第十三話〜孤立〜
〜???〜
またこの空間か……。
『生まれてからこっち……アタシは独りだった……』
暗い感情が伝わってくる。
『周りのみんなはいつも色恋の話ばかり……』
その感情に俺は耳を傾ける。
『そんな一塊の内の一人になりたくなくて……アタシは物心付いた頃から槍を振るっていた』
視界が切り取られ、仲間で話すホーネットの少女達と、輪から外れて一人槍を振るう少女が映る。
『周りは自分たちに合わせろって言うけど……アタシは御免だった』
『アタシだけが違う一人になれば……他とは違う何かが見えるはずだから』
『そんな事もあってアタシは巣では一人孤立していた……最初は気にも止めなかった』
『でも、同じ巣の子達が一人、また一人と相手を見つけていくと……アタシは次第に焦燥に駆られるようになった』
次に現れた光景は、ホーネットの女性と人間の男性が仲睦まじく話している光景だった。
成長した少女は、まだ槍を振って鍛錬を続けている。
『周りの皆は先に自分を見つけている……アタシには、まだ何も見えない』
その光景が、色あせてひび割れていく。
『母様からそろそろ伴侶を見つけなさいと言われた……アタシはその場は了承したけど、恋人なんて作る気はなかった』
豪奢な服を纏っているのは女王蜂だろうか?彼女と話をしている。
『そうこうしているうちに……アタシは焦りの正体に気づいてしまった』
『アタシは……いつの間にかあの一塊の内の一人になっていたのだ』
『それに気づいた時にアタシは……絶望した』
風景がまた一つ追加される。巨大な巣のようなものから飛び立つホーネットの女性。
手には大きな荷物と使い古した槍を持っている。
『アタシはせめて……あの一塊とは同じ場所には居たくないと巣を飛び出した』
『食料は十分あったし、寝場所もその日その日ではあるけれどちゃんと用意した』
『でも、足りなかった。酷く乾く。喉の渇きでも飢えでもない』
さらに追加された光景には、一人横たわり空を見上げるホーネットの女性。
『そんなある日、少し離れた所に男の旅人を見かけた』
真っ直ぐ伸びた道を、帽子を被った旅人らしき人物が歩いている。
『普段は気にも止めないのだが、この時は彼を見たときに猛烈な飢えに見舞われた』
『気づいたら、彼を押し倒していた。自分のしたことに理解が追いついたとき、アタシの目の前は真っ暗になった』
押し倒される旅人、その表情は恐怖に染まっていた。
『所詮アタシは、どこまで行ってもあの一塊と一緒だったのだ』
『もう嫌だった。自然と男を求めてしまう魔物の心が』
『もう嫌だった。本能で男を求めてしまう魔物の体が』
『だから……男を全てコロスコトニシタ』
景色が、空間が色褪せ、ひび割れていく。
『ゼンブコロセバ、モトメナクテスム。ダカラ、コロシテ、コロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテ、コロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテ……』
『殺して……どうするんだ?』
『ナニ?』
ひび割れた世界が一気に修復され、どこまでも広がる草原が現れる。
『いくら殺しても男は現れるぞ?それこそ進化が進めば魔物からも男は生まれてくるかもしれない』
『お前は、その魔物すら殺すつもりか?たった一人で』
『アタシハ……』
『その覚悟もあるってか?馬鹿馬鹿しい』
俺は肩をすくめて手をヒラヒラ振ってやる。
『人間も、魔物も増えるんだ。それこそ百人殺せば千人増え、千人殺せば一万人増える。どう見たってお前の手にゃ負えないよ』
『ソレデモ……ソレデモアタシハ!』
『もういい加減にしろよ!』
『!?』
俺の怒号に彼女が言葉を飲み込む。
もうこれ以上、彼女が自分を傷つけようとするのを見ていられなかった。
『なんで自分を否定するんだよ!誰かを求めるお前も!必死に槍を振るうお前もお前じゃないか!』
彼女に歩み寄る。彼女は若干たじろいだようだったが、構わず近づく。
『もうこれ以上……自分を傷つけんなよ……!』
そして、彼女を真正面から抱きしめる。自分の手で自分を傷つけないように。
『ッ!?ハ、ハナセ!』
『離さない』
『コロスゾ!?』
『殺したきゃ殺せ。お前がお前自身を傷つけるのを見るほうが、辛い』
彼女の動きが止まる。体全身が震え、まるで何かに耐えているようだ。
『ゥ……ァ……』
『それでも自分を傷つけると言うのなら……俺がお前を殺して、俺も死んでやる。一人にはさせない』
『ぁ……ぁぁぁああああああ!』
彼女は、自分の心の痛みを自覚したかのように、泣いた。
『落ち着いたか?』
抱きしめたまま髪を撫でる。彼女の涙は既に止まっていた。
『うん……全く、女の子に言うようなセリフじゃないよ。ホント』
『はは……うん、そうだな。思い出したら恥ずかしくなってきた』
顔が熱い。照れ隠しに頭を掻く。
『でも……嬉しかった』
頭を胸にうずめてくる彼女。触覚がヒコヒコと動いている。
『ねぇ……』
彼女は顔を上げると、俺の目を覗き込んで来る。
『もし、一緒に居てくれるっていうなら……それを感じさせて』
その目は涙に潤んでいた。
『独りはもう……嫌』
孤独に怯える彼女に、俺は口付けをした。
『この格好でするの……?』
俺が寝そべり、彼女が上へ。いわゆる騎乗位という奴だ。
『体の構造とかそういうのを考えるとどうしてもこれか、もしくは向かい合うような対面座位になってしまうんだけど……』
『いい!やっぱこれがいい!』
彼女は真っ赤になって首をブンブン振った。
つり目がちな目と対照的に真っ赤になった顔は意外と可愛かった。
『それじゃあ最初はこれを擦りつけてみようか』
『擦りつけるって……』
接触しているのは俺の息子と、彼女のアソコ。
『うぅ……なんてことさせるのよ……』
それでも彼女は体を前後させて擦りつけ始めた。
『ん……これ、アソコが擦れて……』
クチクチと接触している部分から音がし始める。
『はぁ……ん……ぁん……』
『ん……どうだ?』
『どうって……何が?』
恥ずかしいのか、それとも気持ちがいいのか、頬が朱に染まったまま聞き返す彼女。
『気持ちいいか……って事だ』
『言わせるな……ばか』
爪で俺の胸を引っ掻いてくる。その感触すら痛気持ちいい。
暫くすると、彼女のアソコと俺のモノがぬるぬると濡れてくる。
『そろそろかな……入れるか?』
『うん……何か緊張する』
俺は息子を手で支えると、彼女の膣口に当てる。
彼女は俺の胸に両手を着くと、ゆっくり腰を沈めていった。
『あつ……っ!』
『ゆっくり入れると逆に辛いぞ?一気に入れたほうが楽だ』
『そんな事言われても……怖いじゃない』
それでも尚ゆっくりと腰を進める彼女。
少し手伝ってやろう。
『ほれ』
<ZUN!>
『ひぁ!?』
両脇腹をつついてやる。見事に力が抜けた彼女は、
『っ〜〜〜〜〜!?』
俺の息子を一気に根元まで飲み込んでしまった。
『なにすんのよぉ……』
『まぁ結果的にすんなり行ったんだから問題無しだ』
ニヤっと笑ってサムズアップ。
『ばか……もうちょっと優しく扱えぇ……♪』
悪態を付きつつもその表情に笑いを隠せないようだ。
『ほら、おいで。しばらくは痛くて動けないだろうから』
彼女を引っ張り、抱きしめる。
『意地悪したり優しくしたり……ヘンな奴……』
『変で結構。自覚はしているつもりだ』
髪を撫でて落ち着かせる。次第に力が抜けてきたようだ。
『(う……これは……)』
胸の下あたりに感じる二つの柔らかい重圧。
『あれ……へぇ……♪』
いたずらっぽくニヤニヤ笑う彼女。
『中で大きくなってるよ?何考えてんのかな〜?♪』
そのまま二つの果実をグリグリ押し付けてくる。
悔しいので反撃。
『このけしからん二つのボールの事を……ね!』
横から手を入れてグニグニと揉みしだく。
『あ、ちょっと、揉まな……あん♪』
腕を押さえて止めようとしているが全然力が入ってない。
『この……♪調子に乗ってぇ……♪』
彼女は俺の胸に両手を付いて体を支えると、
『イタズラする奴には……こうしてやる!♪』
前後に動かして息子を扱き立てる。
『うわ……これ奥に当たってヤバいかも……』
この体位だと深く入り、子宮口を刺激しやすかったりする。
『ほらほら、動きが遅くなってるぞ?』
攻撃の手が緩んだので下から突き上げてやると、彼女は甘い嬌声を上げる。
『はぁう、突き上げないぃ♪感じ過ぎるか……ぅん♪』
『こっちもお留守にしちゃいけないよな。うん』
手から溢れそうな胸ももみくちゃにしてあげる。
『りょ、りょうほうは……きゅう……』
下はとろける蜜壺で責め立てられ、上は柔らかな果実で目を責め立てられる。
俺はその二重の責めであっという間に追い詰められていく。
『……っ!く……っ!』
『はぁ……はぁ……随分余裕が無くなってきたじゃない』
『余裕が無いのはお互い様さ……っ!』
双方の顔に浮かぶは虚勢の余裕と笑み。
『それじゃ、こんな事されたらどうなるかなぁ?』
『何をうぷ!?』
目の前が暗くなり、柔らかい重圧が顔にのしかかって来る。
『ほらほらぁ♪追い詰めちゃうぞ♪』
さらに激しく腰を振り立ててくる。
『〜〜〜っ!〜〜〜っ!』
顔をガッチリとホールドされているのでジタバタともがくしかない。
『あは♪ブルブル震えてるよ?そろそろイっちゃうかな〜?』
鼻と口を塞がれているのと、激しく息子を扱かれているのとで俺はあっというまに追い詰められてしまった。
『そろそろアタシも……ん……イきそうだからさ……』
彼女が俺の耳元へ口を寄せて囁く。
『一緒に……イこ?』
ゾクゾクが体中を駆けまわる。
『んは……ん……う……♪』
お互いに下半身をぶつけ合い、共に昇りつめていく。
『あ、イク、イク、イク!』
彼女の膣内の痙攣が激しくなっていく。
『イ……ああああぁぁぁぁああああ!♪』
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!』
人間は窒息しかけたり、死にかけたりすると通常より精液の量が増えるという。
俺が出した精液の射精量は、過去最高量を記録した。
『はぁ……何意地張ってたんだろ……アタシ』
二人して寝転がり、行為の後の余韻を楽しむ。
『こんなに楽しくて、こんなに幸せなのに……馬鹿みたい』
『それに気付けたって事はまだ手遅れじゃないだろ』
『うん……ありがと♪』
空から差して来る光が強くなる。
『これって、夢だったのかな?』
『いいんじゃないか?夢でも』
彼女は俺の首に腕を絡ませてくる。俺はその肩に腕を回してやった。
『終わっちゃうとしたら……少し寂しいな』
『大丈夫だ、また会える』
『うん……うん♪』
引き寄せられるように唇を重ねると、意識が現実へ引き戻されていった。
<シーン森林>
「ぐぅ!?があああああああ!?」
意識が戻った途端、焼けつくような痛みが左肩を襲う。
シャツの襟元から覗く肌が、紫色に腫れ上がっていた。
「クソッ!ホーネットの毒か……!淫毒にはなってないみたいだが……キツいな……これは……!」
目が霞む。バックパックから先日買った解毒剤を取り出す。どうやら患部に刺すと自動で薬品を注入する注射器のようだ。変なところでハイテクな世界である。
「効きゃあいいが……な!」
左肩に注射器を刺す。中から薬品が流れ込み、さらに激痛が走る。
「ぐ……が……ッ!」
別に悲鳴をこらえた訳ではない。痛すぎて声すら出なかっただけだ。
暫くすると痛みは引いた。これがプラシーボ効果によるものなのか、本当に効いているのかはわからないが。
『報告。エクセルシアの取得により一部機能が回復。
オクスタンライフル出力微量上昇。
重火器類<フレイムスロワー>がリンク回復。
戦略級光学兵器<プチアグニ>リンク回復、ただし最大出力が20%に制限されています。報告を終了します』
「そんなことはいい!……あいつ……あいつは……」
隣に倒れていたホーネットが縮んでゆき、女性の形を取っていく。
予想通り、昆虫の腹の部分が破れていた。
「こいつも……慣れないな。クソッ!」
『身体構造が通常の人間とかけ離れています。パラケルススでの治療不可』
ここぞというときに役に立たないな、こいつは!
彼女がうっすらと目を開け、何かを呟く。
「いた……い……いっしょ……いっしょに……死ん……」
こちらに手を伸ばしてくる。
「俺は……ここでは……死なない……」
「……ぇ…………」
俺はきっぱりとそう告げる。
「俺は……ここでは死なない。だから、お前も生きろ……。死ぬことは……許さん!」
彼女を抱え上げ、背負う。
「……ぁ…………」
首筋に、温かい雫が落ちた。
「あた……し……いき……たい……いきたい……よ……」
「当たり……前だ。死なせる……ものか」
鵺を拾い上げ、ベルトを肩に架けて走りだす。
「(とは言ったものの……こう足場が悪いと時間もかかるよな……)」
左肩の熱感はもう引いていたが、見るのが怖いので見ていない。
林道からは大分離れていたため、足元は濃い草むらに覆われている。
エルドル樹海ほどでは無いものの、歩きにくいことには変りない。
「空でも飛べたらいいんだがな……!クソッ!」
『提案。新しく追加されたE-Weaponに短距離ですが飛行能力があります』
「それを使った場合の時間短縮効果はどのぐらいだ!?」
『移動効率の上昇は2000%の上昇が見込めます。ただし、着地に難有り』
「イチバチだ……どの道チンタラ歩いていたら助からない!使うぞ、ラプラス!」
俺は肩に架けた背嚢から包帯を取り出して彼女の裂傷部分に巻きつける。衝撃で中身が飛び出ないようにするための応急措置だ。
さらにロープを取り出し、彼女を落ちないように体に括りつけた。
『了解。E-Weaponブリッツランス展開。逆手に持ち替えてください』
鵺を逆手に持ち代えると、銃の後部から太い槍のような物が迫り出してくる。
さらに腕の周りにアームサポーターが展開され、腕と鵺を完全に固定してしまう。
『続いて大型推進ユニット<シェルブースター>展開』
鵺が光に包まれ、眩しさに辺りが見えなくなる。
光が収まるとそこには……
「ゴツいな……」
体全体を覆うほどの大きさのブーストユニットが鵺に接続されていた。
反重力装置が働いているのか、ブーストユニットは地面から若干浮いている。
『射角を30度に設定。突進行動中は防護フィールドが展開されますが、万一の場合に備えて耐ショック姿勢を取ってください』
「いや無理だろ」
推進ユニットにエネルギーが蓄積され始め、高音を立て始める。
『TAKE OFF』
推進ユニットに火が入り、辺りの風景が置いてきぼりになる。
「うをおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!?」
強烈なGを感じるのに、風が吹きつけて来ないのは防護フィールドのおかげだろうか。
『目標到達地点まで、残り3000……2500……2000』
飛行軌道は放物線を描き、高度が徐々に下がっていく。
「いけるか!?」
『誤差5%以内。目標到達地点まで、残り1500……1000、900、800』
この時点で防護フィールドごと大通りに突っ込み、地面を削りながら突進し続ける。
さらに、フィールドごと地面に叩きつけられた足が悲鳴を上げる。
<バゴン!>
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」
ん?何かが当たったか?
『推進ユニット停止。目標地点まで、残り500、400、300、200、100』
地面を削りながら減速。見えてきたのはキサラギ医院。
『残り100、90、80、70、60、50、40、30、20、10』
キサラギ医院の壁をブチ破り、床を削りながら停止する。
『0。目標地点へ到着。誤差は3.27%。許容範囲以内です』
「許容範囲以内で大通り崩壊と医院の壁ブチ抜いちまったけどな。まぁ緊急事態だからしゃあない」
「一体何事だい!?」
ヒロトが奥から跳び出して来る。
「うわ!アルテア、一体何やってるのさ!?」
「急患だ。治療の準備は出来ているんだろう?」
ブスブスと放熱状態の鵺を置き、背負っている彼女を見せる。
「患者って君が連れてくるって事だったのか……とにかく診療室へ運んでくれ!マロンも待っている!」
「了解!まだ死ぬんじゃねぇぞ……!」
診療室へ彼女を連れて行くと、中でマロンが待機していた。
「またあんた?よくまぁ怪我人を連れ込むものね。今回あんたは怪我してないでしょうね?」
「俺は後だ。治療を頼む」
ロープを解き、ベッドに彼女を横たえると、診療室を後にする。入れ違いでヒロトが入ってきた。
「ここから先はお前の仕事だ、任せたぞ」
掌を軽く上げる。
「任せなよ。彼女は救ってみせる」
その掌に合わせ、ヒロトも掌を上げる。
すれ違う瞬間、掌同士を打ち合わせる小気味よい音が鳴り響いた。
「何で俺まで入院せにゃならんのだ」
『コピーキャットの反動による全身筋肉痛、ブリッツランスの着地反動による両足打撲、左肩の刺創、全身の擦り傷切り傷。毒のその場しのぎの治療。入院しないほうがおかしいと思いますが』
反論できねぇ。
ここはキサラギ医院のベッドの上。少し離れたベッドではホーネットの女性が静かに寝息を立てている。
「もう少しスマートに事態を解決したかったもんだがな……」
『あの状況では他に取りうる選択肢があったとは思えません。私は常にマスターの意に沿った最善策を提示するだけです』
俺の世界が作った自己進化を続けるAI。その判断力は日々進化している。しかし、
「お前のサポートに間違いがあったとは言わないさ。ただもうちょっと痛くない方法を採りたかったなってだけだ」
その判断がいつか俺の体の限界を超えそうで怖かったりするのも事実だ。
『ご安心下さい。私は、マスターの身体強度を補正に入れた上で、取りうる行動を提示しています』
優しい事で。嬉しくて涙が出てくる。少ししょっぱいけど。
「ぅ……ん……」
隣のベッドのホーネットが意識を取り戻したようだ。
「よう、目は覚めたか?」
彼女は首だけ動かしてこちらを見てくる。
「あたし……いきてる……?」
「おう、ヒロトに感謝しろよ?瀕死状態のお前を助けてくれたんだからな。あいつもそろそろ医者の卵の名前は返上したほうがいいんじゃねぇかな?」
彼女は枕に頭を沈めるとポツリと呟く。
「そっか……いきてるんだ……アタシ……」
生の実感を噛み締めるように。
「あんた……どっかで会ったこと無い……?」
「さぁね。俺は大怪我をしていたあんたをここまで担ぎ込んだだけだ」
「そ……何か……約束をしていた気がするんだけど……な」
俺は……何も言わない。
「あんた……名前は……?」
「アルテア、アルテア=ブレイナーだ」
寝転がったまま手を振る。
「誰かを独りにしたくないだけの、ただの冒険者さ」
『今回は立ち去ることはできないので、しっかり休んでください』
せっかく格好良く決めたというのに。
またこの空間か……。
『生まれてからこっち……アタシは独りだった……』
暗い感情が伝わってくる。
『周りのみんなはいつも色恋の話ばかり……』
その感情に俺は耳を傾ける。
『そんな一塊の内の一人になりたくなくて……アタシは物心付いた頃から槍を振るっていた』
視界が切り取られ、仲間で話すホーネットの少女達と、輪から外れて一人槍を振るう少女が映る。
『周りは自分たちに合わせろって言うけど……アタシは御免だった』
『アタシだけが違う一人になれば……他とは違う何かが見えるはずだから』
『そんな事もあってアタシは巣では一人孤立していた……最初は気にも止めなかった』
『でも、同じ巣の子達が一人、また一人と相手を見つけていくと……アタシは次第に焦燥に駆られるようになった』
次に現れた光景は、ホーネットの女性と人間の男性が仲睦まじく話している光景だった。
成長した少女は、まだ槍を振って鍛錬を続けている。
『周りの皆は先に自分を見つけている……アタシには、まだ何も見えない』
その光景が、色あせてひび割れていく。
『母様からそろそろ伴侶を見つけなさいと言われた……アタシはその場は了承したけど、恋人なんて作る気はなかった』
豪奢な服を纏っているのは女王蜂だろうか?彼女と話をしている。
『そうこうしているうちに……アタシは焦りの正体に気づいてしまった』
『アタシは……いつの間にかあの一塊の内の一人になっていたのだ』
『それに気づいた時にアタシは……絶望した』
風景がまた一つ追加される。巨大な巣のようなものから飛び立つホーネットの女性。
手には大きな荷物と使い古した槍を持っている。
『アタシはせめて……あの一塊とは同じ場所には居たくないと巣を飛び出した』
『食料は十分あったし、寝場所もその日その日ではあるけれどちゃんと用意した』
『でも、足りなかった。酷く乾く。喉の渇きでも飢えでもない』
さらに追加された光景には、一人横たわり空を見上げるホーネットの女性。
『そんなある日、少し離れた所に男の旅人を見かけた』
真っ直ぐ伸びた道を、帽子を被った旅人らしき人物が歩いている。
『普段は気にも止めないのだが、この時は彼を見たときに猛烈な飢えに見舞われた』
『気づいたら、彼を押し倒していた。自分のしたことに理解が追いついたとき、アタシの目の前は真っ暗になった』
押し倒される旅人、その表情は恐怖に染まっていた。
『所詮アタシは、どこまで行ってもあの一塊と一緒だったのだ』
『もう嫌だった。自然と男を求めてしまう魔物の心が』
『もう嫌だった。本能で男を求めてしまう魔物の体が』
『だから……男を全てコロスコトニシタ』
景色が、空間が色褪せ、ひび割れていく。
『ゼンブコロセバ、モトメナクテスム。ダカラ、コロシテ、コロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテ、コロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテ……』
『殺して……どうするんだ?』
『ナニ?』
ひび割れた世界が一気に修復され、どこまでも広がる草原が現れる。
『いくら殺しても男は現れるぞ?それこそ進化が進めば魔物からも男は生まれてくるかもしれない』
『お前は、その魔物すら殺すつもりか?たった一人で』
『アタシハ……』
『その覚悟もあるってか?馬鹿馬鹿しい』
俺は肩をすくめて手をヒラヒラ振ってやる。
『人間も、魔物も増えるんだ。それこそ百人殺せば千人増え、千人殺せば一万人増える。どう見たってお前の手にゃ負えないよ』
『ソレデモ……ソレデモアタシハ!』
『もういい加減にしろよ!』
『!?』
俺の怒号に彼女が言葉を飲み込む。
もうこれ以上、彼女が自分を傷つけようとするのを見ていられなかった。
『なんで自分を否定するんだよ!誰かを求めるお前も!必死に槍を振るうお前もお前じゃないか!』
彼女に歩み寄る。彼女は若干たじろいだようだったが、構わず近づく。
『もうこれ以上……自分を傷つけんなよ……!』
そして、彼女を真正面から抱きしめる。自分の手で自分を傷つけないように。
『ッ!?ハ、ハナセ!』
『離さない』
『コロスゾ!?』
『殺したきゃ殺せ。お前がお前自身を傷つけるのを見るほうが、辛い』
彼女の動きが止まる。体全身が震え、まるで何かに耐えているようだ。
『ゥ……ァ……』
『それでも自分を傷つけると言うのなら……俺がお前を殺して、俺も死んでやる。一人にはさせない』
『ぁ……ぁぁぁああああああ!』
彼女は、自分の心の痛みを自覚したかのように、泣いた。
『落ち着いたか?』
抱きしめたまま髪を撫でる。彼女の涙は既に止まっていた。
『うん……全く、女の子に言うようなセリフじゃないよ。ホント』
『はは……うん、そうだな。思い出したら恥ずかしくなってきた』
顔が熱い。照れ隠しに頭を掻く。
『でも……嬉しかった』
頭を胸にうずめてくる彼女。触覚がヒコヒコと動いている。
『ねぇ……』
彼女は顔を上げると、俺の目を覗き込んで来る。
『もし、一緒に居てくれるっていうなら……それを感じさせて』
その目は涙に潤んでいた。
『独りはもう……嫌』
孤独に怯える彼女に、俺は口付けをした。
『この格好でするの……?』
俺が寝そべり、彼女が上へ。いわゆる騎乗位という奴だ。
『体の構造とかそういうのを考えるとどうしてもこれか、もしくは向かい合うような対面座位になってしまうんだけど……』
『いい!やっぱこれがいい!』
彼女は真っ赤になって首をブンブン振った。
つり目がちな目と対照的に真っ赤になった顔は意外と可愛かった。
『それじゃあ最初はこれを擦りつけてみようか』
『擦りつけるって……』
接触しているのは俺の息子と、彼女のアソコ。
『うぅ……なんてことさせるのよ……』
それでも彼女は体を前後させて擦りつけ始めた。
『ん……これ、アソコが擦れて……』
クチクチと接触している部分から音がし始める。
『はぁ……ん……ぁん……』
『ん……どうだ?』
『どうって……何が?』
恥ずかしいのか、それとも気持ちがいいのか、頬が朱に染まったまま聞き返す彼女。
『気持ちいいか……って事だ』
『言わせるな……ばか』
爪で俺の胸を引っ掻いてくる。その感触すら痛気持ちいい。
暫くすると、彼女のアソコと俺のモノがぬるぬると濡れてくる。
『そろそろかな……入れるか?』
『うん……何か緊張する』
俺は息子を手で支えると、彼女の膣口に当てる。
彼女は俺の胸に両手を着くと、ゆっくり腰を沈めていった。
『あつ……っ!』
『ゆっくり入れると逆に辛いぞ?一気に入れたほうが楽だ』
『そんな事言われても……怖いじゃない』
それでも尚ゆっくりと腰を進める彼女。
少し手伝ってやろう。
『ほれ』
<ZUN!>
『ひぁ!?』
両脇腹をつついてやる。見事に力が抜けた彼女は、
『っ〜〜〜〜〜!?』
俺の息子を一気に根元まで飲み込んでしまった。
『なにすんのよぉ……』
『まぁ結果的にすんなり行ったんだから問題無しだ』
ニヤっと笑ってサムズアップ。
『ばか……もうちょっと優しく扱えぇ……♪』
悪態を付きつつもその表情に笑いを隠せないようだ。
『ほら、おいで。しばらくは痛くて動けないだろうから』
彼女を引っ張り、抱きしめる。
『意地悪したり優しくしたり……ヘンな奴……』
『変で結構。自覚はしているつもりだ』
髪を撫でて落ち着かせる。次第に力が抜けてきたようだ。
『(う……これは……)』
胸の下あたりに感じる二つの柔らかい重圧。
『あれ……へぇ……♪』
いたずらっぽくニヤニヤ笑う彼女。
『中で大きくなってるよ?何考えてんのかな〜?♪』
そのまま二つの果実をグリグリ押し付けてくる。
悔しいので反撃。
『このけしからん二つのボールの事を……ね!』
横から手を入れてグニグニと揉みしだく。
『あ、ちょっと、揉まな……あん♪』
腕を押さえて止めようとしているが全然力が入ってない。
『この……♪調子に乗ってぇ……♪』
彼女は俺の胸に両手を付いて体を支えると、
『イタズラする奴には……こうしてやる!♪』
前後に動かして息子を扱き立てる。
『うわ……これ奥に当たってヤバいかも……』
この体位だと深く入り、子宮口を刺激しやすかったりする。
『ほらほら、動きが遅くなってるぞ?』
攻撃の手が緩んだので下から突き上げてやると、彼女は甘い嬌声を上げる。
『はぁう、突き上げないぃ♪感じ過ぎるか……ぅん♪』
『こっちもお留守にしちゃいけないよな。うん』
手から溢れそうな胸ももみくちゃにしてあげる。
『りょ、りょうほうは……きゅう……』
下はとろける蜜壺で責め立てられ、上は柔らかな果実で目を責め立てられる。
俺はその二重の責めであっという間に追い詰められていく。
『……っ!く……っ!』
『はぁ……はぁ……随分余裕が無くなってきたじゃない』
『余裕が無いのはお互い様さ……っ!』
双方の顔に浮かぶは虚勢の余裕と笑み。
『それじゃ、こんな事されたらどうなるかなぁ?』
『何をうぷ!?』
目の前が暗くなり、柔らかい重圧が顔にのしかかって来る。
『ほらほらぁ♪追い詰めちゃうぞ♪』
さらに激しく腰を振り立ててくる。
『〜〜〜っ!〜〜〜っ!』
顔をガッチリとホールドされているのでジタバタともがくしかない。
『あは♪ブルブル震えてるよ?そろそろイっちゃうかな〜?』
鼻と口を塞がれているのと、激しく息子を扱かれているのとで俺はあっというまに追い詰められてしまった。
『そろそろアタシも……ん……イきそうだからさ……』
彼女が俺の耳元へ口を寄せて囁く。
『一緒に……イこ?』
ゾクゾクが体中を駆けまわる。
『んは……ん……う……♪』
お互いに下半身をぶつけ合い、共に昇りつめていく。
『あ、イク、イク、イク!』
彼女の膣内の痙攣が激しくなっていく。
『イ……ああああぁぁぁぁああああ!♪』
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!』
人間は窒息しかけたり、死にかけたりすると通常より精液の量が増えるという。
俺が出した精液の射精量は、過去最高量を記録した。
『はぁ……何意地張ってたんだろ……アタシ』
二人して寝転がり、行為の後の余韻を楽しむ。
『こんなに楽しくて、こんなに幸せなのに……馬鹿みたい』
『それに気付けたって事はまだ手遅れじゃないだろ』
『うん……ありがと♪』
空から差して来る光が強くなる。
『これって、夢だったのかな?』
『いいんじゃないか?夢でも』
彼女は俺の首に腕を絡ませてくる。俺はその肩に腕を回してやった。
『終わっちゃうとしたら……少し寂しいな』
『大丈夫だ、また会える』
『うん……うん♪』
引き寄せられるように唇を重ねると、意識が現実へ引き戻されていった。
<シーン森林>
「ぐぅ!?があああああああ!?」
意識が戻った途端、焼けつくような痛みが左肩を襲う。
シャツの襟元から覗く肌が、紫色に腫れ上がっていた。
「クソッ!ホーネットの毒か……!淫毒にはなってないみたいだが……キツいな……これは……!」
目が霞む。バックパックから先日買った解毒剤を取り出す。どうやら患部に刺すと自動で薬品を注入する注射器のようだ。変なところでハイテクな世界である。
「効きゃあいいが……な!」
左肩に注射器を刺す。中から薬品が流れ込み、さらに激痛が走る。
「ぐ……が……ッ!」
別に悲鳴をこらえた訳ではない。痛すぎて声すら出なかっただけだ。
暫くすると痛みは引いた。これがプラシーボ効果によるものなのか、本当に効いているのかはわからないが。
『報告。エクセルシアの取得により一部機能が回復。
オクスタンライフル出力微量上昇。
重火器類<フレイムスロワー>がリンク回復。
戦略級光学兵器<プチアグニ>リンク回復、ただし最大出力が20%に制限されています。報告を終了します』
「そんなことはいい!……あいつ……あいつは……」
隣に倒れていたホーネットが縮んでゆき、女性の形を取っていく。
予想通り、昆虫の腹の部分が破れていた。
「こいつも……慣れないな。クソッ!」
『身体構造が通常の人間とかけ離れています。パラケルススでの治療不可』
ここぞというときに役に立たないな、こいつは!
彼女がうっすらと目を開け、何かを呟く。
「いた……い……いっしょ……いっしょに……死ん……」
こちらに手を伸ばしてくる。
「俺は……ここでは……死なない……」
「……ぇ…………」
俺はきっぱりとそう告げる。
「俺は……ここでは死なない。だから、お前も生きろ……。死ぬことは……許さん!」
彼女を抱え上げ、背負う。
「……ぁ…………」
首筋に、温かい雫が落ちた。
「あた……し……いき……たい……いきたい……よ……」
「当たり……前だ。死なせる……ものか」
鵺を拾い上げ、ベルトを肩に架けて走りだす。
「(とは言ったものの……こう足場が悪いと時間もかかるよな……)」
左肩の熱感はもう引いていたが、見るのが怖いので見ていない。
林道からは大分離れていたため、足元は濃い草むらに覆われている。
エルドル樹海ほどでは無いものの、歩きにくいことには変りない。
「空でも飛べたらいいんだがな……!クソッ!」
『提案。新しく追加されたE-Weaponに短距離ですが飛行能力があります』
「それを使った場合の時間短縮効果はどのぐらいだ!?」
『移動効率の上昇は2000%の上昇が見込めます。ただし、着地に難有り』
「イチバチだ……どの道チンタラ歩いていたら助からない!使うぞ、ラプラス!」
俺は肩に架けた背嚢から包帯を取り出して彼女の裂傷部分に巻きつける。衝撃で中身が飛び出ないようにするための応急措置だ。
さらにロープを取り出し、彼女を落ちないように体に括りつけた。
『了解。E-Weaponブリッツランス展開。逆手に持ち替えてください』
鵺を逆手に持ち代えると、銃の後部から太い槍のような物が迫り出してくる。
さらに腕の周りにアームサポーターが展開され、腕と鵺を完全に固定してしまう。
『続いて大型推進ユニット<シェルブースター>展開』
鵺が光に包まれ、眩しさに辺りが見えなくなる。
光が収まるとそこには……
「ゴツいな……」
体全体を覆うほどの大きさのブーストユニットが鵺に接続されていた。
反重力装置が働いているのか、ブーストユニットは地面から若干浮いている。
『射角を30度に設定。突進行動中は防護フィールドが展開されますが、万一の場合に備えて耐ショック姿勢を取ってください』
「いや無理だろ」
推進ユニットにエネルギーが蓄積され始め、高音を立て始める。
『TAKE OFF』
推進ユニットに火が入り、辺りの風景が置いてきぼりになる。
「うをおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!?」
強烈なGを感じるのに、風が吹きつけて来ないのは防護フィールドのおかげだろうか。
『目標到達地点まで、残り3000……2500……2000』
飛行軌道は放物線を描き、高度が徐々に下がっていく。
「いけるか!?」
『誤差5%以内。目標到達地点まで、残り1500……1000、900、800』
この時点で防護フィールドごと大通りに突っ込み、地面を削りながら突進し続ける。
さらに、フィールドごと地面に叩きつけられた足が悲鳴を上げる。
<バゴン!>
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」
ん?何かが当たったか?
『推進ユニット停止。目標地点まで、残り500、400、300、200、100』
地面を削りながら減速。見えてきたのはキサラギ医院。
『残り100、90、80、70、60、50、40、30、20、10』
キサラギ医院の壁をブチ破り、床を削りながら停止する。
『0。目標地点へ到着。誤差は3.27%。許容範囲以内です』
「許容範囲以内で大通り崩壊と医院の壁ブチ抜いちまったけどな。まぁ緊急事態だからしゃあない」
「一体何事だい!?」
ヒロトが奥から跳び出して来る。
「うわ!アルテア、一体何やってるのさ!?」
「急患だ。治療の準備は出来ているんだろう?」
ブスブスと放熱状態の鵺を置き、背負っている彼女を見せる。
「患者って君が連れてくるって事だったのか……とにかく診療室へ運んでくれ!マロンも待っている!」
「了解!まだ死ぬんじゃねぇぞ……!」
診療室へ彼女を連れて行くと、中でマロンが待機していた。
「またあんた?よくまぁ怪我人を連れ込むものね。今回あんたは怪我してないでしょうね?」
「俺は後だ。治療を頼む」
ロープを解き、ベッドに彼女を横たえると、診療室を後にする。入れ違いでヒロトが入ってきた。
「ここから先はお前の仕事だ、任せたぞ」
掌を軽く上げる。
「任せなよ。彼女は救ってみせる」
その掌に合わせ、ヒロトも掌を上げる。
すれ違う瞬間、掌同士を打ち合わせる小気味よい音が鳴り響いた。
「何で俺まで入院せにゃならんのだ」
『コピーキャットの反動による全身筋肉痛、ブリッツランスの着地反動による両足打撲、左肩の刺創、全身の擦り傷切り傷。毒のその場しのぎの治療。入院しないほうがおかしいと思いますが』
反論できねぇ。
ここはキサラギ医院のベッドの上。少し離れたベッドではホーネットの女性が静かに寝息を立てている。
「もう少しスマートに事態を解決したかったもんだがな……」
『あの状況では他に取りうる選択肢があったとは思えません。私は常にマスターの意に沿った最善策を提示するだけです』
俺の世界が作った自己進化を続けるAI。その判断力は日々進化している。しかし、
「お前のサポートに間違いがあったとは言わないさ。ただもうちょっと痛くない方法を採りたかったなってだけだ」
その判断がいつか俺の体の限界を超えそうで怖かったりするのも事実だ。
『ご安心下さい。私は、マスターの身体強度を補正に入れた上で、取りうる行動を提示しています』
優しい事で。嬉しくて涙が出てくる。少ししょっぱいけど。
「ぅ……ん……」
隣のベッドのホーネットが意識を取り戻したようだ。
「よう、目は覚めたか?」
彼女は首だけ動かしてこちらを見てくる。
「あたし……いきてる……?」
「おう、ヒロトに感謝しろよ?瀕死状態のお前を助けてくれたんだからな。あいつもそろそろ医者の卵の名前は返上したほうがいいんじゃねぇかな?」
彼女は枕に頭を沈めるとポツリと呟く。
「そっか……いきてるんだ……アタシ……」
生の実感を噛み締めるように。
「あんた……どっかで会ったこと無い……?」
「さぁね。俺は大怪我をしていたあんたをここまで担ぎ込んだだけだ」
「そ……何か……約束をしていた気がするんだけど……な」
俺は……何も言わない。
「あんた……名前は……?」
「アルテア、アルテア=ブレイナーだ」
寝転がったまま手を振る。
「誰かを独りにしたくないだけの、ただの冒険者さ」
『今回は立ち去ることはできないので、しっかり休んでください』
せっかく格好良く決めたというのに。
12/03/06 11:53更新 / テラー
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