4 魔法使いとオートマトンと兵隊と
時は夕暮れ。当初の目的は達成されたわけで、そろそろお暇しようかと話をしていた時だった。
ジリリリリリリリリリリ!
何かのベルが鳴った。
「何の音?」
「人除けの結界を越えて誰かが来た音」
マージェスがやれやれと立ち上がる。
「いつもならケミィが来た合図なんだけど。ま、定期のアレが来たんだと思うよ」
「あー、アレか」
俺とマージェスの二人で笑いながら、マージェスが遠見の魔法で様子を見る。
「…………ん?」
と、その表情が曇る。
「どした?」
「この人たちに見覚えは?」
映像として映し出されたのは、どこかの国の兵士と魔術士の一団と、大量のゴーレム達。
「んー。人に見覚えは無いけど、ゴーレムに見覚えがある。遺跡にいたやつだ」
「え? あの人型のゴーレムですか?」
「うにゃ。土人形のやつ」
「ええ……」
使われている術式で見分けているので、マートに見分けろというのは無理だろう。
ともかく、今来ているのはあの遺跡を漁っていった国のようだ。
「土人形200に人型50ってところか。兵士は武装済みで150、魔術士は70くらいかな」
「何の用だろう。ケミィの所ならともかく、僕の所なんて」
「十中八九、ディアナ狙いだろ。ディアナ自体はここにいるんだし」
「ディアナを追いかけて来たわけ? 君、尾けられてたの?」
「遺跡を出るときは、中継しながら空間転移で帰ったけど、雑にやったから時間をかければ足取りは掴めるかなぁ。一週間かけて解析されたのかも」
「……結局面倒ごとが付いて回るのか……」
マージェスは舌打ちをして、兵士たちに魔法で呼びかける。
「《この先は僕の家しかないけど。何かご用?》」
《これはこれは魔法使い殿。お初お目にかかります》
そう言って先頭に出てきたのは、見るからに偉そうな風貌の、小太りの魔術師のおっさんだった。
《我々はウェルメラ王国の魔術士団で、私はこの遠征団の団長をしております、リトブと申します》
「《用件は?》」
《あなた方が遺跡から持ち去ったモノを返していただきたいのです》
「《……返す? どういうこと?》」
《あの遺跡は、我々ウェルメラ王国の土地です。なれば、あの遺跡にあるものは国の所有物ですから》
「《無茶な言いぐさだね。獲るだけ獲り尽くして、管理もせずに放置されていた遺跡なのに?》」
《放置されていようと、我々の土地です》
「《その論法だと、道に落ちている石ですら、国の所有物ということになるけど》」
《厳密に言えば、その通りですな》
「《お、おう》」
あからさまな意見に思わずマージェスがたじろぐ。
おっさんは続ける。
《我々にとって不要な物については、その権利を放棄しているだけにすぎません》
「《自分たちでは見つけられなかったものを、あとから発見されて、のこのこそれを掠め取りに来たってことか》」
《それはあまりにも無礼な物言いなのでは?》
「《でも事実だし》」
《まあ否定はしませんが》
結構あけすけだなこのおっさん。
「《ともかく。ぞろぞろ武装した兵を連れてくるような連中に渡す物は無い。即刻立ち去れ》」
《話し合う気はないのですか?》
「《これ以上はお互いに平行線でしょう》」
《……仕方ありませんな》
おっさんは肩をすくめる。そして、
《では、契約の通りに》
後ろの男と目くばせを――――魔法使い!
「マーじぇ――」
俺が呼ぶより早く、家が轟音と共に揺れる。どこかが追われた様子はない。
マージェスは険しい顔で、相手の魔法使いの映った映像を睨んでいた。
「家は大丈夫。ちゃんと防御がある」
「おう」
「喧嘩を売られた。だから潰す。手伝って」
「もちろん」
俺も、ディアナを渡す気はない。
「ぼ、僕に出来ることは無いですか?」
「私もお手伝いします」
マートとディアナが立ち上がる。俺とマージェスは顔を見合わせた。
「マートに出来ることは無いね」
「そうだな」
「ディアナ。君は何ができる?」
「魔力刃を用いた白兵戦と、魔力弾での銃撃、難しくない程度の魔術なら扱えます」
「銃撃……狙撃は?」
「狙撃用の銃ではありませんが、1q以内であれば外しません」
狙撃用じゃないのに射程すごい長い。
「魔力弾って当たるとどうなるの?」
「痛みと衝撃と、魔力ダメージを与えます。頭部に命中すれば気絶させることが可能です。麻痺弾や睡眠弾にすることもできます」
「じゃあ一般兵バンバン狙撃して、バンバン気絶させて。そうだ、弱点はあるの?」
「雷や強い電流がダメです。詳しい説明が必要ですか?」
「いや、いい。マート」
「はい!」
マージェスが手をかざして、魔法陣を出す。そこからガシャガシャと何かのマジックアイテムが落ちてきた。
「これ全部雷除け。全部持って、ディアナと一緒にいて」
「はい!」
「相手に魔法使いがいる以上、安全は保障できない。君が守れ。いいね?」
「わかりました!」
と、ここで再び閃光、轟音、震動。
「……ケミィ」
マージェスのイライラ顔。
「なに」
「あの魔法使いは、僕がやる。ケミィは普通の魔術士とゴーレムをお願い」
「はいよ」
まあ、適材適所だろう。
「さっさと追い返して、早く帰ろう」
「僕も早く寝たいよ」
+ + +
表に出る。兵隊たちはまだまだ遠い。
「敵前に魔力障壁。対処をお願いします」
「僕がやろう。――――いいよ」
「――――命中。狙撃を継続します」
早速戦闘に入ったマージェスとディアナ。マートがディアナに声をかける。
「ディアナさん、僕に出来ることはありますか?」
「……傍にいてください」
イチャイチャしやがって。
さて、俺も仕事をせねば。
「『召喚』、ブランシュTから]、クローネV」
ゴーレムを10体と、クローネの体を1つ呼ぶ。
「ブランシュ並列展開」
「了解。10機と同期しました」
ブランシュは白兵戦に特化させたゴーレム。大元のブランシュは一人だが、ブランシュの遠隔操作で最大10体まで同時に運用できる。ま、数が増えれば精度は下がるけど。
「クローネ」
「はーい」
クローネの式をボディに乗せる。V番機は魔法支援型。
「クローネは土人形を片っ端から無効化して。ブランシュは魔術士集団に飛び込んで暴れてこい」
「わかりましたー」
『了解』
10体のブランシュが敵へ駆けて行く。その後ろ姿に支援魔法をどっさりかけておく。
クローネも魔術式を展開して、作業を開始した。
俺自身の仕事は、人型ゴーレムの式の書き換えだ。
ボディは中々の出来だけど、中身が大したことないし、プロテクトもろくにかかってないから簡単に命令を書き換えることができる。
だから、
「搾精モード、開始します」
「ちょっ、待っ! あ゛ーーーーーーーーーーーー!!」
ということもできる。
とはいえあと49体か。ちょっと時間がかかりそう。
「マージェス、そっちはどう?」
「あいつ、バリバリの戦闘魔法使いだよ。詠唱速度半端ない。イキって見たけど、キャンセルで手一杯だ」
「そうか……。とりあえず、そっちの魔法使いさえ止めておけば、確実に雑魚は減らせるし、そのまま頼む」
「はいよ」
このままいけば、なんの問題もなく押し切れるはず。
「……警告」
「あん?」
ディアナの声。
「9時の方向より、大量のアンデッドが接近しています。距離3000」
「げっ」
「げえええええええええええええええええええっ!」
激しい絶叫をしたのはマージェスだった。
「イェルマだ! あーもうなんでこんな時に!!」
「面倒なタイミングで来たなぁもう」
「あの、先生?」
「イェルマというのは?」
「リッチだ。一応俺らの旧友でもあるんだけど……」
「だけど?」
「えーっと」
マージェスの方をちらっと見る。苦い表情で肩をすくめた。
「えーっと……昔マージェスに告白して、フラれて、リッチになって、そのまま百年マージェスがフリ続けてる……」
「ええ……」
その昔。俺たちがまだ魔術学校の生徒だった頃は、俺とマージェスとイェルマの3人組で、いっぱいバカをしていたものだ。
で、魔術学校を出て、いい歳になった頃、イェルマがマージェスに告白。それを、マージェスはフった。
その後しばらく行方知れずになっていたが、ウン年後、久々に現れたと思ったらリッチになっていて、それからずーーーーーーっとマージェスに粘着している。
「あ゛ーーーーーークソっ! そろそろ来る時期だなとは思ってたんだ!」
「いつもはどうしてるんですか?」
「アンデッドの群れを引き連れては来るけど、実際に相手するのはイェルマだけだ。だからテキトーにあしらってから、空間転移ですっ飛ばしてさようなら」
「いつ聞いてもヒデェ」
「うっさい!」
「今回はどうするのですか。流石に両方を相手にできるほどの余裕はありません」
「僕もだ。相手の魔法使いをフリーにしたら、一気に崩壊するよ」
さて、どうしたものか。マージェスにイェルマの相手をしてもらって、魔法使いの相手を俺がするか。でも俺はマージェスほどキャンセル早くないから押されてしまう。俺がイェルマの相手をしようとすれば、きっとアンデッドたちの相手もすることになる。
うむむ……困ったぞ。
「……アンデッドに、兵隊の相手をしてもらうわけにはいかないんでしょうか」
マートの一言。
「悪くない手だとは思うけど、アンデッドがあっちに行ってくれるかね」
「その辺は先生の空間転移でちょちょいと……」
「さすがにあの量は出来ねーよ!」
「えーっと……あのアンデッドたちって、独り身なんでしょうか?」
「どうだろう。確かに、相手がいたらそいつと一緒にどっかでズコズコするんだろうが」
「それでいて、マージェスさんに手を出すことは許されてない」
「まあ……たぶんそうなる……かな?」
「そうなると、あのアンデッドたちにとって、マージェスさんを襲撃することはなんのメリットも無いはずです」
「イェルマがどういう理屈であのアンデッドたちを使役してるのかは知らんが」
「とにかく、そこで向こうの兵隊をエモノとして示せば……」
「そっちに流れるってことか……ふむ、いいぞ!」
「えっと、そのイェルマ? さんの相手を誰かがしないといけなくなるわけなんですけど……」
「大丈夫。イェルマ一人なら、俺が対処できる。こっちの魔法使いを止め続ければ、アンデッドたちが潰してくれる!」
よし、方針が決まったぞ!
「マージェス!」
「聞いてた」
「俺がイェルマに話つけてくるから、あっちの魔法使いを頼む」
「キャンセルし続けるだけでいいんでしょ?」
「ああ」
「オッケーー……超得意」
マージェスがにやりと笑みを浮かべた。こうなると止まらない。コワイ。
それはさておき、残りのみんなに指示を出す。
「ディアナは引き続き、兵士と魔術士を狙撃。うちのゴーレムにあてないように」
「了解しました」
「ブランシュは戦闘継続。クローネは土人形が終わったら、向こうのゴーレム使って遊んでていいよ」
『了解しました』
「はーい」
「俺は最後の仕上げっと」
残っていた向こうのゴーレムたちを全て、書き換えではなく機能停止にしてやった。
さて、大仕事だ。
ジリリリリリリリリリリ!
何かのベルが鳴った。
「何の音?」
「人除けの結界を越えて誰かが来た音」
マージェスがやれやれと立ち上がる。
「いつもならケミィが来た合図なんだけど。ま、定期のアレが来たんだと思うよ」
「あー、アレか」
俺とマージェスの二人で笑いながら、マージェスが遠見の魔法で様子を見る。
「…………ん?」
と、その表情が曇る。
「どした?」
「この人たちに見覚えは?」
映像として映し出されたのは、どこかの国の兵士と魔術士の一団と、大量のゴーレム達。
「んー。人に見覚えは無いけど、ゴーレムに見覚えがある。遺跡にいたやつだ」
「え? あの人型のゴーレムですか?」
「うにゃ。土人形のやつ」
「ええ……」
使われている術式で見分けているので、マートに見分けろというのは無理だろう。
ともかく、今来ているのはあの遺跡を漁っていった国のようだ。
「土人形200に人型50ってところか。兵士は武装済みで150、魔術士は70くらいかな」
「何の用だろう。ケミィの所ならともかく、僕の所なんて」
「十中八九、ディアナ狙いだろ。ディアナ自体はここにいるんだし」
「ディアナを追いかけて来たわけ? 君、尾けられてたの?」
「遺跡を出るときは、中継しながら空間転移で帰ったけど、雑にやったから時間をかければ足取りは掴めるかなぁ。一週間かけて解析されたのかも」
「……結局面倒ごとが付いて回るのか……」
マージェスは舌打ちをして、兵士たちに魔法で呼びかける。
「《この先は僕の家しかないけど。何かご用?》」
《これはこれは魔法使い殿。お初お目にかかります》
そう言って先頭に出てきたのは、見るからに偉そうな風貌の、小太りの魔術師のおっさんだった。
《我々はウェルメラ王国の魔術士団で、私はこの遠征団の団長をしております、リトブと申します》
「《用件は?》」
《あなた方が遺跡から持ち去ったモノを返していただきたいのです》
「《……返す? どういうこと?》」
《あの遺跡は、我々ウェルメラ王国の土地です。なれば、あの遺跡にあるものは国の所有物ですから》
「《無茶な言いぐさだね。獲るだけ獲り尽くして、管理もせずに放置されていた遺跡なのに?》」
《放置されていようと、我々の土地です》
「《その論法だと、道に落ちている石ですら、国の所有物ということになるけど》」
《厳密に言えば、その通りですな》
「《お、おう》」
あからさまな意見に思わずマージェスがたじろぐ。
おっさんは続ける。
《我々にとって不要な物については、その権利を放棄しているだけにすぎません》
「《自分たちでは見つけられなかったものを、あとから発見されて、のこのこそれを掠め取りに来たってことか》」
《それはあまりにも無礼な物言いなのでは?》
「《でも事実だし》」
《まあ否定はしませんが》
結構あけすけだなこのおっさん。
「《ともかく。ぞろぞろ武装した兵を連れてくるような連中に渡す物は無い。即刻立ち去れ》」
《話し合う気はないのですか?》
「《これ以上はお互いに平行線でしょう》」
《……仕方ありませんな》
おっさんは肩をすくめる。そして、
《では、契約の通りに》
後ろの男と目くばせを――――魔法使い!
「マーじぇ――」
俺が呼ぶより早く、家が轟音と共に揺れる。どこかが追われた様子はない。
マージェスは険しい顔で、相手の魔法使いの映った映像を睨んでいた。
「家は大丈夫。ちゃんと防御がある」
「おう」
「喧嘩を売られた。だから潰す。手伝って」
「もちろん」
俺も、ディアナを渡す気はない。
「ぼ、僕に出来ることは無いですか?」
「私もお手伝いします」
マートとディアナが立ち上がる。俺とマージェスは顔を見合わせた。
「マートに出来ることは無いね」
「そうだな」
「ディアナ。君は何ができる?」
「魔力刃を用いた白兵戦と、魔力弾での銃撃、難しくない程度の魔術なら扱えます」
「銃撃……狙撃は?」
「狙撃用の銃ではありませんが、1q以内であれば外しません」
狙撃用じゃないのに射程すごい長い。
「魔力弾って当たるとどうなるの?」
「痛みと衝撃と、魔力ダメージを与えます。頭部に命中すれば気絶させることが可能です。麻痺弾や睡眠弾にすることもできます」
「じゃあ一般兵バンバン狙撃して、バンバン気絶させて。そうだ、弱点はあるの?」
「雷や強い電流がダメです。詳しい説明が必要ですか?」
「いや、いい。マート」
「はい!」
マージェスが手をかざして、魔法陣を出す。そこからガシャガシャと何かのマジックアイテムが落ちてきた。
「これ全部雷除け。全部持って、ディアナと一緒にいて」
「はい!」
「相手に魔法使いがいる以上、安全は保障できない。君が守れ。いいね?」
「わかりました!」
と、ここで再び閃光、轟音、震動。
「……ケミィ」
マージェスのイライラ顔。
「なに」
「あの魔法使いは、僕がやる。ケミィは普通の魔術士とゴーレムをお願い」
「はいよ」
まあ、適材適所だろう。
「さっさと追い返して、早く帰ろう」
「僕も早く寝たいよ」
+ + +
表に出る。兵隊たちはまだまだ遠い。
「敵前に魔力障壁。対処をお願いします」
「僕がやろう。――――いいよ」
「――――命中。狙撃を継続します」
早速戦闘に入ったマージェスとディアナ。マートがディアナに声をかける。
「ディアナさん、僕に出来ることはありますか?」
「……傍にいてください」
イチャイチャしやがって。
さて、俺も仕事をせねば。
「『召喚』、ブランシュTから]、クローネV」
ゴーレムを10体と、クローネの体を1つ呼ぶ。
「ブランシュ並列展開」
「了解。10機と同期しました」
ブランシュは白兵戦に特化させたゴーレム。大元のブランシュは一人だが、ブランシュの遠隔操作で最大10体まで同時に運用できる。ま、数が増えれば精度は下がるけど。
「クローネ」
「はーい」
クローネの式をボディに乗せる。V番機は魔法支援型。
「クローネは土人形を片っ端から無効化して。ブランシュは魔術士集団に飛び込んで暴れてこい」
「わかりましたー」
『了解』
10体のブランシュが敵へ駆けて行く。その後ろ姿に支援魔法をどっさりかけておく。
クローネも魔術式を展開して、作業を開始した。
俺自身の仕事は、人型ゴーレムの式の書き換えだ。
ボディは中々の出来だけど、中身が大したことないし、プロテクトもろくにかかってないから簡単に命令を書き換えることができる。
だから、
「搾精モード、開始します」
「ちょっ、待っ! あ゛ーーーーーーーーーーーー!!」
ということもできる。
とはいえあと49体か。ちょっと時間がかかりそう。
「マージェス、そっちはどう?」
「あいつ、バリバリの戦闘魔法使いだよ。詠唱速度半端ない。イキって見たけど、キャンセルで手一杯だ」
「そうか……。とりあえず、そっちの魔法使いさえ止めておけば、確実に雑魚は減らせるし、そのまま頼む」
「はいよ」
このままいけば、なんの問題もなく押し切れるはず。
「……警告」
「あん?」
ディアナの声。
「9時の方向より、大量のアンデッドが接近しています。距離3000」
「げっ」
「げえええええええええええええええええええっ!」
激しい絶叫をしたのはマージェスだった。
「イェルマだ! あーもうなんでこんな時に!!」
「面倒なタイミングで来たなぁもう」
「あの、先生?」
「イェルマというのは?」
「リッチだ。一応俺らの旧友でもあるんだけど……」
「だけど?」
「えーっと」
マージェスの方をちらっと見る。苦い表情で肩をすくめた。
「えーっと……昔マージェスに告白して、フラれて、リッチになって、そのまま百年マージェスがフリ続けてる……」
「ええ……」
その昔。俺たちがまだ魔術学校の生徒だった頃は、俺とマージェスとイェルマの3人組で、いっぱいバカをしていたものだ。
で、魔術学校を出て、いい歳になった頃、イェルマがマージェスに告白。それを、マージェスはフった。
その後しばらく行方知れずになっていたが、ウン年後、久々に現れたと思ったらリッチになっていて、それからずーーーーーーっとマージェスに粘着している。
「あ゛ーーーーーークソっ! そろそろ来る時期だなとは思ってたんだ!」
「いつもはどうしてるんですか?」
「アンデッドの群れを引き連れては来るけど、実際に相手するのはイェルマだけだ。だからテキトーにあしらってから、空間転移ですっ飛ばしてさようなら」
「いつ聞いてもヒデェ」
「うっさい!」
「今回はどうするのですか。流石に両方を相手にできるほどの余裕はありません」
「僕もだ。相手の魔法使いをフリーにしたら、一気に崩壊するよ」
さて、どうしたものか。マージェスにイェルマの相手をしてもらって、魔法使いの相手を俺がするか。でも俺はマージェスほどキャンセル早くないから押されてしまう。俺がイェルマの相手をしようとすれば、きっとアンデッドたちの相手もすることになる。
うむむ……困ったぞ。
「……アンデッドに、兵隊の相手をしてもらうわけにはいかないんでしょうか」
マートの一言。
「悪くない手だとは思うけど、アンデッドがあっちに行ってくれるかね」
「その辺は先生の空間転移でちょちょいと……」
「さすがにあの量は出来ねーよ!」
「えーっと……あのアンデッドたちって、独り身なんでしょうか?」
「どうだろう。確かに、相手がいたらそいつと一緒にどっかでズコズコするんだろうが」
「それでいて、マージェスさんに手を出すことは許されてない」
「まあ……たぶんそうなる……かな?」
「そうなると、あのアンデッドたちにとって、マージェスさんを襲撃することはなんのメリットも無いはずです」
「イェルマがどういう理屈であのアンデッドたちを使役してるのかは知らんが」
「とにかく、そこで向こうの兵隊をエモノとして示せば……」
「そっちに流れるってことか……ふむ、いいぞ!」
「えっと、そのイェルマ? さんの相手を誰かがしないといけなくなるわけなんですけど……」
「大丈夫。イェルマ一人なら、俺が対処できる。こっちの魔法使いを止め続ければ、アンデッドたちが潰してくれる!」
よし、方針が決まったぞ!
「マージェス!」
「聞いてた」
「俺がイェルマに話つけてくるから、あっちの魔法使いを頼む」
「キャンセルし続けるだけでいいんでしょ?」
「ああ」
「オッケーー……超得意」
マージェスがにやりと笑みを浮かべた。こうなると止まらない。コワイ。
それはさておき、残りのみんなに指示を出す。
「ディアナは引き続き、兵士と魔術士を狙撃。うちのゴーレムにあてないように」
「了解しました」
「ブランシュは戦闘継続。クローネは土人形が終わったら、向こうのゴーレム使って遊んでていいよ」
『了解しました』
「はーい」
「俺は最後の仕上げっと」
残っていた向こうのゴーレムたちを全て、書き換えではなく機能停止にしてやった。
さて、大仕事だ。
17/04/08 07:45更新 / お茶くみ魔人
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