連載小説
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第3話 そこは魔界ダスクハイム
 ダスクハイム。そこは5年前に突如として魔界へと変貌した。教会は、突如として魔王の軍隊が進軍し、その結果だと言っている。が、その信憑性は低く、その詳しい原因はいまだ不明とされている。

 その地で、私はゴブリンの盗賊団を相手に一人で戦いを挑んでいた。
 理由は単純。私が、ゴブリンの盗賊団に荷物を奪われた商人からの依頼を、冒険者ギルドを通じて受けたからだ。どうやら、この盗賊団は森の中にある洞窟を根城に近辺を荒らしているらしく、私はその根城へ直接殴りこみにいったという訳だ。
 5年前の事件以来、この国の機能はほぼマヒ状態である。地方によって、領主の力によって安定している場所もあるのだが、そうはいかない地域では盗賊団がけっこう横行している。このゴブリンの盗賊団も、そういったものの一つらしい。
 私は、初めは根城にしている洞窟の入り口で、見張りをしていたゴブリンに対し。

「おとなしく荷物を返せば見逃してやる。」

と、言ったのだが、見張りは洞窟の中にいた仲間を呼び寄せ、どうやら徹底抗戦の構えを見せる。どうやら、一団総出でお出迎えらしい。やれやれと、思いながらも私は背中に担いだ鞘から愛用の両手剣を抜いたのだ。

 そして、今にいたる。

 私は剣を持って、右へ180度回転し後方を向くと、さらに180度回転し、1回転する勢いをつけてサイドスィングを繰り出す。

「うおりゃぁぁああ」

ブウゥゥン

「「「ひゃあぁぁ」」」

 横一閃した剣線は、彼女達の直前を通りすぎていっただけだが、剣先が彼女達の武器を吹き飛ばし、剣圧が彼女達自身を後方に押し出す。
 それでも、他のゴブリン達はひるまずにかかってくる。その内の一人が、私に向かって真上から棍棒を振り下ろしてくる。私は、その攻撃を後方に僅かに下がって回避する。

ズウゥゥン

 その攻撃で地面が凹み、足元にそれなりに強い衝撃が走る。食らえばただでは済まない攻撃だ。
 私は、その振り下ろされた棍棒の、握り手近くに剣を振り下ろした。堅い感触と共に、彼女の武器は柄を残して残りは明後日の方向に飛んでいく。
 そこへ右前方から、別なゴブリンが頭上に棍棒を振り上げながら、突進してくる。私は剣先が地面に接している剣を、正面から見て剣先が逆時計回りの半円を描くように剣を持ち上げながら、振り下ろされようとしている棍棒を払う。
 そのまま、私は剣を頭上に持って行き、180度向きを変えると、剣に闘気を込めて地面に叩きつける。

ドオォォン

 その《爆裂波》で、後方から私に接近してきていたゴブリン3人をまとめて吹き飛ばした。それでも、まだ半数近くが戦意を喪失せずに襲って来る。
 私は、こちらに向かって来るゴブリンの足元の地面に向かって突きを繰り出す。その攻撃を見て、思わず足を止めるゴブリン。私はそのまま、剣先を地面そって薙ぎ払い、数人のゴブリンを転ばせる。
 その直後、剣の腹に片手をそえた剣先を下に、逆手に持った柄を上に構え、そのまま数人固まっている場所に突進し、その内の一人を吹き飛ばす。そして、逆手に持った剣の柄で一人の腹に一撃し、怯んだところを柄を腹にあてたまま持ち上げ、反対側にいたゴブリンに向かって投げつけた。

 やがて、ゴブリン達の大半が地に伏した時、一人のゴブリンがこう叫んだのだ。

「せ、先生お願いしますです。」

 すると、立っていたゴブリン達をかき分け、一人のゴブリンが現れたのだ。だが、そのゴブリンは他のゴブリンと違い、ロリ体型のくせにやたらと胸があったのだ。
 その、ゴブリンっぽくないゴブリンの胸を見たあと、ちらり顔を下に向け自分の胸を見た・・・。
 く、くやしくなんかないぞ・・・。

 だが、でかいのは胸だけでは無かった。

「よっと」

 そう言って、そのゴブリンは自分の得物を肩にかついだのだが、その得物というのが彼女の身長ほどもある棍棒。相手に打撃を与える部分の太さにいたっては、ゆうに彼女の胴体の4・5倍はありそうだった。
 それを軽々と肩に担ぎあげたのだ。
 そのまま、トテトテと危なげな足取りでこちらに向かってくる。私は、剣を構えてそれを待ち構えた。すると、そのゴブリンは肩に担いでいた棍棒を、いきなり横薙ぎに払ってきた。

「よっと」

もっとも、その武器の間合いからすれば、十分な距離があったので、私は僅かに後退しただけで攻撃そのものは避けられたのだが・・・。

ッゴウ

 その武器から発生した剣圧(?)で、思わず後ろに飛ばされそうになるのを、足を踏ん張って留まる。軽く振っただけで、これだけの剣圧(?)を生み出せるのか。ここは距離をおき、隙を見て近づき一撃を入れるほうがいいだろう。
 だが、当の本人はのんきな声を上げている。

「あら〜、はずしちゃった〜。」

 私は、そのゴブリンと距離を取るために、少しずつ後退していった。だが、それも限界になる。私の後ろには樹が立っているのだ。
 そのゴブリンが、棍棒を手に再びサイドスィングを繰り出す。私は、後ろの樹の背後に回り込むように、つまりその樹を盾にしてその攻撃をやりすごしたのだが。

バキィィ

 すさまじい音と共に、棍棒がその樹の一部を破壊していた。その一撃は、その樹を凹ませたのではなく、完全に幹をえぐり取っていた。そして、ゴブリンの一撃で樹が抉られたことでその樹木が傾きだし、そのまま倒れてしまった。

ズ、ズ、ズドォォォォォン

「うひぃぃぃ」
「えへへ、またはずしちゃった〜」

 冗談ではない、これは先ほどのゴブリンなんかと比べ物にならない威力である。こんなのを食らったら、一撃で確実に沈んでしまう。
 ここは早めに勝負を付けたほうよさそうだ。

 たしかに、彼女は隙だらけなのだが、その得物がやっかいだった。隙を見つけて攻撃を入れたとしても、慣性で威力の衰えないその棍棒を食らってしまってはダメなのだ。まだ、全員を倒したわけではないので、彼女を倒したとしても、相討ちでは残りが襲ってきたてしまう。ましてや、両手剣で受けようにも、下手に受けたら剣が壊れるのは確実だ。

 他のゴブリン達は、彼女の攻撃に巻き込まれるのが怖いのか、遠目に見ているだけで、こちらに手を出そうとはしない。まあ、普通はそれがけんめいな判断である。

 そのゴブリンは、まるで駄々っ子の様に間合いの外から棍棒を振り回してくる。それを後退しながら避ける私。ああも振り回されては、隙があっても攻め入ることができない。

 そのゴブリンは、私が攻撃を回避するたびに、私に当たらなかった一撃で樹やら岩やらを壊しまくり、自然破壊を繰り返しながら私に迫ってくる。このままだと、ここら一帯の景観が変わってしまいそうである。
 と、そのとき・・・。

ドテッ!

突然、ゴブリンが何もない場所で盛大に転んだのだ。だが、問題はそのゴブリンではない。彼女が持っていた武器が、転んだ勢いで私に向かって飛んで来たのだ。その、不意打ちに近い一撃を、私はものの見事に受けてしまった。

「っぐ!」

 腹部にすさまじい衝撃を感じ、そのまま後方にとばされ木に激突し、大の字に木にはりつけられる。その後、前のめりで地面に叩きつけられた。今の一撃で、首が外れなかったのは運が良かった。剣も手放さなかったので、まだ行けるはず。
 一方、私に命中した武器は、私に当たった反動でもとの持ち主の方に飛んでいく。そして、モノの見事に彼女の目の前に転がって行った。
 そのゴブリンは、起き上がると目の前の武器を取り、こう言ったのだ。

「えへへへ、ころんじゃいました。」

 と、痛恨の一撃を食らわせてくれた、当の本人はのんきなものである。むしろ、私に一撃入れた事すら気付いてない?
 私も、なんとか剣を杖がわりに起き上がるも、やはりけっこうなダメージを貰ってしまった。次に、同じような威力の攻撃を受ければ、勝負が決してしまうのは明白だった。なら、彼女より早く私が一撃を決めなければ・・・。

 私は、剣先を地面にこすりつけながら、そのゴブリンに向かって突進していった。

「はあああぁぁぁ」
「あはは」

 そのゴブリンは、手にもった棍棒を振り上げ、そのまま私の突進を迎え討とうとしている。そして、私の剣の間合いにゴブリンが入るかなり手前で、剣先を地面から離し、そのゴブリンの武器に向かって逆袈裟に斬撃を入れる。それに合わせるように、ゴブリンも棍棒を私に向かって振り下ろした。
 これは、剣先を地面に押さえつけながら突進することでその力を溜め、斬撃の瞬間に剣先を地面から離しその力を一気に解放し、斬撃の威力を上昇させるジパングに『地すり残月』と伝わる技だ。残月とは、地面から解放された斬撃の剣線が、三日月に見えることからついたと言われている。

ガキィィィン

 そんな金属音がして、ゴブリンの棍棒が彼女の後方へ飛んで行った。もっとも、当の本人は何が起こったのかいまだに把握できないらしく、目をパチクリしている。
 そんな隙を逃す私ではない。私は、斬りあげた剣が頭上を越えて後方へ流れている力を利用し、彼女のアゴ目がけて蹴りを入れる。

ゴッ

 私の蹴りがきれいに決まり、そのゴブリンは放物線を描いて飛んでいき、そのまま地面に落ちてノビてしまったようだ。

「きゅ〜〜〜(@×@)」
「わ〜〜、先生がやられてもうたです〜。」

 そして、ゴブリンの残っていた者達は、(件のゴブリンも含めて)地面に伸びていた者達を回収し、この場から逃げ出して行った。どうやら、この洞窟は放棄したようである。

「んじゃ、遠慮なく。」

 そう言って、私は彼女達の根城にしていた洞窟へ入っていき、目的の品物を見つけそれを回収した。あとはこれを、依頼を受けた冒険者ギルドの受付に持って行けば、依頼は達成される。私は、冒険者ギルトの受付に向かって洞窟を後にした。

 冒険者ギルドで、依頼を達成した報酬と受け取り、私は宿屋で借りていた部屋へと戻ってきた。そして、そのままベッドに腰掛ける。

「っふぅ」

 とりあえず、今日はこのまま休むことにしよう。私は、部屋の壁に立てかけていた剣モドキを見ながら、一人つぶやいた。

「あと、どれだけ探せばいいのかな・・・。」

 お金は受け取ったし、また明日からこの国の探索の再開だ。冒険者としての依頼を受けたときは、この剣モドキを宿屋に置いていくが、探索中は常に持って行っている。なにしろ、この剣モドキが“魔剣を見つけるためのカギ”だ、なんて言われているから、肝心なときに手元に無くてはこまる。

・・・

 ルーカストの街を出てから4カ月。
 私は、この地域の怪しい場所を探索していき、路銀がなくなれば冒険者まがいの依頼を受けると言うことを繰り返した。名の知れた冒険者という訳ではない私は、始めのうちはまさにその日暮らしの依頼を繰り返していた。が、そのうち、今の様なそれなりの報酬を受け取れる仕事も受けられるになった。
 故郷の両親とは、だいたい1カ月おきに手紙をやり取りしている。時々、手紙と一緒に路銀が入っていたりもしている。
 だが、私はこのダスクハイムを探索するとき、拠点となる宿屋を決めずにあっちこっちと移動している。だが、手紙の日付を見ると、出されてからあまり時間がたたずに私の元に手紙が届いている。なぜだろう?まあ、早く届くのは悪い事じゃないのだから、気にしないことにした。
 こうした探索の大半は、すでに他の人の手によって探索し尽くされた後や、5年前の事件で廃墟となった建物がほとんどだった。私は、探索した怪しい個所を地図に記入していった。その調べた地域が、この国の半分に達しようとしたとき、ついに私はその場所にたどり着いた。

 そこは、魔界化したこのダスクハイムの国の中で、特に負の魔力が濃い部分である。
 そこに、教会の施設跡はあった。
 それは、街外れの礼拝堂として存在していたようだ。だが、長い間放置された結果、その建物の一か所が崩れ、地下室への入り口が現れていた。私は、ランタンに灯りをつけ、その地下へ降りて行った。

 その地下室の様子は、上の礼拝堂とはまったく異なる様相だった。妹の女友達に、錬金術師がいるのだが、以前妹につれられて彼女の部屋を見たらこんな感じだった。ここは、錬金術師の研究室だったのだろうか?だが、教会の地下室とはまた奇妙な。
 私は、そんな入り口の建物に似つかわしくない地下室を奥へと進んでいった。

 そこは何かの資料室だったのだろうか、床一面に紙が散乱していた。その一枚を拾ってみると、その紙には『AM資料』という文字は読めたのだが。残りの文字は、全て暗号化されているらしく、私には読むことができなかった。
 これが何か分かれば、この地下室が何なのか分かるかとおも思ったが。ひっくり返して読もうが、裏返して読もうが、私にはさっぱりだった。
 そんなとき・・・。

「ほう、こんな所に先客がおるとな。」

 と、私に声をかけてくる者がいた。
 誰かと、振り返ってみると。そこには、異様に露出度の高い服を着た幼女が立っていた。だが、頭部から生えた角と、その体に感じる圧倒的な魔力は・・・。まちがいない、彼女はバフォメットだ・・・。だが、何故バフォメットがここへ?ここは、礼拝堂の地下を改造して作った、彼女の研究室だとでもいうのだろうか?

「ワシはファルナールという、見た目通りバフォメットじゃ。」
「私はルシィラ。見た目からは分かりにくいかもしれないけど、デュラハンよ。」
「ふむ。そんなデュラハンが何故このような所へ?ここは教会の施設だった場所のようじゃが?」

 どうやら、この地下室は彼女のもという訳ではないらしい。私は、呪いの事を話すべきか迷ったが、相手は自分より上位の魔物だし、ここは相手を尊重して話しておく事にした。
 私は、かいつまんでであるが、一族にかけられた呪いと、ここにいたるまでの経緯を彼女に話した。

「で、見つけたのがこの散らばった紙と。」

 そういって、バフォメットのファルナールも足元の紙を拾う。

「どれどれ、『AM資料』という文字は読めるが、肝心の内容は暗号化されていて分からんの〜。しかし、なかなか上質な紙を使っておるの〜。」

 そう言って、散らばっている紙を集め始める。どうやら、纏めて回収していくつもりらしい。

「そんな紙を集めて、解読するつもりですか?」

 私が聞いてみると。

「いやいや。これは別の目的に使うんじゃよ。」
「いったいどんな?」
「それは、企業秘密じゃ。」

 なんて答えが帰ってきた。まあ、気にすることも無いだろう。
 なんて考えていると、ファルナールは私の持ち在るている剣モドキを見て、こう言った。

「で、これが件の剣モドキか。しかし、ずいぶんとデカイの〜。」

 たしかに、この剣モドキは剣身の部分だけでも私の身長とほぼ同じのだから、バフォメットのファルナールからすれば、そうとうな大きさになる。今は依頼を受けている訳ではないので、これを持ち歩いて探索しているわけだが、やっぱりその大きさのせいでけっこう邪魔なときもある。

「ここで会ったのも何かの縁じゃ。ワシが一つお主のモノ探しを手伝ってやろう。」
「え?」
「では、ワシもその魔女が行ったという占術を一つやってみようかの。これでも、ワシも占術は得意なほうじゃて。ここへ来たのも、この場所にくればなにか暇つぶしができると占いの結果に出たからじゃ。」

 言った言葉の後半に、何か全てを台無しにするような事を言っていたいような気もするが、気にしないでおこう・・・。
 それに、バフォメット程の人物がせっかく手伝ってくれるというのだ、ここは素直に任せてみよう。

「では、その魔女が行ったという占術同様、ワシもその剣モドキから繋がりの糸を探ってみるかの。」
「分かりました。お願いします。」

 そう言って、私はファルナールに剣モドキを渡した。剣モドキを受け取ったファルナールは、剣モドキを地面に置くと、それに両手をかざし意識を集中させはじめる。

「うぬぬぬ!」
「・・・」
「むおおお!」
「・・・」

 そうすることしばらくして・・・。

「む、見えたぞ!」
「!」

 そう言って、剣モドキにかざしていた両手をどける。そして、こう言ったのだ。

「どうやら、お主の探しているモノは、この地下室のどこかにあるようじゃな。」
「え?」
「場所もだいたい把握しておる、ついて来るがよい。」

 そう言って、スタスタとファルナールは歩き出す。私もあわてて、彼女の後をついて行ったのだ。

 ファルナールが探知した場所に向かう途中、私は気になっていた事を聞いてみることにした。

「しかし、ファルナール様はなんで・・・。」
「ワシの事はファルナールでかまわんぞ。」
「ん。ではファルナール殿は何でこの場所へ?」
「うむ。先ほど申したとおりの、暇じゃったから、暇つぶしの場所を求めて占ってみたらここを示したので来てみた。ただそれだけじゃ。」
「さいですか・・・。」
「しかし、あれじゃの。」
「ん?」
「探知魔法を行ったときなんじゃが、まるでその剣モドキがワシにその仲間の位置を教えているような感じがしたぞ。」
「そういえば、私をこの地に導いてくれた、魔女が占術を行った時も、似た事を言っていましたな。」
「もしかしたら、お主が探している魔剣とやらも、自身が発見されたがっておるのかもしれぬの。」

 だとしたら、それhそれで好都合だと、私はそのとき思った。そのときだ・・・。

「む、そこにおるのは誰じゃ!」

 突然、フェルナールが虚空に向かって言い放ったのだ。だが、私がその方向を見ても誰もいなかった。
 しかし、フェルナールが見つめる先で、ぼんやりとした白いモヤのようなモノが見えて行き。やがて、それは半透明な人の形をなしていく。

(ぎゃ〜〜〜、オ、オバケ〜〜〜)

 私は、(自分がデュラハンであることを棚に上げて)喉元まで出かかった言葉を、なんとか声に出さずに堪えた。一方、ファルナールは・・・。

「なんじゃ、ただのゴーストか。」

 と、冷静なものだった。すると、そのゴーストは私に向かってこう言ってきたのだ。

「貴方も大変だったのね〜。」
「は?」
「いや呪いのこと。貴方達の会話が聞こえちゃったもので。」

 なんかゴーストに同情されてしまった。そんな中、ファルナールはあることを思いつていた。

「お主は、この施設に彷徨って長いのかの?」
「う〜ん、ていうか、この施設のことしか記憶になかったり〜。」
「では、お主はこの施設で、この世界のものでは無いような妙な魔力を放つモノを見たことはないかの?」
「ん〜、アレのことかな〜?」

 そう言って、彼女が連れてきたのは、妙に頑丈そうな扉の前だった。

「あの扉の奥に、この施設の人達が時々大事そうに扱っていた物があるの〜。探しものはそれじゃないかな〜。」
「開け方とか分かる?」

 と、私は聞いてみたが。

「さあ?よくわかんな〜い。」

 これである。
 と、そこへファルナールが・・・。

「っほっほっほ。ここはワシの出番じゃの。」

 そう言って、片手を突き出し、その手に魔力を集中させる。なぜか、危険な感じがしたので、私はすばやく物影に隠れた。

「ゆくぞ!」
「マナエクスプロージョン【魔力爆発】」

ドオオォォォン

 激しい爆発音があたりに響く。私は、隠れていた物影から身を乗り出し、当たりの様子を伺うと・・・。
 そこには、無傷の扉と埃まみれになり、目だけをパチクリしているファルナールがいた。

「言い忘れたけど〜、その扉には魔法を反射させる機能があるの〜。」
「それを先にいえ〜〜〜。」

 ファルナールの言い分はもっともだと思う。
 しかし、それはそれで困った。開け方が分からず、かといって魔法は効かなそうだし・・・。
 と、そこで私は、ふとある事を思いつく。
 私は持っていた剣で、扉ではなく壁の方を攻撃した。すると、思っていた通り扉は頑丈でも、壁は手抜きだったようだ。教会の施設、特に地方のモノというのは、しょせんその様なものである。

「ねえ。こっちの壁を魔法で吹き飛ばせない?」
「おう、まかされよ。」

 そう言って、ファルナールは再び同じ魔法を、今度は壁に向かって放つ。

「マナエクスプロージョン」

ドオオォォォン

 今度は、反射せずに壁に穴が開いた。
 土煙が晴れると、私は壁に空いた穴を覗き込み、奥をランタンの光で照らす。どうやら、扉の奥の部屋へと繋がったらしい。

「どうやら、上手くいったみたい。」

 そう言うと、私は壁に空いた穴へと入って行った。私に続き、ファルナールも入ってくる。最後に、ゴーストである彼女は、穴を通らずにどうどうと壁をすり抜けてきた。
 穴の中、つまり扉の奥は一つの部屋になっていた。そして、その部屋の中に一つの台座が有り、その台座の上に赤い色の宝石のようなモノが置いてあった。この赤い宝石のようなモノが、魔剣への手がかりだとでもいうのだろうか?
 私は、その宝石を取ろうとして、ふとある事を思いゴーストに訪ねた。

「念のために聞くけど、これ取ろうとするとトラップかなにか発動しない?」
「う〜ん、私の知るかぎりだと〜、それを取っても特になにも起こらなかったよ。」
「そう。」

 そう聞いて、私は恐る恐る宝石を手に取ってみた。どうやら、何も起こらないようだ。

「これも魔剣への手がかりなのかしら?」
「さっき、ワシが行った占術が示したのはそれで間違いないはずじゃ。」

 どうやら、これで間違いなさそうだ。

「そう・・・、ならさっさと地上に戻りましょう。」
「うむ、そうじゃの。」

 そう、こんなゴーストがうろついているような場所など、さっさとオサラバするにかぎる。そして、私達は地上へ戻るために来た道を引き返して行ったのだ。

 地上へ戻る途中、何故かついてきたゴーストの彼女に、ファルナールが質問をした。

「そう言えば、お主はなぜこの地下室におったのじゃ?」
「う〜ん、それがよく覚えていないんだ〜。」
「何も覚えておらんおかの?」
「私は、クレミリアって名前だったのは覚えているんだけどね。」
「他には?」
「う〜ん、最後に覚えているのが・・・、私のいた孤児院に教会の人が来て、私を孤児院から引き取ったのが、私の覚えている最後の記憶かな〜。」

 教会か・・・、やはりここは教会の施設で、そこで彼女は錬金術の実験台にされて死亡したのだろうか?どうやら、ここはそうとう曰く付きの場所のようだ。
 そうこう考えているうちに、地下室から出て、地上部分にある礼拝堂に戻ってきた。

「ん〜、やはり陰鬱な地下室に比べれば、地上は天国じゃの〜。っと、あれ?クレミリアは何処にいったのじゃ?」

 そうファルナールに言われてみれば、いつのまにか彼女の姿が見えなくなっていた。

「やはり、ゴーストだけに日の光は苦手なのじゃろうかの。」
「かも・・・、しれませんね。」
「ところでルシィラよ。お主は、これからどうするつもりじゃ?」
「ん〜、宝石は手に入ったものの、これで手がかりは無くなってしまいましたからね〜。」

 そう、今回手に入ったのは、魔剣への直接的な手がかりではなく、あくまで手がかりであろう宝石なのだから。これで、また振り出しに戻ったようなものだ。

「お主さえよければ、今一度ワシが占術を行ってやってもよいがの。」
「え?ファルナール殿がよろしいのでしたら、お願いしたい。」

 それは願ってもない事だったので、素直に好意を受けることにした。

「では、今度は剣モドキと宝石(?)の両方から繋がりの糸を探ってみようかの。」

 そう言って、剣モドキと宝石モドキの両方を地面に置き、ファルナールは再びそれらに手をかざして意識を集中しはじめる。

「・・・」
「・・・」

 しばらくすると、ファルナールは目を開けた。

「ふぅむ・・・、どうやら、次の手がかりは・・・、この国のとある地方の領主が持っているようじゃの。しかし・・・。」
「しかし?」
「うむ。またしても、まるで剣モドキと宝石(?)から次の位置を教えられたような感じじゃったぞい。」

 これは、やはりこの剣モドキや宝石モドキが、次の手がかりを早く見つけて欲しいと思っているのだろうか?

「ま、なにはともあれ。ワシは、ここで失礼させてもらおうかの。」
「何かなら何まで、お世話になりました。」
「な〜に、ワシもよい暇つぶしができたしの。」

 そう言って私達は、それぞれ分かれたのだった。
 そして、私はファルナールに教えられた、この国の領主が持つという次の手がかりを求めて、その領主が治める地区へ向かったのだった。

・・・

 教会の施設から出てしばらく、私は振り返らずに後ろにむかって声を上げる。

「で、なんで私について来るのよ?」

 最初は、無言であったが、やがて返事が返ってくる。

「っへっへっへ。気にしないでいいですよ〜。」

 そう言って、私の影から姿を現したのは、言わずと知れたクレミリアである。

「気にしない、わけないでしょう!」
「まあまあ」
「・・・」
「♪〜」
「このままついて来る気?」
「もっちろ〜ん」

 これは、何を言っても意味はなさそうである。そもそも、実体のない彼女を私がどうこうできる訳でもないし・・・。

「は〜〜〜・・・」

 私は、思いっきりため息が出てしまった。

「もし、変な夢を見せたら。即、成仏させるわよ。」
「はいはい、分かってますって〜。」

 ま、聖職者でもない私に、彼女を強制的に成仏させる力なんて無いのだが。
 そして、彼女は恐ろしい事を言ったのだ。

「もし、呪いで死んだら、私と一緒に彷徨いましょうね〜。」
「ふ、不吉な事をさらりと言うな〜〜。」

 そういうことか・・・。

「おま・・・、あのバフォメットじゃなくて私の方に来たのは、それが目当てね。」

 こうして、私には奇妙な同行者ができた。
 一方的に憑かれてるだけだけど・・・。

・・・・・
・・・・
・・・
・・


 ルシィラが、教会の施設で宝石モドキを手に入れるおよそ3ヵ月前・・・。
ルシィラが住んでいた屋敷に、一人の来客がいた。ルシィラがルーカストの街で出会ったダークプリーストのエレリーナである。

「こんにちは。」

 彼女を見た、ルシィラの母親であるイメルは一言。

「変な宗教勧誘はお断りです!」
「ち、違います。」

 彼女は、ルーカストの街でルシィラに出会い。その後、彼女にかけられた呪いを解くのを手伝っているとイメルに言った。
 イメルはしばし考えると、娘が呪いの事を話したのなら、大丈夫なのだろうと思い、彼女の協力を受け入れることにした。

 エレリーナは、まず手始めにルシィラの父親に会い、呪いで死んだ者達の情報を集めだした。すると、ある事に気がつく。

「やっぱり変ね。」
「どこが変なのですか?」
「死に際の呪いというのは、強力な分その効力はかなり固定的なモノのはず。なのに、呪いで死んだと思われる人達は、死んだ年齢や日付が全部バラバラで統一性がないわ。こういった呪いの場合、対象となる者が特定の年齢達した場合や、特定の日付に達した場合に死ぬはずなのに・・・。」
「どういうことでしょうか?」
「死に際の呪いって事になっているけど、どうやら裏がありそうね。」
11/01/26 21:17更新 / KのHF
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■作者メッセージ
 いろいろ書いているうちに、10000文字を越えてしまった罠。

 でも、次は短くなる予定。

 ちなみに、バフォメットは持ち帰った紙を、いったい何に使ったのかは『魔女は見た』を参照。

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