連載小説
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第6話 2日目その5「よかった?この人を好きになって本当によかった……っ?」
「しょ……っと」
呆気に取られているレイから自分の首を取り戻すと、ヴァネッサはもどかしげに着ている鎧を脱ぎ捨てはじめた。
(邪魔、この鎧、邪魔……!!)
篭手、胸当て、肩当てと投げ捨て、草摺(腰当て)に関しては回転しながら飛んでいった。
普段は自分の鎧をぞんざいに扱う事など決してしないのだが、今は一刻も早くあの白濁液が欲しくてたまらなかった。
腰の部分で紐を結ぶショーツも投げ捨てるとあっという間にほぼ全裸となり、レイの両肩を掴み迫っていく。
「お、おいおいおい、落ち着けって!!」
鬼気迫るようなその雰囲気に、若干引き気味にレイが押しとどめようとする。
しかしヴァネッサは即答した。
「ムリ」
「おい!」
「あなたが悪いのよ。何回も私の首を外したりするから……」
そのまま手を押し退けると、レイの股間に手を伸ばす。
「うおっ!?」
不意打ちにビクリとレイの腰が震えた。
「まだ大きくない……」
手を這わせたヴァネッサが不満げに漏らした。
いきなりの事態に、まだレイの愚息が臨戦態勢に入っていないのだが、今のヴァネッサはそこまで頭が回らない。
(私が脱いだのだから、勃起してもいいものを……それなら……)
小さいなら大きくすればいい。
そう結論付けたヴァネッサは、しゃがみこむとレイのズボンを一気にずり降ろした。
「うおっ!」
ボロンと萎びたレイのモノが目の前に飛び出したその直後、
「あむ……!」
「あひぃっ!!」
自らそのモノを口に含んでいた。
「うむ……じゅる……ちゅぱっ……」
「うくっ……いきなりかよ……」
ガクガクと笑う膝が崩れないように必死で抑えつつ、レイがヴァネッサの頭に手を置いた。
どうやらこの男もその気になってくれたようだ。
その証拠に、恋人が懸命に股間にしゃぶりついている姿に興奮した肉棒がみるみると膨らんでいった。
(大きくなった。これで精液が出せる)
ヴァネッサは嬉しそうに小鼻を膨らませ、
「ぷは……大きいから、もういいわよね?」
愚息から口を離すと、上目を使いレイに問いかけてくる。
嫣然とした笑みを前に、ここまでされて応えない奴は男じゃない。
「ああ、わかったよ」
レイはヴァネッサを立たせると、壁に手を突かせた。
(後ろからするのね……)
レイの意図に気づいたヴァネッサはヒップを突き出すように腰を掲げる。
岩肌がむき出しの洞窟内では確かにこの体位が一番だろう。
全裸に脚甲(と膝当て)だけという、情事には似つかない格好であるが、それを差し引いても今のヴァネッサは扇情的であった。
太過ぎず細過ぎず全身これバネともいうような背からは、よく鍛えられているだろうという事がわかる。
そして肉付きの良い大腿の間、ソコはすでに自分でも分かるほどしとどに濡れていた。
「なんだ……もう準備万端じゃねえか」
それを見て取ったレイがからかい口調で、ソコに触れる。
「ひうっ……」
それだけで、突き抜けるような快感が背筋を上っていく。
たかが指一本、アレではないのにも関わらず、だ。
(凄い……これで、アレなんて挿れられたら……!)
先ほど咥えたレイの肉棒を思い出し、期待に胸が高鳴っていく。
もう手などではなく、あの熱く硬いモノで自分を満たして欲しい。そんな欲求がどんどん溢れ出てくる。
「すげえな。ちょっとしゃぶっただけでこんなに濡らして……そんなに期待してたのか」
が、ヴァネッサの欲求を知ってか知らずかレイの揶揄する声が背後から響く。
(く……こいつ、わざとなの?わざと焦らしてるの?)
もう泣きたくなるほどに子宮が疼いているのだ。これ以上の焦らしは拷問に等しい。
とうとう一向に挿入してくれないレイに向かって焦れたヴァネッサは、
「……そうよ。言ってるでしょう。もう我慢できなくなってるのよ。だから……早く……して」
哀願のセリフを口にした。
同時にそのセリフを裏付けるように、秘孔からさらにたぱたぱと密が太腿を伝う。
処女とは思えぬその淫靡さに思わずレイが喉を鳴らし、肉槍を蜜溢れる場所へとあてがわれた。
(あ、来る……来る……)
「じゃあ……いいか?」
先端が触れるところで、ヴァネッサに問いかける。
「ええ……だから早くぅ……」
破瓜の恐れなどまったくない。
愛する男の精を受け止めたいと願った瞬間、レイが一気に腰を押し進めた。
「はぐぅぅぅっ!!」
呻くような悲鳴と共に、ヴァネッサの処女膜が引きちぎられた。
「か……は……」
「悪い……やっぱり痛いか?」
興奮のあまり、思い切り突いてしまったレイが、体を震わせてじっと耐えるヴァネッサを呼んだ。
鍛えられたヴァネッサの中は、処女という事も相まってかなりの狭さだった。
それ強引に突き進んだのだ。破瓜の痛みも相当なものだというのは想像に難くない。
しかし、その予想は裏切られた。
「違うの……気持ちいいの……」
「ヴァネッサ……?」
「痛くないの……あなたの、凄く気持ちいいの……っ!」
一瞬の痛みの後、ヴァネッサに押し寄せてきたのは圧倒的な充足感と快感だった。
最も自分に近い場所に愛する男がいる。その嬉しさと心地よさが、胸に広がっていく。
痛みなどすでに消失していた。
「本当に、痛くないのか……?」
ヴァネッサを気遣って、動かずに腰を密着させているレイが呻くように訊ねる。その息は荒く、今も動きたいのを耐えているだろう。
「ええ……」
その言葉が気遣いではないと言うように、すでにゆるゆると腰を揺らす。
「んんっ……はぁ……ん」
擦れる度に濡れた結合部からはちゅくちゅくという水音が、ヴァネッサの口からは甘い嬌声が漏れる。
(ああ、なんて熱くて硬いの……これが、男なのね……)
ぴっちりと締め付けている膣から形はもちろん脈動一つまでもが伝わってくる。
もっと愛しく感じたい。もっと激しく味わいたい。
「だから、動いて。私は平気だか……らぁっ!!」
言い終わるよりも前に、衝撃が襲った。
我慢の限界を迎えたレイがピストン運動を始めたのだ。
「ふぁあ、あ、あ!ひぁぁっ!」
女になったばかりの狭道を肉の塊が突き抜ける。
突き入れると亀頭が奥を叩き、引けば張ったエラが巻き込むように抉り削る。
(気持ちいい……初めてだが……セックスとは、こんなにも気持ちいいものだったなんて……)
戦場で仲間達が意気揚々に捕らえた男を連れさり情事に耽る様を見た事があるが、これなら夢中になるのもムリない気がする。
現に今も、ヴァネッサはこの行為の虜になっていた。
「ひぐぅっ、やぁ、あはぁっ!!」
誰にも遠慮する事なく、洞窟中に響くほどの声で淫らに喘いでいた。
レイも加減する必要はないと判断したのか、その女性経験を活かした動きを見せるようになっていた。
「ひぅ!」
ヴァネッサが甲高い声を上げた。
レイが腰を振りつつ、腕を伸ばしてヴァネッサのバストを掴んだのだ。
「む、胸は……ひゃっ!?」
ヴァネッサは意外な事にその手に抵抗を見せた。
「なんだよ。ああ、お前……そういえばバストは100センチ越えるとか言ってなかったか?」
出会って最初の頃、スリーサイズを問われた(聞き出された)ヴァネッサは咄嗟に自分のバストは100センチを越えると豪語していた。
しかし実際にレイの手の中にあるそれはいたって慎ましいものであり、とても100センチという代物ではなかった。
「それは……」
「ま、大方見栄でも張ったんだろうがな」
その通りだった。あの時は売り言葉に買い言葉、とついつい見栄を張って鎧を着けていた時の胸囲を言ってしまったのだった。100センチを越えるのは当たり前だ。
「ううぅ……」
(あの時は首が外れ感情的になっていたとはいえ、私はなんて下らないウソを……)
言い放った時はあれほどの浮かれようだったのだ。レイに失望されるかもしれない恐怖に後悔した。
だがその恐怖など、
「ひぐぅぅっ!?」
「ま、お前がどんなおっぱいしてようが揉みまくる事に変わりはねえ」
レイがその胸ごと握り潰した。
「あぅぅぅ!ああっ!!」
片方の膨らみの頂点を指で転がし、もう片方は痕がつくほどに強く握る。
「あああああっ!そこっ、いい!!」
なおかつ膣も忘れずに擦ってくるのだからたまらない。
(こいつ……上手い。上手すぎる……!)
経験者の手練に翻弄されっぱなしだった。ここまで一方的に責められるのも少し悔しい。しかもその悔しさも一突きで霧散させられてしまうのが悲しい。
突かれる度に、揉まれる度に肩口までかかる髪を振り乱し喘いでしまう。
そして、ヴァネッサにとって最大の失敗が起きてしまう。
「よっと……!」
「ひゃああああっ……ちょっと、なにをするのよ!!」
ヴァネッサの体勢を持ち直すために、レイが肩に手をかけた途端、いっそう鋭い悲鳴が飛んできた。
(なに、今の?肩触れられただけでビリッって来て……)
その反応に、逆にレイの方が思わず腰を止め驚きの視線を向ける。
「いや、なにって、ただ肩触っただけじゃねーか。ほら……」
「ひィっ!だから……肩、やめて……っ!」
もう一度肩に手をかけると、ヴァネッサは突っ張るように背を反らした。
(うああっ……これはいったい……?)
目の前が明滅する。それほどの快感だった。
「そっか……なるほどな……」
ビクビクと痙攣するヴァネッサを前に、レイが興味深そうに頷いた。
イヤな予感がした。
後ろからでは見えないが、レイがよからぬ笑みを浮かべている事がありありとわかる。
(これはマズイ……!!)
なんとかして対策を講じようと思ったのだが、時すでに遅し。
その予感は見事に的中してしまった。
「あなたいったいなにをす……あああああああああああああああああっ!!」
「うおっ!?締まりがすげえ……っ!!」
突如として、未だかつてない衝撃がヴァネッサを襲った。
今までで一番甲高い、最早絶叫に近い悲鳴を上げ、絶頂に達してしまう。
「あぁあ、あにゃたってひろは……よふも……」
回らない呂律で下手人を睨む。しかし快感で崩れた顔ではまったく迫力がなく、睨まれた本人もどこ吹く風。
「ちょっと、なに言ってるかわからないです。いや、まさかうなじにキスしただけでこうなるなんてなぁ」
と何食わぬ顔でうそぶく始末だった。
「肩を触った時、中がキュッてなったからもしやとは思ったんだが……デュラハンらしいじゃねえか。首周りが性感帯なんてよ」
「う、うるひゃい……」
絶頂の脱力から抜けきっていないヴァネッサに出来る事は、ニヤニヤと笑うレイを精一杯睨むくらいしかない。
だがそのレイから笑みが消えた。
「ヴァネッサ。俺は正直、もう我慢できねえ」
その代わりに現れたのは、欲望を発散させようとするギラついた男の顔だった。
(まさか……)
この男がなにをしようとしているか思い当たり、ヴァネッサが青ざめる。
(そんな事されたら、きっと気持ちよすぎておかしくなってしまう……!!)
「ダメ!それはダメだから……やめなさぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
体をよじり、必死に「それ」から脱しようとする寸前、ヴァネッサは二度目の絶頂を迎えた。
「ふぁぁぁぁぁ!ひぃぃぃああああっ!!」
休む間もなく三度目、四度目が到来。
(舐められた……こいつ首、舐めながら動いてるぅ……!!)
先ほどの軽いキスではない。ねっとりと舌を這わせるような濃厚なキスが弱点のうなじに降り注ぐ中で、レイはピストンを再開したのだ。
「あああああっ!!いやぁっ!あ、あ、あ、あ、あ!!」
しぶきが飛ぶほどの激しい前後運動にヴァネッサはあっさりと屈した。
今のヴァネッサに理性などは見受けられない。レイに突かれるまま、ケモノのような咆哮を上げるだけだ。
「ひっ!?す、吸っひゃ……吸、うなぁ……ああああ……」
僅かながらの抵抗はなんの意味もなさず、逆にレイの嗜虐心を煽り余計に責めの手が激しくなる。完全に負のスパイラルに陥っていた。
うなじを舐められ、吸われ、甘噛みまでされた時にはすでにその抵抗する余力すら残されていなかった。
「イク……ああっ、また……またぁ……あぁぁぁ……」
すでに数え切れないほど味わった絶頂に体がまた痙攣していく。
(もうダメ……もうなにも考えられない……)
イクのが止まらない。絶頂が絶頂で上塗りされていく感覚に恐怖すら覚えてしまう。しかし魔物として性なのか、男を知った肉体は与えられた悦楽を持て余す事なく全て享受してしまう。
それに対しレイも絶頂の到来が間近のようだった。
「ぐぅ……そろそろ出そうだ」
到来の合図をヴァネッサの耳に囁く。
(あ、出る……?精液が……?)
その言葉に魔物としての本能が反応した。
もうすぐ、一番欲しかったものがくる。
意識した途端、子宮がうなりを上げた。精液を搾り取ろうと膣がより激しく収縮する。
「ううっ。おい、締め過ぎだろ……」
レイも呻きながらピストンが長いストロークのものから、小刻みなものへと移行していく。
最後が近い証拠だ。
「ひ、あ、あ、あ、あ、あ、あ!!」
言葉にもならない浅い呼吸を繰り返し、ヴァネッサも限界へ駆け上がっていく。
息苦しさすら感じるほどの突きに加え、うなじへのディープキス。そしてぐにぐにと揉みこまれる胸への刺激。
(凄い、凄い凄い凄い……コレは凄すぎる……)
体中全てが絶頂を迎えている。そんな感覚だった。
どこもかしこも全部気持ちいい。全部イキまくっている。
「出るっ、ヴァネッサ、出すぞ……ぅ」
いよいよレイも本当の限界が来ようとしていた。
(中でビクビク震えてる。出るんだ。精液が……精液……精液せいえきせーえき!!)
待ち望んだモノの到来を前に、頭の中が精液という単語で埋め尽くされる。
欲しい。中に欲しい。いっぱい注いで欲しい。
本能がそう叫ぶ。
その声に従い、ヴァネッサはもつれる舌でなんとかその本能を吐き出した。
「らして!しぇーえきぃ……にゃかに、ほしいのっ!!」
「っく!!」
その言葉が引き金となったのか、レイが腰を突き出して膣奥への射精が始まった。
「あぐぅぅぅぅっ!!……イクッ!イグ……ぅ……イックゥゥゥゥ……」
さんざん喘ぎまくり、断末魔のような掠れた声と共にヴァネッサは今日最大の絶頂に痙攣する。
(ああ……熱い……染みる)
吐き出された愛する男の子種の熱さに、これ以上にない幸福感と絶頂が広がっていく。
「ああああ…………はふぅぅぅぅ……」
激しい戦闘の後ように大きく息をつき、支えてくれる恋人に身を委ねつつ、ヴァネッサはゆっくりと目を閉じたのだった。


− − − − −


「……」
行為が終わった後、レイは沈黙を貫きつつ、自身の後始末をしていた。
(うわぁ、気まずい……)
首が元通りに置かれ理性を取り戻した今、ヴァネッサもあまりの気恥ずかしさに押し黙っている。
(相当恥ずかしい事言ってたもんな、こいつ)
腕の中で乱れるヴァネッサの痴態がフラッシュバックする。
恥も外聞もなく泣きながら腰を振り、理性ある今なら決して口にしないような言葉で喘ぐ様はまさに妖艶であった。
(あ、ヤバ)
再び股間が臨戦態勢に入ってしまいそうになる。
できる事なら今すぐにもう一度、と行きたいところだが流石にここを離脱したい。まだ見つかっていないとはいえ、ここはまだ敵の手中に落ちた場所なのだ。
自身の股間を戒めるべく、黙々と鎧を装着し直しているヴァネッサを呼ぶ。
「……なぁヴァネッサ」
「なに?」
頑健そうな鎧を体現するかのように事務的な硬い声で、返事をするヴァネッサ。
どうやら内に残る気まずさを理性でムリヤリ押し込めているようだ。今まで感情まかせで会話していたため、感情がだだ漏れた時と凄まじいギャップを感じる。
(やっぱり首だけの時とは違うのか……)
と一抹の寂しさを感じる。
しかし、やはりヴァネッサはデュラハン(笑)であった。
「そろそろ行くぞ」
「分かったわ。うん……しょ……」
中年が漏らすような掛け声と共にへろへろと立ち上がるが、その腰はへっぴりとして足元もおぼついていない。
明らかに先ほどの行為で腰が砕けてしまっていた。
「お、おい大丈夫か?」
「触らないで」
思わず手を伸ばそうとしたレイに、ヴァネッサは鋭く制した。
「あ、悪い」
「違うわ。今触られたら、私は、我慢できないから」
真顔でキッパリと断言する。
(こいつは……)
臆面もなく言ってしまう、首のあるヴァネッサに笑ってしまう。
肝心なところで締まらないのは首があってもなくても変わらないようだ。
「わかった。じゃあゆっくりでいい。行くぞ」
腰砕けのヴァネッサに合わせ、二人はゆっくりと洞窟の奥へと歩き出した。
「う……く……」
流石に破瓜直後で歩くのは辛いのだろう。剣を杖代わりに、ひょこひょこ歩き始めた。
「おい、マジで大丈夫なのか」
「心配いらないと言っているでしょ」
「ならいいけどよ。このまま真っ直ぐでいいんだな」
洞窟にはいくつかの部屋があり、レイ達はそれを素通りしていく。
「そう、他の部屋は備蓄倉庫として使われているの。魔法陣のある部屋はその角の先よ」
「……お、あれか」
通路を曲がるとヴァネッサの言う通り、件の部屋が目の前に現れた。
扉を開くと、小さな納屋程度の部屋の中央に、見た事のない紋様が描かれた魔方陣があった。
「ふぅ……ようやく、ここまで着いたのか……」
目の前にようやく訪れたゴールに、レイは大きく息をついた。
ここまで来るのに、どれだけ神経をすり減らしたのだろうか。それを思うと感動を禁じえない。
「ええ、長かったわね……」
「主に長引いたり危険だったりしたのはお前のせいだがな」
「……さて、魔方陣を修復するわ」
「あ、おい、無視すんな!!」
皮肉をあっさりと無視し、トラブルメーカーは魔方陣へ歩み寄る。
元々、転送が誤作動を起こしたのは魔方陣が傷ついてしまったためだ。それを修復しなければ目的地には到着できない。
(ん?待てよ。どうして魔方陣は傷ついたんだっけか)
前日のヴァネッサの話を反駁する。
『……転んだ拍子に持っていた剣も飛んで……剣先で魔方陣傷つけちゃって、その、誤作動を……』
(この状況、どこかで……?)
破瓜による千鳥足。杖代わりにしている剣。
多少の差異あれど、今のヴァネッサと一緒である。
イヤな予感がする。ひしひしと。
「おいヴァネッサ!!」
意識を魔方陣へと戻す。
(げっ!!)
なんという事であろうか。そこには今まさに段差に蹴つまづこうとしているヴァネッサの姿が!!
「おどれはーーーーっ!」
情事で疲労している体にムチ打って駆け出した。
大きくバランスを崩すヴァネッサに向かって手を伸ばす。
ドガッと鎧が地面に倒れる音が部屋に響いた。
「……ったく、本っっっ当にお前はデュラハン(笑)だな。見てくれはしっかりしていそうなクセに残念すぎるぞ」
首だけのヴァネッサを抱えたまま、レイは深く深くため息をついた。
転んだ拍子に鎧からすっ飛んだ生首の髪の毛を、飛び掛ったレイは鷲掴み地面に倒れこんでいた。
「う……うるさいわね……」
腕の中で文句言う声も小さい。同じ失敗を繰り返しそうになった手前、強く言える訳もない。
「ここでまた振り出しとか、冗談抜きにマジで勘弁してくれ……」
上体を起こし、あぐらを掻くように座り込むと呆れ顔で腕の中のヴァネッサを見る。
「だから悪かったってば……今度はちゃんと気をつけるわよ」
バツが悪そうにヴァネッサが口を尖らすと、ムクリと胴体が起き上がった。
魔方陣の一端でしゃがみ、ごそごそと作業する。1分ほど経過し、胴体が立ち上がった。
「……終わったわ。いつでも移動できるわよ」
「……本当に失敗してないだろうな?」
訝しげにドジッ娘スキルを持つ生首を見る。
「いくらなんでも大丈夫よ!」
「そうは言っても、さっきだって見事に同じポカかましやがったからな。イマイチ信用できねえ」
「もう……それはそうだけど……それよりも早く戻してよ」
作業を終えた胴体がこっちに戻り、首元を差し出してきた。乗せろというジェスチャーをする。
「分かったよ。ポンポン外れやがって、気をつけろよ」
「言っておくけどね。いつもは外れないようする固定具をつけてるんだから、そう頻繁には外れないのよ!」
ポンポン外れるというセリフに反応したのか、心外そうにヴァネッサが抗議する。
「はぁ?だったらなんで今は着けてねーんだよ」
その固定具とやらがあれば、この一連の悲劇(喜劇)も起きなかったに違いないのに。
当然の疑問に、ヴァネッサは再びバツが悪そうに答えた。
「あの日はその……たまたま忘れたの。調印式に寝坊して……」
「うわぁぁぁ……」
予想の斜め上に行く答えに、レイは心の底から引いた。ドン引きした。
(アホだ。こいつ、正真正銘のアホだ)
「うぅぅ。だって、だってまさかこうなるとは思ってなかったんだもの!!」
「いや、だからってねーよ。ありえねえ」
「ぐぬぬ……」
完膚なきまでにダメ出しされ唸る生首。
(まぁこいつがマヌケだったからこそ、こうして出会えたんだけどな)
奇跡のような偶然が重なった結果、今こうしているのだ。ダメ出ししまくるレイもその点については、言葉に出していないが非常に感謝している。
その幸運を噛み締めつつ、レイはポツリと呟いた。
「はぁ……こりゃ、誰かがついてやらないとダメだな。お前は」
「え?それって……きゃっ」
どういう事、と尋ねられる前にレイに持ち上げられ、それを遮られてしまった。
腕の中にいるヴァネッサを自分の正面に来るように持ち替えると、そのまま組んだ足の上に置く。
生首と見つめあう、あぐらを掻いた男という図。ムードもへったくれもないはずなのだが、レイの真剣な表情にヴァネッサもない体を身構えた。
「そういえば、胴体を取り戻した報酬がまだだったよな」
「な、なによ、こんな時に」
「今回の事で、あまり人間を恨まないでやってくれ。隣国の騎士団を憎いと思うのはいいが、あれを人間全ての意思だと思わないでくれ。それが、俺への報酬だ」
「うん……わかった」
「……ありがとな。それと、コレ受け取ってくれ」
懐から、ヴァネッサが見慣れた物を取り出だした。
ずだ袋に入れた時に落としたコームが、樫特有の鈍い光沢を放っていた。
「それ、私のじゃない」
「ああ、そうなんだが……もう一度、贈りたいんだよ。ちゃんとな」
昨日贈った時は、煩い『魔物』をなだめるのが目的だった。だからこそそれを取り消して、『恋人』としてもう一度贈りたかった。
後頭部に手を回すと、器用に後ろ髪を結いコームで留める。
「さてと……ヴァネッサ」
レイが真っ直ぐとヴァネッサを見据えた。
「は、はい!」
その視線に、なぜか敬語で返事をする。
ヴァネッサも薄々は感づいているのだ。レイがなにを言うのかを。
二人きりの空間に贈り物。そして真剣な表情の恋人。
この流れならあの言葉しかない。
「これからはずっと、俺が傍にいてやる。もし失敗しても、俺が出来る限りフォローしてやる」
「レイ……」
恋人の告白に、またヴァネッサの瞳が潤んでいく。
「だから……」
一呼吸置いて、レイは言った。

史上稀に見る、最低最悪のプロポーズを。


「だから……一生、俺のオナホでいてくれ」

ドヤ顔で決めた。それはもう決めてしまった。キリッという擬音さえ付きそうなほど決めてしまった。

「……………………」

ヴァネッサの瞳から潤みが急速に乾燥していく。

一瞬の間の後、
「し、し、し、し……死ねええええええええええええええええええ!!」
首のないデュラハンが激怒したのは言うまでもなかった。




終わり





あとがきに代えて登場人物による補足、ネタ話

レイ:というわけで、この物語は終了です。
胴体付きヴァネッサ(以下ヴァ):最後までお読みくださり、ありがとうございました。
レイ:これから先は文字通り本編では書いていなかった点の補足やネタを会話文のみ説明していきます。
ヴァ:基本はQ&A方式を交えて説明していきます。
レイ:会話文だけっていうのは中々風当たりが強いみたいですが、本編じゃなくあとがきなら載せてもいいかなって思いました。
ヴァ:それでは始めさせていただきます。あとこの次からレイの口調は本編に準じたものにします。

Q 今回のレイの依頼はなんだったの?

A 蜜蝋の運搬です。

ヴァ:私の依頼を受ける前に、もともと隣国へ行くつもりだったのよね?
レイ:ああ、荷物の中に蜜蝋があったろ?それを隣国の騎士団に届けに行く予定だったんだ。
ヴァ:蜜蝋は色々な用途に使えるからね。
レイ:作中でも俺が言っていたが、魔物の死体を蜜蝋で漬けて保存した物は中々に高く売れるんだ。
ヴァ:……
レイ:……怒るなよ。他にも、武器防具の錆止め、道具の防腐処理、塗り薬の基剤にも用いられているんだ。蜜蝋自体はそれこそ利便性の高い物なんだぞ。
ヴァ:……で、その利便性の高い蜜蝋を、隣国へ届けようとしていたの?
レイ:ああ、騎士団は金払いがいいしな。それに、今回はいつもよりも多く発注していたんだ。今思うと、「あの作戦」で大量の魔物が倒す予定だったから、なんだろうな。
ヴァ:勝った時の用意までしておくなんて、前々から周到に準備していたって事ね。

Q 集落の構図がよくわかりませんでした。もうちょっと詳しく説明して下さい。

レイ:これは作者の描写力が低いせいだな。
ヴァ:ちょろっと書いただけだものね。
レイ:まったく、作者の怠慢だな。
ヴァ:そうね。それでは集落はだいたいこんな風になっています。

A こんな感じです
    入り口A
     森 ‖ 崖
入り口B= ・ →―――階段―――屋敷   ‖:大通り
     森 ‖ 崖     楠
    入り口C     洞窟
     レイ     魔方陣

レイ:大通りは表記としては直線になっているが、結構曲がってるので注意してくれ。
ヴァ:でないと入り口に立った瞬間、酒盛りしてる騎士達から丸見えになるしね。
レイ:でも実際には集落ってそんなに大きくねーな。シンプルな感じだ。
ヴァ:まぁ山を切り開くのは労力かかるから。居住区域と最低限の建物しかないのよ。
レイ:ふむ、俺達が登って来たのは入り口Cで、新人の騎士が降りていったのは入り口Aだな。もっとも、柵とかねーから森からでも入る事はできるが。
ヴァ:それでも大通りの入り口から入った理由は、ずた袋に入った私が方向を指示しやすかったからね。森の中でここを真っ直ぐや右へ、というのは難しいと判断したの。
レイ:黒い点が、騎士団が酒盛りしていた大通りの中心だな。
ヴァ:ええ、でも……警備がこの3人っていくらなんでも少ないわよね?どうしてだったのかしら。
レイ:山の中腹や下腹部で山狩りを行っていたみたいだな。
ヴァ:だからって頂上手薄すぎでしょうに。これは騎士団の判断ミスね。
レイ:ま、これで頂上の警備が少なすぎっていう理由付けはできたかな。
ヴァ:理由も説明せずに本編はサクサクいってたから、これも作者の怠慢ね。
レイ:作者に代わりまして深くお詫びします。
ヴァ:恐らくもっと叩けば埃が出るだろうけど、とりあえず別の補足をしましょう。

Q デュラハンの性感帯が首だなんて図鑑設定にありましたっけ?

A ありません。

レイ:これはヴァネッサ個人の性感帯と考えてくれ。
ヴァ:なんでこんな特殊な場所にしたのよ、作者……
レイ:どうせならえちぃシーンでもデュラハンならではの特徴を……って考えたらしい。
ヴァ:それで首が性感帯なのね……
レイ:作者曰くおっぱい描写ももっと書くつもりだったらしい。おもに俺が100センチ詐称で絶望するシーンとかもあったんだが、めんどくさくてカットしたんだと。
ヴァ:これは喜ぶべきところなのかしら……?

Q 第1話と他の第2話以降、微妙に文体が違う感じがするのですが?

A 製作時期が異っているからです。

レイ:突然ですが、作者は遅筆です。それはもう恐ろしいほどに。
ヴァ:この物語書き上げるのに、およそ1年と2ヶ月の歳月がかかっているわ。
レイ:遅すぎだろ。常識的に考えて……
ヴァ:第1話と第2〜5話の間にだいたい半年から1年のスパンがあるわね。
レイ:遅れた理由も「PSP買ったのがいけなかった……」ってどうしようもない理由だからフォローできん。
ヴァ:強いて言うならプロットで詰まる→PSPに逃げるのループよ。
レイ:ようやくプロットができたら、調整のために約4割改稿するハメになる始末。
ヴァ:地の文も当初は一人称だったのに「たまには三人称で書きたい」となぜか三人称に変化するし。
レイ:まそんなこんなで大幅に修正しまくったわけだ。
ヴァ:一番の修正は騎士団との戦闘かしらね。実はレイも剣を持って戦う筈だったのよ。あの長身の騎士と。
レイ:マジでっ!?俺ってそんなに強い設定だったのか!
ヴァ:いいえ、身体能力はいたって普通の一般市民レベル。その結果ボコられてアキレス腱切断、もしくはアバラ数本骨折を予定していたそうよ。
レイ:やだなにそれこわい。
ヴァ:でもそのあとえちぃシーンが控えていたので、流石に負傷した状態じゃムリだろ……と非戦闘員に格下げになったそうよ。
レイ:これは喜ぶべきところだな。
ヴァ:本当にそう思うわ。別案にあったあなたが新人を人質に取って勝利するという姿とかあまりに情けなくて見たくないもの。
レイ:うわー外道。
ヴァ:一般人が戦闘のプロに勝つ手段は卑怯な手段くらいしかないでしょう。作者のネタ張を見ればわかるけど、相当な紆余曲折を経てこの物語ができているわ。
レイ:ちゃんとまとまってよかったと常々思うわ……
ヴァ:そうね、あとで作者のネタ張を見てみなさい。最悪の一言よ。

Q 今時登場人物によるQ&A方式って……

A 申し訳ありません

レイ:「申し訳ありませんでした!好きなんですよ、この方式」と作者の弁明だそうです。 
ヴァ:重度のラノベ特有症状ね
レイ:実はここでも俺達は「作者」って言ってるけど、ルビふると俺は「オヤジ」ヴァネッサは「父さん」だからな。
ヴァ:なんという田中○樹って感じよね……

Q 作者は結局なにが書きたかったんですか?

A イロイロです

ヴァ:物語の解説ってこの投稿所としてはどうなのよ……
レイ:わかんねえが、作者曰く「とりあえずこれだけは書いておきたかったんです。見逃してください」との事だ。
ヴァ:解説したがり癖ね。
レイ:そう言われると言い訳できねえが、さくっと説明しておこう。
ヴァ:今回のテーマは「人間が人間たる条件とは何か?」で、その答えが「理性」よ。
レイ:作者がずっと前から書きたいと思っていたテーマだな。それを表現するために人間のような魔物、デュラハンをヒロインにしたんだ。
ヴァ:実は私、当初はマーメイドだったのよね。でも海辺じゃないと動かしづらいって理由と、上の理由からこうなったのよ。
レイ:あと、デュラハンの首が取れるギミックがギャグになるなーという理由もある。
ヴァ:私としてはいい迷惑よ。散々コケにされまくったんだから。
レイ:作者が女ボケ、男ツッコミのコンビ好きなんだからしょうがねえだろ。
ヴァ:それに第2話のオナホとか発想がもう……ね。
レイ:ぶっちゃけ「オナホなんです」っていうセリフを言わせたいがためだけに、この物語を作ったといっても過言ではないぞ。
ヴァ:「理性」云々というのはあくまでついでよ、ついで。書いてる最中に、コレ「理性」のテーマが入れられるんじゃね?と書き直したのよ。
レイ:それもまたプロット悩みまくった原因の一つになるとも知らずに……
ヴァ:まさに自縄自縛ね。

Q 番外編の予定はありますか?

A あります

レイ:どうやら番外編があるらしい。
ヴァ:それは聞いているわ。内容は私達の後日談っていう話だけど……
レイ:どうやらその番外編でもえちぃシーンを入れるらしいぞ。
ヴァ:そうなの?
レイ:ああ、マジだ。作者が「絶対ヤル、絶対にだ」って言ってたぞ。
ヴァ:そう……
レイ:なんだ、微妙な顔してるが、そんなにイヤなのか?
ヴァ:別にえちぃシーンはイヤじゃ、むしろ喜ばしいのだけれど、内容が……
レイ:内容?
ヴァ:ほら、生みの親をこう言うのはなんだけど、作者って変態でしょ?
レイ:確かに、ガチで頭が湧いてるとしか思えない発想を時々するよな。言い訳がオナホとか。
ヴァ:えちぃシーンでもそれが発揮されそうで不安なのよ。
レイ:あ、そう思うと俺も不安になってきた。ちなみに、ネタ張にはなんか書いてあったのか?
ヴァ:……
レイ:ヴァネッサ?
ヴァ:……とりあえず読めた単語をピックアップしたわ。『ムチ→荒縄(麻でも可)』『張子は出すべきか?』『鏡→見下す視線』『首ポロリ』『アヘ顔☆危機一髪』
レイ:……
ヴァ:……
レイ:こんな単語番外編で出すのか……作者変態すぎんだろ……
ヴァ:それに関しては全力で同意するわ……


レイ:そろそろ、ここらでお開きにするか。
ヴァ:……とりあえず、補足は済んだかしらね。それではみなさん、番外編でお会いしましょう。
レイ:それまで、無事でいられるといいなぁ……
11/12/02 21:36更新 / 苦助
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■作者メッセージ
というわけで、この物語は終了です。
小説をネットに投稿するという行為は初めてです。バージンです。
至らぬところもあったと思いますが、一重に読んでくださった方の、感想を頂いた方の応援あっての事です。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
番外編は予定していますが、できるだけ早く書きあがるようにがんばります。

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