梅軒みどり
……またタイプミスをしでかした。どうも今は集中できていない。何かを考えようにも、もやのようなものが私の頭にかかっていて、仕事の内容を押し流してしまう。
理由は分かっている。発情しているからだ。
朝からこのような状態だった。何かを考えようとすると意識が拡散してしまい、何もできない。
ちらっと左を見る。本来ならそこには私の恋人の吉田晋介が座っているはずだ。しかし、今は諸用で席を外している。戻ってくるのは三時のはずだ。
私は首を振った。いけない。私は係長なのだ。私がしっかりしないとこの営業課は崩れてしまう。課長? 彼は役に立たない。
だが……
「う、うぅう……」
私は思わずスーツのスカートの上から下腹部を押さえた。じゅんと音を立てて愛液が私の性器から染み出し、ショーツを濡らしている。吉田が欲しいとよだれを垂らしている。
脳は私のデスクとは裏腹に、仕事の内容をすべて脇に捨ててしまっている。私の脳内を踊るのは吉田とのセックスの記憶。
初めての時は、私が上になって二人で乱れた。ある時は吉田が上になり、優しく抱きしめられて情熱的に腰を動かされてイッた。またある時は獣のような体勢で激しく突かれ、イカされた。そして、そのセックスのたびに膣内に注がれる、彼の精……
思い出せば思い出すほど、私の身体は彼を求める。しかし私には仕事があるし、吉田も出先だ。
我慢しようと私はしたが……下腹部の疼きが痛いくらいに耐え難いものになっていた。ショーツはすでに蜜をたっぷりと吸って冷たくなってしまっている。
「む、うぅう……」
そっと私はデスクから立ち上がった。全く集中できない。この状態で仕事をダラダラ続けても仕方がない。一度気分を変えるため、私は席を外した。
同フロアの女子トイレ。そこに私は駆け込んだ。駆け込んだとは言ったが、実際に走ったわけではない。しかし
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
私は荒い息をついていた。身体が発情しきってしまっているからだ。
スカートを腹の部分まで引き上げ、パンストとショーツを引き下ろす。私の秘裂とショーツを銀色の糸がつないでいた。そしてショーツのクロッチ部分にはシミが広がっている。今日はこのショーツは使えないだろう。
私はそっと便座の上に腰を下ろした。そのまま前かがみになり、発情が潮のように引くのを待つ。いや、引いてくれることを願っていたという方が正しい。吉田やみんな、部下たちが仕事しているのに自分がここで一人で淫らなことをしているのは気が引けた。だからオナニーをせずになんとか発情をやりすごそうとしたのだが……そんなことがうまくいくはずがない。
「ううう……」
唸ってみても、指を噛んでみてもちっとも効果がない。それどころか、唸り声はまるで嬌声のように甘かったし、指への刺激は吉田の甘噛みを思い起こさせ、身体にますます火がつく。
ぴちょん……
トイレに溜まっている水が不意に音を立てた。水面に何かが落ちる音。
カッと私の頭に血が上る。何が落ちたかすぐに私には分かった。私の愛液のしずくだ。
その音を聞いた瞬間、私の理性の糸が焼き切れ、これ以上の我慢は無理だという結論を出した。
「……!」
気づいた時には私はマンティスの鎌を振り上げ、自分の両足に絡まっているパンストとショーツを真っ二つに斬り裂いていた。替えの物はあったかと一瞬頭に考えがよぎったが、すぐにそんなことはどうでもいいと身体が押しやる。 次に私は胸に手をかけた。もどかしそうに私の右手が動きまわり、ブラウスのボタンを外していく。3つほど外してはだけたブラウスに左手を突っ込み、ブラを押しのけて胸を鷲掴みにした。それだけで甘美な刺激が全身を回り、私は身体を震わせた。
便座の上で私ははしたなく、両脚を大きく広げる。そして右手を股間に這わせた。しずくを垂らすほど濡れていた秘花だ。少し秘裂の横を撫でるだけでぬるぬるとしたいやらしい粘液が私の指に絡みついた。
「はあ、はああ……」
吐息混じりの嬌声が口から漏れた。その時、私はここが自宅ではなく、会社のトイレであることを思い出した。女性であれば誰でも入ってくる場なのだ。声を出してしまっては聞こえてしまう。
私は歯を食いしばり、声が出るのを防ごうとした。だがその間も、自分の身体を弄る自分の手は動きを止めない。左手は人差し指と中指で乳首を挟み、扱くようにして動いている。ビリビリと電気でも流れているかのような刺激が走る。股間にある手も、陰唇を指で挟んだり弱めたりの動きを繰り返して、微弱な刺激を送っていた。性器への快感はまだ弱い。今はまだ焦らしの期間だ。
「ん、んんぅ……ん?」
ぴちょん。またしずくの音が私の耳をかすかに打った。それが合図であるかのように、私の身体は次のステップに進もうとしていた。
左手は乳首を扱くだけではなく、手全体で胸の膨らみを揉みしだいている。柔らかく握りこむ動きに合わせて乳首も擦られ、私は身体を曲げて悶えた。
そして右手はとうとう周囲を愛撫するのは止め、核心に迫った。秘花の頂点で硬く尖って震えている突起に指が触れる。
「ひぅうう!」
歯を食いしばっていたのだが、どうしても声が漏れてしまった。やはり、女性の中で一番感じる部分であると言われるだけのことはある。
声が漏れかけたので一度動きが止まった右手であったが、すぐにその動きが再開された。さっきは軽く撫でるだけであったが、今度は本格的に指先がクリトリスに添えられ、練り潰すかのように刺激される。
「くふぅう! ん、んひぃう! ん、んんん!」
快感が子宮に上がり、きゅんきゅんと収縮させる。クリトリスからの刺激はさらに脊髄を通って全身に快感を伝播した。喉の奥もその刺激に反応する。歯をさらに食いしばっても身体を折り曲げても声が出てしまうのを抑えられない。
今は誰もこのトイレに入ってきていないからいいが、もし人が入ってきたら。
「……!」
誰かに聞かれてしまうかもしれない。その意識が心拍数を、そして快感のボルテージを上げる。
ぴちょん……と私の秘花からこぼれ落ちたしずくがまた水面を打った。小さな音だからこの小部屋の外にいる人には気づかれないだろうし、聞かれてもあまり咎められないだろう。だがこの音は明らかに、私のいやらしい体液によって立てられた音なのだ。
私の身体が燃え上がったように感じた。羞恥と快感に。
気がついたら私は右手の指を二本、秘裂に差し込んでいた。柔らかい肉壁と温かいぬめりが私の指を出迎える。
「あっ、あっ! ふああ……!」
もう口を閉じていられなかった。はっきりとした嬌声が私の口から発せられる。これ以上は我慢できそうにない。左手を胸から離し、口を塞いだ。これで 左手を離さないかぎり、声が漏れることはないだろう。
声を出しても大丈夫……その余裕のようなものが、私をさらに大胆にした。
割れ目に差し込まれた指が上下に動かされる。くちゅくちゅと、普通はトイレでは聞かれないような音が私がいる小部屋に響く。こんな音を聞かれたら絶対にバレてしまう。だが私は動きを止められない。
吉田の指の感触を思い出しながら私は膣壁を擦り、子宮口を撫でるようにしてかき回す。私の手の甲を愛液が伝い、そしてトイレの水面にまた落ちた。
『もっと、もっと……!』
私の手の動きが早まる。このまま続けていればイケそうだった。ムラムラしたものを発散させるためにトイレにきたはずなのに、今はその情欲が最初より何十倍にも膨れ上がり、爆発しようとしている。
コツコツコツコツ……
その時、外からパンプスが硬い床を打つ音が聞こえた。誰かが入ってきたらしい。
「……!」
私は身体を硬くし、動きを止める。気づくのが遅すぎたかもしれない、もしかしたら聞こえてしまったかもしれない。心臓の音がうるさいくらいに聞こえる気がした。耳でゴウゴウと血が流れる音がする。
しかし、私の心配は取り越し苦労だったようだ。パンプスの音は途切れることなく続き、止まった次の瞬間にはドアが閉まる音がした。ややあって、シャアアアっと用足しの音が始まる。
私の全身から力が抜ける。反対に、蜜壺は中断された刺激を求めるかのようにきゅうきゅうと私の指を締め付けた。しかしまだ気は抜けない。動いてもいけない。心拍はまだ早鐘を打っている。
やがてトイレの流す音が聞こえ、手を洗う音がして、そしてパンプスの足音は遠ざかっていった。
今度こそ大丈夫そうだ。中断された快感を取り戻そうと、私の手が再び激しく秘裂をかき回しはじめた。
「くひぃい! ん、ふっ、ん! んんんん!」
くぐもった嬌声が私の口から漏れる。ぐちゅぐちゅと粘液質な音が私の股間から漏れる。ぎしぎしと便座と便器が擦れている音が微かに聞こえる。
私がオナニーをしている姿は小部屋にでも入ったり天井から覗いたりでもしない限り、見えない。でも嬌声や物音は聞こえてしまう。ここは会社で仕事をする場なのに、私は自慰をしている……そのことがバレてしまう。
だが、その背徳感が私を駆り立てているのが事実だった。
先ほど遠ざけられてしまった絶頂感がまた近づいてきているのを感じる。
『来る……来ちゃう……!』
私の中で爆発が起きてしまいそうだ。その爆発を抑えこむように私の身体が ぐぐっと丸まる。頭の中でチカチカと光が点滅する。
その光の中で恋人の吉田のいろんな顔が思い浮かぶ。私と話していて楽しそうにしている顔、真剣に仕事をしている顔、私を気持ちよくさせようと一生懸命になっている顔、射精してしまって無防備にとろけてしまっている顔……
『ごめんなさい……吉田……こんな上司を許して……!』
バチバチと火花が飛び散っているかのような頭で私は考えた。もしこの自慰が吉田にバレて、こう言ったら吉田はなんて言うだろうか?
『そんなみどりさんも大好きッスよ。いいでッスよ、イッて』
脳内で吉田がそう囁いた気がした。
その瞬間、全身の筋肉が収縮して、私のアソコも指をギュッと締め付けてきた。全身が震え、私が座っている便器がガタガタと音を立てる。
「ック……んんんん!」
絶頂とともにぷしっと私の蜜壺から粘度の低い液体が吹き出した。ちょっと潮を吹いてしまったらしい。尿とは違う音がトイレの小部屋に響く。
「はああ、はああ、はああ……」
手を離し、大きく呼吸をする。軽く酸欠状態になっていた。発情しきってからのオナニーでの絶頂はそれだけ激しい物だったようだ。
だが……それでも私は満足していなかった。
所詮は自分の手で行われた仮初の快楽。愛する男によってもたらされる快感とは雲泥の差だ。
「はあ、はあ……吉田ぁ……」
小さく私はつぶやく。その時、小部屋の荷物置きに置かれていた携帯が震えだした。今まで部屋に響いていた淫らな音とは全く異質の音に少し冷めた気持ちになりながら、私は携帯を取った。だがその気持ちにまた火がついてしまう。
メールの差出人は吉田だった。今、この会社の最寄り駅だとのことだ。
汚れていない左手で私は返信のメールを打つ。
『仕事はいいから、すぐに給湯室に来て』
返事はすぐに返ってきた。
『了解です』
ぴちょん。トイレの水面がまた音を立てる。この後の、本当の快感を期待して垂れた、私の愛液の音だった。
理由は分かっている。発情しているからだ。
朝からこのような状態だった。何かを考えようとすると意識が拡散してしまい、何もできない。
ちらっと左を見る。本来ならそこには私の恋人の吉田晋介が座っているはずだ。しかし、今は諸用で席を外している。戻ってくるのは三時のはずだ。
私は首を振った。いけない。私は係長なのだ。私がしっかりしないとこの営業課は崩れてしまう。課長? 彼は役に立たない。
だが……
「う、うぅう……」
私は思わずスーツのスカートの上から下腹部を押さえた。じゅんと音を立てて愛液が私の性器から染み出し、ショーツを濡らしている。吉田が欲しいとよだれを垂らしている。
脳は私のデスクとは裏腹に、仕事の内容をすべて脇に捨ててしまっている。私の脳内を踊るのは吉田とのセックスの記憶。
初めての時は、私が上になって二人で乱れた。ある時は吉田が上になり、優しく抱きしめられて情熱的に腰を動かされてイッた。またある時は獣のような体勢で激しく突かれ、イカされた。そして、そのセックスのたびに膣内に注がれる、彼の精……
思い出せば思い出すほど、私の身体は彼を求める。しかし私には仕事があるし、吉田も出先だ。
我慢しようと私はしたが……下腹部の疼きが痛いくらいに耐え難いものになっていた。ショーツはすでに蜜をたっぷりと吸って冷たくなってしまっている。
「む、うぅう……」
そっと私はデスクから立ち上がった。全く集中できない。この状態で仕事をダラダラ続けても仕方がない。一度気分を変えるため、私は席を外した。
同フロアの女子トイレ。そこに私は駆け込んだ。駆け込んだとは言ったが、実際に走ったわけではない。しかし
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
私は荒い息をついていた。身体が発情しきってしまっているからだ。
スカートを腹の部分まで引き上げ、パンストとショーツを引き下ろす。私の秘裂とショーツを銀色の糸がつないでいた。そしてショーツのクロッチ部分にはシミが広がっている。今日はこのショーツは使えないだろう。
私はそっと便座の上に腰を下ろした。そのまま前かがみになり、発情が潮のように引くのを待つ。いや、引いてくれることを願っていたという方が正しい。吉田やみんな、部下たちが仕事しているのに自分がここで一人で淫らなことをしているのは気が引けた。だからオナニーをせずになんとか発情をやりすごそうとしたのだが……そんなことがうまくいくはずがない。
「ううう……」
唸ってみても、指を噛んでみてもちっとも効果がない。それどころか、唸り声はまるで嬌声のように甘かったし、指への刺激は吉田の甘噛みを思い起こさせ、身体にますます火がつく。
ぴちょん……
トイレに溜まっている水が不意に音を立てた。水面に何かが落ちる音。
カッと私の頭に血が上る。何が落ちたかすぐに私には分かった。私の愛液のしずくだ。
その音を聞いた瞬間、私の理性の糸が焼き切れ、これ以上の我慢は無理だという結論を出した。
「……!」
気づいた時には私はマンティスの鎌を振り上げ、自分の両足に絡まっているパンストとショーツを真っ二つに斬り裂いていた。替えの物はあったかと一瞬頭に考えがよぎったが、すぐにそんなことはどうでもいいと身体が押しやる。 次に私は胸に手をかけた。もどかしそうに私の右手が動きまわり、ブラウスのボタンを外していく。3つほど外してはだけたブラウスに左手を突っ込み、ブラを押しのけて胸を鷲掴みにした。それだけで甘美な刺激が全身を回り、私は身体を震わせた。
便座の上で私ははしたなく、両脚を大きく広げる。そして右手を股間に這わせた。しずくを垂らすほど濡れていた秘花だ。少し秘裂の横を撫でるだけでぬるぬるとしたいやらしい粘液が私の指に絡みついた。
「はあ、はああ……」
吐息混じりの嬌声が口から漏れた。その時、私はここが自宅ではなく、会社のトイレであることを思い出した。女性であれば誰でも入ってくる場なのだ。声を出してしまっては聞こえてしまう。
私は歯を食いしばり、声が出るのを防ごうとした。だがその間も、自分の身体を弄る自分の手は動きを止めない。左手は人差し指と中指で乳首を挟み、扱くようにして動いている。ビリビリと電気でも流れているかのような刺激が走る。股間にある手も、陰唇を指で挟んだり弱めたりの動きを繰り返して、微弱な刺激を送っていた。性器への快感はまだ弱い。今はまだ焦らしの期間だ。
「ん、んんぅ……ん?」
ぴちょん。またしずくの音が私の耳をかすかに打った。それが合図であるかのように、私の身体は次のステップに進もうとしていた。
左手は乳首を扱くだけではなく、手全体で胸の膨らみを揉みしだいている。柔らかく握りこむ動きに合わせて乳首も擦られ、私は身体を曲げて悶えた。
そして右手はとうとう周囲を愛撫するのは止め、核心に迫った。秘花の頂点で硬く尖って震えている突起に指が触れる。
「ひぅうう!」
歯を食いしばっていたのだが、どうしても声が漏れてしまった。やはり、女性の中で一番感じる部分であると言われるだけのことはある。
声が漏れかけたので一度動きが止まった右手であったが、すぐにその動きが再開された。さっきは軽く撫でるだけであったが、今度は本格的に指先がクリトリスに添えられ、練り潰すかのように刺激される。
「くふぅう! ん、んひぃう! ん、んんん!」
快感が子宮に上がり、きゅんきゅんと収縮させる。クリトリスからの刺激はさらに脊髄を通って全身に快感を伝播した。喉の奥もその刺激に反応する。歯をさらに食いしばっても身体を折り曲げても声が出てしまうのを抑えられない。
今は誰もこのトイレに入ってきていないからいいが、もし人が入ってきたら。
「……!」
誰かに聞かれてしまうかもしれない。その意識が心拍数を、そして快感のボルテージを上げる。
ぴちょん……と私の秘花からこぼれ落ちたしずくがまた水面を打った。小さな音だからこの小部屋の外にいる人には気づかれないだろうし、聞かれてもあまり咎められないだろう。だがこの音は明らかに、私のいやらしい体液によって立てられた音なのだ。
私の身体が燃え上がったように感じた。羞恥と快感に。
気がついたら私は右手の指を二本、秘裂に差し込んでいた。柔らかい肉壁と温かいぬめりが私の指を出迎える。
「あっ、あっ! ふああ……!」
もう口を閉じていられなかった。はっきりとした嬌声が私の口から発せられる。これ以上は我慢できそうにない。左手を胸から離し、口を塞いだ。これで 左手を離さないかぎり、声が漏れることはないだろう。
声を出しても大丈夫……その余裕のようなものが、私をさらに大胆にした。
割れ目に差し込まれた指が上下に動かされる。くちゅくちゅと、普通はトイレでは聞かれないような音が私がいる小部屋に響く。こんな音を聞かれたら絶対にバレてしまう。だが私は動きを止められない。
吉田の指の感触を思い出しながら私は膣壁を擦り、子宮口を撫でるようにしてかき回す。私の手の甲を愛液が伝い、そしてトイレの水面にまた落ちた。
『もっと、もっと……!』
私の手の動きが早まる。このまま続けていればイケそうだった。ムラムラしたものを発散させるためにトイレにきたはずなのに、今はその情欲が最初より何十倍にも膨れ上がり、爆発しようとしている。
コツコツコツコツ……
その時、外からパンプスが硬い床を打つ音が聞こえた。誰かが入ってきたらしい。
「……!」
私は身体を硬くし、動きを止める。気づくのが遅すぎたかもしれない、もしかしたら聞こえてしまったかもしれない。心臓の音がうるさいくらいに聞こえる気がした。耳でゴウゴウと血が流れる音がする。
しかし、私の心配は取り越し苦労だったようだ。パンプスの音は途切れることなく続き、止まった次の瞬間にはドアが閉まる音がした。ややあって、シャアアアっと用足しの音が始まる。
私の全身から力が抜ける。反対に、蜜壺は中断された刺激を求めるかのようにきゅうきゅうと私の指を締め付けた。しかしまだ気は抜けない。動いてもいけない。心拍はまだ早鐘を打っている。
やがてトイレの流す音が聞こえ、手を洗う音がして、そしてパンプスの足音は遠ざかっていった。
今度こそ大丈夫そうだ。中断された快感を取り戻そうと、私の手が再び激しく秘裂をかき回しはじめた。
「くひぃい! ん、ふっ、ん! んんんん!」
くぐもった嬌声が私の口から漏れる。ぐちゅぐちゅと粘液質な音が私の股間から漏れる。ぎしぎしと便座と便器が擦れている音が微かに聞こえる。
私がオナニーをしている姿は小部屋にでも入ったり天井から覗いたりでもしない限り、見えない。でも嬌声や物音は聞こえてしまう。ここは会社で仕事をする場なのに、私は自慰をしている……そのことがバレてしまう。
だが、その背徳感が私を駆り立てているのが事実だった。
先ほど遠ざけられてしまった絶頂感がまた近づいてきているのを感じる。
『来る……来ちゃう……!』
私の中で爆発が起きてしまいそうだ。その爆発を抑えこむように私の身体が ぐぐっと丸まる。頭の中でチカチカと光が点滅する。
その光の中で恋人の吉田のいろんな顔が思い浮かぶ。私と話していて楽しそうにしている顔、真剣に仕事をしている顔、私を気持ちよくさせようと一生懸命になっている顔、射精してしまって無防備にとろけてしまっている顔……
『ごめんなさい……吉田……こんな上司を許して……!』
バチバチと火花が飛び散っているかのような頭で私は考えた。もしこの自慰が吉田にバレて、こう言ったら吉田はなんて言うだろうか?
『そんなみどりさんも大好きッスよ。いいでッスよ、イッて』
脳内で吉田がそう囁いた気がした。
その瞬間、全身の筋肉が収縮して、私のアソコも指をギュッと締め付けてきた。全身が震え、私が座っている便器がガタガタと音を立てる。
「ック……んんんん!」
絶頂とともにぷしっと私の蜜壺から粘度の低い液体が吹き出した。ちょっと潮を吹いてしまったらしい。尿とは違う音がトイレの小部屋に響く。
「はああ、はああ、はああ……」
手を離し、大きく呼吸をする。軽く酸欠状態になっていた。発情しきってからのオナニーでの絶頂はそれだけ激しい物だったようだ。
だが……それでも私は満足していなかった。
所詮は自分の手で行われた仮初の快楽。愛する男によってもたらされる快感とは雲泥の差だ。
「はあ、はあ……吉田ぁ……」
小さく私はつぶやく。その時、小部屋の荷物置きに置かれていた携帯が震えだした。今まで部屋に響いていた淫らな音とは全く異質の音に少し冷めた気持ちになりながら、私は携帯を取った。だがその気持ちにまた火がついてしまう。
メールの差出人は吉田だった。今、この会社の最寄り駅だとのことだ。
汚れていない左手で私は返信のメールを打つ。
『仕事はいいから、すぐに給湯室に来て』
返事はすぐに返ってきた。
『了解です』
ぴちょん。トイレの水面がまた音を立てる。この後の、本当の快感を期待して垂れた、私の愛液の音だった。
13/07/21 22:23更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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