連載小説
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第十八話・ここは地獄の第何層!?
「でやぁぁぁぁ!!!」
荒縄を巻いた杭に拳を叩き付ける。
「もっと脇を絞めろ!拳勢が鈍ってきているぞ!」
「押忍!うりゃぁぁぁ!!!」
学園長先生とバフォメット先生にに鍛えられて、早一ヶ月。
ちなみに今は先週から体術会得のために学園長先生と二人で山篭りの真っ最中。
バフォメット先生が教えてくれた魔術は案外すんなりと覚えることが出来た。
もっともバフォメット先生に言わせれば、
「こんな初歩の初歩も覚え切れんようじゃ、見込みなしじゃ!」
と、ゲンコツ付きで怒られる。
もっともサバトで精霊と性的な関係を結ばなかったので、僕の使える魔術は初歩の入門的な力しかないのだけど…。
「まったく、ちゃっちゃと童貞捨てて、度胸付けてたらこんな面倒にはならなかったんだがな。」
「無理ですよ!嫌ですよ、僕!!マイアさん以外の人とそういう関係になるの!!」
「……ふっ、あの後便所で抜いたの誰だっけ?」
「な、何で知ってるんですか!!」
「あまり油断するなよ?お前が抜いてた便所は、ハ○コって名のゴーストがおってなぁ。あいつが見てて申し訳ないくらい、ドン引きしてたぞ?」
「のわぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!」
「ほれ、諦めろ。その悲しみを乗り越えて必殺技の一つでも編み出せや。」
イベントで僕の気力は−50。
必殺技なんて出せる訳がない。
「気にするな。所詮幽霊じゃないか。そろそろバフォメットあたりに知られて明日くらいには校内に知れ渡っているはずだ。何、大した問題じゃない。」
「帰りましょう!すぐ帰りましょう!!つーか阻止してください!!!」
「大丈夫だって。うちの娘は生娘だが、男のそういう事情くらいわかってくれるさ。」
「それで安心出来る訳ないでしょうがぁぁぁ!!!!」
大きく踏み込む。
元々身体の基礎が出来ていたらしい僕は、ここ一ヶ月で急激にレベルアップした。
「ほぅ、なかなかの速さだ。」
一瞬で学園長の間合いに入り込む。
まだ出来る技なんかないけど、足の指先に力を込め、腰の回転を右腕に伝える。
「必殺!!正!!拳!!突きぃぃぃぃぃぃ!!!!」
右の正拳突きが学園長の顔面に疾る。
そして顔面に当たる瞬間、
「60点!」
掛け声と共にお腹に衝撃が走る。
左の掌底が突き刺さって、内臓が悲鳴を上げる。
あ、今日は60点もらえた…。


――――――――――


「今日も下山叶わず、だな。」
「…うう、あの噂が広まりませんようにぃ。」
正直な話、俺は驚いている。
手加減はしたが、確実に小僧の内臓はイカレて、背骨にもでかいダメージを喰らわせたはずなのに、わずか数分で目を覚ました。
今のところ武術は並み程度には鍛え上げたが、この回復力は異常だ。
もしかしたら、俺はとんでもない原石を見付けたのかもしれない。
「急く気持ちはわからんでもないが焦るな。焦るとこの間に二の舞ぞ?」
「それは…、わかってますけど…。」
表情が沈む。
恋心から道を踏み外しかけ、恋しい女に受け止められて、少年は己の無力さを知った。
だからこそ焦っているのだろう。
もっともこの場合、別の理由も混ざっているが…。
「僕だって…、わかってるんですよ…。でも早く強くなりたいんです。早くマイアさんに追い付きたいんです。背だって低いし、見た目だって女の子みたいで馬鹿にされて…。せめてあの人と肩を並べられるのなら、親友と共に高められる存在になれるのなら、僕はあの日の力は矛盾だってわかっていても、あの力が欲しいと、あの力に頼りたいと考えてしまう…。」
サクラは、拳を握って思いを吐き捨てる。
「気にするな。禁忌の力というものは、そこにあるだけで人を魅了し続ける。だが容易く身を委ねれば忽ち彼岸の彼方だ。人が人である限り、禁忌への憧れは消えぬものよ。だからこそ、人を辞めぬのであるならば…、禁忌を知りて禁忌を超えろ。それは疾風のような刹那の時でなく、亀のようにゆっくりと…、川の中の石が丸くなっていくような時をかけねばならん。それが、人として禁忌を超える唯一の方法だ。」
「…学園長先生、もしかして僕を鍛える気がないんですか?」
「阿呆、鍛える気がなければ誰が好き好んで野郎と二人きりで山に篭るかよ。」
まったく…。
だが、息子がいたとすればこんなもんだったのだろうか。
「しかし、お前。俺の娘のどこが気に入ったんだ?」
世間一般の娘と比べれば、少々粗野なとこがあって、我が娘ながらお父さんは時々心配になります。この際だから聞いておこう。
理由次第では殴る。
「え…、そ、その…。美人だし、やさしいし、それに凛々しいし…、理由は色々あるかもしれないんですけど……。マイアさんはマイアさんな訳でして、僕は…、その……、マ、マイアさんだから好きなんです…。」
「ほう?」
これは…、少々驚いた。
意外にこの小僧、本質だけで物を見る目を持っているのかもしれない。
「だが…、本当に良いのか?確かに可愛い娘ではあるが…、口は生意気で、割と腕っ節で物事考えるし、胸はないし…。」
「そこが良いんじゃないですか!!生意気といってもその裏にやさしさがありますし、腕っ節で考えるのも誰かを守りたい一心からですし、何より『つるぺた』なのが良いんじゃないですか!!」
「ふむ、そこの趣味はわかるぞ。何、アスティアもお世辞にも大きいとは言えない。確かにあいつの体型も控えめであるが、そこが良い。」
「学園長!」
「小僧!」
俺たちは固い握手を結ぶ。
言葉はいらない。
同じ魂を持つ者同士、その目で、その笑顔だけで通ずるものがあるのだ。
「…サクラ、お前は私のことをそんな風に見ていたのか?」

ざわ… ざわ…

「マ、マイアさん!?」
大きな鍋を持った我が愛娘がわなわなと肩を震わせて、サクラの後ろに立っていた。
「ロウガ、君も私のことをそんな風に思っていたのだな…!」

ざわ… ざわ…

「ア、アスティア!?いつからそこに!!」
「マイアと一緒に…、差し入れと思って、ご飯を作ってきたのだが…な。控えめ?大きくない?私だって好きで成長しなかった訳じゃないんだぞ…!!」
「父上もサクラも…、人が心から気にしていることをズケズケと…!私だってコルトや、アヌビス教頭みたいな乳富豪になりたかったんだ…!!!」
凄まじいプレッシャーを放ちながら、妻と娘は背中から大剣を引き抜く。
鍋が地面に落ち、激しい音と共に砕け散る。
「サクラ、いつかとは言わない。今すぐ彼岸の彼方に送ってやる!!!」
「ロウガ、あの日の続き…、今ここで終わらせてやる!!!」
「ちょ、待て、二人とも落ち着けばわかっ!!!!」
「「問答無用!!!!」」
「「ギャァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」」
静寂の山奥に、今惨劇が始まる。


――――――――――


「…小僧、生きているか?」
「…何とか生きています。」
原型を留めない程ボコボコにされた僕たちはお互い寝転がって空を眺めている。
いくら僕の身体が、回復が早いからって不死身じゃない。
今身に染みてそう思う。
「起き上がれるか?」
「無理です…。」
効いたぁ…。
あの二人が本気で怒ったら、こうなるんだなぁ。
「と、いうことだ。良いか、強さだけを求めるとこういう結果になる。」
「勉強になりました。」
そんなことより早く山を下りて、噂が広がる前にバフォメット先生の口を塞がないと…。
「…うう、学校に戻ったら村八分にされる光景が目に浮かぶ。」
「…たかだ自慰したくらいで、何を嘆く。俺なんか見ろ。アスティアとしょっちゅう学園長室で犯ってて、アヌビスによく怒られているが堂々と生きているぞ?」
「あんた、仕事中に何やってるんですか!!!」
「…だがな、娘は妻に似てしまったからなぁ。お前大変だぞ?魔物を妻に持つと並大抵の夜の営みじゃないからな。先輩としてこれだけは言っておく。結婚したら自分の手の届く範囲に必ず、ホルスタウロス印の、良いか絶対ホルスタウロス印のだぞ。『疲れをぶっ飛ばす神のドリンク』を常備しろ。一回乱れると命がいくつあっても足りないからな!ついでに相手の性感帯も調べておけ、いざという時に逆転のキッカケになる!!!」
「押忍!気を付けます!!」
思わず敬礼する。
そういえばサイガがコルトと付き合うに当たって、ドリンク剤をやたらと購入していたような覚えがある。
月に何度かやけにやつれていたような…。
「特に戦闘種族を妻に持つとな。常時二本は確保しておけ!そして性感帯も押さえておけば、楽しく長く繋がっていられる!!俺がこの歳になってもアスティアと夜の営みが出来るのは、それが秘訣だ!!」
「ロウガァァァァァァァァ!!!!!」
闇の中から、大剣を振り被ったアスティア先生が飛び出した。
「ま、まだいたのか!?」
「さっきから聞いていれば、恥ずかしいことをベラベラとぉぉぉ!!!」
アスティア先生が全力で大剣を振り下ろす。
それを学園長は両手で挟んで受け止める。
これがジパング名物、白刃取りというものか!?
初めて見た…。
「ちぃ…、魔力を通わせたか!」
「待て、アスティア!真剣はヤバイ!!本気で俺を殺すつもりか!!!」
「安心しろ、ロウガ。私もすぐに後を追うから…。」
「安心出来るかぁぁぁぁぁぁ!!!!」
………僕は、彼らの姿を見て考える。
うん、マイアさんに逆らったりするのはやめよう。
とりあえず、身体の回復を優先して寝よう。
学園長、おやすみなさ〜い。


結局、アスティアさんと学園長の戦いは夜通し続いたらしい。
だが…朝になって目が覚めると、やけに疲れ切った徹夜したらしい学園長と着衣の乱れたアスティアさんが幸せそうに寝ていた。
「大丈夫…、じゃなさそうですね?」
「ゼェゼェ…小僧…、今日の…ゼェ…訓練は…休むぞ!」
「…わかりました。」
何があったのか、想像出来るだけに何も聞かなかった。
マイアさんも…、こうなるのだろうか。
一抹の不安を胸に抱えたまま、僕は三人分の朝食の準備をするのであった。
10/10/23 01:01更新 / 宿利京祐
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■作者メッセージ
作者は胸より尻派です。
でも巨乳も大好きです。
駄目人間ですね。
サクラと特訓(?)第2弾です。
馬鹿ばかりやってますが、彼の実力は着実に上がっています。
必殺技、出来るのかな?

次回は…、内緒です。
では恒例になってしまいましたが
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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