ひとりじゃない、そしてだれかのために
うぅ……頭が割れるように痛い……実際に割れてしまっているかもしれない……
油断してたとはいえもろにスープレックスを2発も喰らってしまった……
これじゃあ免許皆伝なんてもらえるわけないなぁ……むしろ破門ものかもしれない
でも痛いってことはまだ生きている、まだチャンスはあるかもしれない
そもそも好きな人に想いを告げてないのに死ぬ気なんてさらさらない、まだやりたいゲームや作りたい料理だってある
それに僕が死んでしまったら誰が幼馴染達にご飯を作ってあげるというのだ
幸いあのシスターは甲達が戦っている方に向かって歩き出していてこちらには見向きもしない
頭は今までに感じたことの無いぐらい痛いが、スーツのおかげでそれ以外はピンピンしている
ガントンファーも手元にしっかりと握っている、これならいけそうだ
僕は彼女に気付かれないようにゆっくりと立ち上がり、呼吸を整えてから一気に距離を詰める
無防備な彼女の背中に殴りかかったその時
「甘いんだよ!このクソガキがっ!!!」
華麗なハイキックを顔に喰らった、パンツは黒だった
頭の傷には当たらなかったものの、蹴られた衝撃のせいで激痛が走り、体が動かせない
これはマズイ
「アタイはなぁ!12のガキの時から殺った殺られたの世界に居るんだ!それがてめぇ見たいなカッコつけた装備とちょっと武術をかじった程度の腕前のガキに負けてたまるかっての!!!」
今度は傷のある僕の頭に踵落としを繰り出そうとジャンプしながら右足を高く上げる
やべぇパンモロ、じゃなくてやばいこのままだと本当にやられてしまう
そう思った時
地響きと爆音が辺りに響き、僕の目の前に何かが割り込んできた
その影は目の前のシスターを蹴り飛ばし、僕に振り返った
「まったく……こんな女一人にビビってんじゃねぇぞ」
なんども怒鳴られ、励まされ、バカにされたことのあるその声の持ち主は僕の師匠だった
とは言っても彼もパワードスーツを着ているため、声を聞くまで誰かは分からなかったけど
「だからお前はアホなのだ」
心を読まないで下さい
何故ここに来たのかは分からないが、今助けてもらえたのは本当にありがたかった
「まぁ俺はエメラルドと旧友の付き添いで来ただけだからこれ以上は手伝わんぞ」
彼は僕から離れ、近くの柱にもたれかかった
どういうことか分からない、といった様子の僕を尻目にタバコを咥え火を点ける
ふぅ、と口から煙を一吐きした後、真面目そうな顔をして僕に向き直った
「お前、俺から免許皆伝もらって幼馴染達を守るって決意したんだろ」
「だったら、そこの女をぶっとばしてその資格を勝ち取ってみろ、しっかり見ていてやるからよ」
今ならエメラルドに文句を言われずにタバコも吸えるからな、と付け加え柱にもたれかかりながら座った
そうだ、僕は大切な幼馴染達を守れるようになりたかったから師匠の弟子になった、こんなところで死んでしまったら彼女達を守れる資格なんて無い
そのためにはまずは僕に怒りを孕んだ視線を向けながら近づいてくるあの女を倒さなければいけない
「アタイは勇者様を守るんだ、あの間接的に世界を守るなんてバカなことを言ってる元引きこもりの男を!」
「あの人は死神や冥府の使いだなんて言われているこのアタイのことを普通の女性として接してくれたんだ、たとえ何が敵に回ろうとも、この命が失おうとも、アタイは自分の惚れた男を守ってやりたいんだ!」
「僕は貴女とは違う!大切な幼馴染達を守る為、彼女達においしい料理を食べてもらうためにここで死ぬわけにはいかないんだ!僕は貴女を倒して彼女達においしい晩御飯を作ってやるんだ!!!」
僕は脳裏にぎんとアイの顔を思い浮かべてから彼女に向かって走り出した
あぁ、もっと甲殿と交わりたかった、ねっとりと長いキスをしてもらったり、おっぱいを吸われたり揉まれたり、ガチガチになった彼のモノをしゃぶったり、いつものように優しく抱いてもらったり、たまにするシチュエーションプレイでいじめてもらったり、分身薬を使って輪姦されたり、コスプレして彼に奉仕したかった
普通ならば走馬灯のように過去の思い出が浮かぶのであろうが、頭に浮かぶのは彼との交わりの妄想ばかりなのであります
数秒が経った後、爆音と柱の砕ける音が発生し大きな地響きがあたりを揺らすが、私の予想と違って私自身には一切の衝撃が伝わってこない
それを疑問に思い、恐る恐る目を開けてみると誰かが私を庇うようにして立っていた
「我は貴様に合った最高の装備をくれてやったというのにこのザマはどういうことだ」
それは不機嫌そうな表情を浮かべ、体のいたるところに重火器やミサイルポッドを付けているエメラルド姉様だった
「ステルスは見破られ、魔弾に至っては1発して撃ててない上にやつに当たってないではないか、更には戦いを諦めて妄想に耽るとは大馬鹿者め」
ずいぶんとご立腹のようであります………
ふぅ、と息を吐き、今度はエンジェルの方に向き左手を彼女に真っ直ぐ向ける
「詩織が無様な姿を晒してしまったのは気にくわぬが、貴様の方がもっと気にくわぬ」
「我のかわいい妹分の命を奪おうとしたのだ、タダでは済まさんぞ」
威圧たっぷりにそう言い放つ
なんだかんだ言っても姉様は私を心配してくれているのでありますね………
そして彼女から大量の魔力が吹き出るのを感じた、おそらく竜化するのであろう
とっさに私は姉様から距離を取った、あんまり近すぎると踏み潰される恐れがあるからだ
私は姉様とはそれなりに付き合いは長いのだけれども竜化を見るのは初めてなのであります、普段そんな機会は無いし変化する必要も無いからだと以前本人が言っていたからだ
そして完全に変化しきった彼女はとてもかっこよかった
基本的には赤い甲殻や鱗に全身が覆われているのだが、それ以外にもところどころに銀色の鎧のようなものや同色のミサイルポッド等の重火器が着けられていた
彼女は赤い炎が漏れ出している口を開いた
「『百機夜行団』の元軍団長、『機甲竜』と呼ばれたこの我に貴様はどれほど抗ってくれようか」
しかしエンジェルは威圧的な雰囲気をかもし出している姉様に臆することなくにらみつけた
「男の子がデザインですね、私は大っ嫌いですけど」
「こんな狭い場所でそんなにデカくなられても全然怖くありませんよ、むしろ良い的です」
そう言って彼女はまた無数の光弾を出現させる
だが姉様はそれを射出させる前に炎のブレスと体に付いている砲台の砲撃で一瞬で消滅させた
「そのような豆鉄砲、我には一切通用せんぞ」
「今度はこちらの番だ」
言い終わると同時に背中の辺りに付いているミサイルポッドから大量のマイクロミサイルが発射される
その瞬間、姉様がチラッと私を見た気がする
………どういうことなのでありますか?
ミサイルを飛び回って避けるエンジェルを眺めながら考える
彼女はミサイルを避け、光弾で打ち落とし、隙が出来たら姉様に光弾を撃ち込んでいる
しかし、何発か姉様に打ち込んでいるものの私の方には一発も飛んでこない、蚊帳の外って状態なのであります
………つまり姉様はこの状況を利用しろと言いたかったのだろう
最初にここに来たときはあまりの反動の強さに外してしまったが、今度はそんなミスはしない、というよりも一発打った時点で私のことに気付かれてしまうのでアウトだろう
私は彼女に気付かれないようにライフルを回収し、二人から距離を取る
近すぎるとミサイルの爆発や光弾の着弾によって発生する振動で手元がブレてしまう恐れがあるからだ
そうして私は腹ばいになり、ライフルを構え、スコープを覗き込んだ
相変わらず姉様がマイクロミサイルをメインに弾幕を張り巡らし、エンジェルがそれを避けつつ姉様に反撃している
エンジェルは結構な速度で飛び回っているが、私にとっては狙えないほどではない
以前、姉様が私のAIM力向上のトレーニング用に用意してくれた的の方がもっと小さいしすばしっこい
私は彼女の飛行する位置を予測し、手元がぶれないように集中し、息を止め、射撃するためにじっと待ち構える
1秒…2秒と時間が経ち、段々と時間が経つのが遅くなっていくような感覚と時間が経つにつれて大きくなっていく緊張感が私を襲うが私は折れずに待ち続ける
いつもと違って一箇所で狙い続けている為、外してしまうんじゃないか?と不安になるがそれにもめげずに狙い続ける
私がスコープを覗き始めて27秒、そのとき視界の端に白いものが写り、それと同時にトリガーを引く
大きな音を立てて魔界銀を主材料として作られた弾丸が目標に向かって発射される
反動で銃身が持ち上がるが、それも計算して狙っていたので問題ない
飛んでいった銃弾は眉間に命中し、それによって姿勢を崩したために何発かのミサイルに当たってエンジェルは墜落した
………奴は小官が死んだと思い込んでいるようだな
確かにスーツの四肢は使い物にならなくなったが、小官自身の四肢には傷一つ付いていない
簡単に言うと、両手両足を体にぴっちりくっつけている、所謂気をつけの姿勢でスーツに入っているので無事だったというワケだ
スーツも達磨状態にはなっているが完全に壊れたわけでもないので負けたということでもない
もっとも、スーツが壊れたとしても奴を倒すまでは諦める気は無いがな
「Rモード起動」
小官がそう呟くと、小官の体がところてんのようにぬるりと排出され、スーツの形がまた変わっていく
真ん中から二つに割れ、片方はガトリングになり、もう片方は大型のチェーンソーになった
流石に奴も小官のことに気が付いたようだが、スーツが変形する様子をじっと眺めていた
「男のロマンがたっぷり詰まっている装備ですね、それ」
「中々いいだろう、対教団用決戦兵器弐型RN−13、通称ロンギヌスだ」
「基本的な装備や構造は小官と異世界の友人の技術と大戦中の主力級兵器から、デザインやアイデアはアメコミや特撮やアニメ等から発案した」
「通りでちょこちょこ見たことのある装備やビジュアルをしているわけですか」
小官は黙ってガトリングの方を左腕に装着し、チェーンソーの方を右手で持った
奴も聖剣を構え直し、クスリと笑う
「しかし、装備は良くても貴方の実力が足りてないじゃないですか?それとも何か作戦でもあるのでしょうかね」
「……小官は貴様を倒すために鍛えてきたつもりだ、作戦といえばプランBぐらいしかない」
「なるほど、所謂ゴリ押しというやつですか、でも先ほども言ったとおり貴方のレベルが足りてませんよ」
ガトリングの弾をばら撒き、弾幕を張るが、奴は聖剣を盾にして余裕の表情で前進してくる
そのまま小官に近づき、聖剣でガトリングを弾き飛ばす
「私は近代兵器は嫌いです、実力の無い者でもトリガーを引けば簡単に人を殺せてしまうのですから」
再び聖剣を振り下ろすが、小官はそれをチェーンソーで受け止め、また鍔迫り合いになる
「貴様は知らないかもしれんが今は殺さないための兵器も結構開発されていてな、世界が親魔物体制となった現在ではそちらの方が主流になってきている」
「時代は変わってきているのだ、小官や貴様の武器のように野蛮なものなど不要な時代にな」
お互いにバックステップで距離を取り、得物を構えて走り、すれ違いざまに一閃し、足を止める
それと同時に奴の聖剣が弾き飛ばされ、小官のチェーンソーも真ん中辺りから真っ二つになってしまった
「ですが、時代の変わり目の今はまだ必要でしょう、『勇者』や『教団』の残党がまだまだ存在するのですから」
「確かにそれはごもっともだな」
再び距離を詰めてから放たれた奴の拳が小官の顔を打ち抜く
口の中に血の味が広がるが、小官も奴の顔に右ストレートを放ち、左腕を奴の方に伸ばし指を指す
「チェックメイトだ」
「全パーツAutoRockモードに変更、対象はEnemy01、α1からβ3は01の脚部β2からγ1は胴体及び腕部γ2からσ5までは頭部の周囲に配置しろ、over」
小官がそう言うと、奴の周囲に落ちているパワードスーツの残骸及び武装がガタガタと震えだし、宙に浮いた
そしてそれは奴の周りを包囲し、それぞれが指定された部位に狙いをつける
「なっ!?」
奴の顔が驚愕の色に染まり、少したじろいだ
小官はその隙に腰のホルスターからM1911を取り出し、奴の額に突きつける
「これで小官と貴様の決着はついた、秋には悪いが小官は貴様は殺さない、殺してしまったら小管も貴様と同じようになってしまうからな」
「死んだからといって赦されるはずが無いから生きて償え、生きて自分が殺めた人々の気持ちを考えながら生き続けろ」
小官がそれだけ言うと、奴は体の力を抜きその場に座り込む
奴はふぅ、と一つ溜め息をついて小官を見る
「貴方とは違う形で会いたかったですね、趣味などについては気が合いそうでしたし、友人や仲間という形でね」
「………貴様が勇者などにならなかったらありえるかもしれない話だな」
奴と喋っていると不意に肩を叩かれたので、後ろを振り返ると、親父殿がバツの悪そうな顔をして部下を何人か連れて立っていた
「応援に来たのだが少し遅くなっちまったな」
「こいつらの後処理に関しては俺に任せてくれ、お前はあいつらと先に帰ってゆっくり休め」
そういって親父殿が部下と共に奴を連行していく、よく見ると同じようにボロボロになっているシスターと荒い息をついているエンジェルも部下に連れられている
後ろを振り向くと頭から血を流しながらもやりきった感を漂わせている護と、ライフルを肩に担ぎ、ボロボロになった装備を身に纏っている詩織が立っていた
「死にそうにもなったけどなんとか終わったよ、これから帰って晩御飯を作らなきゃと思うと憂鬱だけどね………」
「私も疲れたのであります………甲殿、今まで色々黙っていた罰で明日はデートするのでありますよ」
二人とも見た目はともかく無事でよかったと胸をなでおろし、二人に歩み寄る
そして二人にハイタッチをした
「お疲れ様だな」
「まったくだね」
「以下同文なのでありますよ」
小官達はそれぞれの戦いの内容を話しながら帰路についた
油断してたとはいえもろにスープレックスを2発も喰らってしまった……
これじゃあ免許皆伝なんてもらえるわけないなぁ……むしろ破門ものかもしれない
でも痛いってことはまだ生きている、まだチャンスはあるかもしれない
そもそも好きな人に想いを告げてないのに死ぬ気なんてさらさらない、まだやりたいゲームや作りたい料理だってある
それに僕が死んでしまったら誰が幼馴染達にご飯を作ってあげるというのだ
幸いあのシスターは甲達が戦っている方に向かって歩き出していてこちらには見向きもしない
頭は今までに感じたことの無いぐらい痛いが、スーツのおかげでそれ以外はピンピンしている
ガントンファーも手元にしっかりと握っている、これならいけそうだ
僕は彼女に気付かれないようにゆっくりと立ち上がり、呼吸を整えてから一気に距離を詰める
無防備な彼女の背中に殴りかかったその時
「甘いんだよ!このクソガキがっ!!!」
華麗なハイキックを顔に喰らった、パンツは黒だった
頭の傷には当たらなかったものの、蹴られた衝撃のせいで激痛が走り、体が動かせない
これはマズイ
「アタイはなぁ!12のガキの時から殺った殺られたの世界に居るんだ!それがてめぇ見たいなカッコつけた装備とちょっと武術をかじった程度の腕前のガキに負けてたまるかっての!!!」
今度は傷のある僕の頭に踵落としを繰り出そうとジャンプしながら右足を高く上げる
やべぇパンモロ、じゃなくてやばいこのままだと本当にやられてしまう
そう思った時
地響きと爆音が辺りに響き、僕の目の前に何かが割り込んできた
その影は目の前のシスターを蹴り飛ばし、僕に振り返った
「まったく……こんな女一人にビビってんじゃねぇぞ」
なんども怒鳴られ、励まされ、バカにされたことのあるその声の持ち主は僕の師匠だった
とは言っても彼もパワードスーツを着ているため、声を聞くまで誰かは分からなかったけど
「だからお前はアホなのだ」
心を読まないで下さい
何故ここに来たのかは分からないが、今助けてもらえたのは本当にありがたかった
「まぁ俺はエメラルドと旧友の付き添いで来ただけだからこれ以上は手伝わんぞ」
彼は僕から離れ、近くの柱にもたれかかった
どういうことか分からない、といった様子の僕を尻目にタバコを咥え火を点ける
ふぅ、と口から煙を一吐きした後、真面目そうな顔をして僕に向き直った
「お前、俺から免許皆伝もらって幼馴染達を守るって決意したんだろ」
「だったら、そこの女をぶっとばしてその資格を勝ち取ってみろ、しっかり見ていてやるからよ」
今ならエメラルドに文句を言われずにタバコも吸えるからな、と付け加え柱にもたれかかりながら座った
そうだ、僕は大切な幼馴染達を守れるようになりたかったから師匠の弟子になった、こんなところで死んでしまったら彼女達を守れる資格なんて無い
そのためにはまずは僕に怒りを孕んだ視線を向けながら近づいてくるあの女を倒さなければいけない
「アタイは勇者様を守るんだ、あの間接的に世界を守るなんてバカなことを言ってる元引きこもりの男を!」
「あの人は死神や冥府の使いだなんて言われているこのアタイのことを普通の女性として接してくれたんだ、たとえ何が敵に回ろうとも、この命が失おうとも、アタイは自分の惚れた男を守ってやりたいんだ!」
「僕は貴女とは違う!大切な幼馴染達を守る為、彼女達においしい料理を食べてもらうためにここで死ぬわけにはいかないんだ!僕は貴女を倒して彼女達においしい晩御飯を作ってやるんだ!!!」
僕は脳裏にぎんとアイの顔を思い浮かべてから彼女に向かって走り出した
あぁ、もっと甲殿と交わりたかった、ねっとりと長いキスをしてもらったり、おっぱいを吸われたり揉まれたり、ガチガチになった彼のモノをしゃぶったり、いつものように優しく抱いてもらったり、たまにするシチュエーションプレイでいじめてもらったり、分身薬を使って輪姦されたり、コスプレして彼に奉仕したかった
普通ならば走馬灯のように過去の思い出が浮かぶのであろうが、頭に浮かぶのは彼との交わりの妄想ばかりなのであります
数秒が経った後、爆音と柱の砕ける音が発生し大きな地響きがあたりを揺らすが、私の予想と違って私自身には一切の衝撃が伝わってこない
それを疑問に思い、恐る恐る目を開けてみると誰かが私を庇うようにして立っていた
「我は貴様に合った最高の装備をくれてやったというのにこのザマはどういうことだ」
それは不機嫌そうな表情を浮かべ、体のいたるところに重火器やミサイルポッドを付けているエメラルド姉様だった
「ステルスは見破られ、魔弾に至っては1発して撃ててない上にやつに当たってないではないか、更には戦いを諦めて妄想に耽るとは大馬鹿者め」
ずいぶんとご立腹のようであります………
ふぅ、と息を吐き、今度はエンジェルの方に向き左手を彼女に真っ直ぐ向ける
「詩織が無様な姿を晒してしまったのは気にくわぬが、貴様の方がもっと気にくわぬ」
「我のかわいい妹分の命を奪おうとしたのだ、タダでは済まさんぞ」
威圧たっぷりにそう言い放つ
なんだかんだ言っても姉様は私を心配してくれているのでありますね………
そして彼女から大量の魔力が吹き出るのを感じた、おそらく竜化するのであろう
とっさに私は姉様から距離を取った、あんまり近すぎると踏み潰される恐れがあるからだ
私は姉様とはそれなりに付き合いは長いのだけれども竜化を見るのは初めてなのであります、普段そんな機会は無いし変化する必要も無いからだと以前本人が言っていたからだ
そして完全に変化しきった彼女はとてもかっこよかった
基本的には赤い甲殻や鱗に全身が覆われているのだが、それ以外にもところどころに銀色の鎧のようなものや同色のミサイルポッド等の重火器が着けられていた
彼女は赤い炎が漏れ出している口を開いた
「『百機夜行団』の元軍団長、『機甲竜』と呼ばれたこの我に貴様はどれほど抗ってくれようか」
しかしエンジェルは威圧的な雰囲気をかもし出している姉様に臆することなくにらみつけた
「男の子がデザインですね、私は大っ嫌いですけど」
「こんな狭い場所でそんなにデカくなられても全然怖くありませんよ、むしろ良い的です」
そう言って彼女はまた無数の光弾を出現させる
だが姉様はそれを射出させる前に炎のブレスと体に付いている砲台の砲撃で一瞬で消滅させた
「そのような豆鉄砲、我には一切通用せんぞ」
「今度はこちらの番だ」
言い終わると同時に背中の辺りに付いているミサイルポッドから大量のマイクロミサイルが発射される
その瞬間、姉様がチラッと私を見た気がする
………どういうことなのでありますか?
ミサイルを飛び回って避けるエンジェルを眺めながら考える
彼女はミサイルを避け、光弾で打ち落とし、隙が出来たら姉様に光弾を撃ち込んでいる
しかし、何発か姉様に打ち込んでいるものの私の方には一発も飛んでこない、蚊帳の外って状態なのであります
………つまり姉様はこの状況を利用しろと言いたかったのだろう
最初にここに来たときはあまりの反動の強さに外してしまったが、今度はそんなミスはしない、というよりも一発打った時点で私のことに気付かれてしまうのでアウトだろう
私は彼女に気付かれないようにライフルを回収し、二人から距離を取る
近すぎるとミサイルの爆発や光弾の着弾によって発生する振動で手元がブレてしまう恐れがあるからだ
そうして私は腹ばいになり、ライフルを構え、スコープを覗き込んだ
相変わらず姉様がマイクロミサイルをメインに弾幕を張り巡らし、エンジェルがそれを避けつつ姉様に反撃している
エンジェルは結構な速度で飛び回っているが、私にとっては狙えないほどではない
以前、姉様が私のAIM力向上のトレーニング用に用意してくれた的の方がもっと小さいしすばしっこい
私は彼女の飛行する位置を予測し、手元がぶれないように集中し、息を止め、射撃するためにじっと待ち構える
1秒…2秒と時間が経ち、段々と時間が経つのが遅くなっていくような感覚と時間が経つにつれて大きくなっていく緊張感が私を襲うが私は折れずに待ち続ける
いつもと違って一箇所で狙い続けている為、外してしまうんじゃないか?と不安になるがそれにもめげずに狙い続ける
私がスコープを覗き始めて27秒、そのとき視界の端に白いものが写り、それと同時にトリガーを引く
大きな音を立てて魔界銀を主材料として作られた弾丸が目標に向かって発射される
反動で銃身が持ち上がるが、それも計算して狙っていたので問題ない
飛んでいった銃弾は眉間に命中し、それによって姿勢を崩したために何発かのミサイルに当たってエンジェルは墜落した
………奴は小官が死んだと思い込んでいるようだな
確かにスーツの四肢は使い物にならなくなったが、小官自身の四肢には傷一つ付いていない
簡単に言うと、両手両足を体にぴっちりくっつけている、所謂気をつけの姿勢でスーツに入っているので無事だったというワケだ
スーツも達磨状態にはなっているが完全に壊れたわけでもないので負けたということでもない
もっとも、スーツが壊れたとしても奴を倒すまでは諦める気は無いがな
「Rモード起動」
小官がそう呟くと、小官の体がところてんのようにぬるりと排出され、スーツの形がまた変わっていく
真ん中から二つに割れ、片方はガトリングになり、もう片方は大型のチェーンソーになった
流石に奴も小官のことに気が付いたようだが、スーツが変形する様子をじっと眺めていた
「男のロマンがたっぷり詰まっている装備ですね、それ」
「中々いいだろう、対教団用決戦兵器弐型RN−13、通称ロンギヌスだ」
「基本的な装備や構造は小官と異世界の友人の技術と大戦中の主力級兵器から、デザインやアイデアはアメコミや特撮やアニメ等から発案した」
「通りでちょこちょこ見たことのある装備やビジュアルをしているわけですか」
小官は黙ってガトリングの方を左腕に装着し、チェーンソーの方を右手で持った
奴も聖剣を構え直し、クスリと笑う
「しかし、装備は良くても貴方の実力が足りてないじゃないですか?それとも何か作戦でもあるのでしょうかね」
「……小官は貴様を倒すために鍛えてきたつもりだ、作戦といえばプランBぐらいしかない」
「なるほど、所謂ゴリ押しというやつですか、でも先ほども言ったとおり貴方のレベルが足りてませんよ」
ガトリングの弾をばら撒き、弾幕を張るが、奴は聖剣を盾にして余裕の表情で前進してくる
そのまま小官に近づき、聖剣でガトリングを弾き飛ばす
「私は近代兵器は嫌いです、実力の無い者でもトリガーを引けば簡単に人を殺せてしまうのですから」
再び聖剣を振り下ろすが、小官はそれをチェーンソーで受け止め、また鍔迫り合いになる
「貴様は知らないかもしれんが今は殺さないための兵器も結構開発されていてな、世界が親魔物体制となった現在ではそちらの方が主流になってきている」
「時代は変わってきているのだ、小官や貴様の武器のように野蛮なものなど不要な時代にな」
お互いにバックステップで距離を取り、得物を構えて走り、すれ違いざまに一閃し、足を止める
それと同時に奴の聖剣が弾き飛ばされ、小官のチェーンソーも真ん中辺りから真っ二つになってしまった
「ですが、時代の変わり目の今はまだ必要でしょう、『勇者』や『教団』の残党がまだまだ存在するのですから」
「確かにそれはごもっともだな」
再び距離を詰めてから放たれた奴の拳が小官の顔を打ち抜く
口の中に血の味が広がるが、小官も奴の顔に右ストレートを放ち、左腕を奴の方に伸ばし指を指す
「チェックメイトだ」
「全パーツAutoRockモードに変更、対象はEnemy01、α1からβ3は01の脚部β2からγ1は胴体及び腕部γ2からσ5までは頭部の周囲に配置しろ、over」
小官がそう言うと、奴の周囲に落ちているパワードスーツの残骸及び武装がガタガタと震えだし、宙に浮いた
そしてそれは奴の周りを包囲し、それぞれが指定された部位に狙いをつける
「なっ!?」
奴の顔が驚愕の色に染まり、少したじろいだ
小官はその隙に腰のホルスターからM1911を取り出し、奴の額に突きつける
「これで小官と貴様の決着はついた、秋には悪いが小官は貴様は殺さない、殺してしまったら小管も貴様と同じようになってしまうからな」
「死んだからといって赦されるはずが無いから生きて償え、生きて自分が殺めた人々の気持ちを考えながら生き続けろ」
小官がそれだけ言うと、奴は体の力を抜きその場に座り込む
奴はふぅ、と一つ溜め息をついて小官を見る
「貴方とは違う形で会いたかったですね、趣味などについては気が合いそうでしたし、友人や仲間という形でね」
「………貴様が勇者などにならなかったらありえるかもしれない話だな」
奴と喋っていると不意に肩を叩かれたので、後ろを振り返ると、親父殿がバツの悪そうな顔をして部下を何人か連れて立っていた
「応援に来たのだが少し遅くなっちまったな」
「こいつらの後処理に関しては俺に任せてくれ、お前はあいつらと先に帰ってゆっくり休め」
そういって親父殿が部下と共に奴を連行していく、よく見ると同じようにボロボロになっているシスターと荒い息をついているエンジェルも部下に連れられている
後ろを振り向くと頭から血を流しながらもやりきった感を漂わせている護と、ライフルを肩に担ぎ、ボロボロになった装備を身に纏っている詩織が立っていた
「死にそうにもなったけどなんとか終わったよ、これから帰って晩御飯を作らなきゃと思うと憂鬱だけどね………」
「私も疲れたのであります………甲殿、今まで色々黙っていた罰で明日はデートするのでありますよ」
二人とも見た目はともかく無事でよかったと胸をなでおろし、二人に歩み寄る
そして二人にハイタッチをした
「お疲れ様だな」
「まったくだね」
「以下同文なのでありますよ」
小官達はそれぞれの戦いの内容を話しながら帰路についた
11/10/09 22:56更新 / 錆鐚鎌足
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