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第5話 預言、恐るべき世界の破壊者
 私は、今ラクダに乗って砂漠を横断している。そして、私の前にはラクダを引く1人のギルタブリルがいる。彼女が、私を件の砂漠の神殿までの案内人だ。名前は、ナドバサルと言う。
 私が彼女をやとうまでに、これまた時間がかかってしまった。
砂漠の入り口にあたる町で、私はその神殿に案内できる人物を探したのだが、まったく見つからなかった。いっそ、私が単独で神殿を探そうかと思ったのだが、砂漠は広大なうえ、私はその土地に入るのははじめてだし、迷って死ぬのはほぼ確実。よしんば助かったとしても、神殿を見つけるのは不可能だろう。やはり、神殿の場所を知っている人を探すしか道は無いのだ。そうやって、砂漠の縁にある町を転々として行き、神殿の場所を知る人物を探して行ったのだ。

そうして、砂漠の縁についてから1カ月。いまだに、私は砂漠に入ることすらできずにいた。そんなとき、彼女が私に話しかけてきたのだ。

 彼女は、砂漠の神殿の位置を知る、数少ない砂漠の民の一人だった。私が砂漠の神殿への道を探していると知り、声をかけてきたと言うのだ。なんでも、砂漠の神殿には預言者がおり、スフィンクスが門番をしているその神殿に近づきたがる地元の民はほとんどおらず、場所を知っていてもあまり案内しがらないそうだ。なんでも、砂漠の民の多くは、その神殿にいる預言者に敬意を払っているとか。おまけに、最近その神殿の近辺に盗賊団が出没するようになり、ますます案内するのを拒むようなっているのだという。
 なぜ、そんな状況で彼女が私に話しかけてきたかというと・・・。私が、強よそうだったからだそうだ。彼女が言うのは、砂漠に出る盗賊団というのは、彼女と同じギルタブリルで構成されているという。ギルタブリルは、基本気にいった男しか襲わないのだが、盗賊団は無差別に襲うのだという。彼女は、自分と同じギルタブリルがそのような行為を行っていると、やがて町に住む他のギルタブリルにまで、町に住みづらくなるのではないかと危惧していたのだ。なので、もし行程の途中で盗賊団に遭遇したら、倒すのを手伝ってほしいのだと言ってきたのだ。

彼女の話によると、その神殿は普段は砂嵐に護られ、満月と新月の夜にしか姿を現さないのだという。

 ちなみに、今私は鎧の上にサーコートを身につけている。理由は単純、そんなものを着て行ったら、太陽の熱で鎧が高温になり火傷してしまうからだ。それを防ぐために、鎧の上にサーコートを付けているのだが、生憎とそのガラが気に入らない。他のサーコートが売り切れだったとはいえ、なんで花柄とピンクのハートマークが散らばっているのしかないんだ〜。

 と、突然ラクダを引いていたナドバサルの歩みが止まった。何事かと思ったが、私にもすぐに複数の気配が感じ取れた。

「どうやら・・・。」
「かこまれているようね・・・。」

 私は、ラクダを下り背中の鞘から両手剣を抜く。ナドバサルも、いつのまにか片方の手に、短剣を逆手に持っていた。

 すると、周囲の砂が何か所かで不自然に盛り上がった。
その盛り上がった砂の一つが、私達に向かってきたのだ。こちらに向かってきた盛り上がった砂は、私の前に来るとはじけ、中からギルタブリルが飛び出し、私にむかって跳躍してきた。

ゴンッ

 私は、飛び出してきたギルタブリルの顔面に、剣の腹を命中させる。顔面に一撃を受けたギルタブリルは、そのまま砂の上に落ちてノビてしまった。
 それを合図に、周囲の盛り上がった砂が一斉にこちらに向かって来る。

 私は襲い来る盗賊達を、剣の腹や柄で、相手の腹や顔面に一撃を入れて行き、ノックダウンさせていく。
 ナドバサルも、襲い来る盗賊団に対して短剣で攻撃を受け流し、尻尾の針を次々と打ちこんでいく。尻尾の針から毒を注入された盗賊達は、体が麻痺し砂漠の上で動かなくなる。
でも、あの毒ってたしか・・・。痺れたがとれたときに、彼女達の間で何が起こるのかは、あまり想像しないでおこう・・・。だって、あのヴァンパイアのお嬢様を思い出しそうだから・・・。

 やがて、砂の上に立っている者が私とナドバサルだけになった。すると、ナドバサルが盗賊団のリーダーらしき女性にかけよって、こう言ったのだ。

「もう、これにこりて、盗賊なんてやめなさい。」
「じ、じぐじょぅぅ・・・。」

 そのまま、ナドバサルは私むかってこう言ってきたのだ。

「それじゃあ、行きましょう。」
「ほっといていいの?この程度じゃ、こりずにまた始めるかも。」
「いいんです。その場合は、また別な冒険者に頼みますから。彼女達が諦めてくれるその日まで、何度でも・・・。」

 そう言う彼女は、どこか悲しい顔をしていた気がする。

「できれば、今以上にひどい目にあう前に、諦めて欲しいんですけどね・・・。」

 こうして、ギルタブリルの盗賊団を撃退した私達は、再び神殿に向かって進みはじめたのだった。

 そして、ついに砂漠の神殿にたどりついたのだ。
 砂漠にあるもんだから、てっきり四角垂のピラミッド型かと思っていたが、その神殿は石によって立方体に建てられたものだった。その立方体の一辺に、入り口があった。そして、その入り口の中には1人の魔物がいたのだ。それは、スフィンクス・・・。まあ、砂漠の中の神殿を護るにはうってつけと言えば、うってつけなのかな〜。
 そのスフィンクスが、私を見るなり、こう言ってきたのだ。

「娘よ、ここを通りたければ、我が2つの問いに答えよ!」

 スフィンクスの門番だけに、やはりそう来たか・・・。だが、ここで引き返す訳にはいかない。

「言っておくか、入り口には特殊な結界が張ってある。私の問いに答えられないかぎり、力づくではどうこうできないぞ。」
「こい!」
「っふっふっふ、行くぞ・・・。ここに、20人のジャイアントアントがいる。だが、この中に何人かのアントアラクネが入り込んでいるようだ。そこで、20人の彼女達の足の数の合計を数えてみたら全部で128本だった。さあ、まぎれこんでいるアントアラクネは何人?」

 っく、スフィンクスだからどうせ朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足程度の問題かと思っていたが、これは予想外だ。
 だが・・・。

「ジャイアントアントの足は6本よね。仮に20人全員がジャイアントアントなら6×20で足の合計120本のはずね。」
「・・・」
「でも実際には128と、8本多かった。で、アントアラクネはジャイアントアントに比べて足が2本多いから・・・、8÷2で4。答えは4人ね。」

 残念ながら、この程度の問題ならば、私は妹との知恵比べでそれなりに鍛えられている。なにしろ、答えられなかった場合、何をされるか分かったものじゃなく、けっこうな死活問題だったからだ。

「っく。では、次の問題だ。」
「こい!」
「ここに金貨の入った袋と、偽の金貨の入った袋が計10個ある。だが、そのうちのいくつが銀を用いた、偽の金貨が入った袋であるか分からない。その10個の袋のうちどれが本物で、どれが偽物かを見分けるのに、重さを測る天秤を最低何回使えば知ることができるか?ただし、金貨と偽の金貨は当然偽の金貨の方が軽く、全ての金貨の重量は同じで、全ての偽の金貨の重量も同じ。さらに、すでに金貨と偽の金貨の重量が分かっており、10個の袋にはそれぞれ大量の金貨と偽の金貨が入っており、1つの袋の中に金貨と偽の金貨が混じっていることは無いとする。」
「・・・」

 こ、これは困った・・・。こ、こんな高度な問題・・・、私には無理だ〜〜〜。クレミリアに聞いてみるか?いや、今までの彼女からの言動からすると、無理だろう・・・。ど、どうしよう〜・・・。

「1回で十分よ!」

 と、突然私の背後から声がした。振り返ると・・・・。

「エスタラ二ィ?」

 そこには、私の妹がいた。

「お姉ちゃん久しぶり、追い懸けてきちゃった。」
「どうして、ここが?」
「んっふっふっふ・・・。今、お姉ちゃんが身につけている護符は誰が作ったと思っているの?その護符を身につけている限り、お姉ちゃんの現在地はまる分かりよ。」
「んが〜〜〜」

 さすが、我が妹。その辺は抜かりなかったか。
 ハーピー便のお姉さんが言っていた、エスタラニィが私の位置を的確に教えてくれるというのは、こういうことか。

「でも、ちゃんとお姉ちゃんのために、魔法防御や首が簡単には取れなくなる効果も付けてたよ。」

 なるほど、今まで吹っ飛ばされるような攻撃を受けても、首がはずれずにすんでいたのはそういう訳か。
 と、そこへ私の頭からすっかり存在が消えていた者の声がした。

「ちゃ、ちゃんとした根拠があるんだろうな?」

 スフィンクスはうろたえながらも、それが当てずっぽうでないか確認しに来る。

「当然よ。いい?まず10個の、袋にそれぞれ1から10までの番号を振るの。そして、1番の袋からは1枚、2番の袋からは2枚、3番の袋からは4枚、4番の袋からは8枚と・・・、順次に2の乗数枚だけ取って言って、一度に秤に乗せるのよ。次に、秤の計測結果を見て、全てが金貨だった場合の重さから(問題に金貨と偽の金貨の重量が分かっているので)、計測結果の重さを引く、これで偽の金貨が秤に何枚入っているかが分かるわ。で、仮に偽の金貨の枚数が3枚なら1番と2番の袋が偽の金貨の入った袋。偽の金貨の枚数が10枚なら、2番と4番の袋が偽の金貨が入った袋になるわ。」

 ここでふと私が疑問に思った事を口にした。

「1番の袋から1枚、2番の袋から2枚、3番の袋から3枚じゃダメなのか?」
「その場合だと、仮に偽の金貨の枚数が3枚だと、偽の金貨の入った袋が1番と2番の場合と、3番の袋だけの場合の2つのパターンが出ちゃうの。2の乗数枚ごとに金貨を出して行けば、そういった2つのパターンが現れることは無いわ。」

 もはや、私にはついていけなかった・・・。

「ちなみに、裏の回答もあるわよ。」

 妹は自慢げにそう言ってきかせた。

「裏の回答?」
「そう、秤で測るとき、その目盛が動き再び0になるまでを1回とする場合。1つの袋から1枚ずつ順に出して行き、前の金貨を測りから取り除かずに、次々と乗せて行きながらその重さを測るのよ。」

「うっき〜〜〜。せっかく・・・、せっかく考えたのに〜〜〜、悩む間もなく答えられた〜〜〜。」

 と、スフィンクスは地団太を踏んでいた。

 だが、そんなスフィンクスよりも、私は妹の方が気になっていた。

「エスタラニィ・・・、どうやってこの場所を?」
「エレリーナさんに聞いたの。お姉ちゃんが次に向かう場所はここだって。」
「あなたも、ずいぶんと無茶をするのね。」
「ここまで一人で来るのは、大変だったんだから。」
「じゃあ、貴方の後ろでバテているギルタブリル達は何よ?」
「あれは、移動のための、ただの『足』よ。」

 言いきった・・・、言いきったよこの娘は・・・。良く見れば、砂漠を横断中に私達を襲った盗賊団と同じ格好をしている。おおかた、妹を襲って返り討ちにあい、ここまで運ばされてきたのだろう。ナドバサルさんの言った通り、諦めないからひどい目にあってるし・・・。

「それにしても・・・。」
「ん?」

 エスタラニィが私の方を見ながら、何やら意味深な視線を送ってくる。

「お姉ちゃんに、そんなガラを着る趣味があったなんてね〜。」
「・・・、お願いだから、何も言わないで・・・。」

 そんなこんなで、私達は神殿に入ることになった。
 ナドバサルは、神殿の入り口で待っているとのことだ。彼女も、他の砂漠の民同様に、この神殿の預言者に敬意をはらっているのだろう。ちなみに、門番のスフィンクスは・・・。

「預言者様は、入り口から真っすぐ伸びる通路の、奥にある部屋にいらっしゃる・・・。」

 そう言って、すねてしまった・・・。

 神殿の中は、思っていたよりも涼しかった。
 入り口から入った私達は、ただひたすら真っすぐ続く通路を歩いて行く。

「に〜、してもよ。よく父上と母上が、あなたが私を追いかけるのを許したわね。」
「ああ、それね。どうやら、本当はパパもママも、お姉ちゃんと一緒に行きたかったみたいだよ。私がお姉ちゃんの後を追うっていったら、待っていましたとばかりに色々と準備してくれたわ。」
「そ、そう」

 う〜ん。心配されていてうれしいやら、信用されてなくて悲しいやら、複雑な気分である。
 と、そのとき、クレミリアが私の体の中から現れ、神殿の中の様子を述べる。

「う〜〜ん、砂漠の中にある割に、ずいぶんとヒンヤリしてますね〜。」
「うわ。貴方どっから湧いてきたのよ。」

 そういえば、砂漠は日差しが特に強いからな。彼女は、私の中に引っ込んでいたのだった。って、冷静に考えてみれば、これって完全に憑かれている?

「どうも〜。私はクレミリアっていいます。ルシィラちゃんの旅の中なのです〜。」
「ちょっと、勝手に私のお姉ちゃんに憑いているんじゃないわよ!」

 そう、エスタラニィはクレミリアに言い寄る。
 やっぱり私って、彼女に憑かれているんだ・・・。

 私達は、神殿の奥へと続く道を歩いている。隣では、クレミリアを私から引き離そうとエスタラニィが頑張っているが、実体のないクレミリアはそれをのらりくらりと、いなしていく。そんなやり取りが行われていると、奥に扉が見えてきた。どうやら、目的の部屋についたようだ。

 神殿の入り口から、真っすぐ行った所にその部屋はあった。扉を開け、中の部屋に入ると2人の人物がいた。神殿の入り口にいたのとは、別のスフィンクス。そして、椅子に深く座り目を閉じたアヌビス・・・。
 私達が部屋に入ると、目を閉じていたアヌビスの目が開き、こう語りだした。

「よくぞまいられた、運命の娘よ。私は、預言者の一族として生を受け、この時代をまかされし者、フシャルイムと申す。」
「わ、私はルシィラと申します。こちらは妹のエスタラニィと、同行者のクレミリアです。」
「妹のエスタラニィです。」
「クレミリアです〜。」
「ルシィラよ、そなたが来ることはすでに我が預言によって分かっていたこと。よって、我は、我に与えられし使命にしたがい、汝に預言を与えよう・・・。」

 そう言って、彼女は目を閉じて瞑想を始めた。
 いや、なんというか、勝手に進行しちゃっているんですけども・・・。私としては、ご先祖様が受けたという預言の事を知りたかったんだけどな〜。
 まあ、預言をくれるというのであれば、ここは貰っておく事にしよう。聞きたい事は、後で聞けばいいし。

 私と妹とクレミリアの3人は、彼女に神託が下されるまで待つことにしたのだが・・・。長い・・・、長いな〜〜〜。かれこれ、30分はたっただろうか?何時にまで待てばいいのだろう・・・。
 そう私が考えていると・・・。

「ねえねえ?預言っていつまで待てばいいの?」

 なんて、クレミリアが傍にいたスフィンクスに訪ねた。
 な、あなたは・・・、ちょっとは我慢できないのか!

「私も、とっとと知りたいわね。」

 と、今度はエスタラニィも・・・。
 あ、貴方達ね〜〜!
 だが、質問されたスフィンクスはというと・・・。涼しい顔で答える。

「預言は、フシャルイム様の心が、未来の道標に触れた時に伝えられます。その時がいつになるかは、私にも測りかねます。」

 そんなとき、フシャルイムの目が開かれる。どうやら、神託を得ることができたようだ。そして、彼女は語りだした。

「かつて、数多の世界の命を食らいつくした者は、前の世界にて敗れ、魂と肉体とに分かたれた。その者は、今なおこの世界の数多の魂を食らおうと、4つに分かたれし肉体を求める。狭間にてただよいし魂は、この世界の器を通して、この世界の者に破滅を語りかけるであろう。」

 “数多の世界で命を食らいつくした者”?私が知りたいのは、魔剣の事なんだけどな〜。そんな、私の思いを余所に、フシャルイムは言葉を続けて行く。

「娘よ、汝が未来を望むのであれば、グルーフガストの山に眠る宝を求めよ。汝がその番人に打ち勝つことができたのであれば、汝は最後の手がかりを手にし、未来への道が開かれるであろう。」

 その“最後の手がかり”という言葉に、私は反応した。そうよ、こういう預言を私は待っていた。“未来への道が開かれる”というのは、きっと呪いが解けるって事に違いないはず。いや、きっとそうに違いない。

「私から伝えられるのは、以上だ。」

 そう言って、フシャルイムは再び目を閉じて、何も言わなくなってしまった。おそらく、彼女からの話は、これで全てなのだろう。
 で、預言が一通り終わったところで、私は気になっていたことを聞いた。

「ところで、あなたは先ほどから何を?」

 私は、先ほどから横で巻物に書き物をしていたスフィンクスに訪ねた。

「私は、フシャルイム様が述べられた預言を書き写すのが、役目でございます。私めの一族は、そうやって代々預言者様の言葉を記録してまいりました。」

 その話を聞き、私にはひらめくものがあった。

「それじゃあ、私の先祖が受けたという預言、それもどこかに在るの?」
「探せばあると思いますが・・・。」

 そういって、スフィンクルはフシャルイムの方を向く。

「別にかまわん。」

 フシャルイムは、目を閉じたままそう言った。それを聞いた、スフィンクスは私の方を向き。

「フシャルイム様がそう申されておりますから、お見せするのは構わないのですが・・・。」
「が?」
「なにせ、書き写された数が膨大なため、いつの時代の預言なのか分からないと、探しようがございません。」
「あう・・・。」

 たしかに、言われてみればそうなのだが・・・、ご先祖様が預言を受けたのがいつなんて分からないぞ〜。
 なんて、私が頭をかかえていると、助け舟を出してくれた者がいた。

「お姉ちゃんから数えて8代前、200年前のことよ。」
「エスタラニィ?あなた知っているの?」
「正確には、私じゃなくてエレリーナさんが、ご先祖様が記した記録を探し出してくれたのよ。」

 そうだたったのか、この神殿の事だけじゃなく、彼女には助けられてばっかりだな。

「ついでに、預言を受けた正確な日にちも分かっているわ。」

 そう言って、エスタラニィはスフィンクスにご先祖様が預言を受けた年月日を伝えたのだ。

「分かりました、では保管庫の中を探してまいりましょう。」

 そう言ってスフィンクスは、私達が入ってきたのとは別の出口から、この部屋を出て行った。まあ、私達が入ってきた通路は、神殿の出口にしか繋がってないし。
 しばらくして、スフィンクスは1つの巻物を持って、部屋に戻ってきた。

「おそらくは、これだろうと思われます。」

 そういって、巻物を広げ読み始める。

「では、読み上げます・・・。まもなく、異世界より邪悪なる者が来たる。その者は破滅を唄いし魔剣なり。汝が一族は、その魔剣を探しだす定めなり。汝とその一族よ、世界を護る定めを受け入れよ。以上です。」

 どういうことだろう?ご先祖様が魔剣を追っていたのは、魔剣から世界を護るため?一族に死に際の呪いをかけたのは、危険だから絶対に見つけ出せって事なの?異世界から来たって事は・・・、もしかして、さっき私に対する預言に出てきた“数多の世界で命を食らいつくした者”って、魔剣のことなの?
 だが、どう考えても私に答えは出るはずもなかった・・・。

 とりあえず、此処でできるのはこれで全てだろう。なら、後は預言に言われたグルーフガスト山脈に向かうのみ。
 そう思って、部屋を出ようとすると、目を閉じたままの預言者フシャルイムが、こう私に言ってきたのだ。

「デュラハンであるお主が魔剣を追うこともまた運命」
「それはどういう意味?」
「さあな、その答えを探すのもお主の役目なのだ。だが、これは覚えておくがいい、何事にも意味というものが在るものだ。」

・・・

 こうして、私は砂漠の神殿を後にした。
 神殿の出口では、ナドバサルが入り口で待っていてくれた。ちなみに、門番のスフィンクルは、いまだにいじけていた。
 再び砂漠の中を町へ目指して移動するのだが、ここへ来た違ったものが2つある。一つは、エスタラニィという同行者が増えたこと。もう一つは、砂漠の帰り道が、神殿に来る時に通ったルートとはまた異なることだ。私達の次の目的地がグルーフガスト山脈であることを知ったナドバサルが、神殿からそのグルーフガスト山脈に方面に抜ける砂漠のルートを取ってくれることになってくれたのだ。
 この申し出には正直助かった。もし、来たルートを戻った場合、私は砂漠を迂回するルートを取らざるをえなかっただろう。

 にしてもだ。いよいよ次が最後の手がかりか・・・。それさえ手に入れれば魔剣の場所が分かり、この呪いともオサラバし、はれて家に帰還できるのだろうか・・・。しかし、魔剣から世界を護るとはいったい、そして宝を守る番人とはいったい・・・。できれば、私より弱いですように。

・・・・・
・・・・
・・・
・・


 一方そのころ。
 クラウニスとミシェリスの2人は、とある家を訪ねていた。

「だ、誰?」

 と、その家の玄関に出たのは、2人が探していた人物ではなく、一人の少女であった。その少女、ジェリスはルーカストの街の一見の事もあり、クラウニスの事を警戒している。

「クラウドリックという人のお家は、ここでいいかしら?」

 そう切り出したのは、クラウニスではなくミシェリスだった。

「お、お爺ちゃんに何か用?」

 だが、つれの女性がサキュバスであることが分かると、少なくとも教会関係者で無いことが理解でき、少しは2人に対する警戒を解く。

「お爺ちゃんにこう伝えてちょうだい、『私はダスクハイムの生き残りの両親から産まれました、5年前の事件の事を教えてください。』ってね。」
「うん、ちょっと待っててね。」

 そう言って、ジェリスは家の中に入って行った。
 その様子を見ていたクラウニスは、ミシェリスに言う。

「そのまま言ってもよかったのか?」
「最初から話す気がなかったら、どんなにごまかして家に入っても、肝心な事は聞き出せないでしょ。なら、単刀直入にいったほうがいいって。」
「ま、ここまで来たんだ。その爺さんが話す気になるまで、気長に行きますか。」

 しばらくして、ジェリスが玄関に戻ってくる。そして、2人にすれば以外な事を言った。

「お爺ちゃんが話したい事があるから、家に上がってもらってだって。」

 2人は、顔を見合せながらも家に入った。

 家の中はとても質素なモノだった。とても、教会が秘密裏に高額で雇っていた者が住んでいる者とは思えなかった。
 その家の中の様子を考えながら、クラウニスはここにいたる経緯を思いかえしていた。
 古い友人から、『AM資料』の存在を聞いたクラウニスは、始まりの地であるダスクハイムから探索をする事にした。そのダスクハイムの地にある街で、たまたま用心棒をすることになりその過程でしりあったデュラハンの娘から、AM資料なる物を見たことがあると聞かされた。そして、その資料を現在持っているというバフォメットのサバトを訪れた。
 だが、残念ながらそのサバトでバフォメットに会うことはできなかった。なんでも、以前作った小説が配下の魔女達に燃やされたので、仕返しに今度はその魔女達を題材にした百合小説を書いたのだが、魔女達に見つかりオシオキを受けている最中だという。彼らを対応した魔女達のリーダー(たしかイエルという名前だったか)が言うには、AM資料はその小説と一緒に燃やされてしまったという。落胆した俺達だったが、バフォメットが持ち帰った紙はまだ沢山あると言うので、許可をもらってバフォメットの部屋を調べさせてもらった。すると、そこにはAM資料に関係する実験を行っていた人物のリストを見つけることができた。
 そのリストに載っていた人物を順に当たっていったものの、今まで探し当てた人物は皆、全て不審な死を遂げていた。おそらくは、教会が放った刺客にやられたのだろう。そして、ようやくまだ生きている人物にたどり着くことができたのだ。

 その老人、錬金術師のクラウドリックは語りだした。

「あの事件の発端となった魔物は、もともとはとある計画の副産物だったのだ。その計画とは、Project Artificial Messiah(人口救世主計画)。すなわちAM計画。その資料が『AM資料』なのじゃ。」
「AM計画?」
「教会には、魔物を討伐する勇者を任命するという役割がある。だが、勇者になれる素質を秘めた者は極僅かじゃ。それゆえに、勇者の素質を秘めた者を探し出すもの一苦労する。そこで、普通の人間に魔力を注入することで、素質の無い者でも勇者に人工進化させ、勇者を作りだそうという計画じゃ。」

 たしかに、勇者となる素質を持つ者は限られている。だが、それを簡単に育成できるのなら、これほど魔界に対する確固たる戦力の基盤は無いだろう。

「だが、その計画に必要な知識は、人間からもたらさられたモノではなかった。」
「人間が考えた者じゃなかった?」
「そのとき、教会はある宝石を持っていた。その宝石を持って念じると、時折、今まで考えつかなかった事を思いついたり、いままで不明慮だった知識がはっきりと理解できるようなった。」

 宝石というのは、ルシィラというデュラハンの少女が、教会の施設跡で見つけたと言っていた宝石モドキのことなのだろうか?

「何人もの人間が、強制注入された魔力に耐え切れずに死んでいった。」

 その話を聞いて、クラウニスはふと思いつくことがあった。

(そうか、あのデュラハンのお譲ちゃんが、教会の施設から付いてきたっていうゴースト、彼女も実験の犠牲者だったのか・・・。)

「実験体は、教会のおひざもとの孤児院から連れてこられた。」

(ゴーストのお譲ちゃんも、孤児院にいた記憶があったって、言っていたな。)

「犠牲者の数が、3ケタに達しようとしたところで、ようやく生きながらえる者達が出てきた。」
「・・・」
「そんなとき、件の宝石から新たな知識が来たのだ。それは、今までの実験で注入しているのは、主に人間がコントロールするプラスの魔力だ。だが、魔物が操るマイナスの魔力を注入した場合は別の結果が得られる。っと、な。」
「・・・」
「そして、その科学者達は実際にその実験を行った・・・。そして、マイナスの魔力を注入された男性はインキュバスへ、女性の場合はサキュバスへ変化するという結果になった。」

 やれやれ、どうしてこう頭のいい連中ってヤツは、自分の好奇心を抑えられないのかね。

「そして、宝石から最後の知識が我らの元へ送られた。それは、『闇の太陽』なる魔物の情報だった。サキュバスの欲望が少女の形に、インキュバスの欲望が黒い球体の形に実体化したという魔物。我々は、その魔物の情報を聞いた時、新たな実験への衝動を抑えきれなかった。」
「『闇の太陽』・・・。」
「実験は、孤児院からつれて来られた1組の少年と少女で行った。その2人は幼馴染で、周囲の情報から孤児院内で恋愛関係にあったらしい。まさに、次の実験にうってつけじゃった。」
「・・・」
「実験は単純じゃった。まず、少年を特定の場所に幽閉する。そして、少女に少年が幽閉された場所をあらかじめ教えておき、その上で少女にインキュバスとサキュバスの両方から採取したマイナスの魔力を注入したのじゃ。」
「・・・」
「結果はご存じの通りじゃ。少女はまさに『闇の太陽』と化し、少年の元へ飛んでいき、そこで少年と激しく愛し合ったのじゃろう。結果、ダスクハイムの国は魔界へと堕ちた。だが、その結果は我らの予想をはるかに越えたものだった。せいぜい、ダスクハイムの一地方が魔界に堕ちる程度だと思っていたのだが、まさか国土の7割近くが魔界と化し、その範囲がダスクハイムの外の国まで及んでいた。さらに、その国に残留した負の魔力も、我らの予想を遥かに越えた強力なものだった。」

 なるほど、その少年がいた場所が、あのデュラハンのお譲ちゃんが見つけた、教会の地下施設跡だったのか・・・。だから、あの場所には負の魔力が強くのこっていた。おそらく、教会連中はダスクハイムの国が魔界化したあと、ゆっくりと証拠を隠滅しようなどと甘い考えでいたのだろう。だが、その思惑は外れ、実験は教会がその場所に手出しできなくなるほどの結果を残した。そのせいで、教会はその場所に手出しできなくなり、結果として『AM資料』を含む実験の証拠を処分できなかったのは皮肉な話だ。

「ダスクハイムの国以外にも『AM資料』は存在し、教会上層部は実験の事実を把握していながらも、『AM資料』をいまだに保持している。なぜか?答えは簡単だ、教会は何処かでいまだに人工的に勇者を作ろうとしているうえ、教会に従わない国に『闇の太陽』を送り込み、そこを魔界に堕とせば教会が侵攻する大義名分が生まれるからじゃ。少年がダスクハイムに送られたのも、当時のダスクハイムのライニッヒネルト王家が、教会の教えを国教にするのを拒んでいたからじゃろう。」

 ここで俺はあることに気付いた。
ライニヒッチネルト王家だって?ライニッヒネルトって、たしかミシェリスの名字だったような・・・。俺はなんとなく、彼女の両親が金を沢山もっている理由が分かったような気がした。
 いつもは騒がしいミシェリスも、このときばかりは黙りこくったままだった。

「ZZZzzzzz」

って、妙に静かだと思ったら、話についていけずに寝てたのか・・・。


一通りの告白をしたクラウドリックは、最後にこう言った。

「今から思えば、あの宝石の向こう側には、何者かがいたのじゃろう。そして、宝石を通じてこちらの世界を監視し、こちらに知識を与えることでその反応をみる実験を行っていたのじゃろうな。」

 俺はその宝石の事が、妙に気になった。あのバフォメットの言っていたとおりなら、ルシィラと名乗った少女が持っていた宝石モドキがそれとなる。
 それに、ルシィラは言っていた。剣モドキや宝石モドキで占術を行った者は、皆“剣モドキや宝石モドキに次の手がかりを教えられたようだ”、と・・・。
 教団に、余計な知識を吹き込んだというヤツが居るというのなら。おそらく、宝石モドキの向こう側で、ろくでもない事を考えているに違いないとしか思えなかった。だとするなら、ダスクハイムの一件はもちろん、あのゴーストの少女やその他の犠牲者を出した全ての元凶がそいつという事になる。これらの一件に決着をつけるなら、その宝石モドキを追う必要がありそうだな。

 そして、俺は必然的に、その宝石モドキの現在の所有者である、ルシィラの後を追うことになった。
11/02/01 11:50更新 / KのHF
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■作者メッセージ
 今回は、バトルはかなり少なめ。と、言うかほぼ省略バージョン。

 この話の後半で、「粛清と〜」から引っ張ってきたネタの内容を書いてみた。

 話は、半分を過ぎて残り3話となりました。以前、1月中に終わりたいと書いてはいたが、次に更新するのは2月ぐらいになるのかな〜。

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