『了解』
少し離れ、物陰に隠れる。
「さすがにもう隠密行動は無理だろう。だいたい片付けたみたいだしここは派手に行くぞ」
『了解。E-Weapon<クラスターランチャー>展開。Pモード、威力を0.01%に押さえて装填。発射体制に入ってください』
グリップを捻り、ロケットランチャーのように担ぎ直す。
『弾道制御完了。ロックオン対象無し。発射準備完了』
レイティクルは無しに、弾道予測のみが線となって表示される。着弾地点が壁になるように調整し、トリガーに指をかける。
「吹っ飛べ!」
『EXPRODE』
飛翔した親爆弾は壁に突き刺さる。奴らはそれが何だか分からないらしく、呆けたようにそれを眺める。
次の瞬間、エネルギー塊が弾け、エネルギー弾がばら蒔かれる。そして……
<ドドドドドドドドォォオオオオオン!>
閃光。轟音。誘拐犯の集団を巻き込んでエネルギー弾が一斉に炸裂する。
爆発の余波がここまで届いてきたが、幸い怪我をすることはなかった。
『敵無力化完了。死者、重傷者0。全て軽傷です。なお、この爆撃による崩落はありません』
「本当なら完全に止めを刺しちまったほうが楽なんだが……ま、あいつらもいるしな。」
一般人に人の死に様を見せるのは酷というものだろう。
集団は全て爆発によって気絶していた。
「すごい音したけど大丈夫?」
二人がこちらまで跳ねてきた。
「問題ない。ちょっと気絶してもらっただけだ」
気絶している集団を縛り上げると、彼女たちの方へ運ぶ。それを受け取ると彼女達は倉庫の方へ運んでいった。
『残存勢力の掃討確認。戦闘行動を終了します』
「さて、詰所の家探しでもしますか」
俺は瓦礫の破片を通路の隅へ片付けると、詰所の中へ進んでいった。
〜誘拐犯アジト内詰所〜
「うわ、酒くさ……」
そこいらじゅうに散乱する酒瓶。途中で放棄されたトランプ。食べ散らかされたおつまみ。
そこは正に荒くれ者のアジトという様相をしていた。
「こういう所ってのは大抵殆どの鍵が揃っているんだが……ん?」
雑多な物が置かれた棚の中に奇妙なものを見つける。
「こいつは……なんだっけ……あぁ、アレだ」
『密書封入用のカプセルですね。名称はマトラ。道具屋にも売っていました』
そう、特殊な封印術が掛かっていて、中に密書や大事なものを入れて蓋をすると特定の相手や術でないと開かないとか言う触れ込みの道具だ。
「しかし随分錆びているな。何年前ぐらいのもんだ?」
『表面の酸化の度合いから推定8年前後だと思われます。持ち帰りますか?』
「当然。誰宛なのかはわからんがここに放置するよりはいいだろ」
俺はそれをバックパックの中に放り込む。解析はエルファあたりに頼めばいいだろう。
「さて、お目当てのものは……あったあった」
壁に打ち付けられている鍵掛けに、鍵束が吊り下げられていた。数から言って牢屋の物だろう。
「それじゃ、囚われの姫様達を助けに参りましょうか」
『行為は盗賊と暗殺者そのものですが』
俺は騎士じゃないからいいのだ。
詰所から出てすぐの階段を降りると、すぐに牢屋になっていた。
「まだ見張りいるじゃねぇか」
居眠りをしていたが。
『行動不能の対象は除外しています』
「まぁ確かにあの爆発音がしても起きて来ないもんな……ふっとい神経しているもんだ」
念の為にパラケルススで睡眠薬を注入。縛って階段の上に転がしておく。
「捕まっている子達は見つけた?」
二人が跳ねて来る。
「まだいたんですね……でももう他に見張りがいないのであれば運ばなくても大丈夫でしょうか?」
「多分な。牢屋はこの先だ、行くぜ」
階段を下り、見張り近くにあった松明でそこかしこにある燭台に火をつける。
「こりゃまた随分捕まえたもんだな」
牢屋の中、海水が張った水槽にシービショップ達が捕らえられている。
全部で十数人はいるだろうか。皆元気なくうなだれている。
いつも聞く声と違うと思ったのか、その内の一人がのろのろと顔を上げた。
「あなたは……?」
『ロリコンです』
「お前この状況でそれ言ってどうするつもり!?」
『ジョークです』
お前のジョークは笑えない。
「あの……」
いきなり目の前で繰り出されるコントを見て唖然としている。
周りのシービショップ達も何事かと顔を上げ始めた。
「冒険者ギルドから派遣された調査員だ。助けに来た」
そう言うと牢屋内がにわかに活気付き始める。
「待ってな、今牢屋の鍵を開けるから」
牢屋の鍵を次々と開けていく。
開けた牢屋からはシービショップ達が飛び出し、互いの無事を喜び合った。
最期の牢屋を開けると、助けたシービショップの一人が進み出た。何を言うつもりだろうか。
「あの……一つお願いがあるのですが……」
「ん?腹でも減っているのか?食料は与えられなかったのか?」
酷い環境だなと憤慨するが……
「いえ、食事は与えられていたのですが……」
そこ、なぜ頬を染める。
『警告、複数対象からロックオンを確認。緊急回避を』
助けたシービショップ達が、何故か俺を熱っぽい目で見つめている。いや、正確には俺の股間を……
「おいおい……マジかよ……」
さらにシービショップ達がにじり寄ってくる。
「食事に媚薬が混ぜられていたみたいで……もう我慢出来ないんです」
あ〜そうですね。性奴隷として売るつもりであれば肉欲まみれにしておけば楽ですよね。
『対抗策を提案。バックパック内部の瓶を取り出して下さい』
「瓶?この状況で水をどうしようってんだ……?」
背嚢の中に手を突っ込み、その中の瓶を一つ取り出す。ラベルには、
「精力絶倫摩訶摩訶瓶……?」
道具屋でハメられて買ってしまった精力剤だった。
しかも製造元は……
「エルファサバト製造……!」
手広く商売してんなぁ……あいつ。
『Good Luck』
無駄に爽やかな笑顔でサムズアップされた気がする。
「あ〜……ピスケス、サフィア」
「な〜に?♪」
「はい……」
これからここで起こる惨劇が予想できるのだろう。ピスケスはニヤニヤと、サフィアは頬を染めて返事をする。
「詰所に行ってもっとなにか無いか色々調べてくれ。俺は……」
向き直り、シービショップ……いや、男に飢えた肉食魚の群れと対峙する。
「こいつらを片付ける。後は任せた」
「りょうか〜い♪」
「わかりました……」
二人は階段を上がっていく。
ここは孤立無援。
手には弾薬を無限化する秘薬。
敵は雲霞の如く居る。
俺は瓶の中身を飲み干すと、両手を広げた。
「さぁ……どっからでもかかってこいやー!」
叫んだ瞬間、肉食魚の群れは俺に殺到してきた。
『Open Combat』
性なる戦いが幕を開ける……。
「はぁっ……んぁ……いい、気持ちいですぅ♪」
ぬかるみきった肉壷にいきり立ったモノを打ちつける。これで7人目。出した数は、10回を越えてから数えるのをやめた。
両手は別のシービショップの秘所を弄り回し、次の挿入の準備を進める。
「っく!出すぞ!」
「はいぃ!ください、いっぱいぃ!♪」
ギリギリで引きぬいて彼女の全身にぶっかける。
その量は普段とは比べ物にならないほど多い。
「はぁぁぁぁぁああん!あついぃ!♪またイっちゃいますぅ!♪」
「っ……!これで、いいか!?」
出し切ったにも関わらず、恐ろしい勢いで精子が増産されていくのが判る。
「あとぉ♪あともう一回だけぇ♪」
「駄目ですよぉ♪次は私がぁ♪」
「こっちも我慢の限界です……♪」
正直言って今までにあった経験がお遊びのように感じる狂宴。
あぁ、輪姦される女性ってこういう気持ちなんだろうなぁ……。
「っく!うぉぉおおお!」
渾身の力でピストンを行う。ここで満足させなくては、後でもう一度襲い掛かられる。
「ふぁぁぁぁん♪突いてぇ!もっと突いてぇ!♪」
他のシービショップの中に入れていた指を引きぬき、突いている彼女の胸を揉み込む。
「やぁ!おっぱいも、おっぱいも気持ちいいですぅ♪」
ぎゅうぎゅうと膣内が締まり、刺激がさらに強くなる。
「こいつで……どうだ!」
一際強く突き上げ、白濁で子宮を満たしてやる。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?!?!?♪」
強烈な快感に白目を剥く彼女。
ぐったりと上に倒れてきたのでそれを支え、モノを引き抜いて近くに横たえる。
「さぁ、次の相手はどいつだ!」
念の為に言っておこう。
俺はこの状況を楽しんでいるのではなく、本気で『戦っている』のだと。
「はぁ……はぁ……これで、ラスト!」
最後のシービショップの胎内に精を注ぐ。これで14人目、最後だ。
「ど、どうだ……はぁ……はぁ……満足したか……?」
「は、はぃぃ……ありがとうございましたぁ……♪」
俺はその場に仰向けに倒れこむ。
「はぁ……はぁ……ざまあみやがれ……全部片付けてやったぞ……」
『お疲れさまでした。戦闘終了です』
死屍累々というべきか。辺りには彼女たちの甘い体臭と青臭い精液の匂いが立ち込めている。
ある者は膣口からゴポゴポという音を出して子種が溢れ出しており、ある者は全身に白濁を浴びてぐったりとしている。胸と口に集中的にべっとりとくっついている者もいれば、口と手が白い液体に塗れている者もいた。
「あ〜……もう動きたくねぇ……」
『敵勢力を無力化してあるとはいえ、ここは敵地です。休憩を取るのであれば拠点まで帰還してください』
「その敵地でこんな事しているってのもあれだがな……」
俺は背嚢の中に手を突っ込み、携帯食料を取り出して齧る。
流石に動きすぎで腹が減った。
「うわぁ……凄い状態だね、これ」
「あぅ……」
嬌声が止んだのを見計らって二人が降りてきた。
「よぅ、何とか生きているぜ」
俺は二人に向かって手を振る。身を起こそうとしたが、暫くは力が入りそうもない。
『警告、被ロックオンを確認。迎撃準備をしてください』
「は?」
二人を見ると、彼女らは何かを凝視していた。その視線の先を追うと……
「……げ」
未だに力を失わずに隆々と天を突き上げる我が息子。
お父さんそこまで立派に育って欲しいとは思ったことはありませんよ?
「あの〜?二人とも、少し落ち着いて話をしないか?」
「この状況で何無粋なこと言ってるのかな〜?♪折角だからあたし達も混ぜてよ♪」
「あの……私も……///」
神様助けてパート2。
『しかし祈りは届かなかった』
泣きたい。
「…………(目が虚ろ)」
「はぁ〜、満足満足♪」
「あの……気持よかったですよ?///」
ようやく息子がその力を失うと、二人は満足してくれたようで両脇に抱きついてくる。
「もう無理……煙も粉も出ない……」
一瞬あの世が見えかけたじゃないか。
『ピスケス様、サフィア様、詰所の探索成果の報告をお願いします』
「??」
サフィアはどこから聞こえてくるのかわからないのか、あちこち見回している。
そういや戦闘行動中は基本的に聞こえないんだったな。声を聞く機会も殆ど無かったから空耳だとでも思っていたのだろう。
「こいつからだよ」
鵺をコンコン叩いて教えてやると目を丸くして驚いていた。少し面白い。
「はいは〜い。え〜と、出荷予定目録?多分売り飛ばす先を記した表だね。これ」
彼女は持っていた巻紙を俺に渡してくる。
広げてみると、確かに名前と所属組織、受け取りに来る船と受け取り日時などが記されていた。
「これなんかは取引が今日みたい。それ以前のは……もう引き渡されちゃったのかな」
目録の上から3,4番目の項目は納品日時が今日になっていた。時間は……
「一、二時間後くらいか。場所は……サンライズハーバーだな。ここから運ぶ手間を考えれば近場なのは当然か」
しかし……白昼堂々奴隷取引とはね……。
「こいつを利用しない手はない……な」
ニヤリと笑う。
「どうするつもり?」
「ん?シービショップ『らしきもの』を引き渡す。あとはそうだな……船を沈めてやるか」
朝の訓練の後の朝食の席。
『そういやアルテア。おめぇいつまでその喋り方をしているつもりだ?』
おやっさんがそう切り出してきた。
『喋り方と言いますと……これではいけませんか?』
『傭兵がいつまでもそんな喋り方してちゃナメられるぜ?もっとラフな感じに喋ってみろよ』
どうしよう。姉さんには敬語を使えと言われているし、おやっさんには砕けた感じで話せと言われたし。
『へぇ、坊主に話し方を教えようってんですか。面白そうっすね。』
『どうせだからもっとワイルドな感じに仕立ててみない?』
周りのメンバーもどんどん集まってくる……
『あ、あの……お手柔らかに……』
……………………
………………
…………
……
『あぁ、アルテア。資料の整理があるんだが手伝ってもらえるか?』
『おう!わかったぜ姐さん!』
俺が喋った言葉を聞いたとたん姉さんがどこかへとかけ出していく
しばらくすると……
<少佐ぁぁぁぁあああああ!アルテアになんて言葉遣いさせているんですか!>
<いつまでもガキみたいな喋り方させておくほうが問題だろうが。イメチェンだよイメチェン。>
<あんな汚い喋り方になったら愛でられないじゃありませんか!>
<ちょうどいい機会だ。少しは弟離れしたらどうだ?>
<冗談じゃありませんよ!私のアルテアがぁぁぁぁああああ!>
なんて言い争いが聞こえてきた。
結局、俺の言葉遣いは姉さんに一夜漬けで直された。
しかし、一人称の俺と、ある程度男っぽい言葉遣いは治らなかったとさ。
〜AM5:00〜
<ぐっちゃぐっちゃ>
「んぬ……ぁ……」
うっすらと日が登り始める頃。
どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる中俺は目を覚ました。
誰が立てているのか粘ついた水音が聞こえてくる。
<ずちゅっぐちゅっ>
むずむずして気持ちいい。
まるで下半身がぬるま湯にでも浸かっているかのような……。
「ふぁ……ん?」
ぼやけた視界が鮮明になってくると……。
「はぁっ、はぁっ♪起きたぁ?」
ピスケスが俺の上に跨っていた。俺の息子を咥え込んで。
『現在時刻AM5:00。おはようございますマスター。今日も爽やかな朝ですね。』
皮肉かそれは。
『鍵は私が彼女に渡しておきました。余計な事でしたか?』
「自覚しているならそれは間違いなく余計な事だろうよ」
〜カフェレストラン『潮騒の幸』〜
時間帯は早朝。
漁に出るのには遅く、一般人が起きだすには早い時間帯。
テラス席に座るのは俺達二人だけだ。
ちなみにこの店はよく漁に出る前の漁師にも利用されているらしく、かなり早い時間でも開いている。
オススメはエビフリッターのパニーニだそうな。
「全く……心臓に悪いじゃないか。なぜそうまでしてくっつこうとするんだ?」
「そうそう、それなんだけどさ、既成事実作ればもう逃げることができないんじゃない?ってことで美味しくいただきました♪」
こいつから逃げきれるか正直不安になってきた。
「ところでさ。」
「ん〜?」
出てきた海藻サラダをつつきながら彼女が聞いてくる。多分費用は俺持ちだ。
「たまにあっくんの近くから女の人の声が聞こえてくるんだけどあれって何?」
今頃気づいたのか。
『初めまして。マスターの戦闘および作戦行動のサポートを行っている自己推論進化型戦術サポートAI『ラプラス』と申します。』
「うわ!?何?どこから聞こえてくるの?」
辺りをキョロキョロ見回すが、女性は彼女しかいない。
「こいつからだよ。この中に……あー、魂だけ入っているようなもんだ。」
椅子に立て掛けた鵺をコツコツ叩く。間違ってはいないよな。うん。
「へぇ……ゴーレムか何かの一種?」
「似たようなもんだ。」
それ以降彼女は大人しく朝食を食べていてくれた。
コーヒーもギルドのよりうまかったなぁ……。
〜縁結びの入江〜
「あれ?だれかいるね……。」
岩陰から覗き見ると、一人の男が岩の近くで何かをしていた。
「望遠モード。」
『了解。望遠モード起動。』
ウィンドウが開き、見ている景色が拡大されて表示される。
「あれは……縄で自分の足を岩に結びつけている……?」
「縁結びってそういう意味じゃないんだけどなぁ……。」
しばらくすると、作業を終えた男は岩の上に座った。
「あれって何しているんだろ?」
「別に何をしている訳でもないだろ。ただ、待っているのかもしれんがね。」
時間が経つにつれて海面が上昇していき、岩に波が被る程度になってきた。
「ねぇ、あの人あのままだと溺れちゃうよ?あそこ潮が満ちると結構深いし。」
「あぁ、そうだな。」
俺はただ、じっとその時を待つ。
さらに時は経ち、男が立ち上がった胸元あたりまで水が迫ってくる。
男は波に揉まれながらもその場から動く気配を見せない。
「あのままじゃ本当に溺れちゃうよ!助けなくていいの!?」
「それが狙いだしな」
「……え?」
信じられないような物を見る目で俺を見てくる彼女。
「ラプラス、M700を展開。ついでに偏光装備を付けてくれ。海中も見たい。」
『了解。M700展開。さらに望遠機能に偏光機能をプラスします』
砲身が4つに分れ、長大なライフルが中から現れる。さらに鵺の後部が展開してストックが現れ、グリップが回転して格納されてトリガーのみになる。あっという間にスナイパーライフルの完成だ。
『スコープは銃身上部を覗き込むとツールで直接表示されます。尚、弾道制御とスポッターはこちらで行います。』
「頼む。」
俺は砂浜に寝そべると、銃身を男に向けてスコープを展開。照準を男の肩を掠めるあたりに定める。
『距離は200メートル程度。この距離であればコリオリ力は無視できます。ただし、海面との接触による弾道のズレと、対象の動きの分は補正しなければなりません。』
「当てられるか?」
『問題ありません。撃つ物がネズミの頭だったとしても外さないでしょう。』
俺もそれなりに狙撃はできるが、こいつの補正付きの狙撃だと全く外す気がしない。
煙の向こうだろうが砂嵐の中だろうが百発百中だ。
「信じられない……あたしは助けに行くからね!」
「勝手にしろ。」
構えたままそっけなく言ってやる。どの道やることに変わりはない。
彼女は器用に跳ねながら海へ飛び込むと男に向かって猛然と泳ぎ始めた。
『動体反応を確認、数1。10時方向距離300』
照準を固定したまま、横目で確認する。シービショップだ。
「さぁ……本性を表せクソ野郎……」
信じられなかった。ぶっきらぼうだったとしても、優しい人だと思っていた。
色々酷い事もされたけど、それは私が悪かったからだ。
でも、目の前で自殺しようとしている人を見殺しにするなんて……。
視界の端に、シービショップさんが泳いでくるのが見える。同じく彼を助けようとしているのだろう。
もう、あっくんの事は忘れよう。もし、あのシービショップさんが彼を助けても恨みっこなし。私が助けたら……その場で儀式をしてもらうかな。そして海で一緒にくらそう。
でも距離的にシービショップさんの方が速いかな……残念だけど仕方が無いか。
シービショップさんが彼に近づいた。手を伸ばしたその時、彼の肩に血煙が上がった。
『命中。対象の無力化を確認。所持していた武器を取り落としました』
ターゲットの肩の浅い部分を弾丸が吹き飛ばした。
殺しちゃ意味が無いからな。
「ま、こんなもんだろ」
俺は波打ち際まで歩いていき、彼女へ叫んだ。
「おーい!その男をこっちまで連れてきてくれ!ついでにそいつの足元に落ちている針も一緒にな!」
あっくんが叫んでいる内容は、すぐには理解できなかった。針?そんなものあるの?
男の人の足元を見ると、確かに短い針が落ちている。
縛られているロープは、引けば簡単に外れた。
「どういうことなのでしょう……?」
シービショップさんもどういう状況なのかよくわからないみたいだ。
「よう、お疲れ」
俺は男を運んできた彼女に労いの言葉を掛ける。
男は傷ついた肩を庇っていた。
「どういう事なの?それにこの針は何?」
彼女は針をこちらへ渡してくる。
「多分麻痺系の毒針か何かだろ。そうだよな?誘拐犯君。」
「クソッ!」
何とか抵抗しようとするが力が入らないみたいだ。
「誘拐って……どういう事ですか?」
シービショップは理解が追いつかないという体で聞いてくる。
「こいつらは溺れている要救助者を装って毒針であんたらシービショップを刺し、動けないところを連れ去ろうって腹だったんだろう。」
俺はさらに追い打ちをかける。
「シービショップってのは一所に留まっていないらしいからな。よくシービショップが立ち寄るこの入江に目をつけたんだろう。おまけに主な生息地が無いということは稀少価値も高いって事だ。大方捕まえたシービショップ達は好事家に高値で売り捌くつもりだったんだろ」
愕然とする二人。苦々しげに顔を歪める男。
「コイツの失敗は、人魚が二人も寄ってきて焦ったって事だろうな。当然一度に刺せるのは一人までだ。片方を刺している間に片方に逃げられ、手口がバレちまう。焦って早めに針を取り出すのがよく見えたよ」
「じゃあ……あたしが助けに行くのまで計算して……?」
「いや、それは計算外だったがな。」
俺は男の襟を掴み上げ、物陰まで引きずって行く。
「その人を……どうするんですか?」
不安そうに訊いてくるシービショップ。
「ん?拷問。見ないほうがいい」
止める間も無く、俺は男を物陰へと引きずり込んだ。
俺は持っていたロープで男を縛り上げると、地面に転がす。
「さて、俺はこれからお前を拷問するわけだが……、最初に言っておく。お前らのアジトの場所は大体見当が付いている」
もちろん嘘だ。
「だからお前が死のうが死ぬまいが大して影響しないって事を頭に入れとけよ」
男は黙り込んだままだ。
「ラプラス、パラケルスス展開」
『了解。パラケルスス展開』
俺の右手が淡い光に包まれると、応急救護用マニュピレーターが展開される。
その親指を男の首に押し付け、無痛注射<シリジェット>で、ある薬品を男に注入する。
「今、お前に打ち込んだのは5分もすれば全身に回って全身麻痺を起こし、心臓麻痺で死に至る毒薬だ。もし、お前らのアジトを吐くなら解毒剤を打ってやってもいいが……まぁ別にいらないよな?大体の場所は判っているんだし、お前が死んでも俺は痛くも痒くもない」
あくまで冷徹に死刑宣告。男は真っ青になる。
「ちなみに、だ。この毒薬、注射するごとに1分効きが早まる」
さらに親指を押し付け、薬品を注入してやる。
「これで、あと4分、いや4分もないかな?さっさと吐かないと死んじまうぜ?」
「吐く!吐くから早く解毒剤をくれぇ!」
音を上げ始めるが、構わずもう一度注射。
「ほら、これであと3分もないぞ。急げ急げ」
ガタガタと震える男。
「この入江の西に洞窟がある!そこが入り口だ!」
もう一度注射。
「これであと2分。いや、1分半ぐらいかな?別に入り口があるってだけじゃないだろう」
「言う!言うから!そこで合図をすれば洞窟の向こう側の仲間が仕掛けを作動して水が抜ける!あとは向こう側へ行くだけだ!頼む!解毒剤を!」
「あっそ。ありがと」
もう一度首筋に押し当てる。一瞬男がホッとした表情をするが、
「あぁ、別に解毒剤を打ったわけじゃないぞ。あと20秒ぐらいな」
一気に表情が凍る。
「待て!話が違うぞ!早く!早く解毒剤を!」
男が痙攣を引き起こし始め、口から泡を吹く。
「あぁ、そうそう。お前に打ち込んだ薬品の正体だけどな。」
ビクビクと引きつけを起こす男に言い放つ。
「ブドウ糖だ。点滴なんかにも入っている糖分の一種だな。無論毒じゃない」
「たすけ……たすけ……へ?」
ピタっと痙攣が止まる。プラシーボ効果って恐ろしい。
俺は男を残すとその場を立ち去った。
「あっくんって案外エグい事するね……。」
「でも効果的だろ?生皮剥ぐよりこっちのほうが俺の体力的にも精神的にも楽だし」
物陰から見ていたのだろう。彼女は若干引き気味だ。
「あの……彼はどうなったんですか?」
こちらは怖くて見ることが出来なかったようだ。
死んでないと言ってやると、安堵した表情になった。
「あんた人が良すぎるだろ。あんたを誘拐してどこかに売り飛ばそうとした連中なんだぞ?」
「それでも……誰かが死んでしまうのは嫌ですから……。」
この人の良さを利用されたんだろうな……。
「とにかくアジトの場所は判った。お前らは先に帰ってろ」
俺が歩き出すと……
「……何で付いて来る。」
「いやぁ、乗りかかった船だし。」
「私としましても仲間が捕まっていますから。」
こいつらは……。
『説得は不可能。それに彼女たちを連れて行く事は有利に働きます』
「あ、そうか……入り口の仕掛けか」
結局合図というものを聞きそびれてしまっていた。
「ね?きっと役に立つからさ」
「私も結構強いんですよ?海を泳ぎ回る私たちには危険がつき物ですから」
どの道引きそうにもない。
「危なくなりそうだったらさっさと逃げろよ?海中ならともかく陸上だとお前らを庇いながら戦う自信がない」
「りょうか〜い♪」
「わかりました」
俺達は、入江の西へと歩き始めた。目指すは誘拐犯共のアジトだ。
「そういやあんた、名前は?」
アジトへ移動する際、シービショップの名前を知らない事に気付く。
「私ですか?私はサフィアと言います」
サフィア。サファイアか。
おでこの上から一房飛び出た髪の毛が特徴的だ。
「あたしも言ってなかったっけ。あたしは―」
「ピスケスだろ。依頼書を見てわかっている」
「セリフ取らないでよ〜!」
サフィアがクスクスと笑い、俺が苦笑する。ピスケスは俺をポカポカ殴ってくるが正直痛くない。
「一時的にとはいえ俺達はチームだ。互いに足を引っ張らないようにな。」
『彼女たちに足はありません』
上げ足を取られた。
〜誘拐犯アジト入り口〜
「この洞窟だな」
入江の西の崖を回りこむと、大きな洞窟がポッカリと口を開けていた。辺りには他に洞窟らしき物は見当たらない。
「鱗が落ちていますね……」
洞窟近くの人が通ったと思われる足跡には点々と人魚の鱗らしき物が落ちている。
「ビンゴだ。行くぞ」
洞窟の中に入り、10メートルも進むと行き止まりになっていた。行き止まりには海水が溜まっている。
「さて、合図を送れば向こう側に渡れる訳だが……俺らは合図を知らない。」
『さらに言うならば、合図を出して向こう側に着いた途端に戦闘になる可能性があります。潜入ミッションではあまり推奨できません。』
「そこであたし達の出番でしょ♪」
「はい、任せてください」
彼女たちは海水の中に飛び込むと、すぐに見えなくなった。
「大丈夫かな……」
サフィアは水中で待機してもらって、私は先に向こう岸に上がった。
あたかも迷いこんでしまったという風を装ってね。
「ぷはぁ!あれ?ここどこ?」
見張りは唖然とした表情で私を見ている。
「あら、お兄さん。ここって一体どこなのかしら?教えてくれる?」
しなを作り、水辺に腰掛ける。男は見張りで禁欲生活が長いのだろうか。
ふらふらと私に歩み寄ってくる。
「え〜とだな……へへへ、ここは―」
うわぁ……すっごい下品な顔。男が水際に近寄った途端―
<ザパァッ!>
サフィアが飛び出して来て、足ひれの一撃をお見舞いする。
シービショップってどんな子達か知ってる?彼女たちは広い海で新しいカップルを見つけるために海を泳ぎ回っているのね。それこそ嵐の海だろうが大波の時だろうが関係なく。
その脚力で蹴り飛ばされれば―「ぶべらっ!」―当然痛い目を見るって事。
彼女は蹴り飛ばした男の上に器用に乗り、マウントポジションを取ると……
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
持っていた石版で滅多打ちにし始めた。
そのごめんなさいは誰に向けた物だったのかな?
洞窟の水溜りから水が引いていく。彼女たちは上手くやったのだろう。
水の引いた通路を歩き、向こう側の階段を登ると顔を原型が分からないまでに腫らせた男が気絶していた。
「お前ら……一体何をやったんだ?」
「ちょっとね。コイツがっつきすぎ。0点」
「あははは……」
サフィアは持っている石版を背後に隠す。一体何をやったって言うんだ。
「ふぁ〜……」
見張りの男があくびをしている。
「早く交代の時間にならねぇかな……眠くて仕方がねぇや。」
男が通路の曲がり角まで来ると、
「よう。」
見知らぬ男が立っていた。
その男はゴツゴツした右手を見張りの男の首筋に当てる。
「ぐ……テメェ……誰……」
言葉は最後まで発音されず、見張りはその場で崩れ落ちた。
「ただの奴隷市場荒らしだよ。」
「こいつで5人目だな……一体何人いるんだか」
俺は見つけた倉庫に眠らせた男を縛り上げ、猿轡をかませて放り込む。
あとは倉庫に鍵を掛ければ完了だ。鍵は入り口見張りの男が持っていた。無用心にも程がある。
「手際良すぎない?」
ピスケスが不審な目で俺を見る。
「傭兵にはよくある事だ。」
「いや、どちらかというと暗殺者って言う方が合ってる気がするんだけど。」
細かいことは気にするな。
一つの部屋の中から複数人の話し声が聞こえてくる。
「この部屋を攻略するのは少し骨が折れそうだな。」
『敵反応は9。クラスターランチャーで一気に殲滅しても問題ありませんが、鍵や重要な書類を破壊してしまう可能性があります。少人数ずつおびき寄せ、個別対処しましょう』
「だな。残りはこの部屋の中の奴らだけみたいだし、一芝居打ってみるか。」
〜誘拐犯アジト内詰所〜
その中では休憩中の誘拐犯達がくつろいでいた。
ある者は酒を飲み、ある者はトランプで賭け事などをしている。
<誰かぁー!助けてくれー!>
と、その時外から助けを求める悲鳴が聞こえて来る。
全員立ち上がるが、互いに顔を見合わせるとその内の3人だけが悲鳴を確認しに行くことにした。
「これでよし……っと」
俺は倉庫の中から一人眠らせた男を引っ張ってくると、通路の曲がり角に足だけ見えるよう配置する。後は物陰に隠れて気配を消す。
駆け寄ってきた三人が飛び出している足を見つけ、駆け寄ってくる。曲がり角を曲がろうとしたところで……。
<プシュ>
<パシュ>
<カシュ>
連続して首筋にパラケルススで睡眠薬を注入。
「奥義・霞撃ち。なんてね」
近くの物陰に隠れていた彼女たちがこちらへ跳ねてくる。
「終わった?」
「あぁ、こいつらを例の倉庫まで頼む。すぐ次が来るから早めにな」
「りょうか〜い♪」
彼女たちは3人を倉庫まで引きずって行く。
〜誘拐犯アジト内詰所〜
「あいつらおせぇな……」
様子を見に行った3人が戻って来ない。
「何かあったのかもしれないな。全員で様子を見に行くぞ」
そうして彼らはゾロゾロと部屋を出て行く。
その先にある悲劇も知らずに。
『敵接近。数6。距離50』
「全員お出ましか。少し下がるぞ」
『了解』
少し離れ、物陰に隠れる。
「さすがにもう隠密行動は無理だろう。だいたい片付けたみたいだしここは派手に行くぞ」
『了解。E-Weapon<クラスターランチャー>展開。Pモード、威力を0.01%に押さえて装填。発射体制に入ってください』
グリップを捻り、ロケットランチャーのように担ぎ直す。
『弾道制御完了。ロックオン対象無し。発射準備完了』
レイティクルは無しに、弾道予測のみが線となって表示される。着弾地点が壁になるように調整し、トリガーに指をかける。
「吹っ飛べ!」
『EXPRODE』
飛翔した親爆弾は壁に突き刺さる。奴らはそれが何だか分からないらしく、呆けたようにそれを眺める。
次の瞬間、エネルギー塊が弾け、エネルギー弾がばら蒔かれる。そして……
<ドドドドドドドドォォオオオオオン!>
閃光。轟音。誘拐犯の集団を巻き込んでエネルギー弾が一斉に炸裂する。
爆発の余波がここまで届いてきたが、幸い怪我をすることはなかった。
『敵無力化完了。死者、重傷者0。全て軽傷です。なお、この爆撃による崩落はありません』
「本当なら完全に止めを刺しちまったほうが楽なんだが……ま、あいつらもいるしな。」
一般人に人の死に様を見せるのは酷というものだろう。
集団は全て爆発によって気絶していた。
「すごい音したけど大丈夫?」
二人がこちらまで跳ねてきた。
「問題ない。ちょっと気絶してもらっただけだ」
気絶している集団を縛り上げると、彼女たちの方へ運ぶ。それを受け取ると彼女達は倉庫の方へ運んでいった。
『残存勢力の掃討確認。戦闘行動を終了します』
「さて、詰所の家探しでもしますか」
俺は瓦礫の破片を通路の隅へ片付けると、詰所の中へ進んでいった。
〜誘拐犯アジト内詰所〜
「うわ、酒くさ……」
そこいらじゅうに散乱する酒瓶。途中で放棄されたトランプ。食べ散らかされたおつまみ。
そこは正に荒くれ者のアジトという様相をしていた。
「こういう所ってのは大抵殆どの鍵が揃っているんだが……ん?」
雑多な物が置かれた棚の中に奇妙なものを見つける。
「こいつは……なんだっけ……あぁ、アレだ」
『密書封入用のカプセルですね。名称はマトラ。道具屋にも売っていました』
そう、特殊な封印術が掛かっていて、中に密書や大事なものを入れて蓋をすると特定の相手や術でないと開かないとか言う触れ込みの道具だ。
「しかし随分錆びているな。何年前ぐらいのもんだ?」
『表面の酸化の度合いから推定8年前後だと思われます。持ち帰りますか?』
「当然。誰宛なのかはわからんがここに放置するよりはいいだろ」
俺はそれをバックパックの中に放り込む。解析はエルファあたりに頼めばいいだろう。
「さて、お目当てのものは……あったあった」
壁に打ち付けられている鍵掛けに、鍵束が吊り下げられていた。数から言って牢屋の物だろう。
「それじゃ、囚われの姫様達を助けに参りましょうか」
『行為は盗賊と暗殺者そのものですが』
俺は騎士じゃないからいいのだ。
詰所から出てすぐの階段を降りると、すぐに牢屋になっていた。
「まだ見張りいるじゃねぇか」
居眠りをしていたが。
『行動不能の対象は除外しています』
「まぁ確かにあの爆発音がしても起きて来ないもんな……ふっとい神経しているもんだ」
念の為にパラケルススで睡眠薬を注入。縛って階段の上に転がしておく。
「捕まっている子達は見つけた?」
二人が跳ねて来る。
「まだいたんですね……でももう他に見張りがいないのであれば運ばなくても大丈夫でしょうか?」
「多分な。牢屋はこの先だ、行くぜ」
階段を下り、見張り近くにあった松明でそこかしこにある燭台に火をつける。
「こりゃまた随分捕まえたもんだな」
牢屋の中、海水が張った水槽にシービショップ達が捕らえられている。
全部で十数人はいるだろうか。皆元気なくうなだれている。
いつも聞く声と違うと思ったのか、その内の一人がのろのろと顔を上げた。
「あなたは……?」
『ロリコンです』
「お前この状況でそれ言ってどうするつもり!?」
『ジョークです』
お前のジョークは笑えない。
「あの……」
いきなり目の前で繰り出されるコントを見て唖然としている。
周りのシービショップ達も何事かと顔を上げ始めた。
「冒険者ギルドから派遣された調査員だ。助けに来た」
そう言うと牢屋内がにわかに活気付き始める。
「待ってな、今牢屋の鍵を開けるから」
牢屋の鍵を次々と開けていく。
開けた牢屋からはシービショップ達が飛び出し、互いの無事を喜び合った。
最期の牢屋を開けると、助けたシービショップの一人が進み出た。何を言うつもりだろうか。
「あの……一つお願いがあるのですが……」
「ん?腹でも減っているのか?食料は与えられなかったのか?」
酷い環境だなと憤慨するが……
「いえ、食事は与えられていたのですが……」
そこ、なぜ頬を染める。
『警告、複数対象からロックオンを確認。緊急回避を』
助けたシービショップ達が、何故か俺を熱っぽい目で見つめている。いや、正確には俺の股間を……
「おいおい……マジかよ……」
さらにシービショップ達がにじり寄ってくる。
「食事に媚薬が混ぜられていたみたいで……もう我慢出来ないんです」
あ〜そうですね。性奴隷として売るつもりであれば肉欲まみれにしておけば楽ですよね。
『対抗策を提案。バックパック内部の瓶を取り出して下さい』
「瓶?この状況で水をどうしようってんだ……?」
背嚢の中に手を突っ込み、その中の瓶を一つ取り出す。ラベルには、
「精力絶倫摩訶摩訶瓶……?」
道具屋でハメられて買ってしまった精力剤だった。
しかも製造元は……
「エルファサバト製造……!」
手広く商売してんなぁ……あいつ。
『Good Luck』
無駄に爽やかな笑顔でサムズアップされた気がする。
「あ〜……ピスケス、サフィア」
「な〜に?♪」
「はい……」
これからここで起こる惨劇が予想できるのだろう。ピスケスはニヤニヤと、サフィアは頬を染めて返事をする。
「詰所に行ってもっとなにか無いか色々調べてくれ。俺は……」
向き直り、シービショップ……いや、男に飢えた肉食魚の群れと対峙する。
「こいつらを片付ける。後は任せた」
「りょうか〜い♪」
「わかりました……」
二人は階段を上がっていく。
ここは孤立無援。
手には弾薬を無限化する秘薬。
敵は雲霞の如く居る。
俺は瓶の中身を飲み干すと、両手を広げた。
「さぁ……どっからでもかかってこいやー!」
叫んだ瞬間、肉食魚の群れは俺に殺到してきた。
『Open Combat』
性なる戦いが幕を開ける……。
「はぁっ……んぁ……いい、気持ちいですぅ♪」
ぬかるみきった肉壷にいきり立ったモノを打ちつける。これで7人目。出した数は、10回を越えてから数えるのをやめた。
両手は別のシービショップの秘所を弄り回し、次の挿入の準備を進める。
「っく!出すぞ!」
「はいぃ!ください、いっぱいぃ!♪」
ギリギリで引きぬいて彼女の全身にぶっかける。
その量は普段とは比べ物にならないほど多い。
「はぁぁぁぁぁああん!あついぃ!♪またイっちゃいますぅ!♪」
「っ……!これで、いいか!?」
出し切ったにも関わらず、恐ろしい勢いで精子が増産されていくのが判る。
「あとぉ♪あともう一回だけぇ♪」
「駄目ですよぉ♪次は私がぁ♪」
「こっちも我慢の限界です……♪」
正直言って今までにあった経験がお遊びのように感じる狂宴。
あぁ、輪姦される女性ってこういう気持ちなんだろうなぁ……。
「っく!うぉぉおおお!」
渾身の力でピストンを行う。ここで満足させなくては、後でもう一度襲い掛かられる。
「ふぁぁぁぁん♪突いてぇ!もっと突いてぇ!♪」
他のシービショップの中に入れていた指を引きぬき、突いている彼女の胸を揉み込む。
「やぁ!おっぱいも、おっぱいも気持ちいいですぅ♪」
ぎゅうぎゅうと膣内が締まり、刺激がさらに強くなる。
「こいつで……どうだ!」
一際強く突き上げ、白濁で子宮を満たしてやる。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?!?!?♪」
強烈な快感に白目を剥く彼女。
ぐったりと上に倒れてきたのでそれを支え、モノを引き抜いて近くに横たえる。
「さぁ、次の相手はどいつだ!」
念の為に言っておこう。
俺はこの状況を楽しんでいるのではなく、本気で『戦っている』のだと。
「はぁ……はぁ……これで、ラスト!」
最後のシービショップの胎内に精を注ぐ。これで14人目、最後だ。
「ど、どうだ……はぁ……はぁ……満足したか……?」
「は、はぃぃ……ありがとうございましたぁ……♪」
俺はその場に仰向けに倒れこむ。
「はぁ……はぁ……ざまあみやがれ……全部片付けてやったぞ……」
『お疲れさまでした。戦闘終了です』
死屍累々というべきか。辺りには彼女たちの甘い体臭と青臭い精液の匂いが立ち込めている。
ある者は膣口からゴポゴポという音を出して子種が溢れ出しており、ある者は全身に白濁を浴びてぐったりとしている。胸と口に集中的にべっとりとくっついている者もいれば、口と手が白い液体に塗れている者もいた。
「あ〜……もう動きたくねぇ……」
『敵勢力を無力化してあるとはいえ、ここは敵地です。休憩を取るのであれば拠点まで帰還してください』
「その敵地でこんな事しているってのもあれだがな……」
俺は背嚢の中に手を突っ込み、携帯食料を取り出して齧る。
流石に動きすぎで腹が減った。
「うわぁ……凄い状態だね、これ」
「あぅ……」
嬌声が止んだのを見計らって二人が降りてきた。
「よぅ、何とか生きているぜ」
俺は二人に向かって手を振る。身を起こそうとしたが、暫くは力が入りそうもない。
『警告、被ロックオンを確認。迎撃準備をしてください』
「は?」
二人を見ると、彼女らは何かを凝視していた。その視線の先を追うと……
「……げ」
未だに力を失わずに隆々と天を突き上げる我が息子。
お父さんそこまで立派に育って欲しいとは思ったことはありませんよ?
「あの〜?二人とも、少し落ち着いて話をしないか?」
「この状況で何無粋なこと言ってるのかな〜?♪折角だからあたし達も混ぜてよ♪」
「あの……私も……///」
神様助けてパート2。
『しかし祈りは届かなかった』
泣きたい。
「…………(目が虚ろ)」
「はぁ〜、満足満足♪」
「あの……気持よかったですよ?///」
ようやく息子がその力を失うと、二人は満足してくれたようで両脇に抱きついてくる。
「もう無理……煙も粉も出ない……」
一瞬あの世が見えかけたじゃないか。
『ピスケス様、サフィア様、詰所の探索成果の報告をお願いします』
「??」
サフィアはどこから聞こえてくるのかわからないのか、あちこち見回している。
そういや戦闘行動中は基本的に聞こえないんだったな。声を聞く機会も殆ど無かったから空耳だとでも思っていたのだろう。
「こいつからだよ」
鵺をコンコン叩いて教えてやると目を丸くして驚いていた。少し面白い。
「はいは〜い。え〜と、出荷予定目録?多分売り飛ばす先を記した表だね。これ」
彼女は持っていた巻紙を俺に渡してくる。
広げてみると、確かに名前と所属組織、受け取りに来る船と受け取り日時などが記されていた。
「これなんかは取引が今日みたい。それ以前のは……もう引き渡されちゃったのかな」
目録の上から3,4番目の項目は納品日時が今日になっていた。時間は……
「一、二時間後くらいか。場所は……サンライズハーバーだな。ここから運ぶ手間を考えれば近場なのは当然か」
しかし……白昼堂々奴隷取引とはね……。
「こいつを利用しない手はない……な」
ニヤリと笑う。
「どうするつもり?」
「ん?シービショップ『らしきもの』を引き渡す。あとはそうだな……船を沈めてやるか」
14/01/27 14:03更新 / テラー
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