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番外編 第3話「魔導書」
9月○日

 最近になって、ようやくリリルルシアが口を開いてくれるようになった。

「バフォメットが、貴女の事を呼んでいる。」

 で、さっそくバフォ様の部屋に向かってみる。と、どうやらレスカティエに向かった魔女から、初めて連絡が着たようだ。

 ビブロフさんから、リリルルシアが持っていた本の記録をレスカティエで見たことがあると聞いて以来、ずっとレスカティエから連絡を待っていたのだ。
 が、まさかこれほど時間がかかるとは・・・。これなら、連絡を待たずに私から行った方が早かったかも・・・。

 バフォ様の部屋では、水の張ってある大きな盆を使ってバフォ様と魔女が連絡を取り合っていた。水面には、レスカティエにいる魔女が映っている。

「それが、レスカティエには箒でひとっ飛びですからね〜。すぐに着くことは着いたのですが・・・。」
「その割には、連絡までだいぶ時間がかかったようじゃの〜。」
「それが・・・。」

 水面に映る彼女の顔は、どこかバツが悪そうである。

「一応、この国の女王様に挨拶しておこうと、城に向かったのですが・・・。そこから脱出するのに、だいぶ時間がかかってしまいました。」

 そういう彼女の肌は、どこかツヤツヤしている気がする。

「そんな事はどうでもいいわ。」
「ムギュ〜。」

 そう言って、私はバフォ様を押しのけ彼女との会話に割り込んでいった。

「貴女の居ない間に、こっちでは大変な事が起こっているのよ。」
「何か事件でもあったのですか?」
「ええ・・・。だから、貴女にそっちで調べてもらいたい事があるのよ。」



・・・



「そんな事が起こっていたのですか・・・。」
「ビブロフさんが言うには、例の本は今から数代前の魔王が、勇者に対抗するために異界の知識を得ようと、この世界に召喚した本を元にして書かれたらしいの。」
「数代前の魔王ですか?」
「ええ。」
「でも、なんで魔王が持っている本がレスカティエに?」
「理由は簡単。その魔王を倒した勇者というのが、レスカティエ出身だったのよ。」
「なるほど。」
「勇者が持ち帰った魔王の遺物の中に、その本があったらしいわ。その後、その本はレスカティエで翻訳作業に取り掛かれたらしく、それらを元にして件の本が作られたらしいのよ。」
「分かりました。それじゃあ、そこら辺の事はお任せ下さい。なにしろ、魔界に堕ちてからは、そういった国家機密系のものはあまり重要視されなくなっていますからね、昔に比べてだいぶ調べやすくなっていると思いますから。」

 まあ、今のレスカティエにとって、せいぜい夜の生活に関する事が最重要機密で、それ以外はおざなりになっているのだろう。



・・・



 この街の領主である、ヴァンパイアのカルメシアは椅子に腰かけながら、夫に肩を揉ませていた。

「このところ、立て続けに事件がおきて、妙に肩が張ってしまうわね。」

 彼女の肩を揉みながら、執事服の彼女の夫が話かける。

「しかし、例の変死体がよく教会のスパイだと分かりましたね。」
「ここは、反魔物領に隣接する街だからね、そういった連中が越境した場合、情報が入って来るようになっているのよ。」
「なるほど。」

 具体的にどういう仕組みなのかは、あえて聞かなかった。

「しかし、今回はまいったわ。1件目に続き、2件目の事件かと現場に行ってみれば、件のスパイが死体になっているのだからね。」
「そういえば、スパイは何の目的でこの街へ?」
「さあ?」
「え?知らないのですか?」
「私はただ、凄腕の要注意人物が入り込んだと聞いただけよ。」
「そうなのですか。」
「例の失踪した騎士といい、死んだスパイの目的といい、こちらも何かしら探りの手を打ったほうがいいようね・・・。」

 スパイの目的も気になるが、彼女には別に気になる事があった。
 この街に来た教会のスパイは、彼女が聞いた話では“凄腕の”要注意人物であるらしい。だとしたら、それだけの人物を殺害できる者がこの街にいる事になる。

「私に、戦闘の気配すら感じさせずに、街中でどうどうとスパイを殺し、死体を隠す訳でもなくさらしていく殺害者か・・・。」

 最初は、この街のサバトの連中かとカマをかけてみたが、どうやら違ったようだ。
 しばし彼女は考えを巡らせると、夫にこう言ったのだ。

「そろそろ収穫の時期だけに、行商人の例の刑部狸が来る頃だわ。彼女に、頼みごとをしてくれないかしら?」
「はい。」

 そう言って、彼女の夫は部屋から出て行った。
 その間も、彼女は考え事をしていた。考えている事は、むろん今までの3件の事件である。
 周囲には公表していないが、1件目と3件目には共通した奇妙な点が在る。
 それは、死体は共通して喉を切り裂かれているにもかかわらず、周囲にまるで血痕が無かった事。かといって、死体をどこからか運んできて、その場に遺棄されたような形跡もなかった。
 先代以前の魔王時代のヴァンパイアなら、血を吸いつくして殺すような事もできたかもしれないが・・・。今の時代に、その様な犯行を行うモノ・・・。いや、その様な犯行を行えるモノがいるのだろうか?



・・・



「しかし、この様な本をお主が持っておったのか。」

 そう言って、バフォ様はリリルルシアが持っていた本をまじまじと見つめていた。
 よくよく考えてみれば、この本の事をバフォ様に全く相談していなかった。

「どれどれ?」

 そう言って、バフォ様はページを捲り軽く流し読みをしたのだが・・・。
 が、その感想と言うのが・・・。

「しっかし、よくわからん文字の羅列やら記号でいっぱいじゃのう・・・。」

 まあ、うちのバフォ様の場合、魔法を使うにしても論理や構造、法則を駆使して魔法を発動させるのではなく。圧倒的な魔力でもって、因果律を捻じ曲げ無理やり事象を引き起こすタイプだ。
 なので、魔法や魔術の類の論理がびっしりとつまっているこの手の本を読むのは苦手なはずだ。

「しかし、なにか上手く言い表せない何かを感じるの〜。ちょっと、ワシにこれを預からせてくれないかの?」

 と、言いだしたのは、以外だった。



9月□日

 最近、バフォ様の様子がどことなく変なのだ。
 食事中にぼ〜っとしていたり、なんとなく元気が無いような気がしたり、ときどき頭をかかえて唸っている事もある。

 一方の私はと言えば・・・。
 すこぶる体の調子が良い。リリルルシアとの関係も、良好と言えるだろう。
 そういえば、バフォ様に本を渡して以来、妙な夢を見なくなった。一体アレはなんだったのだろうか?



・・・



 町では、立て続けに起こる事件への対策の一環として、警備の強化が行われていた。この、デュラハンとリザードマンの2人も、警備強化のために狩りだされた者達。

「こうやって、夜にばかり狩りだされてると、強そうな相手(男)に会えないのよね〜。」
「まあ、そんな事を言わないの。これも、街を護るりっぱな役目なのだから。」
「貴女は、根っからの騎士だからいいわよね〜。」

 そんな会話をしていたときだった・・・。

「うわあぁぁぁぁぁぁ!」

 どこか遠くで、悲鳴のような声が上がったのだ。

「え?」
「なに?」

 二人は顔を見合わせると、声のした方へと一目散に駆けだした。



・・・



 街でそのような出来事が起こっていたとき、私はレスカティエにいる魔女から連絡を受けていた。

「例の本の事を調べていたら、妙な事が出てきました。」
「妙な事?」
「はい。」

 そう言って、水面の向こう側で彼女はごそごそと何かをあさっている。

「んと、例の本を呼び出した魔王ですけど、どうやら勇者に倒されたというのは、正確ではないようです。」
「どういう事?」
「重要機密文書に記されていた事なのですが、どうやら勇者がその仲間達と共に魔王の城に乗り込んでみたら、城はものけの空だったそうで。」
「空っぽ?」
「ええ、当時の魔王はおろか、配下の魔物たちの姿すらまったくなかったようです。」

 その魔王は、勇者を倒すために異界の知識を欲しただけに、いざ勇者が来たことで弱腰になって逃げたのだろうか?

「実際には、勇者達が魔王の城にたどり着けたのも、魔物達の力が弱まり、城への防備が弱まっていたかららしいです。」
「どういう事?」
「どうやら、勇者が魔王の城に着くだいぶ前に、魔王と魔物達をつなぐ魔力リンクが切れていたみたいです。」

 やっぱり、魔王は勇者と戦う事が怖くなって逃げ出したのだろうか?
 いや、それだと魔力リンクを切る説明がつかない。勇者から逃げるにしても、当時の魔王だったら魔力リンクを残し、魔物が強い方が勇者から逃げる時間稼ぎにもなるはずだし。

「結局、魔王と戦いそこねた勇者達は、城を探索して得た魔王の遺物(?)を持ってレスカティエに帰還したそうです。」
「・・・」
「その後、魔王によって力を得ていた当時の魔物達の勢力も急激に弱まり、魔王が本当にいなくなったと考えた当時のレスカティエは、そのまま勇者が魔王を倒した事にしたようです。」
「まあ、魔王がかってに居なくなったというよりは、自国の勇者が魔王を倒したって事にした方が、国威になはなるからね。」
「で、その勇者が持ち帰った魔王遺物の本なのですが・・・。」
「ふむふむ。」
「レスカティエに所属していた、シュリフトという名の魔法使いが翻訳をこころみたようですね。」
「シュリフト?」
「ええ。そういう名前の魔法使いだったようです。」

 シュリフトとは、あまり聞かない名前だと思った。まあ、魔法使いと言っても、いろいろある。目立つ功績がなかったり、一人で研究に没頭していたりと、能力があっても名前が表に出てこない者も多くいたりするのだ。

「まあ、現時点で分かっているのはこれだけですね。」



・・・



「なんなのよ・・・、こいつ・・・。」

 悲鳴を聞いて駆け付けたデュラハントと、リザードマンの二人の前には、文字通りの化け物がいた。

 その顔は、鰐のように巨大な口以外のパーツは見当たらず、その口は巨大な牙がきれいに整列している。目は、顔のどこかにあるのだろうが、口を大きくこちらに向かって開けているため見つけることはできなかった。手足は巨大で、ともに鋭い爪を備えているが、対して胴体部分は貧弱な程小さいように見えた。その全身は、皮膚が無いのか、蠢く筋肉が直接見てとれた。
 その爪には、どこかで獲物でも捕えたのだろうか、真新しい血がこびりついているのが見て取れた。

 対峙する二人は、ふと子供の頃を思い出していた。子供の頃に、興味本位で呼んだ本にこんな化け物の挿絵が乗っていた気がした。その本は、先代の魔王の時代をイメージして書かれていた本だったっけ。
 だけど、目の前にいるのは想像ではなく、まぎれもない現実。
 その目の前の化け物からは、くぐもった声が聞こえる。

「イグナイィィ・・・、イグナイィィィ・・・。」

 そのくぐもった声は、ひたすらに同じ事を繰り返し唱えているかのようでもあった。
 その化け物の爪が横薙ぎに一閃する。

 その一閃を受け、デュラハンの首が横に飛ばされ、頭が壁に叩きつけられる。

「痛い〜、けど、デュラハンじゃなかったら死んでいたぜ。」

 そう言っている傍から、残された体の首から、どんどん魔力が抜けていく。

「わ〜、戻して戻して!」

 側にいたリザードマンが、慌ててデュラハンの頭を拾い、そのまま体に付ける。そのとき、リザードマンはデュラハンの体の近くにあった家の壁を見た。そこには、まるでスコップで砂をすくい取ったかの様にえぐれ、穴のあいた壁があった。デュラハンの首がとばされたとき、その勢いのまま、化け物の腕は家の壁を抉っていたようだ。本当に、デュラハンでなかったら死んでいたようである。

「ふ〜・・・、ちょっと魔力が漏れちゃったけど、意識が変になる程じゃなくてよかったわ〜。」
「って、のんびりしている状況じゃないでしょ!」

 と、二人が辺りを見渡すと。件の化け物の姿は消えていた。

「「あ〜〜〜!逃げられた〜〜〜!」」


・・・



 なにやら外が騒がしい。
 私は、近くにいた魔女に話を聞いてみた。

「何かあったの?」
「どうやら、また犠牲者が出たらしいですよ。」

 どうやら、4件目の事件が起きてしまったようだ。

「そういえば・・・。」

 私は彼女の姿を求めて、サバトを歩きまわった。そして、一通り巡って、ようやく事態に気がついたのだ。

「リリルルシアがいない!」



・・・



「いたか?」
「いや。」

 デュラハンとリザードマンは、逃げた化け物を追っていた。
 あの後、2人に対峙した化け物は、戦うことなく踵を返して2人の前から逃走したのだ。

「ん?」

 と、そのとき、リザードマンが物陰で動く影を見つけ、それを無言で相方のデュラハンに伝える。
 デュラハンも、その意図に気づき無言で答える。

 そして、二人で警戒しながら物陰を除くと、そこにいたのは・・・。



・・・



 私が、サバトでやきもきしていると、警備のデュラハンとリザードマンに連れられたリリルルシアが帰ってきた。
 どうやら、街を一人でうろついていた所を保護されたらしい。

「もう、心配かけさせないでよ。」

 そう私が言うと、リリルルシアは妙な事を言ってきたのだ。

「声が聞こえたの・・・。」
「声?どんな?」
「分からない・・・。でも、たしかに聞こえたの。」

 声とは、リリルルシアは一体なにが聞こえたというのだろう?

「声が聞こえてきたら、急に眠くなって・・・、気がついたら警備の2人が私を見つけたの・・・。」

 リリルルシアが聞いた声の事は一先ず置いておいて、彼女が無事に帰ってきたことを素直に喜ぶことにした。



9月△日

 事件が起きた翌日。
 とうとう、街に夜間外出禁止令が出された。
 以降は、夜中に買い物ができなくなるので、買い物は昼にすませる事になる。商店街で私が買い物をしていると、ルゼニアさんと出会った。

「夜間外出禁止だなんて、これじゃあ夜中にナンパされることができなくなるじゃないですか。」

 相変わらず、ルゼニアさんの口調はのんびりだ。

「2件目の被害者といい、この事件の犯人はまるで見境がないのかしら。」

 そういえば、4件とも被害者は人間だった。もっとも、被害者達に人間であること以外の共通点が見られないのも事実。ここは新魔物領だけに、それだけに魔物の住民もそれなりにいる。むろん、私もその一人なのだが・・・。人間だけを狙うとは、犯人はいったい何を考えているだろうか?



・・・



 サバトに戻っても、噂に上るのは事件の話が多い。
 事件と言えば、サバトの魔女の一人が、ご近所の噂好きの奥さま方からなにやら話を聞きつけて来たようだ。

「近所の奥さまの知り合いの、知り合いの、知り合いの・・・、の知り合いが事件の第一発見者のようでしてね。」
「それ、ほとんど他人じゃない・・・。」

 しかし、その魔女は私のツッコミを無視して話を続ける。

「なんでも、被害者は喉を切り裂かれて死んでいたようです。」
「喉を切り裂かれてね〜〜〜。」
「しかし、現場にはまったく血痕が無かったらしいですよ。おかげで、最初は死んでいるとは思わなくて、複数人の酔っ払いが道端で寝ているとしか思わなかったそうです。で、道端で寝ているのと注意しようと近づいていき、死んでいるのが分かって思わず声を上げてしまったようです。」

 しかし、複数の人間の喉を切り裂く犯行を行っているのだから、当然返り血を沢山浴びただろう。しかし、そう言った怪しい人物を見たという話は全く無い。
 3件の不審死事件や、教会の騎士が街の付近で発見される事もあったせいで、街の警備はかなり厳重になっている。そんな中、犯行を行い、なおかつ死体も遺棄するとは、犯人は警備を掻い潜るプロなのだろうか?



・・・



 今日、はじめてリリルルシアと一緒にお風呂に入った。
 やっぱり、裸と裸の付き合いというもの、大事なスキンシップだと思う。

 座っている彼女の後ろで、私はシャンプーで髪を洗っている。なんだか、こうしていると自分に妹ができたような気がする。
 まあ、身長は少しばかり彼女の方が高いけど・・・。

「それじゃあ、次は前の方ね。」

 そう言って、彼女の前に回って初めて気づいた事があった。

「ん?これは?」

 よく見ると、彼女の胸の辺りにアザ?の様な模様がある。
 しかし、そのアザの模様、どこかで見たことがあるような・・・?

「あ!」

 そうだ、この模様は、本の表紙にあったのと同じ模様だ。

「貴女、このアザ(?)っていつからあるの?」
「ん〜・・・、分かんない。」

 まあ、そうなるのは分かっていたけれど・・・。



9月●日

 レスカティエに滞在している魔女から、連絡が来た。どうやら、本に関して新しい事実を掴んだようだ。

「今度は、シュリフトに関して妙な事実が出てきました。」
「今度はなに?」
「本の翻訳を担当していたシュリフトですが、未知の言語なだけに、本に所々乗っている図形等を元に、文字の翻訳ではなく異界の魔術の研究を中心に行っていたようですね。」

 まあ、もともとこの世界の物ではない本なのだ。言語が違っていて当然なのだから、この世界の言語と、本が在った世界の言語を比較できるような物でもないと、手出しのしようがなかったのだろう。

「ですが・・・。ある時を境に、本に書かれている言語の翻訳が、急激に進展したようなのです。」
「ある時?」
「はい。当時、シュリフトには妻と娘がいたのですが・・・、この2人が惨殺される事件が起きまして、このときを境にシュリフトは研究にのめり込んでいったようです。」
「・・・」
「そして、ある日、自身の部屋で死んでいるシュリフトが発見されたのです。」
「死んでいた?」
「ええ。シュリフトの様子を心配した同僚が部屋を訪ねると、椅子に腰かけ、机に例の本を広げたまま死んでいるシュリフトが発見されたようです。そして、傍にはそれらの本を元に書きあげたのであろう、一冊の本が置かれていたそうです。」
「その本が・・・。」
「はい。例の少女が持っていた本のようです。」

 単純に考えれば、家族の死をきっかけに本の翻訳にのめり込んでいき、最終的には一つの本を作りあげて力尽きたと言ったところか・・・。
 でも、私の直感が、なにか違う気がすると言っている。
 これは、一体なんなのだろうか?

「あと、シュリフトや本に関する記録と共に、シュリフトが翻訳作業中に書いていたと思われるメモが残されていました。」
「メモが残されていたの?」
「ええ。正確には、シュリフトが解析中に残したメモの断片です。劣化が激しくて、全て正確には残されてはおりませんでしたが・・・。とりえず、読める分を読みますね。」

『言語が通じなくても、テレパシーでイメージなら通じるだろう。』
『挿絵の図形から魔法陣を組み立てる。が、まだ何か足りない。』
『“外なる神の従者”の召喚に成功すれば、本の言葉を知る手掛かりになるのだろうか。』

「っと、これらがシュリフトの妻と娘が殺される前の書かれた者ですね。」
「書かれた時期が分かるの?」
「ええ。だいたい2か所に分かれて保管されていたので。それで、次からのが事件・・・、つまりシュリフトの妻と娘が殺された後に書かれたメモですね。」

『本に書かれている世界の、砂漠で崇拝されている神々。』
『赤の王女・・・アトゥ・・・暗黒のファラオ・・・湧き上がる恐怖・・・』
『角を持つ男・・・嘆きもだえるもの・・・膨らんだ女・・・闇に棲みつくもの・・・』

「あと、事件後のメモによると、魔法使いシュリフトが翻訳していた本は、異界の言葉で『妖蛆の秘密』と『魔術の真理』と呼ばれるもののようですね。」
「妖蛆の秘密?魔術の真理?」
「ええ。レスカティエに僅かに残されていた、シュリフトのメモの断片にはそう書かれています。それと・・・。」
「それと?」
「以前に、見せてもらった本ですが。」
「ああ、リリルルシアが持っていた本の事?」
「ええ。その本に表紙に書かれている、紋章の事も資料の断片にありました。」

 そう言って、彼女は向こうでごそごそと何かを探しているようだ。
 しばらくして、彼女は紙キレを見ながら話してくる。

「どうやら、その紋章は『輝くトラペゾヘドロン』と呼ばれるモノを、この世界の魔法に応用し、魔法陣に簡易化したものらしいです。」
「何それ?」
「さあ、私にもよく分からないです。ただ、それに関するメモらしき物がありましたが・・・。」
「どうしたの?」
「名前がでてきただけで、それの正体に関するものではなさそうです。」

 そう言って、彼女はそのメモを読み始める。

「ええと・・・、『輝くトラペゾヘドロンよ、かの者に我が生贄を届けさせたまえ。這い寄る混沌よ、無貌の神よ、千の顔と仮面を持つ者よ、我が生贄を受け取りたまえ。イグナイイ、イグナイイ、ナイアーラトテップ、イアハアアア。』と、書いてありますね。」
「生贄とは随分と物騒なものね。」
「それに、このナイアーラトテップという言葉。何を意味するのか分かりませんが、事件前のメモには出てこないのですが、事件後のメモには頻繁にでてきますね。もっとも、そのほとんどが、何が書かれているのかさっぱりわからないものですが。」

 いったい、当時のレスカティエの魔法使いは何を考えていたのだろうか・・・。
 しかし、つい先ほど、彼女が読んだメモに残されていた呪文のような言葉。あれは、騎士が残した手帳に残されいた言葉そのものではないか?

「ああ、それと・・・。」

 そういって、彼女は何人かの人物が描かれている肖像画を見せてきた。

「これは、シュリフトの一家の肖像画だそうでして。んと・・・、この人物がシュリフトですね。」

 そう言って、彼女が指差した人物を見て、私は思わず息を飲んだ。
 なぜなら、その人物とは、以前私が夢でみた鏡の中に映っている人物その人だったからだ。


つづく
13/10/02 10:02更新 / KのHF
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■作者メッセージ
以下は、作品の雰囲気をぶち壊しまくりの、とあるクトゥルフTRPGのお話。

バフォ様(GM)「それはそうと・・・。」

魔女(探索者)「何ですか?」

バフォ様「お主は、少女の件を追っておるが、4件の事件は追わなくて大丈夫なのか?」

魔女「あれ?バフォ様はお忘れですか?」

バフォ様「ん?」

ヴァンパイア(探索者)「プレイヤー会話で、二手に分かれ、私が不審死事件を、魔女が少女の正体を探ることにしたという話ですわ。にしても・・・。」

バフォ様「にゅ?」

ヴァンパイア「貴女、正気度のほうは大丈夫なのかしら?」

魔女「毎晩、毎晩SUNチェックしていますからね〜。まあ、原因があの本だとは“プレイヤーは”分かり切っていますけど、探索者の方がね・・・。」

ヴァンパイア「まあ、あの手の本はへたに処分すると、手痛いしっぺ返しがあったりしますからね。」

魔女「うかつに、捨てられない・・・。」

ヴァンパイア「しかし、本を読めば、《クトゥルフ神話》技能が上がるのかと思ったけど。」

魔女「その《クトゥルフ神話》技能ですけど・・・、ペナルティである正気度の上限低下ってあまり意味のないペナルティですよね。」

ヴァンパイア「そう?」

魔女「だって、正気度の上限の低下より、正気度自体の無くなるスピードの方が圧倒的に速いし、なにより正気度の回復そのものが、あまり機会が無いことですしね。」

バフォ様「まあ、《クトゥルフ神話》技能自体、正気度を削る探索の果てに、ようやく習得するようなものじゃしの。」

ヴァンパイア「そういえば、貴女の技能ってどうなっているの?事件の調査は、私に任せると言ったけど、調査には向かない技能を取っているのかしら?」

魔女「私は一応、下記の技能があるとして、話が進んでいるようです。」

STR4  CON21 SIZ5  INT11 POW12
DEX13 APP17 EDU14
耐久力13
ダメージボーナス −1D6
武器:図鑑世界の魔法(行使)(ショットガン相当)90% ダメージ3D6(射程20m/魔術的ダメージ/1日にPOWの数値回だけ使用可能)
技能:箒の操縦50% オカルト80% 回避56% 隠れる40%
忍び歩き40% 図鑑世界の魔法(知識)51% 図書館80%
値切り25% 目星75%

バフォ様「ちなみに、一部のステータスは魔物らしさを出すためと言って、算出方法を意図的に変えてあるぞい。」

ヴァンパイア「たとえば?」

バフォ様「魔女はロリと言うことで、STRとSIZは“クトゥルフ2010”に乗っている12歳の算出と同じ2D6。魔女も魔物ということで、魔物は人間より丈夫という描写が多いのでCONは6+3D6。あと魔物娘という事で、APPは12+D6じゃ。」

ヴァンパイア「APPは最低値でも、人間の平均よりちょっと上ってことね。」

バフォ様「EDUは、サバトでいろいろと教えていると言う事で、あえていじくらなかったぞい。POWも、SUN値に直結しておるからな、これも変更はなしじゃの。魔女だけに、魔法を使うというイメージから高くしようかと思ったが違うようじゃ。」

魔女「《回避》と《隠れる》と《忍び歩き》の数値が高いのも、背が小さいからという “クトゥルフ2010”のボーナス的数値ですね。」

バフォ様「なにげに《値切り》が25%・・・。だから、お主がよく買い物に行かされる訳か・・・。」

ヴァンパイア「しかし・・・、《心理学》《言いくるめ》《説得》が素の値って・・・、どうりで事件の調査を私に渡した訳ね・・・。」

魔女「てへ。」

ヴァンパイア「てへ・・・。じゃな〜〜〜い!おまけに、《図書館》と《目星》技能がそれだけあるなら、それこそ他の魔女じゃなくて貴女がレスカティエに行けばよかったじゃないのよ!」

魔女「それに関しては、私も失敗したわ。」

ヴェンパイア「そもそも、《オカルト》がそれだけあるなら、本をみた時点でそれがレスカティエ産だと分からなかったの?」

魔女「ああ、あれは《オカルト》だけではなくて、《歴史》との組み合わせロールだったものでして・・・。私の《歴史》技能は、素の値だったので失敗してしまったのですよ。」

バフォ様「そのような調子で、よくリリルルシアをサバトまで連れて来ることができたの・・・。」

魔女「だからこそ、判定ではなくロールプレイでごまかしたのですよ。」

バフォ様&ヴァンパイア「「なるほどね・・・。」」

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