連載小説
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第4話 手紙は勘違いの始まり
 教会の施設跡で出会ったバフォメットのおかげで、次の魔剣への手がかりへあっさりたどり突くことができた。だが、直ぐに手に入るという訳ではなかった。

「次の手がかりは・・・、とある地方の領主が持っておるの。」

 そう聞いた私は、さっそくダスクハイム国内の、件の地の領主を訪ねたのだ。
 そその領主がヴァンパイアだったのは、私にとっては幸運だった。もし、反魔物派の地であった場合、かならず話はこじれたであろう。
 5年前の事件が起きる前、ダスクハイムの国も反魔物派だったらしい。もっとも教会の教えを国教にしなかったため、教会との中は悪かったらしいが・・・。あの教会の施設跡が地下にあったのも、人に見られたくない研究を行っていた他に、この国に対して秘密裏に造られたモノだったからかもしれない。そんなダスクハイムの国ではあったが、5年前の事件で国土の大半が魔界に堕ち、国民の大半がサキュバス・インキュバス化してしまったため、否応なしに親魔物派になってしまったが。
 そんな中、魔界化を理由に教会が積極的に干渉・・・、もとい騎士団の派遣という軍事行動によって、かなりの数のサキュバス・インキュバス化した領主が狩られることになる。それを気に、他地域の魔界と交流を持つようになったりなかったり・・・。詳しい事は分からないが、そんな事情からこの地にやってきたヴァンパイアが領主らしい。この領主がちゃんと統治しているおかげで、この地方では依然私が戦った盗賊団のような輩は少ないらしい。

 その領主に、私の呪いに関する事情を話し、さらにあの剣モドキと教会の施設跡で見つけた宝石を見せると私の話を信じてくれたようだ。と、いうのも、その領主の持っている宝石というのが、私が教会の施設跡で見つけた宝石と瓜二つなうえ、その宝石を手に入れてからというもの、彼女の領地内で良くないことが度々起こるようになったという。具体的に何が起きたかというと・・・、この地方は温泉で有名なのだが(温泉にまともに入れないヴァンパイアが領主というツッコミを入れてはいけない、いや真水でなければいいのだから、鉱泉の成分濃度が高ければ入れるのか?)、その源泉が宝石を手に入れてから次々と枯れ出したのだと言う。さらに、畑の作物が不作になったり、家畜が謎の伝染病でバタバタと死んでいき、領地内の者も伝染病にかかり次々と倒れているという。
 と、いうか、私はそんなものをこれから手に入れないといけないのか・・・。

 だが、その宝石は今彼女の手元になかった。
 彼女の娘が、友達の家に遊びに行く際に、友達に自慢するために持って言ってしまったと言うのだ。まったく、これがジパングに伝わる『知らぬが仏』というヤツである。
 できるだけ早く魔剣への手がかりが欲しい私と、私の話を聞いて早く宝石を手放したくなった領主の意見が一致し、彼女の娘に対して、私にその宝石を手渡すよう紹介状を書いてくれたのだ。その紹介状は、本物である事の証明として、中の手紙に領主の紋章の印鑑を押し、その外袋は密蝋を垂らして一族の印で封をした物だった。

 そして、今私はその領主の娘が遊びに来ているという、街に来ている。その街は、回りを森に囲まれた静かな場所だった。その一角に目指す屋敷はある。
 さすがは領主の娘の友達だけあって、立派な屋敷だ。実家の屋敷といい勝負だろうか?さっそく領主の娘の友達(ややこしくなってきた・・・)に会おうかと思ったのだが、屋敷の執事らしき人物に門前払いを食らってしまった。屋敷の娘の友達の両親の紹介という長ったらしい文句が、怪しく思ったらしい。自分がデュラハンだと言っても、結果は同じだった。まあ、考えてみれば、私がデュラハンであろうがなかろうが、門前払いされる事には変わりなかったのだが。さて、どうしたものか・・・。

 件の屋敷がある街には宿屋が無かったため、近くの別の村の宿屋で休んでいた私は悩んでいた。やはり、両親の紹介状を持っているとはいえ、いきなり押しかけるのはダメだったのだろう。ここはちゃんとあらかじめ手紙を出さなくては。でも、考えてみたら、私は手紙なんて書いたことなかったな。
とりあえず、手紙を書いてみる。文面は・・・、『これからあなたの大事なモノをいただきに参ります。』っと、こんなものでいいだろう。あとは、これを出して屋敷に付く頃を見計らって尋ねればいい。

 このとき、私は手紙に彼女の両親の紹介状を添付するか悩んだが、私が直接手渡した方がいいだろうと思い、紹介状を手紙に入れなかった。もし、紹介状を手紙に入れていたならば、あのような事は起きなかったもしれない。いや・・・、起こっただろうな・・・。

・・・

 私はフロアセンという名前のヴァンパイア、母はこの地方の領主をつとめている。
 今、私は母の元を離れ友人の家に遊びに来ている。そんな私に、手紙が届いた。しかも、私の家ではなく今いる友人の家に・・・。
 怪しさ満点のその手紙を読むべきか迷ったが、その家の友人とあれこれ考えた結果、結局読んでみることにした。その内容は・・・。

〜〜 これから、あなたの大事なモノをいただきに参ります。 〜〜

 こ、これはいわゆる“予告状”と呼ばれるモノでは!でも、私が予告状を貰うほどのモノを持っていたかしら?
私が友人と、予告状に関して話し合っていると、彼女の執事がこう申し出てきた。なんでも、数日前に自分がデュラハンであるという女性が私を訪ねてきたのだという。そのときは昼間で、私は屋敷から持ってきた棺桶で横になっていたため、追い返したのだと言う。
 と、そこへ私の友人がなにかをひらめいたのか、大声で私に言ってきたのだ。

「そうよ、その手紙を出したのはきっとそのデュラハンよ。だから、デュラハンが言っている大事なモノって・・・。」
「大事なモノって?」
「きっと、貴方の事よ!」

 え?
 えええええええ!

・・・

 ルシィラが泊っている村とは、同じ領内にある別の街の酒場・・・。

 俺の名は、クラウニスという。

 以前は教会に属し、聖騎士なんてものをやっていたが、5年前この国を襲った事件を発端に、3年前に聖騎士を引退した。今では、引退したときに聖騎士団からかってに拝借した装備一式を使って冒険者まがいの事をしている。

「あう〜、つ〜か〜れ〜た〜。」

 今グチをこぼしたのは、この俺にひっついているサキュバスの少女だ。ミシェリスという名で、以前俺が助けたインキュバスとサキュバスの夫婦の娘らしい。どうやら、親がかなりの金を持っているらしく、自称俺の雇い主だ。おかげで、俺をボディーガードなんて呼んでいるし。

 そんな俺は、この国に、とあるモノを探しにきていた。俺の探すモノが、この国あるという保証はない。だが、どうしても見つけたくて、ダメもとでこの国来ているのだ。なぜなら、俺の探すものは5年前の事件に関係しているもので、どうやら教会が関与しているらしい。そして、5年前にこの国が魔界化してから、教会はこの国に手を出しづらくなっているので、もしかしたらそれが残っているかもしれないと思ったからだ。
 この国に来てから1カ月程たつが、なかなか手がかりすら見つけられなかった。俺は、冒険者まがいの仕事と、この国の探索を交互に行っていた。なぜならば、そうやって自分の路銀を自分で稼がないと、ミシェリスのヒモとして扱われてしまうからだ。まあ、それは置いておいて・・・。
 この街へは、以前いた地方をあらかた探索したので、場所を変えてみようかと思い来たのだ。とりあえず、この地方へはついたばかりで時間も夕日が落ちたばかりだった。今日はこの宿で一休みしようかと、1階の酒場で寛いでいると、一人の少女が酒場に入ってきたのだ。見た目は貴族っぽい衣装に、背中に生えた蝙蝠の羽からさっするに、ヴァンパイアと言ったところか。
 その少女は、俺を見つけるとこちらの方に歩いてきて、俺にこう言ってきたのだ。

「貴方、なかなか強そうね。」

 その言葉を聞いて、俺はピンと来た。

「依頼か?」
「ええ。」
「どういった内容なんだ?」
「貴方に私の護衛を依頼したいのですわ。私は、この地方を治める領主の娘、フロアセンと申します。実は・・・。」

 そう言って、その少女はこれまでの経緯を話しはじめたのだ。

「デュラハンが?」
「ええ、そうですの。」

 だが、デュラハンという魔物は、サキュバスと違い女性を同族にするような能力は無いはず。てか、ヴァンパイアの嫁に行くデュラハンって・・・。百合か?百合なのか?まあ、個人的な性格だと言われればそれまでなのだが。

「そのデュラハン、男より女の子の方が好きなのかな?」

 そうミシェリスが、俺に耳打ちをしてきた。

「さあな。」

 そんな、俺達の会話が聞こえたのか、その少女は突然声を上げる。

「ああ。全ては私が悪いのですわ。」
「は?」
「そう、私の美貌がそのデュラハンを狂わせてしまったのでしょう・・・。私とはなんと罪深い女なのでしょう・・・。」

 と、その少女は完全に自分の世界に酔っているようだ。だが、その少女は急に気を取り直したかのように、報酬の話をしてきた。

「報酬は・・・、そうですわね・・・。」

 そう言って、彼女が提示した金額はかなりのものだった。さすが、領主の娘。それに、領主の娘の依頼を解決し、その親・・・、すなわちこの地方の領主にいい顔ができれば、俺の探し物も見つけやすくなるかもしれないからだ。

「いいだろう。その依頼を受けてやろう。」
「では、さっそく私の友人の屋敷へ。」

・・・

 手紙を出してから3日が過ぎた。そろそろ、手紙が届いている頃だろうと思い、件の屋敷に向かった。今は真夜中、領主がヴァンパイアなのだから娘も当然そうだろうと思い、今度は夜中に行くことにしたのだ。一応、信じてもらうために、剣モドキと宝石モドキを持って行くことにした。

「ほうほう、なかなか大きな屋敷ですな〜。」

 そう言ったのはゴーストのクレミリア。前回来た時は、昼間だったので彼女は私の体に引っ込んでいたのだ。

 その屋敷の正門へ行くと、2人組みの人影が立っていた。なにやら、人間の騎士っぽい格好をした男と、サキュバスの様である。
 私が屋敷へ向かって行くと、その男が私に向かって話してきた。

「お前が、ここのお嬢様の友人に手紙を出したデュラハンか?」
「そうだ、デュラハンのルシィラという。」
「そうか、ならここを一歩たりとも通す訳にはいかないな。」

 そういって、盾を構えて腰の鞘から剣を抜き放つ。
 む、こいつ私の邪魔をする気か?だが、ここで諦めて呪いに殺される訳にはいかない。すると、屋敷の扉が開き、一人の少女が出てくる。

「あなたが、私に手紙を出したデュラハンですの?」
「ええ、ルシィラといいます。」

 どうやら、この少女が領主の娘のようだ。

「しかし、あなたに差し上げる訳には行きませんことよ!」
「貴方が何と言うと、貴方の両親はすでに承諾された事です。」

 そう言って、私は彼女に、彼女の両親が書いた紹介状を彼女に向かって投げた。適当に投げたつもりだったが、紹介状はかってに彼女の手に収まる。どうやら、彼女自身が中身を確認するために、魔力で紹介状を引き寄せたようだ。
 う〜〜ん。やっぱり私も、妹のように魔法をもっと勉強しておけばよかったかな〜。
 そんな、私の考えを余所に、ヴァンパイアのフロアセンは、封を取り両親からの紹介状を確認する。中にはこう書かれていた。

〜〜 我が娘フロアセンへ。

 そのデュラハン、ルシィラの求めるモノを彼女に渡しなさい。

 貴方の母より 〜〜

 その内容を読んだフロアセンは、手が震えだす。

「こ、これは・・・、間違いなく母の字。それに、手紙の封に使われている紋章や、手紙に押されている印鑑は間違いなく我が一族の紋章・・・。」
「ほう・・・、見せてみな。」

 クラウニスも気になったのか、その紹介状をフロアセンから受け取り中身を見る。そして、中身を見て一言・・・。

「両親も公認って事かよ・・・。」

 だが、フロアセンはそうは行かなかったようだ。

「納得行きませんわ。」

 そう言って、クラウニスの方を睨むように見て、こう言ったのだ。

「さあ、私は貴方を雇ったのよ。私のために、あのデュラハンを血祭りに上げておしまい!」
「おいおい、両親公認なのにいいのか?」
「構いませんわ。私の人生は私が決めます。」

 そう言って、フロアセンは次に私の方に向かってこう言ったのだ。

「ルシィラとか言いましたわね。」
「ええ」
「ではルシィラよ、貴方が望むモノがどうしても欲しいのなら、この男を倒しなさい。そうすれば私も諦めて、貴方の望むモノを渡しましょう。」

 どのみち、この男とは戦うしか道はない様だ。そういう事なら・・・。

「いいわ。」

 私も、剣モドキを彼女の家の塀に置き、背中の鞘から両手剣を抜く。
 一方、相手の男は相方のサキュバスこう言った。

「ミシェリス。お前は手を出さずに見ていろ。」
「あいあいさ〜。」

 どうやら、1対1のサシで勝負する気らしい。ならば、こっちも・・・。

「クレミリア。貴女も手だし無用よ。」
「というか〜、私は実体が無いので、手出しそのものができませよ〜。」

 そ、そうだった。ゴーストにつっこまれてしまった・・・。だが、相手はそんな事を気にする事なく、名乗りを上げてきた。

「俺の名はクラウニス、元聖騎士の今はただの冒険者さ。」

 む、1対1の戦いで名乗りを上げたのだから、こっちも名乗るのが礼儀だというモノだろう。

「私は、魔界の騎士イメルが長女ルシィラ。」

 い、言ってやったぞ。やっぱり、騎士はこうでなくっちゃ。しかし、元とはいえ聖騎士ってことは、かなり強いってことだよね・・・。でも、ここで諦める訳にはいかない。

「では・・・。」
「行くぞ!」

 そう言って、先に出たのは私だ。
 相手向かって突進し、そのまま剣で突きを放つ。

ガキィィィン

 その一撃を、相手は盾で受け止め、そのまま片手剣でサイドスィングを繰り出してきた。だが、私の両手剣の方がリーチがあるため、左足を後ろに送り上半身をそらすだけ回避する。上体を起こした私は、そのまま再び突きを繰り出した。
 その突きに対し、今度は真っ正面から受けるのではなく、盾の凸面を利用して剣先をそらし、そのまま間合いに入って片手剣で縦斬りを放ってくる。
私は、それを横に避けるが、まだ間合いが近すぎて剣で攻撃できず、バックステップで間合いを計ろうとするが。向うは、振り下ろした剣を逆袈裟に切り上げてきた。だが、間一髪間合いを離すことに成功する。

「その戦いかた、さすがデュラハンと言ったとこか。」
「そっちも、元聖騎士というだけあって、そう簡単には勝たせてくれそうにもないわね。」

 そこへ、件のお嬢様の罵声が飛ぶ。

「何をしているのです。さっさと倒しておしまいなさい!」

 その声をきき、クラウニスはルシィラに言った。

「お嬢様もああ言っていることだし、いいかげん諦めたらどうだ?」
「そういう訳にはいかない。私は、このために今まで旅をしてきたのだからな!」

 そして、ルシィラは叫びながら斬撃を繰り出す。

「ここで、諦める訳にはいかないんだあぁぁぁぁぁ!」

 クラウニスはその言葉を聞き・・・。

(こいつガチなのか・・・。ガチで百合なのか・・・。)

 と、考えていたことを、ルシィラは知るよしもなく、2人の戦いは続いて行く。

「っく!」

 金属音が鳴り響くなか、私はなかなか決定打を討ちこめずにいた。
 私の武器は両手剣で、対するクラウニスは片手剣とリーチの上では若干私のほうが勝っている。だが、相手はそれを盾で受け流し、そのスキをついて接近することでそのリーチの差を埋めてきている。
 こちらのリーチが長いため、圧している場面はこちらが多いものの、一旦受け流され体制が少しでも崩されると、たちまち手数で押され後退するはめになる。そして、有る程度後退し距離を取ると、またリーチでこちらが圧して行く。今は、その繰り返しだ。

 私のサイドスィングを、元聖騎士は真半身になりながら剣で受け流すと、私の顔面目がけて盾をぶつけようとしてくる。
 だが、その攻撃は途中で止められる。

「おっと、あんたはデュラハンだったな。依頼人のお嬢様がいるこの場で、首を落とすのはよくないよな。」

 と、そう言ってきたのだ。
 ほう、元教会関係者とはいえなかなか紳士的なヤツだなと、私は思った。
だが、実際にクラウニスが考えていたのは、首が取れ見境がなくなったルシィラがこの場でフロアセンを襲うのを恐れただけなのだが・・・。

 一方、クレミリアと相手方のサキュバスはというと・・・。

「デュラハンの騎士〜、相手はふらついたぞ、そのまま吹っ飛ばせ〜。」
「ルシィラ〜、がんばれです〜。」

 なんてことや・・・。

「クラウニス〜、今こそ反撃のチャンスだ〜。」
「元聖騎士〜、今こそ必殺の一撃を入れるです〜。」

 ・・・と、2人そろって、こちらの戦いを応援していた。と、いっても、クレミリアが私を応援し、サキュバスが騎士の応援をしている訳ではなく・・・。2人とも、そろいもそろって、私が騎士を圧して行けば騎士を応援し、逆に私が騎士に圧されると私を応援するという。まるで、酒場で酔っ払いの喧嘩を応援する、酔っぱらった野次馬共みたいな事をやっていた・・・。

「・・・」
「・・・」

 その様子を見た私と、相手の騎士はお互いにため息をつく。
 そして、お互いに顔を見合わせると、お互いそのまま向きを180度変え・・・。

「お前らは」
「いったい・・・」
「「どっちの味方だ〜〜〜!」」

 そう言うと、再び相手に向かって向き直った。

「失礼・・・。」
「いや、こちらこそ・・・。」

 で、件のヴァンパイアはというと・・・。

「はあぁぁぁ、私をめぐって2人の騎士がお互いに技を競いあう・・・、私はなんて罪深い女なのでしょう・・・。」

 と、かってに自分の世界に入り込んでいる・・・。なんでだろう・・・、戦っているうちに、どんどんやる気が無くなっていく・・・。それは相手も同じだったようだ、お互いに戦いのペースが徐々にスローダウンしていく・・・。

 そんなこんなで、戦いは長引き(むろん私達のせいだけでは無い、主に外野が・・・)、徐々に夜明けが近づいてきていた。そんな時だ、戦っていた2人の動きが一定の間合いを開き、止まったのだ・・・。2人とも、(色々な意味で)疲労が溜まっており、これ以上の長期戦は無理だろうと理解していた。

 お互いに分かっていた、次の交戦で勝負は決まる・・・。外野の3人も、その雰囲気を感じ取ったのか一言もしゃべらない。沈黙が、戦いの場を包み込んだ。

 2人の間に、緊張が走る。だが、一人の放った言葉がその緊張を破った。

「もう、よろしいですわ。」

 そう、フロアセンが申し出たのだ。

「ルシィラと申しましたね、貴方様の熱意はしかと受け取りました。」
「え?では渡してくれるのですか?」
「ええ、これ以上、私のために2人を戦わせる訳にはまいりません。ここは私が折れましょう・・・。」
「いいのか?」

 そう言ったのはクラウニスだ。

「それは、あんたがそのデュラハンの婿になるって事だが。」

 ん?今なんて言った?“婿”なんて言葉が聞こえたが・・・。

「ええ、私は決めました。貴方様を嫁に向かえることを・・・。」

 え?今“嫁”って言った?

「それで全てが丸く収まるのでしたら、私は喜んでこの身を差し上げます。」

 ここに来て、私は気がついた。
 もしかして、彼女勘違いをしている?

「さあ、ルシィラ様、どうか私を貰って下さいまし。」
「いや・・・、私が欲しいのは貴女じゃないんだけど・・・。」
「「はあぁぁ?」」

 そう、フロアセンとクラウニスの声が重なっていた。

 しばらくして、私はフロアセンの友人の家に上がっていた。目の前のテーブルには、私が持ってきていた剣モドキと宝石モドキが乗っている。私は、それを彼女等に見せ、私の旅の理由である呪いの事、そしてここに至るまでの経緯を話したのだ。
 しばらくして、フロアセンは自分に割り当てられていた部屋か戻ってきた。その手に、件の宝石を持って。

「たしかに、同じだな・・・」

 その宝石を見て、クラウニスはそう言った。たしかに、テーブルに並べてみると、私が教会の地下施設跡で見つけたものとウリ二つだった。そして、クラウニスはこう言ってきたのだ。

「しかし、あんたも俺達同様にこの国に探し物があって来たとはな。」
「あんた“も”?」
「俺は今、とある事件から『AM資料』という物を追っているんだ。」
「『AM資料』・・・?はて、どっかでその様な物を見たことあるような気が・・・。」
「本当か?」

 そう言って、クラウニスは身を乗り出してきた。

「ええっと〜・・・、何処だっけかな〜・・・。」

 私は何処かで見たであろう、その『AM資料』の事を思い出そうとしていたが、なかなか思いだせない。

「う〜ん・・・。」

と、なかなか思い出せない私に、あるモノが目に飛び込んできた。それは、テーブルに置いてある剣モドキと2つの宝石モドキだった。私は、その3つを見て・・・。

「あ!」

 思い出したのだ。

「たしか、こことは別の地方にある、礼拝堂に隠された教会の地下施設跡に、そう書かれた紙が散らばっていた。」
「それは今も、その教会の地下施設跡にあるのか。」
「いや、その施設で出会った、ファルナールという名のバフォメットが全て持って行った。」
「バフォメットだと?」
「ああ。ここへは、そのバフォメットに占術をしてもらって、ここまで辿りついたのだ。」
「ほう、そりゃまたずいぶんと的確な占術だな。」
「それが妙なのだ。」
「妙?」
「そのバフォメットに占術をしてもらったとき、そのバフォメットは『まるでその剣モドキと宝石が、次の場所を我に教えてくれたようだ』みたいな事を行っていたのだが・・・。実は、その教会の施設跡にあった宝石も、もともとはとある魔女に占術をしてもらって、このダスクハイムの国を探索して見つけたのだが・・・。その魔女に占術をしてもらったときも、似たような事を言っていたのだ。」
「ふぅむ。」
「この地の領主が、宝石モドキを手に入れてから領地無いで良くないことが起きるようになったと言っているが・・・、それは宝石モドキが領主の手を離れて、魔剣を私に見つけさせたいと思っている。と、いうのは考えすぎだろうか・・・。」

 そんな考えを巡らせていると、私を見つめるフロアセンの視線を感じた。

「ん?私になにかついてますか?」

 クレミリアが憑いている。と、いうツッコミは無しだ。

「いえ、ルシィラ様は、なんと過酷な運命を背負われていらっしゃいますのね・・・。」
「え、ええ。」
「そんな運命を背負っているとはつゆしらず、私はルシィラ様を追い返そうとしていましたのね。」
「は、はあ」

 なんか、私を見つめる視線が熱くなってきているような気がしてきた・・・。

「しかし、ルシィラ様の戦っているお姿を見て。私胸がときめいてしまいましたわ・・・。そして思いましたの、貴女が相手でしたら私がお婿になってもと・・・。」

 そう言って、フロアセンはウルウルとして瞳を私に向けながら、私の手に両手を重ねてきたのだ。
 私は、背中がゾゾゾっと寒くなる感じがした。てか、いつの間にか私に対する呼び名がルシィラ“様”になっているし・・・。まさか、さっきの戦いを止めたのって・・・。

「ああ、ルシィラ様・・・、おしたい申し上げてますわ。」
「で、で、で、でわ、先ほども言いましたように、わ、わ、わ、私には呪いのせいで時間がありませんので、これにて失礼させていただきます〜。」

 そう言って、私は彼女の手を振りほどくと、テーブルの上に置いてある剣モドキと2つの宝石モドキを手に取り、逃げるように(ある意味彼女から本当に逃げるため)屋敷の出口へと向かったのだ。

「行ってしまわれますのね、私の愛しいお方・・・。ああ、この胸が張り裂けそうな思い。これが、失恋というものなのですね・・・。ですが、私は祈っております。貴方様の呪いが解け、この旅に終わりが来ることを・・・。」
「「「「・・・」」」」

 そんなフロアセンを、彼女の友人とその執事、およびクラウニスとミシェリルはなんとも複雑な表情で見ていた。
 そして、受け取る物を受け取った私は、一目散にその屋敷のある街を出たのは、言うまでもない。

 宿屋に戻ったのは、昼ごろだった。
 丁度そのとき、私に声をかけてくる者がいた。

「ど〜も〜、ハーピー便です。ルシィラ様にお手紙をお届けに参りました。」

 私は、手紙を受け取ると。受取書にサインをした。

「ほんと、毎度毎度よく私の位置が分かるわね〜。」

 そう言うと、ハーピー便のお姉さんがこう言ったのだ。

「いや〜。いつも、貴方の妹さんが、貴方のいる位置を的確に教えてくれるみたいですよ。だから、こっちも探しやすいものでして。でわ〜。」
「え?」

 なんか、今不吉な事を聞いたような気がしたが・・・。き、気にしないでおこう。うん、きっとそれがいい・・・。

 受け取った手紙には、家族からの他にエレリーナさんからのもあった。たしか、私がダスクハイムの探索を初めてから程なくして、実家でいろいろと呪いに関するものを調べてもらっていたんだっけ。以前もらった手紙に、呪いに関しておかしな所を見つけたとか書いてあったから、それに関することかな?
 とにかく、私は家族からの手紙を読んだあと、エレリーナさんの手紙を読み始めた。
 エレリーナさんから届いた手紙には、こう書かれていた。

〜〜 ルシィラさんへ

 どうも、お久しぶりです。今度、貴方のご両親の許可をいただいて物置を調べていましたら、貴方のご先祖に関する僅かばかりの資料を発見いたしました。それを調べた結果、魔剣に関してある程度のことが分かってまいりました。その魔剣というのは、貴方のお父上が“この世のものならぬ魔剣”と申しておりましたとおり、どうやら異世界からやってきた代物のようです。その異世界の魔剣が、この世界に現れるというのを貴方様のご先祖が砂漠の預言者より教えられ、探し始めたのが事の発端のようです。
 これから私は、ルーカストの街の図書館に戻り、魔剣がこの世界に来る前にいた異世界というのを調べたいと思います。ルーカストの図書館で保管されている、禁忌指定の異世界に関する知識が治められた本の中に、もしかすると件の魔剣に関する詳しい情報があるかもしれません。
 貴方のご先祖の事や、過去の事に関しては私が調べておきます。
詳しいことが分かり次第、また手紙を出します。どうか、貴方は貴方の旅を続けられますように。

エレリーナより 〜〜

 その手紙を読んで、私の次の目的地は決まった。ご先祖様が預言を受けたという、砂漠の神殿に行ってみよう。そうすれば、何か分かるかもしれない。砂漠地帯へは、ここから2・3週間かかるな・・・。砂漠か〜、なんか暑そうだな・・・。いや、確実に熱いだろうな・・・。でも、文句は行っていられないか。

 こうして、私はダスクハイムの国を離れて、一路砂漠へと向かったのだ。

・・・・・
・・・・
・・・
・・


 ここは砂漠の中の神殿。その最も奥の間において、椅子に腰かけ瞑想を行っていたアヌビスのフシャルイムが目を開け、預言の言葉を語りだす。

「運命に記された娘が、まもなく此処を訪れる。」
「・・・(カキカキ)」

 また、例のごとく、彼女に仕えるスフィンクスが預言の内容を書き取っていく。

「その娘のために、我は道標となりし預言を行うであろう。」
「・・・(カキカキ)」
「だが、その娘に語ってはならぬ事もある。その娘のために、世界に邪悪なる者が解き放たれるのか。世界のために、その娘が自ら犠牲になるのか。それを選択するのは、その娘では無いのだから。」
「・・・(カキカキ)」

 そう言い終わると、フシャルイムは再び目を閉じる。
 それを見たスフィンクスは、書き終えた内容を保管するべく、部屋を出て行った。
11/06/11 09:22更新 / KのHF
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■作者メッセージ
 なんだかんだで、やっぱり1万字越え・・・。

 教訓:手紙はきちんと書きましょう。

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