第十三話 教会(コイツ)はゲロ以下の臭いがプンプンするぜぇ〜!
中立領『クレバネット』
元豪商『ギャバジン』を領主とする商業都市。
町は大きく分けて三つの区画があり、
西の親魔物区
東の反魔物区
間の中央区
亭拉はここで教会の正式な『聖騎士』として登録し、旅の援助を取り付けるのが目的である。
早朝、折り畳み式の椅子に座り高台から町を見下ろす影が二つ。
一つは細長い大剣を背負った女性。
濃緑の鱗を持つ手足と尻尾が有ることからリザードマンのようだ。
もう一人は幅広の鉄骨のような大剣を担いだ男性。
一見大柄に見えるが体に何かを巻き付けている。
良く見ると肩の辺りで切り揃えられた雪のように白い髪のラミアが腰の辺りで巻き付き、背中におぶさるように身を寄せている…
夜明け前にドワーフの工房を後にした亭拉達は旅の初めの目的地『クレバネット』を目前にしていた。
亭拉達はコーヒーを飲みながら町に入ってからの事を話し合っている。
テイラ「入領したらまず教会に顔を出そうと思う。」
領内の東側の教会らしき大きな建物を指差す。
スエード「なら私とシルクは中央区で待っていることにしよう。」
手にカップを持ったまま中央区を指す。
テイラ「それなんだがな、シルクは教会に連れて行こうと思う。」
首に回されたシルクの腕にそっと自分の掌を乗せるとシルクもその掌に頬を寄せる。
スエード「何を考えている!魔物を連れて反魔物領に入るなんて気は確かか!?」
驚きのあまり立ち上がり、その拍子にカップに残ったコーヒーの雫が地面を濡らす。
テイラ「俺の旅にはシルクが必要だ、だから教会にそれを認めさせる。」
シルクには指一本触れさせないさ、と笑って見せるがスエードはその奥に今までに無い真剣さを見てとった。
コーヒーを飲んだカップを『汚れの否定』で綺麗にし、鞄の中へ詰め込むとまだ完全に納得の行っていないスエードを連れて一路『クレバネット』へ向かう。
…
……
………
クレバネット 中央区
商業都市と言うこともあって大通りの左右は露天で埋め尽くされ新鮮な野菜や果物、異国の雑貨や珍しい服(人間の物も魔物の物も両方)が沢山売られている。
テイラ「お、これが良いな。」
その中からプレート状のモチーフが付いた首飾りを手に取る。
店主「兄ちゃんお目が高いねぇ、ソイツは恋人同士がお互いの名前を彫って身に付けるペンダントだ。」
白っぽい髭を蓄えた初老の男が満面の営業スマイルで話しかけてくる。
テイラ「これを一つくれ。」
店主「おいおい、話聞いてなかったのかい?これはペアで使うもんなんだぜ?」
スエード「テイラ!プレゼントを買ってる場合じゃないだろう!私にはペアでくれ」
そして首飾りを一つ購入すると軍用スコップを取り出し文字を刻み始める。
スエード「何を書いてるんだ?シルクのなまえじゃ無いようだが。」
テイラ「ルーン文字さ。」
ゴリゴリと文字を刻み終わったると、
テイラ「持ってみな。」
首飾りをスエードに手渡す。
スエード「なんだか急に体がだるくなったような…」
首飾りを受け取った途端軽い脱力感に襲われ、片眉を上げる。
それを確認した後、亭拉はスエードから首飾りを取り上げる。
テイラ「これは『魔力』と『抑制』のルーン文字さ。」
ルーン文字の刻まれた首飾りのプレート面を見せながら答える。
店主「へー、兄ちゃんルーン文字を扱えるのかい!?」
テイラ「知識として知っているだけだ、後はこれを…」
驚く店主にそれだけ答えると背中で大人しくしていたシルクを正面に抱き寄せ首飾りを着ける。
シルク「あっ…」
スエード「おい、そんな物を着けたら!?」
力が抜け亭拉からずり落ちそうになるシルクを見て取り乱すスエード。
テイラ「『ルーン効果の否定』」
首飾りがポゥと光るとシルクの顔から脱力感が消えすぐさま亭拉の体に巻き付き直す。
テイラ「これでよし!」
スエード「なんでそんな回りくどいことを…」
準備が整ったので改めて教会に向かう亭拉達。
…
……
………
反魔物区ゲート前
反魔物区でシルクが危害を加えられないか心配するスエードに見送られ
、堂々とゲートを潜る亭拉達。
周囲が亭拉達を見る目は険しく、老若男女問わず刺すような視線を向ける。
そして誰かが通報したのか数人の衛兵が駆けつけ亭拉達を取り囲む。
衛兵長「貴様何者だ!ここが反魔物区だと知っての狼藉か!」
槍を構えた衛兵達の間で剣を振りかざし、あからさまな敵意を向けて怒鳴り散らす。
その形相にシルクは思わず亭拉の背に身を隠す。
テイラ「聖騎士の『テイラ・アキラ』だ。この辺は不馴れでね、教会迄の道案内を頼めるかな?」
しかしそんな衛兵を全く意に返さず、腰の『聖騎士の証』をちらつかせてふてぶてしく答える。
…
……
………
教会 『謁見の間』
石造りの壁、装飾された柱、入り口から伸びる真紅の絨毯は何段もの階段を登り下品なまでに装飾された金作りの椅子の前まで伸びる。
衛兵達には亭拉の持つ『聖騎士の証』の真偽が解らず、一先ず司教の前まで連行される。
テイラ「地方都市の教会にわざわざ謁見の間を造るとは…」
未だに正面を除く三方を衛兵に囲まれ、体にシルクを巻き付けながら真紅の絨毯のど真ん中で仁王立ちしている亭拉は魔物相手に決して優位な立場ではない教会の外面ばかり気にする姿勢に僅かに嫌悪感を覚える。
不意に部屋の奥からコツコツという足音が聞こえ、金糸で装飾された衣装を身に纏った男と一人の天使が現れた。
デブ「貴様が魔物を連れながら自ら『聖騎士』を名乗る不届き者か?」
蹴り飛ばせば良く転がりそうな位丸々と肥った男が明らかに人を見下した態度で嫌悪感を微塵も隠さずに亭拉に問い掛ける。
テイラ「自称じゃなくれっきとした『聖騎士』だ、神託も受けてるし神の加護も授かっている。」
そう言って衛兵に未だに突き付けられている槍先に思いっきり手の甲を叩きつける。
おそらく聖銀で作られているであろう槍は亭拉の手に傷一つ着けることはできず、グニャリと槍先を曲げ槍としての役割を終えてしまう。
そして手の甲を目の前の腐れデブに見せつけ自らの受けた加護を証明する。
腐れデブ「ふんっ、どうせインキュバスにでも成っておるのであろう。」
油デブは頬肉を波打たせながら鼻を鳴らすとそばに控えていた天使に顔を向け、
油デブ「シフォン、奴の正体を突き止めて参れ。」
と命令する。
はい、と静かに答えた『シフォン』と呼ばれた天使は音もなくふわりと浮かび、静かに羽を揺らし無駄の無い軌道で亭拉の眼前に停止する。
亭拉に巻き付くシルクを一瞥もせず何者をも見透かす様な透き通った瞳で亭拉の瞳を覗き込む。
シフォン「『ブークレ司祭』この者からは一切の魔力が感じられません、それどころかかなり強力な『神の加護』が感じ取れます。」
と、振り向きもせずに答える。
デブークレ「チッ、ならば何故魔物など連れている!」
自分の予想が尽く外れ苛立ちを募らせる。
テイラ「魔物は性質上魔物連れの人間を襲うことが殆ど無いものでね、道中適当な魔物を打ち倒し魔力を封じた上で連れ歩いてる。」
そう言って軍用スコップに付いたシルクの髪で出来た房飾りと首に巻かれた『見た目だけ魔力抑制の首飾り』を見せる。
シフォン「確かにこの魔物からは全くと言って良い程魔力を感じません。」
魔力が殆ど無いのは元々だが、それを知らないシフォンにとっては首飾りによって魔力を封じられているように見えたようだ。
デブークレ「教会の『聖騎士』たる者が魔物との戦闘を避けてどうする!魔物なんぞ見付け次第皆殺しにすれば良かろう!」
テイラ「戦闘が増えれば補給や休息がままならなくなるし戦功をあげて有名になれば人間魔物問わず突っ掛かって来る奴も増える、無駄に旅の難度を上げるだけだから戦闘は必要最低限にするべきだ。」
デブークレ「ななな、ならその剣はなんだ!刃が付いておらんではないか!端から魔物を殺す気が無いのであろう!」
とうとう顔を真っ赤にして半ば叫ぶ様に問いただす。
テイラ「途中で武器の交換や修理を受けることが困難な場合、鋭利な刃物より鈍器の方が武器として向いている。何よりコイツなら鎧を着ていようが軟体だろうが等しくダメージを与えられる。」
ネゴシエーターを肩から外し、片手で軽く打ち下ろして見せる。
デブークレ「フフン、そんな軽い物で魔物相手に闘えるものか!」
豚のように鼻を鳴らしより一層見下すような目で見る。
テイラ「なら持ってみろ。」
そう言うと剣先を床に着けネゴシエーターから手を離す。
その瞬間ネゴシエーターは床の石材を砕きゆっくりと傾く。
慌てて支える衛兵を無視して傾き続けるネゴシエーターに最終的には衛兵四人がかりでなんとか支えることに成功するが傾かないようにするのが精一杯でその場から一ミリも動かせずにいた。
テイラ「さて、これで『聖騎士』と認めて貰えるかな?」
両手のひらを上げヒラヒラと呆れたように振る舞う亭拉にハムを包むネットの様な血管を浮きだ出せたブークレ司祭は全力でのっそりと椅子から立ち上がり、
デブークレ「貴様の力は理解した!結果は追って申し付ける故今日はもう下がれ!」
ドカドカと地面を揺らしながら『謁見の間』を後にする。
その後ろ姿に珍しくシャーと威嚇の声を上げるシルクを手で制し、司祭の起こした揺れで力尽きる寸前の衛兵達からネゴシエーターを受けとると肩に担ぎ直し亭拉も謁見の間を後にする。
謁見の間から正面玄関迄の間、亭拉の横をふわふわと浮きながらついてくる天使が話しかけてくる。
シフォン「先ほどの司祭の無礼、御許しください。」
相変わらず表情の変化が乏しいが、少し伏し目がちになっているところを見ると本気で謝罪しているようだ。
テイラ「君が謝ることじゃないさ、その分だと普段から苦労しているようだしね。」
司祭の様子を見て普段の様子を十分に察した亭拉は天使を労うように答える。
シフォン「有難う御座います、ところで宿はお決まりですか?本日の結果をお伝えしなければなりませんので。」
テイラ「こいつを連れてるからな、中央区の安宿にでも泊まってるよ。」
シルクの尻尾に肘掛けのように手を乗せ、ポンポンと叩くようにしながら答える。
シフォン「畏まりました、結果が出次第使者を送りますので其までお待ちください。」
そう言ったところで玄関に着くと天使は軽く頭を下げ亭拉を見送る。
…
……
………
シルク「あの『ブークレ』と言う司祭、何だか嫌な感じがします。」
日が昇りきった中央区、宿を探して歩く亭拉にシルクが話しかける。
テイラ「ああ、魔物連れって事を差し引いてもあの態度は何だか裏が有りそうだな…」
そう言って肘を乗せたシルクの尻尾を撫でる。
それにシルクは目を細め、亭拉の首に手を回しいつもより身体を密着させる。
テイラ「教会に顔出すだけで済むと思ってたが、何だかややこしい事になりそうだな…」
そう言って振り返る亭拉の視線の先にはすっかり小さくなった教会の十字架がキラリと光っていた。
元豪商『ギャバジン』を領主とする商業都市。
町は大きく分けて三つの区画があり、
西の親魔物区
東の反魔物区
間の中央区
亭拉はここで教会の正式な『聖騎士』として登録し、旅の援助を取り付けるのが目的である。
早朝、折り畳み式の椅子に座り高台から町を見下ろす影が二つ。
一つは細長い大剣を背負った女性。
濃緑の鱗を持つ手足と尻尾が有ることからリザードマンのようだ。
もう一人は幅広の鉄骨のような大剣を担いだ男性。
一見大柄に見えるが体に何かを巻き付けている。
良く見ると肩の辺りで切り揃えられた雪のように白い髪のラミアが腰の辺りで巻き付き、背中におぶさるように身を寄せている…
夜明け前にドワーフの工房を後にした亭拉達は旅の初めの目的地『クレバネット』を目前にしていた。
亭拉達はコーヒーを飲みながら町に入ってからの事を話し合っている。
テイラ「入領したらまず教会に顔を出そうと思う。」
領内の東側の教会らしき大きな建物を指差す。
スエード「なら私とシルクは中央区で待っていることにしよう。」
手にカップを持ったまま中央区を指す。
テイラ「それなんだがな、シルクは教会に連れて行こうと思う。」
首に回されたシルクの腕にそっと自分の掌を乗せるとシルクもその掌に頬を寄せる。
スエード「何を考えている!魔物を連れて反魔物領に入るなんて気は確かか!?」
驚きのあまり立ち上がり、その拍子にカップに残ったコーヒーの雫が地面を濡らす。
テイラ「俺の旅にはシルクが必要だ、だから教会にそれを認めさせる。」
シルクには指一本触れさせないさ、と笑って見せるがスエードはその奥に今までに無い真剣さを見てとった。
コーヒーを飲んだカップを『汚れの否定』で綺麗にし、鞄の中へ詰め込むとまだ完全に納得の行っていないスエードを連れて一路『クレバネット』へ向かう。
…
……
………
クレバネット 中央区
商業都市と言うこともあって大通りの左右は露天で埋め尽くされ新鮮な野菜や果物、異国の雑貨や珍しい服(人間の物も魔物の物も両方)が沢山売られている。
テイラ「お、これが良いな。」
その中からプレート状のモチーフが付いた首飾りを手に取る。
店主「兄ちゃんお目が高いねぇ、ソイツは恋人同士がお互いの名前を彫って身に付けるペンダントだ。」
白っぽい髭を蓄えた初老の男が満面の営業スマイルで話しかけてくる。
テイラ「これを一つくれ。」
店主「おいおい、話聞いてなかったのかい?これはペアで使うもんなんだぜ?」
スエード「テイラ!プレゼントを買ってる場合じゃないだろう!私にはペアでくれ」
そして首飾りを一つ購入すると軍用スコップを取り出し文字を刻み始める。
スエード「何を書いてるんだ?シルクのなまえじゃ無いようだが。」
テイラ「ルーン文字さ。」
ゴリゴリと文字を刻み終わったると、
テイラ「持ってみな。」
首飾りをスエードに手渡す。
スエード「なんだか急に体がだるくなったような…」
首飾りを受け取った途端軽い脱力感に襲われ、片眉を上げる。
それを確認した後、亭拉はスエードから首飾りを取り上げる。
テイラ「これは『魔力』と『抑制』のルーン文字さ。」
ルーン文字の刻まれた首飾りのプレート面を見せながら答える。
店主「へー、兄ちゃんルーン文字を扱えるのかい!?」
テイラ「知識として知っているだけだ、後はこれを…」
驚く店主にそれだけ答えると背中で大人しくしていたシルクを正面に抱き寄せ首飾りを着ける。
シルク「あっ…」
スエード「おい、そんな物を着けたら!?」
力が抜け亭拉からずり落ちそうになるシルクを見て取り乱すスエード。
テイラ「『ルーン効果の否定』」
首飾りがポゥと光るとシルクの顔から脱力感が消えすぐさま亭拉の体に巻き付き直す。
テイラ「これでよし!」
スエード「なんでそんな回りくどいことを…」
準備が整ったので改めて教会に向かう亭拉達。
…
……
………
反魔物区ゲート前
反魔物区でシルクが危害を加えられないか心配するスエードに見送られ
、堂々とゲートを潜る亭拉達。
周囲が亭拉達を見る目は険しく、老若男女問わず刺すような視線を向ける。
そして誰かが通報したのか数人の衛兵が駆けつけ亭拉達を取り囲む。
衛兵長「貴様何者だ!ここが反魔物区だと知っての狼藉か!」
槍を構えた衛兵達の間で剣を振りかざし、あからさまな敵意を向けて怒鳴り散らす。
その形相にシルクは思わず亭拉の背に身を隠す。
テイラ「聖騎士の『テイラ・アキラ』だ。この辺は不馴れでね、教会迄の道案内を頼めるかな?」
しかしそんな衛兵を全く意に返さず、腰の『聖騎士の証』をちらつかせてふてぶてしく答える。
…
……
………
教会 『謁見の間』
石造りの壁、装飾された柱、入り口から伸びる真紅の絨毯は何段もの階段を登り下品なまでに装飾された金作りの椅子の前まで伸びる。
衛兵達には亭拉の持つ『聖騎士の証』の真偽が解らず、一先ず司教の前まで連行される。
テイラ「地方都市の教会にわざわざ謁見の間を造るとは…」
未だに正面を除く三方を衛兵に囲まれ、体にシルクを巻き付けながら真紅の絨毯のど真ん中で仁王立ちしている亭拉は魔物相手に決して優位な立場ではない教会の外面ばかり気にする姿勢に僅かに嫌悪感を覚える。
不意に部屋の奥からコツコツという足音が聞こえ、金糸で装飾された衣装を身に纏った男と一人の天使が現れた。
デブ「貴様が魔物を連れながら自ら『聖騎士』を名乗る不届き者か?」
蹴り飛ばせば良く転がりそうな位丸々と肥った男が明らかに人を見下した態度で嫌悪感を微塵も隠さずに亭拉に問い掛ける。
テイラ「自称じゃなくれっきとした『聖騎士』だ、神託も受けてるし神の加護も授かっている。」
そう言って衛兵に未だに突き付けられている槍先に思いっきり手の甲を叩きつける。
おそらく聖銀で作られているであろう槍は亭拉の手に傷一つ着けることはできず、グニャリと槍先を曲げ槍としての役割を終えてしまう。
そして手の甲を目の前の腐れデブに見せつけ自らの受けた加護を証明する。
腐れデブ「ふんっ、どうせインキュバスにでも成っておるのであろう。」
油デブは頬肉を波打たせながら鼻を鳴らすとそばに控えていた天使に顔を向け、
油デブ「シフォン、奴の正体を突き止めて参れ。」
と命令する。
はい、と静かに答えた『シフォン』と呼ばれた天使は音もなくふわりと浮かび、静かに羽を揺らし無駄の無い軌道で亭拉の眼前に停止する。
亭拉に巻き付くシルクを一瞥もせず何者をも見透かす様な透き通った瞳で亭拉の瞳を覗き込む。
シフォン「『ブークレ司祭』この者からは一切の魔力が感じられません、それどころかかなり強力な『神の加護』が感じ取れます。」
と、振り向きもせずに答える。
デブークレ「チッ、ならば何故魔物など連れている!」
自分の予想が尽く外れ苛立ちを募らせる。
テイラ「魔物は性質上魔物連れの人間を襲うことが殆ど無いものでね、道中適当な魔物を打ち倒し魔力を封じた上で連れ歩いてる。」
そう言って軍用スコップに付いたシルクの髪で出来た房飾りと首に巻かれた『見た目だけ魔力抑制の首飾り』を見せる。
シフォン「確かにこの魔物からは全くと言って良い程魔力を感じません。」
魔力が殆ど無いのは元々だが、それを知らないシフォンにとっては首飾りによって魔力を封じられているように見えたようだ。
デブークレ「教会の『聖騎士』たる者が魔物との戦闘を避けてどうする!魔物なんぞ見付け次第皆殺しにすれば良かろう!」
テイラ「戦闘が増えれば補給や休息がままならなくなるし戦功をあげて有名になれば人間魔物問わず突っ掛かって来る奴も増える、無駄に旅の難度を上げるだけだから戦闘は必要最低限にするべきだ。」
デブークレ「ななな、ならその剣はなんだ!刃が付いておらんではないか!端から魔物を殺す気が無いのであろう!」
とうとう顔を真っ赤にして半ば叫ぶ様に問いただす。
テイラ「途中で武器の交換や修理を受けることが困難な場合、鋭利な刃物より鈍器の方が武器として向いている。何よりコイツなら鎧を着ていようが軟体だろうが等しくダメージを与えられる。」
ネゴシエーターを肩から外し、片手で軽く打ち下ろして見せる。
デブークレ「フフン、そんな軽い物で魔物相手に闘えるものか!」
豚のように鼻を鳴らしより一層見下すような目で見る。
テイラ「なら持ってみろ。」
そう言うと剣先を床に着けネゴシエーターから手を離す。
その瞬間ネゴシエーターは床の石材を砕きゆっくりと傾く。
慌てて支える衛兵を無視して傾き続けるネゴシエーターに最終的には衛兵四人がかりでなんとか支えることに成功するが傾かないようにするのが精一杯でその場から一ミリも動かせずにいた。
テイラ「さて、これで『聖騎士』と認めて貰えるかな?」
両手のひらを上げヒラヒラと呆れたように振る舞う亭拉にハムを包むネットの様な血管を浮きだ出せたブークレ司祭は全力でのっそりと椅子から立ち上がり、
デブークレ「貴様の力は理解した!結果は追って申し付ける故今日はもう下がれ!」
ドカドカと地面を揺らしながら『謁見の間』を後にする。
その後ろ姿に珍しくシャーと威嚇の声を上げるシルクを手で制し、司祭の起こした揺れで力尽きる寸前の衛兵達からネゴシエーターを受けとると肩に担ぎ直し亭拉も謁見の間を後にする。
謁見の間から正面玄関迄の間、亭拉の横をふわふわと浮きながらついてくる天使が話しかけてくる。
シフォン「先ほどの司祭の無礼、御許しください。」
相変わらず表情の変化が乏しいが、少し伏し目がちになっているところを見ると本気で謝罪しているようだ。
テイラ「君が謝ることじゃないさ、その分だと普段から苦労しているようだしね。」
司祭の様子を見て普段の様子を十分に察した亭拉は天使を労うように答える。
シフォン「有難う御座います、ところで宿はお決まりですか?本日の結果をお伝えしなければなりませんので。」
テイラ「こいつを連れてるからな、中央区の安宿にでも泊まってるよ。」
シルクの尻尾に肘掛けのように手を乗せ、ポンポンと叩くようにしながら答える。
シフォン「畏まりました、結果が出次第使者を送りますので其までお待ちください。」
そう言ったところで玄関に着くと天使は軽く頭を下げ亭拉を見送る。
…
……
………
シルク「あの『ブークレ』と言う司祭、何だか嫌な感じがします。」
日が昇りきった中央区、宿を探して歩く亭拉にシルクが話しかける。
テイラ「ああ、魔物連れって事を差し引いてもあの態度は何だか裏が有りそうだな…」
そう言って肘を乗せたシルクの尻尾を撫でる。
それにシルクは目を細め、亭拉の首に手を回しいつもより身体を密着させる。
テイラ「教会に顔出すだけで済むと思ってたが、何だかややこしい事になりそうだな…」
そう言って振り返る亭拉の視線の先にはすっかり小さくなった教会の十字架がキラリと光っていた。
13/03/06 02:00更新 / 慈恩堂
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