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雨音は鳴り止まない

雨が降っている。
空は暗くて、朝なのに夜みたい。
今日は医療用テントの中で朝ごはん。
4人揃って朝ごはん。

「魔物は倒さないといけないんだって!」
「話し合って解決できるなら、話し合わないといけないよ!」
パン屋さんの焼きたてのパンがおいしい。

「ほんとだねー。あ、トマト……ねぇ」
好き嫌いは駄目。
「え〜。じゃ、じゃあさ。ピクルス」
好き嫌いは駄目。
「そんなぁ」

勇者の男の子と少年は朝から元気。
勇者の男の子は魔物は悪いから倒さないといけないと言ってる。
少年は悪いことをしても、まず話をする所から始めないといけないと言ってる。
二人とも平行線。

「でも。どうして同じ事ばかり言ってるのかな」
リナリアは勇者だけど、話に加わらないの?
「だって。男の子同士でケンカするのは、仲がいい証拠でしょ?」

「ちがうよっ」「仲良くないよ!」
仲良し。
「だよね〜」
少年と勇者の男の子は変な顔をしてる。

二人は仲が悪いと思っていたけど、仲が良かった。
ケンカしたから仲良くなったみたい。
私はリナリアとはケンカしなくても仲良かったけど。

「ん? どうかした?」
リナリアは美味しい食べ物をあげればいつでも仲良くなれる気がする。
「あ〜。その目は、また失礼な事を考えてるでしょー?」
首をかしげる。

「仲良しはいいんだけどね。ここは怪我人を治療する場所だよ」
お医者さんがやってきた。
「勇者だろうと何だろうと、医者の言う事は聞いてもらうよ」
「う。わかりました」
「はーい」

勇者の男の子とリナリアがテントから出て行く。
「ん。どうかしたかい?」
お医者さんが私を見る。

どうして二人を追い出したの?
「え? どういうこと?」
少年が私を見る。

お見舞いに来た人を追い出すのは医者のすることじゃない。
「診察をする時なんかは、出て行ってもらうものだよ」
でも、診察をすると言ってない。
それに。
「それに?」

本当はお医者さんじゃない。
「え? え?」
少年が混乱してる。
「じゃあ僕は本当はなにをしている人なのかな」
闘技場の先輩。

「ぷっ。あはははは!」
お医者さんが笑い出して、少年はやっぱり混乱してる。
「当たりだよ。いやー、折角の変装もバレちゃったみたいだね」
お医者さんが髪を取り外す。
あと色々と顔を弄る。

「え? この人って」
「闘技大会、お疲れ様。予選の事を話したのは僕だったけど、まさか本当に出るとは思わなかったよ」
闘技場に行った時に出会った糸目の人。
今の服装はお医者さん。

「別に嘘を言っているわけじゃないよ。僕たちスタッフは出場者の応急手当もするんだから。手当てをする間は、臨時のお医者さんだよ」
「そっか。だから大会の事に詳しかったんだ」
私もさっきまで気づかなかった。

「でも、どうして変装をしていたんですか?」
私と同じ疑問を、少年が問いかける。
糸目の人は笑った。
「だって。楽しそうじゃないか。何時気づくのかなーって、わくわくしながら待っていたんだよ」

それで、何を話すの?
「そうだねぇ。何から話そうかな」
糸目の人が天井を見る。
「例えば、町の外れにある屋敷に住んでいる魔物の事なんてどうかな?」

少年が慌てだす。
「え、ど、どうして?」
「あ、やっぱり魔物がいたんだね」
少年の動きが固まる。
「君は会った事があるかな? その魔物に」

少年は返事に迷っている。
糸目の人が私を見る。
「じゃあ君かな。会った事があるのは」
うなずく。

「え、ええ? うなずいちゃっていいの?」
うなずく。
「あはは。大丈夫だよ。悪い様にはしないから。それで、中の様子を教えて欲しいんだけど」
首をかしげる。

「え、いや。だから。入ったんでしょ、中に」
中の様子が知りたいなら、入ればいい。
「教えてくれないのかな」
教会の人が怖いから、やだ。

二人が沈黙する。
「どうして教会の人が怖いのかな」
中に入っている時に教会の人が来た。
そして魔物だって言われた。

「君は魔物なのかな?」
糸目の人がじっと私を見る。
私も糸目の人を見る。

「え? ちょっと」
首をかしげる。
「君は何でいきなり服を脱ぎだすのかな。診察してほしい何かがあるのかい?」

魔物には羽や角や尻尾が生えている。
教会の人は服を着た状態の私を見て魔物だと言った。
だから服を全部脱いで、確認してもらう。
その方が早い。

「あー、わかったわかった。君は人間だよ。だから服を着てくれ」
うなずく。
「はぁ。やれやれ」
教会の人に屋敷のことを話したのはあなた?

「当たりだよ。僕としても、何とかしたかったからね」
「屋敷の魔物を、倒しちゃうんですか?」
「教会の人たちだからねぇ。倒すってだけじゃ済まないと思うよ」
少年の顔が青ざめる。

「優しい子だね。でもね、町の中に魔物を置いていれば、その町は魔物の町になるんだよ」
教会の人がそう決めるから?
糸目の人は返事の代わりに、少しだけ笑った。

「君は教会が嫌いかい?」
首を横に振る。
「教会で働いている神父様やシスターが嫌いかい?」
首を横に振る。

糸目の人が私の頭を撫でる。
首をかしげる。
糸目の人は何も言わない。

「あの。屋敷に住んでいる魔物は、どうなっちゃうんですか?」
少年は心配そうにしてる。
「困った事にね。教会の騎士をしている勇者の人が仲間と一緒に退治しに行ったんだけど。やられちゃったみたいなんだ」
少年は瞬きをしてる。

「勇者が相手でも勝てないのに、他の人じゃ無理だよ。そして、そんな危ない所に将来有望な勇者を二人も向かわせるわけには行かないからね」
つまりどういうこと?
「困った事に、暫くは様子見だよ」
糸目の人は相変わらず目が細い。
表情が変わらないので何を考えているか分からない。

私はもう必要もないのに、解毒剤を貰ってテントを出る。
「どうかした?」
ねぇ、勇者って何?
「勇者はね、んー。人類の希望って言われているよ」
他には?
「神様から強い力を持った人かな」

他には?
「他には、何だろう。僕じゃ思いつかないね」
私は宿に戻る。

「え? それって、町外れのお化け屋敷の事かい?」
宿屋のおばさんはあの屋敷の事を知っていた。
町の人は皆知ってるみたい。
「あそこのお嬢様は綺麗な人だったよ」
おばさんも知ってるんだ。

「どんな人だったの?」
ラージマウスが興味津々。
「そうだね。線の細くて儚げな人だったよ。まぁ、私も見たことがあるのは一度だけなんだけどね」
「亡くなったのか」
リザードマンも興味津々。

「それがどうにもねぇ。引っ越したらしいのは確かなんだけど」
引っ越した後、誰もあの屋敷に入ったことがない?
「そうなんだよね。誰かが買い取ったって聞いたけど。あの寂れようじゃ、買った本人も忘れているんじゃないかな」

屋敷の人と仲の良かった人はいない?
「さぁ。なにせ、辺鄙なところに住んでいたからね。私も詳しいことは知らないんだ」
おばさんは本当に知らないみたい。

夜になって、私の部屋に4人と1ピクシーが集まっていた。
「問答無用で戦いにならなかったのはいい事だ」
リザードマンが頷いてる。
あの二人は魔物の前では知らないけど、普段はいい子だと思う。

「いい子って。リナリアは年上じゃないの?」
ピクシーの言うとおりだけど。
年上と言うか、大きな子供って感じがする。

「その目が細い人。悪い人なのかどうなのか。凄く気になるねー」
ラージマウスは糸目の人が気になるみたい。
私も糸目の人が凄く気になる。

「それよりも。私たちもケーキとか食べたいよ」
今度買って来る。
「いや、それよりも重要な事があるだろう」
金槌リザードマンが喜んでいる横で、眼鏡ラージマウスが真面目な顔をする。

「教会の騎士団がやってくる可能性が高い。それも勇者を連れて」
「あー、それはあるかも」
ラージマウスは眼鏡ラージマウスの意見に賛成。
ピクシーと金槌リザードマンは不思議そうにしている。

「既に勇者は倒されたのだろう。またやられに来るのか?」
リザードマンも不思議そうにしてる。
眼鏡ラージマウスは首を横に振る。
「勇者が2名以上。それに正式な騎士団が派遣されるだろう」

そういえば。
あの時やってきた教会の人たちは?
「丁重に箱詰めにして、最寄の魔界に送っておいたよ」
眼鏡ラージマウスの眼鏡が光る。

「じゃあさ。誰がやったのかはわかってないんじゃないの?」
ピクシーの疑問に、ラージマウスが答える。
「襲撃は2回あったんだ」
1回目は私が追い払った。

「つまり。危ないのは私たちではなく」
リザードマンが私を見る。
他の魔物も私を見る。
「君だと言う事になる」
眼鏡ラージマウスが続きを口にする。

大会が終わってから何日かかるか分からないけど。
私はこの町を出ないといけなくなった。
もしかしたら、私はこれから教会に追われるようになるのかもしれない。

……どうしよう。
私は一人になった部屋の中で考える。

雨の音は、朝よりも強くなっていた。

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13/02/11 00:28 るーじ

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