ロスヴァイセと騎士叙勲
ちょうど、フリストに続いてヘルゲも床に就こうとした時であったろう。
その女が、脳内に響いた天の声によって、フリストの異常を知ったのは。
「フリストが、魔に堕ちた・・・・・・」
茫然と呟くのは、ヴァルキリーのロスヴァイセである。
鎧は紺碧。手に携えるのは金色の槍で、腰にあるコハクチョウの羽が、フリストと同じである。
フリストの髪は長いが、ロスヴァイセは短い。そのためか、幾分能動的な印象を受ける。
フリストの後輩に当たるヴァルキリーである。
「では、迅速にそれを確認し、処罰します」
神の声に応えて、ロスヴァイセは戦場を後にする。
エインヘリアルの選別も重要だが、それ以上に重んぜられる事態である。
「あのフリストが、まさか・・・・・・」
空を駆けながら、ロスヴァイセは呟く。
いや、ヴァルキリーなら誰でも、というよりも、フリストを知る者なら皆、同じような反応であろう。堕としたヘルゲでさえ、翌朝に跪いたフリストを見るまで信じられなかった。
ロスヴァイセがフリストの堕落を確認した時、処罰が決定される。
ヴァルキリーの使命を放棄し、祀ろうべき神に見向きもしなくなったのだから、当然である。
元来、天に祀ろう者の判断は迅速で的確で、容赦がない。
ヴァルキリーに於いての処罰は、死のみである。
「フリスト・・・・・・」
そのことへの感傷が、ロスヴァイセにもなくはない。ないが、やはりヴァルキリーである。神の声は、疑う余地もなく絶対である。
殺せと言われれば、自身の子すら殺すのが天の使いである。
そのくびきからフリストは脱したが、それが幸であるか不幸であるかは、まだ誰も判るまい。
翌日より、フリストは変わった。
変わったが、然程に言動に変化は見られない。ただ、
「ヘルゲ。もっと毅然となさい。わたくしを従えるのですから、まず言葉遣いから改めなさい」
内容が一変した。
「そ、そうは申されましても、フリスト。急には・・・・・・」
「情けないことを。急に変えた言動に、自覚というものは芽生えるのです。大体、なんですか。行為を求める時も、貴方はいつも姉の袖を引くようにする。
跪け、くらいのことが言えないのですか」
「む、無茶を仰せられる。そんな無体なこと・・・・・・」
「その様の方が、従うわたくしに無体だとは思わないのですか、貴方は」
叱られているのは、平素と変わらない。
が、ヘルゲが恐縮してしまうと、今度はフリストが慌てて、
「ち、違うのですよ、ヘルゲ。叱っているわけではありません。諭しているのです。か、顔をお上げなさい。
というより、わたくしを叱りつけるくらいはなさい。生意気な口を利いているとは思わないのですか?」
「お、思えるわけがないでしょう! 私が誰に向かってそんなことを言うのですか」
「わたくしに向かって言える立場なのですから、霊長の全てに言いなさい。
言っておきますが、ヘルゲ。わたくしは貴方の命ならなんでもしますよ。目に付いた町娘が気に入ったというなら力ずくでかどわかしますし、手籠めにするならわたくしが仕込みをしましょう。
街を焼けと命じられれば、鼠の子すら残さず灰にします。
良いですか、ヘルゲ。貴方は国の軍勢の中から、勇士を、花を剪定するように選び取るヴァルキリーを跪かせるのです。相応の態度と言動をなさい」
ヘルゲは、叱られた子供のような顔で黙った。
無理もいいところである。
生まれが生まれなだけに、ヘルゲは自尊心というものを育んでいない。況してやフリストに散々叱られてきたのだから、芽生えるところから望み薄というものであろう。
そんなヘルゲに無茶な要求だと、フリストも思うが、譲れない。
「考えてもなさい、ヘルゲ。
わたくしは確かに魔物に成り下がってしまったために、こんなわたくしになってしまったのかもしれない。しかしそれは一因です。直接は、やはり貴方が手を下したのです。
貴方の手管と熱意、そして気遣いによってわたくしは貴方を主と認めた。ならばわたくしを従えるのは当然でしょう。
ヘルゲ、貴方が自分を下風に置いては、従うわたくしは何者の下風にも立たなくてはならない。そのことを、哀れだとは思われませんか?」
そう言われてみると、その通りである。
ヘルゲは思い直した。
(俺の振る舞い一つで、フリストの人への印象は決まるのか)
尊敬する師に、惨めな気持ちを味わわせないために、相応の振る舞いが必要なら、まずはやってみようと思った。
フリストはようやく安堵して、
「よかった。判ってくれましたね、ヘルゲ。これからは少し過剰なくらい尊大になりなさい。行き過ぎていたら窘めます。
さ、まずはそこの切り株に腰を下ろして」
妙な主従である。従う側が、従える側を教導するのである。
ヘルゲは言われた通り、手近な切り株に座った。
「ヘルゲ、剣を抜きなさい」
と言って、自身の口調を省みて、慌てて言い直した。
「いえ、剣をお抜きください」
ヘルゲも慌てたが、とりあえず言う通りにする。
「わたくしの言う通りになさってください」
言うや、フリストが腰掛けたヘルゲの前に跪く。
「わたくしの両肩に、順番に剣を。勿論峰でお願いします」
剣を平らにして肩に乗せ、それをもう一方の肩に。
「わたくしの言葉を繰り返して。
フリスト、そなたを」
「ふ、フリスト。そなたを・・・・・・」
声が震えている。
慣れない行動への緊張もあったが、なにより恐縮してしまう。
「我が騎士の位に叙任する」
「わ、我が騎士の位に・・・・・・ええっ!?」
思わず間抜けな声を挙げてしまったヘルゲを、フリストは敢えて黙殺し、沈黙によって言い直しを勧めた。
ヘルゲも察したが、さすがに言えない。
騎士というものは、出生や身分でなれない。叙勲に相応しい勲功の主に、王が任じる役職である。
そしてこの形式は、間違いなく王が臣下に忠誠を認め、臣下が王に忠節を誓う作法である。
二人だけでは、たいした意味を為さないであろう。子供のチャンバラや戦争ごっこと大差がない。背に負った国という宝がない以上、所詮は真似事である。
が、国に生まれ、国の風習に則って生まれて生きたヘルゲには、真似事でも畏れ多くてとても出来ることではない。
況して、フリストがこれを真似事で終わらせてくれるとは思えない。本当に国家を樹立して、ヘルゲを王にしかねない。最も迅速なのは、ヘルゲの母国を革命で崩し、ヘルゲを盟主に頂いた新たな国家の樹立であろう。
そのことが脳裏にありありと描けるだけに、ヘルゲは二の句が言えない。
「ふ、フリスト・・・・・・」
「ご安心を、我が主。ご命を頂かぬ限り、このフリストの刃は如何なる者にも振るわれません。貴方が望まれるなら国も切り取りますが、命を頂かねばなにも致しません」
フリストは跪き、頭を垂れたまま、静かに言った。
僅かに、ヘルゲは安堵した。
「で、ではこの叙任にはどのような・・・・・・?」
「茶番とお思いですか。如何にも茶番にございましょう。
しかしどうかご容赦を。フリストめは堅物で、形式を重んじるつまらない性根なのでございます。このように、互いの立場を明確にさせて頂かねば、今後の生活に無礼を致しかねないのでございます。
どうか続きを。我が主。しばし、フリストの我儘にお付き合いを願います。終わりました後には、お手を煩わせたお詫び、どのような命でも仕ります」
「ど、どのような、って」
男の悲しい性だろう。この場で、一瞬だけでも卑猥な妄想を浮かべてしまうのは。
間髪入れずに、
「いま浮かべられた全てのことを、でございます」
顔色も変えずに言った。
フリストがここでヘルゲに失望しなかったのは、フリストの提案に魅力を感じるより先に、ヘルゲがフリストの真摯さを汲み取ったからであった。
(フリストがそこまで言うなら、これには互いにしか判らない深い意味があるのだ)
と思い、ヘルゲはフリストの言葉通りの作法で言った。
「フリスト。そなたを我が騎士の位に叙任する」
「謹んで、拝命承ります。これより、誉れ高き我が王の剣として、一層の働きを約束致します」
二人だけの儀式は終わった。
ヘルゲは、たったこれだけのことがひどく疲れるらしく、緊張が解けると共に剣を地に落とした。
フリストがそれを拾い、刀身を持って恭しく柄をヘルゲに捧げた。
「ああ、すみません、フリスト」
いつもの調子で受け取ってしまうから、ヘルゲのフリストへの畏敬は呆れるほどである。
剣を鞘に直してから思い至ったが、もう後の祭りであろう。
フリストはさぞ興醒めしているだろうと、横目で顔色を窺うが、別段その様子はないように思えた。
フリストの中での切り替えが済んだ以上、ヘルゲがどのような態度でも、忠節を捧げる主のことなら、どのようなものでも受け入れる積もりなのだろう。
ヘルゲは、己を恥じた。
(昨日までの俺と、決別する時なのだ。フリストが、そうしたように)
こほん、と大きく咳払いをして立ち上がった。
「フリスト、こちらに来なさい」
と、先頭を切って歩き出した。
フリストが慌てて追う。
少し歩いて、立ち止まる。
突風かなにかで倒れたのであろう大きな樹木があった。
ヘルゲは立ち止まって悩んでいる。
「どうされました? なにかお困りのことでも?」
「ああ、いや、大したことじゃ。ただ切り株と違って座りにくいかと。まあ別にいいさ」
どっかりと腰を下ろした。
「儀式の場で、貴女を求めるのは少し気の毒な気がしたので」
ようやく、ヘルゲの気遣いが判った。
判った時、フリストはまた、小さな感動を覚えた。
(相変わらず、わたくしに随分気を遣ってくれる)
覚えた時、自然と膝を折っていた。
「なんなりと。貴方のご命を頂ければ、わたくしは騎士ではなく女として働きましょう。女として求められるのも、わたくしには栄誉でございます。
何れのわたくしも、どうかご存分にお使い潰しくださいますよう」
「では、もっと近く」
膝を進める。ヘルゲの開いた膝を通った。
「手を使わずに。フリスト、そなたの手管を求む」
「ご命、謹んで。何分初めてのことでございますので、拙い奉仕をご容赦ください」
両膝を地につけて、手を後ろ手に。右手で左の手首を握る。
顔を押し出してヘルゲのズボンのジッパーを探り、歯で下ろす。
ジジ、と独特の音がして開き、隙間から口を入れて下着の割れ目を探る。唇と舌で見つけた割れ目を開く。
むっと、汗の臭いが広がった。
(ああ・・・・・・)
最早、ヘルゲの体臭すら、フリストを発情させてしまう。
屈辱的なポーズと行為に、知らぬ間に昂ったフリストの欲が、その身を濡らすほど強くなった。
他ならぬあのフリストに、この行い。ヘルゲはもう昂っている。
フリストの導きに従って、屹立した肉棒が顔を出した。
と見るや、ヘルゲはフリストの頭を掴み、
「嗅げ」
と、肉棒の根元にフリストの顔を押し付けた。
(やり過ぎか・・・・・・?)
という思いは、常にヘルゲの頭にある。僅かでもフリストが不快そうなすぐさま止めて謝るつもりだが、フリストは寧ろ楽しんでいるようである。
深い息遣いで判る。
フリストは言われた通りに臭いを嗅ぎ、その息遣いが震えている。
「少し前、互いに水浴びをしたが、そんなところが臭わない筈はない。
どうだ、フリスト。不快か?」
「い、いいえ。とんでもない。寧ろ水浴びなどお勧めした、あの時のわたくしを叱りたい。
芳しゅうございます。女を蕩けさせる淫らな香りでございます」
フリストは、敢えてこういう物言いをすることで、自身を興奮させている。
親愛と忠誠を捧げる相手に奉仕するという喜びは五体がはち切れんばかりに強いが、それにも況して、蔑んでいた淫売の真似事をするという異常な言動が、被虐的な悦をフリストの胸に宿した。
簡単に言えばイメージプレイのようなものであろう。
フリストはこの場で、徹底的に自身の立場を貶めるつもりだ。そうすることが、あの儀式の場で誓った忠誠の骨格になる気もした。
「スンスン、スン」
フリストは小鼻を膨らませ、犬のように性器の匂いを嗅ぐ。
先端から根元に掛けて、根元を過ぎて睾丸。果てはその裏側。
「あの・・・・・・」
ひとしきり嗅ぎ終わって、フリストが機嫌を窺う目でヘルゲを見上げた。
「もう、奉仕させていただいてもよろしゅうございますか・・・・・・?」
その仕草と言葉があまりにも愛らしく、可憐であったため、ヘルゲの胸が迫った。
つい抱き締めてやりたくなったが、我慢した。
(フリストは奉仕しようとしている。それに任せるのが良い)
狙いを外して興醒めするのは、互いに益のあることではない。
ヘルゲは殊更に尊大になり、いや、尊大を演じ、わざと意地悪に笑った。
「そのくらいのことを、わざわざ伺いを立てなければ判らないのか?」
(なんという言葉だろう。本当に俺の口から出ているのだろうか)
言いながら、ヘルゲはそう思う。盛り上がった気分というものは、人の眠っている感性すら引き出してしまうものらしい。
嗜虐的なヘルゲの笑みを受けて、フリストは慌てて、
「も、申し訳ありません、我が主」
肉棒に口づけた。
「チュッ」
と、唇を窄めて肉棒の裏側にキスをして、しながら徐々に登っていく。
ヘルゲは、背筋がぞわぞわと粟立つのを感じた。
(世にこれほど痛快なことあろうか!)
感動する思いである。
フリストは何度も先端と根元を往復してキスをする。その度に、肉棒がびくびくと嬉しげに跳ねるのが嬉しいらしい。
やがて根元を過ぎ、睾丸にまで、その美麗な顔を押し付けた。
「ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅちゅ、ちゅ・・・・・・」
雨である。
フリストは愛情が堪りかねてという様子で、ヘルゲに奉仕する。
そのうちにヘルゲが我慢出来なくなって、
「フリスト。素晴らしいが、そろそろ貴女の舌を味わいたい」
髪を一撫でして言うと、フリストは抗わずに真っ赤な舌をねろりと出して、
「んあ・・・・・・」
舌が、睾丸を持ち上げるようにして滑る。睾丸自体の重さを舌が受け、持ち上がるが、上部を舐めると落ちる。
その単純な変化を楽しむように、フリストは丹念に舐め上げる。
「へあ、あん、じゅる、じゅ、ちゅ」
舌が縦横無尽に睾丸を這いずり、ヘルゲに痛みにも痒みにも似た鈍い快楽を伝えてくる。
「レロレロ、れる、ん、ゴク・・・・・・」
塗布した唾液を舌で舐め取り、飲み込んで、また舐めて塗す。
フリストは、ヘルゲの味を楽しんでいる。
「く、な、なかなか、焦らすのが上手い」
「はふ・・・・・・いえ、焦らしては・・・・・・。申し訳ありません、わたくしだけ楽しんでしまいました」
礼をするように、名残りを惜しむように、フリストは睾丸に口づけて顔を上げた。
(わたくしを満たし、ヘルゲが満足してくれた証でわたくしを悦ばせてくれたあの白い魔物が、この中で・・・・・・)
フリストの胸中は、こんなところであった。
これまでの感謝の気持ちを込めて、これからの労りの気持ちを込めての奉仕である。
「ああ、先走りがこんなに・・・・・・」
フリストが声を挙げる。
見れば、肉棒の先端から透明な雫が、正に一筋落ちようとしていた。
慌てて舐め取り、舌で感触を楽しみ、嚥下する。
「少し、しょっぱい。けれど幸せです」
優しく微笑した。
フリストの見たことのない表情に、ヘルゲの胸が強く高鳴った。
フリストは、気づかない。
てらてらと、唾液に濡れた亀頭が淫靡に光っている。
その輝きに魅せられたように、フリストは舌を肉棒全体に這わせていく。
「んあ、はふ、じゅ、れるれる、ズ、ちゅ、じゅる、る」
肉棒の放つ、フリストにとってはそう感ぜられる淫らな芳香。その匂いに法悦のため息を漏らす暇すら惜しんで、フリストは奉仕する。
献身とはこのことだ、とヘルゲは思った。
苦痛を耐えて他人になにかを通すという献身は、義の心によって出来る。無論選ばれたと言えるほど少ない人物が持ち得る高次な精神性だろうが、自身の悦を封じて他人に奉仕するという献身は、更に少ないに違いない。
フリストの忠誠は、このことだけでも判る。
芳香と舌で窺える熱さと蠢動、それらはフリストの欲情を掻き立てるのに充分であり、フリスト自身もそれらによって愉しめる筈であるのに、奉仕に徹している。
自身の悦びよりもヘルゲの悦びを第一とした奉仕である。ここまでされて胸に何事かが去来しないとなれば、その者は人情というものを語る舞台に生涯上がれまい。
ヘルゲはフリストを褒める手段をあれこれと頭の中で巡らせたが、結局、
「フリスト・・・・・・」
独り言のように名を呼び、頭を撫でた。
「ふあ・・・・・・」
撫でられて、心地よさそうに目を閉じ、身を任せる。
その間も、舌は動いていて快楽を伝えてくる。
「レロレロ、レロ、ん、ごくり・・・・・・。れるれる、ちゅ、じゅ」
雁首のくびれにそって舌を差し込み、撫でるように舐め上げる。亀頭の鈴口を舌の腹で何度も舐る。
「くっ・・・・・・!」
込み上げる射精感を、下腹部に力を入れてなんとか堪えるヘルゲ。
頃は良しと見計らって、フリストが口をいっぱいに広げ、
「ふぁむ・・・・・・」
肉棒を頬張った。
「あむ、ちゅ、んむ、ちゅ、じゅる、ちゅちゅ」
温かな口内の粘膜に包まれる。フリストは意識して口内の空気を抜き、真空にして頬肉を肉棒に宛がう。その間も舌は亀頭の裏側を細かに動いて刺激を送り続けている。
ゆっくりと奥へ。亀頭が喉に迫ってもまだ止めず、ヘルゲの肉棒全体を口に収めるまで飲み込んだ。
「うぐ・・・・・・」
さすがに、苦しさに嗚咽が漏れた。
フリストは、
(ここで苦しげな声を出しては、また気を遣われる)
と恥じて、努めて喜色に塗れた声を出した。
「ふう、ふう、ん、んんぐ、ん、ん、んん」
鼻で息をして、喉でしごく。何度も苦しさで吐き出しそうになるが、必死に堪える。
「くっ・・・・・・!」
ヘルゲの切羽詰まった声。
限界は近い。
「ごふ、ぐっ、ん、んん! ん、ん、ん・・・・・・んぐ、ぐぐ」
ピストンを繰り返す。
咥えた肉棒を唇まで戻し、また喉奥へ誘う。空気が入らぬように気を付けて、吸い付いた唇に力を込める。
「おぐぐ、ぐ、んんふぅ! ふ、ん、んぐぐ、ぐ、んん!」
それにしても、なんと熱心で献身的な奉仕であろう。
潤んだ瞳が哀れみを乞うような、射精をねだるような視線でヘルゲを見上げている。
(気持ちいいですか、ヘルゲ? どうかこのまま、わたくしの喉へ・・・・・・)
フリストも、いつしか味わっているのは苦しみだけではない。
本来なら嘔吐感を催すであろうこの行為に、興奮を覚えている。
フリストは気持ちいいとは思わない。ただ反応してくれる愛しい人の姿が嬉しく、微笑ましく、誇らしい。それらが興奮と一体になって、フリストの股間を熱くする。
「うぐ、うぐ、おぐ、んふぅ! んぐ、んぐ、ぐ、うぐぅ!」
「う、ぐっ!」
ヘルゲの肉棒が、絶頂の予感に震えた。と見るや、
「んちゅぅぅぅぅ!」
激しい吸引。喉の奥に亀頭を仕舞い込んだまま、肉棒に激しく吸い付く。
「ぐうぅ!」
どぷ、と音がしそうなほどの勢いで、フリストの喉で射精した。
「ごぷっ! うぐっ、ぐ・・・・・・」
喉の奥に打ち付けられた精液が鼻に逆流する。
その苦しさに喘ぎながら、その苦しさの中に被虐の快楽を見つけて全身を震わせながら、フリストは必死に精液を嚥下する。
「おぐ、んぐ、んく、んく、んふぅ・・・・・・ゴク、ゴクゴク、ゴクリ」
フリストの白い喉が、哀れなほど忙しなく動く。
ヘルゲは肉棒に残った分さえ出し切って、フリストの喉を塞いで脱力した。
フリストは、なかなか肉棒を離さない。
「ん、んふぅ、ふぅふぅ、ん、ひぃ!」
精液が両の鼻から滴る。窄めた口が馬のようでひどく間抜けだが、淫靡だ。
これほどの痴態を、あのフリストが見せているという興奮に、ヘルゲの肉棒が再びびくんと跳ねた。
「んふ!」
その反応を歓迎し、フリストは肉棒を唇まで戻し、亀頭に強く吸い付きながら、名残りを惜しむようにしてようやく離した。
「お恵みを、ありがとうございます、わがあるじ」
唾液で濡れた肉棒を清めるため、また舌を這わせながら、フリストは言った。
ヘルゲは、この世のものとは思われぬ幸せに、背筋を震わせた。
その女が、脳内に響いた天の声によって、フリストの異常を知ったのは。
「フリストが、魔に堕ちた・・・・・・」
茫然と呟くのは、ヴァルキリーのロスヴァイセである。
鎧は紺碧。手に携えるのは金色の槍で、腰にあるコハクチョウの羽が、フリストと同じである。
フリストの髪は長いが、ロスヴァイセは短い。そのためか、幾分能動的な印象を受ける。
フリストの後輩に当たるヴァルキリーである。
「では、迅速にそれを確認し、処罰します」
神の声に応えて、ロスヴァイセは戦場を後にする。
エインヘリアルの選別も重要だが、それ以上に重んぜられる事態である。
「あのフリストが、まさか・・・・・・」
空を駆けながら、ロスヴァイセは呟く。
いや、ヴァルキリーなら誰でも、というよりも、フリストを知る者なら皆、同じような反応であろう。堕としたヘルゲでさえ、翌朝に跪いたフリストを見るまで信じられなかった。
ロスヴァイセがフリストの堕落を確認した時、処罰が決定される。
ヴァルキリーの使命を放棄し、祀ろうべき神に見向きもしなくなったのだから、当然である。
元来、天に祀ろう者の判断は迅速で的確で、容赦がない。
ヴァルキリーに於いての処罰は、死のみである。
「フリスト・・・・・・」
そのことへの感傷が、ロスヴァイセにもなくはない。ないが、やはりヴァルキリーである。神の声は、疑う余地もなく絶対である。
殺せと言われれば、自身の子すら殺すのが天の使いである。
そのくびきからフリストは脱したが、それが幸であるか不幸であるかは、まだ誰も判るまい。
翌日より、フリストは変わった。
変わったが、然程に言動に変化は見られない。ただ、
「ヘルゲ。もっと毅然となさい。わたくしを従えるのですから、まず言葉遣いから改めなさい」
内容が一変した。
「そ、そうは申されましても、フリスト。急には・・・・・・」
「情けないことを。急に変えた言動に、自覚というものは芽生えるのです。大体、なんですか。行為を求める時も、貴方はいつも姉の袖を引くようにする。
跪け、くらいのことが言えないのですか」
「む、無茶を仰せられる。そんな無体なこと・・・・・・」
「その様の方が、従うわたくしに無体だとは思わないのですか、貴方は」
叱られているのは、平素と変わらない。
が、ヘルゲが恐縮してしまうと、今度はフリストが慌てて、
「ち、違うのですよ、ヘルゲ。叱っているわけではありません。諭しているのです。か、顔をお上げなさい。
というより、わたくしを叱りつけるくらいはなさい。生意気な口を利いているとは思わないのですか?」
「お、思えるわけがないでしょう! 私が誰に向かってそんなことを言うのですか」
「わたくしに向かって言える立場なのですから、霊長の全てに言いなさい。
言っておきますが、ヘルゲ。わたくしは貴方の命ならなんでもしますよ。目に付いた町娘が気に入ったというなら力ずくでかどわかしますし、手籠めにするならわたくしが仕込みをしましょう。
街を焼けと命じられれば、鼠の子すら残さず灰にします。
良いですか、ヘルゲ。貴方は国の軍勢の中から、勇士を、花を剪定するように選び取るヴァルキリーを跪かせるのです。相応の態度と言動をなさい」
ヘルゲは、叱られた子供のような顔で黙った。
無理もいいところである。
生まれが生まれなだけに、ヘルゲは自尊心というものを育んでいない。況してやフリストに散々叱られてきたのだから、芽生えるところから望み薄というものであろう。
そんなヘルゲに無茶な要求だと、フリストも思うが、譲れない。
「考えてもなさい、ヘルゲ。
わたくしは確かに魔物に成り下がってしまったために、こんなわたくしになってしまったのかもしれない。しかしそれは一因です。直接は、やはり貴方が手を下したのです。
貴方の手管と熱意、そして気遣いによってわたくしは貴方を主と認めた。ならばわたくしを従えるのは当然でしょう。
ヘルゲ、貴方が自分を下風に置いては、従うわたくしは何者の下風にも立たなくてはならない。そのことを、哀れだとは思われませんか?」
そう言われてみると、その通りである。
ヘルゲは思い直した。
(俺の振る舞い一つで、フリストの人への印象は決まるのか)
尊敬する師に、惨めな気持ちを味わわせないために、相応の振る舞いが必要なら、まずはやってみようと思った。
フリストはようやく安堵して、
「よかった。判ってくれましたね、ヘルゲ。これからは少し過剰なくらい尊大になりなさい。行き過ぎていたら窘めます。
さ、まずはそこの切り株に腰を下ろして」
妙な主従である。従う側が、従える側を教導するのである。
ヘルゲは言われた通り、手近な切り株に座った。
「ヘルゲ、剣を抜きなさい」
と言って、自身の口調を省みて、慌てて言い直した。
「いえ、剣をお抜きください」
ヘルゲも慌てたが、とりあえず言う通りにする。
「わたくしの言う通りになさってください」
言うや、フリストが腰掛けたヘルゲの前に跪く。
「わたくしの両肩に、順番に剣を。勿論峰でお願いします」
剣を平らにして肩に乗せ、それをもう一方の肩に。
「わたくしの言葉を繰り返して。
フリスト、そなたを」
「ふ、フリスト。そなたを・・・・・・」
声が震えている。
慣れない行動への緊張もあったが、なにより恐縮してしまう。
「我が騎士の位に叙任する」
「わ、我が騎士の位に・・・・・・ええっ!?」
思わず間抜けな声を挙げてしまったヘルゲを、フリストは敢えて黙殺し、沈黙によって言い直しを勧めた。
ヘルゲも察したが、さすがに言えない。
騎士というものは、出生や身分でなれない。叙勲に相応しい勲功の主に、王が任じる役職である。
そしてこの形式は、間違いなく王が臣下に忠誠を認め、臣下が王に忠節を誓う作法である。
二人だけでは、たいした意味を為さないであろう。子供のチャンバラや戦争ごっこと大差がない。背に負った国という宝がない以上、所詮は真似事である。
が、国に生まれ、国の風習に則って生まれて生きたヘルゲには、真似事でも畏れ多くてとても出来ることではない。
況して、フリストがこれを真似事で終わらせてくれるとは思えない。本当に国家を樹立して、ヘルゲを王にしかねない。最も迅速なのは、ヘルゲの母国を革命で崩し、ヘルゲを盟主に頂いた新たな国家の樹立であろう。
そのことが脳裏にありありと描けるだけに、ヘルゲは二の句が言えない。
「ふ、フリスト・・・・・・」
「ご安心を、我が主。ご命を頂かぬ限り、このフリストの刃は如何なる者にも振るわれません。貴方が望まれるなら国も切り取りますが、命を頂かねばなにも致しません」
フリストは跪き、頭を垂れたまま、静かに言った。
僅かに、ヘルゲは安堵した。
「で、ではこの叙任にはどのような・・・・・・?」
「茶番とお思いですか。如何にも茶番にございましょう。
しかしどうかご容赦を。フリストめは堅物で、形式を重んじるつまらない性根なのでございます。このように、互いの立場を明確にさせて頂かねば、今後の生活に無礼を致しかねないのでございます。
どうか続きを。我が主。しばし、フリストの我儘にお付き合いを願います。終わりました後には、お手を煩わせたお詫び、どのような命でも仕ります」
「ど、どのような、って」
男の悲しい性だろう。この場で、一瞬だけでも卑猥な妄想を浮かべてしまうのは。
間髪入れずに、
「いま浮かべられた全てのことを、でございます」
顔色も変えずに言った。
フリストがここでヘルゲに失望しなかったのは、フリストの提案に魅力を感じるより先に、ヘルゲがフリストの真摯さを汲み取ったからであった。
(フリストがそこまで言うなら、これには互いにしか判らない深い意味があるのだ)
と思い、ヘルゲはフリストの言葉通りの作法で言った。
「フリスト。そなたを我が騎士の位に叙任する」
「謹んで、拝命承ります。これより、誉れ高き我が王の剣として、一層の働きを約束致します」
二人だけの儀式は終わった。
ヘルゲは、たったこれだけのことがひどく疲れるらしく、緊張が解けると共に剣を地に落とした。
フリストがそれを拾い、刀身を持って恭しく柄をヘルゲに捧げた。
「ああ、すみません、フリスト」
いつもの調子で受け取ってしまうから、ヘルゲのフリストへの畏敬は呆れるほどである。
剣を鞘に直してから思い至ったが、もう後の祭りであろう。
フリストはさぞ興醒めしているだろうと、横目で顔色を窺うが、別段その様子はないように思えた。
フリストの中での切り替えが済んだ以上、ヘルゲがどのような態度でも、忠節を捧げる主のことなら、どのようなものでも受け入れる積もりなのだろう。
ヘルゲは、己を恥じた。
(昨日までの俺と、決別する時なのだ。フリストが、そうしたように)
こほん、と大きく咳払いをして立ち上がった。
「フリスト、こちらに来なさい」
と、先頭を切って歩き出した。
フリストが慌てて追う。
少し歩いて、立ち止まる。
突風かなにかで倒れたのであろう大きな樹木があった。
ヘルゲは立ち止まって悩んでいる。
「どうされました? なにかお困りのことでも?」
「ああ、いや、大したことじゃ。ただ切り株と違って座りにくいかと。まあ別にいいさ」
どっかりと腰を下ろした。
「儀式の場で、貴女を求めるのは少し気の毒な気がしたので」
ようやく、ヘルゲの気遣いが判った。
判った時、フリストはまた、小さな感動を覚えた。
(相変わらず、わたくしに随分気を遣ってくれる)
覚えた時、自然と膝を折っていた。
「なんなりと。貴方のご命を頂ければ、わたくしは騎士ではなく女として働きましょう。女として求められるのも、わたくしには栄誉でございます。
何れのわたくしも、どうかご存分にお使い潰しくださいますよう」
「では、もっと近く」
膝を進める。ヘルゲの開いた膝を通った。
「手を使わずに。フリスト、そなたの手管を求む」
「ご命、謹んで。何分初めてのことでございますので、拙い奉仕をご容赦ください」
両膝を地につけて、手を後ろ手に。右手で左の手首を握る。
顔を押し出してヘルゲのズボンのジッパーを探り、歯で下ろす。
ジジ、と独特の音がして開き、隙間から口を入れて下着の割れ目を探る。唇と舌で見つけた割れ目を開く。
むっと、汗の臭いが広がった。
(ああ・・・・・・)
最早、ヘルゲの体臭すら、フリストを発情させてしまう。
屈辱的なポーズと行為に、知らぬ間に昂ったフリストの欲が、その身を濡らすほど強くなった。
他ならぬあのフリストに、この行い。ヘルゲはもう昂っている。
フリストの導きに従って、屹立した肉棒が顔を出した。
と見るや、ヘルゲはフリストの頭を掴み、
「嗅げ」
と、肉棒の根元にフリストの顔を押し付けた。
(やり過ぎか・・・・・・?)
という思いは、常にヘルゲの頭にある。僅かでもフリストが不快そうなすぐさま止めて謝るつもりだが、フリストは寧ろ楽しんでいるようである。
深い息遣いで判る。
フリストは言われた通りに臭いを嗅ぎ、その息遣いが震えている。
「少し前、互いに水浴びをしたが、そんなところが臭わない筈はない。
どうだ、フリスト。不快か?」
「い、いいえ。とんでもない。寧ろ水浴びなどお勧めした、あの時のわたくしを叱りたい。
芳しゅうございます。女を蕩けさせる淫らな香りでございます」
フリストは、敢えてこういう物言いをすることで、自身を興奮させている。
親愛と忠誠を捧げる相手に奉仕するという喜びは五体がはち切れんばかりに強いが、それにも況して、蔑んでいた淫売の真似事をするという異常な言動が、被虐的な悦をフリストの胸に宿した。
簡単に言えばイメージプレイのようなものであろう。
フリストはこの場で、徹底的に自身の立場を貶めるつもりだ。そうすることが、あの儀式の場で誓った忠誠の骨格になる気もした。
「スンスン、スン」
フリストは小鼻を膨らませ、犬のように性器の匂いを嗅ぐ。
先端から根元に掛けて、根元を過ぎて睾丸。果てはその裏側。
「あの・・・・・・」
ひとしきり嗅ぎ終わって、フリストが機嫌を窺う目でヘルゲを見上げた。
「もう、奉仕させていただいてもよろしゅうございますか・・・・・・?」
その仕草と言葉があまりにも愛らしく、可憐であったため、ヘルゲの胸が迫った。
つい抱き締めてやりたくなったが、我慢した。
(フリストは奉仕しようとしている。それに任せるのが良い)
狙いを外して興醒めするのは、互いに益のあることではない。
ヘルゲは殊更に尊大になり、いや、尊大を演じ、わざと意地悪に笑った。
「そのくらいのことを、わざわざ伺いを立てなければ判らないのか?」
(なんという言葉だろう。本当に俺の口から出ているのだろうか)
言いながら、ヘルゲはそう思う。盛り上がった気分というものは、人の眠っている感性すら引き出してしまうものらしい。
嗜虐的なヘルゲの笑みを受けて、フリストは慌てて、
「も、申し訳ありません、我が主」
肉棒に口づけた。
「チュッ」
と、唇を窄めて肉棒の裏側にキスをして、しながら徐々に登っていく。
ヘルゲは、背筋がぞわぞわと粟立つのを感じた。
(世にこれほど痛快なことあろうか!)
感動する思いである。
フリストは何度も先端と根元を往復してキスをする。その度に、肉棒がびくびくと嬉しげに跳ねるのが嬉しいらしい。
やがて根元を過ぎ、睾丸にまで、その美麗な顔を押し付けた。
「ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅちゅ、ちゅ・・・・・・」
雨である。
フリストは愛情が堪りかねてという様子で、ヘルゲに奉仕する。
そのうちにヘルゲが我慢出来なくなって、
「フリスト。素晴らしいが、そろそろ貴女の舌を味わいたい」
髪を一撫でして言うと、フリストは抗わずに真っ赤な舌をねろりと出して、
「んあ・・・・・・」
舌が、睾丸を持ち上げるようにして滑る。睾丸自体の重さを舌が受け、持ち上がるが、上部を舐めると落ちる。
その単純な変化を楽しむように、フリストは丹念に舐め上げる。
「へあ、あん、じゅる、じゅ、ちゅ」
舌が縦横無尽に睾丸を這いずり、ヘルゲに痛みにも痒みにも似た鈍い快楽を伝えてくる。
「レロレロ、れる、ん、ゴク・・・・・・」
塗布した唾液を舌で舐め取り、飲み込んで、また舐めて塗す。
フリストは、ヘルゲの味を楽しんでいる。
「く、な、なかなか、焦らすのが上手い」
「はふ・・・・・・いえ、焦らしては・・・・・・。申し訳ありません、わたくしだけ楽しんでしまいました」
礼をするように、名残りを惜しむように、フリストは睾丸に口づけて顔を上げた。
(わたくしを満たし、ヘルゲが満足してくれた証でわたくしを悦ばせてくれたあの白い魔物が、この中で・・・・・・)
フリストの胸中は、こんなところであった。
これまでの感謝の気持ちを込めて、これからの労りの気持ちを込めての奉仕である。
「ああ、先走りがこんなに・・・・・・」
フリストが声を挙げる。
見れば、肉棒の先端から透明な雫が、正に一筋落ちようとしていた。
慌てて舐め取り、舌で感触を楽しみ、嚥下する。
「少し、しょっぱい。けれど幸せです」
優しく微笑した。
フリストの見たことのない表情に、ヘルゲの胸が強く高鳴った。
フリストは、気づかない。
てらてらと、唾液に濡れた亀頭が淫靡に光っている。
その輝きに魅せられたように、フリストは舌を肉棒全体に這わせていく。
「んあ、はふ、じゅ、れるれる、ズ、ちゅ、じゅる、る」
肉棒の放つ、フリストにとってはそう感ぜられる淫らな芳香。その匂いに法悦のため息を漏らす暇すら惜しんで、フリストは奉仕する。
献身とはこのことだ、とヘルゲは思った。
苦痛を耐えて他人になにかを通すという献身は、義の心によって出来る。無論選ばれたと言えるほど少ない人物が持ち得る高次な精神性だろうが、自身の悦を封じて他人に奉仕するという献身は、更に少ないに違いない。
フリストの忠誠は、このことだけでも判る。
芳香と舌で窺える熱さと蠢動、それらはフリストの欲情を掻き立てるのに充分であり、フリスト自身もそれらによって愉しめる筈であるのに、奉仕に徹している。
自身の悦びよりもヘルゲの悦びを第一とした奉仕である。ここまでされて胸に何事かが去来しないとなれば、その者は人情というものを語る舞台に生涯上がれまい。
ヘルゲはフリストを褒める手段をあれこれと頭の中で巡らせたが、結局、
「フリスト・・・・・・」
独り言のように名を呼び、頭を撫でた。
「ふあ・・・・・・」
撫でられて、心地よさそうに目を閉じ、身を任せる。
その間も、舌は動いていて快楽を伝えてくる。
「レロレロ、レロ、ん、ごくり・・・・・・。れるれる、ちゅ、じゅ」
雁首のくびれにそって舌を差し込み、撫でるように舐め上げる。亀頭の鈴口を舌の腹で何度も舐る。
「くっ・・・・・・!」
込み上げる射精感を、下腹部に力を入れてなんとか堪えるヘルゲ。
頃は良しと見計らって、フリストが口をいっぱいに広げ、
「ふぁむ・・・・・・」
肉棒を頬張った。
「あむ、ちゅ、んむ、ちゅ、じゅる、ちゅちゅ」
温かな口内の粘膜に包まれる。フリストは意識して口内の空気を抜き、真空にして頬肉を肉棒に宛がう。その間も舌は亀頭の裏側を細かに動いて刺激を送り続けている。
ゆっくりと奥へ。亀頭が喉に迫ってもまだ止めず、ヘルゲの肉棒全体を口に収めるまで飲み込んだ。
「うぐ・・・・・・」
さすがに、苦しさに嗚咽が漏れた。
フリストは、
(ここで苦しげな声を出しては、また気を遣われる)
と恥じて、努めて喜色に塗れた声を出した。
「ふう、ふう、ん、んんぐ、ん、ん、んん」
鼻で息をして、喉でしごく。何度も苦しさで吐き出しそうになるが、必死に堪える。
「くっ・・・・・・!」
ヘルゲの切羽詰まった声。
限界は近い。
「ごふ、ぐっ、ん、んん! ん、ん、ん・・・・・・んぐ、ぐぐ」
ピストンを繰り返す。
咥えた肉棒を唇まで戻し、また喉奥へ誘う。空気が入らぬように気を付けて、吸い付いた唇に力を込める。
「おぐぐ、ぐ、んんふぅ! ふ、ん、んぐぐ、ぐ、んん!」
それにしても、なんと熱心で献身的な奉仕であろう。
潤んだ瞳が哀れみを乞うような、射精をねだるような視線でヘルゲを見上げている。
(気持ちいいですか、ヘルゲ? どうかこのまま、わたくしの喉へ・・・・・・)
フリストも、いつしか味わっているのは苦しみだけではない。
本来なら嘔吐感を催すであろうこの行為に、興奮を覚えている。
フリストは気持ちいいとは思わない。ただ反応してくれる愛しい人の姿が嬉しく、微笑ましく、誇らしい。それらが興奮と一体になって、フリストの股間を熱くする。
「うぐ、うぐ、おぐ、んふぅ! んぐ、んぐ、ぐ、うぐぅ!」
「う、ぐっ!」
ヘルゲの肉棒が、絶頂の予感に震えた。と見るや、
「んちゅぅぅぅぅ!」
激しい吸引。喉の奥に亀頭を仕舞い込んだまま、肉棒に激しく吸い付く。
「ぐうぅ!」
どぷ、と音がしそうなほどの勢いで、フリストの喉で射精した。
「ごぷっ! うぐっ、ぐ・・・・・・」
喉の奥に打ち付けられた精液が鼻に逆流する。
その苦しさに喘ぎながら、その苦しさの中に被虐の快楽を見つけて全身を震わせながら、フリストは必死に精液を嚥下する。
「おぐ、んぐ、んく、んく、んふぅ・・・・・・ゴク、ゴクゴク、ゴクリ」
フリストの白い喉が、哀れなほど忙しなく動く。
ヘルゲは肉棒に残った分さえ出し切って、フリストの喉を塞いで脱力した。
フリストは、なかなか肉棒を離さない。
「ん、んふぅ、ふぅふぅ、ん、ひぃ!」
精液が両の鼻から滴る。窄めた口が馬のようでひどく間抜けだが、淫靡だ。
これほどの痴態を、あのフリストが見せているという興奮に、ヘルゲの肉棒が再びびくんと跳ねた。
「んふ!」
その反応を歓迎し、フリストは肉棒を唇まで戻し、亀頭に強く吸い付きながら、名残りを惜しむようにしてようやく離した。
「お恵みを、ありがとうございます、わがあるじ」
唾液で濡れた肉棒を清めるため、また舌を這わせながら、フリストは言った。
ヘルゲは、この世のものとは思われぬ幸せに、背筋を震わせた。
16/08/31 20:36更新 / 一
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