戻る / 目次 / 次へ

009.優しい王様と魔物たち

城の中心は物凄く魔力が濃い。
沢山吸い込んだら『飲み干』せそうなほど、どろどろしてる。
「王魔界でもこれほどの密度の場所は少ないですね。さすがは王のおわす場所」
ディラハン隊長は顔が赤い。

「そういう貴方も顔が赤いわよ」
むずむずする。
「むしろこれで感じないのは、よほど馬鹿げた魔力を持っている魔物くらいでしょうね」
うずうずする。

たどり着いた先に王様の場所があった。
「こういう物だとは聞いていたのですけれど」
「これが魔物流の歓待の仕方なのですよ」
王様はえっちをしていた。


「すみません。魔物としての生活にすっかり慣れてしまって」
「御気になさらず。私たちは魔物の中でも性に対して消極的な種族ですので」
デュラハン隊長、顔が真っ赤。
「これは、魔力に当てられているだけです」

「うそおっしゃい。会話の間も、あんな小さな子を、あんなにも攻め立て続けているのですから。興奮して当然ですわ」
動きが凄い。
「貴方は少し遠慮しなさい。近付きすぎよ」
すっごいどろどろしてる。

「それで、そちらの小さい子が竜王様なのかい?」
「ええ。そうですわ」
「すごいや。人間にしか見えない」
「今は人に化けているだけ。本来の姿は私の様に、翼と尾をもつドラゴンの姿ですわ」


「ほんまかいな」
ぼちぼちでんな。
「なぬっ!? この子、意外と出来る!?」
なんでやねん。

「貴方、一体どこの地方の方言を口にしているの」
ジパングの真ん中あたり。
「棒読みなのが台無しやけど。こないなところでウチのよぉ知っとる言葉に出会えたなんて、感動もんやで」
なんでやねん。


「はいはい、ストップ。話が進まないですわ」
私と黒いキツネのやり取りを、ディリアが止める。
「それで、この会見の理由をお聞かせ願いますか?」
デュラハン隊長がちょっと緊張している。

「え? いや、竜王様が来ているって聞いたから、挨拶しないといけないなって。それで」
こんばんは。
「あ、うん。こんばんは」
「何とも王様らしくない挨拶ですわね」

「いやぁ。俺は成り行きでこんな場所に来ちゃっているけど。本当はただの庶民だからね」
気づいたら王様にさせられていた。
「うん、まさにそれなんだ」
仲間仲間。

「貴方。女性と交わっている男性に握手を求めるなんて」
「相変わらず無茶苦茶ですね」
「御覧なさい。他の女性の方々も言葉を失っているじゃない」
じゃあ皆とも握手。


「ぷ、くすくすくす」
白くて黒い人がおかしそうに笑っている。
凄い魔力の匂い。
王様より魔力が濃い?

「ああ。この人は、何だろう」
「私たちの恩人ですよ」
にょろにょろしている人が答えた。
「この国の王妃の一人ですわ。ごきげんよう、竜王様」


「あっ。こいつ、こんな所にまで来ていたの!」
「こいつ呼ばわりするのは問題があるぞ。こう見えて、この小さな子供が、『あの』竜王なんだからな」
「え、ほんと? でも、それにしては」
「この場所で人の姿を保っている時点で、人間やあらへんしなぁ。でも、何でまた人間の姿をしとるん?」

エルフっぽい人っぽいワーウルフが驚いて、片目のラミアが説明して、黒いキツネが不思議そうにしている。
「え? あ、そういえば変だよね。普通、魔物の人って魔物姿そのままで現れるものだし」
「それは、本人から聞くのが良いと思うのですわ」
「私も聞いた事が無かったのですけれど。教えていただけるのですか?」


何だか沢山揃っている。
王様の隣に強い力のサキュバスとにょろにょろさん、変なワーウルフに片目ラミア。
ちょっと離れたところに黒いシスターさんと黒いキツネ。
ちっちゃな女の子はずっとえっちの真っ最中で、白くて黒いサキュバスはもっと離れたところ。

「えぇと。話したくないことだったらいいんだよ。でも、もし誰かに聞いて欲しいんだったら。幾らでも聞くよ」
あんまり大したことじゃない。
「どういう事なんだい?」
人間を知りたかったから。




私がもっと小さい頃、巣に沢山の人間がやってきた。
母様が追い払っても、父様が追い払っても、人間は沢山やってきた。
弱いのに、死なないと分かったらずっとずっとやってきた。
あんなに弱いのに。

父様が言ってた。
人間を知りたいなら人間を良く見る事だって。
母様が言ってた。
人間は魔物を見ると襲い掛かってくるって。

だから人間になった。
角も翼も尻尾も鱗もなくして、人間になった。
それから色んな人間の住んでいるところを歩いて回った。
それだけ。


「人間を見てきて、どう感じた?」
強かったり弱かったり、優しかったり怖かったり。
「怖かったのかい? どうして」
人間はなんでもするから。

魔物でも人間でも関係なくて、強い相手は攻撃して、弱い相手も攻撃して、敵も味方も関係ない人もいたりした。
王様は元々人間だったなら分かるのかな。
どうして人間は魔物を嫌うの。
今はもう、人間を殺したりしないのに。

「難しい質問だね。魔物が今の様になる前は、人間を殺して食べていたから。その怖いって思いがそのまま残っているんだ」
王様はちょっと悲しそうにしている。
「人間は魔物と違って、ややこしいことを考えるからね。魔物は危険じゃないってわかっても、納得できないんだと思う」
言ってから王様は首を横に振る。

「いや、違う。人間は馬鹿だから、やっていいことと悪いことの区別がつかないんだ。だから、やっちゃいけないことでも、平気でしてしまうんだ」
王様が悲しそうにしていて、何人かの魔物は暗い顔をする。
えっちをしている女の子は関係ないみたいだけど、本当に関係ないのかな。
王様の周りにいる人たちは、人間の嫌な部分を良く知っているのかな。

「俺はからはなんとも言えないけど。みんな、色んな嫌な事を経験してきているんだ」
何で嫌な思いをするのかな。
「難しい事は俺にも分からない。ただ、俺は今までのことより、これから皆を幸せにする。それだけが大事なんだ」
王様が周りの魔物たちを優しい顔で見て、魔物たちは落ち着いた顔で見つめ返す。


それは、何だか嫌だった。
「ちょっと。いきなり人化を解かないでくれる? 驚いたじゃない」
「竜王様?」
何だか、凄く嫌だった。

王様の周りにいる人たちが身構える。
首についている革のわっかが凄く邪魔。
「リィーバ、待ちなさい。何をするつもり?」
爪で引っ掛けると、わっかは簡単に千切れた。

「ちょっと、何怒っているのよ、ああもぅ!」
「竜王様!? 一体どうしたと言うのですか!」
ディリアとデュラハン隊長が私に掴みかかる。
でも。


その程度じゃ、私は止まらない。
私は王様に向かって歩く。
魔物たちが警戒する。
白くて黒いサキュバスは、動かない。

王様は私の爪が届く距離にきても、動かない。
他の魔物たちが動くのを手で止めている。
そして、魔物たちは私に襲いかかりたいのに、渋々従っている。
理由はわからないけど、嫌だった。

「大丈夫だよ」
首をかしげる。
王様は私の顔をじっと見て、笑っている。
暴れたい気持ちと落ち着く気持ちが、胸の中をぐるぐる回る。

「君には、大事な誰かはいる?」
うなずく。
「ずっと一緒に居たい人はいる?」
……うなずく。

「大丈夫だよ」
王様はまた笑う。
「その思いを大事に持っていればいい。そうすれば、夢は叶うから」
王様の笑顔は、誰かの笑顔に似ている。


私の夢。
父様と母様みたいな夫婦になりたい。
みんなで仲良くしていたい。
私の隣には。




巣に帰った。
よくわからないけど、あの後、ケンカは無かった。
ただ、みんな優しかった。
よくわからない。

また遊びにおいでって王様は言ってた。
また今度遊びに行こう。
いつかはわからないけど、いつかは決めてる。
何時になるかは誰にも内緒。


「困った王様ね。振り回される方の身にもなって欲しいわ」
「仕方ないですよ。魔物の王様なんて、我が侭なものです」
「それにしても。まさか、あの子の中で、あの夢があんなに大きいなんてねぇ」
「ふふ。幼馴染だから既に知っているのですね。私も、早く話して貰えるほど、気を許して欲しいものですね」

戻る / 目次 / 次へ

13/07/18 00:06 るーじ

top / 感想 / 投票 / RSS / DL

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33