番外編 第2話「教会領より来たもの」
部屋に戻った私は、ベッドで寝ている少女を起こさないように、魔法のほのかな灯りのもと、修復された手帳を読み始めた。
・・・
今日、我々に特別な任務が与えられた。
その任務というのは、一人の少女と一冊の本を親魔物領に届けるというもの。
何故、わざわざ少女をそんな危険な場所へ届けねばならないのか。どうやら、上層のとって重要な案件らしく、詳しい内容までは教えてくれなかった。
だが、命令された以上、我々はやりとげなければならない。
○日目
メンバーの一人の姿が朝から見えない。
だが、我々は歩みを止めることは許されない。捜索は行わず、目的地に向かう事にする。
少女は相変わらず、本を肌身離さず抱えている。
○日目
また一人メンバーの姿が消えた。
もしかしたら、この任務は自分が思っている以上に危険で、重要な任務なのかもしれない。だとすれば、ますますやり遂げなければならない。
重要な任務と聞いていたので、休憩のときには必ず見張りを立てていたのだが。次から、見張りを2人に増やしたほうがよさそうだ。
○日目
また一人姿が消えた。
これで5人の人間が消えた事になる。
○日目
今日は、とある宿場町にて宿を取ることにした。
その日の夜。私は人の話し声で目が覚めた。
どうやら、少女の部屋からその話し声が聞こえて来るようだ。侵入者かもしれないので、私は警戒しながら少女の部屋にむかった。
少女の部屋にいってみると、少女が本を抱えたまま、ぶつぶつ独り言を言っていた。どことなく目の焦点が合っていないようなので、所謂夢遊病なのだろうか。
しかし、私が少女の部屋の前で話し声を聞いた時は、たしかに2人いたような気がしたのだが。
○日目
野宿の最中、またも少女の独り言を聞く。
なにか同じ事を繰り返し言っているようだ。
「いぐ・・・、・・・ぐな・・・・、ないあー・・・。」
言っていたのは、こんな感じだろうか?
○日目
今日は久しぶりに野宿ではなく、屋根のある宿に泊まる。
まだ、教会の力の届く反魔物領ではあるが、魔物達の潜む親魔物領に徐々に近づいてきている。
明日は、行商・流通の要所である、川にかかる大きな橋を渡る予定だ。
○日目
今日、ついに行方が分からなくなっていた一人を見つけることになった。
その日は、川にかかる橋を渡る予定だったのだが、先日の大雨で川の水が増水し、その影響で橋の一部が欠損。危険なため、橋を閉鎖しているとの事だ。
しかたなく、我々は元来た道を引き返して先日宿泊した宿へと戻り、別な道を探さねばならなくなったのだ。
宿に戻りしばらくして、念のため宿の周囲を警戒させていた者が大慌てで宿に戻ってきた。行方不明になっていた一人を見つけたと言うのだ。
その場所に行ってみると、たしかにその人物はいた。だだし、死体となってだが。
その者は、喉を切り裂かれて死んでいたが、その手足はありえない方向を向いていた。口の周りに、巨大な手の痕がある事から、口をふさがれた状態で手足の骨を折り、逃げられない状態で喉を切り裂かれて殺されたようだ。
が、喉を切り裂かれた割に周囲に血痕は無く、殺されたあと此処に遺棄されたのだろうか?
ともかく、我々の旅にはとんでもないものが付きまとっているは確かだ。
○日目
本来の道を大きく迂回する事になったが、別な橋を渡って川を越えることができた。
私は、生きてまた故郷の土を踏むことができるのであろうか。
(しばらく、空白のページが続く。)
○日目
今日もなお、少女は一人で何かを言っている。
「イアー!イアー!シュブ=ニグラート!イグナイー!イグナイー!ナイアーラトテップ!イアハー!」
その声は、我々の人数が少なくなるに従って大きく、遠慮が無くなっているように思える。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
と、手帳はここで終わっていた。
肝心の、この街の直前の出来事が何も書かれていなかったが、あの騎士には書く余裕がまったくなかったのだろうか?
まあ、今日も遅いことだし、深く考えるのは明日にしよう。
そう結論つけると、急激な眠気が私を襲ってきた。私は、ベッドに上がり少女の隣に潜り込むと、2人でも十分拾いベッドのなか狭さを感じる事なく眠りに落ちて行っただった。
8月●日
朝になってみると、一人の魔女が慌ただしく何かの準備をしていた。
「何をやっているの?」
「あ、おはようございます。」
そう言うと、彼女は私に説明してきた。
「ちょっと、レスカティエに行ってくるようにバフォ様に言われまして。」
「レスカティエに?」
「ええ。なんでも、この街ではサバトに相応しい本が手に入らないから、レスカティエで仕入れてくるように言われたのですよ。」
そう言えば、本屋にスピリカさんの本が大量に入っていたのを、昨日バフォ様に言うのを忘れていたな。むしろ、その本の方が“今の”サバトには相応しいのかもしれない。
だが、このとき何故か私は彼女を止める気にならなかったのだ。
連絡を取れる者がレスカティエにいる。その事が、のちに重要になって来る事など、その時の私には知るよしもなかったはずなのに。
部屋に戻ると、少女が起きていた。
少々寝ぼけた様子で、何故自分が此処にいるのか把握できていないようだ。
「あ、起きたの。」
しばらくして、昨日の事を思い出したのだろうか。私の姿を見ると、挨拶とばかりに私に頭を下げてくる。
「おはよう。」
と、ここで私は重要な事を彼女から聞いていない事を思い出した。
「そういえば、貴女の名前聞いてなかったわね?」
しばしの沈黙の後、彼女はこう返してきたのだ。
「リリルルシア。」
「え?」
「リリルルシア・・・。それが私の名前。」
「もうすぐ朝食ができる事だろうから、食べにいきましょう。」
そう言って、私は彼女・・・、リリルルシアを食堂へ連れて行った。
そのとき、彼女はずっと抱えていた本を部屋に置いてきた。ほんとう、本が無いと眠れないのだろうか?
なお、食堂では、彼女の姿を初めて見た他の魔女達が、生体融合帽の新たな被害者か?
・・・などと、騒ぎ立てたので、少々実力で黙らさせてもらった。
・・・
彼女の事は、彼女の事で置いておくとして。
私は、昨日この街へきたもう一方。
教団の騎士の方を訪ねてみる事にした。もしかしたら、昨日より落ち着いて事情を聴くことができるようになっているかもしれない。
リリルルシアを一時的にであるが、サバトが引き取っている以上、彼女の事に関していろいろ事情を知っているなら聞いておきたいと思ったからだ。
ルゼニアさん・・・、まだパンデモニウムに引っ込んでないといいな〜・・・。
教会へ向かう途中、この街の警備の兵士と何度かすれ違った。
何か、結構慌てているようだったが、また何か起こったのだろうか?
教会へ行くと、建物の前にルゼニアさんがいた。
彼女は、しゃがんでおりその目の前には犬がいた。その犬は、しきりに彼女の差し出した手をペロペロと舐めている。
私としては、犬よりは猫の方が好きだったりする。黒猫は、昔から魔女の使い魔としてポピュラーなものだし。
そんな様子を見ていると、彼女の方が私に気づいたようだ。
「あら、こんにちは。」
「こんにちは。」
さっそく、私は彼女に質問してみる事にした。
「そういえば、教団の騎士はどうしました?」
「ああ、あの人ですか・・・。」
そう言う彼女はどこかバツが悪そうだった。
「どうも逃げられちゃったみたいです・・・。」
そう言って彼女はため息をついた。
ああ、だから警備の人たちが慌てていたのね。
にしても、ずいぶんとヒトゴトみたいにルゼニアさんは語るのね・・・。
8月□日
その日、私は思い切って彼女にこう切り出した。
「貴女はどうして、教会の騎士と一緒に行動していたのかしら?」
昨日の時点で、彼女はけっこう私に心を開いていると考え、思い切って聞いてみたのだ。
「ん〜、分からない。」
「あ〜、そう・・・。」
が、思う様な答えは得られなかった。
まだ、完全に気を許してないのか、それとも本当に分からないのか・・・。私には、判断がつかなかった。
そこで、私はもう一つの事を言ってみる。
「ちょっと、その本を私に見せてくれない?」
拒まれるかと思ったが、リリルルシアは以外にもすぐに本を私に渡してくれた。
あれだけ大事に持っているのだ、もしかしたら彼女の手掛かりがこの本から得られるかもしれない。
彼女から手渡されて、改めてその本をまじまじと見つめてみる。
表紙は皮でできており、それなりの重量がある。表紙の片方には、なにか記号の様な、紋章のような複雑なモノが描かれている。それは片方にしかなく、本の反対には何もかかれていない。とりあえず、こちらが表になるだろうか。
とりあえず、私はその本を読んでみる。どうやら、内容は一種の魔導書のようだ。
が、途中で頭が痛くなってきた。
魔導書の一種のようなのだが、私が扱う魔法とは系統が違うようだ。
おまけに、旧神だの大いなる種族だの、まるで聞いたことが無い事まで書かれている。これは、どこかの自称魔法使いが書いた、偽魔導書なのではないだろうか?
ん〜、本の内容から彼女の素性を明らかにするのは、無理があるようだ。
が、この本自体も気になることは確かだ。ここは、桶は桶屋に任せるのが一番かもしれない。
そう結論づけると、私は彼女を部屋に残し、サバトを出たのだ。
「で、これがその本なのですが。」
夕日が差し込む本屋の中、私はビブロフさんにその本を見せたのだった。やっぱり、本の事は本屋にまかせるのがいいだろう。
それに、ビブロフさんはその経歴から、そんじょそこらの教授連中より知識が深そうだし。
「う〜〜ん。」
しかし、彼にもこの本はよく分からないようだ。
「なんとも言えない内容じゃな。書かれている事は、聞いた事が無いような内容じゃし。」
まあ、実際にいきなりこの本の内容を信じろと言われても、無理なことばかり書きたてられている。
「が、しかし。」
「?」
「どこかで、この本の表紙の文様と似たモノを見たか、聞いたような気がするんじゃが・・・。」
「本当ですか?」
「が、今は思い出せんの〜。」
その後、私はビブロフさんがこの本に関してなにか思い出したら、サバトに連絡をくれるという事だけ話し合って本屋を出たのだ。
結局、私は遅い時間帯にサバトに戻った。
が、部屋に戻ってみるとリリルルシアがいなかった。
彼女は、私が連れ出さないと部屋にずっと居ると思い込んでいたが、どうやらそうでもないらしい。
私は、サバト内を探し回ったのだがリリルルシアを見つけることはできなかった。が、半ばあきらめる形で自分の部屋に戻ると、ベッドの上で彼女は寝息をたてていた。
「まったく。人の事を心配させて・・・。」
彼女を探して夕食を食べ損ねたが、眠気に勝てず私もベッドに入ることにした。
8月■日
次の日になって、街は大騒ぎに包まれていた。
聞いた話によると、街でとある一家が惨殺されたと。
犯人はいまのところ不明。現場は、燦々たるものだったらしい。
私は、その日はリリルルシアから借りた本を読んで過ごした。
しかし、この本の不親切極まりない書き方ゆえに、読み進むのに苦労することこのうえない。
初めから読んでいたはずなのだが、いきなり遥か先のページを参照するよう指示されたかと思えば、また急激逆戻りのページを指示される事などざら。
ページの参照を無視して、1ページずつ読んだとしても、まるで内容がつかめない。
まあ、他の本を参照せよと書かれていない分、ましなほうかもしれない。
おかげで、この本を読んでいただけで、1日がつぶれてしまった。
今日も、リリルルシアが先にベッドに入って眠っていたが、本は私が遅くまで読んでいたため、当然彼女の手にはない。
が、当の彼女はそれを気にする様子もなかった。
別に、本が無くとも眠れるようである。
結論から言うと、私はその誇大妄想じみた内容から、本は読めばするも、その内容を理解することはできなかったと言っておく。
その日の夜、なにか恐ろしい夢を見よう様な気がするのだが、朝になると覚えていなかった。
8月◇日
その日、またも街で死体が発見された。
ちかごろは、随分と物騒になったものだ。
一方の私はというと・・・。
その日も、本と格闘してたとだけ言っておく。
その日見た夢は、あまり心地よいものではなかった。
まるで、何かが私の意識を浸食して行くような・・・。私が、私でなくなっていくような感覚をありありと感じさせるようなものだった。
8月◆日
北に位置するこの地方では、8月の終わり辺りから急に気温が下がり始める。
早い冬にそなえ、私達のサバトでは服の衣替えや、ほこりのつまった暖炉の掃除で大忙しだ。
街でも、秋の収穫の始まりをつげるお祭りの準備にいそがしい。
そんな日の夕方だった、街の領主がこのサバトを訪れたのは。
「教会の騎士が流れ着いた件から、2件の殺人事件。全て、貴女達のサバトが来てから起きてるわよね?」
開口一番、彼女はそう言ってきたのである。
「まあ、2件目の殺人事件はいいとしてもね。」
「2件目は特別なんですか?」
「ええ。2件目は、どうやらこの街に忍び込んできた教会のスパイだったようだし。」
この街の者でなければ、特に気にしにないのであろうか?
「どうやら、黒焦げになってはいたけれど、電撃にやられたものだった。でも、その日は一日中晴れ、夜も星空がきれいだったし、落雷が起きるような天気ではなかった。だから、てっきり教会のスパイに気づいた貴女達が魔法で始末したのかと。」
いくら相手が教会の人間とはいえ、いきなりそんな事はしたりはしない。
いや、むしろ魔物娘なら“そんなもったいない事はしない”と、言ったほうがいいか。たいていなら、相手を婿候補として確保してしまうと言った方がいいか。
それでも相手を殺してしまうと言う事は、それだけ相手が強いという事だろうか。
「雷系の魔法にやられたからといって、魔女がやったとは限らないでしょ?人間同士の争いって可能性もあるし。」
「まあね、とりあえずそれらしい所を、いろいろと回っている所なのよ。」
さらに彼女はこう付けくわえた。
「親魔物領の端にあるとはいえ、今までは大きな事件もなく、この街は平和だったのよ。」
が、いきなり2件の不審死事件が起きた。
「1件目の手掛かりが何も見つからないまま、2件目が起きてしまった以上、私も動いている事を街の者達にみせないとね。」
どうやら、2件の事件のせいで、屋敷で黙々と仕事をこなしているだけでは、街の者が納得しないという事か。
結局、彼女はバフォ様に会うこともなく、私と話をしただけで帰って行った・・・。
なんか、情報をあっさり教えられたりと、サバトをただ働きさえるために、たきつけているようにしか思えないし。
「けど、ここで領主殿の思惑どおり事件を解決すれば・・・。安定して、ここにサバトを置けるかもね・・・。」
毒を食らわば、皿まで。しょせん、蛇の道は蛇である。
なんか、違うような気もするけど・・・。
・・・
私は、誰もいないサバトの中を一人歩いていた。
どこか、客観的な意識がこれが夢だと悟らせていた。
屋敷の中を歩いているのだが、それが自分の意志なのか、無意識なのか分からない。まるで、私が操り人形にでもなっているかのような気分だ。
ふと、廊下の壁に姿見が立てかけてあるのが気づいた。
私は、吸い込まれるようにその姿見に向かって歩いてゆく。
そして、その姿見の前に立った私が、鏡の中に見た姿は・・・。
・・・
と、気がつけば私はベッドの中であった。
カーテンごしに、朝の光が部屋に入り込んでいる。
最近、妙な夢ばかり見ているような気がする。
恐る恐る、部屋にある鏡を覗き込むも・・・。当然、映るのは私の姿である。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
8月☆日
その日は雨が降りしきる中、葬儀が行われていた。
葬儀を行う、ルゼニアさんの死者に手向けられる文言が墓地に響く。
「願わくば、死後の世界でも2人淫らに愛しあう事が叶うよう。また、生まれ変わっても2人めぐり合い、淫らに愛し合う事が叶うよう・・・。」
そんな葬儀の様子を、屋敷の窓から見ていたカルメシアは一人呟く。
「これで3件目・・・。」
雨も夕方にはあがり、夜霧が街覆うなか本屋の主人であるビブロフがその日の店じまいの準備をしていると、ある人物が近付いてきた。
「ちょっといいかしら。」
そう言ってきたのは、この街の領主であるヴァンパイアのカルメシアである。
「これはまた、珍しい御客さんじゃわい。」
カルメシアは窓越しに、夜霧の景色を見ている。そんな彼女に、ビブロフは紅茶を出しながら語りかける。
「しかし、この様な本屋に来るとは、ずいぶん変わり者のヴァンパイアがいたものじゃな。」
「変り者はお互いさまでしょ、“義父様”。」
「会う機会が少ないから、そう呼ばれるのも久しぶりじゃのう。」
「まったく、息子がヴァンパイアの元に行くからって、迷う事なく“当時の”レスカティエを捨てて親魔物領に引っ越すんだものね。」
そう言って、彼女は壁に掛けられている遺影を見つめる。
「義母様も、サキュバスになれば寿命で亡くなる事もなく、義父様と永遠に愛し合う事ができたというのに。」
「っほっほっほ、限りあるからこそ、燃え上がる愛というのもあるのじゃよ。」
そう言ったあと、2人はだまってお互いに紅茶の飲んでいる。
静けさだけが、部屋の中を満たしていた。
「まあ、いいわ。本題に入りましょう。」
そう言うと、カルメシアは今までとはうって変って、真剣な表情でビブロフに話かける。
「今起きている事件。あきらかに、教会の仕業ではないし、ましてや魔物の仕業でもないわ。」
「犠牲者の中に、人間の男がいる時点でわしもそう思う。もっとも、ヤンデレストーカーな魔物でもこの街にいれば話は別じゃがな。」
「生憎、そういった被害届は出てないわ。」
「後は、単純に怨恨か金品狙いの強盗かの・・・。」
2件目はともかく、1件目の事件に関しては、彼女自身が調べたかぎり、怨恨の類は特に見いだせなかったし、特に裕福な家庭が狙われたという訳もない。
「かつては、レスカティエの魔術師として名をはせ、ウェルスプルで教鞭を取っていた貴方なら、なにか気づいた事はないかなってね。」
「わしがレスカティエで教えていたのは、すでに形態化された攻撃魔法の類じゃよ。人々の心の闇を見通すような、占術や心理学が使えるわけでもないしの〜。」
しばしの沈黙が2人をつつんだあと・・・。
「はて・・・、レスカティエ、レスカティエ・・・。」
「レスカティエがどうかしたのかしら?」
「いや、事件とは関係ないんじゃが・・・。なにか、ここ最近レスカティエでひっかかると思ってな。」
ビブロフはしばし考え込んだあと、ふと頭を上にあげたのだ。
「そうじゃ、以前あの御嬢ちゃんが持ってきた本。あれは、レスカティエに保管されていた本を元にして作られたものじゃ。」
つづく
・・・
今日、我々に特別な任務が与えられた。
その任務というのは、一人の少女と一冊の本を親魔物領に届けるというもの。
何故、わざわざ少女をそんな危険な場所へ届けねばならないのか。どうやら、上層のとって重要な案件らしく、詳しい内容までは教えてくれなかった。
だが、命令された以上、我々はやりとげなければならない。
○日目
メンバーの一人の姿が朝から見えない。
だが、我々は歩みを止めることは許されない。捜索は行わず、目的地に向かう事にする。
少女は相変わらず、本を肌身離さず抱えている。
○日目
また一人メンバーの姿が消えた。
もしかしたら、この任務は自分が思っている以上に危険で、重要な任務なのかもしれない。だとすれば、ますますやり遂げなければならない。
重要な任務と聞いていたので、休憩のときには必ず見張りを立てていたのだが。次から、見張りを2人に増やしたほうがよさそうだ。
○日目
また一人姿が消えた。
これで5人の人間が消えた事になる。
○日目
今日は、とある宿場町にて宿を取ることにした。
その日の夜。私は人の話し声で目が覚めた。
どうやら、少女の部屋からその話し声が聞こえて来るようだ。侵入者かもしれないので、私は警戒しながら少女の部屋にむかった。
少女の部屋にいってみると、少女が本を抱えたまま、ぶつぶつ独り言を言っていた。どことなく目の焦点が合っていないようなので、所謂夢遊病なのだろうか。
しかし、私が少女の部屋の前で話し声を聞いた時は、たしかに2人いたような気がしたのだが。
○日目
野宿の最中、またも少女の独り言を聞く。
なにか同じ事を繰り返し言っているようだ。
「いぐ・・・、・・・ぐな・・・・、ないあー・・・。」
言っていたのは、こんな感じだろうか?
○日目
今日は久しぶりに野宿ではなく、屋根のある宿に泊まる。
まだ、教会の力の届く反魔物領ではあるが、魔物達の潜む親魔物領に徐々に近づいてきている。
明日は、行商・流通の要所である、川にかかる大きな橋を渡る予定だ。
○日目
今日、ついに行方が分からなくなっていた一人を見つけることになった。
その日は、川にかかる橋を渡る予定だったのだが、先日の大雨で川の水が増水し、その影響で橋の一部が欠損。危険なため、橋を閉鎖しているとの事だ。
しかたなく、我々は元来た道を引き返して先日宿泊した宿へと戻り、別な道を探さねばならなくなったのだ。
宿に戻りしばらくして、念のため宿の周囲を警戒させていた者が大慌てで宿に戻ってきた。行方不明になっていた一人を見つけたと言うのだ。
その場所に行ってみると、たしかにその人物はいた。だだし、死体となってだが。
その者は、喉を切り裂かれて死んでいたが、その手足はありえない方向を向いていた。口の周りに、巨大な手の痕がある事から、口をふさがれた状態で手足の骨を折り、逃げられない状態で喉を切り裂かれて殺されたようだ。
が、喉を切り裂かれた割に周囲に血痕は無く、殺されたあと此処に遺棄されたのだろうか?
ともかく、我々の旅にはとんでもないものが付きまとっているは確かだ。
○日目
本来の道を大きく迂回する事になったが、別な橋を渡って川を越えることができた。
私は、生きてまた故郷の土を踏むことができるのであろうか。
(しばらく、空白のページが続く。)
○日目
今日もなお、少女は一人で何かを言っている。
「イアー!イアー!シュブ=ニグラート!イグナイー!イグナイー!ナイアーラトテップ!イアハー!」
その声は、我々の人数が少なくなるに従って大きく、遠慮が無くなっているように思える。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
と、手帳はここで終わっていた。
肝心の、この街の直前の出来事が何も書かれていなかったが、あの騎士には書く余裕がまったくなかったのだろうか?
まあ、今日も遅いことだし、深く考えるのは明日にしよう。
そう結論つけると、急激な眠気が私を襲ってきた。私は、ベッドに上がり少女の隣に潜り込むと、2人でも十分拾いベッドのなか狭さを感じる事なく眠りに落ちて行っただった。
8月●日
朝になってみると、一人の魔女が慌ただしく何かの準備をしていた。
「何をやっているの?」
「あ、おはようございます。」
そう言うと、彼女は私に説明してきた。
「ちょっと、レスカティエに行ってくるようにバフォ様に言われまして。」
「レスカティエに?」
「ええ。なんでも、この街ではサバトに相応しい本が手に入らないから、レスカティエで仕入れてくるように言われたのですよ。」
そう言えば、本屋にスピリカさんの本が大量に入っていたのを、昨日バフォ様に言うのを忘れていたな。むしろ、その本の方が“今の”サバトには相応しいのかもしれない。
だが、このとき何故か私は彼女を止める気にならなかったのだ。
連絡を取れる者がレスカティエにいる。その事が、のちに重要になって来る事など、その時の私には知るよしもなかったはずなのに。
部屋に戻ると、少女が起きていた。
少々寝ぼけた様子で、何故自分が此処にいるのか把握できていないようだ。
「あ、起きたの。」
しばらくして、昨日の事を思い出したのだろうか。私の姿を見ると、挨拶とばかりに私に頭を下げてくる。
「おはよう。」
と、ここで私は重要な事を彼女から聞いていない事を思い出した。
「そういえば、貴女の名前聞いてなかったわね?」
しばしの沈黙の後、彼女はこう返してきたのだ。
「リリルルシア。」
「え?」
「リリルルシア・・・。それが私の名前。」
「もうすぐ朝食ができる事だろうから、食べにいきましょう。」
そう言って、私は彼女・・・、リリルルシアを食堂へ連れて行った。
そのとき、彼女はずっと抱えていた本を部屋に置いてきた。ほんとう、本が無いと眠れないのだろうか?
なお、食堂では、彼女の姿を初めて見た他の魔女達が、生体融合帽の新たな被害者か?
・・・などと、騒ぎ立てたので、少々実力で黙らさせてもらった。
・・・
彼女の事は、彼女の事で置いておくとして。
私は、昨日この街へきたもう一方。
教団の騎士の方を訪ねてみる事にした。もしかしたら、昨日より落ち着いて事情を聴くことができるようになっているかもしれない。
リリルルシアを一時的にであるが、サバトが引き取っている以上、彼女の事に関していろいろ事情を知っているなら聞いておきたいと思ったからだ。
ルゼニアさん・・・、まだパンデモニウムに引っ込んでないといいな〜・・・。
教会へ向かう途中、この街の警備の兵士と何度かすれ違った。
何か、結構慌てているようだったが、また何か起こったのだろうか?
教会へ行くと、建物の前にルゼニアさんがいた。
彼女は、しゃがんでおりその目の前には犬がいた。その犬は、しきりに彼女の差し出した手をペロペロと舐めている。
私としては、犬よりは猫の方が好きだったりする。黒猫は、昔から魔女の使い魔としてポピュラーなものだし。
そんな様子を見ていると、彼女の方が私に気づいたようだ。
「あら、こんにちは。」
「こんにちは。」
さっそく、私は彼女に質問してみる事にした。
「そういえば、教団の騎士はどうしました?」
「ああ、あの人ですか・・・。」
そう言う彼女はどこかバツが悪そうだった。
「どうも逃げられちゃったみたいです・・・。」
そう言って彼女はため息をついた。
ああ、だから警備の人たちが慌てていたのね。
にしても、ずいぶんとヒトゴトみたいにルゼニアさんは語るのね・・・。
8月□日
その日、私は思い切って彼女にこう切り出した。
「貴女はどうして、教会の騎士と一緒に行動していたのかしら?」
昨日の時点で、彼女はけっこう私に心を開いていると考え、思い切って聞いてみたのだ。
「ん〜、分からない。」
「あ〜、そう・・・。」
が、思う様な答えは得られなかった。
まだ、完全に気を許してないのか、それとも本当に分からないのか・・・。私には、判断がつかなかった。
そこで、私はもう一つの事を言ってみる。
「ちょっと、その本を私に見せてくれない?」
拒まれるかと思ったが、リリルルシアは以外にもすぐに本を私に渡してくれた。
あれだけ大事に持っているのだ、もしかしたら彼女の手掛かりがこの本から得られるかもしれない。
彼女から手渡されて、改めてその本をまじまじと見つめてみる。
表紙は皮でできており、それなりの重量がある。表紙の片方には、なにか記号の様な、紋章のような複雑なモノが描かれている。それは片方にしかなく、本の反対には何もかかれていない。とりあえず、こちらが表になるだろうか。
とりあえず、私はその本を読んでみる。どうやら、内容は一種の魔導書のようだ。
が、途中で頭が痛くなってきた。
魔導書の一種のようなのだが、私が扱う魔法とは系統が違うようだ。
おまけに、旧神だの大いなる種族だの、まるで聞いたことが無い事まで書かれている。これは、どこかの自称魔法使いが書いた、偽魔導書なのではないだろうか?
ん〜、本の内容から彼女の素性を明らかにするのは、無理があるようだ。
が、この本自体も気になることは確かだ。ここは、桶は桶屋に任せるのが一番かもしれない。
そう結論づけると、私は彼女を部屋に残し、サバトを出たのだ。
「で、これがその本なのですが。」
夕日が差し込む本屋の中、私はビブロフさんにその本を見せたのだった。やっぱり、本の事は本屋にまかせるのがいいだろう。
それに、ビブロフさんはその経歴から、そんじょそこらの教授連中より知識が深そうだし。
「う〜〜ん。」
しかし、彼にもこの本はよく分からないようだ。
「なんとも言えない内容じゃな。書かれている事は、聞いた事が無いような内容じゃし。」
まあ、実際にいきなりこの本の内容を信じろと言われても、無理なことばかり書きたてられている。
「が、しかし。」
「?」
「どこかで、この本の表紙の文様と似たモノを見たか、聞いたような気がするんじゃが・・・。」
「本当ですか?」
「が、今は思い出せんの〜。」
その後、私はビブロフさんがこの本に関してなにか思い出したら、サバトに連絡をくれるという事だけ話し合って本屋を出たのだ。
結局、私は遅い時間帯にサバトに戻った。
が、部屋に戻ってみるとリリルルシアがいなかった。
彼女は、私が連れ出さないと部屋にずっと居ると思い込んでいたが、どうやらそうでもないらしい。
私は、サバト内を探し回ったのだがリリルルシアを見つけることはできなかった。が、半ばあきらめる形で自分の部屋に戻ると、ベッドの上で彼女は寝息をたてていた。
「まったく。人の事を心配させて・・・。」
彼女を探して夕食を食べ損ねたが、眠気に勝てず私もベッドに入ることにした。
8月■日
次の日になって、街は大騒ぎに包まれていた。
聞いた話によると、街でとある一家が惨殺されたと。
犯人はいまのところ不明。現場は、燦々たるものだったらしい。
私は、その日はリリルルシアから借りた本を読んで過ごした。
しかし、この本の不親切極まりない書き方ゆえに、読み進むのに苦労することこのうえない。
初めから読んでいたはずなのだが、いきなり遥か先のページを参照するよう指示されたかと思えば、また急激逆戻りのページを指示される事などざら。
ページの参照を無視して、1ページずつ読んだとしても、まるで内容がつかめない。
まあ、他の本を参照せよと書かれていない分、ましなほうかもしれない。
おかげで、この本を読んでいただけで、1日がつぶれてしまった。
今日も、リリルルシアが先にベッドに入って眠っていたが、本は私が遅くまで読んでいたため、当然彼女の手にはない。
が、当の彼女はそれを気にする様子もなかった。
別に、本が無くとも眠れるようである。
結論から言うと、私はその誇大妄想じみた内容から、本は読めばするも、その内容を理解することはできなかったと言っておく。
その日の夜、なにか恐ろしい夢を見よう様な気がするのだが、朝になると覚えていなかった。
8月◇日
その日、またも街で死体が発見された。
ちかごろは、随分と物騒になったものだ。
一方の私はというと・・・。
その日も、本と格闘してたとだけ言っておく。
その日見た夢は、あまり心地よいものではなかった。
まるで、何かが私の意識を浸食して行くような・・・。私が、私でなくなっていくような感覚をありありと感じさせるようなものだった。
8月◆日
北に位置するこの地方では、8月の終わり辺りから急に気温が下がり始める。
早い冬にそなえ、私達のサバトでは服の衣替えや、ほこりのつまった暖炉の掃除で大忙しだ。
街でも、秋の収穫の始まりをつげるお祭りの準備にいそがしい。
そんな日の夕方だった、街の領主がこのサバトを訪れたのは。
「教会の騎士が流れ着いた件から、2件の殺人事件。全て、貴女達のサバトが来てから起きてるわよね?」
開口一番、彼女はそう言ってきたのである。
「まあ、2件目の殺人事件はいいとしてもね。」
「2件目は特別なんですか?」
「ええ。2件目は、どうやらこの街に忍び込んできた教会のスパイだったようだし。」
この街の者でなければ、特に気にしにないのであろうか?
「どうやら、黒焦げになってはいたけれど、電撃にやられたものだった。でも、その日は一日中晴れ、夜も星空がきれいだったし、落雷が起きるような天気ではなかった。だから、てっきり教会のスパイに気づいた貴女達が魔法で始末したのかと。」
いくら相手が教会の人間とはいえ、いきなりそんな事はしたりはしない。
いや、むしろ魔物娘なら“そんなもったいない事はしない”と、言ったほうがいいか。たいていなら、相手を婿候補として確保してしまうと言った方がいいか。
それでも相手を殺してしまうと言う事は、それだけ相手が強いという事だろうか。
「雷系の魔法にやられたからといって、魔女がやったとは限らないでしょ?人間同士の争いって可能性もあるし。」
「まあね、とりあえずそれらしい所を、いろいろと回っている所なのよ。」
さらに彼女はこう付けくわえた。
「親魔物領の端にあるとはいえ、今までは大きな事件もなく、この街は平和だったのよ。」
が、いきなり2件の不審死事件が起きた。
「1件目の手掛かりが何も見つからないまま、2件目が起きてしまった以上、私も動いている事を街の者達にみせないとね。」
どうやら、2件の事件のせいで、屋敷で黙々と仕事をこなしているだけでは、街の者が納得しないという事か。
結局、彼女はバフォ様に会うこともなく、私と話をしただけで帰って行った・・・。
なんか、情報をあっさり教えられたりと、サバトをただ働きさえるために、たきつけているようにしか思えないし。
「けど、ここで領主殿の思惑どおり事件を解決すれば・・・。安定して、ここにサバトを置けるかもね・・・。」
毒を食らわば、皿まで。しょせん、蛇の道は蛇である。
なんか、違うような気もするけど・・・。
・・・
私は、誰もいないサバトの中を一人歩いていた。
どこか、客観的な意識がこれが夢だと悟らせていた。
屋敷の中を歩いているのだが、それが自分の意志なのか、無意識なのか分からない。まるで、私が操り人形にでもなっているかのような気分だ。
ふと、廊下の壁に姿見が立てかけてあるのが気づいた。
私は、吸い込まれるようにその姿見に向かって歩いてゆく。
そして、その姿見の前に立った私が、鏡の中に見た姿は・・・。
・・・
と、気がつけば私はベッドの中であった。
カーテンごしに、朝の光が部屋に入り込んでいる。
最近、妙な夢ばかり見ているような気がする。
恐る恐る、部屋にある鏡を覗き込むも・・・。当然、映るのは私の姿である。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
8月☆日
その日は雨が降りしきる中、葬儀が行われていた。
葬儀を行う、ルゼニアさんの死者に手向けられる文言が墓地に響く。
「願わくば、死後の世界でも2人淫らに愛しあう事が叶うよう。また、生まれ変わっても2人めぐり合い、淫らに愛し合う事が叶うよう・・・。」
そんな葬儀の様子を、屋敷の窓から見ていたカルメシアは一人呟く。
「これで3件目・・・。」
雨も夕方にはあがり、夜霧が街覆うなか本屋の主人であるビブロフがその日の店じまいの準備をしていると、ある人物が近付いてきた。
「ちょっといいかしら。」
そう言ってきたのは、この街の領主であるヴァンパイアのカルメシアである。
「これはまた、珍しい御客さんじゃわい。」
カルメシアは窓越しに、夜霧の景色を見ている。そんな彼女に、ビブロフは紅茶を出しながら語りかける。
「しかし、この様な本屋に来るとは、ずいぶん変わり者のヴァンパイアがいたものじゃな。」
「変り者はお互いさまでしょ、“義父様”。」
「会う機会が少ないから、そう呼ばれるのも久しぶりじゃのう。」
「まったく、息子がヴァンパイアの元に行くからって、迷う事なく“当時の”レスカティエを捨てて親魔物領に引っ越すんだものね。」
そう言って、彼女は壁に掛けられている遺影を見つめる。
「義母様も、サキュバスになれば寿命で亡くなる事もなく、義父様と永遠に愛し合う事ができたというのに。」
「っほっほっほ、限りあるからこそ、燃え上がる愛というのもあるのじゃよ。」
そう言ったあと、2人はだまってお互いに紅茶の飲んでいる。
静けさだけが、部屋の中を満たしていた。
「まあ、いいわ。本題に入りましょう。」
そう言うと、カルメシアは今までとはうって変って、真剣な表情でビブロフに話かける。
「今起きている事件。あきらかに、教会の仕業ではないし、ましてや魔物の仕業でもないわ。」
「犠牲者の中に、人間の男がいる時点でわしもそう思う。もっとも、ヤンデレストーカーな魔物でもこの街にいれば話は別じゃがな。」
「生憎、そういった被害届は出てないわ。」
「後は、単純に怨恨か金品狙いの強盗かの・・・。」
2件目はともかく、1件目の事件に関しては、彼女自身が調べたかぎり、怨恨の類は特に見いだせなかったし、特に裕福な家庭が狙われたという訳もない。
「かつては、レスカティエの魔術師として名をはせ、ウェルスプルで教鞭を取っていた貴方なら、なにか気づいた事はないかなってね。」
「わしがレスカティエで教えていたのは、すでに形態化された攻撃魔法の類じゃよ。人々の心の闇を見通すような、占術や心理学が使えるわけでもないしの〜。」
しばしの沈黙が2人をつつんだあと・・・。
「はて・・・、レスカティエ、レスカティエ・・・。」
「レスカティエがどうかしたのかしら?」
「いや、事件とは関係ないんじゃが・・・。なにか、ここ最近レスカティエでひっかかると思ってな。」
ビブロフはしばし考え込んだあと、ふと頭を上にあげたのだ。
「そうじゃ、以前あの御嬢ちゃんが持ってきた本。あれは、レスカティエに保管されていた本を元にして作られたものじゃ。」
つづく
13/05/09 08:04更新 / KのHF
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