連載小説
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レスカティエ 郊外 戦闘部隊編 前編
 俺は突如編成されたというレスカティエの特殊部隊のひとり、自ら志願をして配属されたのが、このなんとも奇妙な部隊だった。


『魔物の襲撃時、我々は予め決められた避難民を護衛し国外へと向かう』


 子どもの頃からレスカティエほど安全な国は無いと思っていた。多くの勇者が守る国、また各所に強力な結界が施され、魔物を寄せ付けないとまで言われている。
 まさか自分がそのような部隊に配属されるなんて、しかも避難民といっても貴族のご子息やご令嬢、有力者の子どもばかりというのも気になった。
 しかしながら、配属されたばかりで自分の上官に詳細な理由など聞ける訳もなく、今日も得意である弓矢の練習を行っている。

 そもそもの配置理由は、年に何度か開かれる一般国民も参加できてそれぞれの得意分野で技を競い合う。剣術、武闘、魔術等の大会にて、俺が弓矢の部門で優秀な成績を収めたから、というのも驚きだった。
 しかしながら、この部隊にいて武勲を立てることなどできるのだろうか? このレスカティエが魔物に襲われる訳なんか無い。やはり俺が元貴族だったという理由もあるのでは……。
 
 とんだ貧乏くじだ。
 最も部隊は緊急時に即動けるように待機という。これがまたサボりに見えてしまうし、せっかく自分の腕を実戦で試したいと思ってたのだが……。剣術なら対戦相手が居る。しかし弓矢で競い合うというのも狭い敷地内、いくら矢の先の刃を潰しても一歩間違えれば相手の命を奪うことになってしまう。
 模擬戦闘訓練と称した。建物内や動く的(魔物の動きを想定)といったのも繰り返し行われたが決して実戦向きとは思えない。
 魔術部隊にお願いして、幻術の魔物を相手に弓を放つ模擬戦闘をやる機会もあったが、やはり本物の魔物ではないので果たしてこれが役に立つのか? と聞かれれば『俺はなんとも言えない』と答えるだろう。実際魔物の姿を見たことが無いからだ。
 いかに正確に、そしてすばやく次の弓矢を射るか……。結局はその練習の繰り返しがいいのだろう。
 考え事をしていたせいだろう、次に放った矢は的から大きく離れた石壁に当たり粉々に砕けてしまった。
「俺は何をやっているんだ……」





「お兄様ーー」
 この場にそぐわない声。
 一人の少女が俺に向かって走ってきた。幸い訓練場には俺以外の人影は無い。まあいつも通りといえばそうだ。他の仲間はカードゲームや中には寝ている者さえいる。
 今休んでいる仲間も部隊長が戻ってきたら訓練を始めるだろう。

 さて、どういう訳か、少女がこの暇な時間を知っているかのようにここに通っている。
 しかも、あの恰好で……俺は練習用の弓矢を近くに置き、ため息を付きながら言う。
「お前、もう俺たちは兄妹じゃないんだから、それにここは軍の施設だぞ、何度注意したらわかる」
 年の離れた、元妹のレナだ。
なぜ“元”かと言うと、血の繋がりは半分だ。先に言ったように俺はある貴族の家の息子だった。しかし、俺は正確には違った。母だと思っていた人は別人、俺の父は家の使用人に手を出して生まれたのが俺だった。それを知ったとき、俺は家を出た。
 元々おかしかったんだ。
 妹は金髪で俺は黒髪。母親から誕生日を祝って貰ったという記憶が無い、それはそうだ、自分のお腹を痛めて産んだ子ではないのだから……。俺の本当の母は病気で亡くなったと父から聞かされた。当時まだ子どもだった俺は……、

 やめよう、父は許せなかったが、妹であるレナに罪はない。


「もう、お兄様ったらまた考え事ですの?」
「なんでもない、というかよく入れたな」
 妹はまだ幼い、言葉使いは貴族のそれだが、年はやっと 才だ。
 首を傾げてにこにこしている姿はまるでかまって欲しいという、子犬に似てる。

「わたくし、貴族ですので」
 カーテシーをしても違和感がすごい、……まあ大分様になってきたかな。
 というか、城の警備が緩すぎる。確かにレナは頻繁に遊びにくるので、城の騎士達も苦笑いしながら通しているのだろう。

「とにかく危ないから、それに何かあったら俺の首がやばい」
 子どもには少々不謹慎だが、俺は親指を下にしてすっと自分の首の前でそれを横へと斬る。
「大丈夫です。お兄様にはご迷惑はかけません!」
 軍の施設、しかもここは仮にも特殊部隊という名目の本当は存在しない部隊、まてよ? そんなのだから警備もざるなのだろうか。
 しかしだ、施設内には武器がある、子どもがおいそれと遊びに来ていい場所ではない。
 怪我でもされたら大問題だ。当のレナは俺のしぐさの意味など気にしていない様子だ。

「ここにくる段階ですでに迷惑だって、せっかく軍に入れたのに、嫌だぞ。仕事が無くなるくらいならまだいいけど」

「その時は、わたくし、お兄様と結婚します!」
 俺の腰に抱きついてすりすりしながら言うレナ。
 冗談じゃない。なんで俺が元妹と結婚しなければならないんだ。
 レナはどうも昔から他の子ども達とは考え方がおかしい。そもそも結婚したとしてなんの解決にもならないし、あの父の名前が再び自分に付くなんて考えたくも無かった。
 にこにこと首を傾げるレナ。ちょっと背も伸びたか。いやいや、そうじゃない。

「ば、ばかっ、人に見られたらやばいし、離れろ。それにお前のそのドレスが汚れるってだけでもまずい!」
「えー、わたくし、もっとお兄様のぬくもりが欲しいです!」

 ばりっと、それでもやさしくレナを引っ剥がす。俺が家を出ると知った時一番最初に反対をしたのはレナだった。
 それに……他の二人の少女の顔を思い出す。

「それより、お友だちはどうした? マリアちゃんとルナちゃんが居るだろう」
 俺がまだ貴族だった頃、俺とレナとマリアとルナはよく4人で遊んでいた。まあ、遊んであげていたというのが正しいか。
 そういえばマリアの父親は貴族でありながらも軍に資金を提供したり、騎士団の後ろ盾として有名だ。
 まさかとは思うが、マリアからレナへ情報が流れているのでは? しかし、いくら父親が軍の関係者でも、元貴族の俺のことなど機密事項だ。
 でも、情報が洩れるというとそこが一番の有力候補だな……。
 俺が指で顎に触れながら考え事をしているとレナの大声で現実に引き戻される。
「もう、お兄様ったら! レナが居るのに、他の女の子の話とか、わたしおこっちゃう。もう! もうっ!!」
 顔を真っ赤にして、というか化けの皮がはがれたな、お嬢様言葉は消えて子どもっぽい口調になる。
「ははっ」
 俺は笑う。こっちのレナの方が似合ってる。まだ子どもなんだし、堅苦しい言葉は違和感がありすぎる。

「もうもうもうっ! 何にやにやしてるのよっ!! ばかっ、あほっ! マリアちゃんとルナちゃんは今日は町に新しい帽子を買いにいくとかで、いないのよ!!」
 なんでそんなに怒っているかはわからないが、そういうことか、まあ幸いにしてマリアとルナがここに来ることは無い。
 レナだけがわざわざこんな所に来る。父も父だ。貴族令嬢を一人で出歩かせないで欲しい。
 憎き元父の顔を思い出してしまったことに後悔するが、縁を切った身で俺がレナのことを抗議するわけにもいかない。
 俺はもう平民で、ただの兵士にすぎないのだから……。

 それにしてもこの言葉遣いは無いだろう。元兄として将来が心配だ。
「おいおい、ばか、あほ、とか言うなよ。こほん! レナ様もご一緒すれば良かったではないですか?」
 俺は注意も含めて、わざと丁寧に言ってやる。まあ、これくらいは許されるだろうし、レナも俺のことを元父に報告するとも思えない。

 レナの顔がみるみる赤くなっていく。

「お兄様きらい!! べーーー」

 と、言ってスカートの端を持って走り去っていくレナ。
 ま、今度来たときは、もうちょっと優しくしてあげるか。そんな元妹の後ろ姿を見送って、俺は再び弓矢を構えた。
 放たれた矢は、綺麗な放物線を描き的の真ん中に当たった。











「お兄様のばか……」

 そうつぶやいたレナの言葉は風に流されて消えた。





 レナはそのまま家に帰る途中、仲良くしてるマリアとルナに出会った。
 3人とも、とある舞踏会で出会った。あの頃はまだ兄も居て、よくみんなで遊んだ。マリアもルナも同い年、というのが仲良くなるきっかけだったらしい。


 レナは金髪の長い髪に縦ロールという、まさにお嬢様な髪型、 才だが、同じ年のマリアとルナ比べても小さい。
 マリアは金髪をショートカットにして両髪を大きな白いリボンで結んでいる。
 ルナは銀髪ストレートで腰まで伸ばしてて後ろに小さな紫のリボンで結んでる。一番背が大きいけど、それでも140くらい。
 レナは普段は猫を被っているけど、ほんとは無邪気でまだまだ遊びたい、でも、ちょっと背伸びしたい年頃。
 マリアは元気いっぱいだ。口調こそお嬢様してるが、使用人の目を盗んでは外で遊んでる。
 ルナは一番大人っぽい、少々体が弱いらしいけど、みんなのまとめ役みたいな感じ。

「あ、二人とも……」
「あらあら、レナ様はまたお兄様の所かしら?」
「あはっ、きっとそうだよ。ぞっこんだもんねー」
 その瞬間レナの顔がまた真っ赤になる。

「もう、二人とも……うん、そうだけど、……で、いい帽子はあったの?」
 もじもじしながら、話題を変えるレナ。でも、さきほどとは違う意味で照れているのがわかる。
「うんっ、今度みせてあげるー!」
「わたくしも家に届けるように言ってしまったので、今度のお茶会の時に見せますね」
 マリアもルナもそれ以上はからかわない、レナの元気がないようだったので挨拶代わりに、おにいさんの話題をだした。
 こっそりとマリアとルナがアイコンタクトでほほ笑む。




 それからレナの家であれこれ話をする。もはや恒例となった3人の秘密の報告会。

「ではレナちゃんのお兄さんのご様子について」
 ルナが珍しく机から身を乗り出すようにレナに聞く。
「いつも通りよ。今日も練習がんばってた。それにわたしと話してるのに、マリアちゃんとルナちゃんの話するし……」
「ええっ、それくわしく聞かせてよ!」
 今度はマリアがルナを押しのけるようにしてレナに詰め寄る。
「マリアちゃん落ち着いてよー。もう、レナがひとりだから、二人はどうしたのか? というくらいよ」
 マリアも、そしてルナもちょっとだけ残念そうな顔をする。そもそもこの3人は一人っ子だ。
 貴族の少女達の話題と言えば、新作のドレスや新しい音楽、家庭教師への愚痴、そして、レナの兄という異性への憧れ。
 子どもとは言え、やはり異性に興味があるのはどの年ごろも関係ないらしい。

「マリアちゃんごめんね。せっかくいろいろ教えてくれたのに」
 マリアはふるふると首をふる。ルナは少女とは思えない表情でレナの瞳を見つめる。
「大丈夫よ。みんなで力を合わせてレナのおにいさまを連れ戻しましょう」
「うん!! そうだよ。元気だしなよレナちゃん!」
「うん、みんなありがとう。おにいさまもだけど、わたし二人のことも大好きだよ」
「も、もう、わたしたち親友じゃない」
「全くいまさらです」

 レナは兄に冷たくされたことを忘れるように笑顔になった。性格は違う3人だが、みなお互いを支え合い、幼いながらも、すでに貴族としての社交性を身に着けつつある。
 だが、それは別として3人は無邪気に笑い、仲の良い姉妹のようでもあった。


 かつて4人で遊んでいた“あの頃”を思い出しながら……。

 






 そして、人間としての最後の時間が終わりに近づいていようなどとは誰も思わなかっただろう。













「報告っ!! 魔物の襲撃!! 直ちに準備せよ、以上です!」


 俺は練習を終え、武器の手入れをしていた時にその知らせを聞いた。
「うそだろ……」

 すでに周りは騒然となっている。寝ていた奴など転げ落ちていた。


「落ち着けっ! いいかよく聞け!! もう貴族の方々がこっちに向かってる。訓練通りにやるんだ!!」


 普段は冷静な部隊長が激を飛ばす。
 あちこちで人々の叫び声が聞こえてくる。物々しい雰囲気、魔物という存在を改めて思い出してしまった。実際には主神の話しか聞いたことはない。だが、俺達の敵であることは間違いない。
 手が震えるが、ふとレナの笑顔を思い出した。
 そうだ! もしもの為にみんながサボッていようが俺は練習をしてきたんじゃないか。
 俺は気合を入れなおした。丁度練習後だったのが幸いした。防具を確認し弓筒を背負って、幌も何も付いてない馬車へとすぐに乗り込む。

 俺達は護衛部隊だ。
 魔物達から、子ども達を乗せた大きな馬車を守らなくてはならない。
 馬の鳴き声が響く中、ひときわ大きな声が俺に向かって飛んできた。
「あいつらを追い出せ!!!」

 部隊長が睨みつける方向には、魔物ではない! なっ!! 主神教の連中だと!?
 どこから湧いてきやがった。

「いいか、当てなくていい、驚かせるんだ! 追い払え!!!」
 部隊長が先頭の馬車から身を乗り出し大声で更に俺に指示を飛ばす。
「いいんですか!?」

「大丈夫だ。特権がある。責任は俺がすべてとる!! やれ!!」

 俺ははじめて人に向けて、それでも当てないように矢を放った。


「なっ!! なにをする。馬車に乗せろ」
「うわ、くそ!! 俺たちは主神、ひぃぃぃ!!!」

「うるさい。子ども達だけだ。そもそもお前らを乗せる馬車などない!! 去れっ!!!」


 部隊長が怒鳴る。あんなに怒った隊長の姿は初めてだ。
 ん、まてよ。そもそもあいつらは確か、以前この部隊を見に来たとき散々文句を言ってた連中じゃないか。
 






『役立たず部隊め、レスカティエが魔物などに襲われる訳がないであろう』

『そんな金があるのならもっと寄付をしろ』





 主神教は数発の矢を目の前に放っただけで逃げていった。なるほど、この部隊を知っていたから逃げようとしたのか、……なんて愚かな連中なんだ。

「よくやってくれた」
「まさか、初めての実戦が人間相手だとは思いませんでした」
「いいんだ。こういう事態も想定していた。君はよくやってくれた!! さあ、守りはまかせたぞ!!」
 
 まだ手が震えている、本当に当たらなくて良かった。魔物では無く人に向かって矢を放つことになるなんて……自分の腕を褒めたいがそれでも罪悪感が残る。たとえあんな連中でも。そんな中、仲間の一人が肩を叩いてくれた。
「俺もあいつらは気に入らねえ! お前の手があんな奴らで汚れなくてよかったぜ」
「は、はい……」
 他の仲間も頷いている。なんだかんだいっても俺の部隊の仲間はあの部隊長のおかげか、みんな仲が良い。新入りの俺でもこんなに称賛されるなんて思ってもみなかった。

 気がつけばもう先頭の馬車は走り出していた。
 俺たちの馬車もすぐに後を追う。石畳を馬の走る音と車輪からの衝撃が伝わる。
 いっきに俺たちの部隊はレスカティエを抜ける。馬車には弓をかまえた仲間がたくさん乗っている。月の明かりを頼りに魔物を探す。明かりは魔物への目印になるから無い。
 

「いたぞ! 放て!!!」
 心のどこかでこれが訓練であって欲しいと思っていたが、無情にもそれは魔物達の馬車への攻撃で現実へと引き戻された。
「やはり、空から来たか!!」
「左右も警戒しつつ、上の魔物だ!!」
「来るぞっ!」
 馬の鳴き声が街道に響く。それに負けないくらいの男達の声、弓を射る音。剣を握っていた奴も弓へと武器を取り換え矢を放つ。
「前方の馬車を守れ!!」
「矢をよこせ!!」
 怒号が飛び交う中、俺は必死に矢を放つ。
 月が出ているが暗い。
というか、なぜだ!? 
 仲間も必死に矢を放っているが一本も当たらない。まるで見えない壁のような物が魔物達を守っているように見える。
「くそっ」
「ちょこまかとっ!!」
「もっと引き寄せてから、っ! あいつら早すぎる!!」
 馬車が揺れる。
 それでも俺たちは矢を放ち続けた。良かった、前の子ども達が、レナ達が乗ってる馬車は無事だ。攻撃はこちらの馬車へ集中している。
 あの3人がそろって乗ったのは確認した。
 彼女達を守るためにもぜったい


 ガタッ!!!!

 大きく馬車が揺れる。
「なっ!」
 御者席に誰も居ない、上を見ると男を抱えた魔物が空へと飛びあがっていく姿が見えた。
 暴れる馬。どんどん街道から馬車が外れて行く。

 仲間の叫び声、木の折れる音。馬の鳴き声すらも悲鳴に聞こえる。

ガタンッ!!!!!!
 更に何かにぶつかった音が響き
「うわっ!!!!!」
 俺は落ちた。









「よっと!」
 来るはず衝撃が来ない、代わりに何かやわらかいものに体が抱きしめられた感触。


「リリム様ー、この男、旦那にしちゃったらダメですか?」
「だめよぉ。後でかわいい男の子を紹介してあげるわ」
「やったー。あたし、ちっちゃい男の子が好きなんです。約束ですよ!」
「楽しみにしてなさい、それじゃ、作戦通り、よろしくねぇ」

「はーい!」


 なんだなんだ。訳がわからない。女の声が聞こえる。いきなり俺の体が空高くへと持ち上げられる感覚。下になった頭に一気に血が流れ、俺は「あはっ」という女の声を最後に聞いた後、気を失った。









 そして、気がつけば、俺は他の仲間達と共に倒れていた。


「こ、ここは」

 な、なんだ、あれは!?
 月が妙に明るい。周りの景色が鮮明に見えてきた。

 
 バカな! 妹が! レナが魔物に抱かれている!!?
 確か、あいつはリリム!
 
 なんてことだ。守ったと思ったのに……そんな、そんな。結局俺たちは……負けたのか。
 体が動かない。それに弓矢も無い。仲間達も気を失っているのか動いている者は居ない。


「あら」
 リリムと目があった。

「お、お兄様ーっ!」
「れ、レナ!!」
 やはりレナだった。リリム同様に俺に気が付いて魔物の拘束から逃れようと必死だ。

「そういうこと」
 リリムの視線が俺とレナを交互に捉えたと思ったら、ニコリと笑い頷いたように見えた。
 それからレナに、な、キスをしてるだと!?
 口が、く、しゃべれない。


「ん……あなたはそうね。ちゅ……決めた」
「いや、離してっ! んんっ」
 
 暴れていたレナがだんだん静かになる。そして、リリムがレナの小さな体をぎゅっと抱き締めて、首に甘噛をしたり、手を、尻尾をあちこちに這わせる。

「ぁ…………だめぇ……」
「いいわね、純粋なそして、恋する女を魔物に変えるのって好きよ……かわいいわ。あなた…ちゅ…ちゅ…」
 びくびくと震える少女。
 やがて、手がだらんとして、最初に抵抗していた少女も大人しくなる。

「……や…めて…ぁぁ……あれ……なんでぇ…てが…」
 小さな手を伸ばしてリリムの頬に触れる。リリムはそれに答えるようにキスを続け、少女の体のあちこちを愛撫して魔力を流し込む、そして、少女の体が魔力に反応し変化をはじめた。

「いいのよ。心配しないで、受けれなさい」
 リリムが苦しがる少女の耳元で囁くように言う。

「……ん!」
 少女の背中の服が盛り上がり、ビリビリという服を引き裂く音が響いたかと思えば黒いモノが“生えてきた” ぽたぽたと粘液を垂らしながらソレはゆっくりと伸びて広がっていく。
「ああああああっ!!!」
「大丈夫よ」
 リリムの白い尻尾が少女のスカートへと潜り込む、やがて別の黒いモノがリリムの尻尾を追うように伸びていく、先端がぷくっと膨れやがて形となっていく。
「かわいいわ……ちゅ…ほらぁ…」
「や、やぁぁっ!……なにこれぇ……んんぅっ!!」
 少女が嫌々と首を振るのを抑えるように、リリムが優しく頭を抱きしめる。そして、金色の髪が艶を増したと思った瞬間、黒い角が生えていく。
「ああああっ!!!!!…きちゃうぅぅ……」
「ふふ……ステキよぉ」
 背中から生えたモノは翼となり、ゆっくりと動き出す。スカートから伸びた黒い尻尾もやがて動きだし、頭の角ははっきりとその姿を見せた。
「はぁっ……はぁ…」
「ふふ、サキュバスよぉ……とってもかわいいわ」
 尚も尻尾や翼からぬるっとした液体が地面へと垂れていく。

「ちゅ…さあ、仕上げよ」
「あああ!!!…こ、これ…き…きもち……ぃぃ…あはっ」
 少女の体が黒い霧に覆われる。再び姿を現した少女の服は黒く染まり、最低限、胸と下半身を隠す程度の物へと変化する。手足には黒く光る手袋とブーツ、そして、無邪気に少女が微笑むと、自ら手を伸ばしリリムと口付けを交わす。

「りりむさまぁ……えへへぇ…ちゅぅ!!……」
「んっ! あら、あなたからしてくれるなんて嬉しいわ……さあ、行きなさい“おにいさま”が待っているわ」
「ほんとだぁ………きひっ…」

 しかし、少女は兄へと歩む足を止めて振り向く。かつての少女は淫らに微笑みながらも、リリムを見上げる。

「りりむさまぁ……」
「なぁに?」
「わたしの大切なオトモダチもお願いします。えへっ」
 すっと指差す先には、マリアとルナ。
 二人とも抱き合い、怯えている。

 レナは二人に近づく。
 本当はすぐにでもお兄様を自分のモノにしたかった。
 でも、ひとりじめはよくない。

 知っている。二人もお兄様のことが好きだということに……、なにより

 いっしょにみんなできもちよくなりたい。

 レナは魔物になっても優しかった。いや、魔物になったからこそ、二人の本当の想いに気がつき。独占欲よりもみんなでの一緒に遊びたい、気持ちよくなりたい。
 という想いが強くなった。

「大丈夫だよぉ……みんなで、あそぼ? 気持ちよくなろ??」
「いや、レナちゃん来ないで!!」
「やめて、お願い! いつものレナちゃんに戻って!!」


「あなた、偉いわ。すぐに愛しのお兄様の元へといくかと思えば……ふふ、イイコねぇ」

 リリムがしゃがみ、震える少女達を抱き締める。
 サキュバスとなったレナもだ。

 
 親友たちに笑顔を向けるレナ。
純粋だからこその愛。
 人間の時のような笑顔で首をかしげる姿は間違いなくレナという少女だ。


「いや!!!」
「レナちゃん、正気に戻って!!!」
 しかし、マリアもルナも目の前の現実が受け入れられない。人間が魔物に変わった。しかも、レナが、……あまりの出来事に少女達はパニックに陥る。


「リリムさま、お願いします」
 リリムは頷くとまず、マリアを抱き上げてキスをした。
 ルナは魔法で動けなくして見ててもらう。



「おにいさま」
 そして、レナは男の元へと行き。にこっと微笑み、瞳は紅く染まる。それだけで男は完全に動けなくなった。

「や、やめろっ!」
「まっててね。今終わるから……くす」
 サキュバスとなったレナは、兄を信じられない力でわざとリリムの方を向かせる。

「ほら、一緒に見よ? みんなかわいくなるよ。くすくす……ちゅ」

 男は抵抗できなかった。しゃべろうと思えばできたが、目の前の状況に追い付いていけない。レナが首筋にキスをしてきた。
 その部分が焼けるように熱い。


 レナが魔物になった?
 しかも俺を抱きしめて、キスまで、くそ、わけがわからない。
 体が熱い、レナがサキュバスに変わるときすでに下半身のモノが痛いくらいに勃起していた。
なんだ、この気持ちは? なぜこんな状況なのに俺は興奮しているんだ!?

「くすくす、もうちょっと我慢だよ、ちゅ……」
「んん!?」
 口に無理やりキスをされて後ろから小さな体で抱き締められる。
 耳元で囁かれる度にどこかへと堕ちていく感覚。
「おにいさまぁ、ひまだよね。ちくびいじってあげる!」
「なっ!」
「んふふ、ほら、きゅって」
 レナは足で兄の腰を固定して小さな手で乳首をいじりはじめる。そこからも注がれる魔力、しかも元とはいえ幼い妹によって無理やり拘束されているという状況、男の息が荒くなっていく。レナは更に兄と体を密着させて乳首をいじり、背中に噛みつく。
「くっ、やめろ、たのむ」
「おにいさまったら、ちくびが大きくなってきたわ。あはぁっ!」
「れ、レナっ…や、やめてくれ」
「おにいさまぁ……ここですかぁ……きひ……ちゅ…」
 レナによる一方的な愛撫は止まらない。しかも目の前ではリリムがマリアの体をまさぐっている。



「お嬢ちゃんは、そうね。決めたわぁ」
 兄妹の淫らなやりとりの間にもリリムによる少女への愛撫は続いていた。
 キスをされ、魔力を注がれてすっかり力が抜けたマリア。目は泣きつかれたのか真っ赤になっている。

「怖かったのね……ごめんなさい。大丈夫よ」
 抱き締めて、子どもをあやすようにリリムが言う。
「……ぁ……ぁぁ…」
 マリアは驚きながらもやがて、自らも温もりを求めてリリムに手を伸ばした。すでに魔力を大量に浴びたせいもあるが、マリアは心の中で気がついた想いに……、そして先ほどのレナを思い出す。


 トモダチ。


 魔物に変わったレナを見て恐ろしかった。泣いた。
 でも、視界の隅に兄と呼び従う男とキスを重ねるレナを見てしまった。更にレナが兄に、何かいけないことをしている。
 幼いながらもわかってしまった。あの行為は………。

 レナちゃんのおにいさんがあんなに顔を真っ赤にして、レナちゃんに……もてあそばれている??
 

 えへ

 ……わたしもいっしょに…いや、違う!……でも……イイナァ…



「ほら、口を開けて……体の力を抜いて?」
 マリアも表情がだんだんトロンとして、自身の体が未知の快感で熱くなるのを感じる。
 リリムがキスをして、体を愛撫して、少女の敏感な所に壊れ物をあつかうかのように慎重に触れていく……。

「あ、ああ、あああっっ!!……なにこれぇ……へん…だょ…ぉ」
「大丈夫、大丈夫だから……ちゅ」
 リリムは未知の快感に震える少女をぎゅっと抱く。やがて、マリアの体にも変化始まった。

 ドレスだったものがドロリと溶けて、地面に落ちたかと思えば、ソレは意思をもったかのように蠢き、再びマリアの体を覆い尽くす。

「ひゃぅ!!!」
 リリムがそっとマリアを自分の体の上に乗せて横になった。
 スライムのようなものが少女の体を這いまわり愛撫をしていく。ふくらみかけの胸の先がきゅっと触られ、幼い肉壺にもソレは入っていく。ビクンビクンと震えて、やがて絶頂と共にソレは形になった。
 ドレスだったものは触手へと変わりマリアを絶えず愛撫して快楽を送り込む。
「あああん!……これぇ…いやぁ……はいって……あはっ……きてぇ…おいでぇ……ぁぁ」

「かわいい。とっても素敵なローパーだわ」
 マリアは快楽に身を委ねつつもレナと男の元へと、愛液を垂らしながら近づいていく。

「えへへ、いらっしゃい、マリアちゃん」
「あはっ、これぇ、すごい…レナちゃん……すきぃ………ああっ! もう、あばれたらだめぇ……えへぇ…」
 ドレスへと擬態した触手が暴れるがマリアは無意識にソレを操り快感を貪る。
「マリアちゃん…かわいい……それ、いいなぁ……ぁ…もっとぉ…」
「まものぉ…きもちいいよぉ……レナちゃんも…かわいい。もっとちゅーしよぉ……」
 二人して抱き合ってキスをする幼い元少女達。レナは翼でマリアを包み込み、マリアは触手を伸ばしてレナを愛撫する。

「もう、くすぐったいよぉ、マリアちゃん」
「あは、レナちゃんもあったかい……おにいさんもいい?」
「うん…えへぇ……ごめんねぇ…おにいさまぁ…ちゅ…」
「……ほらぁ…これでおにいさんを……」
「マリアちゃん…待ってぇ…ルナちゃんも」
「うん、はやくぅ……ルナちゃん…」
 男に襲い掛かろうとするマリアを制するレナ。実際自分も我慢の限界だけど、まだ本格的にはしない。
「でもね……おにいさまぁ、ぎゅぅぅ」
「ふふ、わたしも、ぎゅっ」
「あああっ!!!」
 後ろからはサキュバスのレナに抱き着かれ、横からはローパーとなったマリアの触手によって弄ばれる男。
 だが、まだ遊び、前戯にすぎない…。


 ルナはそんな光景を見て、最初こそは目を背けていたが、あたりにただよう魔力を浴び、気がつけば幼いながらも自慰をしていた。無意識に秘所を触り、それから手が止まらなくなっている。
 すでにくちゅくちゅという音が聞こえ吐く息も荒い。

「お待たせ、お嬢ちゃん」
 そんな少女をリリムが優しく抱き締める。
「きゃ!」
 未知の快楽に身を委ねていたルナは突然の包容に驚くが、すでに目は焦点があっていなかった。
「くすくす、あなたも、かわいいわね。それに淫らなのは決して恥ずかしいことじゃないのよ?」
 リリムはルナのスカートの中に手を入れて、愛液をすくうと少女の前でソレを舐める
「ふふ、美味しい♪」
「ああああ……そんなぁ…いやぁ……ちがうの…」
 ルナは顔を真っ赤にしながらふるふると顔を振る。

 違う。わたしはこんなのじゃない。でも、手が止まらない。レナもマリアもまものになってしまった。

 なのに
 なのに、この気持ちは……。レナちゃん…マリアちゃん……そして、おにいさん……。

「ふふ、あなたも友達想いで、でも本当の想いを隠していたのね」
「ち、違いますっ!!」
 ルナは思わず大きな声を出してしまった自分を恥じた。
 違う違う、レナちゃんもマリアちゃんも大好き。例え魔物に変わってもそれは変わらない。違う。レナちゃんのお兄様はレナちゃんので、わたしはその、憧れで!

「ちゅ…ん…いいのよ……魔物になれば許されるわ。実際レナちゃんはあなたの想いにも気がついたみたいだもの」

「ふぁ……そんな…」
 ルナの中に小さな闇が差し込む。
 レナに抱き締められてキスされたおにいさん。マリアに体を触られて顔を赤くして、あんなにキモチヨサソウ……。

 そして
 レナと淫らに絡み合うマリア。

 いいなぁ…ワタシモ……

 キモチヨクナリタイ


「そうよ。あなたも、みんなも一緒に幸せになりたいでしょう?」

 ルナは頷いていた。

 そっか、もういいんだ。

 ワタシヲカクサナクテモイインダ


「あの……」
「なあに?」
 リリムがにっこりと微笑んでルナの口に耳を近づける。

「わ、わたしも魔物にしてください!!」
「かわいいわ!! すてき。人間なのに自ら進んで、ああっ、好き好きっ!!」
 リリムはルナを抱き締めてキスと愛撫を繰り返す。いくら魔力を浴びたからと言ってもまさか、こんなことを言われるなんて思ってなかったからだ。
 
「ちゅっ…ふふ、お嬢ちゃんは……決めたわ」
「……は、はい、おねがい…します」
 両手を広げてリリムを受け入れるルナ、早く魔物になってみんなとアソビタイ。
 気持ちよくなりたい。

 わたしだけ仲間はずれなんてイヤ!
 

「さあ、受け入れて」
「あああああ!!! すごい!……なにこれ!!」
 びくびくと震える少女。その瞳はすでに人間のソレでは無くなっていた。
 震える度に幼いアソコからぬるっとした愛液が足を伝い地面へと零れ落ちていく。

「き、きちゃうっ!!!」
 少女の変化はまず肌からだった、もともと色が白かったが薄い青へと変化していく。

「あああああ!!!!」
 次の変化はすさまじかった。突然少女の下半身がどろりと別のモノに変化していったのだ。リリムは震えるルナを抱き締め、心配はないと表情で訴える。
 少女はうなずくことは出来ないものの、リリムからのぬくもりを感じ身を委ねる。

 やがてソレは現れた。変化したと言ってもいい。下半身が延びてゆく。どろどろとした粘液が辺りに飛び散る。
「ああ!! きちゃうぅぅぅ!!!!……いくぅ!……いっちゃうぅぅ!!!」
 肌は薄い青へと完全に染まり、下半身が蛇のソレへと変わっていく。
 やがて落ち着いたのか、快楽のせいなのか……。
 少女が、ルナが人間とは全く異なる表情でうっとりとする。
「あは、これぇ、すごいです。リリムさまぁ……」
「どうかしらぁ?」
「えへ♪……とっても…いいです」 
 早くも下半身の動きに慣れたのかするっとリリムの回りを嬉しそうに這うルナ。
「あなたには期待してるわ。だからエキドナよ。あなたの子はやがてたくさんの良い魔物を生める………さあ、みんな待っているわ」
「はい、リリム様っ、最後にまた……いいですか…んっ」
「ふふ、ほんとにかわいい子……ちゅ…」
 リリムは思わぬ収穫に満足だ。

 あの3人、いや、夫達は淫らにそして幸せになるだろう。楽しみだ。

 嬉しそうに向かっていくルナ、それを抱擁という歓迎でサキュバスとローパーとなった少女達が迎え入れる。


 さあ、次はどの子をどんな魔物に変えてあげようか。リリムは微笑みながら次の少女を抱きしめる。
「次はあなたよぉ」




「ルナちゃん!!」
「えへ、どうかな」
「すごい、かわいいし、とっても似合ってる」
 レナがルナを抱き締める。顔は変わらない、でも以前より魅力的になった。
「レナちゃんもマリアちゃんも素敵」
 マリアが触手でルナを抱き締める。
「かわいい、魔物って、えへへ、こんなに気持ちよくて……」
「うんうん、今まで……ふふ」
「いいよ。まずレナちゃんから」

「ありがと……二人とも…ん」
「ちゅ…」
「ん……ほら、おにいさんが」
 キスを重ねる少女達。

 魔物と変わっても変わらない。むしろもっと仲よくなった。
 3人、いや3匹の幼くも美しく淫らに生まれ変わった魔物達。

 みな目はトロンとして、レナの兄のことで頭がいっぱいだ。

 いっぱいみんなで


 あ そ ぼ
18/09/03 10:05更新 / ロボット4頭身
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■作者メッセージ
ありがたいリクエストをいただいたので、サキュバスとローパー、あとは散々迷いましたエキドナにしてみました。
前編は魔物化がメインです。

長くなりそうなので一度、本格的なエロになる前に切りました。
また書いてみて長くなりそうなら 中編 後編 となるかもしれません。

では、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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