連載小説
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想いを秘めた姉弟の場合
「ふぅ、重たかったぁ」
とある反魔物国家のとある街……
そこの隅の小さな家に帰宅して、ルビアは手に持っていた篭を下ろした。
中にはパンや野菜、干肉などが詰まっている。
彼女は今しがた、市場の買い出しから帰ってきたばかりだ。
「ゆっくりしている余裕はないわね。エメットも近いうちに帰ってくるだろうから早くお夕飯の準備をしないと……」
椅子に座って一息ついたルビアだったが、すぐに立ち上がって篭を開けた。
なお、エメットと言うのは彼女の弟である。
他に肉親はいない……
二人が幼いうちに母親は亡くなっている。
男手一つで二人を育ててくれた父も、息子が大工の職に就くと、それを見届けて安心したかのようにこの世を去った。
この小さな家はエメットのお金でなんとか暮らしているという状態だ。
朝から夕方まで弟は一生懸命働いている。
ならば自分もちゃんと働かなくては……
「まるで妻みたいね」
食材を整理しながら、独り言をつぶやいて一人ルビアは笑った。
取り出した食材を今日使う分だけ釜の近くに置き、使わない分は倉とも呼べないような倉の中にしまう。
そして夕食の準備に取り掛かる。
目の前にはニンジン、じゃがいも、干肉、黒パン、そして……見慣れぬキノコと黒い皮の果実。
「果物なんて贅沢な物は買わないんだけど、安かったからたまには……それにこのキノコも……」
キノコと果実を手に取り、少し困ったような表情でそれらをルビアは見比べた。
これらを手に入れた経緯を思い出す……






「お嬢ちゃん、何かお探し物でございやすか?」
市場を歩いていたところ、不意に横から声をかけられてルビアは驚いた。
声がした方向を見ると、全身をローブですっぽりと覆ったような人がこちらを見上げている。
先ほどの声と小柄な体格から、どうやら女性のようだ。
彼女のすぐ横に大きな箱を置かれていた。
「ふぅむ……篭の中にはパンや干肉……見たところ夕食の買い出し……と言ったところでございやしょうかねぇ?」
女性にしては低い声で、そしてどこか変な調子の訛りのある声で彼女は訊ねる。
「え、ええ……これからお野菜を買いに行こうかなと思っていたところで……」
このどこか不気味な女性を無視しても良かったのだが、どういう訳かルビアは立ち止まり、彼女の問いに答えていた。
ルビアの答えに何か反応を示すわけでもなく、女性はじっとルビアを見つめる。
彼女の目はエメラルドのような緑色で、瞳はきらきら光る、というよりむしろ光を吸収するような不思議な目をしていた。
思わずルビアは彼女と目を合わせて黙ってしまう。
しばらくして女性はふぅむ、と嘆息とも考え込む声とも付かないような唸り声を上げて箱を開けた。
「あたしもいろいろ売ってやすよ。あたしはこの箱を持って世界を回る行商人でございやして……」
無造作に箱に手を突っ込んで取り出したのはいろんな種類の芋やキノコだ。
彼女の目に引き込まれていたルビアだったが、ハッとして商品を見渡し、そして軽く眉を寄せて遠慮がちな声を上げた。
「あ、あの〜……私は貧乏な家の者ですので、このような珍しい物は……」
「高くて買えない? 安くいたしやすぜ。そうさね……銀貨で、これでいかがでございやしょう?」
指を二本立てて商人はルビアに値段を示す。
ルビアは目を丸くした。
こんな珍しい品物が銀貨二枚だなんて、安すぎる。
エルシオの日給の十分の一強、パンおよそ一日分。
貧しいルビアの家でも、数日間少しだけ節約すれば十分手が届く値段だ。
何か裏があるのではないか……疑わしそうに目を細めるルビアに、女性はヒェッヒェッヒェッと妙な笑い声をあげた。
「こんなものあたしの故郷じゃ珍しくもなんともない代物でございやすし……それに腐っていたりなんだりするわけでもなし。ほら……」
おもむろに女性はキノコの一つを取って口元のローブを寛げる。
現れた可愛らしい口で、彼女はがぶりとそのキノコに噛み付いた。
そのまま口の中で咀嚼し、飲み込む。
「うぇー……生じゃやっぱりちょっと渋い……でもスープとかにすると、美味いでっせ。いかがでございやしょう、お嬢ちゃん?」
歯型をつけたキノコは置いておき、同じ種類のキノコを女性は差し出す。
茎が短くて傘が広いキノコだ。
そしてなんといってもキノコが何かぬめった粘液にまみれていて妖しげな光沢を放っているのが目を引く。
「珍しいかね? 遠い東の国、ジパングにゃおんなじような【なめこ】ってキノコがあるんですがねぇ……」
あいにくそれは仕入れてないけど、と女性は苦笑する。
しばらくルビアはそのキノコを見つめていたが、やがて一つ肯いた。
「分かりました、買います」
「ヒエッヒエッヒェッ……毎度ありぃ……ついでにデザートはいかがでございやしょう?」
銀貨を受け取るなり女性はさらに話を進めていく。
再び箱に手を突っ込み、取り出されたのは青い皮に包まれた、涙滴状の果物だった。
自然界に本当に、海のように真っ青な物と言うのは少ない。
ましてや果実で青いと言うものは非常に珍しいはずだ。
少なくともルビアは生まれてこのかた、青い果実と言うものは見たことがない。
珍しさもあるが、ルビアはこの果実になぜか惹かれた。
まるで果実自身が食べろと執拗に誘っているような気がする……
まじまじとその果実を見つめるルビアに商人は笑いながら説明した。
「とっても甘い果物でっせ。しかもこいつは種まで食べることができて、これもまた甘くて、ココアのようでございやす」
説明を聞いてルビアの顔が少し曇る。
甘い果物と言うのはやはり高価な物だ。
しかもココアとなったら贅沢な代物である。
やはり値段が張るのでは……そのルビアの考えを見透かしているかのように、商人はまたあの気もような笑い声を上げた。
「これも安くしますぜ。そうですなぁ……これも銀貨2枚でいかがでしょ?」
「……!?」
「なになに、遠慮はいりやせんや。この商売は道楽みたいなもんでございやすし、本当にお金が欲しかったら貴族からぼったくりやすって」
さっきのキノコと同じ値段だ……目を丸くするルビアに商人は狡猾そうに笑ってみせた。
いかがとその青い果実を彼女は差し出す。
値段が、自分が手の届く範囲だと知ってしまったらもう我慢できなかった。
すっかりその果実に夢中になっていたルビアは懐からさらに銀貨を二枚取り出し、その商人に握らせる。
「ひぇっへっへ……毎度あり〜」
満足そうに商人は笑って受け取る。
金を手に入れたことより、ルビアが商品を買ったということに笑っている感じがした。
そして一言付け加える。
「ちゃんと、弟さんと一緒にお食べるんですぜ」
「はいっ! ……えっ?」
自分に弟がいるだなんて一言も言った覚えはない。
だがその商人は弟の存在を言い当てた。
商人はニヤニヤと笑いながら、早く帰って料理しなさいと言わんばかりに軽く手を振る。
彼女に好感を覚えながらも不気味さを感じ、ルビアはペコリと頭を下げて足早に彼女の元を去った……





そして今、手元にあるのが件のキノコと果物である。
「うーん……」
初めて見るキノコと果物にルビアは首をひねる。
先ほどの不気味な商人から買った物……弟のことを言い当てられてから、この二品も不気味に見えて仕方がない。
見ていると美味しそうに見えて思わずかぶりついてみたくなると言う魅力も、逆に怖かった。
だが、せっかく合わせて銀貨4枚払ったのである。
そして何より……この珍しい食べ物を弟にも食べさせてあげたいと言う気持ちもあった。
不気味さに恐れをなして捨てるだなんてもったいなさすぎる。
「よし、やりますか!」
果物は切って分ければいいだろう。
キノコはスープにするといいとさっきの商人は言っていた。
助言に従い、ルビアは鍋に水を入れて火にかける。
その鍋に切ったニンジンやジャガイモ、干肉、そして件のキノコを入れた……





「ただいまー」
日の光が消えたくらいに、エメットが帰ってきた。
ちょうどその頃には料理も完成していた。
「おかえりなさい。今日はキノコスープよっ」
上機嫌な様子でルビアはスープを皿に装う。
その様子にちょっと驚いたエメットだったが、軽く微笑んで食卓についた。
姉がこのように上機嫌だったときは、料理が上手くいったり何か良い食材が格安で手に入ったりした時だ。
果たして、エメットの目の前に出されたのはいい匂いのするキノコや野菜が入ったスープだった。
「今日はね、ちょっと珍しいキノコが手に入ったんだ。そして初めてそのキノコを使ったのに結構上手くいったんだ。さぁ、食べて食べて」
「あ、ああ……いただきます」
二人は主神へ食事の祈りを捧げ、そしてスープを掬った。
スープには不思議ととろみがついている。
だがそれで飲みにくいと言うことはなかった。
口に入れるとキノコの旨みと野菜の旨み、そしてルビアが絶妙に振った塩の味が口一杯に広がる。
「うまい!」
目を見開いてエメットは叫ぶ。
そして二口目が待ちきれないと言った感じでスープを掬い、また口に流し込んだ。
美味しそうに食べる弟を見てルビアは嬉しそうににっこりと笑う。
「エメットに喜んでもらえて嬉しいわ。うふふ……し、新婚の奥さんの気持ちが分かるわ」
やや震えた声で頬を赤く染めながら突然、ルビアがそんなことを言った。
姉の発言に驚いたのか、少々慌て過ぎたのか、エメットがむせてしまう。
咳はすぐに収まったがスープを吹き出してしまい、テーブルや口元が汚れる。
「あらあら、エメットったら……」
むせた彼に苦笑しながらルビアは彼の口元をナプキンで拭った。
「ご、ごめん……」
少しどもりながらエメットは謝る。
その顔が赤いのはむせて苦しかっただけではない。
「どうしたのエメット? 顔が赤いけど……」
「な、なんでもない! ってか姉さんも顔赤いじゃないか……! ずずず……」
照れ隠しをするかのようにエメットはまたスープをすする。
弟に顔の赤さを指摘されてさらに頬を染めながら、ルビアも照れ隠しをするように、それならいいのだけど、とつぶやいてスープに口をつけた。
しばらく部屋には、スープを吹いて冷まそうとする息の音と、スープをすする音だけが響く。
二人ともスープに夢中になっているのもあるが、どこか変な気まずさのような物が部屋を包んでいた。
黙って食事をしていると、あっという間に料理は減る。
しばらくしたら二人はスープを飲み終えていた。
「ふぅ、すぐに食べ終えちゃったね。それじゃあ私、デザートを持ってくるね」
ルビアはそう言って立ち上がり、かまどの方に赴く。
その姉をエメットは黙って見送る。
すぐにルビアはデザートの果物を切り分けてエメットの元に戻ってきた。
果物とはもちろん、件の涙滴状の青い果物である。
「姉さん、これなんだ?」
テーブルに置かれた、皿の上に乗っている4つに切り分けられた果実をまじまじと見ながらエメットは訊ねる。
青い皮に包まれていた果肉は白く、どろりとした果汁を滴らせていた。
さらにところどころ果肉から黒い種が見えている。
「うん、さっきのキノコもこれも、市場にいた商人さんから買ったんだ」
その商人がいかに不気味だったかは伏せて、ルビアは説明した。
高かったんじゃないのか、と言いたげなエメットに、キノコと合わせて銀貨4枚で買えたことも言う。
「とにかく食べよ♪ これ、種も食べられるらしいから……」
待ちきれないと言った調子でルビアは果物に手を伸ばし、そしてかぶりついた。
果物を口にした彼女の顔が綻ぶ。
「ん〜、おいひぃい……ほっぺたが落ちるってこう言う事かなぁ……」
頬に手を当てて首を傾げる姉を、エメットは呆けたように見つめる。
弟に見られていることに気づいたルビアは顔を赤くした。
「や、やだエメット……そんなにお姉ちゃんの顔を見て……何か私、変だった?」
「えっ!? い、いやぁ、なんでもないよ! 俺も、いただきます」
ごまかすように言ってエメットは果物に手を伸ばし、かぶりついた。
なるほど、姉があのような表情をしたことが納得できる。
果肉と果汁はほのかに甘く、そして中の種はとろけるような独特の甘みとかすかな苦味が混じっていた。
こんな美味しい物、エメットは食べたことがない。
一緒に暮らしていたルビアもそうだっただろう。
スープの時と同じように黙って、二人は果実にむしゃぶりついた。
やがてその果実もなくなってしまう。
「ああ、もうなくなっちゃった……お祝いごととかじゃないのに贅沢しちゃったわね……」
食べ終わって少し残念そうにルビアはつぶやく。
そんな姉の肩をぽんとエメットは叩く。
「まぁ、たまには良いよ。お陰で俺、また明日から頑張れそうだよ」
「エメット……」
「それにこんな美味しい物……独り占めせずに俺にも食べさせてくれてさ……嬉しかったよ」
弟の言葉に姉はびくりと身体を震わせて彼の目を見つめる。
そして赤くなった顔を隠すように俯いた。
「と、当然でしょう? ……姉弟(きょうだい)……なんだ、もん……」
後の方はどこか苦しげな口調でルビアはつぶやく。
その姉の言葉にハッとしたように、エメットは彼女の肩に置いていた手を離した。
「ま、まあそれでも俺は嬉しいよ……あ、皿と鍋は俺が洗っておくよ!」
「ふふふ、ありがとう。エメットは優しいね……でもいいわよ。家事はお姉ちゃんの仕事なんだから」
姉に急に褒められて頭を掻いて言うエメットを、ルビアはやんわりととどめる。
「う〜ん、でも……」
それでも渋るエメットにルビアは提案する。
「それじゃあ、一緒にやりましょうか?」
「うん、そうだね。そうしよう!」
そう言って二人は仲良く、夕食の後片付けを始めた。






「う、うーん……」
明かりが消されて真っ暗な居間に、エメットの唸り声が響く。
ルビアはここにはいない。
さすがに姉弟とは言え、寝る場所は分けているのだ。
ルビアはこの家のなけなしの部屋で眠り、そして自分の部屋を持たないエメットは居間の隅の方で眠るのだ。
寝るのにはあまりいいとは言えない環境だが、それでも肉体労働で疲れているエメットは、いつもならぐっすりと眠れる。
だが今日はなかなか寝付けなかった。
ときどきそんな日があるが、今日はとりわけ寝つきが悪い。
煙のようなモヤモヤとした体の中で蛇のようにくねっているような気分だ。
「はぁ……」
エメットは諦めたようにマットレスの上で嘆息した。
原因は分かっている。
自分の身体の一部が固く張り詰めているのが分かる。
「今日もかよ……」
疲れていたり、ムラムラしていたりする時に自分のペニスは勃起する。
これのせいでなかなか眠れないことが、エメットは時々あった。
こんな時にどうすればいいか、一応エメットは分かっている。
そろそろとエメットは毛布の中で下着を下ろし、固く張り詰めた自分の肉棒を触ろうとした。
だが
「だ、ダメだ! こんなこといけないし、姉さんだって隣の部屋に……!」
自分に言い聞かせてエメットはその手を止める。
貧乏だろうが何だろうが、エメットは主神教を信仰している国の住民であり、彼自身も理解はしていないがそれなりに信仰していた。
姦淫を禁じている主神教ゆえに、自慰も禁じられている。
そして何より、異性である姉が隣室にいるのが大きかった。
万が一姉にバレたら何を言われるか分かった物ではない。
ゆえに彼は我慢することが多いのだが……何度かその禁忌を破って自分を慰めたことがあった。
その度に、すっきりとした感覚を味わうと同時に罪悪感に苛まれたものだった。
『だけど今日のは、また一段と……』
ごろりと仰向けから横向きに転がりながらエメットは呻く。
うつぶせにはなれない。
それくらい、彼の性器は張り詰めており、比例するかのように性欲も彼の中で膨れ上がっていた。
『くそ、なんだって今日はこんなに……』
そこで彼の思考は途切れた。
隣室から呻き声がしたからだ。
そこには姉しかいないはず……声を上げるのもルビアしかいないはずである。
「姉さん?」
呼びかけるともなくつぶやきながらエメットはマットレスから起き上がった。
そして姉の部屋に近づく。
ガタが来ている古いドアは完全にしまっておらず、隙間から姉の姿が見えた……






「……はぁ、はぁ……なんだろ……」
苦しげな息遣いをしながら、ルビアはベッドの上を転がる。
身体がなんとなく熱い。
頭の中もボーッとしているが眠気は来ない。
「あつい……」
暑くて、毛布はすでにうっちゃってしまっていた。
まるで熱病にかかったかのようだが、そうでもない。
原因は分かっている。
「今日もなの……」
下着が冷たくなっているのを感じ取り、うんざりしたように彼女はつぶやく。
ルビアとて年頃の娘だ。
今日のように発情することがある。
これのせいでなかなか眠れないことが、ルビアも時々あった。
そしてこんな時にどうすればいいかもエメットと同様、彼女も分かっている。
だが
「だ、ダメ……なのぉ……」
むずむずと太腿をこすり合わせながらルビアはつぶやく。
やはりルビアも主神教の人間。
姦淫、自慰が忌むべきものだと教え込まれている。
そしてやはり、弟が隣室にいるのも彼女が自慰をすることに抑制をかけていた。
「そんなことしているのがエメットにバレたら……私、嫌われちゃう……」
ギュッと身体を固くして発情をやりすごそうとしながら、ルビアは自分に言い聞かせる。
しかし、エメットと比べるとルビアは欲望や誘惑には弱かった。
そろそろと右手を下腹部に伸ばし、ショーツの上から自分の秘部を触る。
「んんん……ダメ、なのにぃ……」
口ではそうつぶやきながらも、その指の動きは手馴れたものだった。
下着の上からでもその指は的確に陰核を捉えており、快感を自分の身体に送り込む。
しかし、いつもと違う何かを感じ、その手がちょっとの間、止まる。
「な、何これ……まだいじってもなかったのに……もうこんなに……?」
ショーツに愛液が染みるのがいつもより早く、量も相当なものに感じられた。
これ以上汚すのもいけないし、と言い訳めいたことを言いながらルビアは下着を下ろす。
その目が驚きに見開かれる。
「う、わ……すご、い……」
夜目でも分かるくらい、ショーツのクロッチと自分の股間を銀色の糸がつないでいた。
その糸はショーツを膝までおろしても切れない。
このようなことは今までなかった。
ショーツから片脚を抜き取ったルビアは慌てて自分の性器を触ってみる。
表情はもはやただの驚きではなく、驚愕といった感じだった。
「な、なにこれぇ……? いつもと……違う……」
教団の教えに反して何度もいじった自分の身体だから分かる。
普通、自分の秘部から分泌される体液の粘度は唾液より多少ある程度だ。
糸を引いたとしても、ほんのわずかである。
だが今、自分の身体の奥から湧き出ている体液はそれ以上の粘度となっていた。
中指と親指とで環を作り、そして離してみる。
二本の指を愛液が糸でつなぐが、その糸はいつまでも切れなかった。
「すごい、ぬるぬる……ねばねばしてる……んあっ!?」
その様子を見ていたルビアだったが突然、嬌声を上げる。
手持ち無沙汰だった左手が無意識のうちに膣に伸びており、放置されていたそこを慰めていた。
利き手とは逆の手だが、無遠慮に膣の入口をかき回し、いつもよりぬるぬるしている愛液を周囲に塗り広げる。
「あっ、あっ、ふあああ……」
媚粘膜を自分の指が擦れるたびにルビアは身体を震わせて声を上げる。
身体の火照りがさらに増していた。
上半身に残っている寝巻きすらもどかしい。
ルビアは引きちぎるようにしてその寝巻きを脱ぎ去った。
ぷるんと、熟した胸の果実が露になる。
「あ、あああ……もうこんなに立っている……」
興奮すると乳首が立って敏感になり、触ると快感が全身に走ることも、これまでの経験から知っている。
そして、どう触れば一番気持ちいいかも……
「ん! あっ!? んふぅ!」
大きな声が出そうになり、慌てて口を噤む。
忘れかけていたが、隣にはエメットが……弟がいるのだ。
『……あっ』
普段より粘度のある愛液がどろりと膣壁を伝わって体外に漏れ出たのを、ルビアは感じた。
一度だけでは終わらない。
自分の蜜壷がどんどん蜜を滲み出させ、そしてそれが外へと出て行く。
粘度が高くなっていることもあって発情したルビアの身体はそれを敏感に感じ取る。
弟が隣室にいる……それを意識した途端から。
「エ、エメ……んんっ、んんんー!」
弟の名を叫びそうになったルビアは慌てて身体をひねってうつぶせになり、枕に顔をうずめた。
嬌声が枕に吸収されていく。
これで声が少し大人しくなったと認識するや否や、ルビアの自慰はさらに大胆なものになった。
尻を高く持ち上げながら、両手で自分の股間をいじくりまわす。
右の指と左の指が交互に蜜壷に潜り込んで入口をかき回した。
愛液の粘度が上がっていることもあってぐちゅぐちゅと卑猥な音が狭い部屋に響く。
『ああ、エメット、エメット……! ああ、本当はエメットにこんな風に指でいじられたい……!』
声に出さない分、彼のことを思いながら彼女は自分の股間を虐め抜く。
あろうことか、ルビアは自身の実の弟を妄想の具にしていた。
しかもこれが初めてではない。
何度も彼女の自慰の種にはエメットが使われていた。
使われる理由は至極明解。
彼女はエメットのことが好きだから。
実の弟なのに。
『ダメ……本当はそんなこと、ダメなのにぃ……』
だが指と気持ちは止まらない。
頭の中には弟のあらゆる姿が沸き起こり、そして消えていく。
幼かったころのエメット、精通を迎えた時に不安げな様子だったエメット、こちらの胸元とかを見て恥ずかしそうにするエメット、水浴びから上がってたくましい身体を晒しているエメット……
彼が自分自身を慰めている姿を目撃してしまったこともあった。
エメットも年頃の男だと言うことを実感する反面、彼が誰に思いを寄せて自慰をしているのか、嫉妬に駆られた。
嫉妬に駆られたその日のルビアの自慰は激しかった。
そして今の自慰はそれ以上に激しい。
『どうして? どうしてこんなに……?』
自分を慰めるのを止めずにルビアは考えようとする。
しかしその考えは情欲とエメットへの気持ちであっさりと流されてしまう。
限界も近い。
枕に顔を押さえつけて声を殺すのも苦しくなってきた。
ルビアは顔を横に向けた。
とたんに嬌声が彼女の口からほとばしる。
「あ、んあああっ! エ、エメットぉ! ふあ、あ……来ちゃうっ、私……っ!」
絶頂の予感にルビアは身体を震わせる。
この感覚を知ったのは随分昔だ。
知って以来、かなりの頻度で自分を慰めている。
ちらりとよぎる背徳感。
「エメ、エメット……ごめん、なさい……こんなお姉ちゃんを許して……あっ、くうう!」
腰がガクンと跳ね上がり、快感が爆発した。
快感の炎が渦を巻いて全身へと広がる。
「ん、んっ、んんん……!」
びくん、びくんと腰と身体を震わせながらルビアは絶頂の余韻に浸った。
自分の蜜壷からどろりと愛液が垂れたのを見なくても感じる。
その時だった。
ルビアの鼻腔を甘美な匂いがくすぐったのは……





「うっ……なんだ、これ……!?」
がくりとドアの前に膝をついた状態で、自分の右手を見てエメットは思わず呻く。
彼の右手は、彼自身の子種によって白く汚れていた。
姉の苦しげな声を耳にして部屋を覗き見たら、彼女は全裸で尻を高く上げ、秘部をこちらに見せつけるような形で自慰をしていた。
自分の実の姉が。
もっとも自分に身近で……憧れている人が。
姉は弟を男として意識していたが、弟もまた姉をひとりの女として意識していた。
自分を慰める際、妄想の具はいつも姉だった。
何度かほかの女で試してみたが、どうも上手くいかなかった。
だが自分の気持ちは自慰と同じくらい禁じられていること……そう思って封印するつもりだったのに……
それなのに姉は部屋で見せつけるように自慰をしており、挙句のはてには自分の名前を呼びながら腰をくねらせていた。
我慢できるはずがない。
その姿に当てられてエメットも自分の肉棒を扱き抜き、姉の絶頂と同時に自身も果ててしまったのだが……
「な、なんでこんなに……」
彼の手を染めている精液は液と言うより塊に近い代物だった。
量もさることながら、自分の身体がこんな精液を吐き出したことは今までない。
まじまじとその精液を見つめて、エメットは眉を軽く寄せた。
「あ、エメット……どうしてここに……?」
突然、彼の頭上から声が浴びせられる。
この異常事態に少々気を取られすぎていたようだ。
彼が気づかないあいだに姉はベッドから降り、生まれたままの姿で自分の目の前に立っていた。
「げっ!? ね、姉さん? こ、これは……」
しどろもどろになって言い訳しようとしたが、言い逃れができるはずがない。
そんなエメットを見てルビアはクスクスと笑い、さらに舌なめずりすらした。
「エメットのそこ……大きいね……ねぇ、どうして?」
「だ、だってそれは姉さんが……そうだよ! 姉さんこそ何やっていたのさ!?」
突然立ち上がり、エメットは逆上したように声を上げた。
そんな弟に動じることなく、ルビアは笑みを崩さないまま肢体をエメットのそれにからみつける。
「うん、オナニー、していた……」
「……!?」
自慰を指す露骨な言葉……純真可憐といった感じの姉からそんな言葉を聞かされてエメットは目を白黒させた。
ルビアは続ける。
「エメットのおちんちん……ずっとこのままじゃ苦しいよね? お姉ちゃんがこうさせちゃったんだから……私が鎮めてあげないとね……」
言いながらルビアはやさしくとエメットを部屋に引き込み、そしてやんわりとベッドに押し倒した。
そのままエメットの脚の上にまたがって押さえつけ、背中を丸めて顔を股間に寄せる。
「ちょ、姉さん……んくっ……」
止めさせようとしたエメットの声が途切れる。
彼の肉棒はルビアの口の中へと消えていた。
実の姉が自分の性器を咥えて……その事実と映像だけで、先程射精したばかりだと言うのに、エメットはまた精を放ってしまいそうだった。
だが咥えるだけで終わるはずがない。
ちゅうちゅうとルビアはペニス全体を吸い上げる。
「あ、くっ……姉さん……」
「んちゅ……どう、エメット……? お姉ちゃんのお口、気持ちいいかな?」
少し自信がなさそうに眉を下げてルビアは訊ねた。
そんな姉にエメットはこくこくと頷く。
言葉を発しなかったのは、そんな余裕がなかったからだ。
弟の肯定の仕草に、姉の顔が輝く。
「嬉しい……! お姉ちゃん、もっと頑張るね。ん、あむっ、むぐむぐ……」
再びルビアは弟のペニスを口内に頬張り、そしてゆっくりと頭を上下させ、くちびるで弟の幹全体をしごきはじめた。
これに加え、舌がれろれろと男の敏感な部分、亀頭を丁寧に舐めまわす。
初めて男にフェラチオをするとは思えない口さばきだった。
快感のあまりに腰をひこうとエメットはしたが、ルビアが脚の上に乗っているので、逃げられない。
「ああ、姉さ……っ!」
「んんっ、エメット……ん、んふぁあ、ん、んちゅう……」
弟の性器をしゃぶっている間、ルビアの口からくぐもった嬌声が漏れる。
彼女の左手はエメットのペニスの根元に添えられて細かく上下に動いていて彼に快感を送っている。
だがもう一方の手は自分の股間に伸ばされ、触られていなくて疼いているソコを自分で慰めていた。
二人の嬌声に混じって、くちゅくちゅと卑猥な音が立つ。
「あ……何か……?」
姉に乗られている脛のあたりに何かを感じ、エメットは声を上げる。
二人の目からは見えないが、興奮したルビアの秘裂からはぬるぬると粘度の高い愛液が漏れ、垂れていた。
それがエメットの脚に滴りおちたのだ。
ぬるりと彼の脚を撫でながら、愛液はベッドへと滴り落ち、染み込まずにぷるぷるとシーツの上で揺れた。
そうなっているのだが、自分の脚に何かが伝ったことまでは感知できても、それ以上はエメットには分からない。
そんな余裕はなかったからだ。
姉のもたらす口淫の刺激に追い詰められていた。
亀頭や裏筋を這い回る少しざらついた舌、幹全体を扱きぬくぽってりとしたくちびる、まとわりつく唾液、温かい口内、それをもたらしている実の姉……
「だ、ダメ……姉さ……あっ……!」
姉に射精が迫っていることを伝えようとするが、それより先に快感が我慢の閾値を超えるのが先だった。
粘度が高いのではっきりと分かる。
陰嚢と会陰がギュッと縮まったと同時に、下腹部の奥を何かが駆け巡っていた。
それは尿道に向かい、外界を目指して精液が抜けていく。
「ん、んあああっ!?」
さすがのルビアも驚いたらしい。
思わず口を離してしまった。
だが射精は止まるはずがなく、ルビアの口に受け止められるはずだった精液は姉の顔に浴びせられる。
先程と同じくらい塊に近い精液が姉の顔を白く汚した。
粘度も高いので、それは顔から滴り落ちず、いつまでも顔の上に残っていた。
「あああ……エメットの精液ぃ……んん、すっごくぬるぬるぅ……ベトベトぉ……」
驚いた顔をしていたルビアだったが、それが弟の精液と分かるとこれ以上にないくらい、とろけた顔をした。



「ん、んん、すごぉい……」
無意識のうちにルビアは顔にかかった精液を塗り伸ばす。
精液に触れている肌からぞくぞくと、電気が走ったような快感が走り、身体を震わせる。
そして震えたまま、ルビアは指についた精液を舐めとった。
「んふぁあ、甘い……」
「(そうでしょう? とっても美味しいでしょう? 弟の精液……)」
その時、彼女の頭の中に女の声が聞こえる。
女と軽く表現されたが、本当に「女」を感じさせる声だ。
すこし狡猾そうで、それでいて優しげで、何より艶かしくて……
そんな女の声が続ける。
「(認めてしまいなさい、あなたの欲望を……)」
『私の……欲……』
頭の中でぼんやりとその言葉を繰り返す。
その欲はすぐに認識できた。
自分は今すぐ、この男と……自分の実の弟のエメットと、身も心も結ばれたい。
『……だ、ダメっ!』
その欲望を認識した瞬間、今まで押しやられていた禁忌感が戻ってきた。
こんな淫らなことは本来許されるべきではない。
ましてや相手は実の弟なのだ。
結ばれることなど許されないし、淫らなことなどもってのほか……
「(そんなこと、いつ、だれが、何のために決めたの?)」
再び、女の声が頭に響く。
いつ、だれが……
肉親と結ばれるのは人間の中で禁忌と国の法も定めている、姦淫は主神が禁じているから……と答えは出てくる。
何のため?
前者は子どもに悪い影響が出るからと聞かされている。
後者は……まったく分からない……
「(そう、結局は人間が、形も分からない主神が勝手なことを言っているだけよ。そんなものにあなたが縛られて、自分が本当に欲しいものを手放すのは、滑稽だわ)」
『じゃ、じゃあどうすれば……』
くすくすと声は笑った。
「(大丈夫。身体を楽にしていて……『堕落の実』に惹かれてそれを口にし、愛しい者の精液を受けたのなら、もう誰にも止められないわ……私、堕落神が、あなたが望む事を実現させる……)」
「ああああっ!」
その声と同時にルビアの身体に衝撃が走った。
しかし、決して不快なものではなく、自慰の絶頂と同じくらい甘美な物だ。
そして身体に変化が起こった。
耳がエルフを思わせる長く尖った形となり、さらに頭からは角が二本、前頭部を囲うかのように伸びる。
腰からは漆黒の翼と先端がハート型の尾が生えた。



「あ、あふ……」
変化が終わったルビアはとろけた顔を弟に向ける。
姉の身体に起きた大きすぎる変化に、エメットは口をあんぐりと開けてつぶやく。
「ね、姉さん……!? 姉さんが、サキュバスに……」
「ううん……少し違う……お姉ちゃんはね、ダークプリーストになったの」
ダークプリースト……堕落した神の教えを広め、人間を堕落させる、魔物だ。
禁欲的な人間に特に襲いかかり、その欲を解放し、男女で受け止め合うことを良しとする。
今、ダークプリーストとなったルビアはもはや自分のこれまでの戒めを解き、秘めていた欲望を解き放った。
「お姉ちゃんね……ずっとずっと、エメットのことが好きだったんだよ? でも姉弟で結ばれることなんていけないし、淫らなことなんてなおさらいけないと思ってたの……」
弟を見つめながら、ルビアは懺悔する。
本来なら、それは愚かな行為であったと……
「でももう、こうなったから……私は我慢しないの。私は、エメットが好き……エメットと結ばれたい……エメットと愛し合いたい……エメットと一つになりたい……!」
「姉さん……」
姉の告白を受け止め、ごくりと唾を飲み込む。
ある程度は覚悟していたが、やはりその告白は彼の自我、それまでの常識や価値観を叩き、揺らしていた。
そんな弟に、少し困ったような顔をしてルビアは訊ねる。
「エメット……こんなお姉ちゃんは、イヤ? 魔物になっちゃったから……嫌いになっちゃった?」
「……いや」
エメットは首を振った。
今夜の異常事態に動揺していたが、答えは既に胸の中にある。
彼もまた、胸に秘め、常識や主神の教えで縛り付けて封印していた思いがあった。
封印の鎖は、夕食に食べた堕落の果実と姉の淫らな姿で緩んでいる。
そしてその鎖が今、姉の告白によって断ち切られ、欲望が解き放たれた。
「俺も……姉さんのことが好きだった……ひとりの女として、好きだった……それはいけないと思っても、どうしてもその気持ちを捨てる事はできなかった!」
ついに彼も、自身の思いを吐露した。
それを聞いて、ルビアの顔がパッと輝く。
「嬉しい……私たち、両思いだったのね……!」
「ああ、そうだね…」
二人はキツく抱き合う。
だが思いを吐き出し合い、もはや姉弟などという関係を飛び越えていた二人がそれで満足できるはずがない。
「姉さん……俺……」
「うん、いいよ……お姉ちゃんも、エメットと一つになりたい……」
抱擁を解き、ルビアはベッドの上に仰向けになった。
そして脚を広げて彼を受け入れる準備ができた性器を見せつける。
「ほら、見てエメット……ずっとエメットが欲しくて、ひとりでいじっていたんだよ?」
「え? 姉さんも?」
「 ……も?」
姉が聞き返したことで、エメットは自分がうっかり秘密を漏らしてしまったことに気づいた。
ルビアの顔がずる賢そうににやりと笑みを作る。
「うふふ……エメットもオナニーをしていたんだよね……お姉ちゃん、何度か見ちゃった」
「う、うわあああ!」
まさか見られていたとは思わず、エメットは頭を掻き毟る。
そんなエメットにルビアはニヤニヤ笑いを止めずに訊ねた。
「誰を思ってしていたのかしら?」
「……姉さんのことを思って……」
顔を赤くしながら、エメットは答える。
無理やり愛していると言わせたような気もして罪悪感が少しあったが、それでもそれを聞いてルビアは幸せだった。
他の女のことを思ってエメットが自慰をしているのではないかと、嫉妬に駆られていた自分が愚かしい。
そして愚かしいと言えば……
「私たち……お互いに淫らな欲を抱いていたのに、それを押し殺していたなんて……ダメね。これからはそんなことはナシ、だよ?」
そう言ってルビアは秘裂を二本の指で広げて見せる。
開かれた陰唇の間を、粘ついた愛液が糸でつないでいた。
「だから……来て、エメット……」
「ああ……!」
堕落して、人間の理性など捨てきったも同然のエメットは、実の姉のルビアに覆いかぶさった。
そしていきり立った剛直を姉の秘部にねじ込んでいく。
「あっ、くうう……! エメットが、入って……くああああっ!」
一瞬苦しげな声を上げたルビアだったが、すぐに嬉々とした声を上げる。
感じた痛みは何かを失う痛みではなく、得た痛み……そうと考えれば破瓜の痛みすら快感に思える。
さらに、自身の膣壁を剃り、圧迫する弟の肉棒の快感はやはり、自慰などでは到底得られない快感だった。
「お、おおおぉ……」
一方のエメットも快感にうめいていた。
ただでさえ初めての女の味は男にとってこれ以上にない快楽である。
おまけに、通常の物より粘度の高い愛液が肉棒にまとわりつく感触は極上だ。
初めての交わりがこのようなものであったのは彼にとって幸か不幸か……挿入しただけでエメットは精を漏らしてしまいそうであった。
そんな弟の様子を察し、ルビアは彼の頭を軽く撫でる。
「いいよ……エメットの好きな時に動いて……」
「ありがとう……その間に……」
エメットが身体を倒し、ルビアの顔に自身のそれを近づけた。
ちゅっ……姉と弟のくちびるが繋がる。
はじめはほんの一瞬の間だったが、次に繋がったときは互いのこれまでの抑圧されていた欲望を相手に訴えるかのような、そしてこれからも欲望をぶつけ合うことを誓うようなねちっこいキスであった。
しばらく二人は口づけを交わしていたが、やがて二人共我慢できなくなった。
言葉を交わさなくても、姉弟だから目だけで分かる。
キスを中断したエメットがぐいっと腰を突き入れた。
「んあああっ!」
「くあっ!」
二人の嬌声が絡まり合う。
それをきっかけに、二人は完全に高尚ぶった人間の気持ちを捨て、欲望に忠実な獣へと堕落した。
いや、獣よりさらに堕落している。
獣は子を成すために交わるが、今の二人は快感と肉欲のために姉弟で交わっているのだから。
だがその欲望は二人のあいだに男と女の愛があるがゆえに成り立っている……それは獣にも、常識に縛られている人間にもない、大事なことであろう。
「うおぁあ、姉さん! 気持ちよすぎて止まらないよっ! ああ、姉さん、好きだ!」
「あ、あっ、ううっ、ああっ……私も、好き! ああ、弟と一つになれて私は……幸せ……くあああっ」
交わりの知識などない二人であったが、本能とも言うべきものが二人にどうすればいいか身体に教えていた。
姉を組み伏せた状態で弟は猛然と腰を前後に動かし、牡性器で姉の膣壁を採掘するかのように擦り立てる。
一方の姉は弟の突きを自身の身体で受け止め、扇情的に身体をくねらせながら艶かしい声を漏らしていた。
「あんっ! ふあぁ! 溜め込んでたからか、こんなに激しく……ひあっ!? んあああ! すごいっ!」
「くっ! 姉さん、大丈夫?」
「へ、平気……だけど……はうああっ!」
ガクンとルビアの身体がエメットの下で跳ね上がった。
エメットも歯を食いしばりながら、腰を振っている。
いつまでも続けたい交わりの時だが、絶頂という一区切りが互いの身体に近づいていた。
「姉さん、俺、もう……!」
「うん、出して! お姉ちゃんの中にエメットの欲望、全部出してっ! 私も……くううっ!」
弟の放つ欲望の証……それを絶対に漏らすまいとルビアはエメットの腰にスラリとした脚を巻きつける。
結合が深くなり、そして互いにすがりつきながら二人は昇天した。
「出るっ……うっ、ああああ……!」
「ああっ、来るっ、来ちゃう! ふああああっ!」
三度目とは思えない量の精液が、姉のぎゅうぎゅうと収縮する膣の奥に浴びせかけられる。
相変わらず粘度の高いその精液は二人が交わった証のように、いつまでも子宮口にへばりついていた。





「……これから、どうするの……?」
情事の余韻から覚めたエメットが声を出す。
その声にははっきりと怯えがある。
当然だ。
ここは反魔物領……その街の中で姉は魔物と化し、そして自分自身もその姉と淫らな行為をした……
このことが露見したら二人共くびり殺される。
姉と結ばれたこと自体は微塵も後悔していないが、問題であることは確かだ。
だがルビアは少しも動じない。
「大丈夫……堕落神様を信仰する者には、しかるべき楽園……パンデモニウムが用意されているの」
「……本当?」
「本当。堕落神様が先程、教えてくださったのですもの……」
疑わしそうに目を細めるエメットにルビアははっきりと頷いてみせた。
そして、今すぐにでも向かえるがどうするかと弟に訊ねる。
パンデモニウムがどのような場所か分からないが、彼の答えはもう決まっていた。
「姉さんと一緒にいられるのなら、どこへでも……」
「決まりね。それじゃあ……」
絡み合う二人の姿が、おぼろげになっていく。
そして唇が重なった次の瞬間には、小さな家には誰もいなくなっていた。






実の弟に言えぬ思いを抱いていたルビアと、同じく実の姉に言えぬ思いを抱いていたエメット……
ルビアはこうして堕落して魔物として生まれ変わり、エメットと結ばれた。
その変化のきっかけとなったのは、やはり堕落の果実と精液が身体にいつまでもへばりつくようにするネバリタケだっただろう。
それも二つ同時に使ったことによる結果だ。
急に忽然と姿を消した姉弟を街の人間は探し、姿を消した原因を憶測したが、どれもあたってはいなかった。
人間の常識や禁忌感すらとろけさせる堕落の果実とネバリタケの組み合わせによって禁じられた恋だったのに結ばれた二人は今、パンデモニウムにて淫らに交わり続け、幸せに暮らしている。
12/12/13 19:18更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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■作者メッセージ
さて、更新させていただきました、魔界の特産物を複数使うSS、『多品併用』。
三番手には堕落して弟との禁忌の恋に走るダークプリーストになったお姉さんさんを登場させました。
ビバ、お姉さん!
そして堕落の果実とネバリタケの組み合わせ!
……この組み合わせ自体は浮浪物様がダンピールSS『上の口も下の口もするのを嫌がる彼女を気持ちよくさせ、自身も満足するために考えついた方法は、敏感になった彼女の肌にBUKKAKEることだった。』でやられていましたね(タイトル長いよ!)
このSSが出て私は「まずい! みんな考えることは同じだ! これ以上ネタが潰されるより先に急がなければ!」と思ったものです。
浮浪物様の『上の口も下の口も(中略)BUKKAKEることだった。』をよろしくお願いします。
そして確かに、ぶっかけするための物と言っても過言ではない堕落の果実と、いつまでも精液がへばりつくネバリタケの相性は最高ですね。
このコンボをBUKKAKE・コンボと名付けようwwwwww
もうちょっとスタイリッシュにする? ならホワイトアウト・コンボでwwwww



さて、コンボはともかくようやく姿を現しました、謎の商人。
しかし正体は未だに不明。
まぁそりゃあ魔物娘ですよ、この人。
でも一体どの種族か……次回、ついに明かされます!
そしてさらに!
今まではコンボをきっかけに結ばれるお話でしたが、次回は最初から結ばれている魔物娘と夫を相手にコンボが炸裂します!
どうぞお楽しみに。


最後に、この章のお話の構成にご協力いただいたzeno様にこの場を借りて感謝を申し上げます。

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