連載小説
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第一話 港町・チコ
客室から船のデッキに来て、空を見上げれば雲ひとつ無い青空に海鳥達が鳴いている。
20年と少し世話になっていた大半が反魔物領国家であるガルド大陸を離れ、その南に位置する新魔物領国家の集まりであるアバロット大陸行きの貨物船に俺たちは乗っている。
国を攻め落とされたわけでもなく裏からあーだーこーだされて乗っ取られた感じで国を奪われた俺たち騎士はバラバラに散ってしまった。
乗っ取られた後も国に残った奴、隠れて期を伺ってひっくり返してやろうと考えてる奴、そして・・・俺みたいに逃げ出してなんかやってる奴。
はっきり言って国がなくなろうが俺達は変わらないが、一つの国で生まれて行きて育って死ぬって言うのはあまり好きじゃなかった。
それを考えると国がなくなったのは丁度いい機会だったのかも知れない、事実数年掛けてガルド大陸の端っことか歩きまわって魔物娘がどういう奴らなのか知ることが出来たし、行った町の旨いものを食うのが趣味になったりした。

そして今度は完全な新魔物領だ、ガルド大陸の小さな新魔物領の村なんかじゃない。
デッキの反対側が姦しく、ちらりと見てみればいつの間にやら船に乗り込んでいる魔物娘達。
両腕が羽だったり下半身が魚だったり面白いぴっちりした服を着ていたり・・・その中に俺の連れが居た。
素肌が出ているのは顔辺りだけという魔物娘にあるまじき厚着。
青黒い色に所々黒の斑模様が入った毛皮。
その青とは対照的に揺れる2つあみで背中の中程まで伸ばしている金髪。
俺と比べると頭一つ分は小さい体。
幼さが残るくりくりとしたまん丸い目。
一言で言うなら美少女。
アザラシのマーメイド属の魔物娘、セルキーのティナ。

彼女と出会ったのは2ヶ月近く前の事だ。
1度目は俺が他の魔物娘に追いかけられそうになって崖から転落、海に落っこちた時に助けられた。
そん時はこの子が俺の嫁か...まぁ可愛いしいいかなんて思って覚悟したものだが実際は。

『お兄さん、じゃぁね〜』

・・・俺を砂浜に投げ捨てられた後この一言だけで去って行きやがったんだよ。
まぁその後今乗ってるこの船に乗るために町を移動していたら岩辺でぐーすか寝てるのを発見。
こんだけ重装備な魔物娘でしかもガルドではまず居ない種族、すぐにあの時のセルキーだとわかった。
だが蹴っ飛ばしたり無理やり起こすのは良心が痛むので魚を少し離れて焼いて匂いで起こしたり、幾らか話をしたりした。
んでわかったことを纏めると。


・南の暖かめな所に住みたくて旅をしている。
・アバロット大陸に住んでいる母親に会いに行く。
(なんでもアバロットの山に住んでいるエキドナが産みの親らしく、生まれてすぐ娘の体を気遣った両親が親友のセルキー夫妻に預けたらしい。ティナはエキドナ夫妻をパパ、ママ。セルキー夫妻をお父さん、お母さんと呼び分けている。)
・旅しながら色んな物を見たい。
・俺をポイ捨てしたのは恋人ができたら旅がしづらいから


と言った所らしい。
んで、俺も同じ大陸に行こうとしていると言ったら目を輝かせて一緒に行かないかと聞かれてしまった。
で、OKしてしまったわけだ。
ティナも俺も、相手が現地の者で恋人になってしまったら動けなくなるのを恐れて行動していたわけだが、同じ方角に行こうとしている旅人なら大丈夫という感じなわけで。
・・・まぁちょいと幼すぎる気がするのは、なぁ?

ん、話が済んだのかティナがこっちにぴょんぴょん跳ねながら近づいてくる。

「話は済んだか?」

「うん!ぽかぽかしている土地だから楽しんでらっしゃいって応援されたんだよ!」

腕をぱたぱた振りながら俺に先程まで話していた内容を伝えてくるわんぱく娘。
何と言うか、嫁と言うよりは妹に近いんだよな。

「ティナ、再度確認するぞ?」

「いいよ!」

「俺の目的はアバロットのどっかに居るかもしれない昔馴染みを探す、いろんな町が見たい。こんな目的なわけだからティナの好きなように行きたい町で構わない、まぁ大きな町は情報集めのために行って欲しいが」

「まっかせなさい!港町に着いたらサバトに毛皮の改造をしてもらうから陸地もガンガン進むんだよ!」

へぇ、そんな事もしてくれるのか。
ただのちびっ子軍団の集まりかと思ってたぞ。

「それにしてもあと数日で新しい場所なんだよ〜、楽しみだよ〜」

「その土地がか?食い物がか?」

「両方なんだよ!」

両手を天に突き上げて楽しそうな笑顔を俺に見せつけるコイツは俺を色んな意味で変えてくれるのかもな・・・。



〜港町・チコ〜

胸いっぱいに息を吸い込めば磯の香りが肺に満たされ、観光客向けの出店が船着場側で賑わっている。
魚や貝等の海鮮物が香りよく焼かれ、その匂いにふらふらと意識と関係なく足が運ばれてしまいそうになる。
不意にべしべしとしたクッションのようなものが俺の背中を叩く。
振り返ってみるとアザラシのお顔とコンニチハ・・・じゃなくてティナが話しかけてきた。

「スコッドー、何してんのさ」

「新しい街に着いたらその街の香りをまず知るのさ、それでどういう街なのかなんとなく分かる」

「ふぅん...すぅ...はぁ...むっ、船乗った街と変わらないんだよ!」

違いが分からなかったからかぷんすか怒りながら俺に抗議してくる、心なしか頭のアザラシ頭巾も怒ってる気がする。
それにしても周りの人間や魔物娘が半袖、あって薄手の長袖姿だからティナの格好が目立つ目立つ。

「目を閉じてみろ、磯の香りだけじゃないうまいもんの匂いだってしてくる筈だ」

「んー・・・ホントだ!スコッド行こっ!行こっ!」

俺の手をミトン型の手袋で掴んでぴょんぴょん跳びながら後ろ髪の二つ結びが同期して動く様は端から見れば兄と妹なのだろうか、思わずくすっと笑ってしまう。
実際俺は24、ティナが16と8つ離れている。
そのことがどうしても恋人候補、と言うよりは兄妹って感じに思わせてしまう。
魔物娘からすれば歳なんて関係ないと言うのだろうが、俺はまだ人間だ。

「落ち着け、宿を決めてからゆっくり街を見よう。今日含めて3日はこの街に居るからな」

「わーい!」

とりあえず順調に宿も取れて、二人で昼飯に何か店で食べようとする。
目をすぅっと動かすだけで様々な種類の店が目に入る。
数種類の貝から自分で選んで串焼きにする店、意外にも豚肉を焼いている店、真っ昼間から酒を飲んでいるおっさんたちで賑わっている酒場、見たことのない文字で書かれているスープと思われる商品を売ってる店。
それらをティナはキョロキョロと落ち着きなく見回す、このままだと全部食べたいなんて言いかねん。

ティナの頭を軽くたたき、先程見た串の店をおすすめする。
すると嬉しそうに串に刺す貝を選び始めた。
俺もどの貝にするか選ぶことにした、品札にはホタテ、ムール、マテ、アサリ・・・そこで不思議なものを見た。
味付けに塩と・・・タレというのが書かれている。
タレ?タレとは何だ?

「店主、この・・・味付けのタレと言うのは何だ?」

見た目はぽっちゃりしているが明らかに筋肉を隠すために脂肪を付けている店主は豪快に笑いながら説明してくれた。

「がははは!兄ちゃんガルド大陸の出身だろ!あそこは他の大陸と交流が少ないから仕方あるめぇ、タレって言うのはジパングや霧の大陸で作られるダイズって豆で作られるショーユって調味料とコメって穀物から作られるミリン、同じくコメから作られるジパング特有の酒に砂糖とか色々突っ込んで作ったソースよ!」

「ダイズ・・・ショーユ、コメ、ミリン・・・砂糖を入れるってことは甘いのか?」

聞いた事のない材料の名前をメモに書き、質問を続ける。

「あー、何つったらいいかな〜甘さを1としたら塩っけが4だ。その感じが堪らん!ジパングだと鶏肉を一口大に切って串にさし、焼いたやつをタレにつけて食うらしいが、ここはこの通り貝専門でな!まぁとにかく喰ってみろ、まずかったら金はいらん!」

「わかった、そこまで言ってくれるならタレで頼む」

「おうよ!連れの嬢ちゃんはどうする?」

「それじゃスコッドと同じの!」

「あいよ、ちょいと待ってな!」


〜数分後〜

炭で炙られる貝の香りにまだか、まだかと胃が訴えてくる。
そして待ちに待った時がやってきた。

「あいよ!出来たぜ兄ちゃん!」

「ありがとう、代金だ」

しかし店主は代金を受け取らずちっちっちと指を振る。

「言っただろう、食って美味かったらだ」

そういえばそうだ、待っている数分の空腹感のせいですっかり忘れてしまっていた。
手渡された串に刺さる貝が茶色で光が反射して輝いている不思議な状態になっている。
鼻に入ってくるのは未知の香り、だが・・・拒否感は無い、むしろ早く受け入れろと体が急かす。
一番上に刺さっている大粒のホタテに齧り付いた瞬間、驚愕した。

なんだこれは!?

塩とは全く別のしょっぱさに関係ない筈の甘さが恐ろしいほどマッチしている!?
この調味料だけで考えつく料理のレパートリーが果てしねぇ!!!

次の貝、次の貝、次の貝と無我夢中で食らいついてしまう。
気がつけば串自体にかじりついているという恥ずかしい状態になっていた。

店主を見るとニカッと笑う。

「うめぇだろ?」

「この店を選んでよかった、こんな旨いものに嘘ついて金を払わないなんて男が泣くな」

代金を手渡した後、自然に握手してしまった。
世界にはまだまだ知らない味がある!この大陸に来てよかった!

「あ、ごちそーさまー。おじちゃん美味かったよー、面白い味だね」

「はっはー!喜んでもらえたならおじちゃんも嬉しいぞ〜」

・・・このアザラシ、あの味を面白いで済ますのか!?

「そうだ兄ちゃん、仕事探しなら酒場もいいが専用の案内所があるぜ」

「なぜ酒場で統一していないんだ?」

「分けているんだよ、迷子の猫探しとか引っ越し手伝い、飯屋や店の手伝いが案内所。野獣の討伐や夜の仕事、酒関係は酒場って具合にな」

「ふむ、後で行ってみるよ」


俺達は店主に礼を言った後、日雇いの仕事を見つけ旅に必要な道具とかを揃える事にその日は使った。
次の日は俺は仕事があったし、ティナはティナでやりたい事があったようなので好きにさせることにした。
・・・何故か俺が1日働いて稼いだ給料より多くのお金をゲットしていたが。









明日の朝にはこの町を出発して次の町を目指す事になる。
昨日スコッドと相談し合ったのはどこをどのように進むかなんだよ。
言ってしまえば私の毛皮の中にスコッドが入ってもらって、海をすいーっと進めば海沿いの街に関しては半月かからないで網羅できるの。
でもそれだと面白くない。
この大陸は中央の巨大な山脈の壁で西側と東側に分かれているんだよ、私達が居るのは西側のいっちばん北にある港町。
で、西側の中央はYみたいに西、北東、南に向かって連なってる山脈があって、その中央らへんにママが住んでいる。
あとは西の山脈と北東の山脈に収まっているように大きな森がある。
だからまずはその入口にむけて進むの!その後はその時に!

おっと、メモメモ。
『行動:現在地より南東にある巨大な森を目指せ』
よしっ。

それじゃ、ちょっとスコッドとお話だよー。

「スコッドー、明日出発するまでには毛皮の改造が完了するんだよ」

ちなみに今の私は毛皮で作った長ズボンを履いているんだよ!
上も下も着るものを用意しておけば毛皮修理のために寒い思いをしなくて済むんだよ!私寒がりだし!

「そうか、それは楽しみだな」

むふー、コーヒーを飲みながら荷物のチェックをしてるスコッドもかっこいいんだよ〜。
おっとっと、言わなきゃ。

「それでさ、スコッド・・・えっと、その・・・私達、恋人で・・・いいのかな?」

「いんや、まだだが?」

が、がびーんなんだよ!?
半月以上同じ船に乗って、さらに3日間こうやって同じ部屋で寝泊まりしてるのに!
あわわわ。

「それにしても...いいのか?船の時にも話したと思うが俺は過去に戦争とかで3桁以上は人を殺して手は汚れてるし、すでに何人も女を抱いている経験もある」

「あの時は寝ぼけてて答えられなかったけど、そんな事関係ないんだよ!そうやって言うってことは好きで殺したわけじゃないだろうし、今まで誰とエッチしていようがこれからやらなければどうでもいいんだよ!」

「ふむ、あとは俺はどちらかと言うとお前を妹みたいに見てる」

「んなっ!?」

お、女は女でも妹なのか!?
どーりで頭をよく撫でてくれたり色々優しくしてくれるわけだよ!?
なんかわからないけど距離を置こうとするのは魔物娘に対して失礼なんだよ!

「だったら妹から女に認識を書き換えてやるんだよ!こんだけ長い間恋人でも無いのに一緒に過ごしてきてはいサヨナラなんて言わせないんだよ!私はスコッドの事が好きだしスコッドが私を好きになるようにやってやるんだよ!!大体手が汚れているとか言うんならナデナデしてくる時点でもうアウトなんだよ!すでに汚されてるんだよ!責任取りやがれなんだよ!」

ぷんすか!
こうなったら意地でも恋人になってやるんだよ!

「・・・すまんな」

「なにがなんだよ」

「戦争後の祝杯とかで抱いたことはあるんだが・・・恋人ってのは初めてでな、ちと怖いんだ」

ふむむ、ということはあれか。
私がスコッドの初めての恋人なんだね!やったー!
これはあれだよね、どう接すればいいかわからないからなんとなく突き放しちゃう思春期男子の気持ち!
むふー、そういうことなら魔物娘にまかせるんだよ〜。

「むふふー、そういうことならしょうがないんだよ〜、ほら」

・・・む、スコッドが来ないんだよ。
あ、そうか。

「私がこうした時は抱きしめて欲しいんだよ」

「ん、わかった」

むぎゅ〜♪
んふー、あったかいんだよ〜♪

「スコッド〜」

「どうした?」

「エッチしたいんだよ」

「・・・スマン、我慢できるなら数日待ってもらえるか?」

ぐぬぬ。
だけどここで無理強いは駄目ってお母さんが言ってたんだよ。

「しかたない、我慢した方がキモチイイってお母さんも言ってた。だから特別にスコッドが誘ってくれるまで我慢するんだよ」

「助かる」

本当に私がセルキーで良かったんだよ。
他の種族だったらここまでに5回は軽くエッチしてるんだよ。
えへへ、でも今はこの温かさだけでいいんだよ。
さてと、誘ってもらうために媚薬になりそうなものとか無いかな〜。


・・・けどねスコッド、君の心の中にあるその黒いモノは私じゃ消し去ることは出来なさそうなんだよ。
ごめんね。



つづく
15/04/11 21:59更新 / ホシニク
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■作者メッセージ
というわけで文章量が多くなりすぎたせいで前後編とかに分けていたのとは違ってとうとう連載に手を掛けてしまったホシニクでございます。
どうしたものか、とりあえず話の骨組みは決まっていますがイベントとか登場人物の登場タイミングとかはスライムのように固まっておりません。

あ、この魔物娘出して欲しいかもというのがありましたら感想欄まで。
もしかするとスコッド達の旅の途中で出てくるかもしれません。
(あくまで可能性であることご了承ください)

それでは魔物娘のくせに露出ゼロで巨乳好きなセルキーと昔色々あって大変だった弓兵の物語、よろしくお願いします。


次回:港町・チコ出発、そして初野宿。

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