連載小説
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奥手な旦那とコカトリスの場合
「ひぇっひぇっひぇっ……毎度ありぃ」
人食い箱ことアニータは海辺の街を離れ、別の親魔物領で行商をやっていた。
今日も売れ行きは上々だ。魔界の特産物はもちろん、ちょっとした宝石や服、下着など魔物娘が着飾るものなどが魔物相手にどんどん売れた。またそれだけではなく、他の国の硬貨や壷などが魔物娘の夫の趣味でも売れた。
自分は魔物だが、求められれば魔物絡み以外のものだってなんだって売る……それが人食い箱のポリシーだ。
「あ、あ、あ、あの〜」
突然、おどおどとした声がアニータにかけられる。見てみるとコカトリスがひとり、脚をがくがく震わせながらこちらを見つめていた。
「へっへっへ……いらっしゃい。今日はなにをお求めでございやしょう?」
「えっと、そのぉ……」
コカトリスはもじもじとしている。言いにくいものを買いたいのか、それとも欲しいものは確かにあるのだがそれが具体的に何なのか本人の中でも分かっていない……彼女の様子を見てアニータは考えた。
「ふーむ、何か言いにくいものでございやしょうか? 人に聞かれたくなかったらこの箱の中にお招きいたしやすが……」
「い、いえっ! そうじゃないんです!」
びくっと身体を震わせて、コカトリスはわしゃわしゃと羽毛に包まれた手を振って拒否する。とすると後者が理由のようだ。
「どんなものをお求めでしょうか。『こんな感じの物』と曖昧なものでも悩み事でもなんでも、ご相談に乗りやすぜ」
アニータがそう言うと、コカトリスは少し落ち着いたらしく、身体の震えが収まってきた。
「えっとですね……最近、夫がエッチをしてくれないんです」
「あ〜、それは大変でございやすね……一体何が?」
「そもそも旦那は、エッチに対して受身なんです」
チロルと名乗ったコカトリスの話をまとめるとこういう事になる。
コカトリスと言うのは非常に臆病な魔物であり、人間の男を前にしても襲いかかるどころか逃げ出してしまう。しかし未婚のコカトリスの身体からは強力なフェロモンを発しており、このフェロモンは男の理性を狂わせ、彼女達を追いかけるように仕向ける。結果、コカトリスはその男に襲いかかられて犯されて結ばれる……こういう少し特殊な方法で男を手に入れるのだ。
男を手に入れたコカトリスはフェロモンを発しなくなる。つまり、男の理性を狂わせると言うことがなくなるのだ。
「それで、結婚するときは自分を犯しにきた旦那さんも、元は受身だから、お嬢さんを襲いにかからないと……」
「ふわあああっ!! は、恥ずかしいから言わないでください〜!!」
恥ずかしそうにまた手をわしゃわしゃと振ってチロルは顔を赤くして叫ぶ。それは失礼したとアニータは謝ってから、にっこりと笑う。
「大丈夫ですぜ、お嬢さん。結婚の時と同じように旦那が犯しにかかるようなアイテムがありやすぜ。えーっと……」
目的の物は箱に飛び込まなくてもあるはずだ。アニータは片手を箱の中に突っ込んでごそごそといじる。
そしてその目的の物を取り出した。
「こ、これは……きのこ?」
「左用でございやす。これを旦那に食べさせればあの時と同じように熱く激しくお嬢ちゃんを愛してくれること、間違いなし!」
そう言ってアニータはチロルにキノコを突きつけた。
きのこは傘がどちらかというと小さく、傘の淵まで連続するように茎が伸びている。そして茎の部分には青筋のような物が走っている。
マタンゴモドキやネバリタケと異なり、そのキノコは男性器をより連想させるフォルムであった。
タケリダケだ。
「こ、これを旦那に食べさせるんですね?」
「左用にございやす」
「いくらですか?」
アニータは少し首をひねったが、指を三本立てて見せた。
銀貨3枚だ。
チロルは頷いた。
「はい、買います」
「ひぇっひぇっひぇっ……毎度ありぃ」
「で、でも……これを旦那に食べさせられる自信がないです……」
買ったはいいが、その問題に気付き、コカトリスはしゅんと肩を落とす。おや、とアニータは方眉を掲げた。
「どうして自信がありやせんか?」
「だ、だって正面から食べてなんて言えないし、ご飯にも混ぜるのは大変だし、何より何か考えているのがバレちゃいそうで私……」
あうあう、とチロルは唸る。
その様子を見て、彼女は緊張してしまって、このキノコを夫にそれとなく食べさせるのは難しいだろうと考えた。臆病な心はその緊張や不安感などをより高めてしまう。
「とすれば、これは如何でございやしょう?」
再び宝箱に手を突っ込んで、アニータはある物を取り出した。少し緑がかった水色をした、爽やかな色のロウソクだ。
「それはなんですか?」
「これはストイック・ラヴってハーブを練りこんだアロマ・キャンドルでございやす」
ストイック・ラヴのアロマ・キャンドルは、落ち着いた爽やかな香りを漂わせ、冷静な思考を保つことができる物だ。本来は甘くとろけるような激しい情事の最中でも理性を保つことができるようにして快楽を理解し、味わい、楽しむものだが、彼女のように緊張を取り除くのにもおそらく使えるだろう。
人食い箱の説明を聞いて、チロルは頷いた。
「じゃ、じゃあそれも買います。アロマならそれとなく使えるし……」
そう言ってコカトリスは、人食い箱が提示した値段、銀貨2枚を彼女に握らせた。
「ひぇっひぇっひぇっ……毎度ありぃ。他に何かお求めですか?」
「う〜ん、これだけでいいです。ありがとう、人食い箱さん」
ぺこりと頭を下げ、チロルは一目散に走って行ってしまった。コカトリスならではのスピードのため、彼女の姿はあっという間に見えなくなる。
彼女が消えていった方向を見て、アニータはぽつりとつぶやく。
「成功を祈っておりやすぜ、お嬢ちゃん。あ、いらっしゃい!」
すぐに別の客がやってきて、アニータは次の商売に移った。



その晩、件のコカトリスの家……チロルは台所にひとり立っていた。
ストイック・ラヴは寝室で使い、今頃部屋に十分漂っているはずだ。結局夕食時には勇気が出なくて食べさせられなかったが、今、夫は寝室にいる。
ちょっとストイック・ラヴの力を借りて緊張感をとって彼にタケリダケを食べさせればいい……いいはずだった。
鶏は三歩歩けば忘れる、と言う。それだけ鶏という生き物は記憶力が弱いとされる。
コカトリスはあくまでコカトリスであって、鶏ではない。だからコカトリスという種族は記憶力が悪いわけではないのだが……
悲しいかな、チロルは鳥頭と言われても仕方がないくらい、記憶力が悪かった。
「これ、どうするんだっけ?」
タケリダケを手にとって彼女は首を傾げる。
肝心のタケリダケをどう使うか、彼女は忘れてしまっていた。
人食い箱の元で買ったのは一応覚えている。旦那と交わるために使うことも覚えている。
「うーん?」
だがどう記憶を辿ってもこれの使い方が思い出せない。逆方向に首をひねっても思い出せない。
正確に言えば自分が食べるべきか旦那が食べるべきかが分からない。その二択で彼女は迷っていた。
『でももしこのきのこが危ないもので、ケンプが食べたら……』
記憶を辿ることを諦め、彼女はこのキノコを夫が食べたときのことを考える。
もしキノコが魔物娘専用なのに、人間に食べさせて危険なことになったら、それは大問題だ。
それだったら、頑強な身体の魔物娘が食べたほうがいい。
『そうよ、このキノコはきっとコカトリスにフェロモンを再び出させるようにするキノコだよ! ……たぶん』
記憶を引き出せない鳥頭なりに彼女はそう考え、そのキノコにかぶりついた。
魔界の特産物としてはピリリとした辛口な味が彼女の口に広がり……


「なんなんだ、チロルの奴……なんかそわそわしていたけど……」
寝室のベッドに身を横たえながらチロルの夫、ケンプはつぶやく。
彼の仕事は鑑定士見習いである。冒険者が持ってきたアイテムを鑑定し、それにふさわしい金額をその冒険者に払ったり、しかるべき人に売る際の目安を提示したり、直接買ったりするのだ。まだ見習いのため、直接買うことは彼はしないのだが。
その職業のため、彼は決して体力や筋力に恵まれてはいない。寝巻きに包まれているその身体は細身でひょろひょろしている。性格もあまり強気ではなく、受身がちの性格だ。
そんな彼がコカトリスのチロルを娶ったのはひとえに彼女のフェロモンの影響とチロルの油断にあった。
ケンプとばったり出会ったチロルは一目散に逃げ、フェロモンの影響でケンプは彼女を追った。あっと言う間に距離は開いたが、400ヤード(約360メートル)も逃げたら彼女は安心してしまった。
そこに走ったことと情欲に荒い息遣いのケンプが追いつき、彼女を背後から押し倒して犯したのだ。後にケンプが自分が何をしてしまったか気付き、彼女と結婚した。
だが元々弱気な彼はその初めての交わり以降は一度もチロルと交わっていなかった。
『僕は彼女に悪いことをしているんだろうか……?』
揺れるロウソクを見ながら彼は考える。
そのロウソクは爽やかな香りを漂わせ、彼に冷静な思考をさせるのを手助けしていた。
魔物娘なのだからチロルにもそれなりに性欲はあるだろう。だがコカトリスは臆病な性格、向こうから手を出してくることもない。そうこうしているうちに、結婚してもう4ヶ月も経とうとしている。
『でも、僕が彼女に手を出す勇気も……』
気弱な彼は指をくるくると弄ぶように回しながら弱気に考える。
そこで彼の思考は途切れた。
扉の向こうで誰かが咆哮を上げたような気がした。向こうの部屋にはチロルがいるはず。
『どうしたんだっ!?』
素早く彼は身を起こしたが、それより先に扉が蝶番を吹き飛ばすほどの勢いで向こうから開く。それを知覚した次の瞬間、ものすごい勢いで何者かがケンプに突進し、あっと言う間もなく彼を組み伏せた。
「だ、誰だ!?」
これが強盗などだったら大問題だ。チロルの身を案じながらケンプは目を凝らして自分を組み伏せている者の顔を見ようとする。
ケンプを組み伏せているのは……
「ふーっ! ふーっ!」
「ち、チロル!?」
ケンプが仰天した声を上げる。
自分を組み伏せているのは自分の妻、コカトリスのチロルだった。
だがチロルの様子はケンプが知っている彼女の様子と著しく異なっていた。獣のような荒い息をつき、目はギラギラと獰猛な光をたたえており、ケンプを睨みおろしている。
その様子は鶏なんかとは程遠い。まるで獅子だ。
「うぅうっ!」
「うわぁ!? ちょっとチロル!?」
チロルが唸り声をあげ、ケンプの寝巻きを掴んで強引に左右に引っ張った。
あっさりと寝巻きは破れて用を成さなくなる。寝巻きの下は何も身につけていなかったケンプはあっという間に裸も同然の格好にされてしまった。
「ちょ、チロル、やめるんだ……うっ!?」
「ふーっ!」
「……!? か、身体が……!」
抵抗するべく腕を振るおうとしたが、チロルに一睨みされると鉛のように重たく動かなかった。彼女の睨みに怖気ついたのではない、実際に動かない。
『まさか……!?』
夫を持ったコカトリスはフェロモンを発する能力を失うが、代わりに見つめた者を石にして動きを封じる能力を手に入れる。
その能力でケンプの裸同然の身体は、自由を奪われてしまっていた。
一方、この部屋に入ってくる前に脱ぎ捨てたのか、チロルはすでに何も身にまとっていない。彼女の大事な場所まで丸見えで、そこから粘液がとろとろと垂れている様子までが見える。
「うっ……」
そのあまりにエロチックな光景に、奥手でチロルを抱こうとしなかったケンプも、股間に血液を集め、生殖の準備を始めた。だがまだ勃起と言った状態ではない。
「ふーぅっ!!」
じれったいと言った感じの唸り声をチロルは上げ、挿入されていないまま腰を上下させた。
ケンプのペニスがチロルのヴァギナで餅つきのように潰される。彼女が腰を打ち付けるたびに彼女の秘裂から漏れた蜜がケンプの肉棒に付着し、腰を上げると糸を引いた。
「ああっ……」
その映像と刺激にケンプのペニスは完全に固くなる。細身な身体だからそう見えるか、彼の男性器は相当なものだった。
ぐいぐいと、ヴァギナを押し付けたまま前後に腰をチロルは動かした。太い肉棒が彼女の膣口と尿道とクリトリスを一度にこする。
「ふぐううう!」
満足げに唸りながらチロルは腰を上げた。そして右手をケンプのペニスに添える……
「ちょ……待っ……!」
だが理性を失っているチロルにケンプの言葉が届くはずがない。容赦なくチロルは腰を落とし、ぬめった膣でケンプの陰茎を飲み込んでいく。
「あっ、あああっ!」
チロルを犯したときはフェロモンの影響で無我夢中だったため、ケンプは彼女の膣内の感触など覚えていない。ケンプはある意味初めて、女の味を味わうこととなった。
妻による逆レイプというかたちで。
初めて味わう女性器は熱くぬかるんでいて、ぐちゅぐちゅと彼のモノに絡みついてくる。経験したことのない快感にケンプは声を上げるしかなかった。
「あ、熱い……!」
「ふぐうぅ!」
チロルとケンプの声が絡まり合う。ついに二人は奥までつながりあった。だがそれで終わるはずがない。
そのままコカトリスは腰を振り立ててきた。シンプルに上下に弾むような動き……
彼女が腰を夫に打ち付ける度にパンパンと肉がぶつかり合う乾いた音がたち、それに混じってぐちゅぐちゅと卑猥な水音が響く。
「あ、あ、あああ……!」
まるで女のようにケンプは声を上げる。
挿入だけで果ててしまいそうだった女の味、女の柔肉……その柔肉で激しく肉棒をしごき抜かれているのだ。
恥ずかしいまでの早さで、ケンプの身体に限界が来た。
「あッ……! イくッ! 出るっ……!」
ケンプは絶叫し、男の本能からか反射的にか、チロルの膣を下から思いっきり突き上げた。同時に、コカトリスの蜜壷内で白濁液が迸る。
「うぐぅ! ぬあおぉぉ……!」
動きを止めて、チロルは獣じみた声を上げて夫の精液をその身体で受け止める。
しかし、動きが止まったのは一瞬だった。すぐに、私はまだ満足していないと言わんばかりに、再び腰を振り始めた。
今度は前後に腰を動かしてくる。その動きはくいくいとなんて生易しいものではなく、男が女を組み伏せて腰を振り立てている動きに近かった。
「や、やめ……イッたばかりだから敏感……ぅあああっ!」
暴力的な動きに、単純な男の性器は萎えずに快感と受け止める。
ケンプはチロルに組み伏せられたまま身体を仰け反らせて悶えた。そんな夫にお構いなしにチロルは腰を振り続ける。
「はっ、はっ、はっ……」
犬のように荒い息を付きながらチロルはせっせと腰を振る。
先ほど放ったケンプの精液と彼女自身の愛液が混ざり合い、泡立って秘裂から漏れ出ていた。
「はぐぅ!」
一つ声を上げてチロルは身体を震わせる。そして腰の動きをもう一段階早くした。
「や、やめてっ! そんなにされると……!」
「はう、はうう! はうう!」
ケンプの悲鳴に聞く耳を持たずにチロルは声を上げる。その声はさっきのものより切羽詰ったものとなっていた。
それが何を意味するのか、ケンプが理解するより先に現象が先に起こる。
「あああああっ!」
がくんとチロルの身体がのけぞり、がくがくと痙攣する。
達したのだ。
「くっ、しまって……あ、あああああっ!」
直後にケンプが声を上げる。
アクメを迎えたチロルの膣がぎゅうぎゅうと収縮し、夫から精液を搾り取ろうとしていた。臆病なコカトリスらしからぬ、ねっとりと粘着質に柔肉は肉棒に絡みつき、蠕動する。
耐えられるはずがなかった。
「あ、あああ……」
なすすべもなく、二発目の精液がチロルの膣奥に放たれる。がくがくと痙攣しながら、チロルはそれもまた身体で受け止めた。
しばらく二人は絶頂の余韻に身体を震わせていたが……
「あうあああっ!」
まだまだだと言わんばかりにチロルが叫んで腰の動きを再開した。
今度は腰だけをうねらせて上下に肉棒を扱く。
「ちょ、やめて! タンマ! これ以上は……うあああっ!」
「はうああっ!」
ケンプの懇願の声を無視してチロルは夫を犯し続ける。
このままではまずいとケンプは思った。さすがに死にはしないだろうが、彼女が満足するような頃には自分がくたくたに疲労しきってボロ雑巾のようになってしまうことは間違いなしだ。
「チロル! チロルってば!」
なんとか彼女を正気に戻さなければ……必死にケンプは妻の名前を呼ぶ。
快感にのけぞって上を向いていたチロルの首かカクリと動き、ケンプを見下ろす。
「あう、ああああ……?」
声も凶暴な獣じみた物から少しは落ち着き、腰の動きも多少ゆるやかになった。
効果ありだ。
もう一度、声を振り絞ってケンプは呼びかける。
「チロル! しっかりして!」
「えっ? ケンプ……?」
パチンとスイッチが切り替わったかのように、今までの凶暴性がどこかに吹き飛び、いつものチロルが戻ってきた。
何が起きているか分からないと言った感じで目をぱちくりとさせ、夫の名前を呼ぶ。だがすぐに自分が夫を組み伏せ、彼の象徴を深々と己が身でくわえ込んでいることを認識し、悲鳴を上げる。
「ちょ、何これー!?」
「何これー! って叫びたいのはこっちのほうだよ! いったいどうしてこうなったんだよ?」
チロルに組み伏せられたまま、ケンプは声を上げた。びくりと驚きに身体を震わせたチロルだったが、逃げずにおどおどと答える。
「わ、分からない……ひ、人食い箱さんから買ったキャンドルと……き、キノコを食べたら……な、何がなんだかわ、わからなくなって……」
「人食い箱さんから買ったキノコって……まさか!?」
親魔物領で暮らしていれば想像がついた。さらに人食い箱の名もケンプはそれなりに聞いたことがある。
その場を見ていないし妻からはっきりと名前は聞いていないが、ケンプはチロルがタケリダケを食べたことを見抜いた。
『そしてあのキャンドルは……』
そのキャンドルも人食い箱から買ったと言った。とすると、普通のキャンドルのはずがない。
爽やかな香りを漂わせていることと、急にチロルが正気に戻ったことから、こちらの正体もケンプは見破った。
『ストイック・ラヴか……!』
本来ストイック・ラヴとは交わりの中でも理性が飛ばないように意識を保つものだ。
つまり……
「あっ! ふわあああっ!?」
「うあっ!? はぐっ……!」
チロルとケンプが急に声を上げる。
魔物の腰の律動がまた始まっていた。
「な、何これぇ!? 身体が勝手に……ひぐぅん!?」
チロルの腰が持ち上がり、どすんとケンプの上に落ちてくる。亀頭と子宮口がぶつかり合い、その衝撃にチロルが嬌声を上げた。
声を上げたと思ったら再び彼女の腰がゆるゆると持ち上げられる。そしてまたどすんとケンプの身体にチロルの身体が打ち付けられた。
「う……あっ……! チロル……やめ……」
「違う! 違うの! 私がやっているんじゃないの! 身体勝手に……ひあああっ!」
「くっ……な……に……」
つまり、チロルが正気をとりもどしたのはストイック・ラヴの効果だ。タケリダケの効果が切れた訳ではない。
キノコの凶暴性の効果は未だにチロルの身体に残り続けており、彼女の意思に関係なく、男を犯すように身体を突き動かしていた。
そのため……
「あ、やだっ……身体が勝手に……あ、あああっ!」
「うああっ! チロル……!」
一度抜いて落とす、一度抜いて落とす……その動きがじっくりとしたものではなく、断続的で暴力的なものになった。
最初の動きにも劣らない、激しい身体のぶつかり合いが始まる。二人の交接の音がいやらしく、部屋に響いた。
「チ、ロル……! そんなに激しく動かれると……!」
「えっ……? ……!? い、いやぁあ!!」
ケンプの指摘で初めてチロルは自分がいかにいやらしい腰振りをしていたかに気付く。
手はケンプの腕を押さえ込みんで体重をかけ、そして腰だけを動かして膣肉で肉棒をしごき抜いていた。
ぐねぐねと腰がコカトリスの尾、蛇と同じようにくねってペニスをしゃぶっている。体重がかかっていないため音は軽いがそれでもパンパンとはっきりと音がした。
臆病で引っ込み思案な性格は羞恥心の強さにもつながる。本来受身な種族であるはずの自分がいやらしく男にまたがって獰猛に腰を振っているそのいやらしさを指摘されたようで、チロルは顔を真っ赤に染めた。
「いやあっ! 恥ずかしいっ!」
「恥ずかしいって、そう言う問題じゃ……」
「見ないでっ! 見ないでよぉ!!」
そう叫んでチロルはケンプの両目を手で覆った。だがそんな事をしても、ただ彼の視界を奪っただけで、腰の動きは止まらない。
性器同士が擦れ合う刺激と、結合部から響く音が二人を駆り立てていく。
先に音を上げたのはチロルだった。
「やだっ! 来ちゃう……来ちゃううっ!」
いやだと言いつつも腰は止まるどころか絶頂を目指してますます激しさをますばかりだ。
本人の意思に関係ないその自らの腰さばきに、チロルはイカされる。
「ひぐっ! くっ、ううううっ!」
身体を硬直させ、びくんびくんとケンプの上でチロルが達した。全身の筋肉が、とりわけ膣がぎゅううっと収縮する。
耐え切れずにケンプは彼女の絶頂に道連れにされた。
「くっ、あああっ!」
3度目の射精だというのに、相当な量の精液が重力に逆らってチロルの膣内に出されていく。まるで4ヶ月もの溜め込みの鬱憤を晴らすかのように、牡の身体は牝にどくどくと種付けをした。
「ああっ、はぁ……はぁ……んああああっ!?」
ケンプの身体の上に崩れ落ち、荒い呼吸をしていたチロルが急に大きな声を上げる。彼女の身体が再び本人の意思とは無関係に男を犯し始めていた。
しばらくケンプに体重を預けたまま腰を振っていたチロルの身体だが、その身体が垂直に起き上がる。
さらに脚を大きく広げ、両手を膝に置いて腰を男の身体に叩きつけ始めた。脚の力も使って腰を振る分、刺激も音も大きい。
そして……
「ああっ……私の……おまんこに……んくう! ケンプのおちんちんと……せーえきがぁ……」
「チロル……」
脚を広げているため、二人の目には結合部がはっきりと見えていた。チロルの陰唇をまくったり押し込んだりしながらケンプのペニスがチロルのヴァギナを出入りしている。
そのペニスはチロルの愛液と、先ほど放った精液でどろどろのぐちゃぐちゃだ。
「やだっ! こんなの、恥ずかし……くあああっ!」
「あがぁっ!?」
二人が突然、同時に声を上げる。ケンプが下から腰を突き上げていた。
それが男の本能によるものか、それとも快感の刺激による反射で起きたものなのかは分からない。
だがその動きが二人を刺激したのは確かだった。そして、ケンプの身体は動き続ける。
「だめえっ! ケンプぅ! そんなに突いちゃ……いやぁっ!」
「そっちこそ……うあっ、締め付けるのも……ダ、メ……くぅ!」
息をこらえながら話しているため、ケンプの声はとぎれとぎれだ。射精がまた近づいていた。
それを押さえ込むために必死に腹に力を込めているのだが、身体が反応して止まない。
さらに、それをあざ笑うかのように、チロルの腰使いがまた激しくなった。
「やめっ、チロ、ル……! そんなに腰を振ったら……!」
「ダメなのぉ! もう我慢できないのぉ!」
あれでもチロルは腰の動きを自力で止めようとしていたらしい。
しかしその理性は快感とタケリダケの効能で焼き切られ、また男から精を搾ろうと、そして自身を絶頂に導こうと身体が暴走する。
「チロ、ル……ああああっ!」
「あああっ! ダメぇええっ!」
ケンプが下からぐいっと腰を突き上げ、チロルも身体を仰け反らせた。限りなく密着した子宮口に陰茎がどくどくと精液を吐きつける。
二人はしばらくその状態で硬直していたが、やがてどさりと身体を弛緩させた。再び、チロルの身体がケンプの身体に預けられる形となる。
「チロル……もう無理……もうこれ以上はぁ……」
息も絶え絶えと言った感じでケンプがつぶやく。既に短時間で4回も射精していた。
男の射精は消耗が激しい。しかもケンプはまだインキュバスではなく、普通の人間。今の射精も勢いと量は最初のころと比べると劣っていた。
しかしチロルの身体に残っているタケリダケの効能はまだ消えていない。
ケンプの身体の上で、彼を犯そうとチロルの身体がもぞもぞと動く。
「あ、いやぁ……」
「んくっ、うう……」
その細かな動きだけで絶頂直後の二人の敏感になっている性器はびりびりと快感を脳へと律儀に伝える。
「ケンプぅ……私、私……本当はこんなことしたくないのに……ケンプをめちゃくちゃになんかしたくないのに……」
震える声でチロルがつぶやく。彼女の目には涙すら浮かんでいた。
「チロル……」
苦しんでいる様子のチロルにケンプが声をかける。そうしているうちにチロルの腰が再び本格的に動き出した。
上半身はケンプに預けたまま、ぺったんぺったんと腰を振ってケンプに叩きつける。
「あっ! ふあぁん! いいっ! ひぁあ! ダメなのに……気持ちいいのぉ!」
「チロル……ダメなのにって……」
いくら受身なコカトリスとは言え、魔物娘。淫らなこと、気持ちいいことを否定するはずがない。
らしからぬ言葉にケンプが声を振り絞って訊ねると、チロルは涙声で答えた。
「だって……私、ケンプが好きだから……ケンプが嫌がること、ケンプを傷つけること、したくないのに……だから我慢したいのにぃ……!」
おそらく本心なのだろう。
いくら淫らなことが好きな魔物娘でも、人間、特に男を傷つけることを嫌う。
男に性交で苦痛を与えるなど本末転倒で不本意なことなのだ。
さらに、彼女は嘘をつけるほど賢いとは言えない。だから彼女の言葉は本当であろう。
しかし相変わらず言葉に反して腰は男を犯そうと淫らに動き続いていた。
「ごめん……ごめんなさいケンプぅ……気持ちよすぎて……くぅう! 私も何がなんだかわからなくて……腰が止まらないのぉ……!」
涙をぽろぽろ零し、夫の上半身にしがみつきながらチロルは腰を動かし続ける。
そんなチロルに……
「いいんだ、チロル……」
安心させるようにケンプは微笑んで言う。
そしていつの間にか石化が解けていた手を持ち上げてチロルの涙を拭った。
チロルがはっと目を見開く。それと同時に腰が止まった。
「チロルが僕のことを大事に思ってくれているのも、好きでいてくれているのも分かるし、だからこそ今、苦しんでいるのも分かるし……その……」
ケンプの顔が少しだけ曇る。そして今まで胸に秘めていた、自分が悩み、言おうとしていたことを口にした。
「僕の方こそごめん……チロルはずっと我慢していたんだよね……僕が情けないばかりに……手を出さないから……」
「ケンプ……」
彼もまた、そのことを悩んでいた……それを知り、チロルはようやく微笑んだ。片手で軽く涙を拭う。
「……これでお相子だね」
「えへへ、そうだね……ねぇ、じゃあお相子の印に……」
「うん……」
二人のくちびるが繋がる。
レイプなどでは見られない、互いの気持ちを通わせる、キス……
ちゅっちゅと鳥がついばみ合うような可愛らしいキスから、ぎゅうっと押し付け合うようなキスへ……
たっぷりと2分ほどは、二人はキスしていた。温かい空気が二人を包む。
しかし、チロルの身体は、タケリダケの効果はその空気を察してくれなかったようだ。
ケンプが話し始めてから止まっていたチロルの腰がまた動き始めた。
「んあっ!? ご、ごめ……ケンプ……もう……」
「いいよ……我慢、しなくても……」
「うん……あっ、ふわあああ!」
もう我慢はしない。快感に素直な、伸びやかな嬌声がチロルの口から上がる。
「ふああ……おちんちん……ケンプのおちんちんが中で擦れて気持ちいいのぉ! 私たち、一つになってるのぉ……!」
あられもない言葉がこぼれ、そしてその言葉を表すかのように腰が激しく打ち振るわれる。
一方のケンプは少々苦しそうだ。ああは言ったが、やはり人間。
肉体は絶頂とは異なる、疲労の限界が迫っていた。おそらくこの一回の射精で動けなくなってしまうだろう。
『だから、せめて楽しもう……』
下から腕を伸ばしてチロルの背中に腕を回し、ケンプは妻を抱きしめる。
そのまま首を少し曲げてくちづけをした。
「んっ、んんっ……」
「あむっ、ん……ちゅる……」
くちびるとくちびる、胸と胸、性器と性器、気持ちと気持ち……
動きだけはチロルによる逆レイプのように激しいが、二人の身体と気持ちはこれ以上にないくらいつながっている……そう二人は理解しあっている。
いつまでも二人はこうしてつながっていたかったが、それは無理な話だった。
「んっ……ぷはっ、チロル……僕、もう……」
「うんっ、私、も……来ちゃう……おっきいのが……ひぐっ!」
二人の身体に限界が迫る。
最後にとばかりに二人はキツく抱きあい、くちびるを押し付けあう。そしてとどめの一撃は、身体が動くチロルの方から放たれた。
腰が、ペニスがヴァギナから抜けるギリギリのところまで持ち上げられ、そこから一息に落とされる。
ずるずるとペニスが一気に柔肉を貫く。そして亀頭と子宮口がぎゅうっとぶつかりあった。
「ん、んんっ!」
「んんっ!? んふううう!!」
互いにしがみつきあい、キスしたまま互いの口内にくぐもった嬌声を送りあい、二人は同時に達した。
ぴゅぴゅっと、もう薄くなった少量の精液がチロルの子宮口に浴びせられる。
それでもチロルはこの上ない幸せに恍惚とした表情を浮かべるのであった。



「今日はもうダメ……動かない……」
仰向けに大の字に転がったまま、絞り出すようにケンプはつぶやく。
5回も射精した生の人間の男の身体はもはや疲労しきっていた。その横にペタンと座り込んだチロルは何度も彼に謝っている。
幸いにもタケリダケの効能は5回戦で切れていた。
「いや、いいんだ……それに、今日『は』だ……」
「え?」
やけに「は」を強調したその言葉にチロルは眉を掲げた。そのチロルにケンプは微笑んで言葉の意味を伝える。
「その……今までチロルに我慢させた僕も悪かったんだしさ、それにチロルはタケリダケを食べてくれるまで頑張ってくれたんだから……」
「う、うん……あれ?」
夫の決意の言葉は嬉しかったが、それと同時に何か違和感のような物がチロルの胸に沸き起こった。首を傾げる。
そうだ、自分はタケリダケを食べたワケだが、それは何か違う。
何かが……
「あああっ!?」
あんぐりと口を開けてチロルは叫んだ。突然のチロルの声にケンプは何事かと訊ねる。チロルは驚愕した顔のままケンプを見て、思い出した事実を伝えた。
「あのキノコ……ケンプに食べさせるんだった……」
「え……」
衝撃の事実を聞いて自分も口を開けてから、ケンプは苦笑いする。
やはり妻のコカトリスは忘れん坊で、それでも油断ならない魔物娘で、そして可愛らしかった……



「ふへへ……ひょんなハプニングがまたいい結果になりやしたね……ハァハァ」
箱の蓋をわずかに開けてその先にいる男とコカトリスの様子を見ながら、人食い箱はつぶやく。
この箱は二人の寝室に転がっていた箱の一つで、そこからアニータは二人の様子を覗き見ていた。
二人の情事を最初から最後まで見ていたアニータもまた発情していた。頬は上気し、もじもじと太腿を動かす度にくちゅりと濡れた秘裂が音を立てる。そして彼女の指はぬらぬらと光っており、自身をいじったことを証明していた。
「この組み合わせもまた面白い……次の街で商売するとき、宣伝させていただきやしょう……」



かくして、自分たちの性格と互いを思い合う気持ちがゆえに、互いに手を出しあぐねていた二人は改めて、身も心も結ばれた。
そのきっかけとなったのは、やはり相手を犯すように仕向けるタケリダケと理性を保たせるストイック・ラヴだっただろう。
それも二つ同時に使ったことによる結果だ。
改めて結ばれた人間の男とコカトリスの夫婦は道具に頼らず、でも時々使って、淫らに交わり続け、幸せに暮らしている。
13/04/16 21:21更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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■作者メッセージ
さて、かなり久しぶりに更新させていただきました、魔界の特産物を複数使うSS、『多品併用』。
五番手はコカトリスさんとその旦那さんを登場させました。
そして今回の特産物の組み合わせはタケリダケとストイック・ラヴ!
理性を失わせ、相手を獣のように犯すタケリダケと、理性を保たせるストイック・ラヴ。効果としてはまったくもって相反する代物です。
が、それをあえて併せて用いるとこのようなことになるんじゃないかなと思いました。
うん、このコンボをオートマティック・コンボと名付けようwwwwww


魔界自然紀行のタケリダケの最後のところに「アリスやコカトリスでも、タケリダケを使うと相手を犯すようになる」と記載されており、これはギャップ萌え的な感じで是非とも使いたいと思っていました。
が、それとは別に「身体が勝手に動いちゃうよぉ!」ってシチュもいいなと思っていたのですが、そこでいろいろ考えを巡らせていると
「タケリダケの暴走効果を残したまま、ストイック・ラヴで理性を保たせるとできるんじゃね!?」
って考えが合致し、このようなSSができました。いかがだったでしょうか?

さて、次回はまた魔物化の方向で『多品併用』を書いていきたいと思います。
ではでは、失礼します。

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