連載小説
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あなたの望むわたしで(*Hシーン有)
 ドッペルゲンガーと出くわしたりキスしたりキスできなかったりと色々なことがありすぎた昨日の夜、マヤに今までどうやって暮らしていたのか今度こそ訊ねてみれば、なんとウチのマンションの管理人のお世話になっていたらしい。マンションのゴミ捨て場の前で行き倒れているところを発見、保護されたということだそうだ。
 当の本人は身分を証明するものもなにもなく、怪しさ満点の女だったわけだが、それでこうして生活の面倒まで見てもらえているのは偏に管理人さんの器が広すぎると言わざるを得ない。
 で、マヤが管理人さんに話した、自分に関する設定は以下の通り。

・秋野マヤは秋野シンヤの双子の妹である。
・大学に進学した兄と違い、高校卒業後は地方の実家で無職のままゴロゴロとしていたが、両親と喧嘩になり家出。
・肉親である兄のもとを訪ねようとするも、うちの住所のメモや財布、身分証明のできるものなどのすべてを道中で紛失。『家出少女を保護!』といった感じで大ごとになれば親に会わせる顔がさらに無くなると思い、そのまま家出を強行。
・おぼろげな記憶の住所を頼りに彷徨い歩き、ついにたどり着いたところで限界を迎えて行き倒れ。偶然通りがかった管理人さんに発見、保護される。
・詳しい事情を同じマンションにいるはずの兄にも黙っておいて今までコンタクトも取らなかったのは、あまりにも情けないエピソードすぎて話せなかったから。

 これではあまりにマヤの立場がないだろうと思わなくもないが、俺の知らぬ間に当の本人にこうもでっち上げられてしまってはもう仕方ない。
 馬鹿正直に『実はドッペルゲンガーという存在で〜』って説明するよりはマシだとは思うけどもさあ。というか、俺が呼び名をつけるよりも前に自分から『マヤ』って名乗ってるじゃねえか。そりゃあ『わたしもおんなじこと考える』とか言うわけだ。

 マヤにしてみれば案の定といったところなのか、改めて事情を説明しに行った俺たちから話を聞き終わった管理人さんは『お兄ちゃんにきちんと会えてよかったねぇ』とまあなんとも平和な反応。笑顔の似合うおばさまだった。

「それで、これからのことなんですが……お世話になりっぱなしというわけにもいかないので、俺の部屋にマヤを置かせてもらって大丈夫ですか?」
「ええ、ええ! もちろんお部屋は二人で使っていいわよ! お兄ちゃんに見つからないように遠くから眺めてるだけのマヤちゃんを見ているのは、私もそろそろ忍びなくてねぇ」

 管理人さん公認で堂々と俺のストーカーしてやがったのかお前は、という目を横に向ければ、当のマヤはスッと目を逸らす。

「あらあら、本当に仲がいいのねぇ。この間なんか『お兄ちゃんが寝込んでる!』っていきなり部屋を飛び出したかと思ったらいろいろ買いそろえてきてドアに掛けて帰ってきたりしたのよ? 双子だとやっぱりそういうの、わかっちゃうのかしら?」
「ま、まあだいたいそんな感じかな……?」

 マヤが適当に返事をするが、魔力的なパスとかいうよくわからない部分について勝手に理由付けして納得してくれるだけ助かる。
 そして彼女がきちんと普段の言動でも妹設定を守っていたという余計な情報まで伝わってきたので俺はもう一度彼女の方を睨んでおく。

「(お兄ちゃんしゅきしゅき)」

子供っぽい元気なウインクと共に小声で囁かれる。

「(張り倒すぞ)」
「(わたしの扱いだんだん雑になってきてない!?)」

 俺は一人っ子だが、子供のころは親に妹弟が欲しいとごねたこともあった。が、その記憶もマヤは知っているからこそわざとやってきているだろうし、微妙にムカつく。

「……と、すみません。そろそろお暇させてもらおうかと思います。二人で暮らすにあたって色々と買い物にも行かないといけませんし。うちの妹が本当に色々とお世話になりました」
「はーい。何かあったらいつでも頼ってきてらっしゃいね!」

 管理人さんの生暖かい目にさらされるのも辛くなってきたし、適当な理由をつけてマヤが部屋に居させてもらっていた分の少ない手荷物だけを引き取って、管理人さんの部屋を後にした。


************


「お買い物ってことは、シンヤとの初デートってことになるね!」
「いやならんだろ。普通に買い物するだけだって」

 同棲が決まってからこっち、浮かれぎみなマヤに俺は冷や水を浴びせる。

「えーー! ヤダヤダ! せっかく夢にまで見たシンヤと一緒のお出かけなのに! シンヤはしたくないの!? わたしとデート!」
「あーもう、『俺の酒が飲めないのか!?』みたいな絡み方してくるなって……あのなマヤ。これから先も一緒にいるんだろ? だったらまずはちゃんと基盤作りからだ。寝具だとか着替えだとか、気にすることはごまんとあるんだ」
「わたしは別にシンヤと同じベッドでも……あいたぁ!?」

 駄々をこねまくる目の前の黒髪めがけ、びしりと手刀を落として言葉を遮る。

「そんなの当然俺の心臓に良くないからだ。それにだな、デートしたくないのかだって? 俺の理想の女の子が目の前にいるんだぞ、したいに決まってるだろ! でも今のままじゃ大事な時にキスのひとつも満足にできないんだぞ俺! ……だからさ。トラウマを克服して、しっかり俺から誘いたいんだ。そりゃ、その過程で色々と順序は逆になってしまうかもしれないが……それじゃダメか?」
「……………………」

 ちらりと見やるが、マヤの反応がない。それどころか、よく見ると若干涙目になっているような気が。

「マヤ? もしかしてさっき強く叩きすぎてたか? おーい? わ、悪かったって……!」
「ままま、待って待って! わかったから! これ以上カッコいいこともかわいいことも言わないで! わたしの頭がパンクしちゃうから! 胸がいっぱいになって食事も喉を通らないくせに朝昼晩オカズに困らなくなっちゃうから!!!」

 さっきまでの駄々っ子が一転して真っ赤な顔でしおらしくなっていた。いや、しおらしくはないか。

「なるほど、マヤはこういう切り口に弱いと」
「シンヤが悪そうな顔してる……都合よく相手の理想を演じて手玉に取るような悪女になっちゃう……」
「ドッペルゲンガーのどの口が言うんだ。それに男に向かって悪女ってのもどうかと……いや、これは女装を趣味にしてる俺が言えることじゃないのか……?」

 どのみち俺も言っててかなり恥ずかしかったから、マヤのことを扱いやすい女だと思うには少し難しいが。

「うーん、でもやっぱりどうしても男女でお出かけってなるとデートだー! って感じがして態度に出ちゃうと思うしなあ。何かいい方法はないかなーーーー」

 せわしなく俺と、俺の着替え(女物)がしまわれているクローゼットを交互に見やりながら、マヤはわざとらしく悩む素振りを見せてくる。

「まさかとは思うけどさ、マヤ?」
「ミツキちゃん……だめ?」
「はぁ……わかったよ。じゃあ今から着替えるから、マヤも出かける準備をしてくれ」

 まあ、女装して外出るのが無理なんだったらそもそも『満月の君』なんてアダ名もついてないわけだしな。

「やった、ミツキちゃんとお出かけでショッピングー! 超特急で準備してくる! 終わったら髪のセット手伝ってあげるね! というか、手伝わせて!」
「それは素直にありがたい。頼むよ」

 それからほどなくして着替えも準備も完了し、二人で家を出るのだった。
 
 人が暮らしていくうえで大抵のものは大型のショッピングモールにさえ来てしまえば揃うだろう。
二人とも清楚系の白いロングスカートに薄桃色のニットセーターで合わせてきたので、傍目からは髪色の違う双子の姉妹が歩いているように見えるような状況だろうか。

「なあマヤ、これがデートかどうかは男女で出かけるかの問題だって言ってたけどさ、女装してる俺ともデートしたいとか言ってなかったか?」
「? うん、その時はわたしがシンヤの恰好をして、ばっちりエスコートしてあげるから楽しみにしててね!」
「ああ、そう……」

 女同士(見た目上)で出かける限りそれはマヤ基準で一生デートにならないんじゃないかと思っていたが、ちゃんと考えてあったらしい。

「それはそうと、今日はちゃんと女の子気分でお買い物しようね! ミツキちゃんの恰好で自分のことを俺って言うのは、なるべく控えるように努力してみてほしいなあ」
「ええ……? 一人称関係なく、そもそも喋った時点で違和感あるだろ。大学にこの格好で行くときも絶対喋らないようにしてたし」
「だからこそ、もう一段階上の理想に近づけるように頑張るんでしょ! それに、女の子の気持ちになってみると案外トラウマ克服が近づくかもしれないし!」
「手段と目的が逆転してないか?」
「気にしない気にしない、さあ行こうかミツキちゃん!」

 はぐらかすように手を握られ、そのままぐいぐいと引っ張られていく。
 まあ、マヤが無条件で寄せてくれる好意にばかり甘えてはいられないし、俺も少しは頑張ってみるか。

 そこからは2人で夕飯の献立相談をしながら食料を買い足したり、洗面用具をそろえたり。掛け布団や枕とかの寝具はかさばってしまうから後回しにした。

「女二人だと思うとすごく気楽に服屋に寄れるね……私一人でも試着室にさえ入っちゃえば安心できるけど、もの選んでるときはちょっと周りの目が気になってビクビクしちゃうし……」
「んふふ〜〜そうだね、わたしもかわいいミツキちゃんを見られてうれしいよ」

 しばらくして、当初の目的である生活必需品を買うという目的から脱線して、私たちはすっかりウインドウショッピングに興じていた。いや、マヤの着替えを買うつもりだったんだけど……楽しくなってきてしまって。
 
「マヤ、このアウターとさっき着てみたやつ、どっちがかわいいかな?」
「うんうん、ミツキちゃんは最高にかわいいよ?」
「もう! そうじゃなくって! どうしちゃったのマヤ?」

 さっきからマヤの様子がおかしい。私が何を言っても心ここにあらずみたいな反応ばっかりだし。

「え、えーっと、どうしちゃったのっていうか……ミツキちゃんこそ無理はしてないんだよね?」
「無理って?」
「いや、一人称変えてみてとか結構わたしもわがまま言っちゃったかなあって思ってたんだけど……何かそれ以上に、声色とか口調とかまでミツキちゃんがすっごくかわいくなってるから」
「うーん……自分ではよく分かんないんだけどなあ」

 マヤのために頑張るかな、と思った瞬間カチリと意識が切り替わって、自然と『ミツキ』として振舞えるようになっていた。
 
「どういうことだろ……もしかして、わたしと目が合った時の影響でインキュバス化だけじゃなくて、ほんの少しドッペルゲンガーとしてもシンヤに変化が?」
「えっ? そんなことってあるの?」
「だって……わたしの理想そのものみたいなこんなかわいいミツキちゃんをいきなりお出しされてるこの状況、かなり不思議だもん。初めて私に会ったあの時のシンヤもこんな気持ちだったのかな? って思っちゃった」

 いや、さすがに私はあの時戸惑いの方が強くてここまで興奮とかしてなかったと思うけど。

「……ミツキちゃん、ちょっとそのアウター持って試着室行こ」
「え、どうしたのいきなり?」
「いいから! ちょっと確認したいことがあって」

 言うなりマヤは強引に狭い試着室に私を引き込んで、そのままカーテンを閉めた。
 これ、絶対アウターの試着目的じゃない、よね?

「ミツキちゃん。嫌だと思ったら言って。すぐにやめるから……」
「マヤ? ひゃっ……!?」

 秋野シンヤの口から出たとは思えないようなか細い声を私は出してしまう。
ただでさえ狭い部屋の中で、息がかかりそうなほど近くにマヤの顔があった。
 いわゆる壁ドンの姿勢、右にも左にも逃げられないよう両腕で挟まれているため、首が自然と前を向くように仕向けられている。

「指、自由だからね。この前みたいになっても、怒らないから」

 私のドッペルゲンガーなだけあってマヤも同じ身長だから、目線を軽く上げるだけでだけで簡単に目が合ってしまった。

 キスされる。
 頭がそう理解したとき、また私は無意識にマヤを傷つけてしまうんじゃないかと思った。

 ――――大丈夫、好きな女の子の前だから。安心していいんだよ。

 吸い込まれるような黒目の中には、しっかりと私が映っていた。その私が、私に語り掛けてくる。他ならぬ私が言うなら、信じてみようじゃないか。

「マヤ。……いいよ、して?」
「ミツキちゃんっ……!」

 これ以上は辛抱たまらないといった様子で、マヤが私の唇を奪った。
私が逃げられないように左右を固めていた腕のうち片方は後頭部に添えられ、ゆるゆると撫でてくれているのが心地いい。もちろん、私も逃げようなんて思ってないよ。

「んっ……はっ、ミツキちゃ、あむっ……!」
「も、もう……マヤ、がっつきすぎ……!」
「ふっ、ふっ……はら、やえはほーはいい?」(なら、やめたほうがいい?)

 びっくりはしたけれど、全然嫌じゃない。大丈夫だよという気持ちを込めて、私もマヤがそうしてくれているように手を回して、頭を撫でてあげた。

「んっ……それひもひい、みふきひゃん」(それ気持ちい、ミツキちゃん)

 キスしてるときは目を閉じた方がいいのかわからないけど、こうしてふにゃって笑ってくれるマヤを見ないなんて、損じゃないかな? あ、目が合っただけで私もすっごくにやにやしちゃってるのがわかっちゃった。マヤも目は閉じないんだね。私とおんなじだ。

「マヤ、かわいい……ひゃんっ!?」

 夢中になってお互いをついばみ合って、頭の中がとろとろしてきたところで、不意に下半身から刺激を感じた。

「おっきな声出しちゃうと、ダメだから。しっかり塞ぐね……」

 私の頭を撫でてくれていたほうの片腕はいつの間にかしっかりと固定されていて、今まで自由にしていたもう片腕は私のスカートの方に伸ばされていた。

「〜〜〜〜〜〜っ!?」

 唇を塞がれている間に下着だけを(女物を履いてきている)きれいにずり下げられてしまう。そうするととっくに重力に逆らっている私の男の子の部分がスカート生地と擦れて、甘い痺れに思わず体を震わせてしまった。

「ミツキちゃんのここ、無くなってたらどうしようって思ったけど……えへへ、ちゃんとおっきいね……♡」
「マヤっ、そこは……ぁ」
「触られるの、嫌?」

 あくまでも私の意思を確認してくれるマヤが健気で、同時にそこまで気を遣わせてしまって申し訳ないとすら思ってしまう。だから、しっかり返事をしなければいけないんだけれど。

「やじゃなくて、その、はっ、恥ずかしい……の」

 ふるふると頭を振りながら、声にならない声を私は出した。

「恥ずかしい?」
「私いま、ほんとに女の子になってるのに男の子の部分もあって、マヤにその部分を触られてるって思うだけで頭の中おかしくなりそうなんだけど、でも気持ちよくって……やめてほしくないって思っちゃうのも、恥ずかし――ぁっ!?」

 シュッと追加で刺激を受けてしまえば、それだけで口が止まってしまう。
 
「んふふ、声は我慢してね……でも、気持ちいいのは我慢しないで、いいからね? ミツキちゃんのおねだりがかわいくって、もうわたしも加減できそうにないけど――いいよね?」
「――――――!」

 真っ赤になっているだろう顔を、私はなんとか縦に振った、んだと思う。その瞬間にはもう、ただただマヤの手からもたらされるキモチイイの奔流に呑みこまれないようにするだけで必死だった。

「こら、ミツキちゃんもう忘れてるでしょ? 我慢しちゃだぁめ。それとも、まだまだ余裕なのかな?」
「だって、あぁっ、こぇ……気持ちよくなっちゃったら、声出ちゃっ……!」
「なら、喋る余裕もないくらい気持ちよくしてあげればいいよね? ほら、射精(だ)しちゃえ、声出せないくらいくらい気持ちよくなって、射精(だ)しちゃえ……♡」

 だす? だしちゃだめ?
 どうすればいいのかわからない。

「ミツキちゃんの必死そうな顔、最高にかわいいよ……! わたしの手に全部出していいからね? もうイきそうなんだよね? ミツキちゃんの……ううん、シンヤのここの扱いはわたしもよーく知ってるんだから、わかっちゃうんだよ? ほら、イっちゃう、もうイく。ほら、ほらぁ♡」

 あ。だめ。

「イっ、――――――――っ!!!!!♡」

立ってらいれないほど目の前がチカチカして、すがるようにマヤに抱きついてしまう。
 ビクビクと勝手に体が震える瞬間ごとにギュッと力が入ってしまってるけど、痛くはないかな? なんて、どこか冴えた頭で思っていた。

「わっ……すごおい、べっとべとだよミツキちゃん……♪ ちゃんと最後に声我慢できて偉かったね? よ、いしょ。ちょっと待っててね、おちんちんに残ってる分も全部絞り出して、綺麗にしてあげるから……」

 しゅ、しゅっと手際よく残尿感(残精感?)を取り除いてくれたマヤは、そのまま美味しそうに俺の精液を舐めはじめた。
 ――――――俺の?

「あ、マヤ……その、俺」
「ミツキちゃん、ご馳走様……ってあれ? ミツキちゃんモードはおしまい?」
「……みたいだ」

 もちろん記憶が飛んでるなんてこともなく、俺が自分であんな言動をしていたことにちょっと理解が追い付いていない。待ってくれ、ちょっとありえないレベルで恥ずかしい。

「キスどころか……もっと先までできちゃったね?」
「そりゃ、出来たけど……あれは俺じゃないというか、いや……俺なんだよな……でも、なんでいきなりマヤの方からあんなことしてきたんだ? 結構強引だったから俺、びっくりしてただろ」
「それは、その……ごめん。でももしかすると、シンヤのトラウマは『男の自分が特に好きでもない女にいきなり襲われそうになったこと』に起因してるんじゃないかと思って」

 思い付きで試すにはなかなか勇気が要ると思うんだけどな、それ。

「あとは、本当にすみません。ミツキちゃんがかわいすぎでした。うん、あれはミツキちゃんが悪い!」
「俺がマヤの理想を汲み取って、演じてた――ってことになるのかな? 不思議な力で繋がってるから、それができたと」
「かも。それに精液って要するにわたしみたいなドッペルゲンガーの生命線だし、もちろん魔力的なエネルギーとしての価値も高いわけだから、もしかすると自分の精液の力でドッペルゲンガーとしての力を部分的に再現していた、とか? だからこうして今、すっきりしたからミツキちゃんモードが終わっちゃってるって考えると、結構自然かも」

 なるほど、そう言われるとなんだか納得してしまうような気もする。まあ、魔力だのなんだのは全く分からないのでそういうものなのかあ、としか思えないわけだが。

「なんにせよ、これはトラウマ克服への大きな一歩でしょ! 何なら景気付けにもう一発いっとく?」
「何の景気だよ、流石にもう出ないわ。むしろいつも一人でやるときの数倍疲れた気すらする」
「なるほど、ミツキちゃんモードは多大な反動がある、と。インキュバスになって日も浅いから、まだそこまで絶倫! って感じじゃないのかな? ゲーム風に言うなら、最大MPが低いみたいな。修行あるのみだね」

 そういえばインキュバス化についてそんなことも言ってたっけか。えっちがたくさんできるようになるとか。

「修行でどうこうなる問題なのかそれ?」
「なると信じてこれからもたくさんしたいなっていうのが8割くらい本音」
「出会って初日の遠慮がちなお前が俺は恋しいよ」

 あんなにエッチな話題を避けて挙動不審になったりしてた女が、変わればこうも変わるもんだ。
 というか、今日俺がミツキちゃんモードとやらになって性格までガラッと別人になってしまったことも考えれば、俺がそう望んでいる可能性もある、のか?

「残念ながらそんなわたしは初日で死にました」
「ほんとに死ぬつもりだったやつに言われるとシャレにならんからやめてくれ」
「今のわたしはシンヤに猛アタックするチャンスを耽々とうかがう健気な女の子なんですよーだ。ほらシンヤ、んー、ちゅ♡」

 マヤの唇が勢いよく近づいてきて、俺の口とつながる。俺のことが好きだと体で、目で、全身で伝えに来てくれている。

 ――――大丈夫、好きな女の子の前だから。安心していいんだよ。

 ミツキちゃんモードの時にも聞こえた自分の声。もちろん俺の指とマヤをキスさせるようなことはなかった。いきなりのことで反応できなかったわけでもなく、俺は自然とマヤの唇を受け入れることができていた。

「えへへ、しあわせぇ……ともかく、キスもこれでできるようになったわけだし! これは明日お赤飯の準備しなきゃだね! 今夜は寝かさないから覚悟しててね、シンヤ?」
「はいはい。じゃあ、後回しにしてた寝具でも買いに行くか」
「両面YESの枕とかあるかな?」
「さすがにジョークグッズだろ、そんなの。それに女の子の日とかでNOになることだってあるだろ?」

 俺もある意味今日女の子の日だったわけだが、ってそれはどうでもいいか。

「NOにはならないよ? 身体の構造とか相手の望み通りに変えられるのに、大好きなひととエッチできない期間なんて設けるわけないでしょ?」
「え、じゃあ避妊とかは……」
「わたしたちの間に0.01ミリだって障害は必要ないよね? シンヤがわたしに孕んでほしいって思ったら孕めるし、そうじゃないならずっとそのままだよ? 今がどっちかは……避妊のことを気にしてるってことは、まあそういうふうになってるんじゃないかな?」

 つ、都合がよすぎる…………!
 つくづく俺がトラウマ持ちでなかったら初日に全部済ませてるだろ、こんなの。


************


夜になった。目の前には、寝間着のマヤがいる。
せっかく買ったマヤの分の寝具だが、今日のところは使われないかもしれない。
キスはできたし、手コキでイかせてもらうといったことまで経験してしまった。
 早計ということはなかろう。むしろ、遅すぎたくらいだ。
 何より、マヤが生まれてからの半年以上お預けをしてしまっているのだ。
 
「キス、して。シンヤ……」
「マヤ……」

申し訳程度に点いた常夜灯を頼りに、マヤの躰に触れる。
しっかりと目が合った。ゆっくりとマヤは頷いて、唇をこちらに向けてくれた。
そのまま、吸い寄せられるように唇との距離が近づいていき――――。

「んっ……」

触れた。

「ちゅっ……ん、ちゅ。は、れろ……んっ、ん……?」

――――――俺の指と、彼女の唇が。

「ぷは。…………シンヤさん。昼間は怒らないといいましたが、今ばかりは流石に話があります」

いや、本当に何やってんだ俺!!! 二回目だぞ!!!!!!
 またマヤが敬語になっちゃってるじゃん!!!!

「「なんでーーー!!!!!!!?」」

 どうやら、俺のトラウマ克服はそう簡単な話ではないらしい。

22/09/25 02:20更新 / ノータ
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■作者メッセージ
内容が内容なだけに少し人を選ぶかも? と思わなくはなかったんですが、これもミツキちゃんがかわいすぎるのが悪い! っていうことでどうかご容赦お願いします。ほぼ性癖欲張りセットみたいになりました。

本番はもうちょっとお預けです。遅筆なのでリアルタイムではもっとお預けかもしれません。マヤ、我慢ばっかりさせるダメな親でごめんなさい。

応援等SNSや感想欄にいただければ励みになります。
今後ともよろしくお願いいたしますね。

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