イチャエロする夫婦の場合
「それで、姉と弟、禁断の恋は実ったのね!? や〜ん、素敵ぃ♪」
とある家の一室で黄色い声が響いた。
その声を出した彼女は両手を頬に当てて身悶えしている。
艶やかな桃色の髪が特徴的な美女だ。
服装も挑発的で、上半身はブラジャー型の水着と簡単な装飾のみであり、たわわなバストや腰のくびれを惜しげもなく晒していた。
そして下半身はと言うと……真っ赤な鱗を持った魚の物だった。
メロウ。
マーメイド種の中でも最も好色とされる、海の魔物娘だ。
自分が恋人や夫と共に過ごし、交わることはもちろん好きだが、メロウはとりわけ他人の色恋沙汰や情事、艶話、猥談を聞くのを好む。
今、彼女はとある人物から、堕落の果実を口にすることで結ばれることとなった反魔物国家に住んでいた姉弟の話を聞いていた。
名前はプライアと言う。
ちなみに彼女は、メロウに特徴的な赤い帽子を被っていない。
つまり、彼女は既婚者だ。
「それで、二人は今はパンデモニウムでヤりまくっているわけね?」
「らしいですね。いやはや、二人を結ぶ手助けができてあたしも、光栄でございやすよ、ひぇっへっへっ」
独特の訛りと笑い声が、彼女の言葉に答えた。
そう、件の姉が堕落の果実とネバリタケを買った商人と同じ人物……魔物の商人だ。
「さすが”人食い箱”さんね」
「へへっ、ちゃんとアニータって名前があるのにそう言われるとなんかむずがゆいんでさ」
アニータと名乗った商人はかりかりと頭を掻いた。
パッと見では人間と外見は大して変わらない。
透けているレースのような生地とリボンを組み合わせただけのような露出度の高い服を身にまとっていた。
服装はそんな破廉恥とも言える代物だが、少なくともプライアのようにどこか身体の一部が著しく人ならざるものではない。
だが彼女の耳は魔物娘らしく尖っていた。
そして何より目を引くのは、彼女が腰掛けている宝箱……先日の反魔物領で商売をした時も傍らに置いていた物だ。
これはただの箱ではない……彼女の身体の一部である。
そう、彼女の種族はミミックだ。
“人食い箱”という異名は、その独特の訛りが人を食ったような態度であることと、人間達を次々と魔物化・堕落させていることから、彼女のお得意先である上級の魔物娘から言い始められたものである。
「まぁまぁ、そう謙遜しない。お話は楽しかったわ。お礼に私の血を分けてあげる」
「滅相もない! ……と言いたいところでございやすが、くれると言ってくださるのならちょうだいしやしょう……ほんの小瓶でいいですぜ」
「はいはーい。ではちょっと席を外すわね。さすがに流血しているところを見せるわけにはいかないからねぇ……」
そう言ってプライアは人食い箱から小指ほどの瓶を受け取り、部屋に消える。
しばらくすると、小瓶に血を満たした状態で戻ってきた。
「ひぇっひぇっひぇっ……ありがとうございやす。ついでに、何か買いませんか?」
「あら、商売上手ね。そうねぇ……何か旦那とイチャイチャできるアイテム、ないかしら?」
「少々お待ちください」
そう言うと彼女は宝箱の中に飛び込んだ。
箱の周はアニータの胴回りよりは大きいので彼女の身体は通る。
だが高さなどを考えると、宝箱は彼女の身体が完全に入る大きさとは考えられない。
その箱の中に彼女はいとも簡単に飛び込んで姿を消した。
やはり、異空間につながっているミミックの宝箱だからこそできる芸当だ。
ゴトゴト、ガタガタ……ドカンっ! バキン!
宝箱が揺れ、何かがぶつかり合うような派手な音が立つ。
「……いつもこの商品をとってくる様子を見ているけど、一体何をしているのかしら?」
何度か彼女から商品を買ったことがあるためか、大きな音がしても平然としているプライアだったが、やはり不思議そうだ。
時には中から轟音や爆発音、雷のような音が響くこともある。
そうしているうちに、彼女がひょこりと箱から身体を出した。
「お待たせいたしやした。こんなのは如何でしょう?」
小さな篭を彼女はプライアの前に差し出した。
中には半透明な赤い果実と青い果実が茎で繋がったペアの状態でいくつか入っている。
「夫婦の果実?」
「さようで。ここから遠く離れたブラントーム地方の高級品でございやすよ?」
「ブラントームかぁ……陸路でしか行けないところだから、確かにここじゃ手に入りにくいわね」
話を聞いてこくこくとプライアは頷く。
そしていくらと訊ねた。
人食い箱は指を三本立てる。
つまり、銀貨三枚……ブラントーム地方でのこの果実の値段と同じだ。
運送費などを考えれば普通は金貨数枚も必要になりかねないもののはずなのにだ。
だがアニータがそれを現地の値段で売ることができるのは、この箱のお陰である。
ミミックの箱の中には、彼女達が作り出した異次元にも近い空間が広がっている。
時間という概念は存在しないし、箱から別の箱へ移動することも容易だ。
そこに仕入れた物を蓄えたり、遠いところに一瞬でワープして商品を仕入れたりすることができるのである。
彼女の箱は居住の場であり、商品の倉庫であり、商品の運送経路なのだ。
「まぁ、悪くない買い物ね。それで買うわ」
「ひぇっひぇっひぇっ……ありがとうございやす」
銀貨を三枚受け取り、彼女はそれを箱の中に放り込んだ。
そして立ち上がる。
「それじゃ、とりあえずあたしは行きやす」
「とりあえずって何よ?」
アニータの言葉にプライアは笑ったが、ミミックは真剣な表情でメロウを見返す。
その顔は商人そのものだった。
「商人にとっては情報とかも商売のタネなんでね……」
「まぁ、なんでもいいわ。夫婦の果実をありがとう。それじゃあごきげんよう、さようなら〜」
「ひえっひぇっひぇっ……今後ともご贔屓に。またお会いしやしょう」
こうしてプライアと人食い箱のお話と売買は終わったのであった。
「はい、ブリアン、あ〜ん♪」
「あ〜ん……」
その夜、プライアは夫と共に甘いひと時を寝室で楽しんでいた。
これからの交わりに備え、夫婦の果実を二人でつまんでいる。
今、プライアが夫のブリアンに口を開けさせ、夫婦の果実の青い方を食べさせていた。
「ほら、プライアも……」
「うふふ、あ〜ん♪」
口に含んだ青い果実はまだ噛み砕かず、ブリアンはプライアに赤い果実を食べさせる。
そうして互いに果実を口に含みあってから……
「んっ♪」
「っ……んちゅ……」
互いのくちびるがつながる。
舌が絡まり合い、互いの口内にあった果実が交換された。
それぞれの口の中に受け取った果実を舌と口壁で押し潰し、唾液を染み込ませる。
そうしてからまた互いの口の中に果実を戻し、恋人の唾液が絡まった果実を飲み下す……
少し前に、二人でベッドに腰掛けてからずっと二人は夫婦の果実を一粒ずつ、このようにして食べている。
キスして互いの体液を交換しながら食べ、甘いひと時を味わう……これが魔物と夫や恋人の間で流行りの食べ方なのだ。
しかし、これだけなら別にさくらんぼを始め、ほかの果実でもできる食べ方だ。
夫婦の果実には他に、特別な効能がある。
「えへへっ、ブリアン……」
「プライア……」
互いに熱っぽく呼び合う。
二人の手はいつの間にか繋がれている。
しかも指と指を絡ませるような、密着度が高い繋ぎ方だ。
「ほらプライア、もう一つ……あーん」
「うふふ、あーん……ほら、ブリアンも」
二人は互いにまた果物を口に含ませた。
果物を摘んだ手は片時も離れたくないと言わんばかりに相手の頭の後ろに回され、互いの顔を引き寄せる。
夫婦の果実の効能……男が青い果実のみ、魔物娘が赤い果実のみを食べた場合、食べられた果実が二人の身体の中から互いを求め合い、自然と食べた男女も互いを求め合わせるようにするのだ。
その結果、二人はこうして手を繋ぎあい、抱き合っている。
「いつも二人でイチャイチャしているけど、こうして果物とかの影響に乗るのも悪くないわよね♪」
「ああ、そうだな」
互いをこれ以上にないくらいに抱きしめ合いながら、二人は笑い合う。
あとは二人共生まれたままの姿になり、肌を重ね合って本当に繋がり合うだけだ……
だがその時、ブリアンが部屋の異変に気付いた。
「なぁ、なんか匂わないか?」
「ん? う〜ん……そう言えばそんな気もするわねぇ……悪くない匂いだけど……」
今まで互いに戯れ合っていて気付かなかったが、部屋には普段と異なる香りが漂っていた。
甘さとは違うが、官能的な匂い……
「プライア、何かアロマでも焚いた?」
「うぅん。あたしは何も……」
夫婦の果実の影響で二人はベッドの上で抱き合ったまま、きょろきょろと見渡す。
だが二人とも抱き合って動こうとしないため、まともに匂いの元を探せるはずがない。
そして、匂いの影響なのかそれとも愛する者と情熱的なキスをしていたためか、二人とも身体が火照ってしょうがなかった。
「そんなことより、ブリア……きゃっ!? ブリアン!?」
探すのは諦めてキスから先に進もうと誘おうとした次の瞬間、プライアはブリアンによってベッドの上に無言で押し倒されていた。
そのまま無言でブリアンはプライアのくちびるを奪いにかかる。
「ちょ、ブリアンっ、ごうい……んんっ♪」
少々驚いたがプライアは目を閉じて夫のくちづけを受け止める。
夫婦の果実を食べているとき以上に官能的で甘いキスがプライアの脳をとろけさせ、それ以外の意識を塗りつぶしていく……
しばらくして二人のくちびるが離れた。
互いの口を銀の糸が繋いでおり、二人の間でねっとりと視線が絡まり合う。
二人共満ち足りた気持ちで、言葉を交わさずとも互いにその気持ちが分かる。
『いや、ちょっと待って? なんか変よ?』
確かに言葉を交わさなくてもブリアンの気持ちが分かる。
夫婦だから。
だが今の雰囲気はそれ以上に、互いの気持ちが伝わっているような気がした。
ブリアンのこと以外を考えられない頭で必死に、今の現象のことを考える。
やがて、プライアの頭が一つの答えを導き出した
『まさか……!?』
最後の気力を振り絞って首をひねり、ベッドに腰かけていたときは視線が届かなかった部分に目をやる。
煙をあげているお香がそこにあった。
刻まれている名前までは見えなかったが、すぐに何のお香かプライアは見破る。
サイレント・ラヴ……
その官能的で情熱的な香りは互いの身体を求め、またその香りを嗅いだ者にそのように仕向ける。
そして互いの身体を貪るのに必死になってしゃべる余裕がなくなり、言葉を失ってしまうのだ。
『でも、あたしは持っていないはずよ!? 誰がこんな……』
プライアは疑問に思ったが、答えはすぐそこにあった。
お香の横に、見慣れぬ小箱が転がっている。
その箱の上蓋がひとりでにパカっと開き、にょきりと中から手が伸びた。
手が親指を立てて見せる。
手だけでは判別はできないが、箱から伸びているということや、今日プライアとブリアンが交わることを的確に狙ってきたことから考えて、犯人は一人しかいない。
『やられたわっ……人食い箱……!』
心の中でプライアは苦笑いする。
そこまでだった。
心がブリアンのことのみに支配される。
彼の身体を貪りたい、彼と一つになりたい……その一色に塗りつぶされる。
「ん、んちゅ……れるっ、んちゅう」
「ん、はむっ……んんっ、あっ、あんっ、ちゅっ……」
貪るようなくちづけの水音と、互いの吐息のみが部屋に響く。
余計な言葉はなく、互いを呼び合う言葉もない。
サイレント・ラヴ……沈黙の名が着くとおりの空間が寝室に広がっていた。
荒い息を付きながら、プライアがブリアンを押し倒し返した。
片腕はブリアンの後頭部に回されて抱きしめたままだったが、もう一方の手はブリアンの寝巻きの下を脱がそうと動き回っている。
無言でブリアンも片手でそれを手伝い、下着ごと脱ぎ捨てた。
そそりたった彼の逸物が外気に晒される。
すかさずと言った感じでプライアの手がそれを包み込んだ。
そしていやらしい上下運動が始まる。
ブリアンは軽く呻き声を上げたが、何も言わない。
身体と快感とお香の効果がそれを許さなかった。
一方、普段はここで言葉でからかったりするプライアも何も言わない。
犬のように荒い息遣いで、とろけた目と顔で愛しいブリアンのモノを見つめ、しごき続ける。
何度も夫と肌を重ね、彼の弱点を知り尽くしたプライアの手の動きは巧みだった。
手首のスナップを効かせてうねるようにゆったりと扱く。
あまり強くは握りこまず、指一本一本が違う圧力で握り、それが小指から親指へと搾るように力加減を変える。
その間もプライアのもう一方の手はブリアンの身体に回されて自分の方に引き寄せており、身体の前面を彼にぎゅっと押し付けていた。
ブリアンも何もしていないわけではない。
片手は快感をこらえるようにシーツを握りしめていたが、もう一方の手はプライアの後ろに回っており、桃色の髪やすべすべの背中を撫でている。
背中を這い回る指の感触にうっとりとした表情で、プライアは夫のペニスをしごき続けた。
しかしその時間も長く続かない。
ブリアンの吐く息が速く短くなり、切なげになってきた。
ちらりとブリアンが妻を見上げる。
射精が近い。
それを察してプライアの手の動きが速くなった。
ブリアンの鈴口から漏れた先走り汁が亀頭とプライアの手の間でにちゃにちゃと音を立てる。
声を上げずに、ブリアンは身体を何度か戦慄かせた。
それから間もなく、ブリアンの欲望が輸精管を通り抜け、外界へと飛び出す。
自分の手に降り注ぐ白濁液を見てプライアは嬉々とした表情を浮かべた。
上体を起して手を口元に持っていき、舌を伸ばしてちろちろとその精液を舐めとる。
愛しい男の精液が魔物娘にとってどれほど甘美か……言葉はなくとも彼女の表情が全てを物語っていた。
プライアが自らの手を舌で清めたころ、射精の余韻にぐったりしていたブリアンがむくりと身体を起こした。
左腕をプライアの首に回して抱き寄せ、右手を彼女の下腹部に伸ばす。
人間身体と魚の身体の境目に、マーメイド族の性器は存在する。
人と変わらぬ形状のその性器にブリアンは手を添えた。
ぬぷりと音を立ててブリアンの指が二本、彼女の秘裂に潜り込んだ。
ハスキーで長い吐息が、膝立ちに近い状態のプライアの口から漏れる。
彼女の反応に満足げに微笑みながら、ブリアンは指をどんどん進めていき、指先で堅い子宮口をなぞった。
びくびくとプライアは快感に身体を震わせ、ブリアンの首に両腕を回し、ぎゅっとしがみつく。
何度か子宮口をなぞったブリアンはその指をゆっくりと引き抜いた。
指を軽く曲げ、膣壁の天井を擦るのも忘れない。
プライアの身体が面白いように震え、口から吐息が漏れた。
引き抜いた指で膣の入口を何度か掻き回し、再び潜り込ませる。
部屋にはプライアの甘くハスキーな喘ぎ声と、くちゅくちゅという愛液と媚粘膜が立てる水音だけが響いた。
言葉は何もない。
そんなゆっくりとした時間が過ぎていく。
だが指使いは激しくなくとも、プライアの身体は着実に高まっていた。
ぎゅっと、ブリアンの首に回されている腕と指に力がこもる。
ブリアンは少しの間手を止めて彼女の顔を見てみた。
彼女の口は半開きにしてそこから熱く甘ったるい息が吐き出されており、それと同時に涎が口の端からだらしなく垂れている。
目は情欲に潤んでおり、まるでもう許してと請うているかのような表情が男の嗜虐心をそそる。
もし彼女に口をきく余裕があったら、そういうふうに言ったかもしれない。
だがその表情や紡いだであろう言葉が本心ではないことは夫のブリアンには分かっていた。
無言で彼は指を奥まで差し入れ、粘壷をかき回す。
指先は子宮口をこりこりとなぞり、指の幹は膣壁全体を撫で回して犯した。
がくんと一度プライアの背が反り、そして今度は身体を丸めて身体を震わせる。
我慢しているのだ。
絶頂に達しそうなのを少し我慢すると、もっと気持ち良くなれるのを彼女と夫は知っていた。
そしてその我慢は、本人の意図で解除するものではなく、強制的に身体が解除することも。
今、快感が我慢の閾値を超え、リミットが外された。
ブリアンの腕の中で、彼にしがみついた状態でプライアはオーガズムを迎えた。
無言で彼女はガクガクと身体を痙攣させる。
ぷしゃっと音が響き、ブリアンの右手とシーツがプライアの潮によって濡れた。
しばらく彼女は絶頂の快感に身体を硬直させていたが、やがてベッドに横向きに崩れ落ちた。
ブリアンの身体もそれに続く。
二人の身体はぴったりとくっついて離れない。
夫婦の果実の影響もあるが、こうして二人の身体が離れないのは、互いに愛し合っているから。
少しでも互いにくっついていたいから。
言葉は交わさないが、互いにそう思っており、また相手がそう思ってくれていることに喜びを感じる。
ベッドに崩れ落ちた二人は互いの顔を見て幸せそうに微笑んだ。
だが、満足はしていない。
まだまだくっつきたい、ひとつになりたい。
横向きだったプライアがごろりと転がって仰向けになり、ブリアンを誘う。
ブリアンが彼女に覆いかぶさり、そして腰を押し進めていった。
にちゅっと淫らな音が立ち、二人の性器が繋がる。
プライアが快感に息を飲み、両腕をブリアンの首に回した。
ぐいぐいと力を込めてもっと奥に入ってくるように催促する。
ブリアンの腰はそのまま進んでいき、ついに二人は奥でしっかりと結合した。
プライアは下から夫をぎゅっと抱きしめ、ブリアンはプライアの頭を抱えるようにして抱きしめる。
しばらくの間、動かずに互いのぬくもりを感じ合っていた。
声を上げないから、互いの心臓の音、命の鼓動の音すら聞こえそうだった。
このまま過ごすのも悪くはないが、それはもったいない。
二人は一緒に、身体を揺すり始める。
先に動いたのはプライアだった。
まるで快感に悶えるように、ブリアンの下で身体を扇情的にくねらせる。
その動きに合わせて、ブリアンも腰をゆっくりと動かした。
一回のペニスの抜き差しに何十秒もかけているかのような動きだ。
それでも二人の身体には激しい抽送の時と同じくらいかそれ以上の快感がずしりと身体にあった。
呼吸を合わせ、心も身体も同調して二人は動く。
決して激しくはないが、炎が静かに揺らめくような、官能的な動きだ。
身体も炎のように熱を持っていた。
身体を火照らせる、サイレント・ラヴの影響だ。
上になっているブリアンから汗がぽたぽたと垂れる。
しかしそんなことは気にしないと言った感じでプライアはブリアンを抱きしめ、彼からゆっくりともたらされる快楽を感じていた。
声もきゃんきゃんとしたような甲高い物は上がらず、互いの吐息だけが絡まりあう。
その吐息も素敵なのだがキスをするのも悪くはない。
二人は同時に目を閉じ、顔を寄せた。
磁石のように二人のくちびるがくっついた。
口づけの音と二人の結合部から響く水音、ベッドが軋む音、二人の口から時々漏れる吐息のみが部屋の音を支配する。
静かな二人の動きだったが、徐々にその動きが大きくなってきた。
だが、速さはあまり変わっておらず、ガツガツとした動きではない。
小さな波だったのが、やがて大きな波となっていく……そんな感じだ。
寄せては返し、また寄せては返す……ゆっくりとその動きがいやらしく繰り返される。
押し寄せる波に二人の意識は快感の渦潮でもみくちゃにされていた。
大きくゆっくりと二人は息を吐く。
温かい吐息が互いの口から溢れ、その吐息をゆっくり吸い込む。
汗の影響もあって全身が蛇のようなヌルヌルとした怪しい生き物に変化したように二人は錯覚していた。
だが結合部は汗とは違う、プライアの体液で濡れている。
ゆっくりとペニスが引き抜かれる度に、粘壷の中に溜っていたプライアの愛液がかき出され、下腹部に広がっていく。
ブリアンが腰をゆっくりと打ち付ける度に、その広がった愛液が彼の下腹部も濡らした。
突然、キスをしていたプライアがブリアンの顔をつかみ、強引に引き離す。
二人の視線が絡まり合う。
プライアの目は快感でだらしなくとろけきり、もうすぐ絶頂が近いことを訴えていた。
ブリアンは軽く笑ってみせる。
彼も限界が近かった。
ねっとりと焦らすように動き、我慢を重ねていた肉棒は今にも爆発しそうだ。
互いに限界が近いことを確認し合った二人は頷きあい、そして再びくちづけを交わした。
ゆっくり身体を揺すり合い、互いにその瞬間を待つ。
ブリアンが我慢の閾値を越す引き金を引いた。
奥まで繋がった状態でさらに腰に力を込めて押し進める。
ぐにっとプライアの子宮口が押しつぶされ、鈍い快感が子宮から全身へと広がる。
それがとどめとなった。
ぎゅーっと全身が絞られたかのように収縮し、快感で身体が悲鳴を上げる。
あまりの快感に意識が飛ぶかとプライアは思った。
そうならないよう、彼女はブリアンの身体にしがみついて悶える。
いつもよりねちっこく、静かで、それでいて激しい絶頂だった。
釣られてブリアンも達する。
激しい動きなど必要なかった。
きゅうきゅうと膣がペニスを締め付け、柔肉がさらにねっとりと亀頭や竿に絡みついて、射精をせがんでいた。
ブリアンのペニスは妻の膣の甘いおねだりにあっさりと屈する。
肉棒の先がぶくりと膨らみ、そして爆ぜた。
どぷどぷと溜めこまれていた白濁の濁流が放たれ、子宮口にぶつかって弾け、砕ける。
言葉はなかったが、心も身体も呼吸も快感も、抱きしめ合ってキスしていた二人は共有していた。
そして充実感のうちに二人は脱力した。
仲の良い夫婦の、メロウのプライアと夫のブリアン。
こうして二人は普段とは全く違った、言葉はないが甘く情熱的な一夜を過ごした。
その一夜に使われた小道具は、互いの身体を密着させて離さない夫婦の果実と、静かだが官能的な雰囲気を創りだすサイレント・ラヴだ。
それを二つ同時に使ったことによる結果である。
これによって性生活にあらたな刺激を見出した二人は今もとある海の街で、淫らに交わり続け、幸せに暮らしている。
「ふへへ……なかなか良いネタになりやした」
箱の中から二人の交わりの様子を覗き見ていたアニータはニヤニヤと笑う。
商人にとって、商品とは形のあるものばかりではない。
情報も大事な商品のひとつである。
特に魔物娘相手には交わりの様子や艶話も小説や詩と同じように、商売となるのだ。
今日、堕落した姉弟の話を語り聞かせてプライアから人魚の血を譲ってもらったように。
そしてこの二人の交わりの様子もまた、他の魔物娘の様子に語ることで、また商売となる……
人食い箱にとってこの覗きは、仕事の一つでもあるのだ。
「そして、この組み合わせの宣伝にもなるわけだし……いやぁ、儲かった儲かった」
ニヤニヤと彼女は笑って言う。
だが、その顔に浮かんでいるのは商売人の顔だけではなかった。
頬は赤く、目も潤んでいて、興奮している。
もじもじと太腿をこすり合わせると、くちゅりと湿った秘裂がこすり合って音を立て、とろりと蜜をこぼした。
「へへへ……やっぱりこう言う仕事の後は濡れちゃいやすねぇ……」
ぺろりと自分のくちびるを舐めながら、彼女は笑うのだった。
とある家の一室で黄色い声が響いた。
その声を出した彼女は両手を頬に当てて身悶えしている。
艶やかな桃色の髪が特徴的な美女だ。
服装も挑発的で、上半身はブラジャー型の水着と簡単な装飾のみであり、たわわなバストや腰のくびれを惜しげもなく晒していた。
そして下半身はと言うと……真っ赤な鱗を持った魚の物だった。
メロウ。
マーメイド種の中でも最も好色とされる、海の魔物娘だ。
自分が恋人や夫と共に過ごし、交わることはもちろん好きだが、メロウはとりわけ他人の色恋沙汰や情事、艶話、猥談を聞くのを好む。
今、彼女はとある人物から、堕落の果実を口にすることで結ばれることとなった反魔物国家に住んでいた姉弟の話を聞いていた。
名前はプライアと言う。
ちなみに彼女は、メロウに特徴的な赤い帽子を被っていない。
つまり、彼女は既婚者だ。
「それで、二人は今はパンデモニウムでヤりまくっているわけね?」
「らしいですね。いやはや、二人を結ぶ手助けができてあたしも、光栄でございやすよ、ひぇっへっへっ」
独特の訛りと笑い声が、彼女の言葉に答えた。
そう、件の姉が堕落の果実とネバリタケを買った商人と同じ人物……魔物の商人だ。
「さすが”人食い箱”さんね」
「へへっ、ちゃんとアニータって名前があるのにそう言われるとなんかむずがゆいんでさ」
アニータと名乗った商人はかりかりと頭を掻いた。
パッと見では人間と外見は大して変わらない。
透けているレースのような生地とリボンを組み合わせただけのような露出度の高い服を身にまとっていた。
服装はそんな破廉恥とも言える代物だが、少なくともプライアのようにどこか身体の一部が著しく人ならざるものではない。
だが彼女の耳は魔物娘らしく尖っていた。
そして何より目を引くのは、彼女が腰掛けている宝箱……先日の反魔物領で商売をした時も傍らに置いていた物だ。
これはただの箱ではない……彼女の身体の一部である。
そう、彼女の種族はミミックだ。
“人食い箱”という異名は、その独特の訛りが人を食ったような態度であることと、人間達を次々と魔物化・堕落させていることから、彼女のお得意先である上級の魔物娘から言い始められたものである。
「まぁまぁ、そう謙遜しない。お話は楽しかったわ。お礼に私の血を分けてあげる」
「滅相もない! ……と言いたいところでございやすが、くれると言ってくださるのならちょうだいしやしょう……ほんの小瓶でいいですぜ」
「はいはーい。ではちょっと席を外すわね。さすがに流血しているところを見せるわけにはいかないからねぇ……」
そう言ってプライアは人食い箱から小指ほどの瓶を受け取り、部屋に消える。
しばらくすると、小瓶に血を満たした状態で戻ってきた。
「ひぇっひぇっひぇっ……ありがとうございやす。ついでに、何か買いませんか?」
「あら、商売上手ね。そうねぇ……何か旦那とイチャイチャできるアイテム、ないかしら?」
「少々お待ちください」
そう言うと彼女は宝箱の中に飛び込んだ。
箱の周はアニータの胴回りよりは大きいので彼女の身体は通る。
だが高さなどを考えると、宝箱は彼女の身体が完全に入る大きさとは考えられない。
その箱の中に彼女はいとも簡単に飛び込んで姿を消した。
やはり、異空間につながっているミミックの宝箱だからこそできる芸当だ。
ゴトゴト、ガタガタ……ドカンっ! バキン!
宝箱が揺れ、何かがぶつかり合うような派手な音が立つ。
「……いつもこの商品をとってくる様子を見ているけど、一体何をしているのかしら?」
何度か彼女から商品を買ったことがあるためか、大きな音がしても平然としているプライアだったが、やはり不思議そうだ。
時には中から轟音や爆発音、雷のような音が響くこともある。
そうしているうちに、彼女がひょこりと箱から身体を出した。
「お待たせいたしやした。こんなのは如何でしょう?」
小さな篭を彼女はプライアの前に差し出した。
中には半透明な赤い果実と青い果実が茎で繋がったペアの状態でいくつか入っている。
「夫婦の果実?」
「さようで。ここから遠く離れたブラントーム地方の高級品でございやすよ?」
「ブラントームかぁ……陸路でしか行けないところだから、確かにここじゃ手に入りにくいわね」
話を聞いてこくこくとプライアは頷く。
そしていくらと訊ねた。
人食い箱は指を三本立てる。
つまり、銀貨三枚……ブラントーム地方でのこの果実の値段と同じだ。
運送費などを考えれば普通は金貨数枚も必要になりかねないもののはずなのにだ。
だがアニータがそれを現地の値段で売ることができるのは、この箱のお陰である。
ミミックの箱の中には、彼女達が作り出した異次元にも近い空間が広がっている。
時間という概念は存在しないし、箱から別の箱へ移動することも容易だ。
そこに仕入れた物を蓄えたり、遠いところに一瞬でワープして商品を仕入れたりすることができるのである。
彼女の箱は居住の場であり、商品の倉庫であり、商品の運送経路なのだ。
「まぁ、悪くない買い物ね。それで買うわ」
「ひぇっひぇっひぇっ……ありがとうございやす」
銀貨を三枚受け取り、彼女はそれを箱の中に放り込んだ。
そして立ち上がる。
「それじゃ、とりあえずあたしは行きやす」
「とりあえずって何よ?」
アニータの言葉にプライアは笑ったが、ミミックは真剣な表情でメロウを見返す。
その顔は商人そのものだった。
「商人にとっては情報とかも商売のタネなんでね……」
「まぁ、なんでもいいわ。夫婦の果実をありがとう。それじゃあごきげんよう、さようなら〜」
「ひえっひぇっひぇっ……今後ともご贔屓に。またお会いしやしょう」
こうしてプライアと人食い箱のお話と売買は終わったのであった。
「はい、ブリアン、あ〜ん♪」
「あ〜ん……」
その夜、プライアは夫と共に甘いひと時を寝室で楽しんでいた。
これからの交わりに備え、夫婦の果実を二人でつまんでいる。
今、プライアが夫のブリアンに口を開けさせ、夫婦の果実の青い方を食べさせていた。
「ほら、プライアも……」
「うふふ、あ〜ん♪」
口に含んだ青い果実はまだ噛み砕かず、ブリアンはプライアに赤い果実を食べさせる。
そうして互いに果実を口に含みあってから……
「んっ♪」
「っ……んちゅ……」
互いのくちびるがつながる。
舌が絡まり合い、互いの口内にあった果実が交換された。
それぞれの口の中に受け取った果実を舌と口壁で押し潰し、唾液を染み込ませる。
そうしてからまた互いの口の中に果実を戻し、恋人の唾液が絡まった果実を飲み下す……
少し前に、二人でベッドに腰掛けてからずっと二人は夫婦の果実を一粒ずつ、このようにして食べている。
キスして互いの体液を交換しながら食べ、甘いひと時を味わう……これが魔物と夫や恋人の間で流行りの食べ方なのだ。
しかし、これだけなら別にさくらんぼを始め、ほかの果実でもできる食べ方だ。
夫婦の果実には他に、特別な効能がある。
「えへへっ、ブリアン……」
「プライア……」
互いに熱っぽく呼び合う。
二人の手はいつの間にか繋がれている。
しかも指と指を絡ませるような、密着度が高い繋ぎ方だ。
「ほらプライア、もう一つ……あーん」
「うふふ、あーん……ほら、ブリアンも」
二人は互いにまた果物を口に含ませた。
果物を摘んだ手は片時も離れたくないと言わんばかりに相手の頭の後ろに回され、互いの顔を引き寄せる。
夫婦の果実の効能……男が青い果実のみ、魔物娘が赤い果実のみを食べた場合、食べられた果実が二人の身体の中から互いを求め合い、自然と食べた男女も互いを求め合わせるようにするのだ。
その結果、二人はこうして手を繋ぎあい、抱き合っている。
「いつも二人でイチャイチャしているけど、こうして果物とかの影響に乗るのも悪くないわよね♪」
「ああ、そうだな」
互いをこれ以上にないくらいに抱きしめ合いながら、二人は笑い合う。
あとは二人共生まれたままの姿になり、肌を重ね合って本当に繋がり合うだけだ……
だがその時、ブリアンが部屋の異変に気付いた。
「なぁ、なんか匂わないか?」
「ん? う〜ん……そう言えばそんな気もするわねぇ……悪くない匂いだけど……」
今まで互いに戯れ合っていて気付かなかったが、部屋には普段と異なる香りが漂っていた。
甘さとは違うが、官能的な匂い……
「プライア、何かアロマでも焚いた?」
「うぅん。あたしは何も……」
夫婦の果実の影響で二人はベッドの上で抱き合ったまま、きょろきょろと見渡す。
だが二人とも抱き合って動こうとしないため、まともに匂いの元を探せるはずがない。
そして、匂いの影響なのかそれとも愛する者と情熱的なキスをしていたためか、二人とも身体が火照ってしょうがなかった。
「そんなことより、ブリア……きゃっ!? ブリアン!?」
探すのは諦めてキスから先に進もうと誘おうとした次の瞬間、プライアはブリアンによってベッドの上に無言で押し倒されていた。
そのまま無言でブリアンはプライアのくちびるを奪いにかかる。
「ちょ、ブリアンっ、ごうい……んんっ♪」
少々驚いたがプライアは目を閉じて夫のくちづけを受け止める。
夫婦の果実を食べているとき以上に官能的で甘いキスがプライアの脳をとろけさせ、それ以外の意識を塗りつぶしていく……
しばらくして二人のくちびるが離れた。
互いの口を銀の糸が繋いでおり、二人の間でねっとりと視線が絡まり合う。
二人共満ち足りた気持ちで、言葉を交わさずとも互いにその気持ちが分かる。
『いや、ちょっと待って? なんか変よ?』
確かに言葉を交わさなくてもブリアンの気持ちが分かる。
夫婦だから。
だが今の雰囲気はそれ以上に、互いの気持ちが伝わっているような気がした。
ブリアンのこと以外を考えられない頭で必死に、今の現象のことを考える。
やがて、プライアの頭が一つの答えを導き出した
『まさか……!?』
最後の気力を振り絞って首をひねり、ベッドに腰かけていたときは視線が届かなかった部分に目をやる。
煙をあげているお香がそこにあった。
刻まれている名前までは見えなかったが、すぐに何のお香かプライアは見破る。
サイレント・ラヴ……
その官能的で情熱的な香りは互いの身体を求め、またその香りを嗅いだ者にそのように仕向ける。
そして互いの身体を貪るのに必死になってしゃべる余裕がなくなり、言葉を失ってしまうのだ。
『でも、あたしは持っていないはずよ!? 誰がこんな……』
プライアは疑問に思ったが、答えはすぐそこにあった。
お香の横に、見慣れぬ小箱が転がっている。
その箱の上蓋がひとりでにパカっと開き、にょきりと中から手が伸びた。
手が親指を立てて見せる。
手だけでは判別はできないが、箱から伸びているということや、今日プライアとブリアンが交わることを的確に狙ってきたことから考えて、犯人は一人しかいない。
『やられたわっ……人食い箱……!』
心の中でプライアは苦笑いする。
そこまでだった。
心がブリアンのことのみに支配される。
彼の身体を貪りたい、彼と一つになりたい……その一色に塗りつぶされる。
「ん、んちゅ……れるっ、んちゅう」
「ん、はむっ……んんっ、あっ、あんっ、ちゅっ……」
貪るようなくちづけの水音と、互いの吐息のみが部屋に響く。
余計な言葉はなく、互いを呼び合う言葉もない。
サイレント・ラヴ……沈黙の名が着くとおりの空間が寝室に広がっていた。
荒い息を付きながら、プライアがブリアンを押し倒し返した。
片腕はブリアンの後頭部に回されて抱きしめたままだったが、もう一方の手はブリアンの寝巻きの下を脱がそうと動き回っている。
無言でブリアンも片手でそれを手伝い、下着ごと脱ぎ捨てた。
そそりたった彼の逸物が外気に晒される。
すかさずと言った感じでプライアの手がそれを包み込んだ。
そしていやらしい上下運動が始まる。
ブリアンは軽く呻き声を上げたが、何も言わない。
身体と快感とお香の効果がそれを許さなかった。
一方、普段はここで言葉でからかったりするプライアも何も言わない。
犬のように荒い息遣いで、とろけた目と顔で愛しいブリアンのモノを見つめ、しごき続ける。
何度も夫と肌を重ね、彼の弱点を知り尽くしたプライアの手の動きは巧みだった。
手首のスナップを効かせてうねるようにゆったりと扱く。
あまり強くは握りこまず、指一本一本が違う圧力で握り、それが小指から親指へと搾るように力加減を変える。
その間もプライアのもう一方の手はブリアンの身体に回されて自分の方に引き寄せており、身体の前面を彼にぎゅっと押し付けていた。
ブリアンも何もしていないわけではない。
片手は快感をこらえるようにシーツを握りしめていたが、もう一方の手はプライアの後ろに回っており、桃色の髪やすべすべの背中を撫でている。
背中を這い回る指の感触にうっとりとした表情で、プライアは夫のペニスをしごき続けた。
しかしその時間も長く続かない。
ブリアンの吐く息が速く短くなり、切なげになってきた。
ちらりとブリアンが妻を見上げる。
射精が近い。
それを察してプライアの手の動きが速くなった。
ブリアンの鈴口から漏れた先走り汁が亀頭とプライアの手の間でにちゃにちゃと音を立てる。
声を上げずに、ブリアンは身体を何度か戦慄かせた。
それから間もなく、ブリアンの欲望が輸精管を通り抜け、外界へと飛び出す。
自分の手に降り注ぐ白濁液を見てプライアは嬉々とした表情を浮かべた。
上体を起して手を口元に持っていき、舌を伸ばしてちろちろとその精液を舐めとる。
愛しい男の精液が魔物娘にとってどれほど甘美か……言葉はなくとも彼女の表情が全てを物語っていた。
プライアが自らの手を舌で清めたころ、射精の余韻にぐったりしていたブリアンがむくりと身体を起こした。
左腕をプライアの首に回して抱き寄せ、右手を彼女の下腹部に伸ばす。
人間身体と魚の身体の境目に、マーメイド族の性器は存在する。
人と変わらぬ形状のその性器にブリアンは手を添えた。
ぬぷりと音を立ててブリアンの指が二本、彼女の秘裂に潜り込んだ。
ハスキーで長い吐息が、膝立ちに近い状態のプライアの口から漏れる。
彼女の反応に満足げに微笑みながら、ブリアンは指をどんどん進めていき、指先で堅い子宮口をなぞった。
びくびくとプライアは快感に身体を震わせ、ブリアンの首に両腕を回し、ぎゅっとしがみつく。
何度か子宮口をなぞったブリアンはその指をゆっくりと引き抜いた。
指を軽く曲げ、膣壁の天井を擦るのも忘れない。
プライアの身体が面白いように震え、口から吐息が漏れた。
引き抜いた指で膣の入口を何度か掻き回し、再び潜り込ませる。
部屋にはプライアの甘くハスキーな喘ぎ声と、くちゅくちゅという愛液と媚粘膜が立てる水音だけが響いた。
言葉は何もない。
そんなゆっくりとした時間が過ぎていく。
だが指使いは激しくなくとも、プライアの身体は着実に高まっていた。
ぎゅっと、ブリアンの首に回されている腕と指に力がこもる。
ブリアンは少しの間手を止めて彼女の顔を見てみた。
彼女の口は半開きにしてそこから熱く甘ったるい息が吐き出されており、それと同時に涎が口の端からだらしなく垂れている。
目は情欲に潤んでおり、まるでもう許してと請うているかのような表情が男の嗜虐心をそそる。
もし彼女に口をきく余裕があったら、そういうふうに言ったかもしれない。
だがその表情や紡いだであろう言葉が本心ではないことは夫のブリアンには分かっていた。
無言で彼は指を奥まで差し入れ、粘壷をかき回す。
指先は子宮口をこりこりとなぞり、指の幹は膣壁全体を撫で回して犯した。
がくんと一度プライアの背が反り、そして今度は身体を丸めて身体を震わせる。
我慢しているのだ。
絶頂に達しそうなのを少し我慢すると、もっと気持ち良くなれるのを彼女と夫は知っていた。
そしてその我慢は、本人の意図で解除するものではなく、強制的に身体が解除することも。
今、快感が我慢の閾値を超え、リミットが外された。
ブリアンの腕の中で、彼にしがみついた状態でプライアはオーガズムを迎えた。
無言で彼女はガクガクと身体を痙攣させる。
ぷしゃっと音が響き、ブリアンの右手とシーツがプライアの潮によって濡れた。
しばらく彼女は絶頂の快感に身体を硬直させていたが、やがてベッドに横向きに崩れ落ちた。
ブリアンの身体もそれに続く。
二人の身体はぴったりとくっついて離れない。
夫婦の果実の影響もあるが、こうして二人の身体が離れないのは、互いに愛し合っているから。
少しでも互いにくっついていたいから。
言葉は交わさないが、互いにそう思っており、また相手がそう思ってくれていることに喜びを感じる。
ベッドに崩れ落ちた二人は互いの顔を見て幸せそうに微笑んだ。
だが、満足はしていない。
まだまだくっつきたい、ひとつになりたい。
横向きだったプライアがごろりと転がって仰向けになり、ブリアンを誘う。
ブリアンが彼女に覆いかぶさり、そして腰を押し進めていった。
にちゅっと淫らな音が立ち、二人の性器が繋がる。
プライアが快感に息を飲み、両腕をブリアンの首に回した。
ぐいぐいと力を込めてもっと奥に入ってくるように催促する。
ブリアンの腰はそのまま進んでいき、ついに二人は奥でしっかりと結合した。
プライアは下から夫をぎゅっと抱きしめ、ブリアンはプライアの頭を抱えるようにして抱きしめる。
しばらくの間、動かずに互いのぬくもりを感じ合っていた。
声を上げないから、互いの心臓の音、命の鼓動の音すら聞こえそうだった。
このまま過ごすのも悪くはないが、それはもったいない。
二人は一緒に、身体を揺すり始める。
先に動いたのはプライアだった。
まるで快感に悶えるように、ブリアンの下で身体を扇情的にくねらせる。
その動きに合わせて、ブリアンも腰をゆっくりと動かした。
一回のペニスの抜き差しに何十秒もかけているかのような動きだ。
それでも二人の身体には激しい抽送の時と同じくらいかそれ以上の快感がずしりと身体にあった。
呼吸を合わせ、心も身体も同調して二人は動く。
決して激しくはないが、炎が静かに揺らめくような、官能的な動きだ。
身体も炎のように熱を持っていた。
身体を火照らせる、サイレント・ラヴの影響だ。
上になっているブリアンから汗がぽたぽたと垂れる。
しかしそんなことは気にしないと言った感じでプライアはブリアンを抱きしめ、彼からゆっくりともたらされる快楽を感じていた。
声もきゃんきゃんとしたような甲高い物は上がらず、互いの吐息だけが絡まりあう。
その吐息も素敵なのだがキスをするのも悪くはない。
二人は同時に目を閉じ、顔を寄せた。
磁石のように二人のくちびるがくっついた。
口づけの音と二人の結合部から響く水音、ベッドが軋む音、二人の口から時々漏れる吐息のみが部屋の音を支配する。
静かな二人の動きだったが、徐々にその動きが大きくなってきた。
だが、速さはあまり変わっておらず、ガツガツとした動きではない。
小さな波だったのが、やがて大きな波となっていく……そんな感じだ。
寄せては返し、また寄せては返す……ゆっくりとその動きがいやらしく繰り返される。
押し寄せる波に二人の意識は快感の渦潮でもみくちゃにされていた。
大きくゆっくりと二人は息を吐く。
温かい吐息が互いの口から溢れ、その吐息をゆっくり吸い込む。
汗の影響もあって全身が蛇のようなヌルヌルとした怪しい生き物に変化したように二人は錯覚していた。
だが結合部は汗とは違う、プライアの体液で濡れている。
ゆっくりとペニスが引き抜かれる度に、粘壷の中に溜っていたプライアの愛液がかき出され、下腹部に広がっていく。
ブリアンが腰をゆっくりと打ち付ける度に、その広がった愛液が彼の下腹部も濡らした。
突然、キスをしていたプライアがブリアンの顔をつかみ、強引に引き離す。
二人の視線が絡まり合う。
プライアの目は快感でだらしなくとろけきり、もうすぐ絶頂が近いことを訴えていた。
ブリアンは軽く笑ってみせる。
彼も限界が近かった。
ねっとりと焦らすように動き、我慢を重ねていた肉棒は今にも爆発しそうだ。
互いに限界が近いことを確認し合った二人は頷きあい、そして再びくちづけを交わした。
ゆっくり身体を揺すり合い、互いにその瞬間を待つ。
ブリアンが我慢の閾値を越す引き金を引いた。
奥まで繋がった状態でさらに腰に力を込めて押し進める。
ぐにっとプライアの子宮口が押しつぶされ、鈍い快感が子宮から全身へと広がる。
それがとどめとなった。
ぎゅーっと全身が絞られたかのように収縮し、快感で身体が悲鳴を上げる。
あまりの快感に意識が飛ぶかとプライアは思った。
そうならないよう、彼女はブリアンの身体にしがみついて悶える。
いつもよりねちっこく、静かで、それでいて激しい絶頂だった。
釣られてブリアンも達する。
激しい動きなど必要なかった。
きゅうきゅうと膣がペニスを締め付け、柔肉がさらにねっとりと亀頭や竿に絡みついて、射精をせがんでいた。
ブリアンのペニスは妻の膣の甘いおねだりにあっさりと屈する。
肉棒の先がぶくりと膨らみ、そして爆ぜた。
どぷどぷと溜めこまれていた白濁の濁流が放たれ、子宮口にぶつかって弾け、砕ける。
言葉はなかったが、心も身体も呼吸も快感も、抱きしめ合ってキスしていた二人は共有していた。
そして充実感のうちに二人は脱力した。
仲の良い夫婦の、メロウのプライアと夫のブリアン。
こうして二人は普段とは全く違った、言葉はないが甘く情熱的な一夜を過ごした。
その一夜に使われた小道具は、互いの身体を密着させて離さない夫婦の果実と、静かだが官能的な雰囲気を創りだすサイレント・ラヴだ。
それを二つ同時に使ったことによる結果である。
これによって性生活にあらたな刺激を見出した二人は今もとある海の街で、淫らに交わり続け、幸せに暮らしている。
「ふへへ……なかなか良いネタになりやした」
箱の中から二人の交わりの様子を覗き見ていたアニータはニヤニヤと笑う。
商人にとって、商品とは形のあるものばかりではない。
情報も大事な商品のひとつである。
特に魔物娘相手には交わりの様子や艶話も小説や詩と同じように、商売となるのだ。
今日、堕落した姉弟の話を語り聞かせてプライアから人魚の血を譲ってもらったように。
そしてこの二人の交わりの様子もまた、他の魔物娘の様子に語ることで、また商売となる……
人食い箱にとってこの覗きは、仕事の一つでもあるのだ。
「そして、この組み合わせの宣伝にもなるわけだし……いやぁ、儲かった儲かった」
ニヤニヤと彼女は笑って言う。
だが、その顔に浮かんでいるのは商売人の顔だけではなかった。
頬は赤く、目も潤んでいて、興奮している。
もじもじと太腿をこすり合わせると、くちゅりと湿った秘裂がこすり合って音を立て、とろりと蜜をこぼした。
「へへへ……やっぱりこう言う仕事の後は濡れちゃいやすねぇ……」
ぺろりと自分のくちびるを舐めながら、彼女は笑うのだった。
13/02/21 20:39更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
戻る
次へ