史上最低のプロポーズ
「お願い……私を抱いて……」 青年の耳元に、艶やかな女性の声が流れてきた。男を誘う魔性の色香を含んだ声が、夜の帳に混じり青年の耳朶を打つ。 「……」 その声に応えるように、青年はゆっくりとその声の主へ手を伸ばす。 「……ふぁ……んっ」 指先が、女性の頬に触れる。途端に、女性の声色にむずがるような、切なそうな吐息が加わった。 青年の指が、そのまま這うようにして、吐息を漏らす唇へと移動していき…… ―グニッ、ギュッ。 両側の頬をつねり、みょーんと引っ張った。 「痛い!痛い痛い痛いっ!!」 限界まで伸ばされ、たちまち悲鳴を上げる女性。 「な、何をするのよっ、いきなり!」 「やかましいっ!ソノ気もねぇのに、男の性欲を刺激しまくるセリフ言ってんじゃねぇ!」 抗議する女性を尻目に、青年はすげなく言い放った。 「そ、そんな事はないわよっ!私は、本当に、あなたに『抱いて』もらいたいの……」 青年の物言いに、女性はすぐに抗弁し、もう一度自身の情を訴えた。大抵の男ならその言葉だけで一も二もなく下半身を猛らせるだろう。だが青年は動じなかった。 女性の言葉の真意を、青年は「身を以って」知っていた。いや、どちらかと言うと「身を持って」知っていた、と言うべきだろうか。 そう、文字通りその身―彼女の「頭部」を持って。 「お前が言ってるのはなぁ……ただの『抱っこ』って言うんだよ!いったいどこに、デュラハンの首だけを抱っこして喜ぶ男がいるんだよっ!!」 青年は首なし騎士―デュラハンの「首」に向かって、思い切り叫んだのだった。 |
||||||||||||
|
||||||||||||