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第十二話〜POISON STING〜
〜冒険者ギルド ロビー〜

『奇跡の媚薬開発。材料は伝説のアルラウネ
モイライ魔術師ギルド ギルド長兼サバト長 エルファ=T=ヤーシュカは先日のサバト集会で新型媚薬『流れ星』を発表。
同サバト集会での新作媚薬コンテストでグランプリを受賞した。
この新型媚薬には極一部の噂話にしかなっていない「金色のアルラウネ」の花弁が使われており、発表時のサバト集会は驚愕に包まれたという。
なお、この金色のアルラウネの花弁の入手経路は明らかにされておらず、その出処は依然エルファ女史の胸の内にしまわれている。
なお、今回のグランプリの副賞でもある、パートナー優先決定権をエルファ女史は棄権。集会は騒然となった。
今回の件をエルファ女史に取材したところ、『もう素敵な兄様は見つけてあるのじゃ。あとは兄様の心を掴むのみじゃから権利はいらん』とのこと。
エルファ女史はモイライの街のでも有数の魔術師であり、彼女のパートナーは誰になるのかと世論では様々な憶測が飛び交っている』


「ふふん!どうじゃ、わしにかかればあれだけの材料があればこのぐらい簡単なのじゃ!」

いつもの朝。いつもの冒険者ギルドのロビー。
俺は朝のコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
向かい側には無い胸をふんぞり返らせてエルファが座っている。

「元々は俺が取ってきた物なんだがなぁ……それに同じ物作れって言われたらどうするんだよ?また取りに行くとか俺はゴメンだぞ?」
「それについては問題ないのじゃ!」
彼女は鞄から羊皮紙の巻紙を取り出すと、広げて俺に突きつけてきた。

「エルドル樹海のハニービー達と取引をしての、定期的にミーテリアの蜜を送ってもらう契約をしたんじゃ」
「作った分の媚薬は少し奴らに持って行かれてしまうがの、それでも稀少価値とブランド力で『流れ星』の価格は鰻登りどころか文字通り流星上がりじゃ!笑いがとまらんの!」

ぬっほっほと笑うエルファ。少し不気味だ。

「流星は上がるのではなく落ちる物なんだがな」
「何、言葉のあやじゃよ、言葉のあや」
エルファは羊皮紙を鞄に戻すと、こちらに視線を向ける。

「のう、おぬしよ。優勝した祝に頼みがあるんじゃが」
「そうか、俺にできる範囲でならなんでもいいぜ?」
俺はコーヒーを口に含み、新聞紙をめくり、記事を眺める。どこかのお偉いさんの挿絵が胡散臭い笑顔で立っていた。

「わしの兄様になってはくれんかの?」
コーヒーを吹いた。お偉いさんの絵がコーヒーまみれに。

「うげふっ!?げほっ!?おま、何言ってんだ!?」
「わかっておるじゃろうに?この間はあんなに激しく抱いてくれたというのに忘れてしもうたのかの?」

「あの件はもういいって言ってたろ!?」
「あの時のおぬしは逞しかったのぉ……あの強引さにすっかり惚れ込んでしもうた」
聞いちゃいねぇ。

「ふ〜ん……結局手出したんだ」
いつの間にか隣に座っているニータ。

「あれは事故だ!俺の意思じゃねぇ!」
「ばふぉちゃんがどうかしたの?」
アニスちゃんまでもが参戦。このパターンは、マズい。

「明日へ逃避……!?」
「あら、楽しそうね?私も混ぜてくれるかしら?」
『しかし回りこまれた』
立ちふさがるミリアさん。あんた絶対確信犯だろ。

これ以上の乱入者を防ぐために視界の端に映った緑色の何かを観葉植物の植木鉢の中に突っ込む。
「私が何をしたああああ!?」
予防だ、予防。

「逃げられはせんぞ?じっくりと話をしようではないか」

俺はテーブルに立て掛けてあった鵺を引っ掴み、ウィンドウを呼び出す。
兵装選択、撹乱兵器、スモッググレネード選択。
『了解。AN―M8煙幕弾装填』
「発射(テ)ェーーーー!」
砲身を斜め下に向け、トリガーを引く。

円筒形のスモッググレネードが射出され、濃い煙を吹上げ始めた。

<うを!?何だ?!火事か!?>
<何もみえな……ゲホっ!>
<換気をしろ!換気を!>

辺りがパニックになるが知ったことじゃない。

「戦略的撤退ー!」
俺は一目散にギルドを逃げ出した。

『敵前逃亡、敵前逃亡。至急戦線へ復帰せよ』
知るか。



〜キサラギ医院 休憩室〜

「はぁ〜……やっと落ち着けた」
「あの、ここは休憩所じゃ無いんだけど」

俺はキサラギ医院の宿直室でコーヒーを啜っていた。ついでなので砂糖も入れてやる。

「仕方ないだろ?ギルドのロビーじゃ何かにつけて弄られるんだから」
「それ僕の医院で休んでいい理由になってませんよねぇ!?」
「どうせ万年閑古鳥だろ?いいじゃねぇか、少しぐらい」
「否定できないのが辛いよ……」
新聞が置いてあるのを見つけると、手にとって読み始める。
まだ全部呼んでないんだよな。

「すっかりくつろいでますね、あんた」
「たまにはいいだろ?」
新聞に目を落とす。記事には、奇妙な事件が載っていた。

『森林の中の惨殺死体?犯人はホーネットか。
今日未明、シーン森林の林道で、体を数十箇所刺され死亡している男性が発見されました。
被害者は長い針のようなもので無数に刺されており、自警団はホーネットの犯行ではないかという見方を強めている。
シーン森林のホーネットのコロニー全てが犯行を否定。
自警団は、男女関係のもつれの方向から捜査を進める見込み』


「こわいねぇ……ホーネットとハニービーで二股でもかけてたのかな?」
「……」

「あ、何か身に覚えでもあったりする?」
『身に覚えも何も事後ですね』

「無いわけではないが今はその事じゃない」
俺はこの事件に違和感を覚えていた。
「(もしホーネットに刺されたなら淫毒が検出されてもおかしくない筈だが……特にそういった事実は書かれていない……。第一殺しちゃマズいだろ。)」

「どう思う?ラプラス」
ヒロトがトイレに行った隙にラプラスに推測を求める。

『E-クリーチャーの可能性は大。しかし、実際に現場へ行き、反応を測定しないことには断言は不可能です』
「だな……」
ヒロトがトイレから戻ってくる。

「ん?今誰かと話してた?」
「いや、……ヒロト」
「何?」
俺は鵺を担いで立ち上がる。

「昆虫系の魔物の患者が運び込まれてくるかもしれん。治療の準備をしておいてくれ」
「あ、ちょっと!?どういうこと!?」
返事をせずに、俺は医院を後にした。

〜シーン森林〜
三十分後、俺は事件のあった林道へと赴いていた。
「事件があった林道はここだよな?」
『はい、現在、遺体は片付けられていますが間違いなくこの地点です』
「反応は?」
『微弱ながらもエクセルシアの反応あり。しかし、位置特定をするには反応が不足しています』
「ふむ……」
犯行後10時間以上も経っていればそんなものだろう。

「探すぞ」
『了解。動体センサー展開。奇襲にご注意ください』
AIの忠告を受けながら、俺は森の中へと歩を進める。

「鬼が出るか蛇が出るか……出るのは蜂だろうけどな」



『九字方向より動体反応接近。数は一、距離300』
「さっそくおいでなすったか!」
左を向くと……。

「デカい!?」
体長3メートルはあろうかというスズメバチがこちらへ猛然と突進して来る所だった。

「どぅあ!?」
咄嗟に伏せて突進をやり過ごす。
ブッシュに飛び込み、身を隠して次の一手を考えることに。

「あんなデカブツどうしろってんだ……」
おまけに速い。先日のワーウルフとは比べ物にならない。

『準備動作から突進まで1秒程度のタイムラグが存在します』
「だからってこっちの武器は殆ど通用しないだろうが……」
おそらくあいつもバリアフィールドを持っているだろう。オクスタンライフルも威力が戻っていない。遠距離からチマチマ撃った所でダメージにならないだろう。

『飛行行動を行うということはそれなりに体勢が整っていないと墜落してしまうと言う事でもあります』
「うまくバランスを崩せと?」
『肯定。広範囲かつ高速で突進中の動作を崩せる装備が有効と推測』
「広範囲……広範囲ねぇ……」
俺の頭に浮かび上がったのは、魔術師ギルドの崩壊した壁だった。

「隠れてばっかじゃラチが開かない。突っ込むぞ」
『了解。ターゲットは現在の正面から2時方向、距離100。迎撃準備をしてください』
「オーケー、ダンスパーティだ!」
俺は意を決してブッシュから転がり出た。



ブッシュから転がり出た俺に気づいたのか、奴はこちらに向き直り、突撃の準備動作を行う。

「突っ込んでばかりじゃ能がないぜぇ!」
鵺を逆手に持ち替える。相手に対して半身に構え、突撃をいなすために跳躍の準備も同時に行う。

次の瞬間、奴はこちらに弾丸の如く突進してきた。
「掛かったぁ!フェンリルクロー展開!」
『了解。フェンリルクロー展開』

鵺の先端から不可視の爪が伸び、地面を抉る。
激突の直前、サイドステップを決め、すれ違いざまにクローを叩き込む。

「マタドールだ!」
『O―LE』
変な所でノリのいいAIである。

クローに真正面から激突したホーネットはもんどり打って地面へ激突する。
自力で起き上がれないのか、羽をバタつかせ、足をもがいている。

「コピーキャット起動!モーションダウンロード!対象はこないだのホーネット!」
『了解。コピーキャット起動。モーションダウンロード開始……完了』
俺はバク宙を決めると、木の枝に逆さに着地。

「見様見真似!」
枝を蹴り前方宙返り、飛び蹴りの体勢へ。
『SHOUT UP』
「究極!ホーネットキック!」

飛び蹴りは吸い込まれるようにホーネットの胸部へ。
足の裏に強い衝撃が伝わり、ホーネットの体全体が痙攣する。
いくらバリアーを張っていても魔物の蹴りは完全に相殺できまい。

『スキャン完了。エクセルシアの位置をモニターに表示します』
ホーネットの腹部に濃い影が映っている。
「ラプラス!HHシステム起動!射出シークエンス省略!フィールド干渉のみだ!」
『了解。HHシステム起動。ボルトショットの省略。フィールド干渉率100%。コード<HELL-AND-HEAVEN>発動。You have control。いつでもどうぞ』
「アイハブ!ぶち抜けぇぇぇえええええ!」
純白の杭を展開。ホーネットの胸部を蹴りつけ、腹部へ杭を叩き付ける。苦し紛れに出した針が左肩を貫くが、俺は止まらない。

杭が貫通。エクセルシアを固定した手応えが鵺越しに伝わってくる。
腹を足で押さえつけ、
「おらぁあああああ!」
力任せに杭ごとエクセルシアを引っこ抜く。

引き抜いた場所からは大量の体液が吹き出し、俺の体を濡らす。引き抜き、高く掲げたエクセルシアの色は、輝くような黄色。

『エクセルシアの回収を完了。格納を行います』
白い杭ごと鵺の中へ格納されるエクセルシア。

「ってちょっと待て!」
『格納用空間に挿入完了。任務の第一段階、フェーズ2を終了m #21』
「言わんこっちゃ無い!」
エクセルシアを格納した途端に表示がバグり始める。

『u7fb、警%6!a。kaタス7%a$%ルj81ステム[\(ma中os$#d#=\?侵食。兵器$ケhas納倉kabrtyの変j%lk#始。AItae12脳kmップタk($ad34パスにuyabr食発生。精汚染k4&ケテagの危険gggggggg』
脳に流れこんでくる莫大な情報。視界が明滅する。
「ぁぁぁぁぁああああああ!?」
また、意識が闇に引きずり込まれる。
12/03/06 11:53更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜あときが!〜
あとがきを簡略化してみるテスト。トークショー無し、基本作者の一口メモっぽく行きます。

まずは感想返信行きます。いつもいつもありがとうございます!

>>チェチェさん
感想有難うございます!思うがままに書いていたら主人公がロリコン化。どうしてこうなったし。
しかし……どうにも目線が冷たい。いや、文句は言えないのですけれどね。

>>風雷さん
感想ありがとうございます。アルテア君は基本暇なときはいじられまくるのでお楽しみに!

今回はいいイメージBGMが思い浮かばず、そのせいで手数が異様に少なかったりします。
戦闘の度に大怪我させるのがもはや恒例行事になりつつあったり。
しかし瀕死まで行ってしまうと帰還が困難になるので敢えて動き回れるぐらいの余力は残してあります。生かさず殺さず。

主人公がU1過ぎて困る。どうしたもんか。

次の投稿は来週土曜と日曜二日連続予定です。
それでは、次の極限世界をお楽しみに!

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