連載小説
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第6話 宝の守護者、その名はドラゴン
 砂漠の神殿に住む、アヌビスの預言書より聞かされた預言により、最後の手がかりがグルーフガスト山脈に在ることが分かった。私の度も、終わりが近づいてきているという事なのだろうか?

 最後の手がかりのあるグルーフガスト山脈への旅の途中、私には妹のエスタラニィや、ゴーストのクレミリアの他にさらに同行者が1人増えた。
 砂漠の神殿から預言を貰い、ナドバサルの案内で砂漠の出口にある街へ向う。その街で、ある人物に再会したのだ。

「よ、ようやく見つけたのだ。」
「あ、貴方はたしか・・・。」

 そう、それは以前、教会の施設跡でであったバフォメットだった。すると、そのバフォメットはいきなり私に抱きついてきたのだ。

「うぅぅぅうわああぁぁぁ。」
「ちょっと!私のお姉ちゃんに、かってに抱きついてんじゃないわよ!」

 そんな妹の抗議を無視し、バフォメットは私に話す。

「魔女が〜、魔女が皆してワシをいじめるんじゃ〜。」

 聞けば、魔女達の反発をかい、オシオキされたそうだ。てか、魔女達に反乱を起こさせるような事っていったい・・・。そんなファルーナルを見て、エスタラニィは・・・。

「ゴーストといい、バフォットといい・・・。なんで、お姉ちゃんにはこう悪い虫がつくのかしら!」

 こらこら、自分を棚におくな・・・。
 こうして、私達は4人でグルーフガスト山脈へ向かうことになったのだ。

 砂漠からグルーフガスト山脈への旅は、とても順調と言えるものではなかった。なにしろ、通り道にあたる親魔物派の国が、もともと対立関係にあった反魔物派の国との戦争状態に突入したからだ。当初は、親魔物派の国が圧していたのだが、反魔物派の国に教会から援軍が到着するとその戦力が拮抗し、戦争は長期化の様相を呈していた。
 当初は、戦力が圧倒する親魔物派の国が勝利するだろうとたかをくくっていた私達は、もののみごとに足止めを食らっていた。戦争が行われている国には入らず、国境線の街で宿を取っていたため、戦闘に巻きこまれる事はなかった。だが、戦争が長期化の様相を呈してくると、2国間の国境線は戦闘が行われる度に塗り替えられ、とてもその国を通ることはできず、私達はその国を迂回せざるをえなかった。

 結局のところ、私達がグルーフガスト山脈の麓の街に到着したのは、砂漠を出てから1カ月後のことだった。今、私達はその町で故郷から手紙を待っている。
 なにしろ、私の位置を把握していたエスタラニィがここに居る以上、こちらから手紙を出さないことには私達の所在が分からず、エレリーナさんからの情報を待つにしても、手紙の返事を待たなければいけないからだ。
 そんな状況で、手紙を出してから返事が来るまでの1週間程を、この町で過ごすことになったのだ。
 そんな状況の中、この町での1日目にちょっとした事が起こった。

「ほほう。つまり手紙の返事が来るまでの1週間、この町に滞在するという事じゃな。」
「そうなるわね。」

 戦争中の国を迂回するために、けっこうなペースで道を進んできた私達にとって、それは久々にゆっくりできる時間でもあった。
 そんな中、私はファルナールに気になっていることを聞いてみた。

「で、貴方はサバトに顔を出さなくても大丈夫なの?」
「別に気にすることはないじゃろう。ワシの所の魔女は優秀じゃからな、今のところ魔女達の方から連絡ないところを見ると、大した問題も起きていないということじゃろう。」
「連絡がこないもなにも、貴方サバトに今の位置を連絡してないでしょう・・・。」
「・・・。そういばそうじゃったな・・・。」

 これなんだから・・・。

「魔女達の苦労がよく分かるわ・・・。」
「ええ、まったくその通りですわ。」

 と、その声は唐突にファルナールの背後から聞こえてきた。

「のわああぁぁぁ。」

 突然の声に驚き、ファルナールが慌て飛びのく。ファルナールの背後には、一人の魔女が立っていた。

「イエル!お主は毎度毎度、ワシを心臓発作で殺す気か!」
「めっそうもございませんわ。」

 どうやら、その魔女はファルナールのサバトの一員らしい。

「しかし、家出しても直ぐに戻って来ると思ってましたら、1カ月も戻ってきませんし。しかたがないので様子を見に来てみれば、他人様の御厄介になっているとは・・・。」
「お、お主はどうやってワシの居場所を・・・?」
「それは、もちろん把握しておりましたわ。なにせ、ファルナール様をオシオキしたときに、その位置を把握するためのマジックアイテムを付けさせていただきましたから。」
「なあああぁぁぁあ?」
「うふふふ」
「いったい何処に取りつけたというんじゃ!」
「それは企業秘密でございますわ。」

 うわぁ、この魔女さらりと恐ろしい事を言ってのけたよ。って、あれ?この状況、なんか私とかぶってる?
 すると、その魔女はこちらの方を向いて自己紹介をしてきたのだ。

「はじめまして。私はイエル。ファルナール様の、サバトの魔女達のまとめ役をさせていただいております。この度は、ファルナール様がお世話になっております。」
「ああ・・・。私はルシィラといいます。」

 こうして、お互いの自己紹介が終わったところで・・・。

「さあて、ファルナール様。うちの魔女達も心配しておりますし、この方のお手伝いをする前に、一度サバトにお戻りになってもらいますよ。」
「ん?ワシがこ奴等の度に同行するのは、止めはせぬのか?」
「別に。それでファルナール様の気晴らしができるのであれば、部屋にこもって変な事をされるよりは、よっぽど健善的ですから。」
「ほうほう。なかなかワシの事がよく分かるヤツじゃの。」
「で、先ほど聞かせていただいたように、ルシィラ様達は1週間程この街に滞在するのでしょう?ならば、その間だけサバトに戻っていただきます。」

 そう言って、イエルはファルナールをムンズと掴む。

「しかし・・・」
「はい?」
「お主とワシは、そう背丈は違わぬのに、どうしてワシを小脇に抱えることができるのじゃ?」
「さあ?」

やがて、イエルの足元に魔法陣が出現し、そのまま姿が消えてしまう。おそらく、ファルナールのサバトにでも帰ったのだろう・・・。

 その後、私達は故郷に出した手紙の返事が来るまでの間、この街でグルーフガスト山脈に有るはずの、魔剣の手がかりに関する情報を手分けして探した。その日のよる、宿屋の部屋でその日の成果を話していると。

「そっちでも聞けたの?」
「ええ、グルーフガスト山脈に眠る宝の話。」
「こっちも、何でもグルーフガスト山脈の山の一つ、その頂上近くに洞窟が在って何人もの探検家やら、冒険者やらが探しにいったらしいけど帰って来たものは少ないとか。」
「洞窟には恐ろしいバケモノがいて、宝を護っているそうよ。そのバケモノが、預言者が言っていた“番人”なら、その宝の中に手がかりがあるのかも。」

 どうやら、次に目指す場所はその宝が眠る洞窟になりそうだ。

 それから4日後のこと。私の元に、エレリーナさんから手紙が届いたのだ。
 その手紙には、魔剣に関して重要な事が分かったと書いてあった。さらに、最後の手がかりを探すにあたり、同行したいので、その街で合流するまで待ってほしいとも書いてあった。

「どうしたの?」
「エレリーナさんがこっちに向かっているみたい。」

 どうやら、彼女は飛行船を使って近くの街へ行き、そこからは馬車を使って来るようだ。

「飛行船か〜〜。」

 エスタラニィはそうつぶやいていた。
 飛行船か〜、私も一度乗ってみたいな。何しろ、今まで私が探索してきた場所は、魔界化したダスクハイムに、砂漠のド真ん中の神殿、最後は紛争地帯と、飛行船の航路からハズレまくりの場所だったからな。

 ちなみに、ファルナールは、エレリーナさんと合流するより一足早く戻ってきた。本人いわく・・・。

「当面の指示は出してきた、これでしばらくはお主達を一緒にいても大丈夫じゃろう。」

 との事。
 そして、その日の夕方。エレリーナさんの乗った馬車が到着したのだ。

「エレリーナさん、お久しぶりです。」
「ルシィラさんもお元気そうで。およそ半年ぶりかしらね。」
「エレリーナさんっ、久しぶり。」
「エスタラニィちゃんも、無事お姉さんと合流できたのね。」
「うん。」
「で〜。こちらの方は?」

 そう言って、エレリーナさんはファルナールの方を見る。

「よくぞ聞いてくれた。ワシこそは、偉大なるバフォメットが一人、ファルナールなのじゃ。」

 そう言って、踏ん反りかえるファルナール。

「これはこれは、私はダークプリーストのエレリーナと申します。ファルナール様。」
「“様”はいらんぞい。」
「ではファルナールさん。」
「っはっはっは。」

 そんなやり取りをしていると、私の体からクレミリアが出てきた。

「ほうほう、あなたが噂のエレリーナさんなのですね。」
「え〜と、あなたは?」
「クレミリアで〜す。見た目どおり、ゴーストをやっております。」
「まあ、エレリーナです。しかし、“噂”と言うのは?」
「それはね、ルシィラさんが言っていたのですが、敵に回すと怖・・・。」
「わ〜!わ〜!」
「はい?」

 まったく、なんて事を言うのだこの娘は!

「しかし、ルシィラさん酷いです・・・。」
「え?」
「エレリーナさんが知らなかったって事は、私の事を手紙に書いてなかったって事じゃないですか〜・・・。」
「そ、それは〜・・・。」

 手紙に、ゴーストに取り憑かれてますなんて、書ける訳がない。

「こうなったら、今晩あたり、エッチな夢を見せてやるです〜。」
「か、勘弁して〜〜。」
「そうよ!」

 と、ここで以外におエスタラニィが助け舟を出してきた?

「お姉ちゃんに、夢の中で手を出すなら、私もまぜなさいよ!」
「・・・」

 やっぱり、助け舟じゃなかった・・・。2人して、夢の中で私に何をするつもりなのだ・・・。と、ここで私はある事を思い出したのだ。

「そう言えばエレリーナさん、貴方が見つけた事実というのは?」
「その事なんですが・・・、それは最後の手がかりを見つけた後、お話します。」
「はい?今じゃダメなんですか?」
「ええ。」
「???」

 どういう事なんだろうか?まあ、最後の手がかりが手に入れば、教えてくれるっていうし、その後でいいか。と、その時の私は気楽に考えていたのだ。後で考えると、エレリーナさんが後で教えなければ、たぶん私はこの時点で最後の手がかりを手に入れるか迷っていたに違いない。だから、後で教えるなんて言ったのだろう。

 こうして、合流した私達は一路バケモノが護るという宝がある洞窟を目指して、その街を出発したのだ。途中、洞窟のある山の中腹にある村で一泊し、さらに一晩野宿をしてようやく件の洞窟にたどり着いたのだ。

 その洞窟は、その山の中腹部のやや高い場所にあった。そこは、山脈の森林地帯と、万年雪がつもる地帯との境界付近であり、これ以上登るには雪山用の登山装備が必要になるだろう。
 そして、私達はその洞窟に入って行ったのだ。

「しかしの〜・・・、自然の洞窟にしては、妙に広いの〜。」

 ファルナールの言った通り、その洞窟の通路は自然にできたものにしては、妙に広いのだった。両側の鍾乳石が乱立してる所を除いても、通路は実に大人4人が横に並んでも歩けそうだった。そして、それはほぼ一本道であり、途中に脇道のようなものがあるのだが、それはどれも人一人が通れるほど狭いものだった。

「とりあえず、この広い通路を行ける所まで行ってみましょう。」

 そう私が言うと、みな無言でうなずいた。
 剣モドキは、今エレリーナさんに預けてある。彼女が、後衛で一番動くことがなさそうだったからだ。なにしろ、2mもある代物である、持っていても激しい動きの妨げになるだけだし。その様な物もあるため、狭い通路には行きにくいものもあった。

 洞窟の通路は、広くなることも、狭くなることもなく奥へと続いて行く。やがて、30分程すすんだ頃だろうか、大きな空間にでたのだ。その最も奥まった場所に、噂の宝の山があった。それは、大量の金貨に金製の美術品、未加工の宝石の原石なんかもあるのかもしれない。そして、一人の女性が居たのだ。

 その女は宝の山の上で、大の字になって寝ていた。
 だが、その女性は人間では無かった。頭部に真っすぐな角が生え、その両手と両足は銀の鱗に蓋われたモノでそれぞれの先端には立派な鉤爪が生え、背中には銀の鱗に蓋われた翼と太い尾が生えていた。その姿を見て、私はある存在を思い出していた。
 ドラゴン・・・。伝説に聞く存在が、目の前にいる。まさしく、「地上の王者」がそこにいたのだ。
 そのドラゴンが、私達の気配を感じたのか、目を開けその身を起こした。

「やれやれ、久しぶりにドラゴンらしく宝の上で眠ってみれば、その日に限ってお客さんが来るとはな。貴様等も、私の宝を狙い、わざわざ我が馳走になりに来た愚か者共かな?」
「私が欲しいのは、宝の山じゃなくて、1つの物よ。」
「ええ〜、どうせなら宝の山も頂こうよ〜。」
「エスタラニィ・・・、話をこじらせないで・・・。」
「ほう、1つの物だと?」
「ええ、貴方が持っておるはずの、魔剣への手がかりよ!」
「そうか・・・。」

 そう言って、彼女は立ち上がる。
 そのとたん、私達をすさまじい圧迫感が襲いかかった。

「っく、なんという威圧感なのじゃ!」
「これが、“畏怖すべき者”の存在感ってヤツなの!」

 彼女は、こちらに闘う意思を向けただけのなに、私達はおもわず後退してしまいそうになっていた。

「アレへの手がかりを探しにここへ来たとなると、ますます生きて返す訳には行かんな。」

 そう言って、彼女はゆっくりと宝の山を歩いて下りてくる。

「アレは、ある一族の者が、私に寄贈する代わりに護ってくれと言って、私に寄こした物だ。そう簡単にくれてやる訳にはいかん。」

 宝の山を下りきると。みるみるうちに、彼女の姿が変わっていく。体が数倍に膨れ上がり、銀の鱗が完全に全身を覆い、顔つきが完全に爬虫類のそれとなる。それは、まさに「地上の王者」の名に相応しい銀竜の姿であった。

「我が名はクラージュ。先代の魔王の時代より生き、ドラゴンの宿命により肉を食らい、宝をかすめ取る、この山脈の真の支配者なり。」

 そう言うと、その口からすさまじい炎のブレスを吐いてきた。

ゴオオォォォ

 私達は、2手に分かれることで、なんとかその炎のブレスをやり過ごす。
 そのまま、私はドラゴンに向かって走りながら、背中の鞘から剣を抜き、そのまま上段に構え走り続ける。

「はあぁぁぁ」
「ブレス【祝福】」

 エレリーナさんからの、魔法の援護を受けた私の剣がドラゴンに振り下ろされる。私が振り下ろした剣は、体をかばうように出した腕(前足だけど)の二の腕部分に当たるのだが・・・。

ギン

 そう音を立てて、剣が止められてしまう。

「っく、堅い」

 私の剣では、ドラゴンの鱗に傷を付けることはできなかった。ならば・・・。
 再び私は剣を振り上げると、今度は柔らかそうな腹目がけて、剣を振り下ろす。だが・・・。

「な!」

 そのドラゴンは、右手だけ・・・、つまり素手で私の剣を掴み止めたのだ。

「この程度の攻撃など、片手で十分だ。」

 そう言って、私を、掴んだ剣ごと放り投げたのだ。

「お姉ちゃん!」

 そう言って、エスタラニィがドラゴンに走りよる。

「こんの〜!」

 そのまま、手に持った剣で何度も切りつけるも。その堅い鱗で、まったく歯が立たない。
 そのエスタラニィに向かって、ドラゴンが横から爪を繰り出す。

「きゃあ!」

 その一撃を、バックステップで避けようとするが、間に合わず腕に爪の一撃を受けて、後方に飛ばされる。

「キュア・モデレット・ウーンズ【中傷治療】」

 そこへ、エスタラニィにかけよってエレリーナさんが癒しの魔法を掛けてくれる。傷を回復してもらったエスタラニィは、そのままドラゴンに向かって行く。

「コンティンジェント・エナジー・レジスタンス【非常用エネルギー抵抗】」

 ファルナールが、なにやら魔法を唱えたようだが、その効果は分からない。

 私も、エスタラニィに続いてドラゴンに向かって走る。2人が、同じタイミングでドラゴンに攻撃を仕掛ける。
 それを見たドラゴンは、体を180度回転させると共に、尻尾で私達2人を薙ぎ払って来る。

「うぐ」
「っきゃ」

 それをまともに食らう私達。エスタラニィは、ファルナールやエレリーナさんがいる方向へ、私は彼女達とは別の方向へ飛ばされる。そこへ、ドラゴンの追撃が入る。

バリバリバイィィィィ

 ドラゴンの口から、すさまじい雷のブレスが吐きだされる。そのブレスは、私を除く3人に向かっていく。
 その雷のブレスに反応し、ファルナールが2人の前に出で、雷のブレスを一身に受ける。すると、ファルナールの前に魔法の膜が現れ、雷のブレスを防ぐが、完全に防ぎきれずダメージを受けてしまう。

「あばばばば」

 それでも、一人でなんとか耐えきったようだ。

「もしもに備えて、コンティンジェント・エナジー・レジスタンス(いずれかの攻撃タイプの攻撃を受けると、自動でその攻撃タイプに対する魔法の膜を張る)の魔法を付与していたからよかったものの、一発で消えてしまったぞ。」
「そんな!さっきは炎のブレスを吐いていたのに。」
「やつは、ドラゴンの中でも、シルバードラゴンに類される種なのじゃろう。その身には複数の精霊の力がやどっており、複数の属性のブレスを吐けるのじゃ。」
「っくっくっく、魔力もそれなりにあるぞ。」

 そう言って、ドラゴンは魔力を集中しはじめる。すると、僅かに開いた口の前に魔法陣が出現する。
 そして、ドラゴンは魔法を詠唱しはじめる。

「地の獄より来たりし白き悪魔よ、汝が水晶の剣を持ち、我が敵を静寂の中に討ち滅ぼすべし。」

 その呪文を聞いたエスタラニィが、あわてて防御用の魔法を放つ。

「マス・レジスト・エナジー【集団エネルギーへの抵抗力】」

 エスタラニィの魔法によって、私達の前に魔法の半透明の膜が張られる。と、同時に、ドラゴンの呪文の詠唱が終わり、魔法が放たれた。

「カイーナ・ヴィント【氷結地獄第一層の風】」

 すると、ドラゴンの眼前の魔法陣から、すさまじい冷気が放出される。その冷気が、エスタラニィの張った魔法の膜に到達しそうになったとき・・・。

「ウォール・オブ・ウォーム【暖気の壁】」

 ファルナールが、エスタラニィの張った壁の外側に、もう一つ魔法の壁を張る。
 その2つの壁で冷気を防ごうとするも、完全には防ぎきれず、冷気が私達に襲いかかり辺り一帯が冷気の白い靄に包まれる。

 冷気の靄が晴れたあと、私達はなんとか立っていた。

「っく。2人がかりで防いでも、まだ完全に防ぎきれぬのか。」
「マス・キュア・モデレット・ウーンズ【集団中傷治療】」

 すると、後ろからエレリーナさんが範囲回復魔法を使用し、私達の傷を癒してくれる。

「皆さん、大丈夫ですか?」
「なんとか。」
「じゃが、このままヤツにダメージを与えられなければ、じり貧なのもまた事実。魔力がつきてヤツに殺されるのがオチじゃ。」

グオオォォォォン

 その時、彼女の口からすさまじい咆哮が走った。その声を聞いた、エスタラニィとエレリーナさんがその場に屑折れてしまう。

「2人とも、大丈夫?」
「え、ええ・・・。」
「なん・・・とか・・・、だめ、腰が抜けて立てない・・・。」
「っく、ドラゴンの叫びには魔力が込もっておるというが、これが噂の“ドラゴンシャウト”と呼ばれるヤツじゃな。」

 と、2人が座り込んでいる所へ、ドラゴンが背中の翼をはためかせ低空飛行でこちらに突進し、そのまま私に爪の一撃を叩きこもうとしてくる。
 その一撃を私は剣で受けとめる。だが、その一撃はあまりにも強力だった。ドラゴンの一撃を受けた私の剣は、そのまま砕けてしまったのだ。

「な!」
「そんな貧弱な剣では、我が一撃を受け止めることなぞできぬぞ。」

 私の前に着地したドラゴンは、余裕の表情だ。

「ええい、お主の好きにさせんのじゃ!」

 ファルナールが、鎌を振るうものの、ドラゴンの尻尾の一撃で吹き飛ばされてしまう。

「のわあぁぁぁぁ」

 ファルナールを尻尾で飛ばしたあと、ドラゴンは私の方に振り向き、武器を無くした私に向かって爪が振り下ろされる。私はそれを後転しながら、なんとか回避する。

ドオォ

 その爪が地面に激突し、周囲に土埃が舞う。そして、その土埃に紛れて、私はドラゴンを一瞬見失ってしまった。

(ルシィラ、右から来るわ!)

 そう、頭の中に私に憑いているクレミリアの声が響くと同時に、私はさらに後方に移動し右面からの尻尾攻撃を避ける。

「どうした?逃げ回っているだけでは我に勝てぬぞ。」

 だが、剣を破壊されてしまっては、私に打つ手は無いのも事実。剣ですら素手で止められているのに、自身の拳ではとてもドラゴンにダメージを与えるとは思えなかった。

「ルシィラさん、この剣モドキを使って下さい。これは、そうとう頑丈なものです!」

 そう叫ぶエレリーナさんの声を聞いて、私は反射的に剣モドキを預けているエレリーナさんの元に走りだした。

「逃がさん!」

 そんな私を、ドラゴンは低空飛行と跳躍を繰り返しながら、爪を振り回して追撃してくる。それを、なんとか避けながらエレリーナさんの元へたどり着く。

「エレリーナさん!」
「これを!」

 と、そこへドラゴンが着地し、私が剣を受け取る瞬間を狙い、爪を振り下ろしてきた。
 エレリーナさんから剣モドキを受け取ると、私はとっさに剣モドキでドラゴンの一撃を受けた。はたして、ドラゴンの一撃を受けた剣モドキは・・・、びくともしなかった。

「な!」

 それに驚愕の表情を浮かべるドラゴン。
 すると、そこにドラゴンの体に触れる者がいた。竜の咆哮にやられて、座り込んでいたはずのエレリーナさんだ。そして、彼女はドラゴンに触れた個所から、その体に魔法を叩きこんだ。

「ハーム【大致傷】」

 それは、神につかえる聖職者だけが使える生体破壊の魔法。相手の体に、治癒とは真逆の負のエネルギーを送り込み、内部からダメージを与える魔法だ。

「ぐあ!」

 その魔法を食らい、ドラゴン(の後ろ足)が片膝をつく。

「貴様まさか!」
「ええ、貴方にスキを作らせるために、叫び声でやられていた振りをしていました。」

 そう言って、笑顔で後退しドラゴンと距離を取る。やっぱり、彼女を敵に回すと怖いようだ・・・。

「っく」

 ドラゴンは、このまま地上にいるのは不利と感じたのか、背中の翼をはためかせて空中に退避する。そして、空中に退避したドラゴンが、上空にから魔法を放つ。

「スコーチング・レイ【灼熱の光線】」

 その手から、3本の炎を線が延びる。目標は、私とエスタニィとエレリーナさんの3人!

「うぐ」
「熱っ」
「きゃ」

 その全てが命中してしまう。

「この〜、めちゃくちゃ熱かったじゃないのよ!」

 と、ここで竜の咆哮から立ち直ったエスタラニィが魔法を撃つ。

「アース・バインド【大地の拘束】」

 すると、ドラゴンの体に黄色い紐が絡みついて行き、そのままドラゴンの体が目に見える程ではあるが、ゆっくりと降りてくる。
 と、そこへ尻尾で吹き飛ばされて以来、すっかり忘れていた彼女が突如現る。

「よくも、ワシを尻尾でホームランしてくれたの〜・・・。お返しなのじゃ!」

 そう言って、魔法で拘束されゆっくりと下降することしかできないドラゴンに対し、魔法を放つ。

「フォース・ミサイル【力場の矢】」

 彼女の指先から、青い火花を放つ光線が何本か高速で飛んでいき、その全てがドラゴンに命中する。ドラゴンは翼を盾にして、その魔法をひたすら耐える。
 そして、私はドラゴンの着地点に向かって、剣モドキの剣先を地面でこすりながら走りだす。

「はああぁぁぁ」

 それに気付いたドラゴンも、私に向かって魔法を撃ってくる。

「マジック・ボルト【魔力の矢】」

ドラゴンの魔力を束ねた無数の矢が私に降り注ぐが、私はそれを食らいながらも突進を止めない。そして、ドラゴンが私の間合いに入ったとき、剣先を地面から離し、跳躍しながら剣先でドラゴンのアゴを思いっきり打ちあげた。

パッカアァァァァン

 剣モドキには、当然刃が無いため、こぎみいい音を立ててドラゴンにアッパーが入る。ドラゴンの頭が一瞬浮き上がるように上に動き、やがて力なく地面に頭が落ちる。そして、そのまま動かなくなる。

「た、倒したの?」

 エスタラニィが訪ねてくるが・・・。

「分からない・・・。」

 私は、そう答えることしかできなかった。
 その後、今のうちにとエレリーナさんが皆の傷を癒して行く中、私はドラゴンの出方を待っていた。
 すると、突然ドラゴンが何事もなかったかのようにむっくりと起き上がったのだ。

「な!あれだけの攻撃を受けて、まだ戦えるというのか!」

 そう言って、ファルナールが鎌を構える。だが、当のドラゴンは・・・。

「ふん。」

 と、鼻息を出すと人間に近い姿に戻り、そのまま自らの宝の山へ向かいごそごそと何かを漁りだした。そして、何かを見つけたらしく、それを私に向かって投げてよこした。

「これは?」
「僅かな時間とはいえ、一度は私を倒したのだ。それに免じて、お前達にそれをくれてやろう。お前が探している物だ。」
「じゃあ、これが・・・。」

 そう言って、私はクラージュさんから手渡された物を見た。って、あれ?これって・・・、どこかで見たことあるような・・・。
 そう思って、私は手元のY字型の物体を見つめていた。

「一つ忠告してやろう、アレは魔剣などという、生易しいものではないぞ・・・。」
「え?」

 どういう事だろう?と、考えていると・・・。

「あ!」

 そう声を上げて、私は手元の剣モドキの柄と鍔を見てみると・・・。それは、まったく同じ形をしていたのだ。

「まったく同じ形だ・・・。」
「ええ、何故ならば、ここで保管されていた方が本物で、剣モドキに付けられていたモノは、本物を真似たものですから。」

 そう言ってきたのは、エレリーナさん。

「しかし、これで全ての部位がそろった事になります。」
「そろった?」
「ええ、ルシィラさんが集めていた魔剣への手がかりという物は、全て4つに分かれた魔剣その物なのです。」
「って、つまりこの剣モドキも魔剣の一部ってこと?」
「お姉ちゃん・・・、なにか欠けているモノがあって。それを埋めるようなモノを見つけていったんだから、普通はこれが魔剣って考えないかな?」
「そ、そういうものなのか?」

 と、私は皆を見渡すと・・・。
 皆は、なぜか私から視線をそらした・・・。

「それじゃあ、この場で部品を組み合わせて魔剣を作ってみるのがよかろう。」
「あ、待って下さい。」

 魔剣を完成させようと言うファルナールを、エレリーナさんが止めたのだ。

「魔剣の部位は組み合わせず、一度中腹にあった村まで戻りましょう。理由はそこで話ます。」
「それって、ルーカルトの街で見つけたっていう事実と関係があるの?」
「はい。」

 と、そのとき、微かだが声がしたのだ。

(我を・・・、蘇らせよ・・・)

 そう、誰かが私に言ってきたような気がした。

「ん?今だれか何か言った?」
「どうしたのじゃ?誰も何もいっておらんぞ?クレミリアでないのか?」
「わ、私は何も言ってないよ〜。」

 微かだけど、確かに聞こえたような気がしたんだけどな・・・。

(この世界にて、我を始めに見つけし者の子孫よ・・・、我を復活させよ・・・。)

 まただ、何なんだろうこの声は?見ると、エスタラニィがあたりをキョロキョロと見まわしている。

「エスタラニィ?どうしたの?」
「お姉ちゃん・・・、私にも聞こえた・・・。」

 声の件はともかく、私達は洞窟を出て、中腹で一泊した村に戻ることにした。すると、宝の山の上で座っていたクラージュさんが話かけてきたのだ。

「まて、デュラハンの娘よ。」

 そう言って、クラージュさんが私を呼びとめた。私が足を止め彼女の方を向くと、彼女は自らの宝の山を漁り始めた。
 しばらく、ゴソゴソと宝の山をあさっていたクラージュさんが、なにかを見つけたようだ。それは、先ほど壊れた私の剣と同じ大きさの両手剣だった。

「私を倒した餞別だ。剣無しではきつかろう、これもくれてやる。」

 そう言って、私の元に剣もって来る。

「それは、余に魔剣の柄を守護するように言ってきた者が、一緒に置いて行ったものだ。たしか、ソード・オブ・セレスティアル・プリズン(天獄の剣)とか言っていたな。詳しい使い方は、その剣自身が教えてくれるはずだ。」

 そう言って、私にその剣を渡してきた。私がそれを受け取ると、さっそく頭の中にこの剣の使い方がイメージとして流れ込んでくる。なるほど、たしかにドラゴンの宝に相応しい、強力な能力そうだ。
 さっそく、私は背中の(今まで私の両手剣が入っていた)鞘を取り、剣を治めようと試みる。大きさや形状が近いだけに、うまく入ったようだ。

「ありがとうございます。」
「そう思うなら、さらに強くなり、今度は1対1で私に挑むがよい。」
「いっ!」
「っふっふっふ。」

 そう言って、クラージュさんは自らの宝の山の上にもどり、また大の字になって眠り始めたのだ。
 そして、私達は今度こそ洞窟を出て、中腹にある村を目ざし、山を下り始めた。

 クラージュさんの洞窟を出た私達は、グルーフガスト山脈の中腹にある村の宿屋に集まっていた。
 その宿屋で、今後の対応を協議するというのだ。言いだしたのは、エレリーナさん。彼女は、ルーカストの街で知ったことを話してくれるという。

「結論から言いますと、たしかにルシィラさんが持っていた剣モドキは魔剣の一部です。そして、魔剣は剣モドキを含めて4つに分かれました。まず、ルシィラさんの家に伝わっていた、魔剣の剣身の部分に相当する剣モドキ。次に、クラージュさんが守護していた魔剣の柄の部分。そして、ルシィラさんが旅の途中で見つけた、剣身と柄の留め具に相当する宝石モドキと、剣身の先端近くの穴にはめる宝石モドキ。以上の4つです。」

 その話を聞き、私はエレリーナさんに確認を取る。

「これで、魔剣の部位は全部そろったことになるわよね?」
「でわ、さっそく魔剣を完成させようでわないかの。」

 ファルナールに言われたように、私は剣モドキの鍔と柄を外し、代わりにクラージュさんから貰ったモノを取り付ける。次に、はめ込んだ鍔と柄を、止め具に相当する宝石モドキの一つをはめ込んで固定させ、剣身のスリットが途切れる当たりの穴にもう一つの宝石モドキをはめ込んだ。

「これで、魔剣が完成したの?これで、私の呪いが解けたの?」
「どれどれ・・・。」

 そう言って、エスタラニィが私の首の後ろを覗き込む。そういえば、私には首の後ろに呪いの印があったはず、呪いが解けたのならその印が消えているはずである。が・・・。

「ちょっと!呪いの印が消えてないじゃない!これ、どういう事よ!」
「ええ、残念ですが、これだけでは呪いは解けないのです。」
「はい?」

 どうやら、まだ私の旅は終わりそうになかった。
11/02/02 08:59更新 / KのHF
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■作者メッセージ
 今回のバトルでは、魔法がけっこう登場。その大半や、ドラゴンの特殊能力なんかは、D&D3.5産のものです。
 D&D的には、ハームの呪文でごっそりHPが減らされ、何度も受けた攻撃(鱗で止まっていたけれども実際には非致傷ダメージが入ってた)によって蓄積されていた非致傷ダメージが、最後のアッパーによる非致傷ダメージで、蓄積された非致傷ダメージが残りHPを上回ったために、気絶状態になったと言うところでしょうか。
 もっとも、鱗に弾かれた=ACを突破できなかったので、非致傷ダメージすら通ってないじゃん的なツッコミは、無しの方向で・・・。
 D&Dのネタでもう一つ。D&Dのクレリックは信仰する神によって、その神を象徴する様な領域呪文を使えるのですが、ダークプリーストだと色欲・魅惑(両方とも呪文大辞典の追加)の領域で、シービショップだと水・海洋・家族(うち2つがこれまた呪文大辞典の追加)の領域になるのかな?

 ちなみに、イエルが取り付けた発信機のようなモノは、ファルナールの鎌に取りつけられています。

 次の第7話は、激しいバトルは無く、最終話への前座みたいなものです。なんだけど・・・、文字数はこれまでの中で一番多くなりそう・・・。

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