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第八話 バフォメットのザッハーグA

「馬鹿かおぬしは」
ザッハーグは言った。
「ば、馬鹿……だと?」
「そうじゃ。環境に振り回され、何が正しいかも決められず、挙句の果てにやぶれかぶれに走るのは、馬鹿以外にあるまい」
ザッハーグは呆れたようにため息をついた。
グリンバルトは怒りに声を震わせる。
「お前たちが……俺たちからすべてを奪ったんだ。戦いが俺の望みなのに、それすら……」
「それなら、わらわがおぬしに全てを与えてやろう」
「何を……」
「おぬしが切り捨てた、愛とやらをの」
ザッハーグはグリンバルトの頬に手を添え、深い口づけをした。
ザッハーグの舌がグリンバルトの口内にねじ込まれ、蹂躙する。
力が入らないグリンバルトは、ザッハーグの舌を噛み切ることもできず、されるがままになるしかない。
「う……ぐぐ……」
「まったく、ここまで抵抗するとは頑固じゃのう」
ザッハーグは、ぷはっと口を離した。
「魔物に屈してたまるか……」
「じゃが……こっちは素直じゃのう」
ニヤニヤ笑いながら、ザッハーグがグリンバルトのズボンを下ろすと、勃立したペニスが現れる。
ザッハーグが獣の手でペニスを撫でると、たらたらと透明な汁がペニスの先端からにじみ出る。
「や……めろ……」
「くくく、やめるわけがなかろう。おぬしの声をもっと聴かせてくれぬか……?」
ザッハーグがペニスを激しく擦ると、グリンバルトは言葉にならぬ声を上げて身をよじる。
「ぐっ……うあ……出る!!!」
「だめじゃ」
ザッハーグは、ぱっ、とペニスから手を離す。
グリンバルトは、はあはあと喘ぎながらザッハーグを睨む。
「殺す……殺してやる……」
ザッハーグはそれを意に介さず、指を一本立てた。
「おぬしに、一つ教えてやろう。愛についてじゃ」
「愛なんてクソ食らえだ……」
「まず、愛の基本は両者が同じ立場にあることじゃ」
そう言うと、ザッハーグは爪で引き裂くように、グリンバルトの上の空間を切った。
グリンバルトを縛っていた魔力の糸が切られ、身体が自由になる。
グリンバルトは身体を起こして、訝し気に目の前のバフォメットを見る。
「なんのつもりだ?」
「同じ立場じゃよ。愛を語るのに、糸で縛り付けるなど無粋の極みじゃ」
ザッハーグはころんと床に寝転がる。
自らの身体を相手に晒す、無防備な体勢だ。
「大剣で我を刺し穿つもよし、跨って首を絞めるもよし。おぬしの好きにするがよい」
グリンバルトは困惑していた。ザッハーグの目的がわからない。
自身を討とうとする敵を解放したばかりか、生殺与奪の権利を与えるとは。
だが、グリンバルトは疑問を振り払う。
何を迷っている。目の前の魔物を殺し、仲間たちを助け、最後の戦場へと向かうのだ。
そうだ。自分にはやるべきことがある。
グリンバルトはザッハーグの上に跨る。
幼女のように小さな身体。慈愛すら感じる笑みを浮かべるザッハーグの細い首に手を伸ばす。
かよわい花の茎のように、少し力を入れただけで手折れそうな首に、少しずつ力を加えていく。
ザッハーグは苦しそうな顔すらせず、ただ笑みを浮かべてグリンバルトを見るだけだ。
「……ああっ!クソッ!」
グリンバルトは悪態をつきながら、首から手を離す。
できない。無抵抗な幼女を殺すことなど、戦士であるグリンバルトにはできない。
それ以上に、目の前のバフォメットの幼女に惹かれつつある自分を無視することができない。
代わりに、ザッハーグの腰から降りると、幼い性器が晒された股間に顔をうずめる。
「ほう?どんな風の吹き回しじゃ?」
「お前で憂さ晴らしするんだよ。このままじゃ収まりがつかねえ」
「だったら、その肉棒でわらわを貫けばよいではないか」
「そんなことしたら痛いだろうが」
グリンバルトはザッハーグの性器を舌でこじ開けるように舐めまわす。
今まで、何度も娼婦を買っているグリンバルトだが、こんな性器は初めてだった。
大きさは紛れもなく幼女のものであるが、舌で押し広げられるほどに柔らかく、舌を中に入れればそのまま持っていかれそうなくらい締め付けが強い。
魔性。そんな言葉がグリンバルトの頭をよぎる。だが、ここで引くわけにはいかない。
「はあ……こんなもんだろ」
どろどろになった性器に指を入れながらグリンバルトは言った。
ペニスは先ほどから痛いほどにいきり立ち、ザッハーグの中へ挿入するのを待ち焦がれている。
グリンバルトは正常位の体勢で、ザッハーグの性器に自らのペニスをあてがった。
「んっ、中々良い余興であった。さあ、その肉棒でわらわを貫いて見せよ」
「言われなくとも、なっ!」
グリンバルトのペニスがザッハーグの性器に呑みこまれた瞬間、グリンバルトは達していた。
「がはっ……うっ……嘘だろ……こんな……」
ザッハーグの膣内は蕩けるように柔らかく、それでいて縄で締め付けるようにきつい。
さらに数の子のようにざらざらした膣壁が、絶妙な力加減で亀頭を擦り上げるものだから、グリンバルトは腰が抜けるような感覚と共に、ザッハーグの中に精を放ってしまったのだ。
「んんっ!ああ……暖かい……どうした?もう終わりか?」
「お前、こんな腹がパンパンになって、痛くねえのか?」
グリンバルトの言う通り、男根を呑み込んだザッハーグの性器は、外から腹が膨れてるのがわかるくらい無理にペニスを入れている状態だ。
「ふふふ、存外に優しいのだな。じゃが、敵の事を気遣ってどうする」
「うるせえ、少し抱いただけで死なれたら拍子抜けだと思っただけだ」
言いながら、グリンバルトは腰を動かし始める。
ザッハーグの魔性の性器が送り込む快感に耐えながら、どこを刺激すれば気持ちいいのか、どんな動きが感じるのかを、腰使いで探っていく。
「っはあ……んっ……はあ……キス……してくれぬか」
ザッハーグは両手を広げてキスをねだる。
グリンバルトはその両手を引っ張って対面座位の体勢になると、背筋を曲げてザッハーグの唇を貪る。
こうして抱き合ってみて、改めてザッハーグの身体は魔性だとグリンバルトは思った。
火照った肌は触れるだけで心地よく、身体の肉付きは抱きしめるだけで興奮するくらい肉感的で、今まで抱いた娼婦とは比べ物にならない。
小さくて張りがある唇は、熟れたての果実のようで、いくら貪っても飽きることが無い。
唇を貪り合ううちに、再びグリンバルトは膣内に精を放った。
白い液体が、びゅくびゅくと幼い性器の中に放たれ、収まりきらない精子が逆流して床にこぼれる。
唇を離すと、銀色の橋が二人の間にかかる。
とろんとしたザッハーグの赤色の瞳が、グリンバルトの瞳と重なる。
グリンバルトはその瞳の向こうに、果てしなき戦いを見た。
その瞳には、何十年も、何百年も前から、戦場を見続けてきた者が宿す悲哀の色があった。
「お前……」
「なんじゃ、わらわの過去なんかが気になるのか?まあよい。おぬしの記憶も勝手に覗いたことじゃしな」
ザッハーグは、グリンバルトと顔を近づけて、額同士をこつんとぶつけた。



ザッハーグは戦場に立っていた。
生臭い風が頬を撫で、死体をあさる鳥の鳴き声が聞こえてくる。
足元には、数え切れぬ魔物と人間の死体が転がり、戦場を埋め尽くしている。
先代魔王の時代。人と魔物が殺し合うだけの関係だったころ。
ザッハーグは魔王軍の尖兵として、幾多の戦場を渡った。
そしてその度に、数多の命が戦いで失われていくのを見た。
どうすることもできなかった。自分は一匹の魔物に過ぎず、魔王に反逆するほどの力もない。
ならば、戦いの中で生き残れるよう、賢く立ち回るのが賢明というものだ。そう思っていた。
だが、この戦いは違った。
ほぼ互角の戦力でぶつかり合った魔王軍と人間軍は、双方ともに全滅。
生き残ったのは、ザッハーグを含むわずかな魔物だけだった。
死体の海の中、ザッハーグは誓った。
もうこんなことはごめんだ、と。自分にできるやり方で、この戦いを止めて見せると。
ザッハーグは魔王軍から姿を消した。
世界中を回り、自らの同胞を求めた。
人間は食料にすぎないという認識が当たり前の時代で、それは困難を極めた。
未踏の地へ渡り、船で大海原を駆け、深き森に隠された遺跡を探掘し、天を焦がす噴火が続く活火山を登覇した。
集まったのは四匹だけだった。
上位の魔物ではなく人に仕えることを夢見るキキーモラ。
火山の洞窟で孤独に飽いていたドラゴン。
飢えた港町に魚を届け、溺れた人間を助けていたスキュラ。
自らが作り上げた広大な迷宮の奥で、強き人間が来るのを待ち焦がれていたエキドナ。
その誰もが種族の変わり者であり、それゆえにザッハーグに同調した。
数年後、ザッハーグは同胞たちと共にザッハーグ情報局を設立する。
戦場において、情報は命ともいえるものだ。
敵の戦力、使う武器、戦場の地形、天候……
それらの情報を、戦いが起きないように操作した。
百の軍勢同士がぶつかり合おうとするなら、相手は一万の軍勢だと双方に情報を流すことで士気をくじいた。
ありもしない強大な兵器の存在を流布することで、その兵器の対策ができるまで進軍を遅らせるようにした。
時に魔法を使い、戦場に土砂降りの雷雨を降らせて戦い自体が続行できないようにもした。
果てしない戦いだった。たしかに戦場は減ったが、ザッハーグ自身の命が狙われることも一度や二度ではなかった。
それに、未然に防いだ戦いの数も、全体の数に比べればほんの一部にすぎなかった。
だが、それでもザッハーグは止まらなかった。
いつの日か、人と魔物の戦いが終わる時まで、ザッハーグは足を止めるつもりはなかった。
20/06/08 19:12更新 / KSニンジャ
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