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第九話 バフォメットのザッハーグB

「どうじゃ、面白くもなんとも無かろう」
ザッハーグは自嘲しながら腰を揺らす。
グリンバルトはその動きに合わせながら、優しくザッハーグを抱きしめた。
「馬鹿だよ、お前は」
グリンバルトは囁く。
「そんなに戦いが嫌いなら、どこか遠くで平和に暮らしていれば良かったんだ。そうすりゃ、いらん苦労もせずに済んだだろうに」
記憶の共有の魔法というのは、ただ出来事を伝えるだけの単純な魔法ではない。
記憶に刻まれた感情、思い、それらの情報をも相手に伝わってしまう魔法だ。
ザッハーグの記憶に刻まれていたのは、ただただ深い悲しみである。
たった一人で同胞を探す苦難の旅、止められなかった戦場を埋め尽くす死体、戦いを阻止しても、感謝どころか『魔物と人間の戦争はこの世の摂理だ』と糾弾する者たち。
そして何よりも、自らの行いは全て無駄なのではないか、という疑問。
毒のように心を蝕むその疑問を押さえつけながら、戦いを止めるために奮闘する日々。
ザッハーグは深くため息をするように言った。
「もちろん、そうしようと思った。じゃが、眠れなかった」
「なぜだ?」
「悲鳴が聞こえてくるんじゃよ。死にたくない、本当は戦いたくない、そんな悲鳴が。おぬしには分からんじゃろう」
グリンバルトは黙り込む。
初陣の時、子供のころのグリンバルトはこう思った。
死にたくない、戦場になんて本当は出たくなかった。
けど、そうしないと親父の借金を返せない。そうなれば、奴隷として売られるか、道端で物乞いをするしかない。
だから戦った。戦って、戦って、戦って。気づいた時には、戦場から離れることができなくなっていた。
戦場のない生活が、考えられなくなっていた。
グリンバルトは答える代わりに、ザッハーグに深いキスをする。
小さな口を貪るように舌で蹂躙し、口を離すと、とろんと惚けたザッハーグの瞳を見つめる。
戦いをやめられない人間と、戦いをなくそうとする魔物。
全く正反対の存在でありながら、グリンバルトはザッハーグに恋慕とも同情とも言えないような、混ぜこぜの感情を抱いていた。
「ふふふ、どうした?そんなに見つめられると、その、恥ずかしいではないか」
「ザッハーグ」
グリンバルトは言った。
「俺は、戦いをやめられねえ」
「そうか……」
ザッハーグは悲しそうに呟く。
「仕方あるまい、それがおぬしの生き方なら……」
「だからな……お前のその馬鹿みたいな理想のために戦わせてくれ」
「え?」
目を見開いて驚くザッハーグの額に、グリンバルトは自らの額をこつんとぶつける。
「たぶん、俺が一生をかけても終わらねえ戦いなんだろ?俺は戦いに困らず、お前は理想に近づける。いい話じゃねえか?それに……」
グリンバルトはザッハーグを抱きしめ、どくっどくっと子宮に精を放った。
「っはぁ……こんな極上の身体、一回だけじゃ満足できねえよ」
「んんっ!……くくく。おぬし、後悔しないな?わらわは人使いが荒いぞ?」
「望むところだ。てめえがその馬鹿な理想を諦めるまで、ずっとそばで見てやるよ」
「よいぞ、こちらも望むところじゃ。手始めに……そうじゃな、わらわの中に全部出してもらおうか」
ザッハーグは幼女らしからぬ力でグリンバルトを押し倒し、精を絞り上げんばかりに腰を激しく動かし始めた。
20/06/08 19:12更新 / KSニンジャ
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