連載小説
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天才と秀才
地下通路は意外に大きく、バイクを人型に変形させている状態でも歩けるほどだった

敵の数も予想以上に多いが


 「トンファーキック!!!」


強力な友人と


 「こいつら私達の軍の最弱部隊より弱いんじゃないでしょうか?」


信頼できる部下がいるから問題ない

小官達は突き進む

憎むべき敵を倒すため、愛しい者との明日を迎えるため











雑兵どもをなぎ払いながら突き進むとやがて大きな礼拝堂に突き当たった

そしてそこに奴が居た


 「やぁようこそ、久しぶりですね」


聖剣を腰に差し、『あの時』と同じような服装で座っている

そして奴の左側にエンジェル、右側には修道服を着た女が座っている


 「小官のことは憶えているようだな」


もはや奴を倒すのは復讐のためでは無いのだが、それでも沸々と憎しみの感情が湧いてくる


 「えぇ憶えてますとも、初めて私が浄化しそこねた方ですから」

 「愛河 甲、人魔大戦の英雄の息子である貴方を私が数年前に浄化対象として狩りに向かいましたが片目を負傷しただけで命を落とすには至らなかった
その後、私を殺すまでという約束で父親が経営する会社の私兵軍に入隊、そこから本日に至るまでにおよそ15もの教団の支部を制圧しています、そして本日、最終目標である私がいるこの支部に攻めて来た」

 「これであってますよね?」


 「あぁ、全て合っている」


奴も小官については調べてあるらしいな

しかしこちらもただ支部を潰してまわっていた訳ではないんでな


 「西野 丈(にしの じょう)、現在26歳」

 「学生時代は努力し運動も勉強も出来る秀才といわれる存在だったが、就職が出来ず23歳までヒキニートとなる、23歳の誕生日に貴様の両脇に居る二人にスカウトされ勇者の才能に目覚める、その後現在まで教団勇者としての活動を続けている」

 「これが貴様の経歴だったか」


 「えぇ、合っていますよ」


こうしてアーマー越しに話している間だけでも沸々と怒りが沸きあがっていく

奴もどうやら小官のことが嫌いなようでへらへらと顔は笑っているがその目には怒りが浮かんでいる


 「貴方は良いですよね、私のような秀才と言われるまで努力して得れるものを簡単に手に入れる、努力しないと崩れてしまう脆いものでも放っておいても問題が無いのですから」

 「薄暗い部屋の中で好きなことをして過ごすのも悪く無かったです、ゲームをしてアニメを見て寝てるだけの腐っていくだけの毎日でもね」

 「そんな中で段々と大きくなっていく感情があったんですよ……憎しみという名の感情がね」

 「私は憎かった、私から離れていく友人が!私を蔑む世間が!!努力をしても何も実らない現実が!!!誰も私を救ってくれないこの世界が!!!!」

 「………そして何よりもその世界の中で何も出来ずに閉じこもっているだけの自分自身が」


小官に叫ぶように自信の感情を叩きつける奴の目から涙が零れる


 「……このお二人はただ全てを憎んで腐っていくだけの私を救い出してくれました、だから私がお二人を救う為に勇者になりました、忌み嫌われている教団を守るための勇者に」


……自分を救ってくれた女の為に勇者になる、か

それがゲームの世界ならば確かに奴も主人公のような存在なのかもしれない

だがここは魔物娘のと共存を選んだ世界だ、勇者や教団など今となっては害悪でしかない


 「小官は秋を殺した貴様のことが大嫌いだ、だが今日は秋の復讐の為に貴様を倒しに来たわけではない、神無月私兵軍第一中隊長、愛河甲大佐として貴様を倒しに来た」

 「貴様を倒せば小官はただの学生に戻れる、貴様を倒す事でようやく第二の人生が始まるのだ」

 「愛する者の為に戦うのは小官も同じだ、否、貴様と違って小官自身のためにも戦うのだ!」


もはや話す事は何もあるまい、そう思い小官はアーマーの右腕で奴を指差す


 「さぁ貴様も得物を持て、あとはどちらかが倒れるまで戦うだけだ」


小官の言葉に奴も腰に差してある聖剣に手をかけるが、それをシスターとエンジェルが奴の前に立ちはだかる


 「男同士の戦いに水を差すのは無粋かもしれませんが」


 「アタイ達は勇者様を守るって誓ったからな、まぁラスボス前の中ボスだと思ってくれよ」


………彼女達は逃がしてやろうとも思っていたが、邪魔をするのならば申し分けないが退場してもらおう

そう思ったとき


 「そげぶ!!!」


小官と奴の言い合いを黙って見ていた護が彼女達の前に出てシスターを殴り飛ばした


 「僕は甲とそこの勇者との因縁については知らないけれど男の一騎打ちの邪魔をさせるつもりはないよ」


そう言って放ったトンファー砲の砲撃をエンジェルはさっと避け、早口で呪文を唱え、光の矢のようなものを形成させ護に向かって放とうとした矢先

ダァン

一発の弾丸がそれを打ち消した

エンジェルも護も驚いた様子で弾丸の飛んできた方向に振り返る

小官も思わずそちらの方に顔を向けると


 「大佐殿、私を置いていくなんて酷いのでありますよ」


大型のスナイパーライフルを構えた詩織がそこに立っていた

なぜ?どうやってここに?という疑問が浮かんでくるが彼女に言葉をかける前に彼女は


 「細かいことは後で説明するから、とりあえずあのエンジェルは私に任せてほしいのであります」


そう言い、姿が消える

ステルス装備でもつけているのだろうか

護は吹き飛ばしたシスターへ追撃をかけに行き、エンジェルの方も姿を消した詩織を音を頼りに追いかけていった

これで奴との間の障害は無くなった

やつも再び腰に手をかけ抜刀、小官に聖剣の切っ先を向ける


 「やはり私も貴方のことが嫌いですね、才能にも環境にも仲間にも恵まれているような幸せ者ですから」

 「ですが、私は貴方と違い、個人の為ではなく世界の為に勇者をやっているのです」

 「たとえ我が身が滅びることになろうとも貴方を倒し、あの二人を救い出して見せます、教団に与えられた使命などではなく、勇者としてこの世界を救うために」


奴が言い終わると同時に小官は奴の居たところに何発かのマイクロミサイルを撃ち込んだ












痛ててて

不意打ちだったから思わず喰らってしまった

アタイもまだまだってことかな

さっさとあのガキとゴツイのぶっ飛ばして勇者様にご褒美を貰おう

この戦いを終わらせる→勇者様と結婚する→裸エプロンで朝食を作る→勇者様に襲われる

というアタイの計画の為にもあいつらは倒さねばならないしね

なんて考えている間にパワードスーツを着たガキがこちらへ走ってきた

倒れたままの状態では迎撃もままならないのでとりあえず立ち上がる

そして体に異常が無いことを軽く確認してからガキとの距離を一気に詰める


 「速っ!?」


 「アタイは遅漏は嫌いなんでね、さっさとイッてもらうよ」


中古品のガラクタを着込んでいるやつなんかに負けるはずが無い

反応速度は悪くないが殺し合いの経験がないのだろう、アタイ達の所にたどり着くまでの映像を見たときに思ったのだが無駄な動きが多い気がする

こういう命を張ったタイマンでは相手より三歩ほど上回らなければ簡単にやられてしまう

状況、自分の行動、相手の思考、地形、それら全てを把握してこそ勝者になれるのだ

こんな経験を装備で補おうとしているのが丸分かりなガキに負けるほうが難しい

とはいってもパワードスーツを素手で破壊するのには骨が折れる、これは勇者様を一日中抱きしめるぐらいしないと割りに合わないね

そんなことを思いつつアタイはスーツの首の辺りにある細い線を2本引きちぎる

アタイの記憶が正しければこれが前方の映像とレーダーを映すためのシステムに繋がっていたはずだ


 「あ、あれ、何も見えなくなった?」


どうやら正解のようだ

顔も覆われているタイプなのでこれでアタイがどこに居るのか、否、視覚から得る情報が一切なくなってしまう

つまり次にこいつがすることは


 「流石にまずいよね」
 「やっぱり状況把握は機械なんかより自分でした方が良いや」


距離をとって顔を出すということだ

素手でスーツを全部壊すのは難しいが、こういう部分的に破壊するだけなのならば逆に容易い

尤も相応の力はいるのだが、アタイの場合は天使様の祝福で身体能力を底上げしているから問題ない


 「ってあれ?どこ行った?」


アタイはこいつの視界が無くなった時にこいつが移動しそうな場所に予め先回りしておいた、背後に回れるように

そして背後に回ったアタイはこいつの胴を掴み


 「げ、まさか……」


 「……イッちまいな」


少々重いがそのまま体を持ち上げ


  「そぉい!!!」


高速式のジャーマンスープレックスを決めた

下はコンクリになっているため自分も少々頭が痛いが相手はそれ以上のダメージがあるだろう

しかしアタイはこいつの体を抱え込んだまま元の形になるように体を起こし


 「どっせい!!!」


もう一回スープレックスをした

流石にこれで十分だろうと思い、体を離して立ち上がる

ガキの方に視界を向けると頭から血を流し、意識も失っているようである

自分でもこれほど綺麗に決まるとは思ってなかったため少々びっくりだ

………どうせならダルマ式とか2段式でしたかったかも

まぁ倒せたから良いや
















ふふふ、エメラルド姉様にもらったこのステルスジャケットと対神族用に魔物の魔力を多量注入してある弾丸とそれを発射するための特製スナイパーライフルがあればエンジェルなんて余裕なのでありますよ

人間の女性ならこの弾丸に掠っただけでもサキュバスになるぐらいなのでエンジェルでも簡単に堕落させることが出来るらしいのであります

………でもなんであのエンジェルはまるで私がまるで見えているかのように追跡してくるのでありますか?

流石にこのデカイ銃を走りながら撃つのは難しいのでどこかで芋りたいのでありますよ……

私は甲殿や中佐殿と違ってステルスジャケット以外は特に身体強化や兵器を搭載したパワードスーツを着ていないので戦闘面でアドバンテージが無いのがつらいのであります

…………どうせなら某FPSのマキシマムなナノスーツみたいなのでも欲しかったのであります


 「逃げているだけでは私を倒せませんよ」


余計な事を考えていたら光弾が飛んできた、しかも咄嗟に横に避けなかったら直撃するような弾道なのであります

何故かは分からないけれどどうやら本当にこちらの位置は把握しているようなのであります


 「どうやら単発で撃っても簡単に避けられるようですね、だけどこれならどうですか?」


彼女が不吉なことを言った気がしたので軽く後ろを見てみると大きさは今までの半分ぐらいではあるのだがおぞましいぐらいの数の光弾が彼女の周辺に浮かんでいた


 「これほどの数を見ると以前勇者様にやらしていただいた弾幕ゲームというのを思い出しますねぇ、あれと違って貴女にはボムはありませんけどね」

 「えーっと何でしたっけ?あのセリフ、結構有名らしいのですけど………………あぁ思い出しました    死ぬがよい♪


彼女がそう言ったと同時にそれら全てが次々に射出される

とっさに近くにあった柱の影に隠れるが、あまり長く持ちそうに無い

すごくマズイのであります………

とりあえずポケットを探るとスタングレネードが一個だけ入っていた

だが、せいぜい少しの時間しか稼げ無いだろう

とにかく、そろそろ柱がやばそうなので次の柱に隠れなければ

そう思いグレネードのピンを抜き、数秒待った後に横に放り投げ耳と目をふさぐ

すぐに目をつぶっていても分かるぐらいの閃光と、甲高い弾ける音が発声する

柱から少し顔を出して彼女の様子を見ると、耳を押さえて悶えている

思ったよりは時間が稼げそうなのであります、そう思い、今とは反対側の柱に逃げ込む

さて、ここで問題なのであります、彼女を無力化しているこの限られた時間の中、どうやって彼女を倒すか

答え@美少女の詩織は一気に彼女にライフル弾を打ち込み勝利する

答えA大好きな甲殿か友人の護殿が助けに来てくれる

答えB時間切れ、現実は非常である

私が○をつけたいのは答えAだけど、あまり期待はできないのであります

私より後に戦闘を開始した甲殿や、どこか抜けている護殿があと数秒の間にここに都合よくあらわれて、アメコミヒーローのようにじゃじゃーんと登場して「まっていました!」と間一髪助けてくれるわけにはいかないのであります

普通はそんなこと考えるだけ無駄なのであります

無難に@しかないようなのでありますね

そう思い、ライフルを構えスコープを覗き込むと


 「まったく、小ざかしいマネをしてくれますね」

 「ですが、これで終わりです」


不機嫌そうな表情で巨大な光弾を浮かべている彼女の姿が見えた

そして既にその光弾はこちらに向かって飛んできている

答え……

B

答えB……答えB……

時間切れ、現実は非常である

その言葉が頭に響く

……後数秒もしないうちにあの光弾は私のいる柱を吹き飛ばす

現実は甘くないのでありますね

巨大な光弾が飛んでくるスピ−ドがやけにゆっくりに感じる

頭に浮かぶのは甲殿の顔

彼は私に惜しみなく愛を注いでくれた、私は彼に何をしてあげられたのであろうか?

あの光弾が柱に当たったら私はおそらく無事ではすまないだろう

しかし、もはや避けるには遅すぎる

ならばせめて最後まで最愛の人のことを想い続けるのであります………

そう思い、私は目を閉じた














まったく、いきなり小型ミサイルを撃ち込むなんて危ないですねぇ……

おかげで服が少々破れてしまいました、そんなことを気にしている余裕はありませんが

私は爆煙のせいで見えないのですが、あちらにはおそらく見えていると思いますので少し後ろに下がる

そして聖剣を盾のように構えます

ドォン

そうすることで簡単にロケット弾を防ぐことができます、腕は痛いですが

ね?簡単でしょう?

ともかく、相手の方が武装は圧倒的に多いのがやっかいですね

ですが、監視カメラで観察していましたが近接戦には向いていないような武装が多いです

マイクロミサイル、ガトリング、キャノン砲、レーザー、ロケット砲、遠距離武器についてはこのあたりですが、近接武器は右腕のチェーンソーぐらいです

しかも図体がそれなりに大きいので懐にもぐりこんでしまえばほとんどの攻撃ができないようになります

というわけで突撃しますか

スタイリッシュに行きましょう

私は新たに飛んできた数発のマイクロミサイルを避け、ガトリングやレーザーの弾幕を掻い潜り、振り下ろされたチェーンソーを聖剣で受けて鍔迫り合いになる

ガリガリガリという金属同士が擦れる不愉快な音があたりに響く


 「にしても随分ゴツイアーマーですね、見た目だけならどっちが悪役か分かりにくいですよ」


 「ゴツイのは色々機能や武装を突っ込んだ結果だ、とにかく貴様も自分が悪役だって自覚はあるようだな」


 「私にも色々考えがありますから、私は神を妄信しているバカや老害どもとは違いますよ」


腕に力を籠め、チェーンソーを弾き飛ばす


 「だからこそ私は教団に属しているのです、世界の敵である時代の敗北者に」


 「よくある自分が世界共通の敵になることで戦争を起こさせないってやつか、この世界では無駄だろうが」

 「各国が魔物を受け入れ魔界になってゆくこの世界では戦争を起こそうって考えを持つより愛する者との交わりの方が優先されるだろう」


…………

私は無言で聖剣を振る

天使様の祝福を受けている聖剣と私はもはや歩く兵器といっても過言ではありません

一般人の作った物程度であればゴリ押しでも勝てます


 「こういう時代だからこそ、全ての土地が魔界になるまではそういう存在が必要なのですよ」


私は両腕を切り落とし、両足が破壊されたガラクタにそう言い放った
11/09/24 21:55更新 / 錆鐚鎌足
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■作者メッセージ
格闘技を使うシスター…と考えたらスープレックスが思い浮かび、エンジェルの戦闘シーン……と考えたら某弾幕ゲーを思い出しました
主人公グループがあっさりやられすぎワロタな状態になってしまいました
苦戦するような戦いを書きたかったのですがどうしてこうなった

とりあえず次回か次々回あたりで完結にするつもりです

どうでも良いですけど最近自転車に乗ってたら車にぶつかりました、自転車はお亡くなりになりましたが俺自身は五体満足の軽傷ですみました

バ「今回はおぬしの後方不注意じゃから以後気をつけるようにの」

サ「そして元気ならもっと執筆速度を上げましょうか、最近遅い気がしますよ」

申し訳ない……

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