黒ミサ潜入レポート1/バフォメット
「……よっ、ほっ、っとと」
俺こと、スヴァル=ソルトヴェルデは、夕暮れのアルデバラン地区の森にいた。
通称、『歪みの森』。
昔の文献では、森とはいえない程の細い木々が外気に晒されているだけだったようだ。
しかし魔物娘の出現により、ここら一帯の大気や地層に魔力が混ざるようになった。
魔力のおかげか、木々は異常な速度で成長し大樹となり、広大な森へと変わっていった。
大樹はその影響か、少々歪んでそびえ立っている。
これが名前の由来でもあるのだろう。
「さぁて、どこで行うのか…」
魔力といっても微量なもので、人体にはさほど影響は無い。
しかし、心にもやがかかったような錯覚に陥っていて、ムズムズする。
(何か道しるべになっているようなものがある筈なんだが…どうしたものか)
ほぼ手探り状態だが、数少ない資料を頼りにここまで来た。
しかし特殊な魔法でもかけているのか、目印の様なものは未だに見つからない。
そう思っていると、どこからか騒がしい会話が聞こえてきた。
大樹の影に身を隠す。
「わわっ、ちょっと待ってよ!」
「急がないと間に合わないんだよ〜!早く早く〜!」
「ちょ、そんなに引っ張らなくても……!」
声の方を見ると、小さな少女が青年を掴んで急ぎ足で大樹の道を突き進んでいる。
そして、どうやら……いや、どう見ても。
「――――魔女、だな」
少女というだけで判断するのは、信憑性に欠ける。
だが、黒ミサが開かれるという森の中、日没まで僅かな時間、青年を引きずってまで急ぐ焦り様……。
魔女と確定して間違いないだろう。
―――しかもミロクからは、
『実はねスヴァル、魔女って全員が帽子を被っているとは限らないんだよ?』
『そうなのか?』
『うん。それに最近、ほうきで飛ばない魔女までいるんだってよー?凄いよねー』
『ほうきで飛ばない…?ほうきで以外に何で飛ぶんだ?』
『う〜ん…、そこまでは調べて無いね』
『じゃ、今回それを確かめるとしよう。
調べてまとめたらレポートの足しになるだろうしな』
『あ、私も調べる!私の方が凄いって所、見せてあげる!
スヴァル、勝負ね!』
『………参ったな、面倒な事になりs』
『な に か 、問題でも?』
『いや、何もー?(棒』
―――というやり取りがダイグレン族長との会話の前にあった訳で。
帽子を被らない魔女がいる、というのは確かの様だが、問題は2つ目だ。
ほうき以外に何で飛ぶんだ?
やはり、定番のほうきなのか?
ミロクの噂止まりなのだろうか?
(取り敢えずバレないように…追跡開始だ)
少女と青年の二人組を追跡して、ある程度判ってきた事があった。
判った順に述べていく。
黒ミサへ連れて行くのは確定なのだが、どうやら飛ぶためのほうき(驚いた事に、虫取りあみ!柄が長ければ何でも良いのだろうか…?)が一人乗り用で、青年を一緒に乗せて行けないらしい。
少女の名はアスタナ。
青年の名はタイニー。
アスタナが慕っているバフォメットは、魔女界では有名な3姉妹なのだという。
タイニーは黒ミサがある事を知っている様だったが、場所までは知らされなかったらしい。
しかもこの二人、つい最近出逢ったばかりなのだという。
……と、このぐらいだろう。
辺りはもう真っ暗だ。
追跡するには都合が良いが、逆を言えば見失ったらアウト、でもある。
(タイニー……フラフラだな)
タイニーは大きな息をついていた。
アスタナはそわそわしている。
「そろそろだから……もうちょっと頑張ってよ〜」
「ちょ…ぜぇ……休ま……はぁ……休ませて……」
と、その時―――。
ばんっ!ばばんっ!
暗夜の静寂を破り、漆黒の空が仄かに紅くなった。
あれは、信号弾……?
信号弾に良く似た魔法の一種か?
「ほら〜、もうすぐそこなんだし、始まっちゃうってば〜!」
「あ、ああ……行こう」
二人はまた駆け出した。
すぐさま俺も後を追う。
まもなくして、かなり開けた場所に出た。
見れば色々な魔女が集まっている。
その中にアスタナとタイニーは入っていき、数人の魔女から手厚く歓迎されていた。
二人が入っていくのを確認してから、俺は見通しの良い場所へと身を潜ませる。
「これが、黒ミサか……!」
中央付近にいる魔女は、背の高い男性を連れて別の魔女と挨拶を交わしている。
幼い少年とじゃれあう魔女は、テーブルの合間を縫って走り回っている。
とんがり帽子を被っている魔女は、人間の女性(周りの女性より背が高く大人びている。推測でしかないが、魔女ではないだろう…)と仲良く話をしている。
会場の端にいる魔女は、自慢の…ほうき?(どうみても物干し竿なのだが)の手入れをしている。小さな腕を伸ばして磨いている。
まさにパーティー、豪華客船さながらである。
「かなりいるんだな……信者ってのは」
資料に目を通して、ある程度の知識は得ていたが、改めて実際の規模を見て納得した。
百聞は一見にしかず、とはまさにこれを指すのだろう。人から聞いた訳ではないけど。
これらをまとめて情報を整理し、新たに書き改める事が俺の仕事でもある。
しかし、これだけの規模だ。
沢山の魔女と使い魔が集まり、これから酒池肉林の宴が始まろうとしている―――。
いや、たぶんだけど。
(仕事とはいえ、刺激が強そうだ…。
ミロクと『なる』まで、インキュバスにはなりたくはない―――用心しなければ)
『性欲鎮静化チョコレート』をかじりながら、気を引き締めた。甘苦い。
(その為には……見つかってもすぐ逃げられるようにしないとな)
『任務を完遂したければ、身のこなしはいつでも軽やかに』というのが自分の中でのルールだ。
――――実を言うと今、決めたのだが。
たとえ任務を達成出来なくても、身体ひとつあればいくらでも調査する機会はある。
無理に粘って身を滅ぼすより、断然マシだろう。
………おや、どうやら壮大なセレモニーがついに始まるようだ。
手帳と暗視小型カメラを構え、俺は身構えた―――。(2へ続く)
俺こと、スヴァル=ソルトヴェルデは、夕暮れのアルデバラン地区の森にいた。
通称、『歪みの森』。
昔の文献では、森とはいえない程の細い木々が外気に晒されているだけだったようだ。
しかし魔物娘の出現により、ここら一帯の大気や地層に魔力が混ざるようになった。
魔力のおかげか、木々は異常な速度で成長し大樹となり、広大な森へと変わっていった。
大樹はその影響か、少々歪んでそびえ立っている。
これが名前の由来でもあるのだろう。
「さぁて、どこで行うのか…」
魔力といっても微量なもので、人体にはさほど影響は無い。
しかし、心にもやがかかったような錯覚に陥っていて、ムズムズする。
(何か道しるべになっているようなものがある筈なんだが…どうしたものか)
ほぼ手探り状態だが、数少ない資料を頼りにここまで来た。
しかし特殊な魔法でもかけているのか、目印の様なものは未だに見つからない。
そう思っていると、どこからか騒がしい会話が聞こえてきた。
大樹の影に身を隠す。
「わわっ、ちょっと待ってよ!」
「急がないと間に合わないんだよ〜!早く早く〜!」
「ちょ、そんなに引っ張らなくても……!」
声の方を見ると、小さな少女が青年を掴んで急ぎ足で大樹の道を突き進んでいる。
そして、どうやら……いや、どう見ても。
「――――魔女、だな」
少女というだけで判断するのは、信憑性に欠ける。
だが、黒ミサが開かれるという森の中、日没まで僅かな時間、青年を引きずってまで急ぐ焦り様……。
魔女と確定して間違いないだろう。
―――しかもミロクからは、
『実はねスヴァル、魔女って全員が帽子を被っているとは限らないんだよ?』
『そうなのか?』
『うん。それに最近、ほうきで飛ばない魔女までいるんだってよー?凄いよねー』
『ほうきで飛ばない…?ほうきで以外に何で飛ぶんだ?』
『う〜ん…、そこまでは調べて無いね』
『じゃ、今回それを確かめるとしよう。
調べてまとめたらレポートの足しになるだろうしな』
『あ、私も調べる!私の方が凄いって所、見せてあげる!
スヴァル、勝負ね!』
『………参ったな、面倒な事になりs』
『な に か 、問題でも?』
『いや、何もー?(棒』
―――というやり取りがダイグレン族長との会話の前にあった訳で。
帽子を被らない魔女がいる、というのは確かの様だが、問題は2つ目だ。
ほうき以外に何で飛ぶんだ?
やはり、定番のほうきなのか?
ミロクの噂止まりなのだろうか?
(取り敢えずバレないように…追跡開始だ)
少女と青年の二人組を追跡して、ある程度判ってきた事があった。
判った順に述べていく。
黒ミサへ連れて行くのは確定なのだが、どうやら飛ぶためのほうき(驚いた事に、虫取りあみ!柄が長ければ何でも良いのだろうか…?)が一人乗り用で、青年を一緒に乗せて行けないらしい。
少女の名はアスタナ。
青年の名はタイニー。
アスタナが慕っているバフォメットは、魔女界では有名な3姉妹なのだという。
タイニーは黒ミサがある事を知っている様だったが、場所までは知らされなかったらしい。
しかもこの二人、つい最近出逢ったばかりなのだという。
……と、このぐらいだろう。
辺りはもう真っ暗だ。
追跡するには都合が良いが、逆を言えば見失ったらアウト、でもある。
(タイニー……フラフラだな)
タイニーは大きな息をついていた。
アスタナはそわそわしている。
「そろそろだから……もうちょっと頑張ってよ〜」
「ちょ…ぜぇ……休ま……はぁ……休ませて……」
と、その時―――。
ばんっ!ばばんっ!
暗夜の静寂を破り、漆黒の空が仄かに紅くなった。
あれは、信号弾……?
信号弾に良く似た魔法の一種か?
「ほら〜、もうすぐそこなんだし、始まっちゃうってば〜!」
「あ、ああ……行こう」
二人はまた駆け出した。
すぐさま俺も後を追う。
まもなくして、かなり開けた場所に出た。
見れば色々な魔女が集まっている。
その中にアスタナとタイニーは入っていき、数人の魔女から手厚く歓迎されていた。
二人が入っていくのを確認してから、俺は見通しの良い場所へと身を潜ませる。
「これが、黒ミサか……!」
中央付近にいる魔女は、背の高い男性を連れて別の魔女と挨拶を交わしている。
幼い少年とじゃれあう魔女は、テーブルの合間を縫って走り回っている。
とんがり帽子を被っている魔女は、人間の女性(周りの女性より背が高く大人びている。推測でしかないが、魔女ではないだろう…)と仲良く話をしている。
会場の端にいる魔女は、自慢の…ほうき?(どうみても物干し竿なのだが)の手入れをしている。小さな腕を伸ばして磨いている。
まさにパーティー、豪華客船さながらである。
「かなりいるんだな……信者ってのは」
資料に目を通して、ある程度の知識は得ていたが、改めて実際の規模を見て納得した。
百聞は一見にしかず、とはまさにこれを指すのだろう。人から聞いた訳ではないけど。
これらをまとめて情報を整理し、新たに書き改める事が俺の仕事でもある。
しかし、これだけの規模だ。
沢山の魔女と使い魔が集まり、これから酒池肉林の宴が始まろうとしている―――。
いや、たぶんだけど。
(仕事とはいえ、刺激が強そうだ…。
ミロクと『なる』まで、インキュバスにはなりたくはない―――用心しなければ)
『性欲鎮静化チョコレート』をかじりながら、気を引き締めた。甘苦い。
(その為には……見つかってもすぐ逃げられるようにしないとな)
『任務を完遂したければ、身のこなしはいつでも軽やかに』というのが自分の中でのルールだ。
――――実を言うと今、決めたのだが。
たとえ任務を達成出来なくても、身体ひとつあればいくらでも調査する機会はある。
無理に粘って身を滅ぼすより、断然マシだろう。
………おや、どうやら壮大なセレモニーがついに始まるようだ。
手帳と暗視小型カメラを構え、俺は身構えた―――。(2へ続く)
11/11/11 23:47更新 / ちーきく
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