戻る / 目次 / 次へ |
008.ちょっと旅行して食べ歩き |
弱い力しか出せなくなったので特訓を開始する。
型を勉強したり、重いものを動かしたり。 でもやっぱり動くと物凄くお腹が空く。 凄く困った。 「どうやら、空腹と魔力不足は関係があるみたいですね」 デュラハン隊長は何時も通り。 「恐らく、魔力が大量に消費される栄養の代わりを担っていたのでしょう」 「なるほどのぉ。魔力が足りないから、栄養を欲するわけじゃな」 山羊先生も困っている。 お腹空いた。 「もしかすると、魔力を供給すれば空腹も解消されると言う事かも知れんのぉ」 「本当ですか? では、少し試しましょうか」 ディラハン隊長と山羊隊長がうなずいた。 「ちょっと出かけましょうか」 ディリアは? 「彼女も一緒に行きましょう」 私たち三人がたどり着いた場所は不思議なところ。 沢山の人がいるけど、魔力がすっごく濃い。 町中に魔物が歩いている。 何だか凄い。 「あれ。リィーバって魔界に来た事って無かった?」 こんなとこじゃなくて、もっと明るかった。 「緑魔界か、魔界になる寸前の場所と言った所でしょう。この国は数ある魔界の中でも、魔力の濃い方です。私も初めて来ましたが。噂以上ですね」 ディラハン隊長は他の魔界を知っている? 「ええ。サキュバスたちが小国を攻め落とし、その勢いで魔界に染め上げた事がありました。私はその護衛として、ディラハンの騎士団を率いていました」 その場所も魔力は濃かった? 「私の知っている魔界は3つ。一つは貴女が住んでいた竜王の城。一つは前まで私が護衛をしていた魔界。そして3つ目は、私が生まれた魔界です」 凄い所? 「はい。王魔界と呼ばれています」 おーまかい。 「魔王様がいらっしゃる魔界ですよ」 なるほど、すごそう。 「この魔界は4番目と言う事ですけれど。順位をつければ、何位なのでしょうか」 「文句なしに2位ですね」 私たちの巣が4位。 「ええ。ドラゴンの方々は周囲に魔力を放たず、内に溜め込まれますので、魔力の強さの割りに大気中の魔力が極端に少ないのですよ」 でも、巣には聖地がある。 「そうね。あの場所にドラゴンの王が住む理由でもあるわよ」 ドラゴンがあの場所で子作りをすれば、簡単に子供が生まれる。 ドラゴンの魔力が溜まっているあの場所は、ドラゴンとドラゴンの夫だけの場所。 「そうなのですか。ドラゴン以外が立ち寄ってはならない場所があると聞いていましたが」 立ち寄ったら死んじゃう。 「……え」 「そうねぇ。ドラゴンに食い殺されてしまうかもしれないですわね」 色んな話をしながら歩いていると、おいしそうな匂いがしてきた。 「何の匂いでしょうか」 「ああ。トリコロミールでしょう」 とりころーる? 「虜の果実を使ったデザートで有名なお店ですよ。ここにあるのは支店のようですね」 詳しいんだ。 「以前住んでいた魔界のお姫様が、大層お好きでしたので」 食べてみよう。 虜の果実が一杯。 「虜のケーキをホールで4つ。あと虜のパフェと虜のアイスをそれぞれ5つずつお願いしますわ」 「え? さらに追加ですか?」 「ええ。御覧なさい」 ごちそうさま。 「ええっ!? もう全部食べられたのですか!」 「とり急ぎお願いしますわ。ほら、この調子なので」 おなかすいたー、もっとちょうだーい。 「満足した?」 うん、いっぱい食べた。 「……魔力と栄養価の高い虜の果実なら、この程度の量で済むのですね。……あくまでも、普段の食事比べれば、ですけれど」 「あわわわわわ。ざ、ざいこの補充をお願い〜!」 このお酒も美味しい。 「虜のワインですわね。陶酔の果実酒はないのかしら」 ここは虜の果実専門店。 「それもそうね」 「あのー。この人、勇者か何かですか?」 サキュバスの店員さんが、何でかちょっと怯えてる。 「そんなわけ無いでしょう。人に化けているだけですわよ」 今は人間、でも実はドラゴン、えっへん。 「あー、どーりでー、あー、なっとくしましたー」 ふらふら店員さんが去っていく。 「当然の反応ですね。常人なら魔界でなくても、これだけの量を食べれば確実にサキュバスになっていますから」 そうなんだ。 「ふぅ。味も魔力も良いものね」 おいしいからお代わりー、樽で。 「止めなさい」 「そ、そろそろ会計にしましょうか。この国にはおいしい物がもっと沢山ありますから」 周りを見るとインキュバスのお兄さんと色んな種族の魔物が沢山。 でも人間の女の子はいない。 「だからずっと注目を浴びていたのね」 有名人じゃないから、びっくり。 「いえ。貴女も十分有名人ですよ。正真正銘、ドラゴンの王なのですから」 でも誰も知らないみたい。 「そりゃそうよ。だって貴女、今は人の姿をしているじゃない」 わかる人は人の姿でもわかる。 「それこそ魔女やバフォメットの様に魔力の扱いに炊けた魔物か、同族くらいですよ」 ワイバーンも? 「そうでしょうね。あまりに上手く化けているので、勘違いと思うことも多いでしょう」 人に化けて何年か、えっへん。 リザードマンが旦那さんと腕を組んでる。 メドゥーサが私たちを見てから、男の人は渡さないぞって目で見てきた。 手を振ったら男の人が手を振り返してきた。 「あ、不味いですね」 首をかしげる。 ちょっと体の動きが鈍い。 「石化の魔眼ですわね。うっとうしい」 「二人とも、ごく自然にレジストしましたね」 「第一、ドラゴンの成り損ないに遅れを取るほど、私たちはヤワではありませんわ」 周りにいるリザードマンとかラミアとかが睨んできた。 「あら、本当のことを口にしただけですわよ? 見苦しい」 わー、ケンカだケンカだー。 「お二人とも」 ん、何? 「この騒ぎ、どう収拾つけるおつもりですか」 首をかしげる。 辺りには色んなリザードマンやラミアたちが転がっている。 「口ほどにも無いわね」 弱かった。 「それで。どう、収拾をつけるおつもりですか?」 怪我はさせてない。 「そうですわ。あくまでも、軽く相手をしただけですわよ。相手は剣も魔法も使ってきましたけれど」 デュラハン隊長が物凄く疲れたように肩を落とす。 「ドラゴンは誇り高いと聞きましたが。どうやらドラゴン独自の、強さ中心の考え方がその理由のようですね」 「で、お説教は終わった?」 黒いワーウルフが弓を構えていた。 「あら珍しいですわね。弓を番えたワーウルフ。しかも、この匂いは」 エルフっぽいし、ちょっと人っぽい。 「なっ、あ、あんたたち!」 弓ワーウルフが怒った。 「魔力の匂いが濃いですわね。たっぷりと愛されているようで何よりですわ」 「お二人とも、挑発しないで下さい!」 「私の弓から逃げられると、思わないことね!」 矢が凄い速さで飛んできた。 刺さったら、何だかこう、痒いと言うかくすぐったい。 「んっ。魔物の弓は、独特、ですわねぇ」 「我々が騒ぎを起こした無礼は謝罪いたします。ですが、警告無しに当てるとは、些か度が過ぎるのではありませんか?」 ディラハン隊長が怒った。 紫色の魔力が体がから溢れている。 「あんたもやるっての? いいわよ」 ケンカは始まらなかった。 真っ黒なおねーさんがやってきて、それから仲直りした。 よくわかんないけど問題なし。 「争いごとは何も産みませんわ。ほら、握手しましょう」 握手握手ー。 「あなた、お強いのですわね。お名前、聞かせていただけませんか? 私はディリアといいますわ」 「……あんたたちに名乗る名前は無いわよ」 「申し訳ありません。お二人には悪意は無いのです。なにぶん、強さを追い求める種族ですので」 「こっちはドラゴンでしょ。この子は?」 ドラゴンー。 「うそおっしゃい! 貴女は、ドラゴンの匂いなんて……んー?」 「元の姿に戻ってみては如何でしょうか」 「うわっ。ドラゴンだったの?」 「驚きましたわ。あなたの鼻でも気づかなかったなんて」 「え、気づいていたんですか?」 「堕落神様が、教えてくださったので」 堕落神? 「性の快楽を幸せの中心となさる神様ですわ」 お腹一杯食べるのは? 「あらあら。あなたは育ち盛りなのですね」 「では、院にいらしてください。手料理をご馳走します」 「いえ。彼女は魔界豚3頭をおやつ代わりに平らげる食欲の持ち主ですので。おそらく、備蓄が空になるだけかと」 「うえぇ。さっすがドラゴン。桁が違うわね」 「ですのでお気持ちだけいただきます」 弓のワーウルフと黒いシスターと別れた後、他のお店も見て回った。 魔力が一杯篭っているから、何時もよりもお腹一杯になる。 「でも、まだ満腹じゃないのね」 もっと食べたい。 「やはり魔力が肝のようです。食糧問題も、やっと目処がつきました」 それだけでも来た甲斐がありますって、ディラハン隊長が胸を撫で下ろしている。 魔界には色んな魔界の動物がいるから、串焼きもおいしい。 「あ、私もそれ頂戴」 一通り食べて満足して帰ろうとして。 「あの。よろしいですか?」 強い魔力を持つサキュバスに出会った。 「王がお待ちです。是非、いらして下さい」 やだって言ったら、ディリアに頭を叩かれた。 巣に帰るのはもうちょっと掛かりそう。 私は人の姿のままでいいのか、ドラゴンの姿になった方がいいのか迷いながら、サキュバスについていく。 そういえばこの国、何て名前なんだろう。 |
13/07/16 00:29 るーじ
|