連載小説
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幕間〜その名はラプラス〜
〜ギルド宿舎 アルテアの自室〜

クエストから戻り、ギルド直営の宿舎の自分の部屋に戻ると、俺はベッドの上に身を投げ出した。

「あ〜……いろんな意味で疲れたな……今日は」

誰へともなく独りごちる。独り言と言えば……。

「こいつとまともな会話ってできるのかな?」

ベッド近くに立て掛けた鵺を見遣る。
意識を集中し、ウィンドウを呼び出す。出てきたウィンドウからツールを選択。

「ジャンルはその他……これか?」

ツール名は『Free talk generator』

『自由会話モード起動。
このモードを使用することにより、音声入力による意思伝達の齟齬が改善される場合があります。
本AIはこのモードを通して感覚質<クオリア>を獲得するため、積極的な使用を推奨します。
なお、戦闘状態に陥った場合、このモードは自動的に解除されます。入力をどうぞ』

初回起動だったのだろうか?ツールについての説明が行われ、コマンド入力待機状態になる。

「えーと、これで自由に会話ができる、って認識でいいのか?」
『肯定。本モードは自由会話による意思伝達能力の強化を目的としています』

今度はダイアログだけでなく、音声も聞こえてくる。無機質だが、どこか温かみを感じる女性の声だ。

「そうか。んじゃいくつか質問だ。俺はお前の……あ〜、AIの名称を知らないんだが教えてくれるか?このままだと呼びづらい」
『了解。本AIの製造番号はK-1413148。便宜上、<ラプラス>という名称が付けられています』

「ラプラスっていうとフランスの数学者だっけ?」
『肯定、それと同時に否定します。本AIの名称はその人物に由来する所ではありません』

「というと何から取られたんだ?」
『回答。本AIの製造番号がそう見えるため、開発者から付けられました』
随分なこじ付けだ。

「それじゃ、次。俺とお前の会話は他人には聞こえないみたいなんだが、これって何か意味はあるのか?」

『回答。私と意思疎通、およびAIサポート兵器全般の火器選択には脳チップ処理、網膜ディスプレイ装置のいずれかの対応が必要です。マスターは脳チップ処理が行われており、AIサポート兵器との親和性は最も高いレベルにあります』

脳チップ……確か有機AI管理会社が開発した電脳接続用補助デバイスだったか。

「よし、次。俺は何か目的があってこの世界に飛んだのか?あるとしたらその目的は?」

『前者を肯定。アルテア=ブレイナーの目的はこの世界へ飛散した外宇宙飛来突然変異因子結晶体、通称<エクセルシア>の回収と現世界への転送、帰還です』

「エクセルシア?それは何だ?」

聞き慣れない単語が出てきたのでさらに質問。

『エクセルシアとは外宇宙より飛来した遺伝子改変性物質の結晶体です。

人体には影響はないものの、ヒト以外の生物の身体に寄生すると遺伝子情報を改変、生命力と身体能力が爆発的に増加し、凶暴性が大幅に上がります』

「それは……ヤバいな。取り憑かれた奴はどうなるんだ?」

『かつて、被寄生体は生命活動が停止するまでその状態が続きました。

しかし、現在では原因物質であるエクセルシアを強制的に体外へ取り出す装置が存在するため、エクセルシアの強制摘出により体質を改善することができます』

「それなら一安心だな……ん?待て、『摂取』じゃなく『寄生』なのか?」
『肯定。エクセルシアはそれ自体が無機質の物体でありながら、確かに『生命活動を行って』います』

俺の背中に冷たいものが流れる。

「もし……もしもだ、魔物達に取り憑いたとしたらどうなる?」

今現在の懸案事項を質問する。若干声が裏返っていたかもしれないがそんな事気にしていられなかった。

『回答不能。現時点では魔物と呼ばれている生命体に関する情報が少なく、明確な回答ができません』

答えは果たして、イエスでもノーでもなかった。

『しかし、魔物という生命体の原種が現世界の動植物に近い物であるならば、突然変異が起こらないとは否定しきれません』

「なんてこったい……」

もしもフィーみたいな強力な魔物がエクセルシアに寄生されたらどうなるのだろうか……?
考えるのも恐ろしい。

「最後。俺がそのエクセルシア回収の任務を放棄したらどうなる?別に放棄でなくてもいい、遂行できなかったら?」
『回答。現世界の全人類が絶滅します』
いきなり話のスケールがデカくなった。

「具体的には?」
半信半疑で聞き返す。

『現在現世界では超大型巨神機兵『デウス・エクス・マキナ』が顕現しつつあります。
以降はデウスと略称します。

この機体には従来の兵器が通用せず、エクセルシアのパワーを乗せた兵器しか通用しません。

しかし、一際強力なエネルギーを持つエクセルシアは数年前デウスにより異世界へと転送され、行方がわかっていません。

この世界へ全て飛ばされたと確認されたのはつい最近です』
ラプラスはさらに続ける。
『デウスは現在活動を休止していますが、次にいつ再起動するかわかりません。

マスターは早急にエクセルシアを回収し、現世界へ帰還。研究施設へ持ち帰り、デウス打破の為の兵器作成の材料として提出しなければなりません』

随分と重い使命だな……頭が痛くなってくる。

「あー!やめだやめ!水でも浴びてさっぱりしてくる!」
『了解。待機モードを起動します』



〜ギルド裏庭〜
ギルド裏の井戸へ行くと鶴瓶を落として水を汲み上げる。他に誰も見る奴がいないので全裸だ。

「はぁ……気が重い……」

ラプラスから告げられた事実と推測に打ちのめされる。こんな時は冷たい水でも被って気分転換をするに限る。
組み上げた水が妙に重いが、気にせず被る。

「あ〜生温くて気持ち……え?」

その水は生温く、若干の粘性を持っていた。

「ローション?」

んなわけが無いだろう。流れ落ちた水を見やると……。

「……(ニコ)」
「よ、よぅ……」

この世界へやってきた初日に出会った奴がそこにいた。
身体は青く透き通り、月明かりを反射して綺麗に光っている。

「ごはん♪」
「ちょ……待て、待てって!う、……アッーーーーー!?」

また絞られた……。



〜ギルド宿舎 アルテアの自室〜
「あぁ……酷い目にあった……」

部屋に帰ってきた時の光景をリピート再生するようにベッドに倒れこむ。

「ここの所こんなのばっかりだな……」
俺ぐったり。

『楽しめましたか?』
「うっせ。さっさと寝ろ」
『了解。スリープモードに入ります』

こうして俺の意識は闇へと落ちて行った。

「(やべ……粘液落としてねぇや……)」
12/02/21 20:46更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜あとがき〜

「はい、今回もお送りしました極限世界(略)!今回は7話と8話の中間辺りの話だ。ようやくAIの正体とこの物語のキーワードが出せたな」
『しかしまだチュートリアルの部分が残っていると。どれだけ導入部伸ばすつもりですか』

「今回は完全に説明回だな。笑えるようなネタも無く魔物も出てこなく」
『完全にこの世界から逸脱していますが、設定資料集みたいな物なので見なくてもさほど影響は無いかも知れませんね』
「そもそもおまけという位置づけだしな」

『7話おまけにしてようやく私の自己紹介です。少し伸ばし過ぎな気もします』

ラプラス
鵺に搭載されている自己推論進化型戦術サポートAI。製造番号はK-1413148。
ラプラスという名はこの製造番号がアルファベットでLAPLASに見えることから名付けられた。
基本的に無感情、無機質だが、自由会話モードで学習を進めるたびに妙な性格になっていく。精神コマンドに間違いなく脱力があるだろう。

『7話も名前が明らかにされない登場人物というのも珍しいですよね。副主人公みたいな扱いにも関わらず』
「落ち着いて話ができるようになったのはこの日の夜だったからな。野宿だったり怪我人運びこんでぶっ倒れたりと忙しかったし」

『鵺』
亜空間から兵装を呼び出し、使用する汎用兵器。
アルスソルジャー計画で作られた兵器で、『砲撃支援から最前線までを一人でこなす』をコンセプトに設計されている。
その兵種は非殺傷兵器から応急救護用ツール、ひいては戦略級破壊兵器まで多岐に渡る。
表示されるダイアログは脳内チップ処理、網膜ディスプレイなどに対応しており、これらのデバイスが無いと可視化不可能。
なお、歩兵の装備にも関わらずこの重装備には意味がある。
現世界のエクセルシア変質生物『E-クリーチャー』は大小問わず体表にバリアフィールドが展開されている。
並大抵の歩兵携行兵装では太刀打ち出来ないため、自然と高火力、高性能かつ、携行性が高いものが開発されることになる。

『スーパーロボットが闊歩するような世界ならばいらない装備のような気がしますが』
「ところがどっこい、E-クリーチャーってのは大体が2〜3メートルぐらいなんだ。そいつが1匹現れたからって国家予算クラスの機体を持ってくる訳にはいかないからな」
『最終的には人の手ですか』

『お前は勇者の末裔なのだ。だから世界を救え』
「いきなり何いってんだあんたぁ!?」
『ある意味間違っていませんよね。理不尽な救世主としては』
「まぁなぁ……。しかも俺勇者でも何でもないし。頭にチップ埋め込んでいる以外はただの人間だぜ?」

「で、お前はなぜまた出てきたし」
「ん〜?おちがないからでろっていわれた〜」
「オチ作るために絞らせんなよ作者ぁ!」

「今回はここまでだな。次は来週日曜日だ。楽しみにしていてくれよな!そんじゃ、また来週!」

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