連載小説
[TOP][目次]
第十七話・アヌビスによる中間報告書
<フウム王国における現在の状況>

現在、マミー5名と私の分身(簡易ゴーレム)を使者としてフウム王国に派遣したまますでに2ヶ月が経過しましたが、状況は思わしくありません。
交渉のテーブルに彼らが着くこと自体が稀であり、着いても常にはぐらかされる状況が続いて、まともに交渉にならない日々が続いています。
使者に対しても何らかの形で圧力とも脅しとも取れる襲撃を幾度か受ており、また領内においても、我々への挑発行為と受け取れる王国騎士団による魔物たちの村々への襲撃が顕著に報告されるなど、非常に危険な状況になりつつあります。
また親魔物派諸国に属していながら反魔物派教会、及び組織と王侯貴族が堂々と会見をし、尚且つ彼らは教会の司祭には遜っていること、我々の使者に対しては高圧的であることが挙げられます。
人間に関して言えば、領民は常に城壁の中で生活を営み、城壁の内部に住む者たちは例外なく、作り物の神に忠誠を誓う人間のみ、であり、すでに我々の使者は城壁の内部において異物であると認識せざるを得ない状況です。
魔物、もしくは魔物を妻に持つ者は城壁の外の荒れ果てた荒野に追いやられ、集落を形成し、農業や酪農で生活を立てていますが、彼らは必要以上の重税と義務を課され、常に苦境に立たされている模様です。

尚、フウム王国側の要求はロウガ氏への賠償請求と、お嬢様のマイア氏の無条件の引渡し。
私個人の判断と致しましたら、当然蹴るべきと思われます。



<フウム王国周辺の反魔物派教会勢力について>

・ハーピーから寄せられた情報ですので、第二級資料としてお読みください。
現在、フウム王国内外に存在する教会勢力による反抗作戦の兆しがあるとのことです。
私の能力で調べてみても、余程強い結界を敷いているのか見通せませんでした。
ただ、彼らは何度も『レコンキスタ』と呼ばれる失地回復運動を熱心に繰り返してきたため、非常に油断ならない存在と言えるでしょう。ハーピーから寄せられた情報では、彼らの独自の兵力は教会騎士団と言われる非常に作り物の神への信仰心の強い集団によって形成されているそうです。総兵力はおよそ100人にも満たない集団、ということですが、信仰のために戦い倒れることは天国への最短ルート、魔物を駆逐することは神から与えられた使命であると心の底から信じている集団なので、こちらも要注意すべき集団と思われます。

追伸・最近、教団関係者と思われる者が町議会の議員と接触しているとの報告を得ました。現在調査中ですが、彼らの標的はロウガさんであることはほぼ間違いないと見ています。詳細は次項にて。




<町議会における不穏な動きについて>

現在調査を始めたばかりですが、町議会議員の少数派である反魔物派議員に教会関係者と思われる人物が度々接触しているようです。彼らの狙いは、やはり前項で報告しました失地回復運動、フウム王国賠償問題などが絡んだ利権であると思われます。
何よりロウガさんの莫大な財産を抑えることが出来れば、教会もフウム王国も本懐達成の大きな原動力になることは間違いありません。また、あなたを屈服させることが出来れば、それだけでその他諸々の戦力が補えるという狙いもあるでしょう。
現在、彼らはあなたの身辺を探っています。
あわよくばあなたの逮捕に漕ぎ着ける何を探しているようです。
アスティアさんの件が今のところネックになりますが、私としても、この身命に賭けてでも彼女を、あなたを守る所存です。
また追加報告が出来次第、報告書をお出しします。





「アスティアには…、見せられんな。」
アヌビスからの中間報告書を握り潰し、灰皿の上でマッチの火で灰にする。
アヌビスからは状況は思わしくない、とは聞いていたが、まさかこれ程状況が進んでいたとは思ってもいなかった。まさかやつらが、町の連中にまで手を伸ばしてきていたとは…、な。
町議会の中で俺に反感を持つ者は確かにいる。
俺のやり方に異を唱えるなら唱えれば良いだけじゃないか…。
俺は…、独裁者になるつもりはない。
ただ、もうアスティアみたいな子供を作りたくないだけだ。
あいつは俺に救われたと言っていたが、救われたのは俺だ。
だからこそ、こうして魔物と人間が共に生きることが自然な環境を作ってきた。
だが…、結局は、どこまでも同じ輪の中を巡るのか。
今はやつらが暴発しないことを祈るばかり。

歳を取ったせいか、よく考えてしまう。

違う地平から来た俺は何のためにここに来たのか…。

急がなければいけない。

俺の後継者は見えてきた。

次世代が見る明日を俺はどこまで引っ張ってやれるのだろうか…。

「ロウガ、今日はもう終わったのかい?」
俺は…、たぶん、アスティアを守るためにここに来たのかもしれない。
「ああ、仕事は山積みだが、後はアヌビスに任せるよ。」
「彼女に任せっ放しだと、彼女が過労で倒れるぞ。」
アスティアを…、マイアを…、次の世代が征く地平を…、
切り拓くためだけに、
俺はここにいるような気がする。
「そうだな、ではアヌビスも誘って、今夜はみんなで晩飯を食おう。」
今は束の間の安らぎを彼女たちに求めて…。
10/10/22 01:29更新 / 宿利京祐
戻る 次へ

■作者メッセージ
いきなり前回と方向転換です。
元々ロウガは大勢の中でいる時と、一人でいる時の性格が違うので
書いてる方としたら楽しいですが、みなさまはどうでしょうか?
え、かなりめんどい?
ごめんなさい。
教団とか町議会とかそろそろ本編に出てくる連中の名前が出てきます。

最後に
ここまで読んでいただきありがとうございました!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33