あとがき
人虎である月子と人間である篤は切っ掛けはどうあれ、無事に夫婦となった。
元々顔馴染みと言う事もあり、月子は特に問題も無く木村家の一員として受け入れられた。山に建てられた民家に住んでいた月子も木村家の母屋に居を移し、篤は今まで通り農業に精進し、月子は篤の農業を手伝いながら今までの様に書画などを描いて生活を過ごしている。
これは月子と篤が夫婦となってある程度の時間が経過したころのお話。
仁王立ちフェラ
ジュポ チュッ チュウ ンハ ジュルル
室内に卑猥な水音と男女の喘ぎ声が響く。
そこは木村家の一室であり、篤と月子が夫婦の寝室として使用している部屋だ。
既に二人はそこで数え切れないほどの性行為を交わし、篤は完全なインキュバスに、そして月子は夫だけを愛する女へと変化を遂げていた。その甲斐あってか、初期に比べると少しずつであるが月子が発情を催す期間が短くなり、発情する回数も多くなっているのは必然なのかもしれない。
そんな二人は今、前戯に耽っている。
篤が股間を突き出すようにして立ち、月子が膝をついて腕を篤の腰にまわし口でペニスに奉仕する。所謂『仁王立ちフェラ』というやつだ。月子は未だ完全な発情をむかえているわけではないが、頬を真っ赤に染めて一心にフェラをする姿はその時期が直前まで迫っている事を篤に予感させる。
「月子さん…気持ちいい、よ！」
弱点を知り尽くした月子による口淫によって、篤の精神は否が応でも昂ぶっていく。
「んじゅっぷ…御褒美、だから…存分に気持ち良くなってくれ♡」
月子は上機嫌にそう言うと、肉厚な猫舌でべろりと裏筋を舐め上げる。すると篤のペニスは無意識のうちにビクンと大きく跳ねて喜びを月子に伝える。夫が自分の奉仕で昂ぶっているのが嬉しいのか、月子はさらに熱を上げて奉仕を再開する。
彼女が行っている現在の行為は二人の間で『御褒美』として決められたものだった。ちなみにこの御褒美制度は月子が提案したもので、一体何の御褒美かと言うと…「私が発情期をむかえるまでよく我慢したで賞」を受賞した篤に対する御褒美なのだそうだ。
通常時の彼女は非常に厳格であり高潔である。
ふざけて耳に触るといったセクハラでもしようものなら、容赦なく正義の鉄槌が下されてしまう。しかも人間だった時は幾分力を抜いてくれていたのに、インキュバスになった途端、「同じ魔物ならば、手加減はしなくてもいいよね♡」と絶好の稽古相手と言わんばかりに襲いかかってくるのだ。篤はもう数え切れない位、彼女の柔術の餌食となっている。
そんな月子の発情期の谷間にあたる期間、篤はちょっとした禁欲生活を強いられる。ちなみにマスターベーションは月子に「絶対に許さない。」と強い言葉で禁止されているので出来ない。勿論、浮気なんてするつもりなど毛頭ないし、もしもそんなことをしてしまえば自分の身も、浮気をした相手の身も危険にさらされるであろうことは容易に想像できる。インキュバスの本能なのか時折強い衝動にかられる事があるが、月子の事を思えば禁欲生活も辛くは無かった。
そんな禁欲生活を夫に強いることに月子は後ろめたい気持ちがあるのか、夫婦となって数度目の発情期をむかえる直前の深夜に「私が発情期をむかえるまでよく我慢したで賞」とそれによる御褒美制度を発表した。月子の用意したこの賞によってもたらされる“ご褒美”は、本番や月子が嫌なこと(お互いを傷つける行為など)以外のもので篤の望む行為を実行するというものだった。
この話を聞いた瞬間、何よりも先に篤の頭に浮んだのが現在月子によって熱心に行われている『仁王立ちフェラ』だ。初めて御褒美として行ってもらって以来癖になってしまい、毎回お願いしている。
「っんちゅ…くちゅ、くちゅ…どう、気持ちいい？」
跪きながら頬を真っ赤に紅潮させ、端正な唇から涎を垂らしながらフェラをする様や、男根越しに上目遣いでこちらの様子を窺う月子を見ると、普通のフェラでは得られない快感が篤を駆け抜ける。その快感は月子を跪かせ奉仕させることによって普段凛として美しい彼女を屈服させているような倒錯感や、メスを征服したいという心の奥底で眠るオスとしての本能を刺激する…篤が想像した以上のものだった。腰に強く力が入らず、気を抜けばすぐにでも射精してしまいそうになるのをなんとか堪える。
「(ぐぅ…これは、何回経験しても…我慢できない。気持ちよすぎる！！)」
だが、篤の目的はそんなものではない
月子に仁王立ちフェラを要求した本当の理由は―――全く別の、なんとも彼らしい欲望から起因したものだった。
想像していただきたい。
『仁王立ちフェラ』を受けている男の手は自然と何処に向けられるのか、を。
もにゅ しゅるっ にゅくにゅく さわさわ
「(月子さんの熱心なフェラに加えて、この髪の感触と垂れ耳の揉み心地は…ヤバすぎる！！)」
篤の手はフェラチオに集中している月子の頭に…正確に言うならば、彼女の垂れた耳へと置かれている。そして当然のごとくそれらを揉みしだき、肉厚な耳からもたらされる快感を堪能している。手一杯に彼女の温かい体温と鼓動、そして柔らかい耳の毛と、硬いながらもきめ細やかでつるつるとした手触りの月子の髪の毛の感触が広がる。それだけでも射精してしまうのではないかと篤は真剣に思ってしまう。それほどまでに彼女の耳は触り心地が抜群にいい。
そう、篤の本当の狙いはフェラに夢中になっている月子の垂れ耳を思う存分揉みしだくというものだった。
先ほども言ったが、月子が発情期では無い時はろくに耳に触る事が出来ない。しかし、それでも最上の垂れ耳が時には可愛らしくぴくぴくと動き、時には無防備に篤の目の前にさらされる。過去に一度、珍しく寝ぼけたままの月子に遭遇した事があり、寝癖の残る髪の毛にうずもれながら片方の垂れ耳だけ裏返っている様を見た時は…何をされても、例え自分がどうなってもいいと彼女に特攻したほどだ。正直な話、自慰が出来ない事や性欲を発散させる事よりも、「耳を触りたい」という欲望を抑え込む方が大変だったりする。
では発情期をむかえセックスをしている最中に耳に触れればいいじゃないかと思われるかもしれないが、それは現状では中々に難しい事であったりする。というのも月子は篤を初めて犯した時のように柔術や体術で完全に自由を奪い責め立てるように犯すというのが好きらしく、ある程度性欲がおさまるまで延々と体位を変更することがない。情けない話だが、武人の彼女に素人の篤が技でも腕力でも叶うはずがなく、なすすべなく嵐の様な激しい性交にさらされた意識をなんとか保つのことで精一杯なのだ。
だからこそ、そんな篤にとって月子の濃厚なフェラと垂れ耳が触り放題な『仁王立ちフェラ』はまさに天国だ。
「(…なんとか射精しないように我慢しなくちゃ！！)」
例え一分でも一秒でもいい。この快感を貪りたくて、篤は奥歯を食いしばって堪える。射精したいという本能的な欲求と、至高の揉み心地を誇る月子の垂れ耳をこのまま堪能したいという精神的な欲求が篤の中でせめぎ合う。
「んっちゅ…んふふ♪」
僅かに表情に出ていたのか、目ざとくその葛藤を察知した月子が薄く笑いながら篤に囁きかける。
「もし、このまま三分間射精をしなければ…今日一晩、寝るまで私の耳を触り放題、好きにし放題でかまわない。」
「え！？」
想像もしないような甘い罠の発表に思わず耳を揉む手に力が入る。
「だけど、もし三分以内に射精したら…」
「した、ら？」
月子はそこで悪魔のようににやりと頬を釣り上げながら宣言する。
「私の発情中、前立腺による強制勃起を解禁してもらう♡」
「な！？」
「ね〜え、あなたは私の耳を好き放題に弄びたくないのぉ〜？」
わざとらしく、子供に話しかける様な甘い声でペニスを弄びながら月子は篤を挑発する。既に今となってはコンプレックスだった垂れ耳は篤との交渉を有利に進める切り札となっていた。
「……。」
篤は眼をつぶって考える。
どう考えても篤が不利な勝負なのには違いない。
だが、それでも…。
「その勝負、受けて立つ！！」
垂れ耳を堪能したいと言う欲求を満たしたいがため、不敵に微笑む月子に向かって篤は戦う事を宣言したのだった。男には、時に引けない戦いが…確かにある。
「ふふ、直ぐに射精させて見せるさ♡」
「俺は、負けない！！」
こうして、お互いの運命を決める三分間がスタートした。
ユニコーンは見た
寝室でにらみ合う二人
「一体、篤は私と私の耳のどちらを愛しているんだ！！」
「両方愛しているに決まっているじゃないか！！」
「馬鹿…♡」
「月子さん♡」
「篤♡」
生まれて初めて、唾を吐き捨ててやりたくなったと由美江は後に語ったと言う。
ハムハム
深夜
一つの布団の中で男女が横になっている。
男は筋肉質だが、女性らしい丸みを残した女の体を背後から抱きしめる。
すると一瞬だけびくっと体が跳ねるが、抵抗はしない。
その様子を見つつ、次のアクションを起こす。
絹のようにスベスベした髪の毛に鼻を埋め、深呼吸をする。
すると魔物娘ならではの甘い体臭が鼻孔をくすぐる。
それは秋に匂う金盞花の芳香を薄めたような、とても心落ち着く香りだ。
すう…はあ…すん、すん…
さらに鼻を地肌に近付け、二三度鼻から息を吸い込み体臭を堪能する。
首元の、汗の溜まりやすい場所だけにより強い匂いが鼻をかすめる。
「や、やめてくれ…恥ずかしすぎる…あぁ…」
その言葉を無視して、ねっとりと首筋に舌を這わす。
月子はたまらず制止の声を上げるが、その声は完全に悦んでいる。
「よ、悦んでなど…いない！！」
指摘すると、慌てて口では否定するが嘘である事が丸分かりだ。
そんな彼女の態度に苦笑しながら、ゆっくりと顔を上げていく。
目指す場所は頂きにある二つの峰。
じっとその峰に視線を固定しながらゆっくりと近づいていく。
するとその気配を敏感に感じた月子が体を強張らせる。
筋肉が委縮し、来るべき刺激を待ち構えているのだ。
ちゅっ♡
「っツ！？」
だから、直ぐに耳へと手を出さずわざと大きな音を出して頬にキスをする。
すると予期せぬ行動に目を白黒させ、頬を紅潮させた月子が慌てて振り返る。
その眼には、ありありと非難の意思が浮かぶ。
「突然何を…って、ひゃあぁ！！」
だが、これはまさに狙い通りの反応だ。
見事に陽動のキスにつられ、意識が耳から逸れた。
それを見過ごさず、垂れている耳へ食らいつく。
下唇で垂れた耳を持ち上げ、一気に半分まで口に含み愛撫を開始する。
「ふあぁ…か、噛むなあぁ…」
弱々しい懇願を聞き入れることは無い。
決して傷つけることがないよう細心の注意を向けながら、貪る。
もう、誰にもこの行為を止めることはできないのだ。
はむ、ちゅう…はむはみゅ
食んだ瞬間に熱いほどの体温が口に伝わる。
まるで母体の中にいる様な安心感。
ドクドクと脈打つその温かさは、不思議と心を落ちつかせる。
そして口に広がるほのかな甘み。
体温の上昇によってわずかに汗腺から沁み出した月子のエキスは、甘い。
それは甘味料では表現できないもの。
酸味や塩味が複雑に作用した月子だけが醸し出せる甘味だ。
それをもっと味わいたくて、もごもごと口を動かす。
「ひゃッ、咀嚼は…やめぇ…」
決して人間の耳では味わえない感触がする。
搗きたての餅の様な優しい弾力。
そんな噛むだけで幸せになれる触感が口一杯に広がる。
そして同時に伝わる波動感。
まるで小籠包を噛み締めた瞬間の感触が永遠に続く様な
噛んだ場所から伝わるプカプカとした噛みごたえが堪らない。
ちゅ、ちゅるう…じゅる
「…ッ！！」
耳の噛み心地を味わいつつ、わざと卑猥な水音をたてて耳を吸う。
その音を聞いた月子は背を弓なりにさせて身を悶えさせる。
吸い込んだことでより深く垂れ耳を食んでいく。
口の中は既に月子の垂れ耳で一杯だ。
これは実に不思議なのだが、月子の体毛は口に含んでも嫌だとは思わない。
柔らかくも固い、絹の様な体毛に味蕾すらも魅了されていた。
「ほ、本当に…勘弁して、くれぇ」
「寝るまで、好きにしていいんでしょ？」
「だけ、ど…これじゃあ何時まで経っても寝れない…ひゃ！？」
「なら、ずっと耳を愛撫してあげられるね♡」
「あ、ああ…あああああ…！！」
「さ、続きを楽しもう♪」
こうして月子は眠れぬ長き夜を
篤はあっというまに過ぎていく短き夜を堪能したのだった。
敏感なお耳
月子の好きなところははっきり言って数え切れないほどある。
「ひゃあっ…もうや、もうやめ、ひゃぁ！！」
例えば、驚いた時に思わず出てしまう声が可愛らしいところとか。
「寝るまでっていう約束を五分間にして、俺の好きな事をさせてくれるって約束でしょ〜？」
「う、そうだが…これは、ひゅいぃ！！」
「そういうことで観念してね♪ふぅ〜！！」
「ぁあ…きひゃあ！！」
そう言って篤は垂れ耳の内側に生える真っ白な体毛に向かって、まるでタンポポの綿毛を飛ばす時のようにふうっと息を吹きかける。彼女いわく「普段刺激にさらされる事がないからすごく敏感」らしく、息を吹きかけられた月子は情けない声を上げつつ、幼子のようにいやいやと頭を振って抵抗する。顔を真っ赤にして涙ぐむのは、反則だ。その様子を何時間でも見てもいられると真剣に考えてしまう。
「それじゃあ次、行ってみよう！！」
同時にその光景は篤の加虐的な欲求を刺激する。そしてインキュバスの彼はその欲望に素直に従い、行動を起こす。
「(そっと…一本だけに集中して…)」
篤はいつになく真剣な目つきを垂れ耳に向けながら集中する。震える人差し指をなんとか制御し…数多ある一切の汚れの無い純白の耳の毛に対して、触れるか触れないかの細かい運動を繰り返して月子を刺激していく。
「そぉ〜れ、ツンツン♪」
「あぁあ！！も、もう本当に勘弁し…ひぎゃ…あ…ぁ！？」
その微かだが確実に神経を刺激する振動に月子は体をがくがくと震わせてしまう。準備運動のごとく先程から息を吹きかけられ常時とは比べ物にならないほど耳が敏感になっているだけに、ほんのわずかな刺激でも神経が過敏に反応してしまう。刺激が加えられる度に脊髄反応のように耳がひくひくと痙攣してしまい、奥歯を噛み締めて耐えるがどうしても情けない声が出てしまう。苦し紛れにきっと篤を睨みつけるが、効果は無かった。
「(成功、だ！！)」
月子の目に怒りや恥辱の色が浮かぶのを見ながら、篤は心の中でガッツポーズをしていた。
昔、このように月子の耳を好きなように刺激する機会を得た際に、筆を使った事がある。
だが、それは失敗に終わってしまった。あろうことか篤は月子の耳が体毛でおおわれているのを失念していたのだ。考えてみれば当然だが、体毛が隙間なく映えている個所を筆でいくら撫でても決して地肌に筆の毛先は届きはしない。当然快感を与えるどころか不快でしかない。それは人間や獣人型の魔物娘以外の魔物娘の様な耳でしか通用しない責め方なのだ。
その失敗を糧に、再び機会が巡ってくるのを待ちながら打開策を考えていた篤に一つのアイディアが浮かんだ。
これは篤自身も経験のある事なのだが、神経が敏感になっている時はどんな些細な刺激でも物凄く敏感に感じてしまう事がある。耳や首筋、性器に筆を使って刺激すると言うのはまさにこれを利用するプレイなのだと思う。そう考えると、体毛の有無は関係なく、敏感な神経に僅かな刺激を与えてみればいいのではと思いついた。
そして導き出した方法が息を吹きかけ直接触れずに刺激を加え続けた後、耳の毛の毛先を刺激するという方法だった。
見事に篤の思惑は的中した。執拗に耳の毛に行われるヒットアンドアウェー作戦によってもたらされるわずかな刺激は、敏感になった神経によって何倍もの刺激となって月子の精神を揺さぶっている。
「(俺は…間違ってなかった！！)」
自分の仮説が正しいことからくる安堵と、まるで偉大な出来事を成し遂げたかのような達成感を篤は感じていた。そしてその高揚感を全て目の前の垂れ耳にぶつけようと垂れ耳に腕をのばしたその時…
ジリリリリりりりィ！！！！！
けたたましくタイムウォッチのアラームが鳴り響いた。
「もう、いいところだったのに！！」
刺激する度にがくがくと震え、涙すら瞳に浮かべる月子に追撃をしかけようとしていたのに出鼻をくじかれてしまった。背後から聞こえてきた無粋な機械音を力いっぱい消した篤は、ふと今まで感じた事の無いような恐怖感を背後から感じていた。
「オカス…」
「つき、こさん！？」
そして冷や汗をかきつつゆっくりと振り向くと、広大な砂漠をあてどなく彷徨う幽鬼の様に体を揺らしつつ、体全体からまるでダークマターのように黒いオーラだす一頭の虎が…月子がこちらを睨んでいた。獲物を逃がすまいと見開かれているその眼は真っ赤に充血している。
「ゴフンタッタ…オマエヲ、オカス…」
そんな物騒な宣言と共に月子は素早く篤を押し倒し、あっという間に篤を裸にひんむいていった。どうやら調子に乗って彼女を刺激しすぎてしまったようだ。
その後、強烈な凌辱の果て薄れる意識の中篤は心に誓った。
次は…拘束具を使ってから同じことをしてみよう、と。
特に波風が立つわけでもない平凡な毎日。
武人な妻と、耳好きの夫はいつまでも幸せな毎日を過ごしたのだという。
おしまい。
元々顔馴染みと言う事もあり、月子は特に問題も無く木村家の一員として受け入れられた。山に建てられた民家に住んでいた月子も木村家の母屋に居を移し、篤は今まで通り農業に精進し、月子は篤の農業を手伝いながら今までの様に書画などを描いて生活を過ごしている。
これは月子と篤が夫婦となってある程度の時間が経過したころのお話。
仁王立ちフェラ
ジュポ チュッ チュウ ンハ ジュルル
室内に卑猥な水音と男女の喘ぎ声が響く。
そこは木村家の一室であり、篤と月子が夫婦の寝室として使用している部屋だ。
既に二人はそこで数え切れないほどの性行為を交わし、篤は完全なインキュバスに、そして月子は夫だけを愛する女へと変化を遂げていた。その甲斐あってか、初期に比べると少しずつであるが月子が発情を催す期間が短くなり、発情する回数も多くなっているのは必然なのかもしれない。
そんな二人は今、前戯に耽っている。
篤が股間を突き出すようにして立ち、月子が膝をついて腕を篤の腰にまわし口でペニスに奉仕する。所謂『仁王立ちフェラ』というやつだ。月子は未だ完全な発情をむかえているわけではないが、頬を真っ赤に染めて一心にフェラをする姿はその時期が直前まで迫っている事を篤に予感させる。
「月子さん…気持ちいい、よ！」
弱点を知り尽くした月子による口淫によって、篤の精神は否が応でも昂ぶっていく。
「んじゅっぷ…御褒美、だから…存分に気持ち良くなってくれ♡」
月子は上機嫌にそう言うと、肉厚な猫舌でべろりと裏筋を舐め上げる。すると篤のペニスは無意識のうちにビクンと大きく跳ねて喜びを月子に伝える。夫が自分の奉仕で昂ぶっているのが嬉しいのか、月子はさらに熱を上げて奉仕を再開する。
彼女が行っている現在の行為は二人の間で『御褒美』として決められたものだった。ちなみにこの御褒美制度は月子が提案したもので、一体何の御褒美かと言うと…「私が発情期をむかえるまでよく我慢したで賞」を受賞した篤に対する御褒美なのだそうだ。
通常時の彼女は非常に厳格であり高潔である。
ふざけて耳に触るといったセクハラでもしようものなら、容赦なく正義の鉄槌が下されてしまう。しかも人間だった時は幾分力を抜いてくれていたのに、インキュバスになった途端、「同じ魔物ならば、手加減はしなくてもいいよね♡」と絶好の稽古相手と言わんばかりに襲いかかってくるのだ。篤はもう数え切れない位、彼女の柔術の餌食となっている。
そんな月子の発情期の谷間にあたる期間、篤はちょっとした禁欲生活を強いられる。ちなみにマスターベーションは月子に「絶対に許さない。」と強い言葉で禁止されているので出来ない。勿論、浮気なんてするつもりなど毛頭ないし、もしもそんなことをしてしまえば自分の身も、浮気をした相手の身も危険にさらされるであろうことは容易に想像できる。インキュバスの本能なのか時折強い衝動にかられる事があるが、月子の事を思えば禁欲生活も辛くは無かった。
そんな禁欲生活を夫に強いることに月子は後ろめたい気持ちがあるのか、夫婦となって数度目の発情期をむかえる直前の深夜に「私が発情期をむかえるまでよく我慢したで賞」とそれによる御褒美制度を発表した。月子の用意したこの賞によってもたらされる“ご褒美”は、本番や月子が嫌なこと(お互いを傷つける行為など)以外のもので篤の望む行為を実行するというものだった。
この話を聞いた瞬間、何よりも先に篤の頭に浮んだのが現在月子によって熱心に行われている『仁王立ちフェラ』だ。初めて御褒美として行ってもらって以来癖になってしまい、毎回お願いしている。
「っんちゅ…くちゅ、くちゅ…どう、気持ちいい？」
跪きながら頬を真っ赤に紅潮させ、端正な唇から涎を垂らしながらフェラをする様や、男根越しに上目遣いでこちらの様子を窺う月子を見ると、普通のフェラでは得られない快感が篤を駆け抜ける。その快感は月子を跪かせ奉仕させることによって普段凛として美しい彼女を屈服させているような倒錯感や、メスを征服したいという心の奥底で眠るオスとしての本能を刺激する…篤が想像した以上のものだった。腰に強く力が入らず、気を抜けばすぐにでも射精してしまいそうになるのをなんとか堪える。
「(ぐぅ…これは、何回経験しても…我慢できない。気持ちよすぎる！！)」
だが、篤の目的はそんなものではない
月子に仁王立ちフェラを要求した本当の理由は―――全く別の、なんとも彼らしい欲望から起因したものだった。
想像していただきたい。
『仁王立ちフェラ』を受けている男の手は自然と何処に向けられるのか、を。
もにゅ しゅるっ にゅくにゅく さわさわ
「(月子さんの熱心なフェラに加えて、この髪の感触と垂れ耳の揉み心地は…ヤバすぎる！！)」
篤の手はフェラチオに集中している月子の頭に…正確に言うならば、彼女の垂れた耳へと置かれている。そして当然のごとくそれらを揉みしだき、肉厚な耳からもたらされる快感を堪能している。手一杯に彼女の温かい体温と鼓動、そして柔らかい耳の毛と、硬いながらもきめ細やかでつるつるとした手触りの月子の髪の毛の感触が広がる。それだけでも射精してしまうのではないかと篤は真剣に思ってしまう。それほどまでに彼女の耳は触り心地が抜群にいい。
そう、篤の本当の狙いはフェラに夢中になっている月子の垂れ耳を思う存分揉みしだくというものだった。
先ほども言ったが、月子が発情期では無い時はろくに耳に触る事が出来ない。しかし、それでも最上の垂れ耳が時には可愛らしくぴくぴくと動き、時には無防備に篤の目の前にさらされる。過去に一度、珍しく寝ぼけたままの月子に遭遇した事があり、寝癖の残る髪の毛にうずもれながら片方の垂れ耳だけ裏返っている様を見た時は…何をされても、例え自分がどうなってもいいと彼女に特攻したほどだ。正直な話、自慰が出来ない事や性欲を発散させる事よりも、「耳を触りたい」という欲望を抑え込む方が大変だったりする。
では発情期をむかえセックスをしている最中に耳に触れればいいじゃないかと思われるかもしれないが、それは現状では中々に難しい事であったりする。というのも月子は篤を初めて犯した時のように柔術や体術で完全に自由を奪い責め立てるように犯すというのが好きらしく、ある程度性欲がおさまるまで延々と体位を変更することがない。情けない話だが、武人の彼女に素人の篤が技でも腕力でも叶うはずがなく、なすすべなく嵐の様な激しい性交にさらされた意識をなんとか保つのことで精一杯なのだ。
だからこそ、そんな篤にとって月子の濃厚なフェラと垂れ耳が触り放題な『仁王立ちフェラ』はまさに天国だ。
「(…なんとか射精しないように我慢しなくちゃ！！)」
例え一分でも一秒でもいい。この快感を貪りたくて、篤は奥歯を食いしばって堪える。射精したいという本能的な欲求と、至高の揉み心地を誇る月子の垂れ耳をこのまま堪能したいという精神的な欲求が篤の中でせめぎ合う。
「んっちゅ…んふふ♪」
僅かに表情に出ていたのか、目ざとくその葛藤を察知した月子が薄く笑いながら篤に囁きかける。
「もし、このまま三分間射精をしなければ…今日一晩、寝るまで私の耳を触り放題、好きにし放題でかまわない。」
「え！？」
想像もしないような甘い罠の発表に思わず耳を揉む手に力が入る。
「だけど、もし三分以内に射精したら…」
「した、ら？」
月子はそこで悪魔のようににやりと頬を釣り上げながら宣言する。
「私の発情中、前立腺による強制勃起を解禁してもらう♡」
「な！？」
「ね〜え、あなたは私の耳を好き放題に弄びたくないのぉ〜？」
わざとらしく、子供に話しかける様な甘い声でペニスを弄びながら月子は篤を挑発する。既に今となってはコンプレックスだった垂れ耳は篤との交渉を有利に進める切り札となっていた。
「……。」
篤は眼をつぶって考える。
どう考えても篤が不利な勝負なのには違いない。
だが、それでも…。
「その勝負、受けて立つ！！」
垂れ耳を堪能したいと言う欲求を満たしたいがため、不敵に微笑む月子に向かって篤は戦う事を宣言したのだった。男には、時に引けない戦いが…確かにある。
「ふふ、直ぐに射精させて見せるさ♡」
「俺は、負けない！！」
こうして、お互いの運命を決める三分間がスタートした。
ユニコーンは見た
寝室でにらみ合う二人
「一体、篤は私と私の耳のどちらを愛しているんだ！！」
「両方愛しているに決まっているじゃないか！！」
「馬鹿…♡」
「月子さん♡」
「篤♡」
生まれて初めて、唾を吐き捨ててやりたくなったと由美江は後に語ったと言う。
ハムハム
深夜
一つの布団の中で男女が横になっている。
男は筋肉質だが、女性らしい丸みを残した女の体を背後から抱きしめる。
すると一瞬だけびくっと体が跳ねるが、抵抗はしない。
その様子を見つつ、次のアクションを起こす。
絹のようにスベスベした髪の毛に鼻を埋め、深呼吸をする。
すると魔物娘ならではの甘い体臭が鼻孔をくすぐる。
それは秋に匂う金盞花の芳香を薄めたような、とても心落ち着く香りだ。
すう…はあ…すん、すん…
さらに鼻を地肌に近付け、二三度鼻から息を吸い込み体臭を堪能する。
首元の、汗の溜まりやすい場所だけにより強い匂いが鼻をかすめる。
「や、やめてくれ…恥ずかしすぎる…あぁ…」
その言葉を無視して、ねっとりと首筋に舌を這わす。
月子はたまらず制止の声を上げるが、その声は完全に悦んでいる。
「よ、悦んでなど…いない！！」
指摘すると、慌てて口では否定するが嘘である事が丸分かりだ。
そんな彼女の態度に苦笑しながら、ゆっくりと顔を上げていく。
目指す場所は頂きにある二つの峰。
じっとその峰に視線を固定しながらゆっくりと近づいていく。
するとその気配を敏感に感じた月子が体を強張らせる。
筋肉が委縮し、来るべき刺激を待ち構えているのだ。
ちゅっ♡
「っツ！？」
だから、直ぐに耳へと手を出さずわざと大きな音を出して頬にキスをする。
すると予期せぬ行動に目を白黒させ、頬を紅潮させた月子が慌てて振り返る。
その眼には、ありありと非難の意思が浮かぶ。
「突然何を…って、ひゃあぁ！！」
だが、これはまさに狙い通りの反応だ。
見事に陽動のキスにつられ、意識が耳から逸れた。
それを見過ごさず、垂れている耳へ食らいつく。
下唇で垂れた耳を持ち上げ、一気に半分まで口に含み愛撫を開始する。
「ふあぁ…か、噛むなあぁ…」
弱々しい懇願を聞き入れることは無い。
決して傷つけることがないよう細心の注意を向けながら、貪る。
もう、誰にもこの行為を止めることはできないのだ。
はむ、ちゅう…はむはみゅ
食んだ瞬間に熱いほどの体温が口に伝わる。
まるで母体の中にいる様な安心感。
ドクドクと脈打つその温かさは、不思議と心を落ちつかせる。
そして口に広がるほのかな甘み。
体温の上昇によってわずかに汗腺から沁み出した月子のエキスは、甘い。
それは甘味料では表現できないもの。
酸味や塩味が複雑に作用した月子だけが醸し出せる甘味だ。
それをもっと味わいたくて、もごもごと口を動かす。
「ひゃッ、咀嚼は…やめぇ…」
決して人間の耳では味わえない感触がする。
搗きたての餅の様な優しい弾力。
そんな噛むだけで幸せになれる触感が口一杯に広がる。
そして同時に伝わる波動感。
まるで小籠包を噛み締めた瞬間の感触が永遠に続く様な
噛んだ場所から伝わるプカプカとした噛みごたえが堪らない。
ちゅ、ちゅるう…じゅる
「…ッ！！」
耳の噛み心地を味わいつつ、わざと卑猥な水音をたてて耳を吸う。
その音を聞いた月子は背を弓なりにさせて身を悶えさせる。
吸い込んだことでより深く垂れ耳を食んでいく。
口の中は既に月子の垂れ耳で一杯だ。
これは実に不思議なのだが、月子の体毛は口に含んでも嫌だとは思わない。
柔らかくも固い、絹の様な体毛に味蕾すらも魅了されていた。
「ほ、本当に…勘弁して、くれぇ」
「寝るまで、好きにしていいんでしょ？」
「だけ、ど…これじゃあ何時まで経っても寝れない…ひゃ！？」
「なら、ずっと耳を愛撫してあげられるね♡」
「あ、ああ…あああああ…！！」
「さ、続きを楽しもう♪」
こうして月子は眠れぬ長き夜を
篤はあっというまに過ぎていく短き夜を堪能したのだった。
敏感なお耳
月子の好きなところははっきり言って数え切れないほどある。
「ひゃあっ…もうや、もうやめ、ひゃぁ！！」
例えば、驚いた時に思わず出てしまう声が可愛らしいところとか。
「寝るまでっていう約束を五分間にして、俺の好きな事をさせてくれるって約束でしょ〜？」
「う、そうだが…これは、ひゅいぃ！！」
「そういうことで観念してね♪ふぅ〜！！」
「ぁあ…きひゃあ！！」
そう言って篤は垂れ耳の内側に生える真っ白な体毛に向かって、まるでタンポポの綿毛を飛ばす時のようにふうっと息を吹きかける。彼女いわく「普段刺激にさらされる事がないからすごく敏感」らしく、息を吹きかけられた月子は情けない声を上げつつ、幼子のようにいやいやと頭を振って抵抗する。顔を真っ赤にして涙ぐむのは、反則だ。その様子を何時間でも見てもいられると真剣に考えてしまう。
「それじゃあ次、行ってみよう！！」
同時にその光景は篤の加虐的な欲求を刺激する。そしてインキュバスの彼はその欲望に素直に従い、行動を起こす。
「(そっと…一本だけに集中して…)」
篤はいつになく真剣な目つきを垂れ耳に向けながら集中する。震える人差し指をなんとか制御し…数多ある一切の汚れの無い純白の耳の毛に対して、触れるか触れないかの細かい運動を繰り返して月子を刺激していく。
「そぉ〜れ、ツンツン♪」
「あぁあ！！も、もう本当に勘弁し…ひぎゃ…あ…ぁ！？」
その微かだが確実に神経を刺激する振動に月子は体をがくがくと震わせてしまう。準備運動のごとく先程から息を吹きかけられ常時とは比べ物にならないほど耳が敏感になっているだけに、ほんのわずかな刺激でも神経が過敏に反応してしまう。刺激が加えられる度に脊髄反応のように耳がひくひくと痙攣してしまい、奥歯を噛み締めて耐えるがどうしても情けない声が出てしまう。苦し紛れにきっと篤を睨みつけるが、効果は無かった。
「(成功、だ！！)」
月子の目に怒りや恥辱の色が浮かぶのを見ながら、篤は心の中でガッツポーズをしていた。
昔、このように月子の耳を好きなように刺激する機会を得た際に、筆を使った事がある。
だが、それは失敗に終わってしまった。あろうことか篤は月子の耳が体毛でおおわれているのを失念していたのだ。考えてみれば当然だが、体毛が隙間なく映えている個所を筆でいくら撫でても決して地肌に筆の毛先は届きはしない。当然快感を与えるどころか不快でしかない。それは人間や獣人型の魔物娘以外の魔物娘の様な耳でしか通用しない責め方なのだ。
その失敗を糧に、再び機会が巡ってくるのを待ちながら打開策を考えていた篤に一つのアイディアが浮かんだ。
これは篤自身も経験のある事なのだが、神経が敏感になっている時はどんな些細な刺激でも物凄く敏感に感じてしまう事がある。耳や首筋、性器に筆を使って刺激すると言うのはまさにこれを利用するプレイなのだと思う。そう考えると、体毛の有無は関係なく、敏感な神経に僅かな刺激を与えてみればいいのではと思いついた。
そして導き出した方法が息を吹きかけ直接触れずに刺激を加え続けた後、耳の毛の毛先を刺激するという方法だった。
見事に篤の思惑は的中した。執拗に耳の毛に行われるヒットアンドアウェー作戦によってもたらされるわずかな刺激は、敏感になった神経によって何倍もの刺激となって月子の精神を揺さぶっている。
「(俺は…間違ってなかった！！)」
自分の仮説が正しいことからくる安堵と、まるで偉大な出来事を成し遂げたかのような達成感を篤は感じていた。そしてその高揚感を全て目の前の垂れ耳にぶつけようと垂れ耳に腕をのばしたその時…
ジリリリリりりりィ！！！！！
けたたましくタイムウォッチのアラームが鳴り響いた。
「もう、いいところだったのに！！」
刺激する度にがくがくと震え、涙すら瞳に浮かべる月子に追撃をしかけようとしていたのに出鼻をくじかれてしまった。背後から聞こえてきた無粋な機械音を力いっぱい消した篤は、ふと今まで感じた事の無いような恐怖感を背後から感じていた。
「オカス…」
「つき、こさん！？」
そして冷や汗をかきつつゆっくりと振り向くと、広大な砂漠をあてどなく彷徨う幽鬼の様に体を揺らしつつ、体全体からまるでダークマターのように黒いオーラだす一頭の虎が…月子がこちらを睨んでいた。獲物を逃がすまいと見開かれているその眼は真っ赤に充血している。
「ゴフンタッタ…オマエヲ、オカス…」
そんな物騒な宣言と共に月子は素早く篤を押し倒し、あっという間に篤を裸にひんむいていった。どうやら調子に乗って彼女を刺激しすぎてしまったようだ。
その後、強烈な凌辱の果て薄れる意識の中篤は心に誓った。
次は…拘束具を使ってから同じことをしてみよう、と。
特に波風が立つわけでもない平凡な毎日。
武人な妻と、耳好きの夫はいつまでも幸せな毎日を過ごしたのだという。
おしまい。
13/09/25 23:26更新 / 松崎 ノス
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