第十五話 大会
気が付けばそこは大歓声の只中だった。
音源ははるか上。後ろを向けばそこには白亜の壁がそそり立ち、見上げればそこにローマのコロッセオにでもありそうな石造りの、それでいて細部にまで職人の技巧が凝らしてあるような芸術的な観客席があった。
目の前には湖、奥行き三百メートルはありそうな水面が目に痛い太陽光を乱反射させている。
湖の果てに門らしきものが見え、それとつながっている壁がぐるりと湖全体を囲んでいる。恐らくはあの門の向こうにアクィレアン湖なるものがあるのだろう。
そして周りの人、人、人。
数十人、いや、より正確に言うなら三十人前後か。
筋骨隆々な人からフード被った小柄な子供と思わしき人まで、じじいはいないにしろ老若男女どころか種族まで飛び越えてバラエティーに富みすぎる人々が集まっていた。
恐らくは魔法があるせいで『柔よく物理を制す』感じになっているんだろう。何も言うまい。突っ込むだけ野暮だから。
そんなことよりも、その人たちからの視線が痛い。
そりゃそうだろう。何もない空間からいきなり人が湧いて出て来たのだから。皆一様にギョッとした顔になっている。かく言う俺が一番物理無視しとるからな。
って、まてまて、別に俺は無視してねえよ? 俺はそんな現象に巻き込まれただけだし、被害者だし。
「はあ、皆さん何でこっち向いてるんでしょう? わかりますか、ヒムロさん?」
「新手の冗談として聞き流すぞ。いきなりどういうつもりだ、ただのアルプ?」
「せめてヴェローネと呼んで下さい」
声に気づいて見てみれば、傍らに空間とか距離とか移動時間とかをガン無視した幼女が立っていた。
中性的な顔立ちのせいでパッと見、少年かとも思うが、女性ものの服装のお蔭で判別ができる(もしかしたらただの女装趣味かもしれないが)。
髪は栗色のショートカット、着ているものは露出過多で、腹部からは何故かオスマークとメスマークの入れ墨が見えた。卑猥に突き刺さっている訳でもないんだが、そこが逆に謎だ。
悪魔の眷属っぽく、角や皮翼、尻尾を標準装備している。どこぞのエロゲ―にでも出てきそうな出で立ちだ。
俺がひとしきり睨むと、名前を呼ばれるのを待っていたのか、腕を組んで待機状態だったヴェローネもふう、と息を吐いて腕をだらんと下ろした。
「どういうつもりも何も、友人のために一肌脱ごうというあなたの背中をほんのちょっぴり押しただけです。言って置きますが私が転移させなければヒムロさんは本大会には出場できませんでしたよ? それとも、ヒムロさんには何か別の案があったので?」
――たった五日で十五万ヘルメスも稼ぐ方法が。
にっこりと笑顔で吐き出されたその一言にうっ、と息が詰まる。
ぐうの音もでない。
何の案もなく、困り果てていたのは間違いない事実だ。ならば、渡りに船だったはずだ。例え、首に縄引っ掛けて迷路の出口に案内されるようなやり口だったとしても。
「……悪かった。ありがとう」
「……いえ、そんな素直に言われても気持ち悪いのですが」
なんだか得体のしれないものを見るような目で言われてしまった。
何でだよ、素直に謝ったというのに。解せぬ。
しかし、当たり前の疑問として、ヴェローネがこんなことをする理由は何なのだろうか? 言っちゃなんだけど何のメリットもないよね?
「ああ、それですか。なんのことないです。先輩の『義兄上』様が困っているというのに手を差し伸ばさないだなんて後輩失格だからですよ。先輩からは、大事なことをたくさん教わりましたから」
聞いたら結構素直に教えてくれた。
ほむほむ。つまりはシレミナの懐の深さによるところの結果か。もうシレミナには足を向けて眠れないね。どんだけ顔が広いのやら。
「さあ、おしゃべりはここまでです。そろそろ始まりますよ……」
ヴェローネがそう一言告げると、コオーンという拡声器のスイッチを付けた直後のような音が耳朶を打った。
◇ ◇ ◇
アクィレアン闘技大会。
それはサンサバルドで年に一度行われる、この街最大の催し物である。
闘技大会と名の付くものの、その実態はアクィレアン湖で増えすぎた巨大怪魚の大規模討伐である。
そもそも、本大会の行われる水門大闘技場の本来の役割は水資源の確保だ。この湖は巨大怪魚の巣窟となっており、直に水を引こうとするとどうしても水路から怪魚が遡上してくる。それを防止するため、フィルターのような水門を作り、そこから水を水門大闘技場へと引いてから田園地帯へと流したり、生活用水として街内部に貯水しているらしい。
この水門は北の辺境村との交易で得た魔怨水晶というという特殊な鉱石を練り込んで作られた一品だが、それでも定期的なメンテナンスは欠かせないし、怪魚が大挙して押し寄せれば万が一のことも考えられる。
そうならないために定期的に行われる怪魚の間引き、それこそがアクィレアン闘技大会なのである。
また、本大会では表でも裏でも盛んに賭け事が行われ、勝って巨万の富を手に入れた物乞いもいれば、大負けした豪商が次の日から忽然と姿を消したなど、嘘か誠かはっきりとしない話がまことしやかにささやかれている。
◇ ◇ ◇
「ルールは三つ。一つ、人に武器を向けない。二つ、人の獲物を横取りしない。三つ、怪魚を追って、水の深いところまで行かない。この三点だけを守っていれば後は好きに怪魚を狩っていいです。後、この予選では最も大きい獲物を仕留めたものが勝ちです。説明は以上ですが、何か質問はありませんか?」
「うんにゃ、なんも。ただ一言だけ言わせてもらうと、目当ての魚はどこにいるんだ?」
つい先ほど、F1的スリーカウントで始まったばかりの大会だったが、殺人的な日光を照り返す砂浜には怪魚の影も形も見えない。
水面も同様だ。すでに彼方の水門は開け放たれているというのに魚影一つ見えない。
「そうですね。いつもならもう来てもおかしくないのですが……」
それなんてフラグ? と言う冗談はさておいて、来ないもんは来ない。なので、無駄に緊張しても疲れるだけだと肩の力を抜く。逆に視線はあちらへこちらへ。とんでもないとこから奇襲されても面白くない。もしかしたら足元の砂の中から、ギラつく太陽光の中からやってくるかもしれない。それぐらい、この世界の生物は非常識な生態している。骨なのに動いたり、空中に浮遊したりな。
あー、理花がいてくれたらこんな心配しなくて済むんだが。
そう思ったとき、ようやく水面に変化が訪れた。
水面を突き破って姿を現したのは砲弾状の頭部。
長い首を屹立させ、水を滴らせながらこちらを見下ろす、それは竜だった。ドラゴンというよりはフタバスズキリュウなどといった水棲恐竜に近い印象を受ける。その竜は自身の存在感を誇張するようにその喉を大きく震わせた。
「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
首を振り回して吠える竜は水掻きと首だけを出して水から出て来ようとしない。流石にこの人数を見て警戒しているのだろうか。
「ラト・デアントですね。とりあえず避ける準備を……って、ヒムロさんにはその必要はないんでしたね」
「は? どういう、」
――意味だ、そう聞く前にスッ、とヴェローネが俺の影に隠れた。
あれ、この光景はどこかで見たような……? それに周りの選手たちも蜘蛛の子を散らすように走り出しているし。
直後、衝撃。
竜から一瞬目を離し、ヴェローネの方を向いていた直後の出来事だった。
彼女諸共吹っ飛ばされてから、俺が超高圧の水流に押し流されていたことに気が付いた。
「マジかっ!?」
マンガやゲームでよく聞く竜のブレスってやつか? いや、今はどうでもいい。そんなことよりも俺と一緒に吹き飛ばされた幼女が先決だ。
俺は咄嗟に右腕でヴェローネを抱え込み、その他の四肢を砂浜へと突き刺して慣性を殺そうとする。
しかし、それよりも迅速に動いたのは彼女だった。
「『イナーシャル・ニュートラル』」
急に体が軽くなった。圧迫感が消え去り、それに伴って脳の混乱も和らぐ。
これは、セレクトキャスト? もしかして、SFの宇宙船が使えるような慣性制御ってやつだろうか?
何はともあれ、受けた衝撃が和らいだのは確かだ。俺は今度こそ、四肢で地面を掴んだ。
完全に砂の上で止まった後、ヴェローネを降ろし、尋ねる。
「怪我はねえか?」
「おかげさまで」
一応、彼女の全身を見て見たが、打撲痕どころか擦り傷一つない。不思議なもんだ。服が仕事しているとは到底思えないんだが。
「さ、行きましょう。早くしないと獲物を盗られてしまいますよ?」
「あ、ああ、そうだな」
吹っ飛ばされた軌跡をなぞるように戻る、駆けだした彼女を見て本当に大丈夫そうだと胸を撫で下ろす。俺もその後を追従しつつ、前方の竜を視界に収める。
そこではすでに戦闘が開始されていた。矢が飛び、魔法が飛ぶ。そのほとんどは外れたり、竜の硬い鱗に弾き飛ばされていたが、攻撃の手は休まらない。こんなにも雨あられと攻撃されたら逃げ帰りそうなものだが、竜は未だにそこにいた。
「グラアアアルルルウウ……」
怒り、というよりもイラつきといった唸り声を上げ、またもや竜がブレスを吐く。どうも安全圏から出る気はなさそうだ。
なんとか誘い出せばやりようがありそうだが。
「ヴェローネ、あの竜がいるとこは入っちゃ駄目なところか?」
「はい、完全に深いところですね。危険地帯です」
そうか……。だが、近場まで行って誘い出すのはありなんじゃないか? こう、餌ですよー、って感じで。まあ、餌は間違いなく俺なんだが。
疑似餌作戦に当たって、どこまで入るのがありなんだろうか? 腰まで?
「脹脛までです。太ももまで達したらもうアウトです」
あくまで大会規定のルールですが、とヴェローネが補足する。
OK、脹脛までね。
それだけ聞いて、俺はヴェローネを置き去りに他の選手たちの間をすり抜け、どぼん、水に入る。
今の選手たちの分布は砂浜に七割、水辺に三割だ。これは別に大半の選手がビビり、と言う訳ではなく装備の問題だ。つまり、七割方の選手が飛び道具持ってない、もしくは魔法が使えないのだろう。余談だが、水辺で魔法使っているやつは大半が人外娘で、尚且つビキニアーマーだ。こんな状況じゃなかったらパラダイス・サマーの幕開けだっただろう。
閑話休題。
俺はさらにその人外美女軍団を抜けて前に出る。餌は目立たないと意味がない。それにハンターは群れからはぐれた子羊を襲うのが基本だ。
その思惑通り、集団から飛び出した俺に竜が咢を突き出した。ずらりと並んだ白い歯とぬらりとした赤い舌が目に写る。
自動車ほどの勢いそのままに、竜が俺の胴体へと食らいついた。が、俺は骨が折れることも肌が切り裂かれることもない。すでにそれは何度も実証済みだ。
逆に竜はただでは済まない。
バキバキという歯が砕ける音からワンテンポ置き、竜が絶叫する。その際、竜の顎が大きく開くが、俺は何とか折れ残った歯に掴まり、一言。
「『ファイアショット』」
竜の喉奥で盛大に火が爆ぜたのを確認し、俺は今度こそ落下した。
「よし」
「ヒムロさん、意外とえげつないことしますねー」
「弱点を狙うのは基本だ」
外皮、硬そうだったしな。
しかし、それでもまだ生きているあの竜は大した生命力だと思う。しかも怒り狂ってこっちに向かって来ている。
あの竜は毒もなさそうだし、俺にとっては飛んで火にいる夏の虫だ。負ける要素がない。また口を開けたらファイアショットを放り込もう。
「うーん、爬虫類ってどんな味すんだろ? 鶏肉味?」
俺は益体のないことをぼやきつつ、再び身構えた。
◇ ◇ ◇
怒り狂ったラト・デアントは思いの他あっさりとけりがついた。まあ、噛みついて来たり、水掻きのついた手で引っ掻いてきたりと普通の攻撃ばかりだったし。ほとんど食らったけど、俺はノーダメージ。けれども向こうはファイアショットでがりがりと体力を削られていき、最後は丸呑みされた俺が腹の中からファイアショットを爆散させたせいで力尽きた。俺も酸欠で死にそうになったけど。
結果、予選Dブロックは無事に通過。ラト・デアントの討伐後を見計らったように蛙やら蜘蛛やらがぞろぞろと湖から顔を出したが、結局は竜よりも小ぶりなものばかりだったと追記しておく。
本当、あんまり苦戦しなかったなあ。疲れたけど。やっぱり、物理無効の体がチート過ぎるんだろう。なかったら今回だけで数十回死んでいるはずだし。
何はともあれ、予選通過を祝って今はとある酒場に来ていた。
すでに日はとっぷりと暮れ、薄暗い酒場をぼんやりとした蝋燭の明かりが照らしだしている。笑い声に混じって酒やたばこの臭いが鼻腔を満たす、懐かしい雰囲気だ。景色こそ違うのに、まるで実家の居酒屋に返って来たかのような気分になる。
集ったメンバーはサハリにシレミナ、理花はもちろんのこと、計とともに例の逃亡奴隷の幼女まで来ていた。何故かヴェローネはいない。
「それでは、何故かわてらが買い物に行きよった際に勝手に闘技大会に出とった件について」
「「「「かんぱーい!」」」」
「ぐべっ!?」
金属製のジョッキに押しやられ、俺はそのまま席から転げ落ちた。
……いや、何で?
「何でやあらへんよ。黙ってどっか行きよってからに」
「そうだぞ、キョウスケ。帰って来てどれだけ慌てたことか。人攫いにでもあったのかと思ったぞ」
「そうだよ。せっかくきょー君のためにプレもごーっ!?」
何か言いかけた理花に二人が抑えにかかっている。
そうか、サプライズプレゼント買いに行っててくれてたのか。そいつは悪かったなあ。なら、帰ったら盛大に驚こう。な、なんじゃこりゃあー。
「ああ。それを言うなら僕の方こそ驚いたぞ。お前は防御特化で攻撃力なぞ皆無だと思っていたからな」
計がジョッキ(果実水)をちびちびとやりながらそう言ってくる。
確かに、俺の異能がチート体質だけだったらそうだろう。だが、チートだけで満足する俺ではないのだよ。
「ふふふ、確かにそう思うのは無理もない。しかし、俺はチート体質だけでなく」
「魔法も使えるんだってなあ。シレミナさんから聞いたよ」
むう、シレミナめ。余計なことを。
「僕も使えるし」
「なん、だと……?」
まさか、もうシレミナに教えてもらったのか?
「ヴェローネさんに教えてもらったんだよ。風魔法のエアバレット」
したり顔の計曰く、丸一日基礎を教え込まれたのだとか。
魔法発動に必要なエルダーキャストにそれを短縮するためのセレクトキャスト。さらには魔法の属性についてまで。ちなみに属性とはゲーム的な『火は水に強い』とかではなくて使う上でのカテゴライズらしい。間違いやすいが精霊とか元素とかの話とごっちゃにしないように、ともいわれたのだとか。
「精霊ねえ。精霊と言えば、その子の名前もまだ聞いてなかったな。何て言うんだ?」
ちろん、と視線を向けたそこには中学生ぐらいの背丈の子どもがちょこんと座っている。ただ、全身を黒いマントに包み、目深にフードを被っているため怪しいことこの上ない。いっそ、怪人といってもいいぐらいのその子は、フードから僅かに零れる長い金髪でぎりぎり女の子だとわかる。計が言うにはエルフらしいのだが。
「ああ、アメリ―。アメリ―=ブランジャードというらしい」
「アメリ―、ブランジャード……?」
その名前に引っかかりを覚えた。別にその名前に聞き覚えがあった訳じゃない。後ろの名前、ファミリーネームに引っかかったのだ。
「貴族とか豪族? いいとこのお嬢様なの、その子?」
「いや、ただの氏族名らしい。いいとこのお嬢様だったりしたら、さらにとんでもない額になっていただろうね」
それもそうか。もしどこぞのお嬢様だったりしたら人間とエルフで戦争になりそうなもんだしな。いや、奴隷として連れて来られているんだし、それはそれで戦争になりそうだがなあ。エルフはヒッキーなのかね?
あ、いや、別に拉致られたとも限らないのか。貧困による身売りかもしれないし。少し気になるが、デリケートそうな問題だし、ここは突っ込まん方がいいな。親に売られた云々なんて聞きたくないし、向こうも聞かれたくないだろう。
俺はそんなことを考えつつ、一気に酒を煽る。
「っぷはーーー! 苦え! なんじゃこりゃ」
ちなみに飲んでいるのは蜂蜜酒だ。出て来た当初は黄金色と蜂蜜の甘い香りでおいしそうな気がしたんだが、酒は酒。やはり苦い。
「うわ、お酒臭い。きょー君未成年なのにお酒飲んでるの?」
理花どころか計までもが非難するような目つきでこっちを見て来る。かあーっ、お堅い姉弟だこと。
せっかく親もいないというのに。ま、別にただ飲みたかっただけじゃないんだけど。
「何言ってんだよ。実験だよ、実験」
「実験?」
キョトンとする理花に首肯してやる。
俺の体は毒に弱い。毒を食らった途端に物理無効の体質が消え去り、刃が拳を貫いたのはつい最近のことだ。さらに言えばその毒というのもどっちかというと酸に近いものだった。どんな種類の毒が俺に効くのか、その辺は早めに調べておく必要がある。仮に酒類が毒に分類されるのであれば、揮発性の高いものを散布され、吸ってしまえば俺のバトルスタイルが使用不能になるやもしれん。物理無効の鉄砲玉ができないのは痛い。
「なので、今の内に検証できるならしておくべきだ。それに、コーヒーの味とかと同じで酒って慣れんと中々飲めないだろ?」
本当に、よくもまあ皆さんはこんな苦いもんごくごくと飲めるもんだ。コーヒーなんかとはまた違う、大人の味ってやつだろう。
「……それって結局は自分が飲みたいだけじゃないのか?」
「おふこーす。童貞も食われちまったし、このまま大人階段ステップで上って行ってやるぜ」
「なッ!? お前、何時の間に!? 誰だ、誰とだ氷室! 理花以外とだったら許さないぞ!? お前以外に誰がこいつを引き取るんだ!?」
……。
「あはー、ほんとだ〜、お酒しゅご〜い。おいし〜、おもしろ〜い、あはは〜♪」
「う、酒臭っ。というか理花、お前、出来上がるの早すぎる!」
「あん? おい、理花てめー俺の酒飲むんじゃねえよ。俺の酒がなくなったらてめーの酒もなくなるんだぞ? わかってんのか?」
「……いや、氷室、お前なに言ってんだよ?」
「お前こそ何言ってんだ、ここは俺ん家だぞ?」
「酔っちゃってるよ!? お前居酒屋の息子のくせして酒弱すぎるだろ!」
…………。
「なんや、楽しくなってきたなあ。あ、おネエちゃん蜂蜜酒六本追加」
「シレミナ、私はこのミストフロッグの串焼きというものが食べたいのだが……」
「ちょ、お二方、見てないで助け」
「計、てめー誰と話してんだ。こっち向けよう。俺の酒が飲めねえのかあ?」
「いや、だからお前はいい加減悪酔いやめぎょぼぼぼぼっ!?」
……………………。
「……………………………お酒おいし」
結局、俺は碌に検証もできぬまま酔い潰れ、その夜は過ぎて行った。
15/11/22 23:27更新 / 罪白アキラ
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